granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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久しぶりの連続投稿!
宣言通りに半額キャンペーンが終わったので頑張っていきます。

あともしかしたら、と気づいたんですが、最新話が目次で一番下にないのって見づらかったりするんですかね。連続で読めるようにメインシナリオ、イベント、過去編とわけて並べてるんですが……


それでは、お楽しみください。



メインシナリオ 第3幕

空域 ファータ・グランデ ガロンゾ島

 

 

 前日を酒場で騒いで過ごした騎空団一行。お酒を飲めない未成年組(一人を除く)と大人組は対称的な顔でグランサイファーのある港を目指していた。

 

 

「うぇ~流石にしんどいな……ローアイン達と調子に乗りすぎたぜ……うっぷ」

 

「旧友と会ったてんでちぃっと飲みすぎたな。流石にオレも今日はしんどい……」

 

「ラカム、オイゲン。自業自得だ。まさかそんなになるまで飲んでいたとは。オレももう少し早く止めに入ってれば良かったか……」

 

 二日酔いが目に見えてひどそうなラカムとオイゲン。その他にも大人組はみな一様にひどい顔をしていた。

 昨夜外で一人飲んでいたセルグは、ジータをヴィーラに引き渡したあと酒場に戻ってみたものの、そこはすでに阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

 

 ラカムとローアインはテンションを上げすぎてひたすらに飲み続け、オイゲンは酒場の店主と大声で歌い出す。酔っても落ち着いてると思われたカタリナは厨房で劇物を作り始め(本人はつまみを作っていたらしい)ゼタは泣きながらセルグにくっつき始める。唯一素面だったロゼッタはその場を大いに楽しんでいたようで止めようとする気など更々なかった。

 結果セルグは、ジータを部屋に寝かして戻ってきたヴィーラと協力して皆を寝かしつけに回る羽目になった。皆が二日酔いならば、セルグとヴィーラは盛大に寝不足だった。そしてもう一人……

 

「うう、グラン~頭が痛い……気持ち悪い……もう吐きそう」

 

「うわああ! まて、まてジータ! ちょっ、セルグ! なんとかしてくれ、双子の妹が公衆の面前で吐きそう!!」

 

 昨夜何も考えず、飲んだことのない酒を一気に飲み干してしまったジータだった。

 成長しきっていない体に突如放り込まれた酒精は翌日になって、まだ大人に成りきれていない少女を人生最大の苦痛(二日酔い)へと誘った。そんな様子を見て、止められなかった罪悪感からか、セルグもため息とともに面倒を見ようとグランの要請に応える。

 

「全く……グラン、ジータの面倒は見ておくから、先に港に行って艇の整備の話を済まして来てくれ。ロゼッタ、一人だけ酒が残ってないだろう。手を貸せ」

 

「うん……頼むよ、セルグ。二日酔いの対処なんて僕じゃわかんないから……」

 

「はいはい、団長さんは港に行ってらっしゃい。こっちはお姉さんに任せて、ね?」

 

 ロゼッタがグランを港の方へと押していく。それに逆らわずにグランは皆と港へと向かう。

 グラン達を見送ると、セルグはすぐにジータを見やる。余りの顔色の悪さに昨日無理にでも吐き出させるべきだったかと思考がよぎるが、それはそれで問題もあるだろう。ヒトの身体は水筒のように簡単ではないのだ。

 一先ずの対処を考えてセルグは口を開く。

 

「ロゼッタ、背中を摩ってやっててくれ。オレは酒場に戻って店主に茶を淹れてきてもらうから」

 

「わかったわ。それにしてもあなた、随分面倒見がいいじゃない。それだけ適応力があるなら、昨日わざわざ外に出ていく必要なかったんじゃないの?」

 

 歩き出したセルグにロゼッタが問いかける。全てを見透かすような黒い瞳が嘘は許さんと言わんばかりにセルグを射抜いていた。

 

「気づいていたのか……? まぁ不自然ではあったか。人の面倒見るのと一緒になって騒ぐのはまた別モンだろ。というか、どうにも騒ぐってのが難しくてな。昨日の皆みたいに楽しむってことができないんだ」

 

「ふふふ、あなたも存外子供なのね。一体何を恐れているの?あなたが入っていったところで皆が楽しめなくなるわけじゃないのよ。一人で勝手に仲間はずれになってないで自分から行かなくちゃ。」

 

「ま、まぁ考えておくさ。それじゃ待っててくれ……」

 

 逃げるようにセルグは酒場へと向かう。そんなセルグの背中をロゼッタは新しいおもちゃを見つけた子供のような目で見つめていた。

 

 

 

 工廠へと付いた一行は、ドラフの整備士を前にして整備の話を進めていた。整備士の前にグランが出て対応に入る。大人を引き連れた若い団長に僅かに驚きを見せながらも整備士はグランへとその手に持った紙を見せた。

 

「あなたが団長さんですね? こちらが騎空艇グランサイファーの整備計画書になります」

 

「お、見積が終わったんだな。どれどれ……うへぇ、思ってた以上にひでぇな。俺もまだまだってことか……」

 

 詳細な艇の診断書を見てラカムは呻く。肝心の動力部は壊れてはいないが、主翼、尾翼、マスト。あらゆる外装部は無事なところが無いくらいにボロボロだ。己の実力が高ければこの被害はもっと軽く出来たのではないか……そう思わずにはいられなかった。

 

「仕方ないよ、ラカム。どんなに腕の良い操舵士にも限界はあるし、アドヴェルサに突っ込んだ時はそれしか手段がなかったりで、艇を気遣う余裕もなかったし……」

 

 グランが仕方が無かったことだとラカムを励ますも、ラカムの表情が優れることはなかった。操舵士として、艇が傷ついた理由を何かのせいにはしたくないのだろう。彼が人生を捧げてきた艇だ。操舵士として、そこには彼の譲れないプライドがあった。

 

「それについては私にも責任があります。ラカムさん、あなただけの所為ではありません」

 

 ヴィーラが責任の一端を感じ目を伏せながらもラカムへと声を掛けるがその効果は薄くラカムは見積もり書に目を走らせ続ける。

 

「整備に五日はかかりますね……それと今回の代金ですが」

 

「う、それがあったな……すまないが請求書を見せてもらえないか?」

 

 懸念事項だった支払いの話が出てきて今度はカタリナが呻く。

 決して裕福な旅をしてきてるわけではない一行にとって艇の整備費用はかなり大きな問題だ。

 騎空艇の整備となれば非常に高額なのが一般的だ。誰しもがホイホイ手に入れられるほど安いものではない。

 島の行き来は普通、定期便となる輸送用の騎空艇に乗合で移動することがほとんどのこの世界において、騎空艇の希少価値は非常に高い。当然、それを直す費用も高いのだ。

 だが、そんな彼らの懸念はあっけなく崩されることになる。

 

「あ、いえ。請求書なんてものはありませんよ。そんなものはなくてもみんなちゃんと払ってくれますし。それにオイゲンさんの騎空団からお代をいただくなんてできませんって」

 

「なっ!? しかし、騎空艇の整備となればかなり高額になるだろう。本当に良いのか?」

 

 あまりにもあっけなく支払いの問題が片付いてカタリナは信じられず聞き返す。代わりに何か依頼でも吹っかけてくるのか? そんなあらぬ疑念が浮かぶが、整備士の顔には清々しいまでの笑みが張り付いていた。

 

「いいですって! オイゲンさんには昔からお世話になりっぱなしでして……こんな時くらい恩返しをさせてください」

 

「うわぁ! 得しちゃいましたね!!」

 

「すげぇじゃねえか、オイゲン! おかげで助かっちまったな。」

 

 思わぬ幸運にルリアとビィはご機嫌な様子を隠せなかった。他の仲間も同様、嬉しさに笑みをこぼす。

 

「へぇ……オイゲンってこの島で一体何してたの?騎空艇の支払いがタダなんて相当な恩があると思うんだけど?」

 

 ゼタは素直な疑問をぶつける。艇の整備を無償で受けられる。これがどれだけすごいことかはゼタにも理解が出来ていた。

 

「なぁに、ここの連中とは昨日今日の付き合いじゃねえからな。色々と昔面倒を見ていたこともあってだな……」

 

 少々誇らしげにするオイゲンに、なぞは深まるばかりだが、わざわざ聞き出す必要もないかと考えゼタは引き下がる。

 

「ともかくこれで、グランサイファーは大丈夫だな。あとは直るのを待つだけっと」

 

「はいはーい! それなら、あたし、この島の見学をしたいんだけどー!」

 

 オイゲンの言葉にイオが嬉しそうに声を上げた。技術の島ガロンゾ。港と酒場の行き来だけでも道中に興味を引くものは数多あった。好奇心の強い子供ならではの提案がイオから出される。

 

「ああ、そうだな……イオもたまにはいいこと言うじゃねえか!」

 

 そこにラカムも乗り気で答える。

 

「もうー! たまにはって何よ! たまにはって!!」

 

 そんなラカムの発言に不満をこぼすイオだったが。ラカムはそれを受け流して語り始める。

 

「前に来た時は右も左もわからねえガキだったからな。改めて見てみたいとは思ってたんだ」

 

 大人になった今だから分かることがあるのだろう。街を見て回ることへの期待感をラカムは隠せずにいた。

 

「ううん……悪いんだけどちょっとジータが心配だから僕はもど」

 

「まて、グラン。団長である君が仲間を離れるのは少々好ましくない。何かあったときの行動に支障が出るかもしれないからな。私が戻るから君は皆と街を見て回るといい。大丈夫だ、セルグとロゼッタもいる、心配しなくていい。かわりにルリアのことを頼んだぞ。怪我とかしないように見張っていてくれ……」

 

 そう言うや否や、ジータの元へとカタリナは戻っていった。

 グランに気遣ってジータの介抱を買って出てくれたカタリナに感謝とわずかな不安を抱きながら、グランは笑顔をみせてオイゲンに振り返る。

 

「それじゃあオイゲン。僕らに街を案内してくれるか? 僕もここの技術には興味があったんだ!」

 

「お、いいことじゃねえか! 団長たるものそういうことにも目を向けないとな! よし、それじゃいくか」

 

 そう言ってオイゲンを先頭にグラン達は街へと繰り出していく。既に朝もとうに過ぎたこの時間。ガロンゾは既に技術の島の顔へと変わっていた……

 

 

 

 

「おお!? オイゲン……オイゲンじゃねえか!! はっはー懐かしいなぁ!」

 

「オイゲン? まさか、オイゲンさん!? あ、あの、俺のこと覚えてますか!?」

 

 

 街に繰り出したグラン達が見せられたのは、道行く人が次々とオイゲンに声をかけてくる光景だった。

 

「はわわ……オイゲンさん、大人気ですね」

 

 ルリアが感嘆の声をあげる。街中で見せられた懐かしさや憧憬の眼差しが向けられるオイゲンがどれだけ慕われているかがよくわかる光景だ。

 

「アウギュステでも傭兵団の隊長をやっていたし人望があるんだな! オイゲンは!」

 

「うーん、やっぱりちょっと信じられないわね。ここまで慕われるなんて、相当凄いことやってそうなんだけど……」

 

 ゼタはどうにも釈然としない様子で、そんなゼタを不思議に思うグランが声をかける。

 

「ん? 何がおかしいの、ゼタ?」

 

「あ、いや、何でもない。ただ普段の姿からはちょっと想像できなかっただけ」

 

 そう言ってあっさりと引き下がるゼタに不思議に思うも、グランは街並みを見回していた。

 古くから工業都市として栄えた島の雰囲気は活気に溢れ、あちこちで声が上がる賑やかさと、仕事に熱心に打ち込む情熱を感じられた。

 

「それにしても、オイゲンが大人気というか、オイゲンだけ大人気というか……」

 

 目の前の光景にそう呟いてイオは、視線を横に向けると、そこには何かを考える素振りを見せているラカムがいた。

 

「あ、あのね、ラカム! 気にしない方がいいわよ! ほら、その……人間関係は広ければいいってもんじゃないわ!」

 

 ラカムの思案顔にイオは妙な気遣いを見せる。オイゲンだけが注目されている目の前の光景にラカムが悲観しているとでも思ったのだろう。だがそんなイオの言葉にラカムは呆れたような表情で返した。

 

「ったく、何変な気を遣ってんだ。俺がガロンゾに来たのは十にもならないガキの頃だぞ? 今の俺をラカムだとわかるやつなんざそうそういねえだろうよ」

 

 そう言って考える素振りを止めたラカムだったが、その表情が優れることはない。ラカムの雰囲気に何か気がかりがあるのかと、グランも疑問を覚え問いかける。

 

「ラカム、それなら一体なにをそんなに思いつめることが……?」

 

「いや実はな、なんだか何かを忘れてるような……思い出せそうな気がしてんだ。」

 

「忘れて? 思い出せそう? 何を忘れてるのかを思い出せそうな感じ?」

 

「いや、いいんだ。なんでもねえ。ちょっと気になってただけだ。それにしても、整備に五日か……それだけガタがきてたってことか……」

 

 ラカムは話題を変えてグランサイファーのことを思い出す。整備修復というのであれば騎空艇といえど、普通なら二日三日で済む。だがグランサイファーは五日もかかるというのだからどれだけボロボロなのか、その程がわかるだろう。悔しげなラカムの表情にはグランサイファーを酷使しすぎた事への後悔が含まれていた。

 

「仕方ねえさ、それだけ酷使してきたんだ。五日ですむんならまだいいほうだ。おとなしく待とうじゃねえか」

 

「ああ、それもそうだが……なぁ、グラン。グランサイファーの整備が終わったら次はどの島を目指すんだ?」

 

 ラカムは次の目的地をグランに尋ねる。場合によっては整備に少し注文を付ける必要もあるかもしれない。熱い島も寒い島も動力部には負担をかける。今後の予定としてどの島に行くのかは操舵士として必要不可欠の話だ。

 

「そうだね……まずは空図の欠片を集めたい。ファータ・グランデを抜けるためにも空図のかけらを集めるのが最優先なんだけど」

 

 星の島イスタルシア……お伽噺の存在であるこの島にたどり着くには空域を跨ぐ必要がある。そしてその手段は、各島一つ存在する空図の欠片を集める事。

 集めてどうなるか、どのように効果を発揮するのかは具体的にわかっていないが、彼らの旅路の目的は一先ずここに集約される。

 

「でも……私、できるならオルキスちゃんとまたお話がしたいです・ルーマシー群島であんな別れ方になってしまって。それに……」

 

 俯きながらルリアが口を開いた。ここまでの旅路でであった似た境遇を持つ少女の。その存在がルリアの心に影を落としていた。一時は共に行動をしていたその少女は、帝国の者と共に彼らの元を去ってしまう。友達となったはずの少女の安否、さらにルリアの胸中にはもう一つの気がかりなことがあった。

 

「それに……?」

 

 言葉が止まったルリアにグランは続きを促すように問いかける。

 

「それに、私知りたいんです!自分が一体何者なのか……それを知りたい」

 

 ルリアの決意の言葉がグラン達に届いた。星晶獣を扱うチカラ。帝国に狙われる理由ともなるこのチカラと未だに不明なルリアの出自。自分が何者なのかを知らない少女の願いはグラン達としてもは助けになってあげたいと思う願いであった。

 だが……

 

「それは時が来ればわかることだよ。ルリア……君は何も心配する必要はない。」

 

 

 突如聞こえた仲間の誰でもない声に、一行が驚く。一行が振り返った先には白髪の少年が、穏やかな雰囲気を纏い、立っていた。まるで最初からそこにいたと思える程急に現れた気配に一行はすぐさま警戒心をあらわにする。

 

「それよりも……この島から出た後の心配なんて少し気が早いんじゃないかな? 帝国も島に来ているし、なによりも、グランサイファーは現在、島を出ることを許されていないからね」

 

「坊ちゃん……お前さん、何者だ?」

 

 オイゲンが最大警戒で少年を睨みつける。なんの気配もなく接近してきた少年は、尋常ならざるものを感じさせていた。

 ルリアからオイゲンへと視線を移す少年は今度は懐かしそうな表情を見せて答えた。

 

「ああ、オイゲン。君は変わらないね……それに久しぶりだ、ラカム」

 

 少年の口からはオイゲンとラカムの名前が出てきた。グラン達は知り合いなのかと言うように二人に視線を向けるが、オイゲンもラカムも戸惑いを見せて首を横に振って答えた。

 

「え、あ? いや、悪いんだがその……誰だ?」

 

 ラカムが率直に少年に尋ねた。仮に知り合いならばこの時点で、怒りを覚えても仕方ないかもしれないが、少年はなんともないような表情のままラカムに答えを返す。。

 

「そうか……まぁ君は幼かったからね。しかし、その目は変わらないな、安心したよ。これなら約束もきっと直ぐに……」

 

「ちょっと君、割り込んで申し訳ないけど、ちゃんと説明してくれる? さっきの島を出たあとの心配は気が早いって……どういう意味?」

 

 ゼタが二人の会話に割り込んで険悪な雰囲気で問いかけた。アルべスの槍を手に持ち、警戒態勢は解かれていない。

 

「言葉通りの意味さ。なにせグランサイファーはいま、この島を出ることができないからね」

 

「へー。一体何を仕掛けたっていうわけ? ことと次第によっちゃ」

 

「ゼタさん、まだ何かをされたわけではないのですから、結論を急いてはいけません。さて、大人しく話してくださいませんか? 一体何を根拠にグランサイファーが飛べないと?」

 

 ゼタは猛りさらに問い詰めようとするが、ヴィーラがそれを窘めて再度少年へと問いかける。だがヴィーラも警戒心は解かれておらず、その視線は鋭く少年を睨み付けている。

 

「ああ、いや。違うんだ。艇に何かするとかそういう話じゃないよ。グランサイファーは整備が終わって飛び立てるようになってもこの島を離れることができないんだ。とある約束を果たさないとね……」

 

 少年の言葉にまた一行は驚きを見せる。

 

「ど、どういうことなんだ? 約束を果たさないとって……整備の料金の話かな? オイゲン。やっぱりなにか誓約があったの!?」

 

「いや、そんなハズはねえ。アイツは確かに代金はいらねえって言ったし、条件なんかも言わなかった」

 

「じゃ、じゃあ一体どういう意味なのよ。約束っていったい」

 

 イオが少年に詰め寄ろうとしたときだった。

 

 

 

「イオ・ユークレース、それ以上のこの場での発言は慎みなさい」

 

 

 

 またもや、別の声にグラン達には驚きながら視線を向けた。

 そこにいたのは、エルーンの女性。メガネをかけて知的な雰囲気とは裏腹に、眼光鋭くグラン達を睨みつけていた。

 

「貴方達に対し、エルステ帝国は彼の発言に対してのこれ以上の詮索を許可しません」

 

「な、いつの間に!?」

 

「帝国軍か!?」

 

 エルステ帝国の単語を聞きグラン、ゼタ、オイゲンが直ぐに戦闘態勢に入った。

 

「失礼、紹介が遅れました。私はエルステ帝国宰相。フリーシア・フォン・ビスマルクです。赤いトカゲを連れた騎空士。貴方がこの騎空団の団長ですか? 情報によると双子と聞いていたのですが……もう片割れはどこです?」

 

 そんなグラン達を見ながら、フリーシアは問いかけて来るも、興味なさげにすぐに視線を外した。

 

「まぁ捨て置いて良いでしょう。さて、貴方達騎空団に対し、エルステ帝国は国の研究資材であるルリアの返還を求めます。無益な戦いは好みません。大人しく渡して頂けますか?」

 

 フリーシアは淡々と要求を告げてきた。周囲は兵士達が取り囲んでいるし、数の差は圧倒的である。しかし、この場にそんな要求を飲むものなどいない。グラン達は返答として武器に手をかけた。

 

「はっ、結局はそれかよ……黒騎士はどうした? ルリア奪還を狙ってたのは黒騎士だったはずだ」

 

 オイゲンが情報を引き出そうと口を開く。この場において簡単に主導権は渡さないとように言葉を投げかけるがそれはフリーシアの後ろから出てきた男に阻まれた。

 

「それを、貴方達が知る必要はありませんねぇ……そんなことより、自分たちの心配をすることですねぇ!! かならずや復讐を果たしルリアは帝国に返してもらいますよぉ!!」

 

 フリーシアの後ろから出てきたのはポンメルン。これまでのグラン達の旅において、度々彼はルリアを奪還しようと現れてきた。だが、その度に命令を遂行できず苦渋を舐めさせられてきている。その復讐心がグランたちへと向けられた。

 

「グラン、助けて……」

 

 ルリアは後ろから現れたポンメルンの様子に震えながらグランの服を掴む。

 そんなルリアの様子にグランは安心させるように力強くその手を握って口を開いた。

 

「フリーシアさんでしたね……残念ですが僕らがルリアを帝国に渡すことはありません。それからもう一つ。訂正してもらいたい。あなたたちのためにもね」

 

「ほぅ? 一体何をですか? 我々のために我々が何を訂正するというのです」

 

 フリーシアの問いに、グランは大きく息を吸い込んで答えた。

 

「ルリアは普通の女の子だ! 国の研究資材だとか、ふざけるのも大概にしろ!!!」

 

 力いっぱいに叫ばれた言葉に仲間たちは目を丸くした。だが、それも一瞬。

 

「ヒュー! 言ってくれるぜ、グラン!」

 

「見直しちゃった!さすが私達の団長さん!!」

 

「今の、カタリナにも聞かせてあげたかったわー」

 

「おいおい、なんだか随分かっこいいこと言ってくれんじゃねえか」

 

「お姉様に負けず劣らずでしたわ」

 

 仲間達はグランの声をきっかけに戦闘態勢に入った。誰ひとり臆することなく、その瞳はギラギラとやる気に満ちている。

 

「ふんっ、小僧が何を粋がっている。仕方がありませんね……その少年を捕らえなさい!!」

 

 グランの一喝に一つも同様を見せないフリーシアは淡々とした声で指示を出す。その声に従い後ろに控えていた帝国兵が動き出した。しかし、その行く先はグラン達ではない。

 

「おや、どうやら面倒なことになりそうだね」

 

「な、なにしやがるんだ!? そいつはオイラ達とは関係ねえじゃねえか!!」

 

 焦る様子もなく件の少年は帝国兵達に捕らえられていく。

 その様子にビィが抗議の声を上げるもそれは届かず、少年は抵抗もしないまま連れ去られてしまった。

 

「聞けば、貴方達の騎空艇はいま、理由はどうあれ島を出られないそうですね……袋の鼠ならば、焦って捉える必要もない。事情を知っている少年はこちらで預からせてもらいます」

 

 そう言ってフリーシアは兵を伴いその場を去っていく。

 グラン達は立ちふさがる帝国兵に成す術なく、それを見送ることしかできなかった……

 

 

 

 

「なんてことを……全く無関係の人をさらっていくなんて!!」

 

「油断してた。まさか無関係なやつをさらっていくたぁ思わなかった」」

 

「さすがに関係無い人を巻き込んで、放っておくわけにもいかないもんね……卑怯だけど効果的だわ」

 

「それに、グランサイファーがこのままじゃ島を出られないってのも結局聞けずじまいだ。助けに行かないわけには」

 

 グラン達は口々に怒りを露わにしていた。

 関係ない人間を巻きこむ帝国もそうだが、ソレをあっさり許してしまった自分達にも怒りを覚えてしまう。拳を握るグラン達は一様に悔しげな表情を見せていた。

 

「ひとまず、ジータ達と合流しましょ。何をするにしても、バラバラじゃ、分が悪いわ」

 

 怒りに震えながらもイオが合流を提案する。

 このまま愚痴を言っていても仕方が無い。早く行動をしなくてはならないと皆を促す。

 

「そうだね、ジータが動けるようになってればいいけど」

 

 朝のジータの様子を思い出し一抹の不安を覚えるグランだったが、先導してジータを探すべく、皆と行動を開始する。

 

 

 

 

 

「どうだジータ。そろそろ大丈夫か?」

 

 セルグは目の前に佇むジータに問いかけた。セルグの言葉に振り返るジータの顔色は朝よりは大分マシになっており、死にそうな雰囲気はもう無い。

 

「はい、もうそんなに苦しくないです。その……セルグさん。ロゼッタさん、ご迷惑をおかけしました。カタリナも、ごめんなさい」

 

「なに、大人になるほどよくあることだ。あんまり気にするな。そんなこと言うなら昨日のみんなもひどかったからな。別段ジータだけが迷惑をかけてるわけじゃない」

 

「そうだ、セルグの言うとおり、そんなに気に病むんじゃない。我々は迷惑だと思っていないし私も……昨日はそれなりにひどかったからな。あまり人のことを強くは言えない」

 

「ふふ、そうね。あなたのあれ(劇物)は流石に迷惑のレベルじゃないからね……それに比べたらジータのなんて迷惑の内に入らないわ。」

 

「う、そんなに私はひどかったのか。す、すまない」

 

 ロゼッタの言葉に見るからに落ち込むカタリナ。本人は何をしたのか記憶にないほど酔っていたのだと勘違いしているが、カタリナはそれほど酔っていたわけではなく、記憶に中にある料理が原因だとは夢にも思ってなかった。

 

「(おい、あれ(劇物)については本人は気づいてないんだから知らせないでやれよ。流石に善意でやってることにあまりひどいことは言えないだろう)」

 

「(あら、それじゃあなたはこれからあの子のあれ(劇物)を処理してくれるって言うの? 気づかせてあげるのも優しさじゃなくて?)」

 

「二人共コソコソと何を話してるんだ? なにか気になることでも?」

 

「ああ、いや、何でもない! 何でもないぞ!」

 

「はぁ、結局それなのね……」

 

 水面下で行われた小さな攻防は誰に気づかれることもなく終わりを告げる。

 

 

 セルグ、ロゼッタの中にカタリナも加わりジータの介抱は行われていた。女の子にあるまじき呻き声を上げながら様々な痴態を晒してしまったジータは(どんな痴態を晒したのかは彼女のためにも仔細を記すことはやめておこう)、心底泣きそうであったがそこは団長としての強い精神力で我慢し、三人の協力もあって普通に過ごせる程度には回復していた。

 そんなこんなですこしだけのんびりしていた四人に遠くから声が近づいてくる。

 

 

「おーい、ジータ!!」

 

 

「あ、グラン。なんか焦ってるみたいだけど……どうしたんだろう?」

 

 走ってくるグランに疑問を感じるジータ。カタリナ、ロゼッタ、セルグもなにかを感じ取り向かってくるグランに視線を向ける。

 

「ジータ、もう大丈夫なのか?」

 

「うん、なんとか。三人のおかげでね! それで、急いでたみたいだけどどうしたの?」

 

 四人の視線がグランに向かう。遅れて着いた仲間たちも集まり、その場でグラン達は報告を始めた。

 

 

 

 

「なるほど、帝国の宰相までもが出てきたか……少し探ってみよう、ヴェリウス!」

 

 セルグはヴェリウスを呼びつける。呼びかけに応え、そばに降り立つヴェリウスを一撫でしてから、頼み込んだ。

 

「すまないがヴェリウス。帝国の戦艦がどこにあるか探してもらえないか……できれば規模も合わせて。無理はしなくていい。場所だけでもわかれば御の字だから。頼んだ」

 

 セルグの依頼にヴェリウスはすぐさま飛び立つ。あっという間に空高くへ飛んでいき、皆が見えなくなるほど遠くへと消えていく。それを見送ったところでセルグはグランとジータへと顔を向ける。

 

「さて、一体どうするんだ? 少年が言うにはグランサイファーは約束を果たさないと飛べないんだろう?」

 

「うん、そうらしい。そしてその内容も全然わかってないのが現状なんだ」

 

「そうすると、まずはその子を助けなきゃいけないのかな……?」

 

「そうだが、そんなに時間もねえだろうな。俺たちゃぁ、今袋の鼠だ。帝国が増援でも呼びつけりゃあっという間に捕まっちまう。早々に問題を解決して島を離れねえと、ルリアを奪われることに成り兼ねねえ……」

 

「ううむ、まずはヴェリウスの帰りを待つか……ひとまず少年を取り戻さなくてはヒントも得られないからな」

 

 状況を把握しながら皆が口々に意見を述べていく。意見が出尽くしたところで、セルグは静かに口を開いた……

 

「早いな……さすが記録の星晶獣だ。見つかったぞ。規模はまだ不明だがオレたちがグランサイファーを止めた港とは反対の方だ。どうする、グラン、ジータ?」

 

「そうですね、わかったのなら後は動くだけです!」

 

「あ、あのさ。僕から少し作戦があるんだ――グループを二つに分けようと思う。あの子を助けに行くグループと、思いっきり暴れて陽動を掛けるグループに」

 

「ほう、面白そうだな。人選は任せよう。グラン、どう振り分けるんだ?」

 

 セルグが興味深そうにグランに続きを促す。

 

「うん。まず救出チーム。ジータとカタリナに指揮を任せるよ。陽動は危険が伴うからルリアとビィもそっちで。護衛としてロゼッタと、オイゲン。回復役にはイオ。あと、ラカムも救出チームがいいかな。なんか彼と関係がありそうだったしね」

 

「ふむ、理に適ってるな」

 

「陽動チームは僕とゼタ、ヴィーラにセルグで行こうと思うんだ。ヴィーラにはシュヴァリエが、セルグにはヴェリウスがいるし、ゼタも戦闘能力には申し分無い。それと僕は一度宰相さんに会ってるから陽動の方がいいと思うんだ。僕たちが正面切って攻めてきたと少しでも思わせることができそうだからね」

 

 僅かな沈黙。

 仲間たちはグランの作戦に驚きを隠せないでいた。

 

「あ、あれ……なんか間違ってる?」

 

 訪れた沈黙に心配そうな表情を見せ始めるグラン。だが仲間たちは心配とは正反対の感心したように声をあげる。

 

「まさかそこまで考えられていたとはな……グランが頭脳派だったことにオレは驚きだよ。戦力の把握、振り分けは見事に尽きるな」

 

「こう言ってはなんだが、どちらかというとジータの方がそこらへんは考えられそうだったからな。私も驚いた」

 

「ちょっと二人共! こっちは必死に考えてんだからそういうことは言わないでくれよ」

 

 セルグとカタリナの素直な評価に嬉しいの半分悲しいの半分のグランだった。

 

「自信を持ってください、グランさん。とても理にかなった作戦だと思います」

 

「ああ、作戦としては申し分ない。いっちょやってやろうぜ!!」

 

 ヴィーラとオイゲンが落ち込むグランを激励する。

 

「ヴィーラ、オイゲン。ありがとう!さて、行こうか。さっさとあの子を取り戻して、グランサイファーを飛べるようにしないとね」

 

「おう!!」

 

 グランの声に仲間達の応の声が重なる。

 グラン達の少年救出作戦が幕を開けようとしていた。

 




いかがでしたでしょうか?

前回の日常編といい、メインシナリオに入ってからシナリオの進行が遅い気がしてならない作者です。一体終わりまでどれだけ書き上げることになるのかと、やる気半分絶望半分といったところです。

前置きでかいた目次と最新話について物申す方がいましたらどうぞ。そこらへんの常識って作者はこれが処女作なのでわからないのです

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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