granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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少し短めです。



メインシナリオ 第56幕

 

「フラメクの雷よ、憤怒を叫べ」

 

 引き金を引き、幾度となく放たれた雷の雨がまたもや兵士達を打ち砕いた。

 頬を伝う汗は、それがかなり無理をして捻りだしているチカラである事を物語り、ユーステスは努めて冷静に思考を回し現状を把握する。

 

「(かなり疲労が出てきたか……彼女もそうはもたないだろう。バザラガとベアトリクスは……まだ元気のようだな)」

 

 戦い始めてからかなりの時間が経った。規格外の身体をもつバザラガといつまでも元気なベアトリクスはさておき、普通の人間であれば全力戦闘の継続だけで疲弊しきっているはずだろう。

 常人であると自覚しているユーステスは、後方で打ち漏らしを片付けているモニカの事を鑑みて思案する。

 

「ユーステス、俺は一旦彼女の援護に向かおう」

 

 そんな彼の思考を読み取ったかのように、背中合わせに立つ仲間が進言してきた。

 こういったところは、それなりに以心伝心ができて楽だ。態々言葉にしなくていいのは彼としては好ましい関係である。

 

「――了解した、こっちの癇癪玉は任せろ」

 

「無茶はさせるなよ」

 

「あぁ」

 

 最低限の伝達をすませて、二人は弾かれるように再び動き出す。

 バザラガはモニカの元へと向かい障害を吹き飛ばしながら走る。ユーステスは視界の片隅にベアトリクスを収めながら弾丸の嵐と体術で押し寄せる兵士を食い止める。

 

「ベアトリクス! 一度下がれ!」

 

「お、おぅ!!」

 

 らしくない大声を張り上げ、再びフラメクのチカラを解放。しばしの猶予を捻出しようと、ギリギリの疲労の中フラメクのチカラを絞り出した。

 雷の雨を降らせ大勢の兵士達を撃ち払うと、ベアトリクスの近くに着地。

 

「バザラガが後ろの援護に向かった。しばらく二人で押しとどめるぞ。奮起しろ」

 

「そうはいうけどさぁ。こいつらいくらぶっ倒してもキリがないんだぞ」

 

 3人から2人に。状況の僅かな悪化と、あきらめず……否、あちこちから次々と湧いてくる兵士達を目にして辟易したようにベアトリクスがぼやいた。

 恐らく戦果という点では、ユーステス、バザラガよりも余程ベアトリクスの方が大きいだろう。

 最前線で戦い続けていたこともそうだが、エムブラスクとベアトリクスの実力が噛み合った時の強さは凄まじい。

 そんな彼女が長時間兵士達を屠り続けているというのに、いまだに帝国側の衰えは見えてこないのだ。呻きたくもなる。

 

「泣き言か? そんな事ではアイツには勝てん」

 

「んなっ、そんなんじゃない! 誰が泣き言なんていうもんか。

 良いぜ、やってやろうじゃないか。私一人でもこのくらい全部片付けてやるっての」

 

 挑発めいたユーステスの言葉にあっさりと乗せられるベアトリクスは再びエムブラスクと対話する。

 言葉を直接交わすわけではないが、呼びかけてその能力を十全に引き出して見せる。

 

「ふぅ…………いくぞ!!」

 

 呼吸を整え藍色の光が増し、ベアトリクスの身体を覆うと目にもとまらぬ速さで駆けて出していく。居並ぶ兵士共を叩き伏せ、再び彼女は鬼神の如き強さを見せて大暴れを始めた。

 

「ふっ、恐ろしい程に元気だな」

 

 その大暴れを目の当たりにしてユーステスは思わず感嘆の声を漏らす。

 自分は疲労も消耗も激しい……身体は徐々に言うことを利かなくなってきているし、放てるチカラは衰えを見せ始めている。

 だと言うのにベアトリクスは人海戦術に対して精神的に疲労を見せてはいても、その体が発揮する戦闘力という点では衰えがまるでない。

 窮地に陥れば陥る程に強くなるエムブラスクの剣が無限に彼女のパフォーマンスを高めている。その分体への負担は大きいだろうが元々色々な意味でタフな彼女だ。剣にこき使われたところで大丈夫だろう。

 仲間である彼女に対して普段は抱かない頼もしさを感じながらユーステスも戦線に加わり、次々と敵を屠っていった。

 

 

 

 

 

 ――――白刃閃く

 

 幾度となく振るわれているその刀は、纏うチカラも剣閃の早さにも衰えを見せずに、再び帝国兵士達を刈り取った。

 

「くっ、さすがに疲労は効いてきているか……」

 

 それでも、戦い続けた時間は彼女の感覚に明確な疲労を感じさせ、衰えを悟らせぬように苦心させる。

 何人切り伏せたか。何度大技を放っているか。

 瞬間的に巡らせる記憶を頼りに、現状がかなり苦しい展開である事を理解した。

 

「もらった!!」

 

 僅かに目の前から思考を割いた故に狙われる隙。5人も6人も一斉に詰め寄ってきて囲まれ、モニカは再びその身にチカラを滾らせる。

 

「このぉ、春花春雷!!」

 

 雷光と共に幾重にも走る剣閃が再び兵士達を沈める。

 だが、相手も慣れてきたもの。波状攻撃による第二陣が既に詰め寄って、大技直後のモニカの隙を狙っていた。

 

「まだまだぁ!!」

 

「くっ……しまった!?」

 

 疲労で判断が遅れたか。

 術後の意識の隙を突かれ、迎撃も防御も間に合わない兵士の一撃が迫りモニカは身を強張らせる。

 

「やらせはせん!」

 

「ガッ!?」

 

 迫る一撃。剣を振り下ろす兵士の背後に突如現れた黒い影が、兵士を全力で蹴り飛ばした。

 黒い鎧に身を覆われ、巨大な鎌を背負ったドラフの大男がモニカの前に立ち尽くす。

 

「貴公は、組織の……」

 

「バザラガだ。すまない、少し抜かれすぎていた。随分負担をかけてしまったようだな」

 

 疲労が見え隠れするモニカの姿に、やや反省を込めてバザラガが自戒の言葉を発した。

 前衛で好き勝手に大暴れしすぎて後方の事を考えていなかったか。そういったところはセルグと同様、どうにも組織の戦士には集団戦闘は期待できないらしい。

 散々に抜かれて、後方で打ち漏らしを片付けていたモニカに負担をかけてしまったのだとバザラガは悟った。

 

「いや、気にしないでもらいたいバザラガ殿。貴公らの援軍だけでも大きな助けだったのだ。むしろこの状況は、遅れているこちらの増援のせいと言える。もうしばらく厳しい戦いに付き合ってもらう事を詫びねばならないよ」

 

「ふっ、余計な気遣いだったか。だが、こちらとしてもこの戦い……強いてはこの任務を成功させなければならんのでな……助力は惜しまん」

 

 身を投げ出して緊急回避をしていたモニカを助け起こし、バザラガはその身で隠す様に彼女の前へと躍り出た。

 黒い兜の奥、強い意志を秘めた瞳が光り並ぶ兵士達を躊躇させる。

 

「ふぅ……感謝しよう。あやうく手痛い攻撃を受けるところだった。あちらの二人は大丈夫なのか?」

 

「問題無い。荒事には慣れている……そう簡単にやられる奴らでもないしな。

 だが、疲労の色は拭えん……先ほど言っていた増援がまだならそろそろ厳しくはなってくるだろう。来るのか?」

 

 何をとは言わなくてもわかるが、その答えをモニカは明確に出せなかった。

 元々じっくりと時間をかけて進行していくはずだった作戦だ。

 防衛網の無力化。それが終わるまでにできる限りの戦力を集め本隊を派遣する。

 指揮官として成長したリーシャなら逸って急ぐような真似はしない。万全の準備を整えてくるのであれば、今ここで増援を期待するのは厳しいと言える。

 

「現状では、まだ来るとは思えない。来れば戦況は簡単に覆せるだけの戦力を伴ってくるだろう。その分――」

 

「その分準備には時間をかけるか……ならばこちらも少し妥協せねばならないな。それなりに時間は稼げた。今ここを抜かれてもセルグ達はかなり先を進んでいるだろう」

 

「――そうだな。確かに貴公の言うように、そろそろここを明け渡しても良いかもしれない。だが……」

 

 続けようとしたモニカの言葉が止まる。

 訝しんだバザラガが前方に意識を裂きつつ背後のモニカの様子を伺うと、そこには空の一点を見つめ、徐々にその表情を喜色へと変えていくモニカの姿があった。

 

「……む? だが、どうした? この広場に留まる理由が」

 

「あぁ、たった今その理由ができたようだ……前の二人と合流しよう。ここからは反撃といこうじゃないか!」

 

 疲労を重ねたその身を震わせ、モニカは打って出るべく刀に宿る属性の力を解放。

 刀に紫電を灯し前傾姿勢となって、兵士の壁を突破するべく構える。

 

「行こうバザラガ殿。二人と合流して、帝国軍へ打って出るぞ!」

 

 気勢を上げるモニカの視線の先に飛来するものを確認しバザラガも即座にその意味を理解。

 同調するようにグロウノスの力を解放し同時に走り出す。

 突然の反撃に及び腰となった兵士達をそのままに二人は一気にその壁を打ち砕く。

 立ちはだかるものをなぎ倒し、阻むものを切り伏せ、前方で戦っていたユーステス達の元へと向かう。

 

 そんな二人の視線の先、朧気だった影は見る見るうちに大きくなり、アガスティアの直上へと飛来した。

 

 

 

 

 

 先頭を走る騎空艇。

 第四騎空艇団旗艦、グランツヴァイスの甲板から、リーシャは戦場となったアガスティアを見定めた。

 

「防衛部隊の艦影なし。無力化は成功しているようですね……ならば状況は地上戦が想定される」

 

 作戦通りに進んでいる事を確認しつつ、リーシャは先程僅かに見えた緊急事態の信号弾の意味を推定する。

 防衛部隊の無力化は成った上での想定外の事態。考えられる事態は幾つかあれど共通して言える事はあった。

 

「時間の猶予はあまりないでしょう……のんびり港から制圧していられない」

 

 緊急を要する信号弾が上がったという事は少なくとも余裕のない事態になっているという事。

 作戦通りにアガスティアを制圧していく暇がない事を意味した。

 

「全艇に伝令! 操舵士は砲撃による迎撃を考慮しながら全艇アガスティア直上に向かいます。直上より一斉降下。降下後は直ちにアガスティアを制圧します!」

 

「リーシャ船団長補佐! アガスティア広場にて戦闘を確認!」

 

 頭上から望遠鏡で戦場を確認した団員より声が挙がり、リーシャは即座に決断。

 

「グランツヴァイス、及び旗下3艇で広場に降下! 戦闘中の味方と合流します!」

 

 指示を受け、グランツヴァイスは艇団から抜け出て加速。追従するように3隻の騎空艇が続き、戦闘中のアガスティアの広場直上へと向かう。

 

「全員、戦闘態勢!」

 

 高度を落とし、徐々に近づいてくる地上を見定めリーシャは激を上げて剣を抜いた。

 はっきりと見えてきた戦場で戦っているのはやはり、憧れの先輩であるモニカその人であった。

 周囲は数多の帝国軍に囲まれ、多勢に無勢と言える中で必死に戦っている。

 部隊の規模から考えても既に帝国が本腰を上げての戦いに入っている事がわかる。仕方なくとも大事な戦いに遅れてしまった事を申し訳なく思い、自然とリーシャの身体が怒りに震えた。

 騎空艇の縁へと身を乗り出して、降下用のロープから次々と降りていく団員たちを尻目にリーシャはそのまま甲板から飛び降りる。

 着地直前に風の魔法を放って衝撃を抑え、胸に燻る熱と共に暴風纏う剣を一閃。

 不意打ちに放ったトワイライトソードが暴威の塊となって向かい来るモニカ達の道を切り開いた。

 

 

「総員、直ちに制圧戦に入れ!その胸に宿る崇高な意思の下、この空を守るために全力を以て戦い尽くせ……いけぇ!!」

 

 昂る熱をそのままに、高らかに吠えたリーシャの言魂が団員達の士気を跳ね上げた。

 ある者は怒声を上げ剣をかまえ、ある者は冷静に敵を撃ち始め、ある者は合流しようとするモニカ達を迎え入れるために走り出す。

 それぞれ部隊毎で小さな集団を作り次々と兵士達を撃破しながら進撃していく。

 アガスティアで今、新たな戦いの火蓋が切って落とされた

 

 

 

「(他の部隊もそれぞれにアガスティアの各所へと降下している。混乱も誘えたから状況は一先ずこちらが優勢……)」

 

 モニカの道を拓くため最初の一撃で敵をなぎ倒した後、すぐに状況把握に移行したリーシャは周囲を見て思案する。

 広場に強敵の気配はない。早々にガンダルヴァやポンメルンと言った強敵と戦う可能性も想定していたが、気配がない事に僅かに安堵した。

 

「リーシャ! 良くぞ来てくれた」

 

「モニカさん!」

 

 団員達に連れられて合流したモニカは珍しくその顔に子供のような笑みを湛えてリーシャの元までやってくる。

 背後に一緒にいる組織の面々に少しだけ視線を向けてから、リーシャもまた無事な様子のモニカに嬉しそうに応対した。

 

「ご無事で何よりです、モニカさん。遅れてしまい申し訳ありませんでした……部隊の集結に少し時間がかかり」

 

「なに気にするな。想定よりも事が早く進んでいたのだ。リーシャが来るのはもうしばらく後だと考えていたから、むしろ早く来てくれて助かったぞ」

 

「それでも、本当に間に合って良かったです……しかし、喜んでばかりはいられません。モニカさん、状況を教えてください。先の緊急の信号弾……グランさん達はこの場にいないし、状況は想定よりも悪いと推察します」

 

 喜びも束の間、すぐに真剣な表情を取り戻し、リーシャは思考をフル回転させる。

 やらなければならない事、知らなければならない事が多い。時間の猶予がない事は分かっているのだ。のんびりおしゃべりしている場合ではない。

 

「あぁ、まずは現在の状況だ。エルステ帝国軍大将アダムよりフリーシアの計画の全容を聞かされ、グラン殿達と黒騎士はアガスティアの中枢タワーへと向かっている。目的は只一つ、アーカーシャ起動の要となる星晶獣、デウス・エクス・マキナをルリア殿が吸収しに行く事」

 

「星晶獣デウス・エクス・マキナ……ですか」

 

「あぁ、ヒトの魂に干渉できるといった能力を持つらしい……アガスティアに住む人々全ての魂を抜出して、アーカーシャ起動のエネルギーとするのがフリーシアの計画の全容だ」

 

「……なんて非道な」

 

 被害の規模は数えられるような規模ではない。恐怖を抑えきれない計画にリーシャの顔が引きつった。

 

「彼女に人道の観念は存在しないのかもしれない。全てを覆し、やり直す以上、その過程で発生する犠牲ですらなかった事になると考えているのだろう」

 

「だが、星晶獣アーカーシャがそんな都合よくヒトの願いを叶えるような代物であるわけが無い」

 

 二人に会話に割って入るように、モニカの後ろに控えていたバザラガが一歩前に出た。

 バザラガとユーステスの姿に少しだけ警戒を露わにしたリーシャは静かに、モニカへと問う

 

「モニカさん、こちらは……」

 

「あぁ、すまない。先を行くグラン殿達の背後を守るため私とセルグで広場に残って戦っていたんだ。そこへセルグの為に駆けつけてくれた組織の仲間だ。リーシャにとっても少し因縁があるとは思うが今はそれを忘れて協力して欲しい」

 

「それはまぁ、モニカさんと一緒に戦っていたわけですし、疑う事はありませんが……えっと」

 

「バザラガだ。こっちがユーステス。それから、ベアトリクスだ」

 

 戸惑うリーシャの考えを察して、バザラガが名前だけの紹介を済ませた。

 何故か名前を呼ばれただけで誇らしげにするベアトリクスを見て、先程浮かんだ僅かな警戒心も薄れていく。敵対する気は無い。何となくだが彼女をみてそれがわかる気がする。

 あれは隠し事をできないタイプの人間だ……彼女に敵対心が見られなければ恐らく疑う余地はないだろう。

 少しだけ思案を見せたリーシャはすぐさま考えをまとめたかバザラガへと言葉を投げかける。

 

「それではバザラガさん、貴方達の目的は一体?」

 

「俺達の任務はアーカーシャの破壊だ。そしてそのためには秩序の騎空団との協力が必要不可欠と考えた。アマルティアでの一件について謝罪すると共に、協力を申し出たい」

 

「それはもちろん、ありがたい申し出です。モニカさん、よろしいですか?」

 

「既に共に戦っている。私に異論はない」

 

 先程までの戦いの中でもピンチを救われたし、何よりモニカはセルグと彼等のやり取りを見ている。セルグが歓喜に打ち震えていた姿を見ている。

 反対する気はなかった。

 

「わかりました……最優先事項はグランさん達がタワー中枢へと辿り着き星晶獣デウス・エクス・マキナを止める事。であれば、私達ができる事は一つです」

 

 セルグやゼタと同じ組織の戦士。それだけで強者である証明には事欠かない。

 今ここにいる5人だけでも戦闘力としては申し分ないだろう。できる事は大きい。

 リーシャは自分が述べた最優先事項の為に僅か5人でできる最大の戦いを考えた。

 

「彼らを追いましょう。彼らの障害となるものを排除し、彼らの道を切り開くために」

 

 できる事は一つ。万難を排し、グラン達の目的達成にできる限りの助力をする。

 世界が無くなるかの瀬戸際なら、今そこに全てを掛けるしかない。

 

「戦力面でこちらは優位に立ちました。全部隊でアガスティアを制圧し彼らを妨害する帝国軍を排します。帝国軍の目をこちらに向け、機動力があり少数精鋭である私達は直接彼らの援護に向かいましょう」

 

 指針を示すと同時に、リーシャは傍らにいた副官へと命令を伝える。

 前もって伝えられていた通りにアガスティアの各所を制圧していくようにとの指示だが、その上で更に”迅速に”、と付け加えられた。

 指示を受けた副官はすぐに伝令を回す。そう時を置かずにアガスティアの街では秩序の騎空団による更なる制圧戦が開始されるだろう。

 

「なるほど、部隊による間接的な援護と俺達による直接的な援護か。ならば急ごう……広場に押しとどめていたとはいえ、他にも戦力はあったはずだ。先を急いだ者達の疲弊は免れん」

 

 リーシャの言葉を即座に理解したバザラガはユーステスとベアトリクスに確認の視線を回す。

 両者共に頷くと、再び臨戦態勢となり武器のチカラを解放した。

 

「モニカさん、休息は必要ですか?」

 

 準備万端な様子の彼等とは対照的に、やはり疲労が隠せない様子のモニカをみてリーシャは問いかけた。

 無理もない。アダムとフリーシアの出現から始まりこれまで戦い続けてきているのだ。

 先に行ったグラン達よりも、駆けつけてくれたユーステス達よりも、更に長い時間を戦い続けてきている。

 

「疲れていないとは言えないが、そうも言ってられないだろう。ここでのんびりと指揮を執っている場合でもないしな」

 

 訓練を重ねてきている秩序の騎空団の団員であればモニカやリーシャがいなくてもある程度の戦いはできる。

 先程のリーシャの言葉の通りにグラン達を援護するのであれば、部隊指揮に回るよりはモニカも直接赴いた方ができる事は多い。

 

「その小さな体で戦い続けは疲れるだろう……俺が暫くは担いで行こうか?」

 

 何ともなしに、バザラガから提案が出される。

 戦闘者故にルリアやオルキスなどと比べたら軽くは無いが、それでもモニカは小柄な女性だ。

 2mをゆうに超える体をもつドラフのバザラガからみれば、どちらも等しく軽い事に変わりは無い。小柄なヒューマン一人、バザラガにとっては荷物にも数えられないのだろう。

 彼女の疲労を心配して出されたバザラガの提案であったが、緊急とは言え流石に担がれて運ばれるのは嫌なのか、モニカは難色を示した。

 

「い、いや待ってくれ!? 私はこれでもれっきとした大人だ。団員達からの目もあるし、遠慮させてくれ。走っていれば多少は回復するから気遣いは無用だ」

 

 取り繕うように指揮官らしい顔を貼り付け、モニカはバザラガの提案をやんわりと断る。

 実は彼女、アマルティアでの一件以来、囚われの姫君等とメルヘンチックな物語のネタにされている。牢屋に囚われたモニカをセルグが助け出したといったエピソードが団内に広まったせいで、やや船団長の威厳を保てなくなってきている気配があるのだ。

 断らなければ今後の立場がよろしくない。

 

「ん~そうなのか? 折角楽ができるんだから、バザラガに担いでもらえば良いじゃんか。別に誰に見られていようがそんなの関係ないだろう」

 

「ベアトリクス。お前と違って彼女には立場と体裁がある……ついでに羞恥心も。お前と一緒にするな」

 

「な、なんだと! ユーステス、私だって羞恥心くらい――痛っ!?」

 

 余計な言葉と、余計な話にバザラガから拳骨をもらい、ベアトリクスは痛みに唸りながら黙り込んだ。

 

「話が進まないから黙っていろ――すまなかった、無用な気遣いだったな。それでは急ぐとしようか」

 

 その気は無かったが失礼になった事を謝罪し、バザラガとユーステスは振り返って中枢タワーへと目を向けた。後ろで文句を吐き続けるベアトリクスはそっとリーシャに抑えられており、僅かに緊張感が緩む。

 まだ戦いは半ば……まだ事は終わっていない。

 先に向かったであろうグラン達には、兵士ではなく帝国の主力達が壁となって立ちふさがっているはずだ。

 

「こうしてみると……大きいな」

 

 そっと呟くはモニカ。

 それは恐らく距離やタワーの大きさを指した言葉ではないのだろう。

 タワーの上部、リアクターが設置されている場所までに立ちはだかるであろう壁。

 フュリアス、ガンダルヴァ、ポンメルンに星の民の生き残りである皇帝ロキ。要となる戦力が待ち構えているのは確かだろう。

 激戦の予感が、嫌でも中枢タワーを高く見せる。

 

「おいおい、眺めてても始まらないだろ。ほら、早く行こうぜ!」

 

 重苦しくなった雰囲気を軽くさせる。彼女の能天気さは時として大きな武器となるのかもしれない。

 強張っていた4人の顔から堅さが消えて、各々小さく息をついた。

 

「そうだな……怖気づいてる暇もなければ、何が来ようと負ける気もない」

 

「同感ですね。私達が負ければこの世界は終わります。行きましょう……エルステの中枢へと」

 

 消耗少ないリーシャが先頭に立ち、まだまだ元気なベアトリクスが続く。ユーステスとモニカが中衛に続き、バザラガが殿を務める。

 

 秩序の騎空団と組織の戦士達。

 セルグをきっかけに一度は対立した者達が手を取り合い、今巨大な帝国に挑み始めた。

 

 

 




如何でしたでしょうか。

とうとう参戦しました秩序の騎空団。
といっても見せ場があるのはリーシャとモニモニだけですが……

場面転換が多くなってきてて少し心配ですが大丈夫ですかね。
何かありましたらご感想お願いします。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです

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