granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
戦場を音が支配する。
発生源は夥しい数の帝国兵士達。島を震わせるようなその雄叫びは空へと轟き、彼らの意思を解き放った。
絶叫にも似た雄たけびの下、夥しい数の兵士達より放たれるは幾多の攻撃。
矢、銃弾、多色な魔法に魔力砲撃。受ければひとたまりもない嵐のような攻撃の後には、なだれ込むように駆け込んでくる兵士。
声を上げる暇は無い。即座に対処に移るのはカタリナとロゼッタ。
ライトウォールと地面より一斉に生えて組みあがる茨の盾がグラン達を守る。
第一波の攻撃を全て受け止めたところで、アポロが兵士に負けぬように声を張り上げる。
「応戦するぞ!」
「全く……多勢に無勢がすぎるわよ」
アポロの声にジータが是非もなく反応。いつもの見た目に引っ張られた人格が、彼女らしからぬ小さな悪態を吐くが、言葉とは裏腹に彼女の戦闘スタイルはこんな時こそ真価を発揮する。
殲滅魔法と援護魔法。その両方を扱い尚且つ自分も前線に出れる彼女の戦いは、器用貧乏ならぬ器用万能。
四天刃を構えながら駆けだしたジータは、共に駆けだした頼もしき仲間達に二つの援護魔法を唱えた。
「”チョーク”! ”チェイサー”!」
幾つもの飛刃を飛ばす能力を付与するチェイサー。そしてその飛刃の範囲大きく広げるチョーク。
一度剣を振るえば面制圧を可能とさせる援護魔法を受けてグランとアレーティア、そして治療途中であったセルグが前に出る。
剣士として最高峰の三人が受けた援護は、ジータによる最高峰の援護魔法。押し寄せる兵士の波を見据えて、グランが先手を取った。
「北斗大極閃!」
七星剣を解放。収束した光は巨大な剣を形成し前方を薙ぎ払う。七星剣から放たれるはセルグの奥義のような巨大な斬撃。それを幾つも放ち、グランは押し寄せる兵士の第一陣を根こそぎ吹き飛ばす。
「アレーティア、行くぞ!」
「任せよ!」
「私もやるぞ!」
モニカも加わり、それぞれに鞘から抜き放った剣閃は幾重にも重なる。
アレーティアの”破”
セルグの”多刃”
モニカの”春華春雷”
いずれも数瞬で何度も刻む瞬息連斬の攻撃であり、ジータの援護との相性は抜群。
解き放たれた飛刃は空間を埋め尽くし、更に押し寄せる兵士を片っ端から迎撃していく。
「怯むな!! 回り込んで包囲しろ!」
グラン達が第一波を退けたところで、帝国軍もすぐさま行動に移った。
ただ押し寄せるだけでは今の繰り返しで終わってしまう……戦力の逐次投入は下策で在り、多面からの同時攻撃で対処を遅らせ一気呵成に責め立てるこそ上策。
建物を回り込み、路地を迂回してグラン達の側面と背後へと出てきた兵士達に、対処が遅れたグランの表情が歪む。
「コロッサス!」
「リヴァイアサン」
だが、戦えるのは剣士であるグラン達だけではない。ルリアとオルキスによって呼び出された二体の星晶獣が回り込んできた兵士を迎撃。
巨大な鉄人が地面を奔らせる熱波と、水神が放つ圧壊の水流が兵士達を撃ち払った。
「私達も戦います!」
「こっち側は……任せて」
仲間達に守られながらも頼もしい二人の姿に、少しだけ安心するとグランは前方へ意識を集中する。
気遣う必要はない。守られるだけである少女達の戦う姿に背後への気遣いを捨て、グランの思考は目の前で相対すべき敵だけに染まっていく。
剣を握りしめ、押し寄せる兵士達を見据えた。
「(ここで負けていては、何もできないまま世界が終わってしまう……思い出せ、あの時の感覚を。今この時が、世界の命運を決める戦いだと意識しろ……)」
徐々に鋭くなっていく感覚。解放されていた七星剣は輝きを増し、グランの意識は戦闘以外の余計な部分を消していく。
負けられない……フリーシアが作り出したこの状況が、グランの危機感を煽り彼の心を追い込む一助となった。
カッと頭に血が上ったような気がしたグランは、次の瞬間には一人の兵士の懐へと踏み込んでいた。
怒りに狂ったりしているわけではない。その証拠に、グランの頭はどこまでも冷静で最も効率よく敵の戦力を削ぐことにのみ集中していた。
高まるチカラのままに暴れだしそうな戦いの意思を制御し、グランは兵士が剣を握る腕を斬り飛ばした。
「――――ぇ」
微かに漏れるのは兵士の声。
グランの攻撃は既に一兵士が視認できるレベルではない。落とされた腕を見て止まった思考が兵士に痛覚をもたらすまで数秒。
その数秒の間に、グランは兵士たちの間を縫うように駆け抜けて更に五人の兵士の四肢を飛ばした。
「う、うわああああ!!」
「あ……いてぇ……いてぇよおお!」
「足が……足がああぁああ!!」
噴き出す鮮血と訪れた痛みに兵士達から悲鳴が上がる。
グランとしては最後の良心が命を奪うことだけは避けていたにすぎないこの攻撃が、兵士たちの恐怖を煽った。
鮮血に塗れ、痛みに啼く兵士達を見て、押し寄せる兵士たちの勢いが衰えた。
「怯むな! 囲めえええ!!」
指揮官らしき兵士の声に、怯んでいた兵士たちがまた押し寄せる。
だが、今のグランは包囲することですら容易にはさせない。
「――ウォオオオ!!」
冷静な思考とは裏腹な獣の如き声と共に、グランは次々と兵士達へと踏み込む。
視界はクリアになり、知覚領域が広がる。敵の動きを全て認識できるような全能感がグランを包み込んだ。
押し寄せる兵士達を盾にすることで後方からの射線を潰し、接近戦のついでで後方の兵士達を薙ぎ払う。
目の前の兵士を切れば、後方の狙撃手を潰し。振り向きざまに斬り捨てれば、放たれた魔法を迎撃する。
戦闘に全ての意識が向いた精神状態。
思考ではなく反射に近いようなその戦闘スタイルは、正に人が変わったような変化であった。
――”ベルセルク”
それは自らを追い込んだグランがたどり着いた、戦士としての頂であった。
背中合わせに立ったイオとラカム。次々と襲い来る兵士達を互いに迎撃しながら、減ることのない兵士達に徐々に押されていた。
「ラカム! デカいの狙うから援護お願い!」
「何する気だイオ! ちょっとやそっとじゃこいつらは止まらねえぞ!」
最速で魔法を構築し次々と迎撃していたイオは、埒が明かないと強力な魔法の準備に入る。
狙うは襲い来る兵士達を一気に薙ぎ払う制圧魔法。今更それができる事を疑うことはないラカムであったが、それでも簡単には止まる気配のない兵士達を見て、その可否を問いかけた。
「フンッ――――止まらないなら、止めてやればいいだけよ!」
その身に渦巻く魔力を従え、イオの顔に笑みが浮かぶ。
詠唱破棄の魔法を覚えるために行った特訓――それは何も、詠唱破棄ためにだけ効果があるわけではない。
魔法を完全に理解し、発動する魔法のイメージを完璧にする……それはむしろ正しき手順を踏んだ魔法にこそ効果を発揮するものだ。
完全に理解した魔法は魔力の無駄をなくし、完璧なイメージは魔法の威力を思うがままに操れる。
足元に浮かぶ魔法陣。荒れ狂う魔力を緻密に制御して杖へと介す。
発動を待ちわびて淡い青に光り輝くイオの姿はどこか神々しさすら覚える。
準備が整ったところでイオはその杖を振りかざした。
「凍りつけぇ、クリスタルガスト!!」
膨れ上がる魔力を全て乗せ切ったイオの魔法は、これまでとは段違いの威力。
駆け抜ける魔力の風は兵士達を瞬く間に凍り付かせ、更には押し寄せようとする後続の兵士をも足を止めさせる。
後続は進行を邪魔され、思うように押し進むことができなくなり、イオとラカム僅かばかりの余裕を手に入れる。
「へっ、さすがは天才魔導士ってか……んなら次は俺の番だな!」
イオに触発されるように、ラカムも銃を構えた。
銃口に集う炎のチカラ。せっかく凍り付かせた兵士達に炎をぶち込む気かとイオが慌てるが、ラカムの狙いは足を止められた兵士達ではない。
「デモリッシュピアース!!」
兵士たちの隙間を縫うように狙撃されたラカムの攻撃は後方の魔導士部隊へと着弾。
大きな爆発を起こして幾人もの敵を吹き飛ばす。
「ラカムやっるぅー!」
「お前さんだけにいいかっこさせらんねぇさ。ホラ、次がくるぞ!」
互いの頼もしい姿にイオもラカムを意気を上げる。
どれだけ奮起したところで優勢には程遠い状況は、精神的にひどく苦しい。互いに支え合わなくてはすぐに折れてしまいそうだった……
「オッケー。ならドンドンやってやりましょ!」
言い聞かせるように杖と銃を構え、二人は押しつぶされないように中距離での制圧戦を制していった。
戦場を駆け抜ける――
天ノ羽斬と本体のヴェリウスからのチカラでセルグは自身の能力を限界まで高めて、並み居る兵士を斬り捨てていた。
再び纏うヴェリウスのチカラ。機動力を上げるための僅かな融合。
アマルティアでの撤退戦の時と同様、翼をはやして地上を駆けるセルグの戦いは帝国兵士にとっては悪夢に等しい。
だがアマルティアとは違い帝国の戦力は底知らずで尽きることが無い。
触れることすら適わず兵士を屠っていく中でセルグに生まれた僅かな硬直。その一瞬を見計らったかのように振り下ろされる巨大な剣を躱し、セルグは新たな敵の出現を悟った。
「――――魔晶部隊も出てきたか」
これまでグラン達に苦戦を強いてきた、魔晶によって変異した兵士達の登場。セルグへの警戒の為か、魔晶兵士の一群が目の前に現れてセルグは静かに視線鋭く睨みつけた。
「(多勢に無勢のこの状況でこいつらを相手にする余裕等、皆にはない)――――ヴェリウス!!」
思念で伝えたセルグの意思を汲み取り鳥のヴェリウスが宙を駆ける。
向かう先はルリア達と後方にいた小さな竜、ビィの下であった。
”チビ竜よ、出番であるぞ!”
「ヴェリウス? オイラの出番ってうぉああああ!」
問答の暇は無いと巨大になったヴェリウスの足で鷲掴みにされ、哀れなチビ竜は驚きの声を挙げながら上へと連れていかれる。
「ちょっ、ヴェリウス。一体何だって――」
”お主の身は我が守る。仲間達に余裕は無い……お主のチカラで中空より魔晶部隊を滅ぼせ!”
伝える事だけ伝えるとヴェリウスはビィを放してその背に乗せた。そう、ビィがもつ魔晶の打ち消すチカラ。セルグの狙いはそれで厄介な魔晶部隊を片付ける算段だ。
目立つ中空へと飛んだ二匹にもそれほど多くはない銃撃が放たれるが、その程度では星晶獣たるヴェリウスは墜ちはしない。翼を広げ、ビィの安全を確保したところで、ヴェリウスは真剣な声でビィへと語り掛ける。
”出来ねば小僧共が死ぬぞ……事ここに至って、泣き言も甘えも許されぬと心得よ”
「そういうことか――任せとけ! 魔晶の兵士はオイラが全部ぶっ飛ばしてやる!」
突然の事態に呆けていたビィだったが状況とやるべきことを理解しすぐさま己の羽で宙に浮かぶ。
出番が来たことを喜んでいるわけではないが。自分にしかできぬことがあるのならその期待に応えようと意気も上がると言うもの。
”まずは蒼と星の民の娘に向かい来る奴らからだ。その次は若造が相手をしている一群を……最後に正面のタワーへと向かう道に点在している者を蹴散らせ”
「そ、そんなにか!? よぅし……やってやるぜぃ!」
思いの他ターゲットが多かったことに驚くのも束の間、ビィはその身に宿ったチカラへと意識を向ける。
同時にヴェリウスより伝えられた魔晶兵士部隊を視界に収める。数は15といったところか。ターゲットを認識したところで、ビィは鎌首をもたげる。
ザンクティンゼルで放った時と同じ。喉元へとせり上がる何かが自身の内で騒ぎ始めると、ビィはその身に似つかわしくない巨大な竜の咆哮を上げ、チカラを解き放った。
幾本もの光条が奔ると、ビィの攻撃が魔晶兵士を穿つ。
ルリア達を狙ってアダムと戦っていた者を。
セルグが引き付けていた一群を。
少し遠目の後方に控えていた者達を。
チカラの源であった魔晶を砕かれ、次々と元の姿に戻っていく兵士達を見届けてから、ビィは意識を失ったかのようにフラっと地面に落下を始めた。今回でまだ二度目だ……制御に難ありかチカラを使い切ったようでビィの身体はひどい倦怠感に包まれていた。
すかさずヴェリウスが追い付いて受け止めるとそのまま地面に着地。
「ビィさん!? 大丈夫ですか……」
「お、おぅ……ルリア。ちょっと疲れただけだから……大丈夫だぜぃ」
”案ずるな小娘……攻撃を受けたわけではない”
駆け寄ってきたルリアにビィを預けて問題はない事を告げると、ヴェリウスは再び飛翔。セルグの援護に前線へと舞い戻る。
ビィの働きによって厄介な魔晶部隊を退け、戦況は膠着状態にもつれ込んだ。
グラン、アポロ、セルグは単独で最前線を守り続け、ジータはモニカ、アレーティアと連携して近中距離を制圧。
ヴィーラとゼタ、イオとラカムは互いに背中を預け敵陣の中を食い破り、最後衛でロゼッタ、カタリナ、オイゲン、アダムが防御と護衛に回る。
戦いは既に長丁場の様相を呈していた……
「大将さんよ! どうすりゃいいんだ!?」
後方で援護に徹していたオイゲンは、すぐ隣でルリアやオルキスの護衛に回っていたアダムに問いかける。
士気高い帝国軍の猛攻は打ち払おうと弱まる気配はない。
多勢に無勢なこの状況に、リアクターが起動されているという事実が焦りを生む。
このままここで戦い続けていてはフリーシアの思う壺だ。彼女の時間稼ぎに馬鹿正直に付き合っていては世界は終わってしまう。
当然、それを理解しているアダムは迎撃の手を緩めないままオイゲンの問いに声を張り上げる。
「できることは変わりません! 全てを突破し、リアクターを止める。これしか道はない!」
「チッ、簡単に言ってくれる……」
やらなければいけない事は変わらない……だというのに状況はフリーシアによって一気に最悪へと転がったのだ。この状況にアポロは憎々しく呟いた。
剣と魔法による迎撃。単純な彼女の闘いは七曜の実力を知らしめながら次々と兵士達を屠っていく。只の兵士程度ならどれだけの数が居ようとアポロを加えたグラン達にとって最終的に脅威にはなりえない。
だが、時間制限付きとなれば別だ。
既にリアクターは起動している。今すぐにでも中枢のタワーへと押し進み始めなければ世界は終わる。賽は既に投げられているのだ。
「(このままではまずい……膠着状態ということは現状を維持するだけで手一杯ということだ)」
「黒騎士! このままでは間に合わなくなるぞ」
「黙れチビ助! そんなことはわかっている」
モニカの声に思わず言葉を荒げて、アポロは中枢タワーの方を見据えた。
兵士の壁は殊更に厚い…………当然だ。帝国軍が守るのは中枢タワーに他ならない。
突破をするだけなら簡単だ。グランにセルグ。そこへ自分も加えれば突破力は十分だ。
だがこの場を抜けたところで次に待つのは背後を守りながらの戦い。庇護対象のルリアを連れての突破は困難を極めるだろう。
リアクターにたどり着くまでルリアを守り切らなければいけない以上、背後を突かれての戦いは危険であり不利だ。現状でも手一杯に追いやられている彼らにその手段を取れるかと問えば否である。
切迫した状況が、とれる手段を限らせていた。
本来であれば損害なく到着した秩序の騎空団本隊と協力して進行していくはずだったのだ。
それを許さない状況となった事が一気に彼らの状況を不利に傾けた。
「黒騎士! 僕と一緒に一点突破だ、合わせて切り拓こう!」
「バカ者が! 突破したところでこの壁は変わらん。前後を挟まれ押しつぶされるのが目に見えているだろう!」
「ならばオレが殿を務める! グラン達は皆でタワーへと向かってくれ!」
膠着状態を打破するべく、セルグが声を上げた。
突破したグラン達の背後を守り、ここで殿を務めるというのだ。
セルグの言葉にアポロは逡巡。現状を打破するためには動くしかないのも事実であり、答えを示す様にアポロは剣を構えて答えた。
「――良いだろう。今度はちゃんと殿を果たしてもらうぞ」
「上等。今度こそお前の手は煩わせねえよ」
いつだかの撤退戦。一人残り敵を抑えると言ったセルグの情けない働きを思い出しアポロは責めるように、セルグは挑戦的に言い合う。
状況は似たようなものである。規模は桁違いだがやることは変わらない。全てを相手にとって全てを抑え込まなければいけない状況だ。
「黒騎士もセルグさんも! 何を言っているんですか!」
ジータが声を荒げた。
多勢に無勢で防戦一方となっているこの戦力差を一人で引き受ける。
これほど無理だとわかっていることもないだろう。セルグの案は捨て身の作戦に等しい。
「ジータ、この状況でオレの気遣いをしている余裕は無い! 急がなければ全てが終わるんだ。アダム、こいつらを任せたぞ!」
「――承りました」
状況を理解しているアダムに反論はなかった。僅かな沈黙の後に答えを返したアダムは、オルキスとルリアを抱え込む。
「お二人は私が。皆さんは突破に集中してください」
「ちょっとセルグ! ふざけた事言ってんじゃ――」
「大丈夫だゼタ。私も一緒に残ろう。リーシャが来たら私も部隊指揮をしなければならないからな……私もここにいるべきだ。このバカ者の事は任せてくれ」
ゼタの声を遮り、モニカがセルグの隣に並び立った。
確かに秩序の騎空団の本隊が来た時の事を考えれば、モニカも残った方が良いだろう。
だがそれは、死地となるこの場にセルグだけでなくモニカをも置いていくことになる。
思わぬ流れに巻き込む気がなかったセルグと、心配を隠せないゼタとヴィーラはモニカに詰め寄った。
「おい、まてモニカ。ここはオレだけで――」
「モニカ……本当に大丈夫なのですね?」
静かに問いかけるヴィーラ。対するモニカはそれに自信たっぷりに答える。
「万全の状態の私を見たことはないだろう? 悪いが君達相手でも十分に渡り合えるくらいには強いつもりだ――任せてくれ」」
忘れてはいけない。彼女は味方の協力があったにせよ七曜の騎士アポロの捕縛に一役買った人物だ。
そんな彼女が弱いわけはない。
「わかりました……お二人とも、覚悟してください。絶対にやられることは許しませんので」
「あーもう!! 結局無茶ばっかりじゃないのよ! いい、リーシャが着いたら必ず追いかけてきなさいよ! やられてたりしたらぶっ飛ばすからね!」
静かなヴィーラと呆れた様子のゼタ。二人の承諾の言葉で動きは決まった。
「またそうやって一人で…………どうしてわかってくれないんですか」
小さく不満を漏らすジータも、押し黙ってセルグを睨みつけるだけでそれ以上何も言うことはなかった。
やるべきことが定まり、グラン達は一度集結する。
「ゼタ、ヴィーラ。二人も前衛だ。黒騎士とグランと共に押し進め!」
「小娘共は魔法で突破の援護をしろ。特訓の成果を見せてもらうぞ!」
「アダム殿は中央に。私とロゼッタが後方を守ろう。オイゲンとラカムは適宜後方の援護を」
一斉に走り出した一行は、押し寄せる兵士を迎撃しながら陣形を整える。
戦闘を走るのはグランとアポロ。
兵士の壁を前にしてもその足をは止まることはなく更に加速していく。
あわやそのまま突撃かと言ったところで、彼らの頭上にセルグが飛び上がった。
「そのまま走れ! 絶刀招来――天ノ羽斬!!」
放たれた巨大な斬撃が兵士の壁をこじ開ける。
打ち砕いた壁の隙間を崩す様に、グランとアポロが飛び込み、次いでゼタとヴィーラが切り抜けていく。
こじ開けた壁を仲間達が次々に走り抜けたところで、最後尾についていたセルグとモニカは反転。追走しようとする帝国軍の前に立ちはだかった。
最初の一団を振り向きざまに斬り捨てると二人は一息つくように体の力を抜いた。
「全く。お前も物好きだな……こんなオレと一緒に残るなんて」
「そうかもしれないな。まぁお主を好きになった時点で物好きなのは分かっていただろう?」
「――――違いない」
小さく笑う二人。
互いに死地に近いこの状況でありながらやられる気など微塵もない。
半日程前に誓ったばかりなのだ。
”共に明日を迎えよう”と
「悪いが面倒は見てやれないぞ……今からオレは昔に戻るんでな」
「そんな気は更々ないさ。昔に戻るというのなら私もだよ……」
感情が呼び起こす、戦いの意思。思考を置き去りにした意識を捨てるような戦闘の集中状態。グランが見せたそれはセルグにも体験がある。
グラン達と出会う前、一人星晶獣と戦うときはいつもそれであった。
そしてモニカもまた、強者として戦場に立つときは同じような状態に陥ったことがある。
碧の騎士と轡を並べ、共に駆けた日々は彼女の全盛期と言えよう。
振り返り遡る
戦士としての熟練の差というべきか、二人にはそれだけで準備が終わる。
小さな鍔鳴りと共に二本の刀が鞘へと納められる。
意思の力がもたらした今この時だけの全力状態。万全の精神状態とは様々な条件が整って初めて起こりうるものだが、それを二人は自らの手で手繰り寄せた。
最初から全力……高まる光のチカラを愛刀へと蓄え、二人は帝国軍へと向かって走りだす。
「おぉおおおおおおお!」
「はぁあああああああ!」
押し寄せる
――――音が聴こえた
極光の斬撃……十八番の奥義が放たれようとする刹那、セルグは一つの音を聴きとる。
それは戦場となったこの場において当たり前に聞こえるはずの渇いた銃声。だがそれはなぜかセルグにだけ綺麗に届き、なぜかセルグはその音に動きを止める。
聞こえた瞬間に脳裏をよぎる記憶。
あり得ないと思いつつも聞き間違いのはずがないと、己の心は懐かしき音に逸った。
兵士たちは目の前まで迫っている。急に動きを止めたセルグによってモニカも動きを止め、焦ったようにセルグへと口を開こうとした。
だが、モニカが視線を向けた先、セルグは戦場であるにもかかわらずに隙だらけで呆けている。
そんな隙だらけのセルグが見つめる先に、音の出所たる存在はそこにいた。
「フラメクの雷よ、
聞こえた声は、続く爆音と閃光にかき消された…………
如何でしたか。
リーシャの出番? ごめんなさいもう少しお待ちください。
モニモニの活躍? ごめんなさいもうしばらくお待ちください。
お待ちください続きで申し訳ないですが、ラビ島編から今回の流れは決定事項でしたので次回は彼らのターン。
イベントでも大活躍だった彼らの活躍にご期待ください。(さすがにイルザさんは組み込めませんでした)
それでは、お楽しみいただければ幸いです。