granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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正月気分はここまでです(ヴィーラ風)

ということで初勤務前の最後の投稿。
どうぞお楽しみください。


メインシナリオ 第51幕

 彼にとって、それは重荷以外の何ものでもなかった……

 いや、人形である以上重荷に感じるというのもおかしな話だ。

 だが人形如きに国の行く末を任せるというのは些か問題であるというのが当時からの彼の懸念であった。

 

 

 ”エルステの未来を守る”

 

 

 それが彼に与えられた命題。

 彼の全てはその為に作られ、彼の生はその為に使われる。

 幾星霜の年月を刻んできた歴史ある国を、未来永劫栄えさせるために……決して滅びの時を迎えることが無いように。

 だから彼には寿命に縛られることのない肉体が幾つも用意され、いざというときのための戦闘力も備えられた。

 

 だが――――

 

 

「必ず取り戻すのです……あのお方とエルステの全てを。貴方にも協力してもらいますよ」

 

 とある星晶獣による暴走。起こった一つの事故がエルステの全てを変えた。

 付き従うべき存在を失い、後任となった彼女は彼の命題とは別に嘗てのエルステを取り戻すために奔走を始める。

 禁忌に手を染め、災厄を追い求め、遂に見つけたのは全てを無に帰す禁断の星晶獣。

 狂気に染まった彼女の計画は、いつしか止められない所にまで来ていた。

 

 人形である自分に一体何ができたのか。

 人形であるが故彼女を止めることは彼にはできない。進言は幾度となく受け入れてもらえず、彼女を止めることはできなかった。

 その先にあるのは破滅以外の何ものでもないというのに、それを知っている己はそれを手をこまねいて見ていることしかできない。

 自室にて後悔に染まる彼の下に、ある人物が訪れたのはそんな時だった。

 

「君も難儀だねぇ。人形でさえなければ彼女を殺して使命を果たすことも可能だったろうに……そのせいで僕も全然面白くなくなっちゃったよ」

 

 軽い口調。軽薄な笑み。人形でありながら自然とこの男には視線が鋭くなってしまう。

 立場的にはこの男にそんな視線を向けるのは間違いであるが、彼の行動はエルステどころか世界の崩壊すら楽しむような気配があった。

 己にかけられた制限がこの男には働かない事もあって、腰元の剣を探るように手を動かした。

 

「やめなよ。ここで僕を殺したところで、彼女は止まらない。君がすべきことは僕すらも利用して彼女を止める事じゃないのかな?」

 

「――既に私では止められないところまで来ています。説得も強行もできない私に今更何ができるというのです」

 

 人形らしからぬ落胆を見せて彼は剣にかけた手を戻す。手を組んで俯く姿は既に諦めを雰囲気を醸し出し、男はそれを冷めた目つきで見つめる。

 

「それじゃ面白くないんだよね。すんなり彼女の計画が進んでは面白くないだろう。だから君にはもう少し頑張ってもらわないと……ということで朗報だよ。――――もうすぐ、彼らが来る。秩序の騎空団を引き連れて、彼女の計画を止めるためにね」

 

「何?」

 

「アレの完成度から考えてタイミングはギリギリ。この世界を守りたいなら彼らに手を貸すがいいさ。彼女を止めることは君にできなくても、彼らに協力することはできるだろう。あとは彼ら次第だけど……まぁそれでも五分五分だろうからね」

 

 疑問が駆け巡る。

 世界の破滅を見たがるような言動。エルステをその先兵とするような思考が垣間見えたはずの男が告げてくる言葉に、彼は怪訝な表情を浮かべる。

 今の言葉は、いうなれば世界を救うための助言ととってもいいだろう。まさかの人物からのまさかの言葉に彼は惑いを覚えた。

 

「貴方はこの世界の破滅が目的ではないのですか? 一体何故こんなことを……」

 

「言ったはずだよ。この世界を楽しもうって……僕としてはこの世界がどうなろうとどうでもいいんだよ。ただその過程にこの世界だけの面白さがあればね。――さぁ、抗って見せてよ。定まりそうな破滅への運命ってやつにね」

 

 言いたいことだけ告げて、男は部屋を退出していく。正確には扉へと歩むことなく光に包まれて消えたわけだが、今の彼にそんなことを気にする余裕は無かった。

 まだ、間に合うのか……? すべてが本当だと鵜呑みにすることはできないが、あの男がもたらした情報は信憑性も確かである。

 報告からアガスティアに進行することは予測できていたし、秩序の騎空団が動くことも読めていた。

 だがそれでも、一騎空団と秩序の騎空団が手を組んだところで、大帝国たるエルステの軍事力に適うわけがない。兵士の数も当然ながら、本国であるアガスティアには大量の魔晶に因る戦力があるのだ。

 

「いや……それでも彼らはここまで、彼女の計画を阻み続けていた。本当であれば既に彼らは彼女によって命を落としていたはずが……」

 

 そうだ、彼女の計画は順風満帆とはいかなかった。それこそ一時は彼女が捕らえられ計画が潰える可能性まであったのだ。

 それも全ては、件の騎空団によるもの……

 

 人形である彼に希望の光が灯った気がした。

 

「良いでしょう。全てはエルステの未来の為に……私もまた、彼女に抗い続ける」

 

 可能性はまだゼロではない。できることがあるのなら抗わなければいけない。

 でなければ、彼が造り出された意味がない。存在する意義も……

 

 自室を出た彼は、騒がしくなり始めた帝国の首都を見てその足を早めるのだった。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 警報が鳴り続け、戦闘の音が蔓延するアガスティアの帝都においてそこだけ静かな空気が流れていた。

 

 

「貴様……今何と言った」

 

 視線鋭く睨みつけるアポロ。その視線の先にいるのは帝国軍大将アダム。

 一人でグラン達を迎え撃つかと思われたアダムに警戒するのも束の間、アダムからは驚くべき言葉を告げられた。

 

 

「今申し上げた通りです……貴方たちの手で、エルステ帝国を滅ぼして欲しい」

 

 

 再度投げられた言葉に聞き間違いという可能性は消えた。

 帝国軍大将が、今グラン達にその帝国を滅ぼせと告げてきたのだ。

 

「奸計にしては出来が悪いな……小僧共、信用するな。こんな馬鹿な話あるわけがない」

 

「待ってくれ黒騎士。嘘をついているようには見えない……一人で来たことも含めて、決めつけるには不審な点が多すぎるよ」

 

「つってもよ、相手は帝国の大将さんだぜ。フュリアスやガンダルヴァを見てきた身としては、はいそうですかって信じらんねぇだろう」

 

 殺気だつアポロを抑えるグランと、それを逆に制するラカム。

 どちらの言うことも一理あり、他の仲間達は動揺に口をつぐむ。

 

「信じられないのは百も承知です。ですが、私にはもう貴方達に協力を仰ぐしかありません」

 

 視線を下げ、頭をわずかに下げる。敵を前にして行うことではない所業に、僅かにアポロが動揺する。

 そんな最中、静かで落ち着いた声が彼らの中を通り過ぎた。

 

「アポロ……アダムは嘘をつかない」

 

 誰もが答えを出せないこの状況で、一石を投じたのは後ろから歩み出てきたオルキスであった。

 グラン達が止める間もないまま、前に出てきたオルキスは、アポロとアダムの間まで歩いて止まった。

 

「人形、どういうことだ?」

 

「わからない……でも私は知っている。アダムは嘘をつけないって」

 

「答えになっていないぞ! 早くそいつから離れろ」

 

 声を荒げるアポロを余所に、アダムはオルキスを見つめた。

 その雰囲気には、戦場に似つかわしくない優しい雰囲気が垣間見えた。

 

「(貴方は、全てを失って尚……私を覚えておいでなのですか?)」

 

 よぎる思考と共に、アダムはオルキスへと歩み寄る。焦るアポロやグラン達を尻目にアダムはオルキスの前で跪いた。

 

「これは、今の貴方様にするべきではないのかもしれません。ですが……これが今の私が示せる最大限の証です。どうか、話を聞いていただきたい」

 

「大丈夫……私は信じるから」

 

 それは忠誠の証。王へと尽くす忠義の姿勢。

 突如見せられたアダムの姿に、グラン達は面食らう。

 

「――黒騎士。私は話だけでも聞いていいと思う。我らと帝国の戦力差は正直なところ大きい……嘘か真かわからなくても今ここで得られるかもしれない情報を捨てるのは愚策だろう」

 

「その点は同感ね。少数精鋭の域を出ない私達がフリーシア宰相を止めるためには、情報も協力も欲しい所よ。ここで大将さんが味方に付いてくれるのならこれ以上心強い事はないわ」

 

 モニカとロゼッタが、賢明な判断を下す。

 一時の感情や疑念に惑わされるより、得られるかもしれない実を取るべきだと。

 それが必要なくらいにはアガスティアでの戦いは熾烈を極めるのだ。

 

「黒騎士さん……私はオルキスちゃんを信じます。オルキスちゃんが信じるのなら、私もアダムさんを信じます!」

 

 ルリアも加わったところで、アポロは逡巡。

 彼らが言うことはわかるが、フリーシアの狗であるはずのアダムが本当に信じられるか。

 この疑念は、帝国最高顧問となっていたアポロにしかわからない疑念であった。

 

「――――信ずるに足る証拠を見せろ。手放しに信じるような事……私はできん」

 

「ありがとうございます。それではこれでどうでしょう」

 

 譲歩を見せたアポロ。それに対しアダムは予想していたのか間髪入れずに大きな袋をアポロへと放り投げた。

 

「これは……私の剣と鎧」

 

 中に入っていたのは、アポロが黒騎士たる証拠。鈍く輝く漆黒の鎧と七曜たらしめる一振りの剣”ブルトガング”。

 

「貴方の私室は帝国中枢部。取りに来るのは困難だろうとお持ちしました。これで信じていただけないですか?」

 

「貴様……余計なことを。スツルムとドランクに無駄足をさせてしまったな――良いだろう、話を聞かせてもらう」

 

 己の装備を持ってきた。それだけであっさりと手の平を返したアポロにグラン達は僅かに呆気にとられた。

 鎧と剣をもってきただけでそんなにも信用に足るのか、甚だ疑問である。

 だが、そんなグラン達にアポロは装備を整えながら小さく笑うのだった。

 

「グラン。貴様も同じだろう? 剣一振りでチカラは大きく変わる。私にとってこの鎧と剣を持つということは、そういうことだ。この男は私に最大級の手土産を持ってきたんだよ。尤も、私の場合は貴様の比ではないがな」

 

 鎧を着込み、腰に剣を刺したアポロ。それは七曜の騎士として完成された状態。

 天星器に勝るとも劣らない七曜の一振りを握り、それを最大限に使いこなせるアポロの実力は、ここまでジータの予備の剣で戦ってきたアポロと比べるべくもない。

 アダムが持ってきた手土産は、アポロにとって信ずるに足る最もわかりやすい証拠であった。

 

「期待させてもらおう……大将であるお前が何を語るのか。私達にとって喜ばしい情報なのだろうな?」

 

「はい……全てをお話しします。フリーシア宰相の計画の全てを……そしてこの世界を守る方法を」

 

 そう言って、アダムは己が知るフリーシアの計画の全てを語り始める。

 

 

 

 フリーシアの最終的な目的はアーカーシャによる世界の改変。

 この空の世界に星の民が存在していた記録を抹消し、空の民だけの空の世界を取り戻す。

 星の民に奪われた多くを取り戻し、嘗て栄華を極めていたエルステ王国を取り戻すことであった。

 だが、アーカーシャはそれ単体では起動できない。起動するには鍵となるルリア。そして管理者であるオルキスの存在が必要不可欠だった。

 計画の完遂には三つの要が必要……だが、オルキスを取り戻そうとするアポロや、ルリアを守るグラン達を考えるとそれらを揃えることは困難を極める。

 そこでフリーシアは代用できるとあるものを建設した。

 それが――

 

 

「リアクター……?」

 

 一同がアダムの告げた単語に疑問符を浮かべた。

 

「はい……ルリアとオルキス。その二つの要を必要としないまま強引にアーカーシャを起動する。その為に必要な星晶のエネルギーを、魔晶とあるエネルギーから変換するための設備です」

 

「ということは何か? あの宰相さんは俺達が何をしようとアーカーシャを起動できるってわけか?」

 

「その通りですオイゲンさん。フリーシア宰相の計画はもう、リアクターが起動した段階で最終段階となるでしょう。そしてリアクターの完成は間近……既にアーカーシャの起動は目前に迫っております」

 

 全員が息を呑んだ。

 可能性が無いとは思っていなかったが、ルリアとオルキス……その二つを確保している以上、まだ状況は切迫しているとは考えていなかった。

 だが、アダムが告げたのはもはや猶予はないという現状。グラン達に冷や汗が伝った。

 

「急いでアーカーシャを破壊しに行こう。ジータ達が戻るのを待ってられない……」

 

「落ち着けグラン。こうして話をしに来たんだ……まだ間に合うのだろう?」

 

 焦るグランを抑え、アポロはアダムへと促す。

 ギリギリであるのならここで悠長に話に来る事もないはず。それに彼らはまだ、アダムが言った世界を守る方法というのを聞いていない。

 

「はい、まず先に伝えておかなければいけません。彼女の計画を阻止するにはルリア……貴方のチカラが必要不可欠です」

 

「え……私ですか?」

 

「貴方が持つ星晶獣を使役するチカラ。リアクターのコアとなる部分に用いられているのはとある星晶獣なのです。

 その名は、”デウス・エクス・マキナ”……リアクターが変換する星晶のエネルギーの元。ヒトの精神に干渉する能力を持つ星晶獣です」

 

「デウス・エクス・マキナ……」

 

「ヒトの精神って、一体どういうことだ?」

 

 ルリアの呟きにグランが続く。アダムの告げる新たなる事実がをしっかりとかみ砕き、飲み込んでいかなければならない。

 冷静に思考を回すグランの問いに答えるのはアダムではなかった。

 

 

「母上風に言うなら魂ってとこだな。言うなれば肉体という器に詰め込まれた個人を形作る何か。そしてそれに干渉するということは、母上同様に分けたり移したりといったことができると言ったところか」

 

「セルグ!?」

 

 飛び込んできた声に驚くグラン達だが、戻ってきた四人の姿に更なる驚きを見せた。

 腹部を抑え、苦痛に顔を歪めるセルグ。あちこちに傷を作り、汚れたゼタとアレーティア。

 激戦を潜り抜けてきた様子の四人にグラン達は駆け寄ろうとするが、セルグが先に口を開く。

 

「落ち着いてくれ……イオ、治療を頼めるか。大事な話なんだろう? 誰かは知らないが、続きを頼む。オレ達は後で簡単に聞かせてもらうさ」

 

「イオさん、腹部と肩の治療をお願いします。私は艇から治療薬を持ってきますので、セルグさんはこのまま大人しくしていてください」

 

「わ、わかった! セルグ、お腹からやるから手をどけて……何で受けた傷?」

 

「銃創だ。弾はヴェリウスに取り除かせた……塞いでくれればいい」

 

「甘く見ないで。ちゃんと治しきって見せるから大人しくしてなさい」

 

 傷の具合を聞くと共にイオは回復魔法で治療に入る。セルグを横たわらせ、杖を翳すと緑色の光が優しくセルグへと降り注いだ。

 傷が癒えていく感覚に心地よさを感じながら、セルグはそのままアダムへと視線を向ける。

 

「話の腰を折って悪い。続けてくれ……」

 

「貴方のチカラも恐らく必要不可欠でしょう。あまり無理はなさらぬよう」

 

「油断して受けた傷だ……はずかしくて無理をしたとは言えないな」

 

 強者として、セルグの戦力を当てにしているのかアダムがセルグを窘めるが、対するセルグはいつも通り。無茶は今回していないかもしれないが、無理はしている。相変わらずの自重のなさにゼタは頭を抱えた。

 

「――何言ってんのよ、バカ。あれは不可抗力でしょ」

 

「わかったわかった……ほら、話が進まないだろ。続きを頼む」

 

「わかりました。では、続けましょう……彼が言ったように星晶獣、デウス・エクス・マキナの能力は、ヒトの器から精神を抜き出したり、抜き出した精神を戻したりといった能力を持ちます。

 リアクターはそうして()()から抽出した精神体を集め、魔晶を使って星晶のエネルギーへと変換。アーカーシャ起動の糧とします」

 

「……待ってくれ、人々ってことはアーカーシャ起動の為に必要なのは」

 

「そうです。一人等と生易しいものではありません……必要な精神体の数はざっと百万。アガスティアに住む人々全てを犠牲にする計算になります」

 

 百万――兵士、市民、その他この帝都に住むもの全てを犠牲にする数。

 余りの数に絶句するグラン達一行。

 

「なんて……計画だよ」

 

「簡単に犠牲と言って良い数ではないだろう」

 

 オイゲンとモニカが呻く。

 多くのヒトを率いたことがあるからか。人々の生活、一人一人に当たり前にいる家族。それらを知っている二人は、殊更この犠牲の数に対する恐怖が大きかった。

 

「ですが……その数だからこそ、まだ時間があるのです」

 

 だが、絶句する彼らを我に帰らせる様にアダムは再び口を開いた。

 

「どういうことだ?」

 

「この戦いで犠牲になる人々、巻き込まれる人々。既に生を終えた者や、老いて寿命が近い者。精神体とはいわば生命エネルギー……一人分に満たない者というのはたくさんいます。フリーシア宰相は貴方方が攻めてきた事を好機と捉えました。

 アガスティアだけではまかなえなくなるであろうエネルギーを、侵攻してきた秩序の騎空団の者達で賄う気です。リアクターの起動は完成しても直ぐではないでしょう。そして……起動しても、精神を抜き出すまでの時間は個人差はあれど決して早くはありません」

 

 これだけの壮大な計画だ。曖昧な数で事を起こすことはない。

 それはつまり、必要な数を揃えるまでの猶予が生まれる。アダムの言う通り、戦いが起きて犠牲者が出るかもしれない懸念があるこの状況こそがフリーシアの計画を止める好機であった。

 

「なるほど……本隊が来てからの起動であれば、まだまだ対処の時間はあるということか」

 

「本隊が来る前に起動してしまえば、今度はフリーシア宰相自身がもたない。先行して起動することはあり得ません。

 貴方達は帝国の防御全てを突破し、中枢のタワーへ侵入。最上階にあるリアクターの元へと向かい、デウス・エクス・マキナをルリアの手で吸収する。これが、世界を守る唯一の方法です」

 

「なるほどね……つまりは全力で全員ぶっ飛ばして、ルリアをそこまで連れて行けばいいわけね」

 

 新たに飛び込んできた声。

 聞きなれたその声は、セルグ達とは別の方から戻ってきたジータの声であった。

 

「ジータ、カタリナ……」

 

「大事な話に後れちゃったかな? グラン、後で詳しく説明して」

 

「今は余計な話は置いておこう。それで、私達はどう動けばいい?」

 

 状況はわからなくとも、とにかく行動の指針は必要だと、カタリナはすぐに問いかけた。

 そんなカタリナの問いにアダムも間髪入れずに答える。

 

「貴方達は準備を整えてください。タワーまでは私が案内します……大将故、帝国のつくりは把握しております。立場を利用すれば侵入も容易でしょう。後は、彼女の抵抗がどれだけ――」

 

 別行動であった仲間達も揃った。

 すぐさま行動に移るべく立ち上がって今後の動きを説明するアダム。それを漏らすまいと全員が耳をそばだてる中、彼らはまたも別の声を聞く。

 

 

「なるほど……貴方はエルステを裏切るのですね」

 

 

 それは、アガスティア最深部で待ち構えているはずのフリーシアの声であった。

 

 

 

「フリーシア……いつの間に」

 

 グラン達は即座に警戒態勢。

 治療を受けている途中のセルグを守るべくゼタとアレーティアはその身を盾にしてセルグを隠した。

 

「宰相……何故ここに?」

 

「監視をつけないと思いましたか? 貴方が動くのは予測済みですよ。そこの者達と接触した時点で貴方は国家反逆罪で手配しています。貴方の権限は消え去り、タワーの侵入は困難でしょう。

 そして……」

 

 おもむろにその手を上げたフリーシア。

 それを合図に一斉に姿を現す夥しい量の兵士達。

 戦いとは数だ……圧倒的物量はそれだけで戦力である。そういわんばかりの兵士の壁に一行は僅かに気圧される。

 

「既に包囲は完了しました……防衛網を無力化したくらいで良い気になっていたようですが、所詮は浅知恵。のんびりこんなところでお喋りをしていればこうなるのは自明の理でしょう?」

 

 兵士達の中にちらほらと見える魔晶兵士。ずっと背後には砲撃用のアドヴェルサ。

 正しく包囲網は完璧であった。

 

「あぁ、それからもう一つ……既にリアクターは起動しております。アーカーシャの起動は間近……もはや止めることは不可能です」

 

 一行の表情が驚愕に染まる。

 たった今アダムによって見えてきた希望がいともたやすく消え去った。

 既にリアクターが起動しているということは、そこにはもうアーカーシャ起動の算段がついていることを示す。

 今からこの並みいる戦力全てを薙ぎ払い中枢タワーへと向かう時間はあるわけがなかった……

 

 

「――アダム、そこをどけ」

 

 全てを察したアポロが動く。

 間にいたアダムを除けるとともに、兵士たちの間を抜けていこうとするフリーシアを強烈な殺気と共に見据える。

 

「愚かな、態々その身を晒しにくるとは……ここで終わりにしてくれる!!」

 

 最後の手段に近いそれは、今この場でのフリーシアの抹殺。彼女をここで仕留め、全ての思惑を潰す。

 わざわざ目の前に出てきたフリーシアをおめおめと逃すほど、アポロは甘くもなければ、できない程弱くもない。

 

 ブルトガングに光が宿る。これまで四つの閃光に彩られることしかなかったアポロの剣にいま、大きな闇の光が灯る。

 彼女が真に扱う属性。煌めく漆黒の闇が剣に纏い、アポロはそれをフリーシアへと叩きつけた。

 

「黒鳳刃・月影!!」

 

 生命力の塊であった創世樹の咢さえ粉々に砕いたアポロの奥義が炸裂する。

 剣に付与されたチカラが解放され、空間ごと葬るような爆発を起こし、アポロとフリーシアは爆炎の中に消えた。

 

「アポロ!!」

 

 オルキスが叫ぶが、グラン達は心配を見せていない。

 彼女の気配は健在であるし、兵士達に動きもなかった。

 攻撃は()()()()()()()()()()()……

 

 

「なん……だと」

 

「クックック……ハァッハッハッハ! バカが!!」

 

 だというのに、聞こえるのはアポロの驚愕とフリーシアの嘲り。

 煙が晴れて見えたのは、障壁を展開しアポロの攻撃を正面から受け止めたフリーシアの姿だった。

 

「思った通りでした……ポンメルンはいい仕事をしてくれましたよ。魔晶一つで七曜の騎士にすら並べる……如何ですか? 七曜などとバカげた称号に踊らされ、相手の実力を見誤った感想は……もはや貴様であろうと私の敵にはなりえない」

 

 反撃の魔力砲。ザンクティンゼルでのフュリアスを彷彿とさせる砲撃にグランがアポロを救いに駆けだす。

 ギリギリでアポロを取り押さえ、砲撃は背後の街へと着弾。大きな爆発を起こし街の一角を崩した。

 

「攻撃力も上々……問題はなさそうですね。あとは……」

 

 魔晶によって七曜に対抗できることは知らしめた。もはやアポロなど恐れるに足りない。

 それを見せられた兵士達の士気の向上はすさまじい。

 七曜の騎士という名前は、それほどまでに大きく、アポロの攻撃を跳ねのけたのはそれほどまでに絶大な効果を発揮する。

 フリーシアは兵士たちの元へと歩き去ると去り際に高らかに告げた。

 

 

「エルステの兵士達よ! これまでの屈辱に終止符を打ちなさい。奴らを撃ち払い、我が国に勝利をもたらせ!」

 

 

 返す言葉は言葉ではない。

 雄たけび、叫び、銃撃、砲撃。

 兵士たちの全ての戦意を形として……

 今、帝国軍が一つとなり、グラン達にその矛先を向けた。

 

 

 




如何でしたでしょうか。

アダムについては多分な自己解釈が混じっています。
それほど違和感は出てきていないと思いますが、原作でアダムが作られた時期というのが明記されていたらご指摘いただきたいです。

もはや原作の流れは影も形もないですが、重要な部分に改変は加えていないつもりです。
そこらへんももしご指摘在りましたらお願いいたします。
更に更に、アポロの武器がブルトガングであることについては目を瞑っていただきたいです。

それでは。楽しんでいただけたら幸いです。

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