granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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日常編が難産でこっちは並行して進んでおりました。
早々に更新いたします。

最終章は完全にオリジナル路線。
どうぞお楽しみください。


メインシナリオ 第49幕

 帝都アガスティア。

 エルステ帝国の本国にして中枢。大きな建物が幾つも並び、帝国の象徴とも呼べる中枢のタワーが中央に鎮座する島である。

 島の防衛には幾重にも重なった迎撃網と戦艦が配備され、難攻不落の要塞と化した島は攻め入るには非常に困難である。

 

 そんなアガスティアの中枢タワーにて、エルステ帝国の上層部が一堂に会していた。

 

 

「――ってのがまぁ、事の顛末ってわけだ」

 

 報告書を手に口を開いているのはエルステ帝国中将ガンダルヴァ。

 アマルティアでの戦い。グラン達と激闘の末敗北し撤退してきたことを報告していた。

 

「要するに俺様は負けてきたわけだ。あのガキ共が率いる騎空団にな。ついでに言うなら秩序の騎空団にも……」

 

 苦渋に塗れた表情を浮かべ、ガンダルヴァの顔がゆがむ。

 再戦となったセルグとの戦いも、復讐ともいえるリーシャとの戦いも。その両方を結果的には敗北で終えてきた。

 負けるつもりも負ける要素もなかったはずのガンダルヴァにとって、それは理解及ばぬあり得ない敗北。

 それをこうして自ら報告する事など屈辱の極みであった。

 

「それではフュリアス少将。次の報告を」

 

 フリーシアの声で報告会は先に進む。次なる報告者はザンクティンゼルでグラン達と戦ったフュリアスである。

 

「はいはい。それで僕が今度はアイツラとぶつかったわけね。辺境でつまらないド田舎で……せっかく陛下からもらった魔晶で楽しい気分だったのにさぁ……あのトカゲのチカラが僕の魔晶を打ち砕きやがって」

 

 こちらもやはり、苦渋に塗れた顔で報告をする。

 無敵と思えた魔晶のチカラ。それを不可解なチカラで打ち消されもはやこれまでと言ったところをロキに救われた。

 無様を晒し、醜態を晒し、何一つ結果を残せなかったフュリアスの苦渋はすさまじいものであった。

 

「その件については研究班と再度情報を共有し詳しく検討する必要がありそうですね。最悪は魔晶に因る戦力を全て無力化される可能性もあります。急がせましょう――少将からは以上ですね。後は……」

 

 フリーシアが別の人物へと視線を向ける。

 その先にいたのはドラフとそう変わらない程体格の良いヒューマンの軍人。

 力強い体躯とやや細い目つき。将校らしい白を基調とした厳かな服装からガンダルヴァやフュリアスより高い位の軍人かと思われた。

 

「こちらからは……何もありません」

 

 短い報告を終え、沈黙に戻る彼から視線を外しフリーシアはこの場の最高権力者に向き直る。

 

「報告は以上になります――――陛下」

 

「うん、ありがとうみんな。これで状況はよくわかったよ」

 

 いつも通りの薄ら笑いを浮かべ、大きな椅子に座るのはエルステ帝国の初代皇帝となったロキ。傍らに変わらずフェンリルを従え、報告してくれた上層部の面子を見回す。

 

「僕のエルステ帝国は、想像以上に惨憺たる状況のようだね……みんな不甲斐ない事この上ない」

 

 報告で歪んでいた一同の表情がさらに歪む。

 使えない。情けない。そんな落胆を目の前で見せられたのだ。何も思わぬわけはないだろう。

 

「どうする? 誰か言い訳でもしてみる? 面白ければそれで僕は構わないよ」

 

 ロキが問いかけるもそれに答える者はいない。言い訳などできようはずもないし、そんなことをしても結果は何も変わらない。

 

「何だ……誰もしないんだ。それはそれで面白くないんだけどなぁ……面白いっていうのは何にも勝る大事な目的だって言うのに。ねぇ、フェンリル?」

 

「あぁ? 何言ってんだロキ。オレがそんな事知るかよ」

 

 飼い主のいきなりの質問にぶっきらぼうに応えるフェンリル。相変わらず訳が分からない奴だと呆れも混じっているがそれをロキが気にする様子は無かった。

 

「そうだろうね……君はそれでいい。君たちはそれでいいんだ。全てを知っているのは僕だけで良い」

 

 自らを神と呼べるだけの自負。全てを知り、全てを見るのは己だけと言える傲慢がロキから放たれた。

 

「さぁ、面白くなってきたよ。彼らは間違いなくここを攻めに来るだろう。君たちはそれをどう対処するのかな?」

 

「まずは防衛戦力によって削り、地上戦力を集結。包囲殲滅を――」

 

「あぁ、そういうのは良いよ。忠誠心なんていうのは元から求めていないんだ。僕が求めているのはただ一つ……」

 

 ロキに視線が集まる。

 まるで崇められるかのようなその視線を受けながら、ロキは笑みを深めて口を開いた。

 

「手段も倫理も問わない。同じ目的なんていらない。無軌道で無秩序な各々の求める事をやってごらん。その過程で邪魔になるなら僕ですら排除してかまわない。

 今よりももっと激しく、空の世界を焼き尽くすんだ。僕がこの世界を楽しむために……ね」

 

 全てはただの遊び。ロキにとって……星の民にとって、ここ空の世界は楽しむための箱庭。

 そこに生きる者達はそれを最大限に楽しむための駒に過ぎない。

 

 そんなロキの言葉にガンダルヴァとフュリアスは嘆息し、フリーシアは小さく顔を歪め、沈黙の軍人は沈黙を続ける。

 悪意と野望と愉悦に塗れた会議室はエルステの行く先を暗示するかのように、混沌とした空気に支配されていくのだった……

 

 

 ――――――――――

 

 

 空を奔るグランサイファー。

 その甲板の上で向かう先を見つめる一行は、少しの緊張と戦闘を控えた気持ちの昂りに包まれていた。

 

 

 帝都アガスティアへの侵攻。

 アマルティアからの秩序の騎空団本隊を後ろに控え、帝都へと進行する先兵としてグラン達は先頭を走っていた。

 ガロンゾの支部にて行われた作戦会議で決まった作戦。それはグラン達少数精鋭によるアガスティア防衛網の無力化を第一段階とした秩序の騎空団による侵攻作戦である。

 船団長補佐であるリーシャが見聞きした事だけで、帝国……否、フリーシアの計画は全空の脅威であることは明白。

 秩序を守る騎空団として、ファータ・グランデを担当する第四騎空挺団は全戦力をアガスティアに向けることを決定した。

 だが、相手は帝国と呼ばれる程の軍事大国。闇雲に侵攻をしたところで被害は無為に大きくなってしまう。

 そこでリーシャとモニカはグラン達に先陣を切ってもらいアガスティアに侵入、防衛戦力の無力化を狙うことを提案した。

 グラン達に七曜の騎士アポロ。更には部隊指揮の為に戻ったリーシャに変わり、秩序の騎空団最高戦力のモニカがグランサイファーに乗り込み、過剰戦力のような面子を乗せて、アガスティアへと向かう。

 

 

 

「まさかこんな形で貴様と共に戦うことになるとはな……」

 

「私も同じ気持ちだ……だが、これ以上に頼もしい仲間もいないと思っているよ」

 

 船首で先を見据えるアポロとモニカ。互いに一度は戦い、敵対した間柄でありながら、今こうして同じ目的の為に轡を並べている。

 それが少し面白くて互いに小さく笑みを浮かべていた。

 

「後続は問題ないのだろうな? 私達が突入した後で間に合いませんでしたでは話にならないぞ」

 

「リーシャが居るのだ。その心配は無用だよ。それよりも僅か一隻の騎空挺で軍事大国たるエルステの本国に向かう私達の方がよっぽど問題さ」

 

「それこそ問題は無いな。一隻でありながらここの戦力は帝国をひっくり返せる。なんせこの私が居るのだ。心配は無用だ」

 

 万全の状態のアポロ。それはつまり全空に名を轟かす七曜の騎士との共闘となる。

 負けるわけがない。不安を覚えるはずもない。

 そんな気持ちにさせる程に、その名と強さは伝説的だ。有象無象の全てを払い、敵対する者を全てなぎ倒す。それだけのチカラを彼女は持っている。

 

「ふっ、本当に頼もしい限りだ。期待しておこう」

 

「まぁ、全てはアガスティアに着けるかどうかにかかっているがな」

 

 そういってアポロが振り返った先。甲板の一所にて話し合っているグラン達。

 防衛網からの砲撃に晒されながらグランサイファーで島に突入するための作戦会議中といったところのようだが、既にその方針については二人とも聞き及んでいた。

 提案したのは相変わらず無茶を言ってくる(バカ)だったが、その提案は予想外すぎるとともに効果的でもあった。

 

「そうだな……まぁ心配ではあるが、私達は信じてできることをやるだけじゃないか」

 

「無論だ。奴らにおんぶにだっこではさすがに格好がつかん」

 

 

 そう言ってアポロは再び先を見据えた。

 徐々に昂る気持ちが、二人にアガスティアの接近を知らせる。恐らく、そう時間を置かぬうちに作戦空域に入る事だろう。

 逸る心を抑え、二人は粛々とその時を待ち続けた。

 

 

 

「見えてきたな……」

 

「あれが、帝都アガスティア……」

 

 グランとジータの視線の先。遠目に見えてきた煌びやかな明かりの色。

 ここら辺の空域がそうなのか、周囲はまだ日中だというのにどこか薄暗く、建物には多くの明かりが灯っている。

 道標のようなその明かりはグラン達の目の前で存在を主張するように煌めき、一行は決戦の時が来たことを肌で感じ取った。

 

「往くぞお前ら! 接近を感づかれる前に一気にスピードを上げる! 掴まってろ!」

 

 ラカムが声を上げるとグランサイファーの機関部が唸りを上げる。

 まだ帝国側に動く気配はない。先手を取る為ここからは一気に接近を図った。

 

「オッサン、援護は任せたぞ!」

 

「おうよ、しっかりやれラカム!」

 

 風を受ける風車や帆の動きはオイゲンが細かく調整。ラカムは機関部の調整と操舵に集中。

 二人はアマルティアに突入した時と同じように全力で艇の動きへと集中していく。

 

 同時に、アガスティアには警報の音が鳴った。

 大きな動きを見せて察知されたようだが、先手を取ったのはグラン達。防衛準備ができる前に彼らは更なる手を打つ。

 

「セルグ、ヴィーラ!!」

 

「お願いします!」

 

 船首の先、身をも投げ出せそうな端にて立っているのは二人の男女。グランとジータに呼ばれたセルグとヴィーラの姿があった。

 

「囮がメインだ。無理はしないでくれよ」

 

「防御能力のない貴方の方が心配です。決して無茶はされませんよう」

 

「――安心しろ。全てを叩き切って戻ってくるさ」

 

「もぅ……本当にギリギリまで心配させてくれますね」

 

 並んでアガスティアを見つめる二人は、互いに相手を想いながら、それぞれの相棒を呼びだす。

 

「ヴェリウス!」

「シュヴァリエ!」

 

 互いに主の元へと現れたヴェリウスとシュヴァリエは各々の主へとその身を捧げた。

 セルグはザンクティンゼルのヴェリウスよりチカラを受け取り、分身体との軽い融合によって翼を得る。

 シュヴァリエのチカラを身に纏うヴィーラは、アルビオンの時に近い白の衣装へと変わる。その手に持つのはシュヴァリエのチカラの結晶ディヴァインウェポン。

 

「行くぞ!」

「はい!」

 

 嘗ては向かい合い命を奪い合った白と黒の光が、向くところを同じにして再び飛翔する。

 

 

 終幕への戦いが今、幕を開けた。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 けたたましいと表するしかない警報の音が鳴り響く中、防衛部隊の隊長である男が声を張り上げた。

 

「全砲門を稼働させろ! 防衛戦艦は出港を急がせるんだ! 敵は一隻、集中砲火で仕留められる、急げ!」

 

 部下達に指示を出すも、その動きは芳しくない。

 突然に過ぎる事態で防衛の準備は全くできていなかった。火砲がまともに稼働する頃には、接近中の騎空挺はかなり距離を縮めているだろう。

 焦る彼に更なる、火種が舞い込んでくる。

 

「隊長! 砲門が……砲門が次々と破壊されています!?」

 

「何!? どういうことだ!!」

 

 稼働させようとした砲門が破壊されている。

 接近中の騎空挺には武装らしき武装は積まれていないことを確認しているし、攻撃を受ける事などありえないはずだった。

 

「飛翔する小さな敵勢力を確認しています。恐らくは、敵の兵器かと」

 

「バカな……一体何だというのだ!? そんな小型の兵装で砲門が次々と破壊されるなどあるわけが――」

 

「隊長、奴らは……星晶獣を従えています! 砲撃が通りません!」

 

 次々と頭を悩ませる自体に隊長である彼の思考がパニックに陥る。経験にあるような簡単な事態ではない。

 何をするにも先手を打たれたような敵対勢力の動きに、どうするかを見いだせずにいた。

 

「くっ!? 砲門を潰す謎の兵器に、砲撃が通らない騎空挺だと……こんな事態は想定されて――」

 

 

「司令塔はここか……ヴェリウス、良く見つけてくれた」

 

 ”我からすれば造作も無い事よ……お主のおかげで索敵能力は飛躍的に上昇したのでな”

 

 

 

 そんな彼の元に届いた落ち着いた声。

 

「空を奔る……ヒト?」

 

 この事態には不釣り合いなその声が聞こえた瞬間。彼はその存在をはっきりと認識する暇もないまま光に包まれその意識を闇に落とした。

 

 

 

「ヴィーラも無事なようだな……グランサイファーは?」

 

 ”安心しろ。砲撃に晒されているお主よりは幾分かマシな状況だ”

 

 身に迫る砲撃という脅威をヒラヒラと躱しながら、セルグは次なる得物を狙う。

 ヒトという騎空挺と比べて小さすぎる的が騎空挺よりも高速でさらには高機動を以て空を奔る。砲撃など狙いをつけられるはずもなく、ただ飛翔するだけでその射線を躱せるセルグとヴィーラは、帝国にとって悪魔に等しき存在で在ろう。

 緊急事態を受けて出港しようとしている戦艦に向けて、セルグの全力の一閃が無慈悲なまでに巨大な戦艦に致命傷たる傷を作り、航行不能にまで陥らせる。

 逆側では、イージスマージによってすべての砲撃を完全防御しながら、次々とシュヴァリエのビットで砲門を潰していくヴィーラの姿があり、セルグは安心と戦慄を覚え息を吐く。

 シュヴァリエを纏うヴィーラは正に小さな要塞。砲撃などで落とされるはずもなく、その戦果は圧倒的であった。

 

「負けてはいられないな……」

 

 ”飛翔魔法を我も加えよう。自由に飛ぶがよい”

 

「助かる……行くぞヴェリウス!」

 

 再び次なる獲物を見据え、セルグとヴェリウスが飛翔する。

 細かい砲門を潰すのはヴィーラに任せ、セルグはできるだけ注意を引き、その身を砲撃の雨に晒し続ける。

 そのまま戦艦を幾つも狙い、手を出しては次へと向かう。

 囮として、次々と注意を引くことでセルグはグランサイファーの安全を確保しようと動いていった。

 

 

 

 

 

 セルグとヴィーラが飛び立ったグランサイファーの甲板で、一行はいよいよ気を引き締めて戦う準備に入る。

 既にセルグとヴィーラは砲撃の雨に晒されながらずっと先で戦闘を始めている。

 直にグランサイファーもその最中に飛び込むだろう。

 

「いいかお前ら! アガスティアの街中に突撃するまで砲撃に耐える時間は約5分ってとこだ。その300秒を何としても守り抜いてくれ!」

 

 島との距離、砲門の稼働具合。そこからラカムが予測した時間は5分。

 その間をグランとジータのファランクスやカタリナのライトウォール、ルリアのシルフといった防御障壁。

 ゼタの炎やロゼッタの茨による防御。その他皆による砲門への迎撃で耐え忍び、アガスティアへと突撃する。

 街に降り立てば砲撃による脅威は無くなる。そうなればあとは白兵戦だけでとなり、それこそ彼らの真骨頂で在ろう。

 突撃して内側より防衛網の無力化をすれば、秩序の騎空団本隊が到着できる。

 

「グラン、ジータ、カタリナ、ルリア! 守りは任せたぜ!」

 

「あぁ」

「任せて」

「無論だ」

「やります!」

 

 四者四様の答えを聞いて、ラカムは砲弾飛び交う空域へとグランサイファーを飛び込ませる。

 仲間達に頼り切るつもりはなく、風の向きや砲門の場所。様々な要素を視界に捉えながら、グランサイファーが狙いにくくなるように巧みに艇を動かす。

 細かな挙動の変化だけで遠距離での砲撃は大きく狙いが難しくなる。改修されたグランサイファーが、最高速を維持したまま、小さな動きを交えてアガスティアへと接近していった。

 

 視界に入る砲撃の瞬間。

 

 火薬が爆ぜた光と音が鳴った瞬間にラカムはそれを察知して寸前の回避をして見せた。

 

「くっ!? 次は避けらんねぇ、頼むグラン!」

 

「了解!」

 

 回避行動の先を狙われたところでラカムは素直にグランへと援護要請。即座に張られた光の障壁が砲撃を防いだ。

 

「上下からの砲撃は視認し辛い! ジータ、カタリナ。上手く防御してくれ!」

 

「わかりました」

「任された!」

 

 視界に入りにくい上下からの砲撃はジータとカタリナがきっちりと抑え、イオとアポロが魔法による迎撃に回る。

 グランとルリアはラカムと意思の疎通をしながら、的確に前方から押し寄せる砲撃を防いでいく。

 だが、たった一隻に集中する砲火。その全てを防ぎ切れるわけもない。

 

「マズイ! 一つ当たるぞ!」

 

 切羽詰まったラカムの声に仲間達が衝撃に備える。

 次いで来たるは、大きく艇体を揺らす衝撃。僅かに逸らした砲撃がグランサイファーの最後部を掠めてその艇体の一部を破壊していった。

 

「んやろう! せっかくノアが作ってくれたこの艇を壊しやがって!」

 

 二度喰らって溜まるかとラカムが更なる奮起をするとともに、仲間達も気を引き締めなおして防衛を続ける。

 残りは半分と言ったところか。接近するほどに砲撃の密度は増すだろう……ここからが正念場であった。

 

「ドランク! 牽制を仕掛けるぞ。奴らに己の命が握られてることを教えてやれ!」

 

「はいはーい! 任せてってね」

 

 僅かな形勢の不利を悟り、アポロとドランクが動く。

 超長距離からの魔法による攻撃。範囲攻撃に近いそれは狙い甘くとも大きな爆発を起こし、防衛網となっている帝国軍の気勢を削ぐ。

 当たれば命奪われるであろう魔法による砲撃は、命の危機を感じ気勢を削ぐには実に最適であった。

 

「防御は任せた! 私達は徹底的に奴らに恐怖を叩きこんでやろう。このまま突っ込め!」

 

 アポロの声と魔法により、砲撃の嵐が僅かに弱まる。

 ラカムはその瞬間に一気に機関部を限界まで動かした。

 

「前方に障壁を集中! 一気に抜けるぞ!」

 

 防御役の四人が前方の防御に集中すると共に、ラカムとオイゲンはひたすらに艇速を上げることに傾注した。

 普通の騎空挺ではありえない速度を出している中、それに更なる酷使を加えて艇体が軋む。それでも、悲鳴を上げるグランサイファーに鞭を打ち、ラカムとオイゲンは速度を上げ続ける。

 みるみる近づいてくる帝都。徐々に砲撃に晒され始めるグランサイファー。

 

 迎撃及ばず被害を受けていく中、速度を維持したグランサイファーはそのまま砲撃届かぬ帝都へと突撃した。

 

 

 

 

「突入したようだな……ヴィーラ、オレ達も行こう」

 

「全く……二人きりだというのに、休む間もないですね」

 

「そう言うのは後だ。リーシャ達が楽に来れるように道を作らなければならない」

 

 グランサイファーがアガスティアへと突入したのを見て、セルグとヴィーラも身を翻し、すぐ近くのアガスティアへと降り立っていく。

 忙しなく動く状況にヴィーラがやや不満を見せるが、セルグは苦笑しながらそれを窘めた。

 

「わかっています。ですから今はこれで良しとしましょう」

 

「ん? これでって――」

 

 言い終わる前に伝わる柔らかな感触。小さく頬に口づけられたセルグは戦場にいるというのに隙だらけで呆けた。

 

「何て顔をしているんですか? しっかりして下さい」

 

 そんなセルグに苦言を呈するヴィーラは、小さく微笑んでなんの反応も示さずに周囲を警戒し始めた。

 

「こんな時に何をしているんだ……昨日時と場を弁えろと言ったのは君だろうに」

 

「貴方が落とされずにここにいることを確かめたかっただけです。そのくらいは良いでしょう?」

 

「今のやり方でなくとも良いだろう」

 

「そこは役得というやつです。お気になさらず」

 

「――全く。気にするなという方が無理だっての」

 

 小さくため息をついて、思考を切り替えたセルグは、次々と迫りくる足音を聞いた。

 恐らく降り立つのを目撃されて迎撃に兵士が向かってきているのだろう。

 ニヤリと笑いが込み上げてくるのを我慢せずにセルグは天ノ羽斬を握りしめた。

 

「さぁ、このまま合流するまで徹底的に薙ぎ払っていくぞ」

 

「はい、思う存分やらせていただきます」

 

 二人は向かい来る兵士達を舌なめずりするような面持ちで見据えると、駆けだした。

 向かうは、街中へと降り立ったグランサイファーの元。

 空を奔る悪魔となっていた二人は、そのまま地上を走る悪魔となって帝国兵士達を蹂躙していった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「急げ! すぐに外縁の防衛網を無力化する! リーシャにもすぐに連絡をしろ! 本体が到着する前に終わらせるぞ!」

 

 グランサイファーを降り立ち、モニカはすぐに配下の団員達へと指示を出した。

 モニカが伴い、グランサイファーへと乗せてきた麾下の部隊員20名が二手に分かれて動き出す。

 

「アレーティア、ゼタ。二人は彼らと共にあっちを。ジータはカタリナと向こうの方に一緒に行ってあげてくれ」

 

「了解じゃ/任せて」

「うん/心得た」

 

 モニカの部隊と共に、四人が防衛部隊の無力化に動く。

 残る者達はここでセルグとヴィーラが合流するまで艇を守ることに注力するようだ。

 

「ドランク、スツルム。お前達は一足先に中枢へと侵入しろ」

 

「黒騎士?」

 

「あぁ~ごめんねグラン君。僕達は先に情報収集に向かうよ。彼女の鎧と剣も取ってきたいし、何より宰相さんの狙いをしっかりと探っておかなければいけないからね」

 

「そういうことだ……悪いが任せたぞ」

 

「案ずるな。きっちりとこなしてくるさ」

 

「それじゃ、またね~痛って!?」

 

「軽いんだお前は……真面目にやれ」

 

 いつものやり取りを見せて、スツルムとドランクがアガスティアの中枢へと向かっていく。

 もはや恒例のやり取りに反応を示す者はいない。

 走り去っていった二人を見送ると、

 

「……僕達は防衛戦力が無力化出来たら秩序の騎空団と連携してこの島の制圧に動くよ。黒騎士、警戒すべき人物とかはいる?」

 

「――そうだな、強いて言うなら目の前の帝国軍最強の男だろうか」

 

「え……」

 

 アポロの言葉にグランが視線を向ける。

 大きな通りの真ん中を一人悠然と歩んでくる一人の男。

 屈強な肉体とやや細い目つき。その身に纏う覇気はアポロとそう変わらない。絶対強者の気配をもつ。

 

「お久しぶりですね。最高顧問殿」

 

「お早いお出ましだな、帝国軍大将――”アダム”」

 

 グラン達の目の前に現れたのは、大国エルステにおいて最も位の高い軍人。

 エルステ帝国軍大将アダムその人であった。

 

 

 

 

 時を同じくして、防衛網の無力化に向かったゼタとアレーティア。ジータとカタリナはその歩みを止める。

 背後に伴だっていた秩序の騎空団の団員達を抑えて、目の前に現れた人物へと鋭い視線を向けた。

 

 

「お主は……」

 

「いきなりボスキャラのお出ましか。面倒ね……」

 

 ゼタとアレーティアが即座に武器を構える。

 

 

「行きなり貴方が来ましたか……」

 

「こいつは厄介だな。ジータ、いけるか?」

 

 愛剣を抜き放ち臨戦態勢のカタリナと、意識を完全戦闘モードへと移し、天星器を解放するジータ。

 

 

 彼らの目の前には……

 

 

「フンッ、あのトカゲが居なければ何も怖くはないね」

「それなりには楽しめそうだな。悪いがここで潰させてもらうぜ」

 

 

 フュリアスと、ガンダルヴァ。

 二人の軍人が彼らの行く手に立ちはだかった。

 




如何でしたでしょうか。

リミヴィーラ実装によって本作でもヴィーラの強さが留まることを知らない感じとなっておりますが、あれは疲労や反動も大きいリスクありの能力であると捉えて欲しいです。
あれが常ではないということを明記しておきます。

実は原作のゲームの方で、本作の根本を覆す事実が出てきてしまいましたが、修正は無し。
このまま完結まで綴っていきますがどうぞよろしくお願いいたします。

それでは、お楽しみいただければ幸いです。

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