granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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またもや1週間ぶりの投稿。
平日はほんとに余裕がないですね。
話もほとんど進められていないです。今回は日常編って感じになります。
ですが、そろそろ半額キャンペーンが終わるので、更新頻度は挙げられそうです!
作者はグラブルプレイヤーでもあるのでイベント状況などに更新が左右されることを今ここでお知らせしておきます。

それでは、お楽しみください。


メインシナリオ 第2幕

空域ファータ・グランデ ガロンゾ島

 

 

 魔物に襲われつつ、何とかそれを退けた一行。その甲斐あってか、煙を上げながらもグランサイファーは無事にガロンゾ島へとたどり着いた。

 

「ふぅ……なんとかたどり着けたな。ホントヒヤヒヤしたよ」

 

「ここまで随分無理させちゃったね、グランサイファー」

 

 安心したように一息つくグラン。それに並んでジータも安堵の表情を浮かべる。

 

「ザンクティンゼル出てからというもの、魔物は来るは、ワザワザ艇を攻撃してくるわで、いつ落ちるかと肝が冷えたぜ……」

 

 心底僻易した様に呟くのはラカムだ。一歩間違っていれば空の奈落へ真っ逆さまだったであろう状況に操舵士としては気が気じゃなかったのだろう。

 他の団員達も無事に島へとたどり着けたことに、各々安心を見せていた。

 

「グランサイファーには、無理をさせちゃいましたね……煙を拭いてましたし」

 

「そうさなぁ。ここらでしっかり労わって、ちゃんと整備してやらねえとな」

 

 ルリアの言葉にオイゲンが優しく言葉を返す。彼もグランサイファーへの思い入れは人一倍ある様だった。その表情は柔らかい。

 休憩もそこそこに、一行は艇の整備を依頼するためにも、グランサイファーを降りて、ガロンゾ島の港へと入っていった。

 

 

 ガロンゾの工廠ではあちこちから大きな声と大きな音が飛び交っていた。技術屋らしい少し粗暴な声から、発注を掛けに来た営業スマイルの女性の声まで多種多様だが、そこは一様に活気に包まれている。

 

「――ん? まさか。おいあんた、オイゲンか!?」

 

 艇を降りて歩く一行に興奮した様子で話しかけてきた男性がいた。自分の名を呼ぶ声に反応して振り返ったオイゲンは近づいてくる男性を見てハッとした表情を浮かべる。

 

「ああ、ん? まさかお前、酒場の!? ハッハー!! なんだよ、まだここらに住んでたのか!」

 

「あったり前じゃねえか! まだ店だって続いてるんだぜ」

 

「いやあ、懐かしいな、おい! お互いしっかり歳を食っちまってよぉ……」

 

 記憶の片隅にいた懐かしい知人に出会えたことに、オイゲンは嬉しそうな表情を見せている。いつもグラン達を見る年長者として保護者の目になっているときとは違う。昔を語れる懐かしき友とは、付き合いが長くはない彼らとは違う友であるのだろう。

 

「そういや、ラカムとオイゲンは前にもガロンゾに来たことがあるんだっけか?」

 

 そんなオイゲンの様子にビィは疑問を寄せた。出会ってからのオイゲンしか知らない彼らからしてみれば、新たなに訪れた島にこうして知人がいると言うのは驚きでもあった。

 

「まぁなぁ……来たことあるにはあるんだが」

 

 歯切れの悪い答えを返すラカムに仲間たちは首をかしげる。

 

「ん? そっちは……おお! まさかラカムなのか!? はっは、でっかくなったなぁ!」

 

「おうよ、あのラカムも今じゃ立派な騎空士の端くれだぜ?」

 

 疑問符を浮かべている仲間たちをよそに、ラカムに気づいた酒場の店主。まるで親戚のおじさんのような言葉を受け、ラカムもおずおずと前に出てきた。

 

「ほー、あのラカムがな……ウチの店でミルクしか飲めるもんがねえってピーピー泣いてたラカムがなぁ……いつのまにやらこんなべっぴんさんを連れて騎空士とは、いいご身分になったもんだ」

 

 一行を見回して酒場の店主は感慨深そうに頷く。サラッともたらされた情報はラカムを大いに慌てさせた。

 

「ばっ!? おまっ!泣きはしなかっただろーが!」

 

 思わず店主にそう返したラカムは記憶を遡りそんな事実はなかったと確認する。その後ろではグランとセルグがこそこそ会話を始めていた。

 

「別嬪さんか……カタリナ、ヴィーラ、ロゼッタあたりはみんなキレイだよね、セルグ?」

 

「ん?ああ、まぁそうだな。ルリア、イオ、ジータはまだ子供だし……別嬪ていったらそこらへんじゃっつぁ!?!?」

 

 突如、妙な声をあげるセルグ。隣でも同じようにグランが変な声を上げていた。その後ろにはアルベスのヤリで頭を小突くゼタと、睨みを利かせるイオの二人がいた。

 

「ふぅん、わたしはべっぴんに入らないっていうんだ、セルグ……私ってそんなに魅力無いかな?」

 

「私とジータはガキだって言いたいわけ! どういうことよセルグ、グラン!!」

 

 怒りの中にちょっとショックを受けたような表情を見せながらセルグへと詰め寄るゼタと、今にも魔法を放ちそうなイオがグランに迫る。

 

「ま、まぁまぁ、二人共、そんな気にしなくても……グランたちだって別に二人が魅力無いって言ってるわけじゃ……」

 

 なんとかたしなめようとするジータが間に入るがゼタとイオは収まらない。

 

「グラン! 元はといえばお前が余計なこと振ってくるのが悪い。責任をとれ」

 

「な、二人はセルグの発言が原因だろう。君が余計なことを言ったんじゃないか! こっちに押し付けないでくれ!」

 

 静かにグランへと押し付けようするセルグと何とかそれを押し返そうとするグランの醜い押し付け合いを勃発し、それにさらに苛立ちを募らせてゼタとイオが二人を責めたてていった。

 

「いい度胸じゃない……少なくとも私はバカな男連中に襲われそうになるくらいは魅力あふれていると自負してるんだけど?」

 

「わ、私だって。バルツの男の子達には大人気だったわよ!!」

 

詰め寄る二人にたじたじな二人。徐々に後退するしかなくなる情けない男は視線で助けを求めるが哀れ、彼らを見ているのはまだ幼い少女と、面白そうに眺めている別嬪さんしかいなかった。

 

「ううん? すいませんヴィーラさん。なんでゼタさんとイオちゃんはあんなに怒ってるんですか?」

 

 ルリアが怒り心頭なゼタとイオの様子に、純粋な疑問を近くにいたヴィーラに問いかける。

 

「はい。そうですね……ルリアちゃん、彼女たちはセルグさんやグランさんにちゃんと女の子として自分を見て欲しいのですよ。先ほどの酒場の店主さんの発言の、別嬪さんに含まれなかったことが不服なんです。ホント、可愛らしいですね」

 

 ルリアの疑問に答えながらあらあらまぁまぁ、といった感じで微笑ましくゼタとイオを見つめるヴィーラ。年齢的にはゼタもヴィーラもほとんど変わらないが、ヴィーラの視線は完全に子供を微笑ましく見守るそれだった。

 

「あなた……それ自分は含まれていたからっていう余裕とも取れるわよ。ヴィーラちゃん」

 

「あら、ロゼッタさんこそ。随分と余裕そうじゃありませんか?」

 

「私? 私は、あの程度で怒るほど安い女じゃないもの……」

 

「その割には喜びが顔に出ていましてよ」

 

 笑顔の裏でロゼッタとヴィーラの間でも小競り合いが始まっていた……

 

 

 

 

「おうおう、なんだか賑やかで羨ましいじゃねえか。積もる話しもあるし、ウチの店でどうだい? サービスするぜ!」

 

 やかましく騒いでるグラン達を見て楽しそうに見ていた店主が、オイゲンに提案する。懐かしい知人との再開がこの一会で終わってしまってはつまらないとグラン達を含めて自分の店へと招待するのだった。

 

「お! 悪くねえなぁ――カタリナ、どうだい?」

 

「ふむ、いいんじゃないか? グランサイファーもしばらくは整備で動けない。私達にはできることもないしな」

 

「よっしゃ決まりだ! さぁ皆さん、ウチの店に行きましょう! こっちです。」

 

 そう言って店主に案内され、グラン達は騒ぎながらも酒場へと案内された。

 

 

 

 少しばかり歩いたところに件の酒場はあった。

 そこそこ年季のはいった建物はこの店が長く続いている店だとひと目でわかる装いでグラン達を迎えてくれる。

 

「はぁ……この店も変わんねえな。いや、ちょっと椅子が低くなったか?」

 

「ガキの頃に来たんだろ? それはラカムがでかくなったからじゃないのか?」

 

「へへ、そうだな。ホント、懐かしいな……」

 

 酒場についたラカムが懐かしそうに店内を見回す。随所にある思い出は、ラカムを感傷に浸らせるには十分な思い入れがあるのだろう。椅子を見て、カウンターを見て、壁や天井を見て。記憶との違いを見つけながら、ラカムは目を細めていた。

 

「にしし……今ならミルク以外も飲めるんじゃない?」

 

 懐かしげに店内を見回していたラカムをイオが茶化すが、そこにはセルグが割って入る。

 

「ほぅれチビッ子。現在進行形でミルクしか飲めないようなのが大人をからかうんじゃない」

 

「な、なぁ!? また子供扱いしてぇ!! いい加減魔法でぶっ飛ばすわよ!」

 

「子供扱いされて怒るようじゃ子供なんだよ……悔しかったら大人の女性の余裕ってもんをロゼッタにでも教えてもらうんだな」

 

「ぐぐぐ……言い返せないー! ロゼッタぁ、セルグがいじめる!」

 

 言葉は小バカにするようだが、セルグの声音は静かで淡々としていて、怒り心頭といったイオも返す言葉が見つからずおとなしくロゼッタの元へと向かう。まるで母親に泣きつく子供のような姿に思わず笑みを浮かべたセルグは今度は優しい口調で呟いた。

 

「年相応にしてればいいのにな……背伸びしなくていいんだよ」

 

「セルグ……なんでわざわざ怒らせるかな?」

 

 グランが今のやり取りに思わずセルグへと苦言を呈するが、セルグはどこ吹く風といったように気にしていない様子で答える。

 

「怒らせたいわけじゃないんだよ。ただ、人間誰しも背伸びをしすぎると足元をすくわれるから、気をつけろって教えてやりたいだけさ。イオはまだ子供だ。それなら子供のままでいいんだよ」

 

「手厳しいのか優しいのか……ゼタも言っていたがセルグの気遣いは、どうにも回りくどいな……」

 

「わ、悪かったな。オレだってこんなに仲間と一緒にいることなんてなかったからこんなの初めてなんだよ!」

 

 仲間たちからの微妙な評価に思わず、困った顔を見せるセルグ。その姿に少しだけ驚きの表情を見せてからグラン達は笑みを浮かべた。

 

「セルグさんは強いし頼りになるしで、なんとなく距離感があった気がしたけど……今日はすごく仲良くなれた気がします。ね、グラン?」

 

「ああ、ルリアとのこともそうだけど、ちゃんと僕らのことを考えてくれてるんだって思うと嬉しいね」

 

 セルグの落ち着いた雰囲気と実力は、グランとジータにとって非の打ち所のないヒトとして映っていた。知らず知らずほかの仲間よりも距離感を覚えていた二人は、いまこの時セルグを仲間として近くに感じることができた。

 

「ふん、褒めたって何も出ないぞ……それにしてもラカムそんな椅子の大きさが小さくなったと感じるほどガキの頃って、一体何しにここへ訪れたんだ?」

 

 セルグは話題をそらすためになんとなく感じた疑問をラカムに問いかけた。

 

「オイゲンと一緒だったようだが……二人で観光にでも?」

 

 カタリナが引き継ぐように、問いかける。セルグとカタリナの問いに、ラカムは言いづらそうに口ごもった。

 

「あー、実際は観光……みたいなもんだったかもな」

 

「実際は……といいますと?」

 

 ルリアも聞きたそうにすると、ラカムはおずおずと話し始めるのだった。

 

「オレは騎空艇について勉強するつもりで、オイゲンにくっついてこの島に来たんだ。とは言っても、まだ十歳にもならねえガキだったからな。実際は何ができるわけでもなく、観光と大差なかった、ってぇわけだ」

 

「へー、それってもしかして……グランサイファーを直すために?」

 

「あ、そういうことなんですか? ラカムさん」

 

 グランとジータがグランサイファーの生い立ちを思い出してさらにラカムに問いかける。

 彼らが乗るグランサイファーは元々、ポートブリーズのとある場所に不時着していた難破船である。

 ボロボロで放置されていたグランサイファーをラカムは多くの人の協力の元修復し、人生のほとんどを捧げて飛び立てるようにしたのだ。

 

「その通りだ! こいつはよぉ、もう小せぇ頃から妙にあの艇に惚れ込んでてよ……俺についてきたのは難破船だったグランサイファーを自分がもう一度飛ばしてやるんだってなことで……今にして思えば変なガキだったな! ラカムはよぉ」

 

 二人の疑問に答えるのは、すでに大分飲んで出来上がってるオイゲンだった。

 

「い、いいじゃねえか、別に。ってかおっさん酒くさっ! いつの間にそんなに飲んだんだ? ったく……グランサイファーに戻ってローアインを呼んでおくか? 動けなくなるようだったら、みんなでこっちに宿泊もさせてもらうだろうし……」

 

「それもそうだな……さすがに艇に待機させっぱなしで、オレ達だけで休むのは申し訳ないだろう。オレが行ってこよう」

 

 酔いが回ってるオイゲンを見てセルグが伝言役を買って出る。仲間たちにも異論はない様でセルグが店を出て行くのを見送るのだった。

 背後に続く喧騒を聞き流しながら、セルグはガロンゾの街を駆け出した。

 

 

 

「それにしても工業都市って感じの島だなここは。機械技術も凄い。以前に一度だけ来たことはあったが、何もせずに帰ったし。後で見て回りたいもんだ……ん、なんだ?」

 

 走っている途中でセルグが足を止めた。後ろを振り返り、しきりに視線を動かして何かを探している様子を見せる。

 

「気のせい……か? すれ違い様に話しかけられた様な気がしたが――特に見受けられる人もいないか」

 

 確認したセルグは気のせいだと断定し再度走り出す。どうにも捨てきれない何かの視線を無理やり忘れる様に。だが、彼の背には一つの視線が突き刺さっていた。

 

「流石に目敏いね……直接会った時にどんな顔をするか、楽しみだよ――セルグ。」

 

 どこからか呟かれた声は、セルグに届くことなく街の喧騒にかき消されていく。

 静かな声の主は、空を仰ぎ見て邂逅の時を待つのだった……

 

 

 

 

 セルグがローアイン達をグランサイファーから連れてきて小一時間といった所。酒場では店を貸切状態で宴会が催されていた。

 

「ウエーイ! ラカムさんまじすげえ。そんな小せえころからグラサイ飛ばす為に勉強してたんすか……いやーぱねえっすわ」

 

「DO感……俺等がこうしてグラサイで旅出来んのも、つまりはラカムさんの努力のおかげってことじゃん? あ、ラカムさんもう1杯どっすか?」

 

「ギャっハハハハ! お前飲ませすぎだべ~もうラカムさん飲めねえだろうよ~」

 

 ローアイン、トモイ、エルセムの三人がラカムの幼い頃の話を聞き尊敬の眼差しとともに大騒ぎしていた。

 

「ろ、ローアインさん。そろそろやめておかないとラカムさんが……」

 

 そんな四人を心配そうにみているジータはオロオロとしながら声を掛けていた。既に相当な時間飲み続けているラカム達は恐らく止まることを知らないだろう。止めたほうが良いのか、大人の世界に口を出すべきではないのか、判断のつかないジータはただオロオロとすることしかできなかった。

 

「そうなのですか、そんなに若い頃からこの店を切り盛りしてきたのですね……この工業都市で酒場の経営はなかなか難しいことも多かったのでは?」

 

「いやーまぁその場しのぎの行き当たりばったりで何とかなってきたもんでね。大変だと思うことは多々あったが、おかげさんでこうして別嬪さんにお酌してもらえるんだったら、苦労の甲斐があったってもんだ。ハッハッハ!!」

 

「あら、お上手ですわね。ありがとうございます」

 

 別の場所ではヴィーラは店主と談笑しながら飲んでいた。元アルビオン領主は社交性に優れているようで、気分を盛り上げる巧みな話術に店主は楽しそうに会話を弾ませていた。

 

「ビィ、ルリア。食事を楽しむのはいいが、食べ過ぎるなよ。イオも、ジュースを飲み過ぎるとお腹を壊すぞ」

 

 セルグは子供組の面倒を見ているようだ。その表情には優しさが垣間見えるも、楽しみながら飲んだり食べたりしすぎないようにと苦言を呈する。

 

「セルグ!! いい加減子供扱いはやめてって言ってんでしょ!!」

 

 そんなセルグの言葉にイオは噛みつくように怒りを露わにした。

 

「あのなぁ、いくら大人ぶろうが体は年齢以上には育ってるわけがないんだ。心配するのは当然だろう。さらに言うなら、夜遅くまで起きているのも頂けない。ほら、もうおあずけだ……」

 

「あっ、ちょっとぉ!?」

 

 そう言ってイオが飲んでいたものを取り上げるセルグ。不服そうなイオがセルグを睨みつけるも、頭に手を置かれて優しそうに撫でつけられては、心配されてることもわかり、何も言い返さずに従った。

 

「ほら、ビィもルリアも食べ過ぎてお腹壊す前にやめておこう」

 

 イオとセルグの様子を見てグランも二人に注意を促していた。

 

「グラン。ジータと一緒に子供を連れて先に寝ててくれ。どうせこっちはみんな遅くまで飲んでるだろうからな……」

 

「それはいいけど……セルグは一緒に飲まなくていいの? せっかくだから大人同士で仲良く飲んでてもいいのに」

 

「……これまで一人で生きていたオレに、あそこに飛び込んで仲良く、なんてのは簡単じゃないんだよ。それじゃあ、未成年組は任せたぞ」

 

 そう言ってセルグは酒だけもって店の外へと出て行く。グラン達はそんなセルグに疑問を感じるもみんなで就寝するために準備を始めていった。

 

 

 

 店を出てすぐの所、二つ置かれているベンチに腰掛けセルグは空を見上げていた。 

 

「はぁ……存外オレも臆病だな。まさかみんなの輪に入るのが不安でこうして星を見ながら一人で飲むことを選ぶとはな」

 

 皆が予想外に楽しそうに騒いでる中に、どうにも居心地の悪さを感じてセルグは一人店の外で星空の下、酒を煽っていた。

 グラン達と出会うまで、一人で生きていたセルグ。これまでの人生は戦いの連続でこうしてみんなと楽しんで飲むなどということは皆無であった。

 

「うう~ん……どこか遠くに行っちゃったのかなぁ」

 

 そんなセルグの元に少女の声が届く。セルグの様子が気になり、どうしたのかと心配になったジータが探しに来たのだ。

 

「ん? あれは……ジータ! どうした、みんなともう寝たんじゃなかったのか?」

 

 キョロキョロと辺りを探していたジータにベンチに座って飲んでいたセルグは声をかける。

 

「あ、セルグさん! そんなところで飲んでたんですか? わざわざ外で飲まなくても……」

 

「グランにも言ったがあの中に入っていくのは存外勇気がいるんだよ。特にオレにはな」

 

「別に、皆さん問題なく仲良くしてくれると思いますよ?」

 

「気にしないでくれ……臆病風に吹かれただけだ。みんなの輪に入って同じように楽しむことができるかってな」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべるセルグの様子にジータは何かを察したのかそれ以上は何も言わなかった。

 

「――そうですか。じゃあ、私もここで一緒に飲んでていいですか? 実はローアインさんがすこしだけお酒をくれたんです。物は試しでジータダンチョものんでみなって」

 

 そういって手に持つ酒瓶を見せるジータは悪戯をしようとしているような少し悪い笑みを見せる。

 その瞬間に、セルグの脳内で翌日ローアインへのお仕置きが決まった。まだ、十台半ばといったところのジータに酒を持たせる等言語道断。子供の健やかな成長を妨げる愚か者には裁きを下さんとセルグは脳内裁判で有罪判決を下す。

 

「おいおい、まだ15か16くらいのガキじゃなかったか?明日しんどくなっても知らんぞ。」

 

 そんなバカな思考をひた隠し、呆れた様子でジータをみるセルグは苦笑する。そんなセルグの様子にジータはイオの如く反発するのだった。

 

「も~そうやってまた子供扱い! イオちゃんと違って私はもう少し大人です! お酒だって少しくらい飲めますよ!」

 

 そう言うと、持っていた酒瓶を一気にあおるジータ。突如行われる暴挙に思わず顔を青ざめてセルグは止めに入った。

 

「おまっ! バカ、初めて飲むんだったら少しずつ飲ん……どけ……ああ、やっちまった」

 

 セルグの声が消えて行くにつれて、ジータの手にあった酒瓶の中身が消えていく。味なんて全くわからないままジータは一本丸々あった酒をあっというまに飲み干してしまった。

 

「うぅ……なんですかこれ……苦いし美味しくないです。なんで大人の人はこんなの飲めるんですか?」

 

「子供のうちから酒の美味しさなんてわかるかっての。それより大丈夫かジータ? あんなに一気にあおって……」

 

 セルグは何も考えずに飲み干したジータに心配の表情を隠せなかった。場合によっては少女にはかなり高いハードルかもしれないが吐き出させることも考えなくてはならないかと思考を巡らせる。

 

「大丈夫です! 私はもう大人なんですから、セルグさんに心配される必要はありません!!」

 

 普段のジータからは想像できないような強い口調でジータは問題ないと言い切った。既にこの時点で問題がありそうだが、セルグはひとまず落ち着かせることに終始する。

 

「わかったわかった。もう子供扱いしないから、おとなしくしてろ」

 

 そう言ってセルグはジータの様子をみた。幸いにも苦しそうな雰囲気はなさそうだが態度の変化からアルコールが回っていることは明白だった。とりあえず急を要する問題はなさそうだと判断してセルグはジータの隣で晩酌を再開する。

 

 

「――セルグさんは私のことを子供だと思いますか? 子供扱いされることにムキになって無理にお酒を飲んだ私を……」

 

 しばらく無言で飲んでいたセルグに唐突にジータは問いかける。自分の行動を振り返って恥ずかしくなったのか、その真意はセルグには分からなかったが、セルグは無碍にするわけにも行かず思ったことを口にする。

 

「ああ、お前たちはまだ子供だ。グランも含めてな。身長だとか、酒が飲めないとか、そういう話じゃなくだ。お前たちはまだ世界の闇を知らない。人の闇も、組織の闇も。聞くことを躊躇うような話はこの世界のあちこちにある。おまえたちはまだそれを知らないんだ……まぁ別にそう焦る必要はないさ。わざわざそんなものを好んで知る必要もないし、ヒトは時間とともに確実に成長できる。大人になっていく。だから今子供扱いされてるからって……ん?」

 

 ベンチで座り語っていたセルグの膝に、ジータの頭が乗っていた。酔いが回りあっさりと眠りについていたその寝顔はあどけない。これだけなら騎空団で団長をしているなどとは到底思えない年相応な姿にセルグは苦笑する。。

 

「全く、何真面目に語ってんだか……酔っ払い相手に。ヴェリウス、カタリナかヴィーラを呼んできてくれないか? ジータをちゃんと部屋で寝かせてやらないといけない」

 

 ヴェリウスを呼び出し酒場へと向かわせるセルグ。眠りについてしまったジータを優しい瞳で見守るセルグだったが、その姿はまるで娘を寝かしつける父親のようであった。

迎えに来たヴィーラがその光景をしばらく見続けて、翌日に盛大にからかわれるとはこの時思いも寄らず、セルグは静かにジータを見守り続けるのであった……

 




いかがでしたでしょうか。

上手く仲間たちを出し切って描いていきたいと日々精進中です。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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