granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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ルーマシー帰還編ラスト。
どうぞ、お楽しみください。


メインシナリオ 第48幕

 

 

 

――――届いた!

 

 

 無機質な何かが割れる音に仲間達は攻撃が届いた事を確信する。

 罅割れ程度ではなく、完璧に砕いた魔晶の檻が崩れていき、囚われていた二つの存在が解放されていく。

 大切な仲間であるロゼッタ。そして、ロゼッタの守ろうとしたユグドラシル。

 チカラを奪われ、コアに負担を掛けられたロゼッタとユグドラシルの姿はボロボロそのものであった。

 突撃した直後のグランとルリアは二人を受け止めるとその光景に、二人を仲間の元へと連れて行こうとする。

 

 だが――

 

「なっ!?」

「きゃぁ!?」

 

 突如としてグランとルリアは木々の手により縛り上げられた。

 魔晶のコアは打ち砕いた。だが、大樹自体はまだ滅んでいない。

 その身に残る魔晶の残滓が最後のあがきと言わんばかりに突如動き出したのだ。

 魔晶の檻を破壊し、二人を救い出したグランとルリアは成すすべなく捕らえられてしまう。

 木の蔦に縛り上げられた二人には既に抜け出せる手段はない。

 グランとルリアはそれぞれできることで応戦しようとするがそれよりも早く、木々は二人を縊り殺そうと締め付けを強め始める。

 

「ぐっ…………」

「うっ、ぁ…………」

 

 身じろぎすらできないほどの締め付けに二人の脳裏に死がよぎる。

 視界には二人を助けようと、魔法を放とうとするジータとイオ。再び天ノ羽斬を振りかぶったセルグの姿が映るがそれよりも先に二人の首がへし折られてしまうだろう。

 万事休すか――――

 

 

「木偶人形如きが……調子に乗るなよ!!」

 

 

 四つの光条が二人を縛る全てを破壊する。

 漂うのは四大属性の魔力。聞こえたのは、幾日も森を彷徨っていながら衰えを知らない力強い声。

 七曜の騎士たる所以。彼女だけの魔法を撃ち放ち、二人を助け出したアポロの姿がそこにあった。

 

「スツルム、片付けろ!!」

 

「わかっている!!」

 

 グランとルリアを救い出したと同時にすぐさまアポロが叫ぶと、今度はグラン達の頭上から声が返される。

 二本のショートソードを抜き放ち、炎を纏いながら降りてくるのはアポロが雇った忠実な傭兵。

 報酬の為ではなく、雇い主の為に命を張れる誇り高き傭兵が、魔晶の残滓に支配された大樹の残骸を見据えた。

 

「手加減はしない……”フロム・ヘル”!!」

 

 一閃。一度振るえば炎の軌跡が二度刻む。剣と炎の斬撃が、スツルムより巻き起こった。

 かろうじて保っていた大樹の残骸に向けて放たれたのは彼女の奥義。

 落下と同時に上から下まで切り刻まれた大樹の残骸が、焼かれ刻まれ、崩されていく。

 

「ぼさっとするな。すぐに離れるぞ!」

 

「え、あ。うん、わかった!」

 

「わかりました!」

 

 救出された二人に出迎えられたスツルムは、ユグドラシルを抱えて大きく後退。

 拘束を逃れたグランもロゼッタを確保して直ぐにそれに続いた。ルリアは再びサジタリウスを召喚し駆け抜ける。

 前方の巻き添えの心配がなくなったところで、アポロはもう一人の従者を呼ぶ。

 

「ドランク、続け」

 

「ハイハーイ」

 

 スツルムの攻撃でも完全には滅する事のできない大樹を見て、アポロのはるか後方に姿を現した一人の男が動きを見せる。

 

「さぁて、僕も張り切っちゃおうかな~。そぉれ!」

 

 手に持つのは二つの宝玉。宝玉より描き出された魔法陣からは即座に魔法が放たれる。

 ドランクの魔法の一つ。”フェアトリックレイド”。小規模ではあるが多種な魔法を連続で使いこなす技である。

 放たれた炎の魔法が大樹を焦がしていく。

 

「小娘共、呆けるな! 私だけでは足りん。力を貸せ!」

 

 ジータとイオの横に並び立ったアポロは、魔法の準備に入った。

 クアッドスペル――彼女を七曜の騎士たらしめる、魔法。

 先ほどグランとルリアを救った魔法は詠唱を破棄した低威力のものに過ぎない。かといって、正しき手順を踏んだところで今の彼女に大樹の全てを滅するだけの魔力は捻りだせない。

 ならば、チカラを合わせる他ないだろう。

 

「わかりました」

「やってやるわ!」

 

 落ち着いた声と気合の声を返して二人の魔導士が並ぶ。

 

「再生力は失われている。これで終わりだ」

「みなさーん。伏せていてくださいね」

「今度こそ終わりにしてあげる。手加減無しなんだから!」

 

 ジータのエーテルブラスト。イオのエレメンタルカスケード。そしてアポロのクアッドスペル。

 再び放たれた大きな魔法に、魔晶の残滓だけで動いていた大樹が吹き飛んでいく。

 炎と爆発に塗れて、傀儡となっていた大樹が消失した。

 

 グラン達はとうとう、フリーシアが作り出した魔獣を撃破し、仲間を救出したのであった。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

「――――止まった……のか?」

 

 指揮官であった彼は、目の前で戦艦を襲っていた茨が動きを止めたのを確認して呟いた。

 どれだけの時を戦い続けていただろう…………代わる代わるで砲撃をつづけていたがそれでも茨の壁は破れず。

 兵士達には疲労がたまり、次の補給を最後に彼は撤退指示を出すつもりであった。

 

「隊長! 茨が次々と崩れていきます。もしや、あの星晶獣が活動を停止したのでは?」

 

 兵士の言葉に指揮官である彼の脳裏に、一つの星晶獣の記憶が呼び起こされる。

 島を離れる際に一度だけ見た星晶獣。

 茨を使役し、身も凍るような怒りと共に、兵士達へと攻撃を仕掛けてきた星晶獣は頭から離れない程に印象強く残っていた。

 遠目からでもわかった、怒りが具現化したような猛攻。島に兵士を残さざるをえない程の怒涛の攻撃に、苦渋に塗れながら彼は島を即座に離れることを決断した。

 逃げ惑う部下を見殺しにして、彼は上官であるフリーシアと己の命を優先したのだ。

 

 

 

「――――これは恐らく好機。先程突入した例の騎空団の奴らが何とかしたのかもしれんな。

 全部隊に通達。降下準備に移るのだ! 命令通りに例のモノを回収し、本国へと帰還するための準備をしろ!」

 

 優秀な指揮官であった彼は即座に現状を読み解く。

 これまで、襲い来る茨の届く範囲を把握し、射程外からの攻撃を続けることができたのは、ひとえに彼の手腕によるものだ。

 そんな優秀な指揮官である彼がこの状態に手をこまねくはずもない。

 島の中で何が起きたかはわからなくとも、茨が崩れ落ちたことからあの星晶獣が活動を停止したのは明白。

 障害が消えた今、彼は命令遂行の為に部隊に一斉指示を出した。

 

「回収艇を島に近づけろ! 魔晶部隊は妨害を予測し全周配備。砲撃艇は島を狙える位置でそのまま待機だ。急げ!」

 

「イェッサー!」

 

 彼の指示が終わると同時に、次々と兵士たちが動き出す。

 指示を出した後で自らも島に降り立つべく、降下準備を始めようとしたところで、彼には後ろから声がかかる。

 

「ふむ……どうやらちょうどいいタイミングできたようですネェ」

 

「ポ、ポンメルン大尉!? いつからこちらに!?」

 

 声の主の正体は、本国へと戻り別の作戦行動中であったはずの上官。

 落ち着いた様子でそこに佇むポンメルンを見て、思わず彼は敬礼を返した。

 

「高速艇で今しがた到着した所ですネェ。それより、降下部隊の手筈はどうなっていますか?」

 

「は、ハイ! 島を覆う茨が崩れ落ちたので好機とみてすぐに降下部隊を送るところです。私もそちらで指揮を――」

 

「なるほど、でしたら私が行きますので貴方はこちらで回収部隊を待っていてください。宰相閣下がご所望のモノを回収したらすぐに本国へと帰還できるよう手筈を整えておくのですネェ」

 

「――――それは是非にとお願いしたいのですが、魔晶部隊だけでもよろしいのでは? 大尉自ら赴かなくてもよろしい気が……」

 

「それは考えが甘いですネェ。私が行ったところでどうというわけではありませんが、例の騎空団の者達がいる以上過剰な戦力になることはあり得ないのです。

 本当であれば中将閣下にも来て頂きたかったのですが、中将閣下は本国にて報告に出ているためこちらにはおられません。

 命令遂行のためには油断してはいけないという事を覚えておきなさい、ですネェ」

 

 引き留める指揮官の言葉に、ポンメルンは真剣な面持ちで答える。

 その視線は島の中枢へと向けられており、そこには油断も隙も無い雰囲気が伺える。

 

「――わかりました。それでは私は帰還の手筈を整えておきます。ポンメルン大尉、すぐにでも降下部隊は整います。ご武運を」

 

「ご武運を祈られるような事態にならないことを、私は祈りたいですが……ネェ」

 

 少しだけ苦々しい表情に変わるポンメルンの脳裏には不安が募った。

 アマルティアで痛み分けとなった記憶は新しいが、彼らの戦力は既にポンメルン一人でどうにかなるレベルではない。

 天星器を使いこなす双子に、星晶獣を従えた男。それだけで魔晶兵士の優位性は消え去る。

 己が使いこなす魔晶のチカラを含めても時間稼ぎ程度しかできない実力差なのは明らかだ。

 必然戦闘になることがあれば、兵士達には多くの負傷者が出るだろう。

 

「本当に……どうしますかネェ」

 

 指揮官が奔走し始めたのを見送り、ポンメルンは島へと向けた不安を一人静かに吐き出すのだった……

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 静かな音が聞こえる……

 

 

 

 まるでそよ風に晒されて木々が騒いでいるような、そんな他愛ない音。

 どこか聞きなれていて、どこか聞いていると安らぐ。

 そんな……嬉しくなる音。

 

 

 

 

 

「――――ん、んぅ……あれ、私?」

 

 心地よい感覚に包まれながら、ロゼッタは目を覚ました。

 最初に視界に入るのは小さな鳥達。

 彼女の肢体を遊び場とするようにチョコチョコと動き回っていた。

 

 ”―――――♪”

 

 鳥達に目をとられたロゼッタにまたも音が届く。

 それは彼女しかわからない言葉が込められた音。

 植物に覆われた島、ここルーマシーの地で永い時を共にしてきた存在。己の身を捨ててでも守ろうとした大切な子の声であった。

 

「ユグ……ドラシル?」

 

 ”――――♪”

 

 ロゼッタの頭を足に乗せ、目覚めるのを待っていたのだろう。

 呆けてはいるが無事な様子のロゼッタを確認してまた一つ、鈴の音のような綺麗な音で返したユグドラシルの顔に、嬉しそうな表情が浮かんだ。

 素直に感情を表に出している珍しいユグドラシルの様子に、ロゼッタはまた一つ困惑。

 

「あれ……私……」

 

 どうにも要領を得ない光景に、ロゼッタは身体を起こして周囲を確認しようとした。

 

「おはよう、ロゼッタ」

「おはようございます、ロゼッタさん」

「とりあえず大丈夫そうじゃねぇか。良かったな、ユグドラシル!」

 

「グラン、ジータ。それにビィ君も」

 

 そんなロゼッタに聞こえたのは、これまたよく知る声。

 彼女にとってはそれなりに縁深く、見守っていくと決めた大切な子達。

 双子の兄弟と小さな竜がいた。

 

「ご無事そうでよかったです。ユグドラシルと違い、なかなか目を覚まさないので心配しました」

 

「セルグやルリアが言うには、魔晶からの負担を肩代わりしすぎたんだろうって……ユグドラシルの為とは言え、少し無茶が過ぎたんじゃない?」

 

 いつも通りの穏やかな雰囲気。

 その雰囲気に当てられて、ロゼッタの遅かった思考が平常を取り戻し始める。

 

「そう、か……私。フフ、どうやら随分と迷惑を掛けちゃったみたいね」

 

「気にすんなって。皆ロゼッタに迷惑かけられたなんて思っちゃいないんだからよ!」

 

 微かな記憶に残っているのは、魔晶に侵され己のチカラを暴走させていた記憶。

 その光景までは覚えていなくても、どす黒く染まった己のチカラが散々に振るわれた覚えだけはあった。

 島を守るために開放した己のチカラが、魔晶の影響で見事なまでに彼らの壁となってしまったのだ。

 ビィの言葉は嬉しいが、それだけで納得できようはずもない。

 

「皆は……無事なの?」

 

 口から自然と言葉がこぼれる。無事なのか? 怪我はしていないか? 無茶はしていないか?

 仮に己のせいで、誰かが犠牲になっていたならなんと言えば良いのか。ロゼッタの胸中に少しだけ恐怖が膨れ始めた。

 

 問われた双子は一拍の呼吸を置いて顔を見合わせる。

 その反応だけでは何もわからないロゼッタが眉を寄せるが、対する双子は並び立っていた場所をどき、その背後を見せた。

 そこには――

 

 

 

「コラッ、まてルリア。まだ治療は終わってないぞ!」

「うわーん、セルグさん助けて下さい~」

「っと、どうしたルリア?」

「セルグ、ルリアを渡せ! まだ怪我は治っていないのにヒールを嫌がって逃げるんだ」

「だって、カタリナさっきから怒ってるだもん!」

「当たり前だ! 必要であったとはいえ、負担のかかる多重召喚をしたんだ。そんな無茶を教えた覚えはない! 大体私はルリアが最前線に出るだけでも反対だったのに……」

 

 目を吊り上げて怒っていますと言いたげなカタリナがルリアを追い回し、逃げるルリアはセルグの陰へと入り込んで盾代わりにする。

 事態を悟ったセルグはというと、少しの苦笑いと共にカタリナへと向かい合った。

 

「あぁー。そう言うことか。全く……落ち着けカタリナ。心配なのはわかるが、ルリアもこれからは無茶をしないさ。必要な事だと悟り、それを選択したルリアを心配だからと頭ごなしに否定していては、ルリアの気持ちをないがしろに――」

「無茶ばかりしてきた君のせいであることを少しは自覚してくれ。君のこれまでがそうだったから、皆もルリアも最近無茶をするようになった」

「お、おいおい。なんでそこでオレにまで飛び火――」

「そうですねお姉さま……私もそこについては同感です。ルリアちゃん、今回はお姉さまにしっかりと怒られて下さい」

「そうね、セルグの真似なんかしてたら命が幾つあっても足りないわよ。そいつは最近まで歩く自殺願望だったんだから」

「おい、お前ら。なんてことを言うんだ。少なくともオレは――」

「ハイハイ、セルグさんはいつも通りお二人に怒られていてください。相変わらずの突撃癖。作戦を無視しての無理な攻撃。お陰でオイゲンさん達も必要のない怪我をしてしまいました。ヴィーラさん、ゼタさん、たっぷりと絞ってあげてください。

 それからルリアさん。カタリナさんの言葉もルリアさんを思っての事なんですから、素直に治療とお説教くらいは受けましょう。体にも心にも、傷痕が残ったりしたら嫌でしょう?」

「それは……そうですけど。うぅ、わかりました」

 

 逃げるルリア。追うカタリナ。少し余裕のあるリーシャ。ゼタとヴィーラに責められるセルグはやや真新しい気がするが、そこには見知ったいつも通りの光景があった。

 またも呆気にとられたロゼッタだったが、別の方から聞こえた声にまた視線を向ける。

 

「おーイテテテ。やっぱり老体には堪えたか。なぁ、アレーティア?」

「ううむ、やはり年月にはかなわんかのぅ。体力もそうじゃが、何より戦いの後の反動がキツイの一言に尽きるわい」

「全く。張り切って前ではしゃいでたくせに情けないんだから……オイゲンにアレーティアはまだしも、ラカムまでそんな状態って本格的に歳なんじゃないの?」

「このっ、ガキンチョが。痛っ!? 俺は二人を庇って受けた名誉の負傷だっつの! 幸いにもセルグの援護のお陰で大事には至らなかったが俺だってーー」

「そんな事言っても、セルグはあんなにピンピンしてるわよ?」

「俺をあんなビックリの塊みたいな奴と一緒にすんな! こちとら元は只の操舵士だぞ。アイツとは戦士としてのモノが違ぇよ」

「ふーん、そうなの? だからってそんな事言ってると、またセルグが拗ねるわよ。最近……今までもだったけど、セルグのメンタルは弱いんだからね。それより、三人とも治療するから並んで座って」

 

 何やら年寄り臭い男ども。内二人は本当に年寄りなのだから仕方ない事だが、それをまるで母親のような態度で治療に入る少女の姿。

 余裕と自信に溢れてるイオの姿に、ロゼッタはまた少し新鮮な気持ちを抱き、されるがままの男衆を後でからかってやろうと決めた。

 

「後は、あっちかな?」

 

「あっち?」

 

 他に誰かいただろうか。ロゼッタの頭に疑問が浮かぶ。

 アレーティアが合流していた事には驚きであったがそれ以外にも誰か合流していたのだろうか。

 何人か艇を降りていたメンツを思い浮かべるが、予想に反してそこにいたのは全く別の者たちであった。

 

「アポロ、お腹空いてない? お腹空いてると……死んじゃうよ」

「黙れ、私は空腹などで死にはしない」

「でも、ずっと森で彷徨ってーー」

「黙れと言っている。いつからお前は私の保護者になった? 調子に乗るのも大概にしろ」

「まぁまぁ黒騎士。オルキスちゃんはそれはもうずっと貴女の事を心配していたんだから少しはその気持ちを汲んであげようよ〜ねっ!」

「下らん。人形に気持ちも何もあるまい」

「も〜頑固だなぁ。スツルム殿からも何とかーー」

「良い……ドランク。私は気にしてないから……」

 

 微妙ではあるが陰りを見せるオルキスの表情。

 それを見た瞬間にアポロの顔が僅かに歪んだのを、ドランクは見逃さなかった。

 

「(ねぇねぇ、スツルム殿。やっぱり彼女)」

「(死にたくなければ余計なことは口走らないことだ。今のアイツはーー)」

「ドランク……出せ」

「えっ、は?」

「腹が減っている。携帯食料くらいお前なら持っているだろう。早くしろ」

 

 不躾で無遠慮な物言いで、アポロはドランクへと手を差し出す。

 その行動自体が非常に面白くないのか、視線でドランクに早くしろと訴えていることが伺えた。

 そんなアポロを見て、ドランクもせっせと携帯していた食料を取り出して差し出す。

 

「――もぅ、本当に素直じゃないよね」

「何か言ったか?」

「いいやぁ〜何にも喋ってないですよ! ねっ、オルキスちゃん」

「うん。ドランク、喋ってない」

「チッ……忌々しい奴らめ」

 

 どこか荒んでいるのに、どこか優しい。そんな光景が飛び込んできた。

 悲しそうな表情を浮かべたオルキス。

 それを見ていたたまれなくなったように見えたアポロ。

 茶化すドランクと、見守るスツルム。

 ロゼッタが知る、刺々しい雰囲気を纏ったアポロではなく、ロゼッタが知る感情の希薄なオルキスでは無かった。

 

「あえて言うなら、いつも通り……だよ」

 

「もぅ、グランったら。仲間も増えてるのにいつも通りな訳ないじゃない」

 

「いやぁジータ。オイラから見てもこれはいつも通りの感じだぜ……仲間が増えたってだけでよぉ」

 

 そう、いつも通り。

 見せられた仲間たちのやりとりや雰囲気も。

 目の前で嬉しそうな表情を見せてる双子と竜も。

 それに毒されてしまった、以前までの敵対する者達も。

 

 皆等しく、無事でいつも通りの姿を見せてくれていた。

 

「(聞かなくてもわかる。多くの苦難を乗り越えたことは)」

 

 一人一人の実力が。内面も外面も大きく成長しているのだと手に取るようにわかった。

 ここは彼女のテリトリーであるし、そうじゃなくても彼らの表情はそれを如実に物語っている。

 

「(これはやっぱり、この子達だったから……なのかしらね。或いはあの人の子だったから? もう一つ挙げるなら彼がいたから……か)」

 

 思い浮かぶのは目の前の双子の父親。

 思い出すのは、彼を見たときに感じた異質な存在感。

 見据えたのは、着々と、それも恐るべき早さで進化していく目の前の兄妹。

 

「(何であろうと、言えることは一つね)」

 

 様々な思考が駆け巡るも、今考えようと仕方ない事ばかり。

 それよりも先に自分は伝えなければいけない事が有るだろう。

 ロゼッタは出来る限りの柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「ありがとね――みんな」

 

 何に対してのありがとうなのか。

 そこにはきっと様々な言葉が含まれているのだろう。

 それを全て察して、対する双子は笑って返す。

 

 

「おかえり、ロゼッタ」

「おかえりなさい、ロゼッタさん」

 

 

 優しき守護者は今、旅の仲間の元に帰還した。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

「さて、あまりのんびりもしていられない」

 

 

 休息と治療を少々施したところで、セルグは面持ちを変えた。

 再会を喜んでいる仲間達には悪いが、彼にはロゼッタ救出の先にまだやるべきことがあった。

 

「どうしたのセルグ? あとはグランサイファーに戻るだけじゃ……」

 

「いいえ、グランさん。忘れてはいけません。フリーシア宰相の狙いはこの島にあるアーカーシャ……私たちがルーマシーを離れてから戻るまでの間、帝国が島に突入するために攻撃を続けていたのは何故だと思いますか?」

 

「それは…………そっか、アーカーシャの確保」

 

 リーシャの問いにグランは思案してから答える。

 幾日もの間、島に突入するために攻撃をしていた理由は何なのか。その答えはすぐに出てきた。

 

「そうだろうな。オレ達がロゼッタを助けたと同時に島を覆う茨は消えた。機を逃さない指揮官が居れば、すぐにでもアーカーシャの確保に動くはずだ」

 

「つってもよぉ。今更帝国の連中がいくら束になったところで、もうグラン達の敵でもねぇじゃねえか。そんなに心配しなくても――」

 

「だめだよビィ。私達は消耗してる……黒騎士さんだって全然本調子じゃない。まともに戦える人が限られてる以上、私たちは対処を急ぐべきだと思う」

 

「その通りだな。今まともに戦えそうなのはスツルム殿にドランク殿。それからセルグくらいなものだ。皆チカラを使い果たしていると言って良い。フリーシア宰相の思惑を阻止するのであれば、ここでアーカーシャを確保されてはマズイだろう」

 

「あら、それなら私がすぐにでもアーカーシャの確保を――――ッ!?」

 

 少しだけ疲れた様子のロゼッタが立ち上がり、意識を島に張り巡らせた。

 植物を扱いそれを支配下に置ける彼女にとって、島の状況を把握することは容易だ。足元より島中の植物へと意識を介すれば島の全てを把握できる。

 だが、意識を割いて、島の把握をしていたロゼッタの表情はすぐに驚きへと変わった。

 何を知ったのか……仲間たちが疑問を浮かべるが、ロゼッタが表情を変えたのは島の状況を把握してでの事ではない。

 

「どうしたんだロゼッタ?」

 

「――――どうやら、遅かったようね」

 

「何?」

 

 

 

 

 

「既に我々の回収部隊が動いているからですネェ」

 

 彼女の視線の先には見知った帝国の軍人がいた。

 

 

「ポンメルン!?」

 

 即座の臨戦態勢。

 アマルティアでの激闘が記憶に新しいグラン達は最大警戒で姿を見せたポンメルンへと向き直った。

 

「ロゼッタ、アーカーシャは!?」

 

「既にこの島から持ち去られた様ね……私が知覚できないということはそういうことよ」

 

 苦々しく呟いたロゼッタの言葉を聞いてセルグはすぐに動き出す。

 

「ヴェリウス! 戦艦ごと墜とす。翔べ!」

 

 ”心得た”

 

 ヴェリウスを呼び出し即座に跳躍。その背に乗って一気に空へと飛翔した。

 

「セルグ! いくら君でも単騎で特攻など無茶だ!!」

 

 カタリナが呼び止める声もむなしく、セルグは瞬く間に遠くへと消えていく。

 だが、そこでセルグに意識を割いたのが彼女の最大の間違いであった。

 

「隙だらけ……ですネェ」

 

「なっ!? ゴハッ」

 

 瞬時に接近したポンメルンによる腹部への一撃。

 カタリナは抗うことなく意識を落とした。

 

「カタリナ!?」

 

「クソッ、いきなりやってくれるじゃない!」

 

 自分達の懐へと飛び込んできたポンメルンを見て、ゼタの心に火が付いた。

 たった一人で自分達とやり合う気でいるとは嘗められたものだと。怒りをチカラへと変換しアルベスの槍が火柱を噴き上げる。

 

「はぁあ!」

 

「甘いですネェ」

 

 振るわれた槍を剣で防ぎ、ポンメルンは後退。

 距離を取り、グラン達と再び対峙する。

 

「貴様も強かになったな、ポンメルン。僅かな隙をついての不意打ち。それに、そのチカラは魔晶か? 随分強く成ったと見える」

 

「さすがに七曜を冠する貴方程ではありませんがネェ。とは言っても……今の貴方であればまだ何とかなりそうですが」

 

「チッ。さすがに見抜かれているか」

 

 己の身体の状況を見抜かれていることに、アポロは小さく舌打ち。

 疲弊したグラン達。森を幾日も彷徨い、とてもまともに戦える状態ではないアポロ。

 ゼタの攻撃も難なく防がれたことから余力がないのは火を見るより明らかである。

 先に把握した通り、まともに戦えそうなのはスツルムとドランクぐらいであった。

 

「その体でまともに動けていることが脅威だと私は思いますがネェ。普通であれば倒れていておかしくありませんよ」

 

「スツルム、ドランク。仕事の時間だ」

 

「わかっているさ」

 

「当然だよね~ちょっときつそうだけど」

 

「貴様らは援護に徹しろ。生半可では手痛い反撃を受けるぞ」

 

 冷静に判断を下したアポロは二人の従者に任せた。

 前に出ようとするグラン達を抑えて、後ろに退けさせる。

 

「ですが、それではお二人が……」

 

「ジータさん。今の私達が前に出るべきではありません。援護に徹しましょう」

 

 心配の表情を浮かべるジータを制して、ヴィーラはシュヴァリエのチカラを用いて援護の体制に入る。

 それを見てグラン達も援護体制を取り、いつでも動けるようにポンメルンを見据えた。

 

「ふむ……やはり私だけではどうにも荷が重いですネェ」

 

「今更何を言っている。先に手を出してきたのはそっちだ。悪いがやられたらやり返す主義なんでな」

 

「逃げられると思わないで欲しいなぁ~元々帝国のやり方は好きじゃなかったから……今日は本気でやらせてもらうよ」

 

 怒気を混ぜたスツルムと、お茶らけた雰囲気を消したドランク。

 二人が全力で戦う様子を見せて、グラン達は息を呑んだ。

 激戦を潜り抜けたことで強くなった自信があり、嘗て彼らと敵対していた時の事から彼らの実力を把握していたつもりであった。

 だが、違う。二人はこれまで一度たりとも本気で戦う姿を見せてはいなかった。

 

 二人に垣間見えるのはセルグ同様に、殺気を見せた闘争の意思。相手の命を奪う戦いに臨む姿勢。

 それが二人の気配を鋭く際立たせている。

 

「――行くぞ。ドランク」

 

「了解。スツルム殿」

 

 態々攻撃に移る事を知らせる愚策を取りながらも、言葉によってきっかけを作り出し、二人は動いた。

 詠唱破棄の小規模の魔法をドランクが牽制で打ち放ち、スツルムはショートソードを抜いて接近。

 

「はぁ!」

 

 紅蓮を纏う剣がポンメルンを襲う。

 スツルムの一閃はセルグ同様の斬撃の投射。それを直接斬りつけながら行うことで、多重の斬撃を可能とした彼女だけの接近戦。

 一度に二度斬りつけることができる彼女の斬撃を、しかしポンメルンは防御ではなく回避で対応。

 

「ドラフにしては鋭い攻撃ですね。もう少し力任せかと思いましたが……」

 

「あまり私を怒らせるなよ。男共みたいに全部が全部鈍重だと思ったら大間違いだ!」

 

「これは失礼。ですがそちらもあまり私達を甘く見るべきではないかと」

 

「何?」

 

 視界のはずれで何かが閃く。

 危険を感じ、瞬間的に回避行動をとったスツルムの居た場所に銃撃の嵐が見舞われる。

 

「スツルム殿!? マズッ!」

 

 集中して魔力を操り、ドランクは銃撃に晒されそうなスツルムを水の障壁で防御。

 大切な相棒を守り抜き、すぐに銃撃の出所へと目を向ける。

 ポンメルンの背後。大きく距離を取って、幾人もの兵士が彼らに銃を向けていた。

 

「これだけ距離を取れば魔法や銃による攻撃も簡単ではないでしょう。こちらの攻撃も届きにくいかもしれませんが。私の目的は貴方たちを倒すことではありませんからネェ」

 

「やってくれる……自分を前面に押し出して兵士たちの援護を徹底的に受けるか。厄介だな」

 

「さすがにあの数の援護を退けながらは厳しいかなぁ」

 

 一度距離を取った二人が後ろの援護部隊を睨みつける。

 ポンメルンとて簡単な相手ではない。目の前で集中しなければいけない相手であるのに援護を気にしなければいけないのは致命的だ。

 

「あの男が向かったというのに余裕だな。時間稼ぎが目的か? 一体何を考えている?」

 

 グラン達を倒すのが目的ではない――――

 ポンメルンの言葉に疑問を覚えたアポロが問いかけた。

 後ろに多くの兵士を並べておいて殲滅に来たわけでもないとはどういうことなのか。

 疲弊した現状では危うい状況であるグラン達にも冷や汗が伝う。

 

「貴方たちとぶつかり合えばこちらの被害も甚大になるでしょう。わざわざ兵士達を犠牲にする必要はありませんからネェ。私の役割は少しの時間を稼ぎ、彼らの撤退時間を稼ぐこと。

 それともう一つ。先も言いましたがあまり私達を甘く見ない方が良いですネェ……あの男が一人で向かったところでできることなどたかが知れています。本国へと向かう高速艇へ砲撃の嵐を掻い潜りながらたどり着けるとはとても思えません、ですネェ」

 

 瞬間グラン達の血の気が引く。

 アマルティア突入の際に受けた砲撃の嵐が思い起こされ、そこにヴェリウスに乗ったセルグが突撃していく姿が思い浮かんだ。

 ルーマシーに突入する際に見た戦艦は二隻。それだけで砲撃の量はアマルティアの二倍になる。

 当たれば墜落は必至。アマルティアでは分散されていた狙いがセルグ一人に集中することを考えれば。当たる事も必至となるだろう。

 

「マズイ、急いでグランサイファーに戻ってセルグを――」

 

「隙を晒すな小僧! 背中を見せれば撃たれるぞ!」

 

「だけど、それじゃセルグが!?」

 

「行きたいのならどうぞご自由に。こちらも悠々と撤退できます。それに今から行こうと、決して間に合いはしない。突撃する彼を救うことも、回収艇に追いつくこともね。我々は被害なく撤退できればそれで良いのですよ。下手に貴方たちを撃ってここで怒りを買う方が恐ろしいですネェ」

 

 僅かに勝ち誇った顔。ポンメルンの言う通り、既にここでグラン達が何をしようと結果は変わらない。

 帝国はアーカーシャを確保し、フリーシアの野望はまた一つ手の届くところへと近づいた。

 それに合わせて、セルグは命の危機に陥っている。

 グランとジータは迷う事無く、今できる最善の選び出す。

 

「スツルムさんにドランクさん。殿(しんがり)をお願いします。ゼタさんとヴィーラさんでその援護に」

 

「ルリア、星晶獣でカタリナを頼む。僕たちは全速力で艇に戻ろう。急ぐよ!」

 

 反論の余地はない。答えを返す暇すら惜しい。

 一斉に動き出したグラン達は全力でグランサイファーへと駆けだした。

 殿を受け持ったスツルムとドランクは、ポンメルンの動きを警戒しながら後退しようとするが、二人の前に静かに人影が躍り出る。

 

 ”――――!”

 

 背後にチカラを感じてグランが振り返ると、そこには木々を操り、グラン達の背を守る星晶獣の姿。

 

「――ユグドラシル。あなた、何を無茶なことを!?」

 

 ”――――♪”

 

 コアに散々負担を掛けられたユグドラシルにチカラなどほとんど残っていないはず。

 現にロゼッタは身体を動かすだけで精一杯である。

 グラン達の為に動いたユグドラシルを慌ててロゼッタは止めようとするが、ユグドラシルは小さく微笑んでそれに応えた。

 

 凛とした鈴の音のような言葉がロゼッタに伝わる。

 迷惑をかけた。守ってもらった。

 だから今度は自分の番だと。

 

「――――全く。戻ってきたら少しお仕置きよ」

 

 ユグドラシルの頑なな意思を伝えられ、ロゼッタは小さく毒吐くとグラン達と共にグランサイファーに向け走り出した。

 幸いにも背後で大きな音は聞こえない。

 ポンメルンの言った事は正しく、彼らは無事に撤退できれば良いのであろう。

 そこに戦いの気配が巻き起こることはなかった。

 

 

 

 

 ”きっと大丈夫”

 

 

 

「え?」

 

 微かに聞こえた音の中に微かな言葉を聞いた気がして走っていたグランが呆ける。

 

「どうしたんですかグラン?」

 

「いや、なんか声が聞こえた気が……」

 

「こんな時に気の抜けた声出さないでよ。急がないとセルグさんが危ないかもしれないんだよ!」

 

「うん、ごめん。とにかく急ごう」

 

 ルリアとジータに応えながら、グランは気にしていた背後を振り返らずに走り始める。

 

 

 走る彼らの前を、植物たちがが避けてくれていた……

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「あれだ! 一隻だけ動き出している。アーカーシャの気配もあれから出ている。追うぞ、ヴェリウス!」

 

 戦艦と戦艦が陣取るその背後。

 一隻だけ進路を取り、動き出そうとしている騎空挺を見つけて、セルグはヴェリウスと共に空を駆け抜ける。

 

「射線を取らせるな! デカいのはオレが打ち払う!」

 

 セルグの声を聞くと同時に、ヴェリウスは急降下。

 戦艦の下方へと回り込み、狙える火砲を制限させる。

 撃たれたら危険な大きい砲門に狙いをつけ、セルグは多刃で迎撃。

 砲門を潰してその場を切り抜けようとするが、それよりも回避を優先するヴェリウスの動きで狙いが取れない。

 

「クソッ、大技の攻撃で落とす。直上に行けないか!」

 

 ”落下とは違うぞ若造。いくら我でもそんな速さで上昇することはできん。のんびり羽ばたいている間にハチの巣になる”

 

「チッ! だったら……」

 

 瞬時に天ノ羽斬を納刀。風火二輪を抜き、セルグは狙いをつけずに射撃。

 全力の射撃を幾度もぶち込み、艇体に衝撃を与え始める。

 

「これは牽制だ。本命は……」

 

 またも瞬時に切り替えて天ノ羽斬を握る。打ち放つは全てを断つ一刀。

 

「絶刀招来、天ノ羽斬!」

 

 巨大な斬撃の投射が戦艦を襲う。だが――――戦艦は衝撃を受けるだけに留まり、断たれて墜とされることはなかった。

 

「威力不足か!?」

 

 本来であれば断ち切れるだけの威力を誇るセルグの奥義も、既に幾度も撃ち放ち、ヴェリウスの本体からの援護もなしでは威力の減衰は激しい。

 精々が己を狙う砲撃の嵐をいくつか迎撃するだけに終わった攻撃にセルグが唇を噛んだ。

 

「ヴェリウス……一点突破だ。全てを掻い潜り、戦艦の間を抜けアーカーシャを乗せた艇を追う!」

 

 ”それは無謀が過ぎるぞ若造! いくら我でもこの火砲を潜り抜けるのは不可能。お主とて遠距離が主体のスタイルではない。このままいけばむざむざ死ぬだけだとわからんか!”

 

「アーカーシャを持ち去られているんだぞ! これを逃せば、どうなるかお前だって理解しているだろう!」

 

 ”自重せぬか! まだ蒼の娘がいる。星の民の娘もだ。カギとなるのはこちらが握っているのだ。ここで無理をしてお主を失うことがどういうことかお主こそ理解しているであろう!”

 

「だがっ――――クソッ! 何て失態だ! みすみすアーカーシャを渡すなどと……」

 

 ヴェリウスが砲撃を回避しながら、追うことを諦めないセルグを窘める。

 ヴェリウスの言葉に言葉を詰まらせたセルグは、抜刀したばかりの天ノ羽斬を納刀し、ただ去っていく騎空挺を見送った。

 

 ”これまでだ……いくら吠えようと、我は行かぬ。お主は自身の命をまた擲つつもりか? そんな事、我も小僧共も許しはせん。落ち着くのだ。ここは引いて対策を練るべきであるぞ”

 

 砲撃の届かぬ場所へと引き返し、ヴェリウスは既に突撃することを諦めた。

 その意思を感じて、セルグもヴェリウスを労うように一撫ですると、大人しくその背に跨る。

 

「――奴もバカじゃないはずだ。ルリアやオルキスなしで何とかする方法を考えているかもしれん。ここで逃したことは大きいぞ……」

 

 ”我もそれは理解している。それでもお主には小僧共がいるはずだ。まだ挽回はできよう……これ以上己だけで何とかしようとするのはやめよ”

 

「――――そう、だな。悪かった、無茶を言って」

 

 ”今更だな。もはや慣れた事よ。気にするでない”

 

「フッ、言ってくれる――――戻るぞ、ヴェリウス」

 

 ”心得た”

 

 帝国戦艦が不動を保っているのを尻目に、セルグとヴェリウスはルーマシーへと帰還する。

 途中で飛び立つグランサイファーを見つけ、無事に合流したセルグは、一人で突撃したことでお約束の説教を仲間達から受け、二度の意気消沈を味わうことに成るのだった。

 

 

 

 空の破滅が、足を忍ばせ這い寄り始めていた…………

 

 

 




如何でしたでしょうか。

ほぼオリジナルで構成されたルーマシー帰還編。
といってもアマルティア激闘編もオリジナル一色だった気がしなくもない。

さてさてルーマシー編も終わり、少し幕間を挟みつつ、クライマックスに向けて仕上げていく所存です。
どうぞ今後も乞うご期待という感じです。
更新頻度は今回くらいが限界になりそう(お許しください)

それでは。お楽しみいただければ幸いです。

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