granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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一か月以上の更新停止は初めてでした……お待ちしていた皆様申し訳ありませんでした。
何分仕事が変わり、大きく執筆に割ける時間が減ってしまったため、停滞の一途をたどっております。

本当は二週間くらい前に一度仕上がりそうでしたが、修正もあり断念。
やっとの思いで書きあげました。

長い間を開けて作風が変わっていないか大いに心配ですが、どうぞお楽しみください。
ルーマシー帰還編のクライマックスといったところです。どうぞ


メインシナリオ 第47幕

 木の根が蠢き、茨が走る空間を駆け抜ける。

 矢の如く疾走するセルグとアレーティアは、ラカムとオイゲンの援護を受けて異形の大樹の本体へと突撃していく。

 迎撃は最小限。背後からもたらされる援護に脅威の撃退を任せ二人は先にいる救うべき仲間を見据えた。

 作戦の本命はグラン達による同時攻撃……だからと言って気を引くための突撃だけでは物足りない。走り抜ける二人の思惑は同じである。

 

「アレーティア……まさか効きませんでした、で退く気は無いんだろ?」

 

 直ぐ背後に追従するアレーティアへ声をかけるセルグの声音には、多分に挑戦的な意図が含まれていた。それに応えるアレーティアの声もまた自信と覇気に満ち溢れている。

 

「当然じゃろう。一撃目がダメなら二撃目。それでもだめなら効くまでやるぞい」

 

 狙うはグラン達の本命がなくとも魔晶の檻を破壊するだけの攻撃。ただ大樹の意識を引き付けるだけの攻撃だけで在っては注意を引き切れないかもしれない。

 だからこそ走る二人は本命を決めるつもりでの気概で攻撃する気でいた。

 

「道を拓こう……すぐに続く」

 

「ならば貫いてみせよう。お主が必要なくなるように」

 

 互いに浮かべた僅かな笑みに、思考が重なった。

 細かい攻撃を背後の援護に任せセルグは目の前に現れた巨大な咢を見つめる。行く道遮るそれを破壊するためにセルグは足を止め、アレーティアは意に介さずに走り抜けた。

 

 

「斬撃では破壊しきれない。ならば……」

 

 得意の奥義は剣閃。線の攻撃であり目の前の巨体を破壊するには足りえない。必要なのは驚異的な威力を誇り、尚且つ面での攻撃をできる技――――

 

 その解決策をセルグは既に得ていた。

 呼びかけた本体のヴェリウスよりチカラを受け取ると、それを即座に天ノ羽斬へと移す。全開解放と同時に解放された光と闇のチカラが荒れ狂うそれは、島に突入する時と同様一撃に全力を込める形。

 準備万端となったセルグは、それを弓なりに引いて構えた。

 

「絶”槍”招来、天ノ羽斬!!」

 

 瞬間光が奔る――――

 

 見えない剣閃同様に振るわれたのは、刺突…………本来であれば点の攻撃であるそれは、点である範囲をそのまま広げて目の前の巨大な咢を跡形もなく粉砕した。

 

 

「ううむ、さすがにやるのう」

 

 意気揚々といった声のアレーティアは目の前で砕け散った咢を見ると、足を早めながら呟いた。

 あの巨体を破壊するのに剣士であるセルグがどう対処するのか――――できることを疑うことはなかったがその手段はアレーティアには思いつかなかった。

 接近戦を主とする剣士にとって面での攻撃とは簡単ではない。再生力が高く、粉砕するしかない巨大な咢は、アレーティアでは破壊できない存在なのだ。

 それをセルグは、剣閃ではなく刺突にすることで帯状に広がる斬撃を限定し、面での破壊を可能としたのだ。

 そんなセルグの活躍を見てアレーティアの体にもチカラが漲る。

 

「往くぞ! 星と空が混ざりし獣よ!」

 

 力強く声を上げ、大樹を支える太い根を足場に、アレーティアは跳躍。

 せっかく前に出させてもらったのだ。一太刀でも多く浴びせねば、チャンスを作ってくれた若者に申し訳が立たないというもの。

 魔晶の檻の前へと躍り出たアレーティアは、己の攻撃を防いだ壁を前に、再びその剣技を研ぎ澄ます。

 ”急”の発動で乗せたチカラ、そこに加えられる熟練の太刀筋。魂を込めた二刀による剣戟が始まる。

 

「はぁあ!!」

 

 白刃一掃。剣に付与されたチカラが咆哮を上げ魔晶の檻を打ち砕かんとする。

 だが、それは既に試された行程…………結果は依然として変わらない。ならばどうする――――

 

「なめるでない!!」

 

 交差した剣閃からアレーティアは動きを止めなかった。

 一振りでだめなら二振り。更にだめなら届くまで……前言のとおりにアレーティアは己が誇りたる剣技をぶつけ続ける。

 踏み込みと体の回転を加えた二刀同時の薙ぎ。そこから左右不同の剣戟の乱舞。

 彼の技である”破”。それを手数そのままに一閃一閃、渾身のチカラが込められたアレーティアの技は魔晶の檻を削り始めた。

 ビィにより託されたチカラと、彼の人生が培った剣技が魔晶の防御力を上回ったのだ。

 

 全身全霊の攻撃に脅威を感じた大樹は動く。すぐそばに噴出するように現れたのは新たな木の根の迎撃網。本体の目の前で戦うアレーティアにはその防衛力の全てが注ぎ込まれるだろう。

 

「相手は儂だけではないぞい!」

 

 だが、アレーティアの動きに変化はない。いくら大樹の攻撃が向けられようがアレーティアの攻撃は止まることがない。

 

「年寄りが目の前で頑張っててサボれるかってんだよぉ!」

「駆けよ、風火裂槍!」

「任せなアレーティア!」

 

 ラカムの炎の銃弾がアレーティアの右を。セルグの炎の銃弾が左を。オイゲンが打ち漏らした全てを悉く潰していく。

 後方からの援護を疑うべくもない……今のアレーティアにとって成すべき事は、全てをこの攻撃に傾けるのみ

 仲間の援護に力をもらったアレーティアの剣に再び地のチカラが滾る。

 削りは順調。今一度奥義を打ち放たんと全力の連撃で疲れた体に鞭を打った。

 

「今一度味合わせてやろうぞ、儂の奥義をな!」

 

「ラカム、アレーティアに合わせてぶち込め!」

 

「おうよ!」

 

 セルグの風火二輪によるチカラの増加と同時にラカムは狙撃体制へ移行。

 天ノ羽斬を再び抜刀したセルグは、オイゲンと共に多刃による迎撃で全ての攻撃を潰していく。

 アレーティアの剣が鳴動し、ラカムの銃が炎を吹き上げた。

 

「喰らえ、白刃一掃!」

「ぶち抜け、デモリッシュピアース!!」

 

 渾身の一振り。砲撃と見まがうほどの銃撃。

 グランの作戦通りの同時攻撃が。男たちの魂を込めた攻撃が。今本命に先んじて放たれるのだった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「おぉらぁ!」

 

 響き渡る轟音には目もくれず、ゼタが槍を振るう。

 既にサウザンドフレイムによる炎の壁で焼き尽くした回数は、片手では数えられないくらいにはなっているだろう。消耗を恐れてゼタはアルベスの槍に炎を纏わせ切り伏せる事に傾注した。

 

「ヴィーラ! そっちは大丈夫?」

 

 視線を向ける余裕は無く、ゼタは後ろ手に声をかけ逆側で防衛を続ける相方に声をかけた。

 

「シュヴァリエもいる以上、私よりゼタの方が苦しいのではありませんか。こちらはまだ問題ありません」

 

 言葉とは裏腹に僅かな忙しなさが声に垣間見えて、ゼタはヴィーラの状況を察する。

 先ほどからゼタの側で打ち漏らしが増え始め、カタリナの援護が多くなってきている。恐らくヴィーラはその分だけ一つも通すまいと全力で剣を振るっているのだろう。

 思いの他前衛の引きつけが上手くいっていない…………前方ではしゃいでいる男共に胸中で悪態を吐きながらゼタは思考を回した。

 こちらの狙いに気づいているのか? やたらと前衛よりも後衛である自分達に攻撃を回してきている気がしていた。

 確実な防御ができなくなり始めたのは、本当につい先ほどからだ。魔力を高めて集中しているジータとイオを察知したのだろうか。

 幾つかの可能性がよぎるも、だからと言ってどうこうする事ではないとゼタは再び迎撃に集中する。

 こちらに気づいていようと、飛び立って中空より機を見計らっているグランとルリアには気づいていない。大樹の手が空にまで伸びていないのがその証拠だ。

 ならばやることは変わりはしない。このまま守り抜いて、全力の攻撃をアシストするだけ。

 

「リーシャ、あとどれくらい!」

 

「もう少し接近します。距離が遠くなれば防御される可能性もある……ですが、あと少しです!」

 

 必要なのは魔晶の檻を正面に捉えることができ、尚且つセルグ達が注意を引きつけているその背後。

 相手の防御はセルグ達が払い、何の障害もなく魔法を撃ち放てる絶好の場所への移動である。

 

「わかった! カタリナ、こっちはもう大丈夫。ヴィーラを助けてあげて!」

 

「…………了解した。だが、無茶はするなよ!」

 

 ゼタの雰囲気の変化に何かを察したか、カタリナは、僅かに押され始めていたヴィーラの援護に回る。

 駆け足に必要なことだけを告げたゼタは、一つ集中の深度を増した。

 それはいつだか体得した集中の境地――戦闘に100%集中した理想の戦闘状態。

 チカラの消耗も疲労もそこそこ溜まってきている中、それでも全てを潰すためその身を戦いの意思に委ねる。

 防衛戦でありながら殲滅戦。迫りくる全てを叩き潰す、彼女らしい全力の攻撃モードへと。

 

「いくわよ」

 

 小さく呟いた言葉をスイッチにゼタの動きが変わる。

 振るわれた槍の軌跡に炎を奔らせ、ゼタは迫りくる攻撃の悉くを焼き払い始めた。

 迫りくる攻撃を見据えて瞬時に走らせるは、最適効率の軌跡を描くアルベスの槍……サウザンドフレイムによる力任せの殲滅ではなく、その腕で槍を振るうだけの最も消耗の少ない戦い方だ。

 

 もっと早く、もっと細かく。

 

 そんな思考が見えそうな程に洗練された槍の動きは、いとも容易く大樹の攻撃を捌いていく。

 だがそれでは、手の届く範囲しか……正確に言えば槍の届く範囲しか守れない。

 案の定、彼女の攻撃範囲を逃れジータ達の元へと向かおうとする不届き者たちが増えた時、彼女は小さく笑った。

 

「それをさせる程、お優しくはないわよ!」

 

 地面に突き立てたアルベスの槍から炎が伝わり火柱を上げる。

 消耗の少ない戦法で燻った彼女の魂の咆哮が形を持ったかのように、ゼタの目の前には横一杯に広がる炎の壁が噴き出した。

 疲労と消耗の少ない技巧の槍と、それを補うための大技――――チカラの放つタイミングを見定め、的確に戦う戦闘法はこれまでの大雑把な彼女の戦い方ではなかった。

 彼女が真に体得したのは集中の境地ではなく、最適効率でチカラを振るうための思考に基づく丁寧な戦い方だった。

 

「この程度じゃ、私は抜けないわよ! さぁ、どんどんかかってらっしゃい!」

 

 挑発じみた声が伝わったか、ゼタの元へと攻撃が集中する。

 狙い通りと言わんばかりに舌なめずりをしながらゼタは更に己の神経を研ぎ澄まし、戦闘の練度を上げていく。

 自分に集中してくるのならこれほど楽なことはない。目的は後ろに控える魔導士達の防衛なのだから……

 一つたりとも抜かせるわけにはいかない、ギリギリの綱渡りのような状況を楽しみながら、ゼタは小さく派手に舞い続けた。

 

 

 

 

 

「フフフ、頼もしい事この上ないですね」

 

 ゼタの奮戦を背後に感じ、迫りくる攻撃を切り払いながらもう一人の防衛ラインが小さく笑う。

 大きくはないが、凛として力強い声は、彼女という存在を如実に表していると言えよう。リーシャ同様に聞くものに強さをくれそうなその声に、押され気味であったヴィーラの意識も切り替わる。

 

「――――ッ!?」

 

 突如胸中に膨れてきた違和感に、ヴィーラは意識を持っていかれた。

 己の中に伝わるのは、何やら煩いくらいに主張するシュヴァリエの意思。一体何だと戦いながらもその声に耳を傾けたヴィーラは、シュヴァリエの意思を聞く。

 

「なるほど……確かに、今の私達なら問題はありませんね」

 

 具体的な言葉を聞いたわけではない。だがそれでも、シュヴァリエは明確にヴィーラへとその意思を告げてくれた。

 同じ轍は踏まない。もっともっとチカラを使ってくれ……と。

 シュヴァリエはアルビオンの主とずっと共に在った、いわば忠義の騎士だ。その意思は明確にヴィーラを想い、ヴィーラを助けようとしている。

 もしかしたら前線でチカラをもらっているセルグとヴェリウスを見た対抗意識もあるかもしれないが、とにかく今のシュヴァリエにとって、ここは主の力となる奮起の時。

 

「ならば、チカラを貸しなさい、シュヴァリエ!」

 

 決心したヴィーラの声に応えるように更なるチカラが顕現する。周囲に漂っていたシュヴァリエの加護をもつディバインウェポン達とは別に、幾つも浮かんだ光が形を成し、小さな羽の生えた宝玉が周囲に幾つも顕現する。

 シュヴァリエのチカラを宿した”プライマルビット”――敵を迎撃する数多の端末となったそれは、ヴィーラではなくシュヴァリエによって制御され、幾多の光条が彼女を襲う全てを撃ち払う。

 

「これならもう少し奮えそうです。そうでしょう、お姉さま?」

 

「いや、それはそうだが――――その妙な笑い方はやめてくれないか? いくら私でも、その目だけ笑っていない表情は不気味の一言に尽きるのだが……」

 

 駆け付けたカタリナは問いかけられて戸惑う。

 表情と声音には多分に笑いがこみあげているというのに、目だけは笑っていないヴィーラの様子に、カタリナは僅かな不安がよぎった。

 だがそれは杞憂というもの。今のヴィーラは狂気を顔に張り付けながらも正気であった。

 

「ご心配なくお姉さま。既に飼いならしております。あとは存分に振るうだけですわ」

 

「そ、それならいいのだが」

 

「つきましてはお姉さま。少し協力いただけますか?」

 

「協力?」

 

 突然の申し出にカタリナが疑問を浮かべる。

 互いに背中を守りながら、迎撃しているこの状態で既に協力と言える。一体何を求めてくるのかと思考したところでヴィーラの笑みは不気味なものから別の笑みへと変わる。

 

「このままでは埒があきません。相手の再生力は驚異的……であるなら、全てを一掃し、一気に押し進みましょう」

 

 凶悪な攻めの意思が見える笑み。チンピラ風情では震えあがる事間違いなしの、その表情はセルグの自信に塗れた笑みと同じ気配を醸し出していた。

 少しだけ呆けたカタリナは、ヴィーラの様子に小さなため息を一つ。

 

「――全く。最近セルグに感化されてきていないか? これまでの君であったなら、戦闘中にそれほど凶悪な顔はしなかったぞ」

 

 いやいや、それはねーっす。っとどこかから聞こえる気がするのはさておき、カタリナの言葉にヴィーラは一つ雰囲気を柔らかくして答える。

 

「お姉さまも言ってくれたではありませんか? 私に幸せになれと……今の私はとても幸せですよ。愛しきヒトと親しきヒトが傍にいるのですから。

 友が背中を守り、あの人が前線で奮起しているのですから、ここで奮わなくては顔向けできません」

 

 共に並び立ち、共に歩みたい。その想いがヴィーラの心を滾らせる。

 視界の中で奮戦するのは親しき友に愛するヒト。これまでカタリナ以外の全てを有象無象としていたヴィーラにとって新たにできた大切な人達。

 セルグへの愛が、ゼタへの友愛が、カタリナへの親愛が。負けるものかと奮い立つヴィーラの意思を汲み取り、付き従うシュヴァリエのチカラが吠える。

 セルグ同様に危惧していたヴィーラの未来への不安がここに来て消え去る。カタリナの胸中は憑き物がおちたように、晴れやかになった。

 

 

 グラン達と旅を共にしてからもヴィーラに大きな変化はなかった。昔と変わらず、カタリナ一筋であり、カタリナに付き従うに等しかった。

 それがどうだろう。カタリナ以外を受け入れることのできなかったヴィーラは今、それ以外の他者の存在を受け入れ肩を並べている。

 全てを語らせたあの日から。愛する人と友を得たあの日から、ヴィーラは大きく変わってくれた。

 

「本当に――――君もセルグも、良きパートナーとなったようだな」

 

 似たもの同士であったセルグとヴィーラ。共に己を殺し、他者に捧げる共通点のあった二人は奇しくも、互いが互いに大きな変化を与え合っていた。

 カタリナから自然と漏れた声は、この戦場にはそぐわない程優しさに満ちている。

 

「ならば頼れる姉として、ここは快く引き受けよう――薙ぎ払うぞ、ヴィーラ!」

 

「はい!」

 

 並び立つ二人の騎士が剣を振るう。蒼と黒、そして白の剣が閃いた。

 その軌跡に魔力の刃が次々と残されていくのを見ながら、二人は幾度となく剣を振るう。

 高密度にその場で増え続ける蒼と黒、そして白の魔力刃。更にはシュヴァリエのプライマルビットも射撃体勢に入り、準備は整った。

 

「お受けなさい、我らの奥義を……」

「その身に刻め、我らの意思を……」

 

「「トリニティ・ネイル!」」

 

 振るわれる剣は指揮棒(タクト)のように。二人の指揮の下、解き放たれた魔力刃が戦場を蹂躙する。

 その様は宙に走る流星群のように。煌びやかな凶刃が幻想的な光景を作り出しながらも、彼女等に迫る脅威の全てを撃ち落としていく。

 

「リーシャ、進んで!」

「今が好機です!」

「ジータ、イオ! ロゼッタを頼む!」

 

 道は開けた。彼女たちを阻んでいた脅威は消え、前線で奮起しているセルグ達の攻撃もあり、大樹の再生は追いついていない。

 

「わかりました。お二人とも行きますよ!」

「ありがとうございました~」

「ありがとう三人とも、必ず助けて見せるから!」

 

 夥しい大樹からの攻撃を一掃した三人からの激に、リーシャ達は歩みを一気に進めた。

 大樹の中心にあるコアを、正面に捉えた絶好の攻撃位置。

 これまでひたすらに己の魔力を高め続けたジータとイオも準備は万端。

 

「お二人とも準備は良いですか!」

 

「は~い」

 

「任せて!」

 

「それでは、行きますよ!」

 

 間延びした声と気合に満ちた声を聞いたリーシャは満を持して、合図の光を空に打ち上げるのだった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 森を抜け、上空で待機していたグランとルリア。

 既に待機を始めてからそれなりの時間が経っており、嫌が応にもルリアは落ち着きなくそわそわし始めていた。

 

「グラン…………皆さんは大丈夫なんでしょうか?」

 

 天星器を持つグラン、とジータ。そして強力な魔法を放てるイオを除いて、大樹の攻撃を全て迎撃。つまりはこれまでの負担は全て他の仲間達にかかるのだ。

 一杯一杯の状況であったそれまでの戦闘から考えると、苦戦するはずだ。忙しなく森の中へと視線を走らせるルリアの様子は焦燥に駆られている。

 

「大丈夫だルリア。皆を信じよう」

 

「で、でも……」

 

 ”落ち着くのだ小娘。セルグに何かあれば我にも多少は伝わってくる。今のところその傾向はなさそうだ……己がすべきことに集中せよ”

 

 落ち着かぬルリアを窘めるのは、セルグの様子が僅かに伝わってくるヴェリウスだった。

 普段とまるで変化のない落ち着いた声はルリアの焦燥を意に介しておらず、ヴェリウスの言葉にルリアも、そして僅かに不安を感じていたグランも落ち着きを取り戻す。

 

「本当に大丈夫なのか、みんなは?」

 

 ”全てを知ることができないのは我も同じだ。だが、ここで焦ろうと安否を気にしようと我らにできることはない。落ち着き、時が来た時に失敗せぬようにすることしかできぬのは変わるまい。小僧は今皆を信じると言ったであろう。ならば信じよ、お主等の仲間とやらを”

 

 ヴェリウスも下の状況を全て把握できるわけではない。ヴェリウスにとってもセルグの安否というのは気がかりな部分はあるのだろう。

 だがそれを押し殺して、今すべきことをする。ここで心配だからと無為に動いては作戦の全てを台無しにしてしまうのだ。

 落ち着いて機を待つヴェリウスの言葉にグランとルリアも改めて頷いた。

 

「わかりました……私は召喚の準備に入ります」

 

「うん、僕はリーシャさんの合図がすぐにわかるように見張っておくよ。ヴェリウス、合図が来たら頼むよ」

 

 ”落ち着いたようだな…………案ずるな。若造が居る以上、下で滅多なことは起こるまい。奴には既に本体からの加護があるのだからな”

 

 少しだけ気持ちの上がった声。心配はあろうと、既に必要なチカラは持っているセルグに大きな心配は無用だといったヴェリウスの思いが垣間見えた。

 

「そう……だね。セルグがいて皆がいるなら、どんな危険だって乗り越えられる。だったら僕達は、託された想いに応え――――」

 

 グランの言葉が止まる。

 目の前に上がるのは緑の光。リーシャが合図に打ち上げた魔法の狼煙。

 瞬間、グランの思考は切り替わる。

 

「合図だ! ヴェリウス、頼む! ルリア、しっかりつかまって!」

 

 ”往くぞ小僧共、振り落とされるでないぞ”

 

「はわっ!? お願いします!」

 

 三者三様の反応を示した後、即座にヴェリウスは森へと急降下。自由落下の速さに、翼による制御を加え、目標地点へと一気に落ちていく。

 グランとルリアは、耳元で空気が唸るほどの速さの中それでも目を開いて落ちる先を見つめた。

 

 暗がりの森の中、その視線の先に徐々に見えてくるのは閃光と爆音が飛び交う戦場の一点。

 赤黒い魔晶の檻に覆われた大切な仲間が遠目に見えてきたところで、大樹はグラン達の気配を察知する。

 

 ”まずいぞ! しっかり掴まっていろ!”

 

 ヴェリウスの声の直後にはグランとルリアの身体が大きく揺さぶられる。

 空に向け伸ばされたのは茨の迎撃網。向かってくるそれをヴェリウスが隙間を縫って躱していく。

 躱された茨はそのまま伸び続けて、今度はヴェリウスを追従し始める。

 流石にノーガードとはいかない。迎撃の攻撃にグランとルリアは肝を冷やしながらも、ヴェリウスを信じて動く時を待ち続けた。

 

 ”森の中に入る直前で放り出すぞ! 覚悟は良いな!”

 

「うん!」

「ハイ!」

 

 有無を言わさぬ声音にも臆さず、二人は応えた。既に森は目の前。ルリアは、離されないようにとグランにしがみつき、グランは剣を握る手と逆の手でルリアの手を握った。

 

 ”往け、ヒトの子らよ!”

 

 木々の中へと突入する直前、ヴェリウスは急停止。背中に乗っていたグランとルリアはその勢いのまま大樹の直上へと躍り出る。

 追従していた茨にヴェリウスが絡めとられていくが二人にはわからない。いや、仮に見えていようと今の二人は揺るがないだろう。

 目の前には既にターゲットが見えているのだから――

 

「行くよ、ルリア!」

 

「ハイ!!」

 

 瞳を閉じたグランが天星器を解放。同時にルリアはイフリートを召喚。

 光の剣と、炎の魔獣が魔晶で覆われたコアへと突撃していく。

 

「ッ!? まだ来るのか!」

 

 ヴェリウスを捕らえたのとは違う、茨の第二陣の追撃にグランは捌き、イフリートが防ぐ。

 大樹の必死の防衛に、ヴェリウスから飛び出した二人の勢いが落ちていく。

 

 これではジータやイオとタイミングが合わない――――

 

 瞬間的によぎる不安が襲う中、グランは傍らから強い声を聞いた。

 

「フェニックス! サジタリウス! 打ち払って!」

 

 多重召喚。負担度外視の連続召喚で呼び出された、人馬一体の魔獣と炎の不死鳥。

 渦巻く風の一矢が、灼熱の炎の身体が、二人の前に躍り出て迎撃の茨を一掃する。

 更に――

 

 

「往くぞヴェリウス! はぁああああ!!」

 

 次なる攻撃が迫るも、地上から放たれた閃光が全てを切り落とした。

 

「絶刀招来……道は開けたぞ、グラン!」

 

 突撃したグラン達を視認した瞬間にセルグは再び奥義を敢行。

 今度は範囲を全力で広げた得意の剣閃。帯状に広がった斬撃が二人に迫る脅威を切り払った。

 

 

「二人とも、今です!」

 

 機を逃さないリーシャの声に、ジータとイオが目を見開いた。

 

「行くよ、ジータ!」

 

「はーい」

 

 己に渦巻く魔力は長い時間をかけて、大きな奔流となって体中を駆け巡っている。

 魔導士達はそれを手に持つ杖へと介し、術式を構築。

 

「私の本気、くらいなさい! エレメンタルカスケード!」

 

 地面に描かれる魔法陣より生み出されしは特大の火球。貯めに貯め、集中に集中を重ねた今この瞬間だけの特大火力の魔法だ。

 

「四方より混じりて、形を成せ。 エーテルブラスト」

 

 四大属性のチカラがジータの目の前で渦巻く。混ざり合い形を成したそれは、まるで龍のように動き出す。

 

「「いっけえええ!!」」

 

 重なる声に合わせて、特大の火球と、四色に彩られた龍が大樹に向けて放たれた。

 

 

 

「往くぞ、七星剣……」

 

 七つの光点を収束。目の前に出てきたコア部分を見据えたグランが、七星剣を強く握る。

 同時に発動したレイジが己に新たな集中をもたらし、全てを知覚したグランは体の隅々からその身に宿るチカラを集約。一振りの剣に全てを掛けた。

 

「イフリート、お願いします」

 

 優しく、そして強い声で命を下すルリアに応えるように、イフリートの剛腕が炎に包まれた。

 落下の勢い。星晶獣故の圧倒的なチカラ。そして見た目に違わぬ腕力(ちから)。その全てがコアに向けられる。

 七星剣の奥義、北斗大極閃。巨大な光の剣を突き出しグランが吶喊する。

 同時にイフリートの最強技である”エグゾーストノヴァ”。炎の剛腕が魔晶の檻へと振り下ろされる。

 

 

 ぶちぬけえええええ!!!!

 

 

 

 仲間たちの意思と声が重なる。

 光の剣が、炎の鉄拳が。特大の火球が、四色に彩られた龍が。

 今、ユグドラシルマリスのコア部分へと炸裂した。

 

 




如何でしたでしょうか。

ちょっと残念?なお知らせですが、原作の方でヴィーラちゃん最終モード実装されちゃいました。
今回の話を投稿直前だったので少しビットの部分とかも盛り込みましたが、当小説内の設定とは多分に食い違いがあるかと思います。
原作ファンが多いであろう当小説ですがこちらについては訂正はしません。
(具体的に言うなら原作ではヴィーラとシュヴァリエのあれは融合のようです)
もう色々と書き進めてきている今、小説内でこの設定は織り込めないのでこれまで描かれた設定で進めていきます。
原作ファンの皆様、ご容赦ください。

次回がいつになるかわかりませんが、今度は早く投稿できるように頑張りますので、今後もよろしくお願いいたします。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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