granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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しばらく落ち着いていました。
更新再開いたします。

どうぞ、お楽しみください。


メインシナリオ 第43幕

 

 思ったより浸食が深い……まぁ、当然かしら

 

 理性も何もない狂人が行った行為に加減などあるはずがないものね

 

 何とか魔晶のチカラをこちらで肩代わりしたから崩壊は免れたけど……その代わりに私とあの子はコアの深い所で繋がってしまった

 

 押し寄せるように侵食してくる魔晶のチカラは、徐々に私を飲み込もうとしている

 

 これは思ったよりキツイ。やっぱりそろそろ年なのかしら……なんて柄にもない事考えてる場合じゃないわ。

 

 ここまで来るともう私でも抗えない。きっとあの子達には迷惑を掛けちゃう……

 

 まぁ、心配はあっても不安は無いけど……あの人の子供達がこんなところで負けるわけが無いもの。

 

 

 だから……後はお願いねグラン、ジータ。

 

 

 お姉さん、少しだけ眠る事にするわ。

 折角だから、起こすときには優しい目覚めのキスでもいただきたいものね……ラカムとオイゲンはちょっと遠慮したいから、グランかセルグがいいかしら? 

 どうせならセルグにしてもらう方が、その後が面白くなりそうね……

 

 それじゃ、おやすみなさい――――信じてるわよ

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 静かな森の中、もたらされた言葉に一行の空気が固まる。

 アマルティアより同行してきた傭兵の二人、スツルムとドランク。

 相変わらずの飄々とした雰囲気のドランクと、むすっとした仏頂面のスツルムが一行から少し離れて並び立つ姿を見て、イオが怪訝そうに口を開いた。

 

「スツルムもドランクも急にどうしたのよ。折角ここまで一緒に来たのに……なんで?」

 

 少しだけ寂しそうにも聞こえる声がイオの胸中を物語る。

 これから向かうは、成すすべなく撤退する事しかできなかったユグドラシルマリスのもと。傭兵として度々一行の前に立ちはだかり、ザンクティンゼルでは共闘した二人が抜けるのは戦力的には大きいだろう。

 大きな戦いを前にして確かな実力を持つ二人が抜けるのは痛手である。

 

「ごめんねぇ~僕たちもできるなら一緒に行ってあげたいんだけど……」

 

「私達が優先するべきは黒騎士だ。お前達が大事な仲間の下へと向かうように、私達はあの世話のかかる依頼主を早く見つけ出さなきゃいけない」

 

 二人の言葉にハッとしたようにイオは口を噤む。

 一緒に戦っていたこともあって忘れていたが、二人は黒騎士の側近であり、一行の仲間ではないのだ。

 

「――そう、でしたね。お二人とも、あくまで付いてきただけで目的は別。私達と共に行く必要もないですよね」

 

 二人の言葉に、ジータも視線を下げて寂しそうに呟いた。

 

「そんな言い方されちゃうと弱っちゃうな~。確かに君達と一緒にはいけないけど、そんな風には思ってないよ。

 ただね……あの人はたった一人でここに取り残されてしまった。僕達を遠ざけて、たった一人でオルキスちゃんを助け出そうとして、そして一人になってしまったんだ」

 

「私達は傭兵だ。正しく在る傭兵だ……金をもらった以上、相応の働きをする。お前達に協力はしてやりたいが、一人になってしまった黒騎士を、私達は何よりも優先しなければならない」

 

「またまた~そんなこと言って、あの人に情が移っちゃったんでしょ~ホントスツルム殿ってかわ――痛って!?」

 

「余計な口を挟むな――すまないな、お前達。だが、ここまで運んでもらった恩もある。黒騎士を見つけたらすぐにそっちに行ってやるさ」

 

 スツルムがドランクを突き刺しながら、一行を見回して告げた。

 傭兵だから、依頼主を優先する。そして傭兵であるから、受けた恩には報いる。ギブアンドテイクは傭兵の基本だ。

 二人の意志を汲み取り、一行の空気は少しばかり明るくなった。

 

「わかりました。期待して待っていますね」

 

 俯いていた視線を戻し、笑顔で返すジータ。そのジータの表情に安心したかスツルムとドランクは頷きをみせて、森へと歩き出そうとする。

 

「待ってくれ二人共」

 

 歩き出そうとした二人をカタリナが制した。

 出鼻を挫かれ、振り返る二人はカタリナへと視線を向ける。

 

「ん~、なんだい? 君達の為にも急いで黒騎士を探すつもりなんだけど~」

 

「少し聞かせてほしい……君達は確かに傭兵なのだろうが、何故そこまで黒騎士に尽くすのだ? 報酬分は働くと言うのは分からなくはないが、大国を相手にしてまで仕える様な義理もあるまい。幾ら傭兵として当然とは言え、君達がそこまで尽くす理由がわからない……普通の傭兵であれば手を引いているだろう?」

 

 報酬に対する働き。それは傭兵としては当然である。

 だがその一方で、命の危機がある場合にはそれを切り捨てる事も辞さない。命あっての物種とはよく言ったものだがまさしくその通りで、傭兵とは命を懸けてまで依頼をこなすような忠義の者ではない。

 二人がアポロにこだわる姿は、傭兵としてどことなく異質なものに感じられた。

 

「そんなつまらない事を聞きたいのか? 答えは私達が傭兵だからとしか言えないな。どんな依頼内容であれ報酬をもらった限りはきっちり働く。そこに尽くす理由も何もない。確かに他の傭兵では手を引くかもしれないが私達は――」

 

「ハイハイ、ストップ~スツルム殿。多分そういう話じゃないんだよね。カタリナちゃんが聞きたいのは……体裁的な理由じゃなくて感情的な理由。僕らが黒騎士との依頼をどう考えているかって所かな?」

 

「あ、あぁ……そんなところだが、ちゃんはやめてくれないか?」

 

 ドランクの呼び方に気恥ずかしげな雰囲気を見せるカタリナ。そんな彼女の様子に仲間達が俄かに笑いそうなところを、カタリナは一睨みで抑え込み、ドランクへ視線で質問の回答を促す。

 

「おぉ、こわ……まぁなんていうかね、僕らにとっては彼女もやっぱりヒトの子だったって所かな。ね、スツルム殿?」

 

「まぁ、そうだな。柄にもなく報酬以上の仕事をしてやりたいと思ったのは初めてだった」

 

 少しだけ懐かしそうな、そんな表情が二人によぎる。要領を得ない答えに一行が首を傾げる中、二人はそのまま語りを続けた。

 

 

「僕達が黒騎士に雇われたのは数年前。当時エルステ王国が崩壊しエルステ帝国ができた頃の話だよ」

 

「どこでもその話題で持ちきりだった。そんな時に馴染みの酒場の店主からとある依頼人を紹介されたんだ」

 

 二人の脳裏に浮かぶのは馴染みの酒場で次の依頼をどうするかと話していた時の事。

 酒場の主人に連れられ、二人と共に店の奥へと通された一人の女性の姿。

 その容姿からか向けられる下卑た視線やバカにしたような声も聞こえる店内を、一睨みで静める様な鋭い目つきで視線を巡らしていた。

 

「――それこそが彼女だった。あの雰囲気と目付きだけでところ構わず威嚇しちゃってて、なんていうか場馴れしていない感じが凄くてね……」

 

「カモが来た……最初は誰もがそう思った」

 

「そうそう。それでまた依頼内容もびっくりでね、ただの傭兵である僕等に側近になれって。しかも報酬は前金で全部払っちゃって……もうなんていうか引いちゃうくらいびっくりな依頼主だったよね~」

 

 呆れと苦笑交じりに語るスツルムとドランクの言葉。

 あの不遜極まりないような黒騎士の意外な過去に一行は驚きを隠せなかった。

 

「えっと……ねぇカタリナ。依頼するのに報酬払うのって別におかしくないよね? なんでドランクさん達はそんなにびっくりしたの?」

 

「ん? あぁ、違うんだルリア。傭兵に限らず依頼をして報酬を払う場合は大抵、前金で半分、成功報酬でもう半分と言うのがセオリーなんだよ」

 

「そうだ、まともな傭兵ばかりとは限らないからな。私達と違い、金だけもらって逃げる奴や、逆に依頼をこなしたのに報酬を払わない奴なんかもいる。だから報酬は普通、半分前払いが基本だ」

 

「だからこそ、彼女の行動は驚いたわけ。前金で全部出しちゃっていいの? って聞いたら、金を払った以上、報酬分は働いてくれるんだろうって……何の疑いもなく答えるんだ。僕らの様に汚れた世界とは無縁な、綺麗な世界で生きて来たんだろうなって……そんな世間知らずな彼女の実を知ったら、急に彼女が弱々しく見えちゃってね。あの目付きも雰囲気も威嚇しているかわいいワンちゃんにしか思えなくなっちゃったんだ」

 

「たかが傭兵を側近にした理由はフリーシアの息がかかっていない駒が欲しかったから……確かに当時の黒騎士の周囲は味方と言える存在がいなかったからわからなくはないが、私達には助けを求めているようにしか聞こえなかった。一人では戦えない、一人では立ちむかえない。そんな声が聞こえてきそうだった……本当に柄じゃないが、手伝ってやりたいと思ってしまったんだ」

 

 穏やかな声でスツルムが胸の内を語る。

 七曜の騎士という規格外の存在となりながら、どこまでも一つの願いの為だけに生きていた彼女を助けてやりたい。

 アポロが強くなる前の事を知っている二人だからこそ抱くその想いが、グラン達にも伝わっていく。

 

「と言うわけで、僕たちはあの手間のかかる黒騎士をさっさと助け出したいわけ、ね~スツルム殿?」

 

「あぁ、手間がかかるし、世話が焼ける。その上人使いは荒いし滅茶苦茶な事ばかりいう依頼主だが……まぁ、やりがいのある仕事だ」

 

 ドランク同様に少しだけ笑みをこぼすスツルムの様子に、一行は彼らの想いを悟る。

 報酬だけが全てではない。彼らなりの信念やプライドと言ったものが、今彼らを動かしているのだとわかったのだ。

 

 

「君達にも、信念と呼べるものがあったのだな……話してくれてありがとう」

 

「なんつーか、互いに事情を知っちまって、この先やりにくくなっちまいそうだが……」

 

「そうですね。黒騎士の最終目標がオルキスさんを復活させる事である以上、私達はいずれお二人と黒騎士。三人と敵対することになります」

 

 そう、フリーシアの野望を阻止した暁にはアポロは改めて雌雄を決すると言っていた。

 失われたオルキスを取り戻すため、今のオルキスとルリアを犠牲にすると。その為にグラン達とは戦う事になるだろうと……いずれは敵対する相手の同情を引くような過去を聞いてしまい彼らの決意が鈍る。

 

「だが今は違う。今はまだ、互いに手を取り合うところじゃ……我々は互いに、大切なものを取り戻しに来たのじゃろう?」

 

「ふふん、そういうわけだね~。ということで今度こそ僕達は行かせてもら――」

 

「待ってくれ」

 

 再度動き出そうとした二人を今度はセルグが止める。

 一斉にセルグへ視線が向いたのと同時に、嫌な予感がしてグランが先に口を開いた。

 

「まさかと思うけどセルグ。二人と一緒に行く気じゃないだろうね?」

 

 言い出しかねない。セルグならあり得るだろうとグランは問いかける。

 ここでセルグまで離脱されては戦力が大幅に下がってしまう。島に降り立つ際に見たセルグのチカラは以前と遜色ないレベルであり、ユグドラシルマリスと戦うには不可欠と言っても過言ではない。

 

「ちょっとセルグ……、まさかそんなふざけた事言わないわよね?」

 

「落ち着いてくれゼタ。……いくらオレでもそんな事はしない。だが、黒騎士をここに置き去りにしてしまった理由はオレにある。そうだろ、オイゲン?」

 

 問われたオイゲンは沈黙を返す。

 セルグのせいにはしたくはない。だが、前回のあの場において、セルグの暴走が無ければアポロを置き去りにすることはなかっただろう。

 思い起こされた娘を置き去りにした罪悪感が、オイゲンの表情をゆがませる。

 

「セルグのせいだなんて言えねえさ。あの時のお前さんには意識が無かった……体の自由を奪われていたお前さんに責められる謂われはないはずだぜ」

 

 セルグを責められようはずもない。知らない存在に体の自由を奪われ、意識すら飛んでいたセルグを仲間の誰もが責められなかった。

 だが、この男はそんな彼らの想いを否定する。

 

「それは違うな、オイゲン。あれは意識を奪われたオレと軽率な行動をした母上のせいだ。親子揃って犯した過ちだ……オレには払拭する理由がある」

 

「母上……?」

 

 オイゲンが疑問符を浮かべる。それだけにと留まらずに仲間達にも疑問符が浮かんだ。

 その瞬間、セルグはハッとしたように一度口を噤んだ。

 

「――事実上はオレの生みの親だからな……そう呼べと言われた」

 

 言い辛そうに、呟くように発した言葉に仲間達から俄かに笑みがこぼれた。ザンクティンゼルで出会った少女。事実上は確かにセルグの母親と言えるだろう少女の事をセルグが母親と呼んでいる。

 ”そう呼べと言われた”……ここらへんにセルグの照れが多分に含まれていて仲間達は一様にからかう様な笑みを浮かべる。

 

「へ~あの子の事お母さんだと思ってるんですね。ちょっと意外です」

 

「フフ、やはりセルグさんも存在は違えどヒトの子。母親は恋しいと言うわけですか。良い事を聞きました、モニカさんにも後で教えてあげましょう」

 

 ジータとヴィーラがここぞとばかりに声を上げた。ヴィーラはまだわかるがジータに意外な食いつきにセルグが驚く中、仲間達の口撃は止まらない。

 

「そう照れるなセルグ。ヒトとして……決しておかしくはない感情だ。少々遅すぎるかもしれんがな」

 

「フォローの全てが最後の一言で台無しだぞカタリナ。言っておくが別にオレは母親ができて嬉しいなんて気持ちはこれっぽっちも――」

 

「フッ、そんな事言って、この間ゼタに頭を抱かれた時も随分と大人しくしていたじゃないか? 無意識にお前はそういった存在を求めていたんじゃないのか?」

 

「「なっ!?」」

 

 スツルムの言葉に、ゼタとセルグが同時に顔を赤くする。

 

「ちょ、ちょっとスツルム! 勘弁してよ、こんな面倒な息子願い下げよ!」

 

「変な勘繰りはよせ、オレは断じてそんな事ない」

 

「へ~ねぇねぇセルグ君。ゼタちゃんに頭を抱えられた時どうだった? スツルム殿程じゃないけどゼタちゃんも立派なものをお持ちだし色々と嬉しい感触が――ゴへッ!?」

 

 子供もいる前で色々と危険な質問を投げかけようとしたドランクの姿が消える。

 珍しく剣ではなく蹴りを見舞ったスツルムと、話題の最中のゼタ。そして当然ながらふざけたからかいを行った制裁としてセルグも加わり、蹴り、槍、鞘による途轍もないフルスイングを受けてドランクは森の奥へと消えていった。

 

「スツルム……奴の処理は任せた」

 

「任せろ、きっちりヤキを入れておいてやる」

 

「火が欲しければ言って。今なら特大火力を出してあげるわ」

 

 ギリギリ何を言わんとしていたか察したのはグランとジータまで。イオとルリアが疑問符を浮かべていることに静かに安堵し、セルグは改めてスツルムへと向き直る。

 

「盛大に話がそれた。オレがそっちに行くことはできないが、ヴェリウスを連れて行ってくれ。本体からチカラを受け取れるようになった以上、今のオレに融合と言う選択肢はないからな……ついでに」

 

 言葉の終わりと同時にセルグを闇が包み込む。燃え盛る炎の様に揺らめく闇がセルグの手に集まるとそこから三つに分かれ離れていく。

 離れた闇は徐々に形を作り、小型の分身体を作り出した。

 

「ヴェリウス、パスをつないで制御と統合をして二人の力になってくれるか?」

 

 傍らに呼び出した分身体のヴェリウスに告げてセルグは小型の分身体の制御を任せた。

 

 ”ふむ……本当にお主はそつなくこなすな。小型の分身体との情報を我が共有し探索範囲を大幅に増やすとは……よかろう。本体からチカラを送れる以上、我に戦闘での出番はないだろうしな”

 

「助かる……というわけでこれを助力としたい。大丈夫か?」

 

 ポカンとした表情でスツルムはセルグを見返した。

 これを以て助力……この男は一体何を言っているのだろうか。言われた意味を理解したところでスツルムの中に苛立ちが募ってきた。

 

「大丈夫かだと? お前は今自分が何をしたかわかっているのか? ハッキリ言ってそんな力があれば私達はいらないじゃないか」

 

 ヒトよりも格段に動きやすい鳥型の分身体。それをヴェリウスと合わせ四体。スツルムとドランクが動くよりよっぽど早くアポロを見つけることはできるだろう。セルグを見るスツルムの視線には僅かに怒りが込められる。

 

「ヴェリウスができるのは見つけて運ぶくらいだ。置き去りにされた黒騎士が命の危機にあった場合治療するためにも、二人はいたほうが良い。オレの協力は見つける段階までしか機能しないさ」

 

「フン、そういう事にしておいてやる。グラン、ジータ。そういうわけで私は行く。先も言ったが片付け次第援護に向かうが……この常識はずれのバカがいるなら私達は必要ないかもしれないな」

 

「あ、うん。そうだね、ホント。常識外れすぎて僕達も言葉が出ないよ……」

 

「それでもお二人の力が必要になるかもしれませんので、お願いします」

 

「分かっている。それから……オルキス」

 

 準備が整った所で、不意にスツルムは静かだったオルキスを呼んだ。

 

「私達は黒騎士を探しに行く。幸いにも手軽に探せる手段を手に入れた。お前も一緒に来るか?」

 

 アポロの願いをかなえるため。感情の無い人形だったオルキスに芽生えた心に、スツルムは問いかける。

 そこにいていいのか、一緒に来なくて良いのか……そんな意味を込めて

 

「迷惑……じゃない?」

 

「聞いているのはこっちだ。一緒に来たいかと聞いている」

 

 オルキスの言葉をにべもなく切り捨て、スツルムは再度問いかける。

 迷惑とかそんな事関係なく、オルキスの意思はどうなのだと……

 少しの時間、オルキスが黙り込み、我慢できずルリアが助力の声を上げようとしたところで、オルキスは静かに口を開いた。

 

「――行きたい。一緒に行って、アポロを助けたい……アポロを助けて、一緒に、ユグドラシルと、ロゼッタさんに謝りたい」

 

 アーカーシャを起動しようとした時と同じ。明確な意思と声を以てオルキスは答えた。

 

「私は……アポロに言われて、静かに眠っていたユグドラシルを起こしてしまった。そして起こされたユグドラシルはフリーシアに目を付けられて、こんなことになってしまった。私とアポロは、ユグドラシルとロゼッタさんにちゃんと謝らなきゃいけない」

 

 一人抱えていた、罪の意識がオルキスから吐き出される。

 言われるがままだった人形の自分が起こしてしまったユグドラシル。それが発端となり、今こうして多くの者に迷惑をかけてしまった。

 芽生えた心が、良心の呵責が、オルキスに新たな決意を促す。

 

 アポロと一緒に必ず謝る。

 

 その決意の下、オルキスはスツルムと行くことを決めた。小さな歩幅で、だがしっかりとした足取りでスツルムの元へと向かうとその隣に並び立って振り返る。

 

「ルリア、グラン、ジータ。皆も……ごめんなさい。私はスツルム達と行く」

 

 オルキスはひとたびの別れを、謝罪と共に口にした。

 

「そっか、行ってらっしゃい。ちゃんと無事に帰って来てね」

 

「その時は黒騎士も一緒に……ちゃんと四人で頼むよ」

 

「行ってらっしゃい、オルキスちゃん!」

 

 対する彼らは心良くそれを見送る。

 止められようはずもない……人形のようだった彼女の意志がそう決めたのだから。

 

 

「それじゃ、行ってくるからな。ドランク! いつまで寝たふりをしている! 置いていくぞ!」

 

「はいは~い! ちょっと待ってよスツルム殿~あれだけ思いっきり蹴りつけておいて寝たふりは無いんじゃないかな~あの威力下手すりゃ――」

 

 気の抜けた会話を残しながら、そうしてスツルムとドランクはオルキスを共だって森へと歩き出していった。

 

 

「ヴェリウス、黒騎士を見つけ次第二人の案内だ。小型の一体を二人の傍に置いておけば合流も容易だろう」

 

 ”わかっておる。若造が考え付くことが我に思い至らぬ道理はないわ”

 

「そうだな……それじゃ、頼んだ」

 

 ”心得た”

 

 バサッと翼を広げヴェリウスが飛び立つ。同時に小型の分身体も森の中へと飛んでいき瞬く間に薄暗い木々の向こうへと消えていった。

 

 

「これで、見つけるのは楽になるだろう……」

 

「なんか、随分と便利になってるね。さっきのも本体からのチカラ?」

 

「ん? あ、あぁ。戦闘力としてのチカラはただ闇のチカラを送られてくるだけなんだが、さっきのは形をもって送られてきた感じかな。記録という元々アイツが司る分野だ。諜報、偵察には有用そうで助かる」

 

「アンタ、便利なのは良いけど、悪用したりしないでよね。下手すりゃ犯罪紛いの事だって――」

 

「お前は何を言っているんだ。ドランクでもないのにその疑いをもたれるのは地味に傷つくんだが……」

 

「大丈夫ですよゼタさん。そんな事をしているとわかった時点でまたアマルティアの牢獄に放り込んであげますから安心してください」

 

「リーシャ……お前まで」

 

「ま、まぁまぁ。お二人ともその辺で……」

 

 ゼタとリーシャの言葉に地味にへこんで俯くセルグをジータが窘める。

 一度スツルムとドランクが向かった先を見たジータは、改めて纏う空気を変えた。

 

 おふざけは終わり。おしゃべりはおしまい。

 ここから先は、リベンジも兼ねた救出戦。緩んだ空気から張りつめた空気へと持ち直し、ジータは声音を変えて告げる。

 

「それでは、私達も先へ進みましょう。随分話し込んじゃいました……早く行って、ロゼッタさんを助け出さないと」

 

「そうよ。私達は早くロゼッタを助け出さなきゃいけないんだから! ホラ、セルグ! シャキッとして!」

 

「分かっているさ。まぁ、負ける気も救えずに終わる気も更々ない。今度は手加減無しの全力で戦えるからな……きっちりカリは返してやる」

 

 イオに焚き付けられ、気を落としていたセルグの表情も真剣なものへと変わる。

 前回は、その前の戦闘で融合を使っていた為まともに戦えなかった。仲間に求められたチカラを出せなかった事が悔しかったセルグにとってもマリスとの戦いはリベンジである。

 

「よし、今度こそ進もう! ルリア、案内を頼むよ」

 

「ハイ、任せてください。あっちの方です!!」

 

 グランの声にルリアが元気に答えると、進むべき道を指し示した。

 暗い森の奥、陰鬱とした雰囲気が漂う中、彼らの意気は止まる事なく高まる。

 

 待つのは助けを待ちわびているはずの仲間と、その仲間が必死に救おうとしている星晶獣。

 多くの回り道を経てしまったが、助けるための準備は整った……後は手を伸ばすだけ。

 気負いも恐れもなく、一行は意気揚々と進み始めるのだった。

 

 

 伸ばしたその手が振り払われることを知らぬまま……

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

アポロの為に戦う二人の想いや、オルキスの決意なんかが今回の見どころといった感じです。


それでは、お楽しみいただけたら幸いです。

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