granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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長かった幕間が終わり本編進行



メインシナリオ 第42幕

 

――守れなかった

 

 私が守らなくてはいけなかったのに

 

 静かに眠っていたあの子を……私が守ってあげなくてはいけなかったのに

 

 無理矢理に起こされ、戦わされ。挙句の果てにあの子は崩壊寸前にまで追い込まれてしまった

 

 あの戦い(覇空戦争)でボロボロとなった所をあの子に救われたというのに。この体たらく……

 

 あぁ、ユグドラシル。ごめんなさい

 

 

 

 もう少しだけ待ってて頂戴。絶対に貴方を消させはしない

 彼らならきっと、私達を救い出してくれる。

 だから、もう少しだけ待ってて頂戴……

 

 

 貴方の苦しみは、私が受け止めて見せるから

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 ザンクティンゼルを飛び立った一行は全速力でルーマシー群島へと向かった。

 

 艇へと戻ってきたセルグが新たに手に入れたチカラに驚いたり、出発間際にアーロンとグランの間で一悶着あったり。

 相変わらずの騒がしい出立となってしまった一行ではあったが、ルーマシー群島の周辺へと辿り着いた一行は、目の前の光景に緊張感をたたえる事になる。

 

 

 

「やっと……戻ってこれた」

 

「といっても、もはや影も形も無い様だな……」

 

 グランサイファーの甲板の上で、ジータとグランが見据える先。

 暗く重い雰囲気を纏い、荊に包まれたルーマシーの姿があった。

 

「まるで繭のようだ。あれはユグドラシルのチカラか」

 

「ともあれ、折角戻ってきてもこの状況。まずは突入の方法を考えなくちゃならねえ」

 

「そうですね。周囲を見るに、帝国の戦艦も何とか島への突入を試みているようですが、どうにも上手くいっていないようです」

 

 そういって島の周囲の空へとリーシャが視線を巡らせる。

 その視線の先では、多くのエルステ帝国戦艦が、まるで島と戦うかの様に次々と砲撃を放っていた。

 

 

 

 

「全兵装、休むことなく撃ち続けろ! もうすぐ本国からの補給も来る。宰相閣下が戻られる前に、あの島をこじ開けるぞ!」

 

「イェッサー!!」

 

 指揮官の声に応え、兵士たちは次々と砲撃を打ち出す。

 放たれる砲撃は、荊の島の表層を削るものの、すぐに再生され効果はまるで見られなかった。

 命令遂行の為、一点集中の砲撃や再生が追い付かないようにと面での飽和攻撃、更には魔導師部隊からの魔法斉射も行っている。

 それでも突破できる気配のない状況に指揮官である男が歯噛みする中、島の荊が戦艦を襲い、逆に慌てて後退させる事もあり、状況は撤退もやむなしな状態であった。

 

 

 

 

 正に手一杯。そんな帝国の様子に、一行は少しだけ安堵の表情を漏らした。

 この先に控えるのはユグドラシルマリスとの決戦だ。余力は残しておきたいときに、面倒な帝国の相手などしていられない。

 

「あの様子ではこちらに対応する余裕などないでしょうから、私達は何としても彼等より先に突破して島に突入しなければなりませんね」

 

「だがあの様子じゃ、あの荊を突破するのだって至難の業だぞ。砲撃を散々撃たれて平気だとすると簡単にはいかねぇ」

 

「そうさなぁ。幾ら俺達でも戦艦の砲撃に勝るような攻撃なんてホイホイできるもんじゃ……」

 

「あ、あの! 私が星晶獣で」

 

 荊を突破するだけの威力。戦艦の砲撃を上回る攻撃となれば真っ先に思いつくのは星晶獣による一撃だろう。アマルティアの時の様に、多重召喚で一点集中を狙えばどんなものとて粉砕できるはず。

 そう考えて自分の出番だと声を上げるルリアだったが、それをグランが制した。

 

「待ってくれルリア。あの荊……星晶のチカラに因るものか?」

 

「えっと、多分そうだと思いますけど……? それがどうしたんですか、グラン」

 

 ルリアの問いに合わせて仲間達からグランに視線が集うが、当のグランは思案顔のまま僅かに黙り込む。

 考えがまとまったグランは顔を上げ、セルグとゼタへと視線を向けた。

 

「セルグ、天ノ羽斬は使える?」

 

 少しの期待を込めて、グランがセルグへと問いかける。

 セルグとゼタ……星晶獣を倒す組織の戦士として、その攻撃力はグラン達の中でも折り紙つきだ。万全の状態とは言えないセルグへの不安があったがヴェリウスから授けられたチカラでそれを払拭できるか。それが、グランの問いの真意である。

 問われたセルグは、僅かに笑みを浮かべながら答えた。

 

「以前の様に……とは行かないが、新たに使い方も覚えたんでな。期待には応えてみせるさ」

 

 融合ではなくその身に纏うヴェリウスとの新たなチカラ。ヴェリウスからは融合程ではないといわれたチカラだが、その使い方は既にセルグの中で確立しているのだろう。ある程度のチカラの上乗せができる以上、天ノ羽斬の能力もフルに使える。

 相変わらずの自信にあふれたセルグの表情に、グランの思惑が定まった。

 

「セルグ、ゼタ。二人の武器のチカラで突破してほしい……全力の一撃であれを打ち破ってもらう。僕たちはその援護に……ルリア、星晶獣フェニックスで二人が荊に狙われない様に援護をしてくれ。アマルティアで星晶獣を使った後の事を考えると、今ここで無理なチカラを使わせたくはない」

 

 グランの懸念は、ルリアの体への影響であった。

 もし威力が足りずに星晶獣の召喚を重ねた場合……アマルティアで戦闘後に倒れて意識を失った事から、その影響は大きいと思われたのだ。

 グランの心配の念を察したルリアは静かに頷く。

 

「――わかりました。お二人のお手伝いですね。がんばります!」

 

 落ち込む素振りなどなく、再びのやる気を見せて、ルリアは召喚の準備に入るのだった。

 

 

 

 

 

「さぁて、準備はいいかお二人さん」

 

 ルーマシーの直上へと登り始めるグランサイファーの甲板の上で、操舵の舵を取りながら、ラカムが問いかける。

 甲板の端、眼下のルーマシーを見下ろした二人は真剣な表情で答えた。

 

「オレ達ならいつでも行ける」

 

「任せてよ。それよりもそっちこそ、風穴開けたらさっさと突入してきてよ」

 

「ヘイヘイ、わかってますよ。おやっさん、ちっとシビアな動きになりそうだ。援護たのむぜ」

 

「おうよ。任せとけって」

 

 攻撃に集中する二人と、艇の操舵に集中する二人が準備万端とばかりにグランへと視線を向けた。

 準備完了だ……言葉無くそれを伝えたラカムの視線にグランが頷く。

 

 

 やるぞ!

 

 

 音のない視線だけの声に一斉に頷いた。緊迫した空気に包まれる中、グランが声を上げる。

 

「レイジ!」

 

 ウェポンマスターとなったグランのレイジでセルグとゼタの感覚が研ぎ澄まされる。

 鋭敏になった感覚がチカラの流れを知覚し二人は己の武器へと語りかけた。

 

「絶刀天ノ羽斬よ。我が意に応えその力を示せ。立ちはだかる災厄の全てを払い、全てを断て」

「アルベスの槍よ。我が信条示すため、汝が最たる証を見せよ。その力の全てを今ここで解き放て」

 

 言霊の詠唱。次いで武器の全開解放。天ノ羽斬が眩く輝き、アルベスの槍が火柱を噴き上げる。

 星晶獣を滅する為の武器達がうなりを上げた。

 さらに――

 

「風火二輪」

 

 乾いた音と共に撃鉄が弾け、ゼタに風火二輪による火属性の強化がかかる。高まる炎のチカラは止まる事を知らず、あまりの炎の勢いにラカムが冷や汗を流して声を上げた。

 

「おいおいゼタ! 気合い入れすぎてグランサイファーも燃やすんじゃねぇぞ!」

 

「わかってるわよ! その位はちゃんと制御する!」

 

 どことなく楽しそうに笑うゼタの様子にラカムの冷や汗が止まらないのは仕方ない事だろう。

 木製であるグランサイファーの甲板の上で火柱が上がっているのだ。ラカムだけでなく他にも慄くものは何人か見受けられる。

 

「ゼタ、セルグさんとの共同作業で浮かれるのはいいですが、しっかりこなしてくださいね」

 

「も~ヴィーラ。こんなときまでそんな事いって……心配しないでヴィーラ。ちゃんと二人でやってくるから!」

 

 普段からかわれている意趣返しか。少しだけ『二人で』の部分が強調された様に聞こえるのはヴィーラの気のせいではないだろう。

 

「フフ、それならば良いですが……お気を付け下さい。決して簡単ではないのですから」

 

「それもわかってる。ちゃんと無事に帰ってくるわよ――ちょっとカタリナに似て心配性になって来てない?」

 

「あら。貴方も私の大事なヒトなのですから当然でしょう?」

 

 しれっと告げられた言葉に、ゼタの顔が熱を持った。

 同性のゼタから見ても綺麗と言えるヴィーラからの歯の浮くようなセリフに思わず、顔を赤らめる。

 恥ずかしげもなくこんなことを言えるこの親友には、やっぱり何を言っても適わない気がして、ゼタは思わず目を背けた。

 

「あのな、頼むから真面目にやってくれよ……」

 

 緊張感に溢れるこの場面で何顔を赤くしているんだ。声音にそれを含ませたセルグの言葉にゼタは慌てて取り繕うように気合いの声を上げた。

 

「わ、わかってるわよ! っていうか本来ならこういうのはセルグの担当でしょ」

 

「心外だな。オレはいつも戦いに関しては真面目だ。少なくとも戦闘中に口説くような事はして…………もしかしてみんなそういう認識だったのか?」

 

 語りながら見えてきたある予測にセルグが仲間達へと視線を巡らせれば、概ね一同から苦笑いと頷きが返され、セルグはそっと目を背ける……そんな素振りはなかった。そうだと言い切りたいが、現在の自分を取り巻く色々を考えれば否定できる自信もなくなる。

 

 

「はぁ~本当に、最近は……みなさん気が抜けてますね。それではぁ、ふたりとも。よろしくお願いしますね~」

 

 緊張感のない会話をしていた三人の中、更に気の抜けた間延びした声。

 この中で一番緊張感のない声を漏らしたのは魔法系統に特化したスタイル、『ハーミット』の姿となったジータであった。

 

「ね、ねぇグラン……ジータ、どうしちゃったの?」

 

 余りにもこれまでの姿からはかけ離れた雰囲気のジータの様子に一行が目を丸くする中、イオが恐る恐ると言った様子でグランへと問いかける。

 

「あ~えっとだね……イオ。実は今まで皆には隠していたんだけど、ハーミットのジータってこんな感じなんだ。ホラ、いつものアレのせいで……」

 

 ジータの見た目に性格が引っ張られる特徴。

 普段であれば見た目に引っ張られるように、戦闘中に限り丁寧になったり、勇ましくなったり、凛々しくなったりする程度で、基本はジータであった性格が、ここにきてこれまでを覆すような激変。

 余りにも大きな変化は、本人にとってあまり嬉しい事ではなかったようで、今まで仲間達には隠していたようだ。

 

 だが、援護魔法を扱うスタイルとしてはこれ以上のものは無い。

 ジータがその手に持つ五神杖をセルグとゼタに向ける。

 

「数多連なる万象のチカラよ、彼の者に宿れ……”エレメンタルフォース”」

 

 瞬間、制御が利かなくなりそうな程二人に宿る属性のチカラが高まる。

 エレメンタルフォース――受けた者に宿る属性のチカラを跳ね上げる援護魔法において最大級の魔法だ。

 更にそれを扱うのは五神杖を扱うジータ。

 のんびりとした性格は逆を言えば動じない精神の確立。緊迫した状況下においても一切の乱れなく集中しきるジータの魔法の練度は群を抜くだろう。

 魔法を受けたセルグとゼタはこれまでにないチカラの高まりに、思わず乾いた笑いが込み上げた。

 

「は、はは……ホント、二人には驚かされてばかりだな。澄ました顔して使う魔法は超魔法じゃねぇか」

 

「なんていうかアタシ……ヴィーラどころかジータにもいつか逆らえなくなりそう……」

 

 乾いた笑いと向けられた言葉にキョトンと呆けた顔を見せるジータは、特に言及することもなく二人の背中に最後の魔力の一押しをして一歩下がった。

 

「それでは……セルグさん、ゼタさん。お願いしますね~」

 

 準備完了。

 最大級の援護を受け取り、二人が甲板より身を乗り出す。

 眼下には荊に覆われたルーマシー群島。直上からの落下の勢いと、高めに高めた全力の一撃で荊の繭を貫き、できた穴からグラン達は艇で突入する。

 再生される前に突入しなくてはならないため、突入タイミングはシビアであり、艇が通るためには、それ相応に大きな穴を空ける必要がある。

 着いて早々の難関に緊張感が高まる中、セルグとゼタが声を上げた。

 

「ラカム! オレ達が飛び降りたら全速で降下しろ。必ずドデカイ風穴空けてやる!!」

「しっかりやるから付いてきてよ! 間に合わずに入れませんでしたなんて言ったらぶっ飛ばすからね!!」

 

 力強い声と共に甲板より身を投げ出した二人は、ルーマシーへと向かって落ちていった。

 二人が踏み出した瞬間にグランサイファーは急加速して降下。二人の先へ回り込むように、横合いからルーマシーに向かう。

 

「ルリア、僕が支えているから、フェニックスの使役に集中するんだ!」

 

 大きな艇の動きに足を取られそうなルリアをグランが支える。

 小さなその背を支えられ、グランの言葉ですぐさまルリアは召喚に集中してその手を空へと翳した。

 

「行って……フェニックス!」

 

 ルリアの意志に従い、顕現したフェニックスが落下中のセルグとゼタの元へと向かう。

 ヴェリウスよりもずっと大きな神鳥フェニックスはその羽ばたき一つですぐにセルグとゼタの前へと躍り出る。

 

「二人を守って!」

 

 ルリアの声に応えるように、フェニックスはセルグとゼタの前で、その身の全てを使い、島から伸びてきた荊を焼き払っていく。

 炎の身を持つフェニックスにとって荊など何の脅威にもならない。、二人へと迫りくる荊は全て消し炭となって落ちていった。

 

 

「こいつは上々。いくぞゼタ!」

 

「任せて!」

 

 ゼタに声を掛けながら、セルグはザンクティンゼルにいるヴェリウスを呼んだ。

 

 ”――早速だが貸してもらうぞ”

 ”良い。好きに使え”

 

 胸中で行われた短いやり取り。その直後にはセルグの身から大きな闇のチカラが漏れ出る。

 その身を覆った闇のチカラをセルグは天ノ羽斬へと一点集中。ブーストされたチカラを天ノ羽斬が更に強化し、今この時の一振りに限っては全盛期を凌駕するチカラを蓄えた。

 

 準備ができたところでセルグとゼタは視線を交わす。互いにこれまでに無いほどの全力。

 その身どころか、仲間達からももらった全てを蓄えて、眼下に迫るルーマシーへと向けた。

 

「絶刀招来――」

「アルベスの槍よ、その力を示せ――」

 

 刀と槍がチカラを解放する。暴走しそうな程の強大なチカラは共にその範囲を大きく拡大して、遠目から見ていた仲間達からもはっきりと見えるほどのサイズとなり立ち昇った。

 

「天ノ羽斬!!」

「プロミネンスダイヴ!!」

 

 一振りに込められた二人の全力は、類を見ないほどの強大な一撃となる。

 巨大な爆発と共に、ルーマシーを覆う荊の繭に大きな穴を開けるのだった……

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 無事にグランサイファーごと、ルーマシーに降り立つことに成功した一行は早々に艇を下りて警戒の色を見せる。

 相変わらずの不穏な気配が溢れる森の中にいる以上、ユグドラシルマリスの影響でいつ森が襲ってくるかもわからない。首尾よく島に侵入はできたがここはまだスタート地点であり、油断などできるはずもなかった。

 

 

「っと、なんとか島に降り立つことはできたかな」

 

「一先ずは成功ですね。セルグさんとゼタさんは、どこに降りたんでしょう……一応はヴェリウスさんが拾ったのは見えましたが……」

 

 通常モードのジータが心配そうにつぶやいた。

 作戦の通りであれば、艇の外に身を投げ出した二人は鳥型のヴェリウスが回収する手筈になっている。

 スピードを上げて二人が空けた穴に艇ごと飛び込む以上、回収も合流もできるわけなく、二人は一行とは別の場所に着地したのであろう。

 目印となるグランサイファーを見て合流する筈ではあるが、その気配はまだ見受けられなかった。

 

「まずは少し待機だな。二人を待って合流してから動いた方が良いだろう。グラン、ジータ。着替えるなら今の内だがどうする?」

 

 カタリナが二人へと問いかける。

 セルグとゼタの援護の為、ウェポンマスターとハーミットとなった二人。この後の戦闘を考えた時そのままで良いのかという事だろう。

 

「前回の戦いから考えると私はこのままの方が良いかも知れないです。私の得意なのは本来魔法系統なので……七星剣で倒しきれなかった以上、私が戦える可能性としては強化魔法と殲滅魔法での援護になるかと思います」

 

「逆に僕は前回のダークフェンサーよりはこっちの方が良いかな。短剣よりは長剣の方が得意だから。それに、最近は少し接近戦の練度が上がって来てるんだ。僕の攻撃をジータの魔法で強化して今度こそユグドラシルマリスを倒しきってみせるよ」

 

 二人が金色の剣と杖を構える。

 セルグとの決闘以降、幾度となく扱うようになってきた天星器。

 激闘だらけの旅路の中で、確かな経験を培い、確かな実力を身に付けてきた二人はいつしか当たり前の様にこの武器を扱うようになってきた。

 それも二人の成長に伴い、開放されるチカラは底が知れず。二人が強くなるほどに天星器はそれに応えるようにそれまで以上にチカラを発揮した。

 

 前回とは違う……それを体現するかのような二人の覇気に仲間達は静かに息を呑んだ。

 

「へへ、やっぱり二人はすげぇな……でも、オイラも今度は戦えるんだからあまり二人だけで盛り上がるんじゃねぇやい!」

 

 二人の周囲を飛び回りながらビィは、嬉しそうにグランとジータへと飛びついた。

 強くなったのは二人だけではない。仲間達も勿論そうだし、戦えなかった自分も、新たなチカラを携えてきたのだ。

 

「ビィさんの言うとおりです! 私だって、今度は一緒に戦えます!」

 

「私もですよ。グランさん、ジータさん。アマルティアでガンダルヴァに打ち勝った私の力を甘く見られては困ります。お二人だけで頑張る必要はありません」

 

「ほっほぅ、それを言うなら今回は剣の賢者と謳われる儂がおるでな。前回がどうだったのかを知らなんだが儂にもしっかり期待してもらわんとな」

 

 ルリア、リーシャ、アレーティアの言葉に、張り詰めていたグランとジータの空気が解れていく。

 自信もやる気もある。だがそれでも、前回成す術がなかった記憶と言うのは簡単に払拭できるものではなく、自然と二人の肩に力が入り過ぎていた事を仲間達は見逃さなかった。

 

「それでは、戦闘の確認でもしておきましょうか。グランには最前線に出てもらいますが他には――」

 

 ”がさっ”

 

 肩の力を抜いたところで、戦闘の最終確認をしようとしたジータの言葉を、背後の茂みから聞こえた音が遮る。

 反射的に戦闘態勢を取る一行を前に、茂みを揺らす音は徐々に近づいてきて、緊張感が高まる中

 

「おいおい、気合い入れるのは良いがそれをオレ達に向けるな」

「茂みを切り裂いて進むセルグが悪いんでしょ! そんな不穏な音を立てながら近づいてきたら誰だって警戒するわよ!」

 

 ルーマシー突入の立役者二人が合流したのだった。

 

「ふぅ、全く勘弁してくれ。早速ユグドラシルマリスが来たのかと思ったよ」

 

「悪かったなカタリナ。鬱蒼としすぎて回り道をする気にならなかった」

 

「皆特に問題ないみたいね。さすがはラカムとオイゲンってとこかしら。ちゃんと突入できたか心配してたのよ」

 

「大した事ねぇよ。あの程度ならまだアマルティア突入の時の方が危なかったぜ」

 

 互いの無事を確認して改めて安堵の息を漏らす一行。

 全員そろった所で後は、決戦に赴き大事な仲間を救出するだけ。士気が高まる中、装備や道具、戦闘への最終確認を行った所で進軍を開始する。

 

 

「ルリア、ユグドラシルの気配はわかる?」

 

「はい。えっと……こっちです」

 

 ジータの問いに応えて、ルリアが星晶獣の気配を探る。ルリアの指し示す方向へ視線を向けて、一行はまた緊張感に包まれた。

 旅路の中突如戦いに巻き込まれるのとは違う。アマルティアでの決戦と同様に明確に戦いに赴く心持となった彼らは、普段の気の抜けた空気とは打って変わって、張りつめた雰囲気を醸し出す。

 

「それじゃ……行こう。皆」

 

 グランの声に返る言葉は違えど、示される意志は同じ。

 置き去りにしてしまった大切な仲間を救うべく、一行はそのまま森の奥へと歩み出した。

 

 

「えっと、悪いんだけど僕達はここでお別れかなぁ」

 

 

 だが、無粋な男の無粋な声に阻まれて、全員がすぐさま動きを止める。

 

「私達はここから別行動だ」

 

 緊張感の欠片もないドランクと相変わらず固い空気のスツルムの声に、一行は張りつめた空気を露散させ、出鼻を挫かれるのであった……

 

 

 




如何でしたでしょうか。
いつも通りのっけからオリジナルの流れ。

思い出したかのように出てきましたハーミット。
魔法ジョブはイオちゃんの強み持っていきそうで避けていた次第です。
プロロ特別篇でも書きました通り一応魔法得意設定のジータちゃんにこれから頑張ってもらいます。

ルーマシー帰還編も大分オリジナルな流れが多くなり、読者さんを楽しませることができるたら嬉しいですね。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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