granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
とりあえずメインシナリオ編に入っていきます。
ゲームと同じで、時系列としてはメインシナリオが木の幹。シナリオイベントの話がその木に枝としてついてるような感じです。メインではほとんどイベントでの話は関係ないと思って差し支えないです。
それではお楽しみください。
空域 ファータ・グランデ ザンクティンゼル
穏やかな朝日が森を包む頃、グランサイファーの一室でセルグは目を覚ました。傍らには星晶獣でありながらまるで普通の鳥のように休むヴェリウス。昨日の出来事を思い出すと、力を貸してくれた相棒に言葉に出さずに礼を告げて、セルグは起き上がった。
「今日からオレも騎空団の一員か……」
そう呟くと身支度を整え始める。窓から見える太陽は、セルグの心情を表すかのごとく燦々と輝いていた。
「おはようございます、セルグさん。起きておられますか? そろそろ朝食ができるようです。一応案内を、と団長さんたちに言われてきたのですが……」
準備を進めていると部屋の外から声が聞こえてくる。どうやらグラン達がわざわざ迎えを寄越したみたいだ。
セルグがすぐさま向かい扉を開けると、部屋の前に控えていたのはヴィーラだった。
「おはよう……君は、ヴィーラ、だったか。わざわざありがとう。流石に艇の中で迷うこともないが一応彼らの気遣いには甘えておくかな。ちょうど準備も終わったところだ。案内をお願いするよ」
「はい、ではこちらに」
そう言って先導するヴィーラは道中で後ろにセルグが付いてきているのを確認すると振り返って口を開いた。
「一つ……お伺いしたいことがあります。よろしいですか?」
「ん? なんだ。なにか問題でもあったか……」
特に思い当たることのないセルグが困惑するがヴィーラは気にせずセルグに問いかけた。
「私も星晶獣シュヴァリエを従えています。昨日の戦闘でも見せましたが、その力を身に纏い戦うこともできます。ですが……あなたのように“融合”というのはできるできない以前に発想にも思い至りませんでした。昨日の夜、シュヴァリエと試してみましたが、よりシュヴァリエの力を振るうことはできても、融合という状態にはたどり着けませんでした」
「何が……聞きたい?」
聞きたいことが見えてこないセルグは再度ヴィーラへと問いかける。
「融合というのは一つになることを意味するはず。あなたのそれは何故、何事もなかったように元に戻れるのか。融合のプロセスがわかれば私にもできるのではないかと思いまして……」
「そういうことか……しかしそれはオレにもわからないな。ヴェリウスがその力をもっているのか、何らかの偶然が重なって出来上がった奇跡なのか。残念ながらオレには何も答えを出せない。本体の方もだんまりでな、力になれなくてすまない」
「そうですか。いえ、大丈夫です。それではいきましょう」
謝るセルグにヴィーラもそれ以上は何も聞かず、一言残して食堂へと先導する。先ほどよりもすこしだけ、セルグとヴィーラの距離が開いていた。
「こちらです。どうぞ」
「ありがとう。おはよう、みんな」
食堂についたセルグは開口一番、挨拶と共に部屋に入っていく。
「おう、おはようさん」
最初に返してきたのはオイゲンだ。それを皮切りに皆が口々に挨拶を返す。
「こうして見るとあんまり多いわけでもないんだな、団員」
騎空団といえば、20人程度が当たり前だと思っていたセルグは10人程度しかいない騎空団の面々に正直な感想が口から出ていた。
「何人かは事情により今艇を降りてる人もいるよ。連絡が来れば迎えにいく手はずにはなってるからそのうち会えるさ」
グランがセルグの呟きに答えた。
そもそも騎空士というのは契約に縛られてなるものではない。それぞれが持つ志や誇りを元に集まった集団が騎空団となり騎空士となるのだ。普通の仕事とは違い、各々の事情でその時船に乗っていない団員がいることも決して珍しいことではないのである。
「みんなすごい人ばかりですから、楽しみにしていてください!」
ジータもグランに続いて補足を加え口を開いた。その表情には今はいない仲間を誇らしく思う彼女の心情が表れている。
「なるほど、楽しみにしておこう」
ふたりの答えに満足したのか、そう言って食卓についたセルグは笑みを浮かべる。仲間とのこんな何気ない会話がセルグにとっては新鮮で仕方なかった。
「ところで、昨日は聞かなかったんだが、グラン達は何を目的に旅をしているんだ?」
食事中にふと気になって話題を振るセルグ。
皆、何かやりたいことがあって騎空団を結成し、志を同じくする者が集まる。
なれば、旅をしているグラン達にもその目的があるのだろうとセルグは問いかけた。
「僕達の元に父さんから手紙がきてね。その手紙に記された島。空の果てイスタルシアを目指して旅をしているんだ。現在は島の大星晶獣が持つ空図の欠片というものを探している。それを集めることでイスタルシアへの道が開けるみたいでね。」
「は? あのおとぎ話に出てくる島か? 真面目に答えてくれよ、グラン。変な冗談はおもし」
「冗談じゃなくて本気だってぇの! オイラ達はイスタルシアへの旅の途中だぃ!」
ビィがセルグの言葉を遮り声を張る。その様子に信じられない顔をするセルグは確かめるような視線と共に問いかけた。
「――本気なのか? 第一にまず『瘴流域』を超えなくてはいけないんだぞ。それだけでも命に関わる旅だと思うが……それを親である父から勧められたというのか?」
瘴流域……この空の世界はいくつもの空域によって構成されているが、空域同士は瘴流域と呼ばれるヒトが渡るのはおおよそ不可能と言える危険な風が吹き荒れる場所によって区切られている。
空の果てイスタルシア。その名のとおりいくつもの瘴流域を超えた果ての果てにあるとされていて、おとぎ話でしかその名を聞かない島である。たどり着いた者の話は聞かず、その名を知らない者も多い。
グランの話を聞いてセルグが冗談だと思うのも無理はない程、その存在は現実味のない島である。
「私達も、いつか行ってみたいって思ってただけだった。でもルリアとカタリナに出会ってね。成り行きだけど、ここにはもういられなくなってしまって、島を脱出して。騎空団を結成して。じゃあ目的は? ってなったら自然とそれしか出てこなかった」
「だから僕達は本気だ。ここにいるみんなもそれを目指してくれている。そして今日からセルグ。君もその仲間だ。それぞれの目的もある。君にも目的があるのは知っている。
でも僕達はそれだけで終わる気はない。もっともっといろんなところに行き、いろんなものを見てみたいからね。イスタルシアはその一歩ってだけさ」
セルグの問いかけに答えるグランとジータの表情には不安や疑念など欠片もなく活力に満ちていた。その表情はセルグに余計な思考をとっぱらって納得させるものを感じさせる。
「ホント、お前たちには昨日から驚かされっぱなしだな。いいぞ二人共! どこまでも付き合ってやるさ!」
声高らかに宣言したセルグのその顔にはもう疑いの眼差しはなくグランやジータと同じく活力に満ちていた。
「んで、意気揚々といった感じなのはいいのだが、ひとまずの目的地はどうする?」
落ち着いたところでカタリナは皆に問いかける。イスタルシアを目指そうにもたどり着く方法は定かではない。手がかりは”完全なる空図”を完成させるというものだけだ。先ほどのグランの発言にもあった、島の大星晶獣が持っているとされている空図の欠片と呼ばれるものを集めることが、そのひとまずの目的となっている。
「あ~っとだな。ちょっと悪いんだが、俺から話がある。ポート・ブリーズでも整備依頼はしたんだが、応急処置に近くてな。どうにも長距離航行が厳しそうなんで一度グランサイファーをオーバーホールしてやりてぇんだ。それ専門って感じの島があってな。ガロンゾって島なんだが、ひとまず其処に行っていいか?」
先んじて口を開いたラカムが一息に告げたのはグランサイファーがかなりガタが来ているということだった。
「おいおい。騎空艇って旅の要だろ? なんだってそんなボロボロになるようなことになってんだ?」
ラカムの言葉にセルグが思わず聞き返すが、皆一様に視線を逸らす。まるで何か悪いことをした子供が悪さを隠すような……そんな雰囲気にセルグが眉をひそめた。
「なんだ?なにがあった? というか何かしたのか?」
皆の雰囲気に疑問の尽きないセルグが問い続けると苦笑いをしながら皆が口を開いた。
「あ、あはは。帝国の兵器に体当りしたりとか……」
「帝国の戦艦から砲撃受けたとか……」
「旅を始めてからこっち、オーバーホールなんてする余裕もなく次の場所へと行っていたからな。限界が来るのも無理はないか……」
ルリア、ジータ、カタリナがそれぞれに述べる。
「何度目かわからないが……ホントに驚かせてくれるな」
呆れた様子を隠す気も見せずに表に出すセルグ。良くも悪くも驚かされてくれるグラン達をみて、旅の先行きに一縷の不安を覚えるのであった。
溜息一つ吐いて、セルグはラカムに向き直った。
「ラカム、そのガロンゾまではどのくらいかかる? それまでですら厳しいようなら近場で整備もする必要があるだろう」
「大した距離じゃねぇな。ひとまずは問題なく飛べる状態にしてある」
ラカムへのセルグの問いに答えたのはオイゲンだった。
「わかった、何かあれば手伝おう。それなりに知識はある。自分が乗る艇が落とされかけた経験もあるからな。落ちそうな艇への対処なら経験があるよ」
「おいおい、不吉なこというんじゃねえよ。グランサイファーは落ちねえよ!」
ラカムが憤慨するが、セルグはそれにニヤリと笑みを浮かべて返した。
「そうならないことを願うさ。入っていきなり落ちて終わりじゃ流石に虚しいだろう?」
「よし、それじゃ当面はガロンゾでグランサイファーの修理だな。直ぐに出発しよう!」
話がまとまったところでグランが告げて皆が動き始めた。
こうして新たな目的地へ向けて一行の旅は再開する。
空域 ファータ・グランデ ガロンゾ島周辺
荒くれ者達の集う島、ガロンゾ島。
その島は騎空艇の整備を生業とする者が住人の大半を占めていた。発達した機械技術。受け継がれてきた職人たちの技。騎空艇は造るも直すもここ以外には考えられないと空域中の騎空士が口を揃えて言う程に、ここガロンゾ島は騎空艇造船技術に特化して発展した島である。
技術が進んだ都市を望めるガロンゾ島周辺の空域に、『エルステ帝国』の戦艦が浮いている。
エルステ帝国。現在このファータ・グランデ空域において最も強大な勢力といっていいだろう。帝国と呼ぶにふさわしい圧倒的武力を以て次々と各島を勢力下に置くこの帝国は、帝国兵を1人見かけたら30人いると思ったほうが良い、といわれるくらいにはこの空域を席巻していた。
その帝国の戦艦内で彼女は賑わう街並みを見つめていた。
「あれが……ガロンゾ島ですか」
メガネをかけたエルーンの女性。知的な鋭さを見せる双眸がガロンゾ島をみつめていた。彼女の名前は『フリーシア』。エルステ帝国の執政の一切を取り仕切っている宰相である。
「あ、あのぉですねぇ……宰相閣下。恐れながらお尋ねしますが、なぜ宰相閣下が自らこんなところへ……ですねぇ」
恐る恐る問いかける帝国軍人。特徴的な語尾のこの男の名は『ポンメルン』。ほかに作業している軍人もいるなかでこうして彼女に話しかけることができるのだからそれなりの地位の者なのだろう。
「今回の件については、私自ら指揮を執るようにと、陛下から直々の勅令がありました。まぁ扱うものがものですからね。陛下も慎重になっていらっしゃるのでしょう」
そう述べる彼女の表情には言葉通りに思っているわけがないとわかるほど苦々しい表情が垣間見える。その視線の先には椅子に座り虚ろな目をして微動だにしない少女がいた。
「――ルリアの奪還も含め、陛下の勅令である以上、失敗は許されません。各自くれぐれも慢心することのないよう、注意して臨んでください」
そう言うと視線を艦橋から見えるガロンゾ島へと移す。傍らに佇むポンメルンにはフリーシアの思惑が読めなかった。結論の出ない思考を打ち切り、ひとまず任務に集中しようとその場を去っていく。
帝国戦艦は港へと入り、帝国の将兵達が続々とガロンゾ島へ降り立っていった。
グランサイファーが飛んでいた。
煙を上げ、フラフラとまっすぐ飛ぶこともできないような状態で、ガロンゾの港を目の前にしていた。
「くっ、こいつはいよいよやばそうだな……」
グランサイファーの挙動にラカムが呟くが、その声には現状が相当にまずい状態であることを物語る真剣味のある声だった。
「ふむ……高度が落ちてやがるな。ここまで随分無茶をやったんだ。よく保ってくれたってところだな」
オイゲンはグランサイファーをねぎらうような笑みを浮かべるも、団員たちは気が気出なかった。
「オ、オイゲン! こんな状態で本当にたどり着けるのか?いくら目と鼻の先とは言え……」
「そうよ! 笑い事じゃないでしょ!? まだ港には入っていないんだからね!」
「お姉様が慌てふためく姿……なんという僥倖」
一人おかしな人もいたが、甲板に出ている仲間達皆が心配の声をあげていた。
「ふふ……港を目の前にして墜落なんて、悲劇としては出来すぎね」
「ロゼッタさん……そんなこと言ってる場合じゃないような……」
ジータがロゼッタにツッコミを入れていたり。
「セルグ! ヴェリウスと融合して何とかしてよ!?」
「バカか! こんなでかい艇をあんな小さな翼で支えられるかよ!!」
「んな!? バカとはなによ。私の事守ってくれるんでしょ? 何とかしなさいよ!!」
「人には出来ることとできないこととあるだろうが!!」
小さな漫才をしているものもいた。
今はグランサイファーが落ちるか落ないかの瀬戸際だと分かっているのだろうか……グランが緊張感のない空気に毒されないように周囲を警戒しながら胸中でため息をついた。そんなとき空を飛ぶ影を見つける。
魔物である。通常、空を飛行中に魔物に出くわすことはほとんどない。空を飛ぶ生物にとって休む場所が無いからだ。
だが、ガロンゾを目の前にしている今は別だ。島からグランサイファーを見つけた魔物が襲い掛かってきたのである。
「まずいな……こんな時に魔物だ! ラカムとオイゲンは航行に集中してて。みんないくぞ!!」
グランが魔物を見つけて指示を飛ばす。
「ぐぬぬ……やっとガロンゾを目の前にしてるってのに、間の悪い奴らだぜ! 魔物なんて蹴散らしてさっさとグランサイファーを修理してやろうぜ!!」
飛んでるビィが先頭を行く。皆もそれに続いていった。
「艇に損傷出されたらまずいからな……悪いが本気で行かせてもらう!! ヴェリウス!」
セルグの声とともにヴェリウスが巨大になり飛翔する。その背に乗るとセルグは艇から離れ魔物へと突っ込んでいった。
時にはその背を飛びだし魔物を切りつけながら空中で軽やかに戦うセルグの姿は、一行にとって頼もしいことこの上無いだろう。
「さすがの判断だな……飛べるってことも含めて、頼りになるよホント!」
グランも遠距離系の技で艇に魔物達をとりつかせないように迎撃していく。
「鬱陶しいわねぇ、サウザンドフレイム!」
ゼタもアルベスの槍から炎を放ち他の仲間たちも甲板に都立高とする魔物を順次迎撃していった。
「私も、力になります……グラン、ジータ! 星晶獣を呼びます!」
仲間達が順調に魔物を迎撃していく中で自分にも何かできないかと逡巡したルリアが声を上げる。それを聞いたと同時にグラン達はルリアを守るように動き出した。
「セルグ! 一回下がってくれ! ルリアが召喚する!!」
グランの声が聞こえたセルグはすぐさま艇の横に来るように引き返す。
「お願い……力を貸して!」
己の内に眠る力へ呼びかけるように呟かれたルリアの言葉はセルグに届いたわけではなかった。
だがその呟きの瞬間にセルグはゾクリと背筋を震わせる。艇に戻る途中に感じた悪寒に視線を向けると、そこにはグランサイファーの前で魔物達に立ちはだかるように、星晶獣『プロトバハムート』がいた。
その巨大な竜の姿に、セルグは恐怖を覚える。
「なんだ……なんだアレは!?」
セルグの恐怖をよそにプロトバハムートは口元へと魔力を溜める。惹きつけられるような黒く強大な魔力は臨界点を迎え放たれ、魔物達を薙ぎ払う。
”
ルリアの召喚で魔物を迎撃し終えたグラン達は艇の上に集まっていた。
「セルグさん! さすがの実力でしたね。まさか飛んで行って迎撃するとは……セルグさん?」
ジータが戻ってきたセルグに声をかけるも、セルグは俯いていて表情が読み取れなかった。不思議に思うジータを素通りし、セルグはルリアの元へと向かう。
「えへへ、セルグさんが前まで飛んで行ってくれたので私もがんばりました!」
健気に笑顔を見せてセルグと相対するルリアは、セルグの様子の変化に気づいていなかった。
仲間達が事態の収拾がついたことに穏やかな雰囲気を見せているところで突如、天ノ羽斬を抜き放つセルグはその切っ先をルリアへと向けた。
「セルグ!?」
その場にいた全員の声が重なった。カタリナは驚愕しながらも剣を抜き、ゼタとヴィーラも武器を持ち出す。その反応は一流故の早さで何が起きても対処できるようにセルグへと向けられる。
「セルグ! 何を考えてるのよ!? アレを見せられて驚くのはわかるけどルリアちゃんは」
「ルリア、一つだけ問おう。その力、本当に制御しきれているのか?」
ゼタの声を遮り、セルグはルリアを鋭く睨み付け問いかけた。
そのセルグの視線には嘘は許さないという言葉が込められている。
「え、あ……その……」
「セルグ! ルリアはちゃんとこの能力を制御しきれている。今までにも何も問題は無かった。それは私達が証明できる!」
刀の切っ先に竦むルリアが声を出せないでいるのを見てカタリナがルリアの前に出ようとするもそれはセルグの刀によって止められた。
「わかっているのか? オレですらあれ程強大な気配を持つ星晶獣は見たことがない。それをルリアの様な女の子が使役できるんだぞ。これがどれだけ危険性を孕んでいるのか。先程言った制御しきれない可能性だけではない。場合によっては強要される可能性もある」
「強要される可能性……?」
セルグの威圧感に怯えながらルリアは聞き返した。
「端的にいえば人質だ。目の前で仲間が殺されるかもしれない状況になった時、その力で島を落とせとでも言われたら、抗えるのか?」
「そ、それは……そんなこと考えられないです……」
俯き静かに応えを返すルリア。まだ幼い少女のルリアにそんな極限の選択など想定できるわけが無かった。
「いい加減にしろセルグ! だから帝国から守るために僕達が居るんじゃないか! 一体何が問題あるんだ!」
ルリアの前に出てセルグと対峙するグラン。だが、グランが前に出ようとセルグも引き下がらない。
「退け、グラン。今はルリアを守るとかそういう話をしているわけじゃない」
「ふざけるな! セルグ、一体何が言いたいんだ? ちゃんと説明してくれ!」
グランがセルグに食い下がる。グランの一歩も引かない雰囲気にセルグは逡巡すると刀を収めた。
「これはオレがこれから誰にも危害を加えない証だ。退け、グラン。オレはルリアに話がある」
刀を収めたセルグの宣言に、疑わしく思いながらもグランはその場を退く。
目の前まできたセルグに、ひどく怯えた表情を返すルリア。目線を下げて怒られる事への恐怖を見せている。
「ルリア顔をあげるんだ。オレを見ろ」
言われた通りに顔を上げたルリアはセルグを見つめる。そこに怒りは見えず、むしろ心配気な表情を見せていた。
セルグはしゃがみ込みルリアと視線を合わせると口を開いた。
「ルリア、何故あのタイミングでアレを呼んだ?」
「だって、皆さんが必死に戦っていましたし、私も何かできないかと思って……私は戦えないですけど、ただ守られるだけなんて嫌なんです」
自分も騎空団の一員でありたい。仲間が戦ってる時に何もしないわけにはいかない。その時の胸中を素直に語るルリアの表情は、セルグに対して決意をもって力強い視線を返していた。
ルリアの言葉を聞いてセルグは一息ついてからその幼く小さい手を取った。
「思い上がるな、君の手はまだみんなを守る様な大きな手じゃない。ここにいる仲間達が何故にここにいるかわかっているだろう。グランが言う通り、ルリアを守るためにいるんだ。良いかルリア、あれ程強大な力を軽々しく使ってはいけない。それを見せることはリスクと隣り合わせだ。どこで誰が見ているかわからないんだ。狙う組織は帝国だけではないだろう。
本当に仲間を想うのであれば、その力は最後まで使わない様にするんだ。君がそうして自ら危険を呼び寄せていては守りきれる者も守り切れなくなる。いいな?」
「はい……ごめんなさいセルグさん……」
叱責され涙を浮かべるルリア。その様子に笑みを浮かべるセルグは、ルリアの頭をグシャグシャに撫でてやった。
「ルリアの想いは尊いものだ。それは間違いない。だからこそグラン達も止めなかったのかもしれない。だが、それでもその力は危険すぎるんだ。本来ならば細心の注意を払うべき力だ」
ルリアの想いを尊重しながらもセルグはもう一度諭す。
そんなセルグの言葉にルリアも撫でられた頭を押さえながら少しだけ笑顔を取り戻す。
「はい、わかりました!」
「セルグ。アンタ、なんでワザワザみんなから怒りを買う様な事を……っていうか言いたいことが回りくどいのよ」
ゼタは話が終わったセルグに問いかけるが。
「オレからすれば、今までに何も気にしていなかったお前達の方が大問題なんだがな……一体何を考えてこれまで旅をしてきたんだ。ザンクティンゼルでもあっさりオレにルリアの能力はバレてたし、危機管理能力が足りないと思うが?」
厳しく視線を投げながら仲間達を見やるセルグ。
「うっ……すまないセルグ。君の言う通りだ。ルリアの能力に対して考えが甘かった。危機感が足りなかった……」
申し訳なさそうにカタリナが答える。厳格な騎士でありながらも、身内には甘いカタリナはルリアの意思を尊重していた。それで戦闘が助かることもあり、ルリアの力に対しての危機感が薄れていたことに気づいてカタリナは自戒する。
「いや、こちらもすまなかった。余りにもあの星晶獣が衝撃的だったのでな。動揺がそのまま行動に出てしまった。色々余計な誤解を招いたと思う」
セルグも己の行動を振り返り謝罪する。星晶獣の恐ろしさを人一倍知っているセルグにとって先ほどのプロトバハムートの存在感は正に驚異であった。それ故にルリアに対して直接的な行動に出てしまった自分の行動は仲間に対するものではなかったと感じた。
「セルグ、ごめん。僕達団長なのに。ルリアの能力を甘く」
「謝るな。お前達が団長であろうと、お前達もまだ子供だ。そういうのを考えるのは本来大人の役目だ。カタリナやオレの様な。そうだろ、そこの短気槍娘。お前も少しはそういう事を考えてやれ」
グランとジータが謝るのを遮ると、ゼタへと話は飛び火していった。
「う、うるさいわね!! 大きなお世話よ、この面倒な言い回ししかしない陰険男!」
「セルグ……その、ワザワザゼタを怒らせなくても」
「オレが悪いんじゃない。槍娘がからかいやすいのが悪い」
当然と言う顔でそんな事をのたまうセルグとゼタの間で命がけの追いかけっこがはじまる。気性が荒く実力者でもあるゼタをからかうセルグに呆れ半分、恐れ半分で視線を向けるのはグランだけではなかった……
「でもセルグ、なんでわざわざ刀を抜いてまでルリアを脅すようなことを?」
逃げ切って落ち着いていたセルグにグランは改めて疑問に思ったことを問いかける。言いたいことがあるにしても刀を突き付ける必要があったのか……相手はまだ幼いルリアなのだ。セルグだって襲い掛かられたり危険があるとは思っていないはず。それなのになぜなのか。
グランの疑問にセルグは淡々と言葉を返した。
「そのほうが真剣味が増すだろう」
「そんな!? そのためだけにわざわざルリアを怖がらせるようなことをしたんですか!」
ジータがセルグの答えに非難の声を上げるが、セルグは直ぐに返していく。
「組織にいた頃のオレならすぐさま切り捨てていた。有無を言わさずにな。それくらいあの子の能力は異常で危険だということだ。少なくとも一度はオレの心は恐怖に染まった。あの星晶獣を見たときにだ。見慣れてしまったお前たちにはわからないかもしれないがな……」
「そんなに……ですか?」
「数多くの星晶獣を倒してきたオレが恐れたっていうのは信じるに足らないか?」
「いえ、そんなことは!?」
「おおい! 何とかガロンゾにはたどり着けそうだから港に入る準備をしてくれ!!」
一先ず落ち着いたグラン達にオイゲンとラカムから声が掛かった。
見ればガロンゾの港はすぐ目の前にまで迫っている。
話を中断し、グラン達も寄港の準備に取り掛かった。
こうして、グランサイファーはアクシデントに見舞われながらも、何とかガロンゾ島へとたどり着いた。
グランとジータの心に一抹の不安を残しながら……
いかがでしたでしょうか。
シナリオ中盤からということでここからのスタートとなります。
一応はこれまでのグラン達のたびについては作中で補完しながら進めていきます。
それでは。お楽しみいただけたら幸いです。