granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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大いなる蛇足回。
ぶっちゃけ読まなくても問題ない回です。

欲望のままに描きたいことを書き連ねました。
いつものネタ回枠なので楽しみにしていた方はどうぞお楽しみください。(ネタ要素はあの三人が出てくるくらいです


幕間 重なる想い、向き合う想い

 

 後に彼は語った。

 

 それは女神との出会いであったと。

 

 

 

 ザンクティンゼルの集落に住む少年アーロンは、その日もいつも通りに薪割りなどの手伝いをして、のんびり過ごしていた。

 一仕事終え休憩をしていた所、彼は集落を訪れる集団を目にする。

 良く目を凝らしてみるとその中に見知った顔を見つけ途端に彼は喜びを露わにして声を上げた。

 

「グラン、ジータ! おーい!!」

 

 いつの間にか島を離れ安否が気になっていた幼馴染二人の姿がそこにあったからだ。

 アーロンの声に気付いた二人も笑顔で駆け寄ってきて、彼はそのまま嬉しそうに二人を迎え入れた。

 

「久しぶりだな二人とも!」

 

「アーロン! ホント久しぶり!」

 

「元気そうでよかったよ。村の皆も変わりない?」

 

 嬉しそうな二人の姿にアーロンも妙に嬉しくなる。

 故郷に帰ってきたことが嬉しい。それを二人の雰囲気が物語っていた。

 

「あぁ、二人がいなくなる時に帝国が来ていらい、特に何もなく相変わらずここは穏やかなままだ。そういやこの間二人が帰って来てたって聞いたんだけど――――いつ来てたんだ?」

 

「あぁ、それはホントにちょっとだけ用があって立ち寄っただけで……まぁ、今回もなんだけど」

 

「あの時はちょっと艇が壊れそうで急いで出発したの。挨拶もなしに言っちゃってごめんね」

 

 少しだけ言い淀むグランの様子に、長居はしないのだと察してアーロンの気持ちが少しだけ落ち込むが、それを心の片隅に押しこめてアーロンは二人と共に居た騎空団の面々へと目を向けた。

 色とりどりの衣装や鎧に包まれた華やかな面々。厳ついおっさんに目付きの悪い男、腰に剣を刺した老人。一部お子様も混じっているがいずれも歴戦の戦士といった雰囲気を醸し出しておりアーロンは息を呑んだ。

 あんな人達を引き連れているのか……

 そんな驚きに包まれる中、彼は一人の女性に目を止めた。

 その瞬間、すっと思考が消えてなくなるほど彼はその女性に目を奪われてしまう。

 

「ふぅん……まぁこうしてまた戻ってきたならいいけどさ。あっちの皆さんが仲間か? う~わ。そろいもそろって美人ばっかり……グラン、随分いい思いをしているみたいだな。あとでちょっと紹介してくれよ」

 

 心を揺さぶる動揺を悟られない様に軽い口調で二人へと返し、アーロンは彼女を見つめた。

 すらっとした細身の体。何かの制服だと思われる衣装は、どことなく落ち着きと高潔さを醸し出している。そんな中に綺麗と言うよりは可愛い寄りの端正で小さな顔。細く柔らかな色合いの赤茶の髪がサラサラと風に流れ、日の光を反射している。

 風に揺られる帽子を押さえている姿すら、どこか美しい。そんな一つの芸術とさえ思うほどの衝撃がアーロンを襲った。

 

 これが少年アーロンの短い恋の始まりだった……

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 時刻はそれなりに遅い時間となった夜の時分。

 ザンクティンゼルの村の寄合所で行われた宴会。大量に摂取したお酒のせいでそれなりに出来上がったものから談笑に入るものまでまちまちとなり、各々が大いに楽しみはじめる、宴会の一番おいしい時間帯での事だ。

 

 

「貴方の事が好きです!」

 

「え、あ、えっと……ご、ごめんなさい!」

 

 

 聞こえてきたおもしろそうでありつつ不穏な言葉を聞き、テン上げ(テンション上げ上げ状態)の最中にいたローアイン、エルセム、トモイの三人組は声の出所へと急行する。

 そこで目にしたのは燃え尽きたように茫然とした少年と少し遠めに走り去っていく後ろ姿をみせるリーシャ。

 瞬時にその場で何が行われたのかを察した三人は、第39回緊急MTGをその場で開催。

 小声でのMTGとなったが、各々がこれから成すべきことを含め、話し合いを始めた。

 

 

「おいおい、何がどうしてこうなった? 緊急事態だ! とりまこの流れに辿り着くまでの流れについてご意見箱設置!」

「待て待てローアイン、一先ずは傷心の少年を俺達が癒してやる方法を考えるとこだろ! あんな燃え尽きた少年を見てまず野次馬根性の邪推とかてめぇ恋する男の風上にもおけねえ!」

「でもよぅ、その前になんでそうなったか考えねぇと下手すりゃ地雷踏み抜くかもしんねぇじゃん? とりま何がどうしてああなったのかは考える必要があるんじゃね?」

「んな事言ったって、そんな推測あの一部始終だけでわかんのかよ? どう考えたって答え出ないパティーンの方が可能性高めだろ。そんな推測する位ならできるだけ傷を抉らないように聞き出した方がナンボかマシだっちゃ」

「あぁ~なるりょ。確かに俺達がシンキングした所で何もわからない可能性バリ高。ハイご意見箱開示~とりま、どんな感じで行く?」

「そこはあれだべ、ローアインが割と頼れるメンズな雰囲気を醸し出しながら自然な感じに近づいて……」

「あとは流れで……的な? お前なら何とかしてくれると俺達は信じてる」

「オイオイ、おめぇら俺の事何だと思ってんだよ。そんなモテメン力もってたら今頃キャタリナさんとの事で苦労なんかしてねぇっつぅ話なわけで――」

「ん~なんつーかここは三人で第40回MTG、with少年Aで行くとかどうよ? ローアインの為にやってることを目の前の少年Aの為にやってやればいいだけじゃ」

「エルっち激冴え! とりま行くぜダチ公!」

 

 一先ず第39回MTGを終了とし、三人は傷心の最中にいる少年の元へと歩み寄っていった。

 寂しげな背中に何故か緊張感漂う三人は意を決して少年Aへと声を掛ける。

 

「ウィーッス。あれ、どうしたん少年? なんだか背中が泣いている的な?」

 

 突如掛けられた声にビクリと肩を震わせた少年Aは背中越しでもわかるような涙を拭うそぶりを見せローアイン達へと振り返った。

 

「えっ? あ、いや別に何でもないです!? ちょっとボーっとしてただけで……」

 

 振り返った少年の目が赤くなっている事。拭い切れていない涙の跡がはっきりと残っていることから、滲むどころかぽろぽろと零れ落ちるほどに涙を流していたのだと察することができた。

 

「(ちょっ、激泣き……こりゃマジぱねぇショック受けてんじゃん)あ~とりま少年も一杯やってみるか的な? 少年歳いくつよ?」

 

「えっと……一応、15歳です」

 

「なるりょ。まぁジータダンチョにもガロンゾで飲ませて大変な事になっちまったらしいけど、一杯くらいなら多分大丈夫だろ。エルっち、トモちゃん。少年の分一杯もらってきてくんね?」

 

「りょ~。秒で持ってくるわ」

 

「俺はつまみ調達してくんよ」

 

 すぐさま行動を開始する二人。本当にこういった時の行動力はピカイチである。

 

「頼んま~。んで少年……どうしたんよ? ツライ事があったなら吐き出しちまいな的な? 俺達こう見えても人生経験豊富なオトコだから相談乗るくらいできんぜ」

 

「い、いえ……個人的な事ですから。皆さんに相談する事では……」

 

 力なく笑う感じは意固地になっているのとは違う。多分、泣いていた事、泣くような事があったことを悟られたくないのだと、少年Aの態度からローアインは察した。

 

「恥ずかしがんなよ少年。男だろうと泣きたい時は泣いてイイってのがオレの持論よ。そんな泣きそうな顔でそんな事言ったって説得力ないっつーか、我慢すると体に毒だっつーか。とりま溜め込んじゃいけねぇって」

 

「お~いローアイン。持ってきたぞ」

 

「こっちも準備オッケーだ」

 

 見計らった様に、戻ってきた二人を迎え入れ、ローアインは真剣な表情となり少年Aと向き合う。

 

「俺等の仲間のセルグさんもずっと溜め込んでて、泣いてないのにずっと泣いてたっていう酷い事になってたからよ……少年みたいに泣きそうな奴ほっとけねぇーんだわマジ。力になると約束する。話してみてくれないか?」

 

 口調は幾分か軽いままだが、その雰囲気にはいつものふざけた感じはない。

 真剣な面持ちとなったローアインの言葉に感化され、少年はポツリポツリと話し始めた。

 

「その、実は……今さっきここで女性にフラれて、落ち込んでいました」

 

 フラれた。端的に言えばそれで事足りる。それはローアイン達も一部始終を目撃していたわけだし、ここまでは予測済みだ。その先の言葉を聞き逃さない様にローアイン達は少年が語るのを待った。

 

「皆さんのお仲間のリーシャさんに……今日初めてお会いしたんですが一目惚れというやつですかね……好きになってしまいまして。明日出立だと聞いていたものですから、さっき意を決して想いを告げたら、ごめんなさいと」

 

 言葉にしていくにつれ、徐々に重苦しい雰囲気になっていく少年の声に思わずローアイン達は顔を顰める。

 ごめんなさい……この言葉は恋する男にとっては凶器だろう。

 対面で話を聞いたローアインも同じような経緯でぐっさりと一度やられている。

 

「あ~そっか。そいつはつれぇよな。俺も一度はその言葉を受けた身……少年の気持ちは正に痛いほど良くわか……ん?」

 

 自分の言葉を認識しながら、ローアインの中に一つの疑問がよぎった。

 

 一目惚れ・即告白・ごめんなさい。

 

 こんな流れを自分は知っている気がする……

 

「つーかこれ、ローアインと丸被りなパティーンじゃね?」

 

「確かに。なんか聞いたことある話かと思ったら、ローアインとキャタリナさんのパティーンだわ」

 

「あ~つまりだ。もしかすっとこれ……」

 

 

「「「まだワンチャンあんじゃね?」」」

 

 勝手に盛り上がり始めた三人に少年は呆ける。

 ワンチャン……意味が分からない。

 パティーン……パターンだろう。

 キャタリナさん……確かカタリナという名前のヒトがいたからその人の事だろう。

 難解なパズルを紐解くような感じで目の前で繰り広げられた会話を解読している少年の胸にローアインが拳を押し当てた。

 

「少年。一つだけ確認したい……リーシャちゃんへの気持ちは本物か?」

 

「――それは当然、本物です」

 

 ハッキリと、静かな声ではあるが告げてくる少年の言葉に納得したようにローアインは口を開いた。

 

「だったら少年の為にも真実を教えよう。このパティーン……恐らくは俺と一緒だからな」

 

 そうして少年に語られるのはローアインの始まりの物語。

 しがないコックでしかなかったローアインの前に現れたカタリナとの甘い(かどうかは分からない)恋の始まり。

 

 

 ポートブリーズでコックをしていたローアインはバイト先の店に訪れたグラン達の接客中にカタリナに一目惚れしてしまう。

 即座にその場で夜会えないかとアポをとり、その日の夜にそのまま告白。

 これまで騎士として生きてきただけであったカタリナには色恋沙汰など無縁の話であり、自分にそのような好意が向けられることが初めてであったカタリナは顔を赤くして慌てながらこう答えた。

 

 

「この話は無かったことにしてくれ!?」

 

 

 言葉を残してカタリナはその場を逃走。追い縋る事もできずに一度彼の恋物語は終わりを迎えた。

 だが、傷心の最中親友たちに慰められつつも、諦めきれないとグラン達の艇に転がり込んだローアインはそこでカタリナの真意を聞くことになる。

 

 曰く、その手の話にはめっぽう弱い、というか知らないため何と言って良いかわからなかった。

 曰く、まだ良く知らない相手にそんなことを言われてテンパった。

 曰く、今はまだルリアを守るだけで精一杯で己の事は二の次だ。

 

 等々。

 即ち断られたわけではなくそもそも前の段階として、彼の恋物語は始まってすらいなかったのである。

 

 

「つまり……何が言いたいかっていうとだ。リーシャちゃんもキャタリナさんと同じで、少年の告白を断る云々の前にそもそもまだ恋を知らない女なわけよ!」

 

「ぜってぇそのパティーンだわコレ。グランダンチョの疑惑が出た時も、”今はそんな浮ついた話をしないで下さい”で終わっちったからな~ちゃけばキャタリナさんよりお堅い気がする的な」

 

「あん時のグランダンチョ、ガチ凹みしてたな……とりま少年の想いは叶う叶わないの前にまだちゃんと届いてねぇよ的な? 諦めるにはまだ早いって話だ」

 

「その通りよ。つーわけで今から第40回緊急MTG、with少年の開催を宣言しちゃいまっす! とりま議題はどうすればお堅いリーシャちゃんに恋の味を覚えさせるかってとこで、いざご意見箱設置ぃ~」

 

 とりあえず、まだあきらめるには早いとの言葉をもらった少年であるが、俄かには彼らの言葉が信じられなかった。

 浮かんできた疑問をすぐさまローアインにぶつける。

 

「えっと~あの。本当に、あり得るんですか? リーシャさん、普通に大人のヒトですよね? そんな恋に恋するどころか恋を知らないような人生あり得ない気が……」

 

「あ~まぁ、俺達も詳しくは知らないけど、リーシャちゃんの生まれって割と特殊らしいんだよな。秩序の騎空団の団長が親父さんでずっとその中で暮らしてたから同じ年代のダチとかいなかったって話。割と……ていうかガチでキャタリナさんと同じパティーンなんだよな」

 

「そもそも、ガチの気持ち持ってんなら一回二回断られたくらいでへこたれんなって話。本気なんだべ? だったら諦めんな。ガチマジで!」

 

「エルっちに同意。そんな生半可な気持ちだとウチのヴィーラちゃんだったら激おこ案件だぜ。俺等もこれからの少年の想いを応援するためにMTGすっからがんばれって」

 

 三人の言葉に少年の心に希望が灯る。

 慰めなどもあるのかもしれない。だがそれでも、傷ついた少年の心には彼らの言葉が心地よく沁みてきてもう一度夢を見たいと思ってしまう。それが嘘か真かわからなくても、簡単に諦めたくはない想いは少年の心に再び火をつけたのだった。

 

「――ありがとうございます。俺……もう一度ぶつかります! ちゃんと意識してもらえるように、何度でも想いを告げて見せます」

 

「お~ノってきたな少年……とりま名前教えてくれ的な?」

 

「あっ!? すいません。アーロンです」

 

「お~けーい! んじゃ第40回MTG開催だこらぁ! とりあえず明日の出立までにリーシャちゃんにアロっちが想いをぶつけるにはどうしたらいいか、ご意見箱設置~」

 

 いつものメンツに新たな仲間を迎え入れ、彼らは酒の勢いを加速させながら静かで盛大に妄想を膨らませた。

 どんな言葉を紡ぐか。どのタイミングで二人きりとなるか。贈り物とかはどうだろうか。

 様々なシチュを練りながら、彼らは次の日に向けて語り合うのであった……

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 暗い森の中……といっても、鬱蒼と生い茂っているわけでもないザンクティンゼルの森には月明かりも降り注ぎ、暗いと言うには足りないかもしれないが、その中をセルグは一人駆けていた。

 

「はぁ、全く……どうにも押され気味な気がするな。最近は特に」

 

 以前であればなんてことない風に言葉を返していただろうが、互いに意識し合う関係である以上、嫉妬と呼べるであろう感情をあらわされて、涼しい顔ができなかった。嫉妬とはそれを表現される側とて恥ずかしいのである。

 その結果あの場を逃走する事にしたのだが、残念ながらまだ撒けたわけではない。後ろには変わらず追い縋る人の気配がしていて、間違いなくゼタが追ってきていることが分かった。

 不審な事に、二人目の気配がしないのは気がかりだが、薄暗い森の中をこれ以上無為に走るのも危険だとセルグはその場で止まる事にする。

 

「追いかけっこはここまでだな。そろそろ落ち着いたか?」

 

 立ち止まり後ろにいるであろうゼタへと問いかけたセルグは月明かりが良く届く少し開けた場所で振り返る。

 特徴的な銀色の髪が光を反射し、ゼタの目の前で彼の雰囲気は途端に幻想的な様相となった。

 

「やっと止まってくれた……全く、あんな勢いで逃げなくていいでしょ! ちょっとからかっただけじゃない」

 

「いや、お前……あんなドスの聞いた声出せるのはお前とヴィーラ位だぞ。あんな声聞いたら誰だって逃げる。オレだって逃げる」

 

「アンタが誰彼かまわずちょっかい出すのがいけないのよ、この女たらし。折角ヴィーラのおかげで素直になれそうだったのに……アンタのせいで台無しよ」

 

 あの時……セルグとアーロンが話をしていた場所に赴いた時の事だが、ヴィーラと奥様方からの助言を受けて、己の気持ちを見つめなおしたゼタは期待と不安に揺れながら穏やかな気持ちでセルグと話をしに来ていた。

 だが話しかけようとしたところで、なんだかイチャイチャと言い合うバカ(セルグ)とリーシャの姿が見えてしまい、穏やかだった気持ちは瞬く間に消える。

 脳裏によぎるのはその気はないのだろうとわかっていても抑えきれない醜い感情。どうしてこの男はこうも、間が悪くヒトの神経を逆撫でするのだろうか。

 素直になれそうだった気持ちを素直にさせてくれない件のバカに、本気ではなくとも怒りが出てくるのは仕方ない。

 

 

 そんなゼタの膨れ面で怒っていますと言いたげな雰囲気だけは、暗がりの中で察することができて、セルグは小さく笑う。

 バレない程度に笑ったはずなのにゼタにはわかってしまったようで、すぐに肩をいからせるようにして歩み寄ってくるゼタを目の前にしても、セルグの笑みは消えなかった。

 

「何笑ってんのよ……一応私、怒ってるんだけど?」

 

「フ、ハハ……いや、なんていうかホント。お前のそういうところは可愛いと思ってな」

 

 からかいなど感じられない毒気の無い声と言葉にゼタの顔が怒りとは別に熱を持った。

 またこれだ……怒りをみせて押そうとすると、すっと引いて懐に引き込んでくる。心地いい言葉を恥ずかしげもなく告げて、そうやって散々にヒトの心を揺り動かす。

 

「ま、またそうやって心にもない事言ってごまかそうとする! 私は騙されないわよ。リーシャにだって同じ様なこと言ってたじゃない」

 

「あれは、そういう意味じゃないさ……今お前に言ったのとは違って容姿は良いんだから人目を気にしろってことだ。秩序の騎空団ともあろうものがあんな無秩序に色気振りまくような格好しているのが悪い。状況から見てもあの言葉が出てくるのはオレのせいじゃないだろう……」

 

「つまり、リーシャの事そういう目で見てんじゃない。ヴィーラから聞いたけどモニカにもヴィーラにも惹かれてるって? 男なんだからはっきりしなさいよ! そんなんだからアマルティアでもポートブリーズでもされるがままなのよ!」

 

「ポートブリーズでも……? お前まさか」

 

 ゼタの言葉にセルグが疑問を呈した瞬間、ゼタの表情がしまった、と言うような表情に変わり、またしてもセルグは胸中で笑う。

 本当にわかりやすい……ポーカーフェイスではヴィーラの圧勝だと下らない事を考えながら、少し怒りを見せた振りをしてゼタへと詰め寄った。

 

「お前……さてはあの日尾行してたな?」

 

「い、いや……ちがうわよ。そんな事して――」

 

「あの時間は既に夕刻だった。偶々あそこを通りかかる可能性は場所を鑑みてもゼロに近い。ヴィーラが話す可能性もあり得ない。アイツにとってはリードポイントだろうからな……白状しろよ、ゼタ」

 

 有無を言わさぬ声音に、ゼタが観念して俯く。

 幾分かの迷いの後、消え入りそうな声でゼタは静かに語りだした。

 

「ごめん……見かけたのは偶々だったけど、セルグとヴィーラが腕組んで歩いているのを見て、気になってそれで……」

 

「腕組んで……か。ってことはそこからずっと?」

 

「――うん。ごめん」

 

「そうか……ってことは、工房と墓もみたんだな。別に気にしていないからそんな顔するなよ」

 

 しおらしいゼタの様子に、セルグは声音を戻した。安心させるように、ゼタの頭に手を乗せるとまた小さく笑う。

 からかわれた……そう察するのに時間はかからずゼタの瞳にまた怒りが灯りそうになるがそれより早く、ゼタはある疑問を口にした。

 

「あの工房で風火二輪を持ってきたしやっぱりあの墓は……?」

 

「――あぁ、オレが想いに耽るためだけのアイツの墓だ。お前は知っての通りあそこに亡骸は無い」

 

 組織の戦士であった以上、ゼタは彼女の死に目を見て、埋葬された所を知っている。

 それでもポートブリーズに墓を用意しお参りをしていたセルグの想いに気付き、ゼタの怒りが消えていく。

 

「そっか……でもあの子の事だからきっと今はあの墓にいるんじゃないかな。大好きなセルグがいつも来てくれる場所に……」

 

「そうだと……いいな。この間の事で思いっきり怒られそうだが……」

 

「あ、あはは……そりゃあ目の前でセルグが他の人とキスしてたらね~。よく考えたらアンタ最低な事してるわね」

 

 言葉にしてから気付いたセルグの行いのひどさにまたもゼタの声に怒りが見え隠れし始める。

 ゼタの言うとおり彼女がポートブリーズに眠っているのならセルグは目の前で浮気現場を見せつけているに等しい。

 本人としては彼女の墓の前でこれからを幸せに生きるために尽くす誓いを立てただけのはずが、事実上はゼタが言うように最低な事をしているだろう。

 

「言葉にするのはやめてくれ……不可抗力とはいってもその事実は非常に心に刺さる」

 

 セルグとしてもそこは分かっていた様で、幾分か後悔の念を見せて答えた。

 

「フフフ、そんな顔しちゃったらあの子が落ち着けないでしょ。大丈夫よ、あの子がそんなことで怒ると思う? もし今のあの子に意識があったらちゃんとセルグの幸せを願ってくれるはずよ」

 

「――そうか? まぁアイツならそうだろうな。無駄な心配と言う奴か……だからと言って開き直る気はないが」

 

「その気持ちだけでいいでしょ。それに、そんなこと言い始めたら……私も何も言えなくなっちゃうし……」

 

 明るい声で語っていたゼタの様子が萎んでいく。違和感を覚えたセルグがゼタの様子をみるとそこには自信なさげに俯くゼタがいた。

 

「どうした? 何か気に障る事を言ったか?」

 

 俯くゼタの表情に陰りが見えるのを見逃さず、セルグは心配そうに問いかける。怒らせるような事を言ったつもりは無いだけに、また無自覚に余計な事を言ったかと不安を浮かべていた。

 そんなセルグの言葉にゼタは意を決して口を開く。

 

「――ねぇ、セルグ……ヴィーラから聞いたんだけど。モニカやヴィーラだけじゃなくてその……私にも惹かれているって本当? 私、ヴィーラみたいに落ち着いてないし、モニカみたいに包容力なんてないし……怒りっぽいし力任せだし。あの子みたいに優しくもないよ?」

 

 自分にも惹かれてくれている。そう聞いたときはやはりゼタも嬉しかった。だが、よくよく考えてみると、他の面々には十分に惹かれる要素が見えても自分にはそんな美点等無いのではないかと。

 そんな思考がよぎってしまいゼタは不安そうに問いかける。

 

「――いや、本と」

「ごめん、やっぱ今の無し」

 

 本当だから安心しろ。そう答えようと口を開いたセルグを遮り、ゼタが顔を上げる。

 

「こんな風に相手の気持ちを確かめようとするのアタシらしくないよね……おばちゃん達とも約束してきたし」

 

 開き直ったような明るい声でそう言って、ゼタは力強い瞳でセルグを見つめた。瞳に宿るは決意の光。ゼタは想いのまま高らかに告げる。

 己の想いとその覚悟を……

 

 

「私はセルグが好き……あの子には悪いけど、私は決めたんだ。あの子の分もアンタを幸せにしてやるって……だから、覚悟しなさい。私が本気で好きになったからには絶対モノにしてやるんだから!」

 

 

 集落からはかなり距離を取っている。叫んでいるわけでもないので誰かに聞かれる心配はないだろう。それでも十分に聞こえる大きな声で告げられた言葉にセルグは目を丸くする。

 逃げ出す前の二人の言葉から察してはいたが、先程のしおらしい態度から一転して高らかに想いを告げられるとは予想外だったのだろう。

 

 だが呆けてばかりはいられない。想いを告げてもらったのに、このまま何も返せなくては押されっぱなしの情けない男まっしぐらだ。

 ましてやゼタに惹かれているという事実をヴィーラを通して告げてしまっている。己の口から伝えずに相手に先手を打たれたままで終わっては彼女達に想いを寄せられる資格もないと言うもの。

 セルグも意を決して己の想いを紡いだ。

 

 

「悪いな。先に言わせてしまって……オレも、お前の事を幸せにしたいと願っている。アイリスの事を乗り越えた今、オレにとってお前は一番大切な存在となった。残念ながら優柔不断なオレはまだ迷って、揺れ動いてしまって、はっきりと答えを出せていないが、覚悟はしている……全てに応える覚悟を。

 だからもう少し待ってほしい。弱いオレはまだ、君達の想いに押しつぶされてしまいそうなんだ……弱いオレに、もう少し強くなるまでの時間をくれないか」

 

 対するセルグの回答は、承諾と取っていい保留であった。

 まだ全てを受け入れるほど己の中に余裕は無い。全てに応え、返せるだけの自信がない。

 セルグにとって彼女たちは己を救ってくれた大切な人達。

 誰かを選び誰かを悲しませる答えを、セルグはどう考えても出せなかった。

 

 そんな中ヴィーラに示されたのは、全てを選ぶ選択。

 ヴィーラが言うように彼女達はそれを受け入れつつあり、後は己次第だと言うのならそこにもう是非は無かった。

 全てに応える……例え傲慢であろうと、優柔不断と言われようと、それをすべて受け入れその手に掴むと決めたのだ。

 

 

「すまないな、ゼタ。今のオレに出せる答えはこれが精一杯だ……」

 

「ううん、良いわよそんな事……私達はセルグが弱くないって知ってるから。いつかちゃんと受け止めてくれるって、そう信じているから。今はそれで良い」

 

 恥ずかしそうに笑うゼタを月明かりが彩り、セルグは思わず目を逸らした。

 破壊力が高い……ただでさえ意識している女性だと言うのに羞恥に染まる頬、いつもとは違う物静かな雰囲気。普段が普段なだけに静かで乙女な雰囲気を纏うゼタは、非常に愛らしいかった。

 ”まるでどこかのお姫様みたいだ”。と初めて会った時の己の言葉が思い起こされる。

 目を背けたセルグの様子に、疑問を覚えたゼタはすぐにその理由を理解。小さく小悪魔的な笑みを浮かべて離れていた一歩の距離を音もなく動いてゼロにした。

 

「お、おい……」

 

 至近距離まで近づいてきたゼタにセルグは嫌な予感を感じてたじろぐ。

 身長差がある以上セルグを見上げる様な形になったゼタの表情には嬉しそうな、楽しそうな、そんな子供みたいな笑顔が張り付いている。

 

「そういえばさぁ~私気付いちゃったんだけど……私だけまだ一歩出遅れてるんだよね」

 

「出遅れ……てる?」

 

 近づかれて離れる様な事はしたくなかったのか、セルグはその場でのその位置関係をキープしていた。しかし、見上げてくるゼタを可愛いと抜けた事を考えながらも、この位置関係に多分に嫌な予感を感じて仕方なく後退の一歩を踏み出す。

 

「待ってよ……セルグ」

 

 だが、離れそうなセルグの腕をつかみゼタが引き寄せた。甘える様な声がセルグの耳をくすぐり、思考を揺さぶる。

 

「ゼ、ゼタ。お前はこういう事に関しては強引に行かないタイプだろう? 一先ず少し離れよう」

 

「――ダメ。出遅れている以上、少しくらい良いでしょ? ねぇ、セルグ。二人から受けたように……私にセルグからしてくれない?」

 

 何を……そんなことは言葉にせずともわかるだろう。

 出遅れているとは言うものの別段そんなに気にはしていないゼタだったが、それを口実にセルグには受け身ではなく、自分から動いてもらいたい。悪戯心も含まれているが狙いはそれである。

 少し優越な気分になりたいとかそういうわけではない……決してない。

 

 そんなゼタの思考は露知らず。誘われたセルグの胸中は激しい葛藤に見舞われる。

 応えるか、ごまかすか……するのとされるのでは心持が大きく違うのだ。簡単に応えられようはずがない。

 だが、躊躇は生まれるものの、甘えるように誘ってくるゼタの様子は、悪魔的な破壊力があり、抗うのも謀られる。

 僅かな間に恐るべき速度で思考を回しているが応えは出ず、その間にもゼタは準備万端とばかりに、瞳を閉じていた。

 

「はぁ、本当にお前達はそうやってオレの心を占めてくる……」

 

 一息吐いて、一言漏らして。意を決したセルグのやれやれと言った空気が流れた後。

 

 二人の影が重なった。

 

 僅かな間ではあったが確かに触れ合った時間があり、想いを感じる瞬間を感じた二人は音もなくそのまま離れる。

 気恥ずかしげに、だが、これでいいだろうと思ったセルグがゼタを見ると、そこには不満の表情があった。

 

「――あんた子供もできてたって事は、あの子ともっとすごい事してたんでしょ……なんでそんなに不器用なのよ」

 

 良く言ってつたない。悪く言って下手くそな口づけにゼタが苦言を呈する。期待外れとは言わないが、予想外ではあったのだろう。軽く触れるだけでしかなかった口づけに僅かに不満を見せていた。

 

「無茶を言うな。戦いしか知らなかった男がたった一度の経験で器用にこなせるものか」

 

「何言ってんのよ、戦闘中なら見ただけでなんでもこなす癖に……まぁここら辺は要練習ね。感謝しなさい、付き合ってあげるから」

 

「べ、別にこんなことに練習なんかいら――!?」

 

 言葉を遮られ、お約束と言わんばかりの光景にセルグは目を見開く。

 先程自分から行ったのよりも深く長い口づけ。求めるかのように唇に吸い付いてくるそれは、彼女らしく感情がこもった情熱的な口づけで、おもわずセルグも反応してかえしてしまう。

 離れた瞬間、互いに大きく呼吸をするほどのまぐわいとなったそれを終えて、ゼタは少し顔を赤くして笑った。

 

「――どう? 練習……必要でしょ?」

 

 言葉なくとも、行為だけでこんなにも想いを語れる。そう言いたげなゼタの想い込められた口づけにセルグは頷く事しかできなかった。

 自分がした口づけとは比べ物にならないほど、想いが込められていた。彼女の想いを雄弁に語っていた。

 

「――その、すまない。まだまだ未熟で……言葉なくとも語れるくらいにはちゃんとなるよ」

 

 余りの程度の差に少しばかり落ち込み気味でセルグはゼタへと言葉を返す。

 

「ま、私も見様見真似ってやつだけどね……ちなみに実習の相手はあの子よ」

 

「はっ!? え、嘘だろ。お前らそんなヴィーラみたいなこ――うぐっ!?」

 

 思いがけない事実に、不穏な言葉を口走ろうとしたセルグの腹部へゼタの拳が突き刺さった。

 

「お、おまえ……二つの意味で不意打ちすぎんだろ……」

 

「セ、セルグがいけないんでしょ!? 変な事言うから! 私達は二人ともノーマルよ! あの子もアタシも、こうしてアンタの事好きになったでしょうが!!」

 

「だからってお前……」

 

「訓練時代は、体目当てのような奴ばっかで相応しい相手なんていなかったし。練習相手に好きでもない男とそういう事やりたくなかったし、かといって経験無しなんて言うのもちょっとね……って話をしてた時にちょっとあの子と悪乗りしちゃっただけよ。変な想像しないで」

 

「いや、その事実だけでも十分に変な想像しちまうだろう……」

 

「まだ言うの? 今度皆の前で公開練習でもさせてあげよっか?」

 

「勘弁してください」

 

 公開練習。そんなことは絶対に御免だと、セルグは間髪入れずに平謝り。只でさえ、ヴィーラやモニカとの事が皆に周知されているのだ。そんな中でゼタと…………誰かに刺されそうである。

 

「よろしい」

 

 

 蓋を開けてみれば結局の所押されっぱなしだと、胸中でため息を吐いてセルグは降参とばかりに手を上げた。

 ヴィーラに始まり、モニカ、ゼタ……想いをハッキリと伝えたのはゼタだけであるが、いずれは同じように二人にも伝えることになるだろう。

 そうすればまた今の様に押されに押され情けない事になるのだろうかと。

 そんな想像に不安を覚える一方で、少し前の壊れかけていた自分と今の自分を比較して心温かくなるのを感じた。

 こんなにも求められている。生きることを、愛する事を……血に塗れ、復讐と贖罪に生きていた自分が。

 湧いてくる穏やかな気持ちのままセルグは我慢できずにゼタの手を取った。

 

「え? なによ急に、どうしたの?」

 

「そろそろ戻るぞ。これ以上いたらオレが持たない……ヴィーラが探しに来るかもしれないし。見つかって同じことを要求されたら死ねる」

 

「――フ、アハハ、その時はその時で面白いからいいけど、まぁ時間も時間だし……そうね。戻りましょうか」

 

 片や照れくさそうに、片や満足そうに。固く手をつないだまま二人は集落へと引き返し始めた。

 繋がれた手から感じる温かさに、互いの想いを感じながら……

 

 

 

 

 二人を見つめる視線に気づかないまま……

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 翌日、一行が出立する際。見送りに来た集落の人々から少し離れ、アーロンはグランを呼びつけた。

 

「リーシャさんに伝えたい事があるから呼んできてくれないか?」

 

 強い眼差しのアーロンの姿に並々ならぬ覚悟を感じたグランはそれを承諾。

 かくしてアーロンの二度目の告白イベントが幕を開けたのだが……

 

「昨日は逃げ出してしまいすいませんでした。えっと……お気持ちは嬉しいのですが、申し訳ありません。私は貴方の気持ちにお応えすることはできません。

 私には今……抱えている想いがあります。ハッキリとはまだ言えませんがこれから大きくなるであろう想いがあります。

 だからごめんなさい……私は貴方の気持ちに応えられないです」

 

 アーロンが想い告げる前に、リーシャが先んじて一晩悩んだ末に出した答えを告げる。

 

 ルーマシーでロゼッタに諭されてから意識し始めた、自分にとって大切に成り得るヒト。

 それが誰なのかハッキリわからなくても、徐々に意識してきた想いは大きくなりつつあり、自分にとって確かなものになるという予感があった。皮肉な事にアーロンの告白によってそれを確かなものとして認識し始めたのだ。

 それ故に、リーシャはアーロンの気持ちに応えられない……ハッキリと告げるのは彼女なりの優しさだろう。

 変に期待を抱かせてズルズルと引っ張らせては酷だ。真摯な想いにはちゃんと向き合って応えなくては失礼だと、リーシャは先んじて己の答えを告げた。

 

「――そう、ですか。まぁ仕方ないですよね。俺とリーシャさんじゃ住む世界が違うし。俺なんかよりグランの方がずっとすごいだろうし……そういえばセルグさんなんかも」

 

 失意に塗れたアーロンの声を遮り、俯くアーロンの頭に優しく手が乗せられる。

 

「俺なんか……そんな言葉を言わないでください。

 貴方は勇気をもって想いを告げた。それもこうして二度も告げる勇気を見せてくれた。私はそんな貴方から勇気をもらいました。自分の気持ちに向き合う勇気を。貴方の勇気は誇るべきものです……だから、ご自分を低く見ないでください」

 

「リーシャさん……」

 

「多分、今私が何を言っても、貴方の心には悲しみしか増えないと思いますからこれだけ伝えさせてください……ありがとうございました、アーロンさん。こんな私に向けてくれた想いと、貴方が見せてくれた勇気に深く感謝を致します」

 

 最後に笑って、リーシャはアーロンの目の前から立ち去っていく。

 その笑顔に伝えられるだけの感謝を込めて。少年の心を傷つけた胸中に渦巻く罪悪感を押し殺し、リーシャはアーロンが好きになった凛々しい姿のまま彼の前を去って行った。

 

 

 

「アーロン……その、僕なんて言って良いかわかんないんだけど――」

 

 残されたグランは気まずそうに声を掛ける。

 目の前で失恋した幼馴染。グランとしてもその光景はやはり悲しみが募るもので、何と言葉をかけていいかわからなかった。

 

「なぁ、グラン。リーシャさんって、一体どんな人なんだ?」

 

 そんなグランの惑いを余所に、アーロンは静かに問いかける。

 さっきまでの失意に塗れた声ではなく、淡々と疑問を解消したいと言った感じの声に、グランは努めて冷静に返した。

 

「空の世界の秩序を守る治安維持組織。秩序の騎空団第四騎空艇団、元船団長。今は僕たちの騎空団団に船団長補佐として任に就いている人だよ」

 

「そっか……かっこいいんだな。秩序の騎空団って……女のヒトなのに、あんなにきっぱりと言い辛い事でもハッキリ言って。更には俺の事を励ましてくれて。

 ハハ、なんだか情けないな俺。なぁ、グラン……騎空士って大変な事ばかりなのか?」

 

「そりゃあ、大変な事もたくさんあるさ。でもみんなとこうして楽しくやってる……空を飛びまわって生きている。

 僕たちは空が好きだから……」

 

 空が好き……この言葉に込められた言葉はきっとたくさんあるのだろうとアーロンは感じた。

 色んな想いが込められた声と表情には、言葉では表せられないチカラがあった。

 ”生きている”。それを強く感じる何かが……

 旅の前と後で大きく変わった、変わらない幼馴染の姿に、アーロンの気持ちが固まる。

 

「なぁ、グラン。今度戻ってきたらさ、俺を一緒に乗せて連れて行ってくれないか? 俺も、外の世界を見てみたい。空の世界を飛んでみたい」

 

 急な話にグランが言葉を失う。小さいころから二人が旅に出るのを危険だからやめろと反対していた彼が告げた、外の世界を見てみたいという言葉に、グランの心が弾む。

 嬉しい……素直にそう思えた。小さいころから反対していたアーロンから出た言葉と約束は騎空士として旅に出た二人を認めてくれたような気がしたのだ

 

「――あぁ、良いよ。それまでに親父さんの説得と、剣くらいは握れるようにしといてくれ。ウチの皆は働かないものには容赦しないからね」

 

 グランと同じように空を眺めながらアーロンから漏れた言葉に、グランは快諾の意志を見せる。

 只のその場だけの約束かも知れない。それでも、この約束はきっと三人にとって大きなものとなる。

 そんな期待がよぎった。

 

「それじゃ、もう行くよ……そうだ、リーシャさんとの事、ジータには言わないで置くよ。その方が良いだろう?」

 

「あ、あぁ。そうだな……ちょっとかっこわりいから」

 

「――了解」

 

 男として、あまりかっこ悪い話は言いふらして欲しくない。

 そんな年相応に小さなことを気にしてしまった事に小さく自嘲するも、アーロンは嬉しそうに飛び立つグランサイファーを見送った。

 飛び去るグランサイファーに憧れの視線を向けて。

 

 

 いつかきっと。彼らと並んで旅をしてみたい。

 

 そんな大きな目標を胸に抱いて……

 

 




如何でしたでしょうか。

ゼタ、可愛かったですか?
はい、可愛かったです。
作者が読み返したくなるだけの回でごめんなさい。

そしてどんどんかっこよくなるリーシャ。アガスではガンダルヴァとサシで勝ってもらおうかなぁ、とかよぎってしまいました。
少年を堕とすヒーローの鑑です。グラン君が落ちたのは1度目のアマルティア編で、リーシャが駆けつけて檄を上げた時です。

本編の最新話もすぐに更新いたします。それでは
お楽しみいただけたら幸いです

感想、、、最近めっきりでいただけたら嬉しいです

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