granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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盛り上がりの第40幕。

あらかじめ言っておきます。
真面目100%ですから間違えないよう。
不真面目に見えるかもしれませんが原作再現重視で真面目に書いております。

それではどうぞ、お楽しみください。


メインシナリオ 第40幕

 ザンクティンゼルの森を一陣の風が走り抜ける。

 その勢いは正に風の如し。デュアルインパルスで加速した動きのままグランとジータは疾走を続けていた。

 

「お、おぉい! グラン、ジータ! 落っこちそうだってぇの!?」

 

 全力で森を駆け抜けるグランの頭の上で、上下に激しく動く揺られながらも必死にしがみついているビィが泣きそうな声で叫んだ。

 

「しっかり掴まっててくれ! 落ちたらジータに踏みつけられるぞ」

 

「えぇ、任せてください!」

 

「っておぉい! ジータ、何言ってやがんだって!」

 

 全く最近二人ともオイラにひどくないか……そんな言葉が頭の上から発せられるのを耳にしながらグランは疾走する足をまた早めた。

 

 仲間達にフュリアスの足止めを任せ、頼みの綱のビィのチカラを解き放つため、グランとジータは見知った森を駆け抜ける。

 二人にとっては長年特訓と称して散々ぱら冒険してきた森だ。勝手知ったる我が家のようなもの。

 魔物が居ようと置き去りにするか瞬殺するかのどちらかで二人の足が止まることはない。

 

「なぁ、ビィ……本当に祠にそのチカラがあるのか?」

 

「ああ、多分」

 

「多分って、何か確信があったんじゃ……」

 

「おう……今も近づくにつれて呼ばれているような感じが強くなってるから間違いないとは思うんだ。だけど……」

 

「だけど?」

 

 歯切れの悪いビィの様子にグランもジータも不安な様子を見せる。これでビィのチカラが解放できなければ、今フュリアスと戦っている仲間達の窮地は免れない。

 更には島がフュリアスによって落とされる可能性もあるのだ。自分たちにとっても、この島で共に暮らしてきた多くの同郷の人達にとっても、それは筆舌に尽くしがたい悲劇となるだろう。

 

「祠に近づくにつれて、オイラの中になんていうか……どんどん変な不安が溜まってくるような、嫌な感じがするんだ」

 

 だが、それと同じぐらいビィの弱弱しい姿にも二人は不安を感じた。祠が近づくにつれ、ビィの様子は元々小さい体がさらに小さく見えるような弱弱しい気配を醸し出している。

 

「嫌な感じ……?」

 

「あぁ……オイラずっと考えててよぉ。親父さんがオイラのチカラを封印した理由も、ロゼッタがオイラに言った思い出したくないだろうって言葉も、考えるとそのチカラの封印を解いちゃいけないんじゃないかって……そんな気がしてて」

 

「それが……不安の理由か?」

 

「でもロゼッタさんはそれこそ、ビィのそのチカラが必要だからそのことを教えてくれたんだし、ロゼッタさんが危険なチカラを解放しろって言うとは思えないよ」

 

「オイラも、そう思うんだけど……ルリアがプロトバハムートを目覚めさせた時、オイラなんだか懐かしい気分になって。

 その……怖いんだよぅ。あのプロトバハムートみたいなとんでもないチカラを持っているんじゃないかって」

 

 三人の旅の始まりの出来事……帝国が放った魔獣ヒドラに対抗するべくルリアが目覚めさせた星晶獣、プロトバハムート。その強さは、グラン達のこれまでの旅路の中で恐らく最強と言えるチカラを持つ星晶獣であろう。

 

「セルグが言ってたじゃねぇか。あれほどの星晶獣はセルグですら見たことないって。もしオイラが同じような化け物だったらって思うと……怖いんだ」

 

 封印する必要があるほどのチカラ。それも、どのようなものかはわからないチカラを解放する。

 もしそのチカラが、手を付けられないほど強大なチカラで制御が利かないようなものであったら……

 それがビィの不安の種だった。

 

「なぁ……グラン、ジータ。もしオイラが暴走したりして皆を傷つけるような事をしたら――」

 

 その時はどうするんだ?

 

 ビィはその先の言葉を言うことができなかった。

 聞くのが怖くて? 違う。

 聞いてもどうしようもないから? 違う。

 

 

「大丈夫だろう」

「どうせビィの事だから大したことないよきっと」

 

 

 ビィの不安な声を遮り、グランとジータは殊更平坦な声でにべもなくビィのの不安を切り捨てたからだ。

 二人の言葉にビィは呆けるも、そんなビィの様子など気にも留めないで二人は言葉をつづけた。

 

「どんなチカラを持っていようと、どんな姿になろうと。ビィはビィだ」

 

「仮にあのプロトバハムートみたいな姿になったとしてもね。そんなこと別に怖がる必要ないでしょ」

 

「グラン、ジータ……」

 

 走り続けていたグランとジータが足を止める。するとグランは無造作な手つきで頭にしがみついたビィを抱きかかえると、まるで子供に高い高いをするように持ち上げた。

 

「この小さい体のどこにそんな力があるっていうんだ? どんなチカラがあるかもわからないのに、気にするだけ無駄だろう」

 

「そうなったらそうなったで私たちが何とかするよ。忘れた? 私達にはルリアやオルキスちゃんもいる。セルグさんやゼタさん。剣の賢者のアレーティアさんにシュヴァリエを従えるヴィーラさん。これだけの人達がいて何とかできないと思うの?」

 

 でもよぅ……と納得を見せないビィの様子にグランはため息一つ吐いてからビィを頭に乗せ直した。

 

「それに忘れてるぞ、ビィ」

 

「忘れてる……?」

 

「ロゼッタが、そんな危険なチカラを解放しろって言うと思うか? ユグドラシルを救うためだとしても、仲間であるロゼッタがビィにそんなことを教えると思うか? 僕はむしろ危険なチカラだったら絶対に教えないと思う。ロゼッタだったら猶更ね」

 

「その通りだよ。私達の仲間は皆、優しい人達ばかりのはずでしょ?」

 

 あっ……そんな悟ったような声がビィから漏れた。

 そうだ、その通りだ。そんな危険なチカラであったなら態々教えるはずがない。そんな事、これまでの旅路の中で知っているはずだった。

 斜に構えているけど、一歩引いたところから見守るお母さんのような、そんなロゼッタが仲間達を危険にさらすような事を言うはずがない。

 

「そっか……そうだよな! オイラは一番大事なことを忘れてたぜ。ロゼッタはそんなひどい事しない。オイラがするのは怖がることじゃなかったんだな……ロゼッタの事を考えれば怖がる必要なんてねぇじゃねえか!」

 

 弱弱しく折れていた耳が起き上がり、声に力がみなぎる。諸手を上げて喜ぶさまを見せたビィにグランとジータは微笑むゆっくりと走り出した。

 

「行こうぜグラン、ジータ! 早く皆を助けてやらねえと!!」

 

 先ほどまでの弱さを微塵も見せず、ビィが高らかに告げる。

 グランとジータはその声に応えるように、またビィを振り落とさんばかりの勢いで祠へと走るのであった。

 

 

 

 森の奥で、静かな光が灯り始めていた……

 

 

 ―――――――――――

 

 

 集落の人達を連れたルリアとオルキスは平原に停められていたグランサイファーへとたどり着くと、すぐにローアイン達を呼びつける。

 

「ローアインさん!! 皆さんをよろしくお願いします。艇に順番に乗せて守ってあげてください!!」

 

「皆……こっち。乗って」

 

 ローアインを呼ぶルリアと、グランサイファーへと案内していくオルキス。

 

「これが、グラン達の騎空艇なのか……あぁ、お嬢ちゃん達。ありがとうね」

 

「おかげで安全にここまでこれたよ。ありがとう」

 

 次々と乗り込んでいく集落の人達にお礼を言われながらルリアとオルキスは次の行動へと意識を移していく。

 

「いえ、まだ安全かはわかりませんから。さぁ、早く乗ってください!!」

 

「お~いルリアちゃん。とりまこっちはトモちゃんとエルっちに任せっからよ。グラサイが狙われる的な状況はある感じ?」

 

 呼ばれて赴いたローアインは状況の確認に二人へと問いかける。兵士たちが襲い来るのなら迎え撃つ必要があるだろう。

 待機組とはこういう時に戦うためにいるのだ。

 

「恐らく兵士の人達が向かってくるかと思いますが、そっちは私とオルキスちゃんで対処しますから大丈夫です。ローアインさんは皆さんをお願いします。行くよ、オルキスちゃん!」

 

「――うん」

 

 ローアインに一方的に告げると、ルリアとオルキスは艇を降りて走り出していく。

 

「ってちょっ、まっ……行っちまったぜ。なんかわからんけどルリアちゃんとオルキスちゃんやる気バリバリ……」

 

 やる気に満ちたルリアの後ろ姿にどことなく不安を覚えたローアインは逡巡の後に声を上げる。

 

「トモちゃん、エルっち! とりまこっち任せていいか? ちびっこ二人に任せっきりなんて俺様のプライドが許せねえ」

 

「ハッ、何調子に乗ってんだし。ローアイン一人でなにができるだっちゃ」

 

「よくわかんねぇけど、ここでグラサイと皆さん守ればいいんだべ? だったらオレ達がやる事は一つ……」

 

 だが呼ばれた二人は不敵な笑みと共に、決意の表情を見せる。ここで何をするべきか……そんなことは決まっている。

 

「へっ、そうだな。グラサイ守って、ちびっこ守る。それができなきゃ男じゃねえ……だな。行くぜダチ公!――騎馬戦だ!!」

 

 グランサイファーより男たちが出撃する。

 例え弱く、普段は力になれなくても。それでも騎空団の一員としてできることをやる。そんな決意を携えて……

 

 

 

「チカラを貸して、イフリート!」

 

 ルリアの声に応え、炎の魔獣イフリートが顕現。

 屈強な肉体を持つ二足歩行の魔獣が、大きな咆哮を上げながら近づいてくる兵士達を殴り飛ばした。

 

「いけ……ミスラ」

 

 オルキスの声に応え、ガロンゾの星晶獣ミスラが顕現する。その身の一部である歯車が飛び交って帝国兵士達を襲った。

 

 星晶獣を従える少女二人によって帝国兵士達は成すすべなく蹂躙されていく。

 空の民として、星晶獣という規格外の化け物を目の前に出されては兵士達に抗うすべはないだろう。

 

 だが、勘違いしてはいけない。

 星晶獣がどれだけ強かろうと、彼女たちは所詮、星晶獣を使役できるだけのただの少女に過ぎない。戦闘のエキスパート等ではない。

 

「懐ががら空きなんだよ!!」

 

「きゃぁ!!」

 

 密かに回り込んでいた兵士の一人がルリアを捕えていた。イフリートもミスラも兵士たちの迎撃の為に彼女たちからは離れた位置で戦っていた。

 戦闘のイロハも知らず自衛のできない少女二人では、回り込まれての不意打ちをされれば打つ手がなかった。

 

「オラァ! さっさと星晶獣共を戻しやがれ……さもないと機密の少女だろうと刻んで捨てるぞ!!」

 

 そしてルリアを人質とされてはオルキスに打開の術などない。表情は変わらず無表情のままだが、オルキスは悔しさに唇を噛んでミスラを戻した。

 

 

「へへ……それでいいんだよ。後はお前達を連れ帰り――」

 

「シャッオラァアアア!!」

 

 

 突如、怒号のような声と共に駆け込んでくる人影が兵士を襲う。それは、エルセムとトモイという”馬”に乗ったローアインである。

 人馬一体となった三人がルリアを捕えていた兵士達を轢いていった。

 

「行くぜダチ公。まずは付近のインペソを一掃だ!!」

 

 帝国兵士。インペリアルソルジャー。略してインペソらしい。

 ローアインの声に従い、エルセムとトモイがその足を早める。

 

「なんだあのふざけた奴らは! さっさと倒して機密の少女を確保するぞ!!」

 

 向かい来るローアイン達を迎撃しようとタイミングを計り、兵士が剣を振り下ろす。だがそれは突如足を止めた三人によって空を切った。

 

「なっ!?」

 

「シャオラァア!」

 

 無防備な姿を晒した兵士に向けてローアインの攻撃が炸裂する。それ即ち、三人の重さを乗せた体当たりだ。

 

「ぐっほぁ!?」

 

 またもや轢きつぶされた兵士を尻目にローアイン達が次々と兵士達を勢いのままに屠っていく。

 何故? そんな疑問が兵士達の中に広がった。

 明らかに戦い辛いはずの三人による騎馬戦。普通に戦えば三人で戦えると言うのに、二人で一人を持ち上げると言う愚行のせいで移動スピードとて決して速くない。普通に戦える兵士達が負けるはずがないと言うのになぜ?

 

「はっはぁ! 良い事教えてやるぜインペソ共が! このパティーン……地元じゃ敵無しなんだよ!」

 

「ローアイン騎馬隊長! 十時の方向より敵接近~」

 

「ばぁか、あっちは二時の方向だ!」

 

「オラオラ、かかってこいやインペソ野郎共が!」

 

 宣言通りの敵無しな勢いでローアイン達が動き回る。

 決して速くない。決して強くない。だと言うのに、全く兵士達を寄せ付けない。

 不可思議なその強さはひとえに彼らのこの戦い方にあった。

 

 明らかに不利な戦い方、それ故に兵士達は簡単に倒せるだろうとたかをくくる。強くないであろうと錯覚してしまうのだ。

 心には余裕ができ、冷静に動き回ってくる三人に対し待ち構えるように迎撃を選択してしまう。そしてタイミングを計り切りつけようとすれば……

 

「ほいっとな」

 

 急制動、急旋回で躱されるのだ。そして隙だらけとなったところをローアインが叩き潰す。

 二本脚の二人が騎馬となったこの形態。詰まりは足が四本であり二足歩行では適わぬ挙動を生む。そのあまりにも予測できない動きに兵士達は虚を突かれていた。

 

「バカな、こんなふざけた戦い方で一体なぜ……」

 

「わかってネェなお前ら。たかが騎馬戦だと侮ってる時点でお前らに勝ち目はねえんだよ! 騎馬と騎手の思考の融合……騎馬戦のあるべき姿であるこのモードに敵はいねぇ!」

 

 正に一騎当千……その言葉を体現するように、三人はぐるぐると周囲の兵士達を駆逐していく。

 助けられたルリアとオルキスは目を点にしたまま、その光景を眺めているのだった。

 

 

「ヘヘ。掃討完了っと。大丈夫か~? ルリぴっぴに、オルキスちゃん」

 

「とりま、艇に戻っておくぞ。どんどん来るようならグラサイに立て籠もって迎撃した方が良い」

 

「ってなわけで戻るぜお二人さん。二人が無理して戦う必要ねぇから、あとは俺達に任せな!」

 

 暴れまわって走り回って。そうして十人程度はいた兵士達を一方的に倒したと言うのに、彼らに疲労の気配はなかった。

 頼もしく告げてくる三人にルリアの表情が綻ぶ。オルキスも安心したように一息ついていた。

 

「す、すごかったです。ローアインさん達、実はすっごくつよかったんですね!!」

 

「三人とも、なんでかわからないけど強かった……弱そうなのに」

 

「へへ、それが逆を言えば俺達の強さってわけよ。さぁ、戻ろうぜ」

 

「ハイ!」

 

「うん……」

 

 五人はそのままグランサイファーに立て籠もり、近づく兵士達を寄せ付けないように迎撃を繰り返すのであった。

 

 

 

 ―――――――――――

 

 

 森の奥、相変わらずの静かな雰囲気に包まれた祠の目の前まで辿り着いた三人は光の粒子が飛び交っている不思議な状態の祠を目にしていた。

 

「これ……一体何が?」

 

 光の粒子が祠を包むように漂っていて、以前はただの不思議な祠であったものが、今は更に不思議な祠となって、三人を出迎えている。

 

「こんな事今までなかった……よな?」

 

「うん。少なくとも私は見たことがないよ」

 

「オイラも見たことねぇや」

 

 三人とも不思議な状態の祠に首を傾げる事しかできなかった。

 これまで生きてきた中で何度か見てきたことがあった祠だが、こんな状態になる事は知らない。だが同時にこの光景は、ビィのチカラに祠が呼応しているのではないかとも取れた。

 

「ビィ……止まっていても仕方ない。準備はいいか?」

 

「お、おう……緊張はしてるけど、大丈夫……だぜ」

 

 表情は強張っているが、それでももう弱弱しさはない。だが、やはりその手は祠を開こうとするのを躊躇してしまう。

 ビィの心の中にある葛藤がその手を止めていた。

 やはり怖いものは怖いのだ。その手が祠を開いた時、その先にもしかしたら最悪の未来があるのではないかと。

 小さく震える己の手を見つめて、ビィは決心したように口を開く。

 

「――なぁ、グラン、ジータ。オイラの手、握っててくれないか?」

 

「え?」

 

「どういうこと?」

 

 疑問符を浮かべた二人に、ビィは小さく淡々と言葉を続ける。

 

「オイラの手を握っててほしいんだ。グランは右手を、ジータは左手を。二人と一緒ならオイラ、何が来たって怖くねえから。んでもって祠を二人に開けてほしい……そしたらオイラきっと大丈夫だから」

 

 自分では開けられない。心が拒絶するような手の震えにビィはそう悟った……そしてビィは、祠を開けるタイミングを二人に委ね、更には最大限の信頼を込めて、二人に手を取っておいて欲しいと懇願した。

 大切な旅の相棒であるグランとジータ。二人と一緒ならどんなことも乗り越えられる。

 理論も根拠もない無鉄砲な自信を振りかざし、ビィは意味のわからない不安に打ち克つべく相棒との絆に寄り添った。

 

「――良いのか。ビィ?」

 

「無理なら別に」

 

「良いんだ二人とも! オイラ……小さくて弱いけど、でもオイラにできることがあるなら。オイラががんばってこの島が救えるなら、やってやる! オイラだって騎空士の一員だ。故郷のピンチに奮い立てなくて、騎空士を語れるかってんだ! どんなチカラを持ってようと、オイラはオイラだから……だから大丈夫だ!」

 

 恐怖に震えながらも決意の声を上げるビィの想いを聞き、グランとジータは視線を交わして頷き合う。

 

「わかった。ジータ」

 

「うん。了解」

 

 手をこまねくわけにもいかない。状況としては仲間達もそろそろ限界であろう。

 本人からの決意を聞いた以上二人にやめると言う選択肢はなかった。

 祠の前に並んだ三人はそっと手を繋ぐ。

 

 

 

「行くぞ、ビィ……」

 

 頼れるグランは、言葉少なくただビィの手を強く握った

 

「何があっても私達が付いているから。大丈夫だよ」

 

 優しいジータは、静かな声音で安心させるようにビィを励まして小さな手を優しく包み込んだ。

 

 

 

 力強く光を纏う祠を睨み付けると、二人はその手で勢いよく祠を開け放った

 

 

 

 

 次の瞬間、三人は巨大な龍の咆哮(こえ)を聞いた気がした…………

 

 

 ―――――――――――

 

 

 地面を強く踏み抜いて、肉薄したアレーティアとスツルムがフュリアスを切り付ける。

 

「つぉおお!」

「やぁああ!」

 

 長剣と短剣の二重奏が剣戟の嵐を叩きこんだところで二人はすぐに後退。

 

「いくぞヴィーラ!」

 

「はい!!」

 

 中衛の位置にいたカタリナとヴィーラは剣を一振り。露散した魔力で刃を形成しフュリアスに向けて放った。

 

「ふん、弱い弱いぃ!!」

 

 それをフュリアスは動じずに防御。堅牢な盾がその全てを防ぎ、二人に接近すると巨大な槍で薙ぎ払う。

 

「おぉらああ!!」

 

 咆哮を上げながら、ゼタが巨大な槍にアルベスの槍を叩きつけ、地面へと打ち付ける。

 

「ナイスだゼタ!!」

 

 好機とみてセルグが槍を足場に接近。駆けあがるその先はフュリアスの頭部。

 鞘に納めていた天ノ羽斬には既に光来でチカラを蓄えており、あとはそれで首を断ち切り終わらせる。槍から跳躍しフュリアスの目の前まで躍り出たセルグは天ノ羽斬に手を掛けた。

 

「絶刀招来――」

 

「なめんなよぉ!!」

 

 盾を手放したフュリアスはその手をセルグに向けて魔力砲撃を放つ。

 

 ”馬鹿者が!!”

 

 間一髪。空中で態勢を整えられなかったセルグを、中空にいたヴェリウスが救出する。上に向けて放たれた砲撃は蒼い空へと消えていった。

 

「すまん、ヴェリウス。助かった」

 

 ”あまり無理をするでない若造。本来のお主であれば魔力砲撃ごと叩き切っていたはずだ。それができない以上、お主が決め手になることはないと思え”

 

「くっ、もどかしいな……」

 

「気にすんなよ。今までのお前さんを考えりゃ十分すぎる程戦ってきたんだ。今だって十分に頼もしいぜ……だから無理すんじゃねぇよ」

 

「ラカム……」

 

「そうそう~そうやって肩肘張っているといつか余裕がなくなっちゃうよ。ほぅら笑って笑ってー」

 

「ドランク……」

 

 後退したセルグの隣に並び立ったラカムとドランクに一瞬呆けるもセルグは小さく笑みを浮かべて天ノ羽斬を納刀。新たに抜き放つは風化二輪。

 

「そうだな……倒せなくてもできることはあるよな」

 

「そうそう~その表情だよ。真剣なのはいいけど余裕をなくしちゃ――」

 

「ドランク!! いい加減ふざけてないで援護をしろ!!」

 

 気の抜けた声が聞こえて苛立ったか、スツルムの罵声がドランクに突き刺さる。

 

「おっと、ハイハイ! 今やるよ!」

 

 飄々とした様子でありながら、先ほどまでの気の抜けた様子を消し、ドランクは懐より色の違う宝玉のような球をを三つ取り出す。

 それは魔力を纏いながらふわりと浮かび上がり、ドランクの目の前でクルクルと動き始めた。

 

「さぁて、僕のマジックショーと行こうかな~……ほいっと!」

 

 瞬間、宝玉から次々と火球が放たれる。次々と連射される炎の球はまるで休むことなく発動されるイオのフラワリーセブンのようにフュリアスへと襲い掛かった。

 

「へ~魔法系だったのか。どんな戦い方をするのか気になっていたが、なるほど。大したもんだ」

 

「君に比べたらそれこそ大したことないけどね~ほい次っと」

 

 三つの宝玉が回る速度を早めると、水流が巻き起こり竜巻となって巻き上がる。

 水の竜巻がフュリアスの巨大な体を押しつぶすようにぶつかっていった。

 

「グッ、傭兵風情がぁあ!」

 

 盾で防いだフュリアスはそれを力任せに押し返す。

 その瞬間、フュリアスの目がギラリと光ったように感じた一行は反射的に回避行動をとった。

 

「死ねよクソ共がぁあ!!」

 

 巨大な魔力を纏いながら巨大な槍が薙ぎ払われた。正に暴力の塊ともいえる驚異的な威力を孕んだ槍の一振りは居並ぶ一行の動きを止め、隙を作り出す。

 接近しようとしていたところで、緊急回避に地面へ伏せたゼタへフュリアスが追撃に入った。

 

「ほぅら一人目ぇ!!

 

 倒れていたゼタへ巨大な足が落とされる。

 容赦なく落とされた巨大な足はヒト一人などトマトのように簡単に潰せるだろう。

 明確な死を幻視できる程の脅威を前にゼタが身を竦ませるが、そんなことを許すわけがない。。

 

「させるかよぉ!!」

 

 ヴェリウスに乗り宙へと逃げていたセルグが飛び降り様に奥義を敢行

 両手から込められた魔力が、風火二輪を伝い銃弾へと集うと、風と炎の激槍がフュリアスを撃ちぬいた。

 

「ドランク、ラカム! 追撃頼む!」

 

「はいは~い」

 

「任せな!!」

 

 踏みつけようとした足がたたらを踏み、僅かに体勢を崩したフュリアスへ、セルグの声に応えた二人が援護に入るのを見届けて、ヴェリウスがゼタを掴まえて後退。

 

 一行は再びフュリアスとにらみ合うような形になり、戦いは動きを止める。

 

 

「はぁ……タフというかなんというか……アイツ何回攻撃を受けたら倒れるんだ?」

 

 僻易したようにセルグが呟いた。

 先程セルグが放った風火激槍。ラカムとドランクによる追撃もダメージとしては入ったものの、それはすぐに再生されて終わる。

 正しく終わりの見えない戦いに、セルグだけでなくラカムやドランクも疲労と呆れを見せていた。

 

「傷を回復しているのですから止めとなる一撃を決めなくては倒せませんよ。愚痴る前にもう少し頑張ってください、セルグさん」

 

「リーシャ。あのなぁ、お前簡単に言ってくれるが、それができたら苦労してないだろう」

 

「確かにそうだな。ちまちました攻撃じゃ埒があかないが、かといってアイツもさすがの実力。大きな隙は無いし、攻撃力は驚異的でデカい一撃なんか狙えやしないぞ」

 

「そうね、スツルムの言う通り、ちょっともう打つ手がないわよ。ヴィーラ、何かある?」

 

「難しいですね。やはり団長さんたちを待つしか手はないと考えるべきですね。無理をしてやられては話になりません。防御魔法を使えるお姉さまを中心として、援護と防御主体に切り替え時間を稼ぐ方にシフトした方が良いかと」

 

「ううむ、だがそれとて簡単ではあるまい。どうやらあちらさんは随分とご機嫌斜めのようじゃからのぅ」

 

 アレーティアの声にフュリアスへと視線を向ければ、再生を終えたフュリアスが常軌を逸した様子で立ち上がるのが見えた。

 

「ハァ、ハァ……クソっ。ちょこまかうろちょろと。いい加減早く潰れろよ!!」

 

 思うように一行を仕留められない事に苛立ちが募っているようである。その気配はアルビオンでシュヴァリエに呑まれ掛けたヴィーラの様に、徐々に魔晶の気配に塗りつぶされているようであった。

 

「ハハ、いいやもう。さっさと終わらせよう。お前達も、集落の連中も、この島も…………みんなみんなみんな! 全部空の底に沈めてやるっ!!」

 

 吹っ切れたように声を上げたフュリアスはその手を一行に向けて翻す。フュリアスの意志に応えるようにその手には徐々に膨大な量の魔力が集い、禍々しい力の気配を巨大にしていく。

 

「おいおい、あんなもんぶっ放されたらっ」

 

「――まさか本当に島ごと落とすつもりか」

 

 オイゲンとカタリナが慄く。一行に向けられる砲撃はこれまでとは比較にならない威力を持つと容易にわかるだけの魔力が収束されていた。

 避ければ島に着弾しフュリアスの宣言通りに島が落とされるかもしれない。だが、避けなければ彼等の命は間違いなく消し飛ぶだろう。

 ファランクスを使えるジータはいない。カタリナのライトウォールはそこまで高い防御力を持つ技ではない。

 できる対抗策は限られていた。

 

「撃たせるな!!」

 

 セルグが叫びながら走り出すと同時に。アレーティアとゼタ、スツルムとドランクが阻止に動き出すも、既に魔力は臨界点を迎えている。

 できる事と言えば全力で砲撃を迎撃し相殺するしかない。瞬時に判断したセルグが天ノ羽斬を抜き放つ。

 更にゼタとアレーティアも並び全力で迎え撃つ体勢を整えた。

 

「消えてなくなれ!! カタストロフィ!!」

 

 無常にも放たれた極大の砲撃を前に三人が挑む。

 

「絶刀将来天ノ羽斬!!」

「白刃一掃!!」

「プロミネンスダイブ!!」

 

 全身全霊の奥義が僅かに威力を減衰させるも、抵抗なく三人を吹き飛ばし砲撃は後方で待機していた仲間達へと向かう。

 

「ライトウォール!!」

 

 焼け石に水であろうと、最後の抵抗にカタリナが障壁を展開。全魔力を注ぎ込み障壁の強度を保ちながらギリギリで受け止めた。

 

「(グッ、無理だこんなの防ぎきれるわけ――)」

 

 受け止めた瞬間にカタリナは悟る。余りの威力に障壁は数秒と持たないと……

 

「皆、すぐに私から離れろ!!」

 

 犠牲になるのは一人でいい。このわずかな数秒で仲間が助かるのなら己が成した事にも意味があるだろう。

 返答を聞く事すら適わないギリギリの状況で、すぐに障壁が突き破られ、カタリナの視界を暗く重い魔力砲撃が埋め尽くす。

 

 

 ”あぁ……ルリア。すまない”

 

 

 黒く塗りつぶされていく世界の中、カタリナは静かにその目を閉じて、ルリアへと想いを馳せた。だが次の瞬間――――

 

 

 

 ”させるかぁあああ”

 

 

 

 聞きなれた可愛らしい声と共に世界に大いなる咆哮が木霊した

 

 




如何でしたでしょうか。

ビィ君覚醒。次回激しく活躍してもらいます。
ローアイン覚醒。こじつけかもしれない。そんなわけあるかと思うかもしれない。
だけど彼らも戦えると言うことをちゃんと描きたかった。
批判もあるかもしれませんが、どうかご理解いただきたい。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

感想お待ちしております

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