granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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じっくり書き進めております。

ガロンゾ編の修正が終わったのでアマルティア編にも手をつけ始めております。
本編の更新が鈍るにはご理解いただきたいです。

それではどうぞ


メインシナリオ 第39幕

「オラァ!!」

 

 静かな森の中にゼタの気合いの声が響く。アルベスの槍に盛大に打ち据えられて、また一人帝国の兵士が沈んだ。

 

「全く、対して強くもないくせに厄介な事ばっかりしようとするんだから」

 

 襲撃を受けたザンクティンゼルの集落。村人達の一部は捕まるものかと森へ逃げ込んでおり、それを兵士たちが追い立てていた模様だ。

 ゼタが既に何人もの兵士を倒してきていることから兵士達がどれだけ躍起になっていたのかがわかりそうである。

 崩れ落ちた兵士を眺めていた所で、同様の任に就いていたアレーティアとヴィーラがゼタの元へと集う。

 

「ふむ、ゼタよ。今ので大方片付いたかのぅ……」

 

「あ、アレーティア。うん……多分大体は片付いたかな」

 

「一応はもう少し見回りましょう。仮に残っていて集落の人達を人質に……などという事になれば皆さんに申し訳が立ちません」

 

 ヴィーラの言葉で二人が周囲を見回す。

 幸いにも人影は見当たらなかったが、気になってしまうと不安を覚えてしまうのがヒトの性。見落としていれば事なだけに、三人は改めて緊張した面持ちとなった。

 

「そうね……それじゃもう少し――」

 

 瞬間、辺りが光に照らされる。

 三人の背後から立ち昇った禍々しくも強烈な光。それが周囲を照らし出して、三人は即座に振り返った。

 

「あの光は……魔晶の光?」

 

「うぅむ、肌にビリビリと伝わってくるような強大なチカラの気配がするのぅ。これは兵士たちを探している場合ではないかもしれん」

 

「そうね、急いで向かいましょ!!」

 

 兵士と魔晶。より驚異の高い方をと考え三人は光の立ち昇った場所へと向かう。

 つい最近も見たことがある嫌な光に、一抹の不安を抱えながら……

 

 

 ――――――――――

 

 ズシリと重量感のある足音を響かせ、巨体となったフュリアスがザンクティンゼルの大地を踏みしめた。

 

「ク……ククク、アーッハッハッハ!! どうだいこの姿……強靭にして巨大な肉体。重い槍と盾を軽々と振り回せるこの力」

 

 魔晶による変貌を遂げ、感極まったように声を発するフュリアスの姿は正に異形。背丈は精々ヒトの三倍程度ではあるが、重々しい巨大な槍と盾を持ち、皮膚を頑強な鎧の様に変化させたフュリアスの姿は元の小さいハーヴィンの面影など欠片も見当たらない。

 異常なまでの魔晶のチカラ……アマルティアで驚異的な強さを見せつけたポンメルンをも上回る気配に、グラン達の表情が固まる。

 

「そして極めつけは……」

 

 フュリアスが巨大になった手を翻した。

 徐々に高まる魔力がうねりを上げ手のひらへと集うと、それは禍々しい光と共に魔力による砲撃とも呼べる一撃となって放たれる。

 

「クッ、どんな攻撃であろうとファランクスなら――」

 

 即座にジータはファランクスを展開。驚異的な威力というのなら、ホーリーセイバーのファランクスとて驚異的な防御力を誇る。集落の被害を減らすためにも防御の選択をしたジータだったが、寸前でカタリナの焦った声を聞く。

 

「ジータ、避けろ!!」

 

「えっ……」

 

 放たれた砲撃は何の抵抗も無いかのように、ファランクスを貫きジータを呑みこまんと目の前に迫っていた。

 呆けたジータをセルグが抱きかかえ、間一髪のところでその場を退避。

 通り過ぎた砲撃は集落の地面を大きく抉るような爆発を起こし、周囲に土砂が降り注いだ。

 

「気をつけろジータ! ルリアが言うようにこれまでに見てきた魔晶とは違う。今までが通用すると思うな!」

 

「す、すいませんっ!?」

 

 直ぐに立ち上がったセルグを見上げながら、ジータは己の浅はかさを胸中で呪ってからセルグと共に並び立つ。

 

「あはぁ、どうやら防ぎようがないみたいだねぇ。それじゃあもう一発……」

 

「フュリアス少将……あまり派手にやっては機密の少女ごと島が落ちる可能性もあります。チカラの解放は程々に」

 

「あぁ? 何言ってんだよ今更ぁ……僕らはこの島で機密の少女なんて見かけていない。そうだろう? ついでに言うなら、不運にもこの島は帝国に逆らった罪で島ごと空の奈落に落とされてしまいましたってねぇ!!」」

 

「少将閣下! しかし、それでは宰相閣下の命令がっ!!」

 

 軍人として当たり前である命令の遂行。フュリアスに語りかける兵士の言葉は間違いではなかった。

 だが、それは間違いではなくとも今この場では告げてならなかった……

 

「あ~もう良いよお前。詰まんないから消えて」

 

「は……? お、お待ち下さい!! フュリアス少将閣――」

 

 冷たく言い放つと同時。兵士の言葉を耳に入れようともせずにフュリアスが手に握る槍が兵士を頭から惨たらしく叩き潰した。

 そう……突き刺したわけでは無く、巨大な槍で叩き潰したのだ。

 

「あ……あぁ……」

 

「そんな……」

 

「味方である兵士を……殺しただと……」

 

 ヒトがあっさりと潰されて息絶える凄惨な光景にルリアとイオが慄き、カタリナが愕然とする。

 他の仲間達も同様に、あまりの光景に目を逸らしたいのに、その光景から目を逸らせなかった。

 

「どうして。どうしてこんなひどい事をっ!?」

 

 ジータが涙交じりにフュリアスへと叫んだ。

 ただ進言しただけの兵士に一体何の罪があると言うのか。怒りと悲しみに塗れた瞳がフュリアスを責めるが、フュリアスにその声は届かない。

 

「あはぁ、この感じ癖になりそうだね。今まで得物を持って振るうなんてことしたことなかったけど……あぁ、こんな感じなんだ」

 

「おいおい、仲間を殺しておいてアイツ……なんて顔で笑うんだっつの」

 

「ふざけやがって。とことんいかれてやがる」

 

 愉悦に塗れた声にラカムとオイゲンも恐怖を浮かべ、同じ帝国の軍人であったカタリナは激情の声を上げる。

 

「この下種が……同朋を手に掛けるなどと。フュリアス!! 貴様、軍人として恥ずかしくないのか!!」

 

「はぁ~? ふんっ……僕はね、見下ろされるのが大嫌いなんだ。ハーヴィンであると言うだけでどいつもこいつもふんぞり返って偉そうに僕を見下ろしやがってさぁ。だから僕は色んな手段でそんな奴らを全部蹴落としてやってきたわけなんだけど……」

 

 僅かに明かされるフュリアスの胸中。種族の差をものともせずにのし上がってきた彼が抱え続けてきた異常なまでの自尊心。

 種族の差を受け入れることを良しとせず、彼はこれまで上から見下ろす者を悉く蹴落としてきたのだ。

 

「わかるかい? 見下ろされる苛立たしさっていうのがさぁ。フフ、快感だったよ、僕を見下していた愚図共がいつの間にか僕にひれ伏して頭を垂れる様はね」

 

 思い出した光景にまた愉悦を浮かべてフュリアスが嗤う。

 

「まぁでも。まだ足りないんだ……まだ皇帝サマも宰相サマもいるからね~。こうしてコンプレックスというものは克服できたわけだけどこれだけじゃね……だからさ。アイツ等も全部蹴落として、僕は必ず頂点にまで上り詰める。その為ならどんな者も利用し、どんなことだってしてやるのさぁ!!」

 

 兵士の亡骸を踏みつけ、咆哮のような声と共にフュリアスの気配が膨れ上がる。

 魔晶のチカラをその身に宿し、威圧する様は正に暴君。徐々に高まるチカラの気配に後方にいた兵士の一人が警告を発した。

 

「フュリアス少将閣下……あまり興奮なされては魔晶の影響に身体の方が付いて――ガッ!?」

 

 瞬間、兵士が消し飛んだ。先程とはいかないまでも無造作に放たれた魔力砲撃に飲み込まれ文字通り消し飛んだ。

 

「何ぃ? なんか言った? 今すっごくいい気分なんだから、邪魔しないでくれるかなぁ~」

 

「クッ、今の少将には見境が無い。総員退避ぃーー!!」

 

「あはぁ、逃がすわけ……無いじゃないか!!」

 

 余りの暴虐に耐えかねた兵士たちが戦艦へと帰還しようとするが、フュリアスにそれを許す気はない。

 大きく跳躍をしたと思えば兵士たちの目の前へと降り立ち、退路を塞いだ。

 

「ククク……知ってるよ。お前ら皆、僕の事をチビ将軍とかほざいていたんだってぇ? そんな奴ら、僕が見逃すと思ってるの?」

 

 感慨なく、フュリアスはその槍を振るった。

 一人、また一人と、巨大な槍に兵士が潰されていく。あえて突き刺さないのはその感触を楽しんでいるからか……喜々として仲間であるはずの兵士を潰していく様は正気を失っているとしか思えない。

 

 

「ギャァーー!!」

 

「く、くるなぁああ!!」

 

「アッハッハ!! ギャッハッハッハ!! ホラホラ、もっと逃げなよ~」

 

「うわぁあああ!!」

 

 追い回すフュリアスと逃げ惑う兵士達。相対していたはずのグラン達を放置して、仲間であるはずの兵士達へ次々と手を掛けていくフュリアス。

 

 

 そのあまりの暴虐にグラン達が沸点を迎えた……

 再び兵士へと叩きつけられそうな槍が無機質な金属音と共に阻まれる。

 

「私達の前で……」

 

 そこにいたのはジータ。剣に闇のチカラを纏わせながら、巨大な槍を受け止めていた。

 

「これ以上……」

 

 グランの持つ槍が光を纏う……同時に撃鉄が鳴り、杖が輝き、剣が抜かれる。動いたのは全員。

 

「ふざけた事をさせるかぁ!!」

 

 各々の武器が最大限のチカラを発揮し、暴虐の徒フュリアスを捉えた。

 村人たちを人質にされたグラン達が兵士を救うのはおかしいことかもしれない。下手をすれば兵士達にまた村人を人質にされる可能性だってある。

 

 だが、それでも。グランとジータは目の前の地獄絵図をただ黙って見ていることはできなかった。

 二人に呼応するように全力を叩きつけた仲間達も同様。仲間どころかヒトをヒトと思わない所業に、利だけを求めて行動しないなどありえない。

 怒りが込められた一撃は各々が出せる全力の一撃となった。

 

 

「ふぅん……今のが全力? だったら、全然効かないねぇ」

 

 だが、攻撃を受けて吹き飛んだものの、フュリアスはダメージを受けていない様子で立ち上がる。

 無防備で受けた全力の一撃の嵐。盾で防ぐことすら適わずその身に全て受けたと言うのに無傷に近いフュリアスの様子に、一行には僅かな不安が生まれるがそれを押し殺しグランとジータが吠える。

 

「そうかい。だったら効くまでやってやるよ」

 

「覚悟してください。貴方みたいな人に慈悲なんかあげません」

 

 二人が武器を構えると同時にカタリナが逡巡。後方に控えていたルリアとオルキスに声を上げる。

 

「ルリア! オルキスと一緒に村の人達を連れて避難しておいてくれ。ここにいては危険だ。グランサイファーがある場所に行くんだ……スツルムとドランクがいたらこちらの援護に来てくれるように伝言を!」

 

「わ、わかりました。オルキスちゃん、行くよ!」

 

「うん……みんな、こっちに」

 

 村人の拘束を解いた二人は、皆を引き連れグランサイファーへと向かった。

 サイズとしては中型の騎空艇であるグランサイファーだ。乗せようと思えば百人二百人は余裕で乗せられる。

 殺された兵士が言ったように島が落ちる可能性があるのなら、皆を乗せて脱出を考える必要もあるだろう。

 更には二人とも星晶獣を使役できる。いざという時に規格外の戦力を保有している二人だ。護衛としても申し分ない。

 

 

「さぁて……こっちはちゃっちゃと化け物退治といきますか」

 

 軽い口調で肌がひりつくほどの刺々しい空気を纏うラカムが、フュリアスを睨み付ける。

 

「油断するなよラカム。言っておくが、気配だけならマリスと同等だ」

 

「マリスと同じだろうが関係ねぇぜ。アイツぁ仲間を手に掛けるなんてやっちゃいけねえ事をしたからな。全力でぶちのめしてやらぁ!」

 

「皆さん、決して油断はしないように。手を抜ける相手ではありません」

 

「そんな事は分かってるわよ。でも、負けるつもりなんてないんだから!!」

 

「皆……行くぞ!!」

 

 グランの声に合わせ、フュリアスとの戦いが始まった。

 

 

 前衛が接近する前に、セルグが風火二輪で牽制の射撃。鎧の隙間、関節部をきっちり狙った攻撃だったが全くの効果を見せずフュリアスとグランが得物をぶつけ合う。

 

「チッ、こんな豆鉄砲じゃ効かねえか……なら」

 

 悪態吐くと、セルグは風火二輪に語りかける。同時にセルグの銃には膨大な炎のチカラが込められた。

 

「烈火激槍!!」

 

 小さい銃弾と侮るなかれ。放たれた銃弾は炎の激槍となって、フュリアスの頭部へ爆炎と共に大きな衝撃を与える。

 

「おやっさん、合わせろよ!」

 

「外すんじゃねえぞラカム!!」

 

 続くようにラカムとオイゲンが各々最大の一撃を狙う。

 

「バニッシュピアース!!」

「ディアルテ・カノーネ!!」

 

 セルグ同様に炎を纏う銃弾と、土のチカラを纏う銃弾が威力を高め、立て続けにフュリアスの頭部を揺らした。

 爆炎と強大な衝撃に包まれ、フュリアスが動きを止めたところをカタリナとジータが接近。

 

「はぁ!!」

 

 巨大な敵を倒すセオリーとも言えよう。二人の攻撃がフュリアスの両足を深々と斬り付けた。

 

「グラン、今!!」

 

 ジータの声にこたえるように、グランの雷神矛に迅雷の光が灯る。雷神矛に強烈な光のチカラを付与したグランは、そのままデュアルインパルスで自身の速さを強化して飛び出した。

 

「調子にのりやがってぇ!! 砕けちれぇえ!」

 

 だが、フュリアスもされるがままではない。頭部を揺らされ、足を止められようが腕は動かせる。

 力任せにグランに槍が叩きつけられそうなところで、だが幼き魔導師がそれを阻む。

 

「やらせるわけがないでしょ! フラワリーセブン!!」

 

 七つの魔法弾が槍を逸らす。的確に同じ方向からぶつける事で振り下ろされた槍をグランから僅かに逸らしたイオの援護は正に、完璧な援護と言えよう。

 隙だらけのフュリアスの胸部に向けてグランは槍を突き出した。

 

「貫け……真・雷鼓!!」

 

 迅雷と共に突き出された槍は、速度とチカラを高めた絶大な威力の一撃。

 巨体となったフュリアスの腹部を捉え、見事に打ち貫いた。

 

「やったかっ!?」

 

 胸部を穿たれ動きを止めたフュリアスに、後退したグランは僅かに喜色を含んだ声音で呟いた。

 だが次の瞬間、グランを魔力砲撃が襲う。

 

「クッ!?」

 

 ギリギリのところで回避したグランは再度フュリアスを見据えた。そこには穿たれた胸部が再生していくフュリアスの姿。

 

「アッハッハ! 何を勝った気になってるのかなぁ? この魔晶は特別性……内包するチカラはもちろんの事、魔晶自体がコアとなって砕かれない限り再生を繰り返せる、正に空の民が生み出した大星晶獣ともいえる完璧な魔晶なんだよお! キミ達程度がいくら頑張ったってたって倒せるわけがないのさ。ギャッハッハッハ!!」

 

 声を上げて笑うフュリアス。貫かれた胸部が完治していくのを見てグラン達は驚きはしたものの、すぐに思考を切り替える。

 

「僕では力不足だ……皆次行くよ!」

 

 どうするか……そんなことを言う必要はなかった。仲間達が恐れも油断もなく、任せろと言った様子で視線を返してきたのだ。各々を見ればまだ手があるのだと十二分に理解できる。

 グランの声に応えるように皆が散開する中でセルグが小さく口を開いた。

 

「神力よ、彼の者に宿れ……“風火二輪”!」

 

 セルグが詠唱と共に風火二輪を発砲。だが狙いはフュリアスではなく、ラカムとリーシャである。

 

「ウオッ!? ってこいつは……」

 

「なんて……チカラ」

 

 弾丸が二人に当たる直前に弾け、ラカムとリーシャそれぞれに炎と風のチカラが宿る。

 風火二輪……銃の銘と同じこの技はナタクのチカラを宿しているが故にできる援護魔法だ。銃に込められた属性のチカラを、放たれた者へと付与することで一人では出せないほどの属性力を発揮できる。

 仲間内で炎と風を扱う二人に、セルグから強力な援護魔法が飛んだ。

 

「ラカム、タイミングを計って狙ってみてくれ! リーシャさん、止めの一撃をお願いします!」

 

「ジータ! グランと共に前に出るぞ!」

 

「ハイ!」

 

 狙いを察知したグランがすぐに指示を飛ばすと共に、グランとジータ、カタリナがフュリアスに接近。

 

「動きを止めるわ、皆行って! クリスタルガスト!!」

 

 イオが杖を振るった瞬間、フュリアスの足元より冷気の風が巻き起こった。相手を凍らせて動きを止めるにはうってつけの魔法がフュリアスの動きを鈍らせ、その隙にグランが接近。

 

「うぉおお!!」

 

 跳躍で頭上を取ると、雷神矛を振り下ろした。

 フュリアスはそれを鈍った体で盾を使い防御。だがその隙にジータとカタリナが懐へともぐりこむ。

 

「コンヴィクションネイル!」

「グラキエスネイル!」

 

 同時に放たれた剣閃から魔力形成された闇と氷の刃が放たれる。飛び交う刃は縦横無尽にフュリアスの足を刻んだ。――さらに

 

「ライトウォール・ディバイド!」

 

 カタリナの詠唱と共に作られた魔力障壁が周囲に浮かぶと、それを足場にセルグとオイゲンが跳躍。

 

「余裕は与えん!!」

「こいつを喰らってオネンネしな!!」

 

 フュリアスを飛び越えるように中空へと躍り出た二人は飛び越えざまに至近距離の全力射撃でフュリアスの頭部を揺らした。

 膝を折り、衝撃に揺られながらフュリアスが動きを止める。先程と同じ流れで隙を生み出し、グラン達は本命となる二人で止めの一撃を狙った。

 ほとんど言葉を解さずとも己の役割を理解し戦える彼らの連携能力は、旅の中で培ってきた信頼が成せる恐るべき練度の連携だろう。。

 思惑通りに動きを止めたフュリアスの胸部に狙いを定め、ラカムは相棒の銃を向けて引き金を引いた。

 

「デモリッシュピアース!」

 

 自身と風火二輪のチカラを受け、暴発しそうな程の炎のチカラを込められた銃弾がフュリアスを打ち抜いた。先程のグランの時と同様に小さいが胸部を穿つだけの威力を見せ、フュリアスがたたらを踏む。

 

「追撃、行きます。――トワイライトソード!!」

 

 荒れ狂う風を剣に付与し、リーシャが穿たれた胸部に追撃の奥義を突き立てる。

 アマルティアでガンダルヴァに放った時の比に成らない程の威力となったリーシャのトワイライトソードが、小さく空いた胸部に更なる風穴を開けるべく放たれた。

 

「グッ……調子にのるなよぉおお!!」

 

 暴風がその身を削っていく嫌な感覚に抗いながらフュリアスが激昂と共に、リーシャへ槍を叩きつける。

 重さもさることながら、その勢いも並ではない。

 

「きゃあ!?」

 

 胸部に剣を突き立てていたリーシャが地面に叩きつけられ、胸の奥深くに眠っていた魔晶を砕けずにグラン達の攻撃は失敗に終わった。

 だが、フュリアスはそれで終わりはしない。

 

「このクソ共がぁああ!!」

 

 そのまま、フュリアスは地面に横たわるリーシャを踏みつぶさんと足を踏み出した。

 

「させるか!!」

「させません!!」

 

 カタリナとジータ。ライトウォールとファランクスがリーシャの盾となり、その間にグランがリーシャを抱え後退。

 追撃に動こうとするフュリアスをイオとセルグの攻撃が押しとどめた。

 

「大丈夫ですか、リーシャさん!?」

 

「うっ、痛ぅ……申し訳ありません。仕留めきれませんでした」

 

 痛みにうめくリーシャの姿にグランがその身へ視線を巡らせると、リーシャの腕があらぬ方へ曲がっているのを目にした。

 槍を受ける瞬間にリーシャはウインドシャールで僅かに防御。当然それだけでは足りなかったところを腕を犠牲にして何とか体を打たれることを防いでいたのだ。

 

「マズイ――イオ、治療を!!」

 

「わ、わかったぁ!」

 

 直ぐに後退したイオがリーシャの元へと走り、ヒールで治療を始める。

 骨折ともなればそれなりに時間がかかるだろう。ビショップの時のジータの様にリヴァイブのような高位回復魔法を使える者は、今のグラン達にはいない。

 この瞬間にグランの頭からリーシャとイオの戦線離脱が決まった。

 

「イオ、リーシャさんを連れて、一度下がっててくれ」

 

「なっ!? グランさん、私はまだ動け」

 

「落ち着けリーシャ。その腕で更に一撃もらえば取り返しのつかないことになりかねない。オレ達としてもその状態のお前をそのまま戦わせるのは心身共にリスクになる」

 

 まだ戦えると反論するリーシャをセルグが制した。

 腕が使えなくてはまともに戦えないのは当然。そのまま無理に戦わせて仲間達に気を遣わせるのは、リーシャだけでなく集中しきれなくなる仲間達にも致命的な隙を生みかねないという事だろう。

 

「――わかりました。それなら……イオさん、治療は良いです。私も一応は回復魔法を使えます。応急手当程度になりますがそれで何とかしますので皆さんと一緒に戦線に復帰を――」

 

「大丈夫よリーシャ……私達が来たからイオと一緒に少し休んでていいわ」

 

 少し後退していたリーシャの更に後方から、声が聞こえると共にそのすぐ横を二つの影が駆け抜ける。

 

「いくぞ、ヴィーラよ」

 

「お任せを」

 

 前線へと躍り出たアレーティアとヴィーラ。アレーティアは剣戟の嵐“破”を叩き込み、ヴィーラは残影と共に刻む“アフェクションオース”でフュリアスへと攻撃を加えた。

 

「アルベスの槍よ。我が信条示すため、汝が最たる証を見せよ! その力の全てを今ここで解き放て!」

 

 言霊の詠唱と共にゼタのアルベスの槍が火を噴く。

 

「サウザンドフレイム!!」

 

 二人に続くように解き放たれた炎の壁がフュリアスを包み込みその身を焦がした。炎に包まれフュリアスが崩れ落ちる中、グラン達は一度大きく後退し終結する。

 

 

「三人とも、来てくれたか。助かった……」

 

「かなり厳しい相手です。相変わらずの魔晶のチカラとはいえ今回はその完成系に近いようで」

 

 グランとジータが駆けつけた三人を出迎える。

 

「セルグが言った通り、あの感じはマリスと同じだぜ……あの再生力じゃ正直、倒せる気がしねえよ」

 

 ラカムが悔しそうに唇を噛んだ。

 セルグからの強化魔法も受けたラカムとリーシャの二段構えの一撃。もしかしたら止めをさせていたかもしれない二人の攻撃でありながらも、結果としては失敗し、リーシャとイオが戦線離脱を余儀なくされる。

 ゼタの炎で動きを止めているフュリアスだが、すぐにでも再生して動き始めるだろう。暢気におしゃべりをしている余裕は殆どなかった。

 

「ゼタ、来て早々で悪いがオレと前衛に出てもらうぞ」

 

「はぁ!? ちょっとセルグ。アンタ今日から援護に回るって言ってたじゃない。なんでいきなりそうなるのよ」

 

 またセルグの無茶が始まったか……そんな空気が流れ始めた。ゼタだけでなくグラン達にも呆れの表情が張り付いているが、セルグは真剣な面持ちを崩さずに言葉を続けた。

 

「フュリアスが言った。アレは魔晶の完成系……星晶獣を模倣して空の民が作った星晶獣だと。であるなら対星晶獣用のオレ達の武器は有効かもしれない」

 

 星晶獣狩りの為に作られたアルベスの槍と天ノ羽斬であれば有効打を与えられるかもしれない。セルグのいう事は試してみる価値はあるものの、それは以前のセルグならという状況付きだろう。

 ため息と呆れを交えながらゼタは言葉を返す。

 

「だからって、ポンコツになったセルグが天ノ羽斬を使った所で本領を発揮できないんでしょ? だったらセルグが前に出る必要なんてないじゃない」

 

「ポっ!? てめぇ、よりによってポンコツって言いやがったな、この短期槍娘が!」

 

「何よ! 短期って言うならアンタだってぶっちゃけ同じようなもんでしょ。直ぐに自分にも相手にも怒り振り切れて面倒くさくなるくせに!!」

 

「自分に対してはもうある程度克服した。お前のイノシシ思考な短期よりマシだ!」

 

「イノっ!? なっ、なんですってぇ!」

 

「だぁああもう!! ゼタもセルグもなんでこんな時に喧嘩してんだってぇの!!」

 

 下らない言い合いに終始しそうな流れをビィが割り込んで止める。実際問題として下らない事この上ない。本当にいい歳した大人が何を子供みたいなことを言い合っているのだと他の大人組の方がため息と呆れに彩られる。

 

「そんな事よりグラン、ジータ。ここはオイラの出番だぜ」

 

「ビィ? どうしたんだ急に。力になりたいのは分かるけどさすがに戦いに関してはビィのチカラでは……」

 

 小さい幼竜でしかないビィに戦闘能力は皆無だ。その意志は尊重するが、かと言ってビィに戦わせることなどできようはずがない。

 申し訳なさそうに窘めようとするグランだが、ビィとしてもそんなことは百も承知である。

 

「違うんだ、オイラさっきから祠に呼ばれてるような気がしてて……多分なんだけどよぅ、オイラが使えるはずの星晶を抑えるチカラ。きっとあの祠に眠ってると思うんだ」

 

「え? ビィ、それって一体どういう事なの?」

 

 グランもジータも不思議そうにビィへと視線を向ける。

 

「以前にルリアがあの祠から目覚めさせたプロトバハムート……魔晶によって操られていた魔獣ヒドラから、魔晶のチカラを追い出していたよな? 多分、オイラにもあんな風に魔晶に対してのチカラがあると思うんだ。だから、オイラ……あの祠に行ってそのチカラを手に入れて、アイツの魔晶を何とかしてやる!」

 

 力強くハッキリと告げたビィの言葉にグラン達が押し黙る。可能性としては無くはない。元々はそのチカラを求めて島を訪れたわけだし、封印されている場所の候補として祠以外に選択肢は見つかっていなかった。

 現状ではセルグとゼタの武器のチカラをもってしても倒せるかは不安である。ユグドラシルマリスと同等であるなら、アルベスの槍と天ノ羽斬であろうとそこまで有効打にならないだろう。

 ルーマシーでは仕方なくといった側面はあるが倒すことができずに撤退してきたのだ。

 

「――そうか。ならば仕方ない。ここはビィに譲るとしようか」

 

 沈黙を辿った一行の中から、セルグが口を開く。天ノ羽斬を左手で抜き放ち、右手には風火二輪。今彼が使えるチカラの全てを構えていた。

 

「グラン、ジータ。ビィをつれて例の祠に……その間はオレ達で食い止めよう。なぁに心配はいらない。追加で二人援軍が来たようだからな」

 

 セルグが明後日の方に視線を向けると、そこには遠めにだがグラン達の下へと走ってくる蒼と赤の人影が見えていた。

 

「なるほど……それならば私達は全力で食い止めるとしようか。ビィ君に全ての希望を託してな」

 

「トカゲが鍵を握るのは癪ですが、今日はお姉さまに同意いたしましょう。ですがトカゲ……これでダメだった時は覚悟をしておきなさい」

 

「お、おぅ。わかったからそんなに睨まないでくれよ……おっかなくってトカゲにツッコミすることもできねぇぜ」

 

「大丈夫だビィ君。何が起きても私が守って見せるからな!」

 

 ヴィーラの視線に怯えるビィを、カタリナが凛々しさの欠片もないだらけた笑顔で抱きしめた。

 ギリッと奥歯を噛み締めたヴィーラの心に、暗い影が落ちる。

 

「(クッ、こうしてまたトカゲはお姉さまからの寵愛を……まぁ、良いでしょう)」

 

 あっさりと密かな嫉妬を隠しヴィーラは一先ずフュリアスへと視線を向けた。全身を炎に焼かれたフュリアスは再生に多少の時間がかかっており、こうして話をするくらいの時間をとれた事は僥倖だった。

 だがそれももう終わり、再び元の姿へと戻ったフュリアスは大地を踏みしめ、グラン達と対峙する。

 

「クソが……やってくれたなキサマ等ぁ。倍にして返してやる!」

 

 槍と盾を持ち直し、フュリアスが一行に向けて駆け出す。

 ゼタとアレーティア、カタリナとヴィーラの四人が前にでて迎撃に入る中、セルグも共に駆け出す。

 

「行け、三人とも! さっさと行って、さっさと何とかしてくれ。でないと……倒しちまうからな!」

 

 いつも通りに自信に塗れた言葉を残してセルグが向かうのを見て、グランとジータは顔を見合わせると静かに頷いた。

 有効策の可能性があるのなら、そこに縋るしかない。状況としては既に手詰まりであるのだ。賭けの一手をするなら今……

 

「ビィ、掴まれ! デュアルインパルスで走り抜けてやる!」

 

「行きますよビィ! 振り落とされても拾ってあげませんからね!!」

 

「うぐぇ!?」

 

 グランがまるでぬいぐるみを掴むように無造作な動きでビィをつかまえると、祠に向けて全力疾走で駆けだした。その隣にジータも続き二人は瞬く間に森の奥へと消えていく。

 

「俺達もいくぞ、おやっさん」

 

「おうよ! きっちり足止めしてやらねえとな!」

 

 ラカムとオイゲンが駆け出して前線メンバーの援護に回る。それを見送ったリーシャは折れた腕に回復魔法を掛けながら、そばにいてくれたイオへと向き直る。

 

「イオさん、私の方は良いですから皆さんと共に戦ってください。アレが相手では一人でも援護の手が欲しいはずです。結局セルグさんは後方には回ってくれそうにないですから、イオさんが頼りです。お願いします」

 

「あ、うん。わかった! 任せてちょうだい!」

 

 リーシャに言われるがままにイオは戦線に復帰していき、一人後方に残ったリーシャは静かに思考を巡らせた。

 もうすぐ駆けつけるスツルムとドランク。そして今ここで戦っているメンバーを含めてどう立ち回ればフュリアスを倒せるか。

 一先ずは駆けつけてくれる二人に魔晶についてを多少なりとも聞いてみるべきだろう。黒騎士の側近として帝国側にいた二人だ。何らかの情報は持っているはず。

 ビィのチカラを宛にはしたいが、それがだめだった時の事を考えなくてはいけない。戦えないリーシャには戦況予測をするくらいしかできないのだ。

 

 

 歯がゆさに焦る思考を落ち着けながら、リーシャは一人、スツルムとドランクが駆けつけるまで思考を巡らし続けた……

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

目標はフリーザ様くらいのつもりでしたが、どうにも作者のフュリアス君は小物臭が半端ないですね、、
悪役難しいです。

少しまたご指導頂いたこともありまして完成度が上がっているといいなぁ

それでは、お楽しみいただけたら幸いです

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