granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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少し間が空いてしまいました。

ついでに言うと少し短めです。
それでは、お楽しみください。


メインシナリオ 第37幕

 

 目の間に現れた男と、その後ろから現れた星晶獣と思われる少女のような存在に、グラン達の誰もが動揺を見せる。

 それもそのはず。男との出会いは激戦の最中にあったルーマシーでの事。更に言うなら、男は先を急ぎたいグラン達の行く手を阻み、星晶獣ギルガメッシュを使役して見せたのだ。必然、グラン達は家の様子を伺っていた時よりも警戒を強めた。

 

「おやおや、随分と険しい顔をしているねぇ。折角この僕が挨拶に出向いてあげたんだから少しは反応が欲しいところなんだけど?」

 

「――挨拶? 生憎だけど、そんなもの返す気はないわよ。アンタのせいで、セルグは面倒だったし、いらない時間を取られるしで散々だったんだから! ルーマシーでの恨みここで晴らしてやるわ!!」

 

「その通りだぜ! お前さんが余計なことをしてくれたせいでこちとら大切な奴らをあの島に置き去りにしてきちまったんだ……覚悟はできてんだろうな」

 

 猛る激情を槍に乗せ、ゼタが飛び出さんばかりに意気を上げた。呼応するように、オイゲンも武器を取り出し、戦闘態勢を取る。

 ルーマシーで直接相対した二人にとって、目の前の男は脅威であり、仲間を置いていかざるを得ない状況となった要因でもある。

 ギルガメッシュやヘクトルに阻まれていなければ、アーカーシャにたどり着く前にフリーシアの狂行を阻止できたかもしれない。あの時点では、確実にグラン達がフリーシアを追い詰めていた段階であったのだ。胸の内に燻る怒りが、二人を突き動かした。

 そしてそれは、セルグも同様。

 

「ロキ……だったな。挨拶とはずいぶんと余裕をみせてくれるじゃないか。あの時はあっさりと逃げられたが、そこの喚くだけでうるさい犬っころと一緒に、今度こそここで仕留めてやる」

 

 ゼタやオイゲンの燃えるような怒りとは対照的に冷たい殺気を纏いながら言い放つセルグもまた、風火二輪を構え、戦闘態勢を見せる。静かで長閑なザンクティンゼルの集落に今、冷たい風が吹き始めた。

 

「てめぇ、犬っころだと!? 上等だ、クソみてぇに脆いだけの空の民が調子に乗りやがって。その喉、喰いちぎってふざけたことをぬかせないようにしてやる!!」

 

 セルグの言葉に、男の後ろに控えていた少女のような星晶獣は、大きく気配を膨れ上がらせた。その気配はギルガメッシュやヘクトルと同等に、星晶獣として当たり前の、規格外のチカラを感じさせて、冷たい風をさらに冷たい冷気で包み込んでいく。

 

「あ~だめだめ、フェンリル。今日は挨拶と宣誓にきただけなんだから、彼等を倒すのはお預けだ。大体、君のモチーフは犬ではなく狼だ。まずはそこを否定しないと」

 

「て、てめぇ……ロキ! オレをおちょくってるのか!?」

 

 この場の空気にそぐわないロキのダメだしに、フェンリルは大きく憤慨した。だがそれと同時に主人からのお預けの言葉に反応して、フェンリルの戦闘の空気が露散していくのを感じ、グラン達も警戒態勢を僅かに緩め始める。

 

「挨拶と宣誓……? 一体どういうつもりだ」

 

「私達にはそんなものをされる謂われは無いですが?」

 

「そう怖い顔をしないでくれないかな? あまり睨まれると、つい誰かを喚んでしまうかもしれないよ」

 

 ハッとしたようにグランとジータは口を閉ざす。ここで自分たちが対処を間違えば、ロキと呼ばれた男は本当に星晶獣を呼ぶかもしれない。使役できることが分かっている以上、それは大いにあり得る選択肢であり、必然的に村に危害が及ぶ可能性が高まる。

 もはや、集落の行く末は、ロキの手の中にあった。

 

「人質……というわけか」

 

「――卑怯な」

 

「そんなつもりはないさ。何かを要求する気もない。ただ、大人しくしてくれと言うだけさ。

 さて、まずは自己紹介と行こうじゃないか。まだ僕の事を知らない人もいるだろうしね……僕の名前はロキ。”エルステ帝国初代皇帝”のロキだ。よろしくね」

 

「エルステの……」

 

「初代皇帝だって?」

 

 ロキの言葉に、またも仲間達に動揺が広がった。

 アポロから聞かされていたように、帝国を牛耳っていたのは宰相のフリーシアであり、帝国最高顧問であったアポロですら皇帝の存在は知らないと発言していた。最高顧問と言えば国を取り仕切る者達の相談役だ。そのアポロが知らないという以上、少なくともロキの存在は相当に秘匿されていた、正に極秘と呼べる事実である。

 

「ん~? ちょっと待ってほしいなぁ。それは本当かい? 僕たちだって何も知らないわけじゃないんだよ。皇帝って名乗るには血筋ってものが必要だよね~。僕たちが知る限りで、今エルステの皇帝を名乗れる血筋を持つヒトなんて、エルステ王国の王女殿下の血を引くオルキスちゃんぐらいしか――」

 

「それはちがうね。君が知っているのは所詮、空の民だけの血統だろ? 僕をそんな卑しい血統に織り込まないでくれるかな。僕の血筋は、オルキスの父方の血筋だよ」

 

「それって……じゃあ、エルステの国王様の?」

 

 ドランクが疑り深く問いかけ、イオが先を推測する。紐解かれる事実は一行を次々と新たな事実へと巻き込んでいった。

 

「そうだね。オルキスの父、”ビューレイスト”は僕の兄さんだよ。これなら皇帝の血筋としては問題ないだろう?」

 

「ってことはつまり……オルキスの」

 

「私の……叔父さん?」

 

 ラカムの言葉に続いたオルキスの声で、薄ら笑いを浮かべ続けていたロキの笑みが消えた。無表情となったその顔をオルキスへと向ける。数秒オルキスを眺めた後、ロキはまた貼り付けたような薄ら笑いを浮かべて、口を開いた。

 

「そうだね、確かに血筋から見れば僕は君の叔父さんという事になる。だけどね、オルキス……僕は君の事が大っ嫌いだ。二度とそんな近しい続柄で呼ばないでくれるかな? 次言ったら、フェンリルの餌にするよ」

 

 声音も表情も変化は無いと言うのに、その言葉はひどく陰鬱で刺々しく放たれた。命の危機を感じ、思わずビクリと体を震わせたオルキスの前にカタリナとヴィーラが立ちはだかり、彼女の視界からロキを隠す。

 

「子供相手に随分な言い様だな。皇帝様は随分と器量が狭いようだ」

 

「可愛らしいオルキスさんに、あまり不躾な視線を投げないでくれませんか? 度が過ぎますと切り捨てて魔物の餌にして差し上げますよ」

 

「フフ、これは頼もしいナイトのご登場だね。残念だけど僕の興味はそんな無価値な人形には無いから気にしないでくれて構わないよ。それよりも、だ。君たちはどうして――」

 

 瞬間、乾いた音が鳴った。同時に言葉を止めたロキの頬には薄く細い傷が一線。

 音の出所は風火二輪を構えたセルグであり、それを見た瞬間にロキの笑みはまた深くなった。

 

「どういうつもりだい? 宣戦布告とみて星晶獣を喚んでもいいのかな」

 

「グダグダと話が長いんだ。挨拶をしたなら、とっとと宣誓ってのを済ませて早く消えてくれないか?」

 

「それを告げるにしては穏やかじゃないね? 一歩間違ったら当たってるよ」

 

「そのまま殺されるよりはましだろう? 犬っころも動けなかったようだし、これで命の借りが一回だな」

 

 口調は笑っているがその表情には欠片も笑みを浮かべていない。言外に、当てようと思えば当てられたととれるセルグの言葉にフェンリルがまた怒りを見せる。

 

「てめぇ、卑怯くせぇ事しやがって。ロキ、やっぱりこいつはここで――」

 

「ハハ、いいね~このやり取り……本当に君は僕を楽しませてくれる。フェンリル、君も彼を見習ってもう少しこういう雰囲気を楽しまないと」

 

「楽しむだと? ロキ、いい加減にしろよ。オレは今すぐにでもこいつらを喰らって」

 

「ダメダメ~。そういう短絡的なのは良くないぞフェンリル。いいかい? 僕が、この状況を、たのしめ。 と言っているんだ」

 

 まるで子供を諭すようなロキの言い様はいよいよをもってフェンリルの怒りに火をつけた。

 

「ロキっ……あんまりふざけやがると」

 

「まぁそれでも……やっぱり僕を傷つけたのは許されないかな。流れ出てしまった偉大なるエルステの皇帝の血は、そこらの些末な集落程度では賄えないぞ」

 

 フェンリルの怒りが向けられる瞬間に、これまでの軽い雰囲気から一転してロキは静かで厳かな雰囲気を纏い始めた。

 語られるのは、空の民を道端の石ころ同然の価値しか見いだせない恐ろしいまでの価値観。一筋の線からながれた己の血と一つの島に住むヒトを天秤にかけ尚、己の血に価値があるという恐ろしいまでの自意識。

 

 

「フェンリル……この島にいるの全て、”喰らっていいぞ”」

 

 その意識はその先に続く恐るべき言葉を紡いだ。

 

「貴方、一体何を言って……ッ!? まさか!!」

 

 言葉の意味を真っ先に理解したリーシャが止めようと動くがそれより早く、ニタリと笑ったフェンリルが声を上げる。

 

「あぁ、わかったぜ……」

 

 念願適ったと言うようにフェンリルがあざ笑うと、光に包まれフェンリルは彼らの前から姿を消した。

 

「消えた!? 一体どこに」

 

「まさか村の皆をっ!?」

 

 フェンリルの行く先を察してグランとジータは慄きに声を上げる。言葉通りに意味を受け取るならフェンリルが向かった先は集落に住む者達の元。そして行われるは、島が鮮血で染まるであろう残虐な蹂躙。

 すぐさま皆の元へと動き出そうとした二人は、だがその足をすぐ止めることになる。

 

「グァッ?!」

 

 すぐに聞こえてくるであろう、耳をつんざく様な悲鳴を待ち、耳を澄ませていたロキ。だが、聞こえてくるのはくぐもったフェンリルの呻きであった。

 音の出所へ目を向ければ……

 

 ”ふんっ。そうそう何度も好き勝手できると思うでない。愚か者が……”

 

 巨大化したヴェリウスの巨体に踏みつけられたフェンリルの姿。

 上空で待機していたヴェリウスは、フェンリルが消えると共にその気配を最大警戒で探知。まだ移動もほとんどしていないところで急降下しフェンリルを抑え込んでいた。

 

「前回はあの犬っころに好き勝手されたんだ。同じ轍を踏むわけないだろう……ヴェリウスを待機させておいて正解だったな」

 

 風火二輪を構えたまま、セルグはロキを睨み付けた。少しだけ安堵の息が漏れたのはこれが賭けに近い事であったからだろう。

 脅しを込めた一発。命を奪えたことを言外に示し、撤退を仕向ける意味を込めたものだったが、同時にそこには今の様に怒りにふれ危険な行動を呼び込む可能性がある事もわかった一発であった。危険な賭けである事は知りつつ、だがそれでもセルグは風火二輪の引き金を引いた。

 ヘクトルによって不意を突かれ、むざむざ仲間を危機に陥れてしまったセルグが、ロキを目の前にして、挨拶と宣誓などという言葉を鵜呑みにするわけがなかった。

 ルーマシーで動けない仲間達に平然と氷の雨を降らせたロキを相手に、油断などできるはずがないのだ。セルグの予測と対応は当然と言えよう。

 

「へぇ、さすがに君は抜け目ないね。他の連中には動揺が見えたのに」

 

「星の民様が相手だからな……予防線くらいは張っておかないと迂闊な事は出来ないさ。さて、次はどうする? 優秀な犬っころは駆けつけてくれないぞ」

 

 セルグの言葉と共にグランもジータも敵意を込めてロキを睨み付けた。

 何の躊躇もなく村を滅ぼそうとしたロキを相手に平然と相対することなど不可能。大事な故郷を蹂躙されかけた二人は、親の仇を見るようにロキに怒りを示す。

 

「ふぅん……君たちが厄介なのは変わらないか。仕方ない……フェンリル、戻っておいで」

 

「てめぇ、状況を見てものを言えよ! そんな簡単に」

 

「ヴェリウス……どいてやれ」

 

 ”よいのか? 次動かれては対応できんぞ”

 

「主が戻れと言ったんだ。暴走して飛び出すほど忠誠心が無いとは考えられないから大丈夫だろう。それに今度はグラン達もすぐに動ける。犬っころ一匹で何ができるわけでもない」

 

 ”――ふむ、それもそうか”

 

 セルグの言葉に納得した後、ヴェリウスは抑え込んでいたフェンリルを解放した。まだ警戒は完全に解いていないのか、すぐさま上空へと飛び上がり、警戒のままにフェンリルを睨みつけていた。

 

「がるるる……この鳥野郎、いつか絶対喰いちぎってやるからな!!」

 

 ”勝手に吠えておれ。空を飛べぬ犬っころに我を捉える事はできぬわ”

 

 売り言葉に買い言葉といったところか、星晶獣同士の言い合いを聞き流し、ロキはため息と共に口を開いた。

 

「はぁ……さて、こうなっては仕方ない。全面衝突も考えたけど、元々今日は本当に挨拶と宣誓だけのつもりだったからね。今回は素直に帰ることにするよ。あぁ、話の途中で遮られて忘れてた。宣誓がまだだったね」

 

 気を取り直したように一行へと視線を巡らすと、ロキは先ほどのように厳かな雰囲気を纏った。

 

「ご存知の通り、僕は星の民だ。完全なる存在であり、空の世界の敵となる者。というわけで今後とも末永く、よろしく頼むよ」

 

 宣誓、ではなくそれはもはや宣戦布告。明確な敵対宣言をしてきたロキにグラン達は僅かに息を飲んだ。

 動きを止めた一行の中、静かにリーシャは剣を抜き放つ。

 

「空の世界の敵……ですか。そうであるなら私も、秩序の騎空団としてそれ相応の対応をさせてもらいます」

 

 その切っ先をロキへと向け、秩序の騎空団として、嘗ての侵略者の残滓を見据える。

 空の世界の敵……つまりは覇空戦争の再来でもする気なのか。全ての言葉を鵜呑みにはできないが、それでも明確な敵対宣言を受けた以上、簡単に見過ごすこともできない。

 一触即発の雰囲気を見せるリーシャだが、それをジータが止める。

 

「待ってくださいリーシャさん。ここで戦闘を始めては村の皆が巻き込まれかねません。撤退してくれるのなら、今は無策に戦うべきではないと思います」

 

「その子の言うとおりだね。そっちにもルリアがいるから戦力としては引けを取らないかもしれないけど、星晶獣同士の戦いなんて起こせば、下手すれば島ごと沈むかもしれないからね……賢明な選択だ」

 

「くっ、卑怯な」

 

「あぁそうだ、もう一つ伝えなきゃいけないことがあった。僕は今回帰らせてもらうけど、残念ながら皆が皆僕と同じように悠長とは限らないから気をつけた方が良いよ。特に彼は今、とっても不安定だからね……」

 

「彼……? ちょっと、一体何を企んでるの。ちゃんと教えて行きなさいよ!」

 

「そこまでは語る気はないかな……その方が面白いからね。それじゃ、ごきげんよう、不完全な空の民の諸君」

 

 イオの追求を受け流して、ロキは光に包まれ始める。ロキの元へと戻ったフェンリルも同様に光に包まれる中、ギラリとセルグを睨みつけた。

 

「てめぇ、次にあった時は覚えていろよ。その鳥野郎と一緒に必ず噛み砕いてやるからな!!」

 

 敵意満々にセルグにその牙を見せるフェンリル。対するセルグは、やれやれといった表情を見せて言葉を返した。

 

「御託はいいから早く主人と一緒に帰れ。置いて行かれるぞ」

 

「このぉっ……ロキ、やっぱりこいつ」

 

「ダメだってフェンリル。ほら、置いていくよ」

 

「くっそぅ、次は絶対噛み砕いてやるからな!!」

 

 捨て台詞を残し、ロキとフェンリルは光に包まれて消えていった。

 二人が消えるのと同時に、ザンクティンゼルにはまた静かで長閑な空気が戻り、一行は静かに息を吐く。

 突然の強敵との邂逅。直接戦闘に及ぶことはなかったが、ルーマシーでの記憶も新しい一行にとって、ロキとフェンリルとの邂逅は、場所が場所なだけに、緊張するには十分な脅威であった。

 

「っはぁ~全く無茶してくれるぜ。おい、セルグ。いくらなんでも挑発がすぎるって」

 

 一歩間違えれば集落の人々が襲われていたかもしれなかった事態にラカムは発端となったセルグへと苦言を呈する。

 

「すまなかった……一応は撤退を促すための一発だったんだがな」

 

「いいや、ラカム。セルグの判断は間違っちゃいねえよ。あの野郎は平然と恐ろしい事をできるトンデモねえ奴だ。なぁゼタ」

 

「そうね……こっそり星晶獣を召喚して不意を衝く様な奴が、正々堂々宣誓しにきたなんて言っても、信憑性の欠片もないわ」

 

「そうだな……それらがあったから、最初から村を滅ぼす可能性だって十分に予測できた……危険は承知でもああやって取らせる行動を限定させた方が対処はしやすいと思ったんだ」

 

「なりふり構わない……というよりは躊躇が無いと言った感じですか。必要と感じたらそれを最大限の効果の下行う。ああいった手合いは本当に厄介だと思われます」

 

「儂も今までに様々なヒトを見てきたが、あそこまで破綻しておるものは見たことがないわい。一滴の血をこの島の者達より重いとな……それを当然だと思っているところまで、恐ろしき若者じゃ」

 

 少しの侮蔑と少しの恐怖を浮かべながら、ヴィーラが吐き捨てるように口にすると、アレーティアも同意しながら慄いていた。

 

「いやまぁ、覇空戦争の生き残りだろうから、ウン百年と生きているだろうし、若者とは言えねえんじゃねえか?」

 

「そうですね……ラカムさんの言うように星の民なら若者とは呼べないかも。まぁ、とにかく村の人達に被害がなくてよかったです」

 

「あぁ、本当に良かった……フェンリルが消えた時は血の気が失せたよ。ジータ、僕は一応村の皆に被害が出てないか確認してくる。ラカム、ヴィーラ、それからドランク。一緒に確認に回ってもらって良いかな?」

 

「あいよ、小せぇ集落つっても一人じゃ時間かかるだろうからな」

 

「承りました。それでは私はこちら側から」

 

「それじゃ僕はこっち~ついでに村の人達とも仲良く……痛って!? スツルム殿! なんで刺したの!?」

 

「まじめにやれ……一応は哨戒任務だ」

 

 そうだよな……ドランクに剣を突き刺しながら、そんな言葉が聞こえてきそうなスツルムから向けられた視線にグランがウンウンと頷く。

 

「ま、まぁそうだね。よろしく頼むよ、ドランク」

 

「はいはい……スツルム殿ぉ~最近ちょっと刺すまでのハードルが低すぎやしませんかねぇ?」

 

「基本的に不真面目なお前が悪い。ほら、さっさと行け」

 

「はぁ~い」

 

 渋々といった感じでドランクもその場を離れていき、グラン、ラカム、ヴィーラ、ドランクの四人が集落を回っていく。

 

 

「さて、こちらは家の中を調べましょうか。ビィのチカラについて、父さんが何か記録を残しているかもしれません」

 

「ジータ、オレはヴェリウスと周囲の警戒に当たろう。ロキが言っていたことも気になる……スツルム、一緒に来てもらって良いか? 傭兵なら周辺警戒というのは慣れているだろう」

 

「そうだな……オルキスの事はお前達に任せる。私も周囲の警戒に当たろう。何かあればすぐに知らせる」

 

 言うや否や、その場を離れ集落の外へと向かうスツルム。その後を追うようにセルグも向かう。

 

「ううん……私も同じように外を警戒しておくわね。何かを探すのとか調べるのって、苦手で……皆、そっちは任せたよ」

 

 ゼタもまた、集落の外を見回りに一行を離れていった。残された面々を見回したところでジータも俄然やる気といったように口を開いた。

 

「それじゃあ皆さん、ビィの手がかりを探しましょう!」

 

「はい! イオちゃん、オルキスちゃん、誰が一番に手がかりを見つけられるか競争ですよ!」

 

「あ、ルリア!? ちょっと抜け駆けはずるい~。オルキス、早くいきましょう!」

 

「うん……急ぐ」

 

「へへ、なんだかルリア達やけに張り切っているな。オイラ、なんだか嬉しいぜ……さて、オイラも」

 

「フフ、ビィ君。さあ、一緒に手がかりを探そうじゃないか。私と一緒に仲良く……な」

 

 一瞬。なにが起きたかわからないほどの瞬間的な動きを見せ、カタリナがビィを背後より捉える。その顔は、普段の凛々しい彼女の顔からは想像できないほどに緩み、ニヤケ切っており、ビィは己の不運を呪うことになる。

 

「お、おぃい、姐さん!? 待ってくれって。オイラは自分で飛べるっての! だぁああ、抱くな撫でるなぁあ!」

 

 ギャーギャーと喚きながら、ビィはカタリナに抱えられ家の中へと消えていった。

 

「フフ、カタリナに任せておけば大丈夫……かな?」

 

 先ほどのルリア達を眺めていたビィにはどこか寂し気な雰囲気が伺えた。寂しげというよりは少しだけ嫌がるような気配だったかもしれない。恐らくは、記憶を取り戻すことに思うところがあるのだろう。

 それを察してかは定かではないが、カタリナによって元気な声を上げていたビィをみて、ジータは胸中でカタリナに感謝した。

 大切な旅の相棒だ。グランと同様に幼いころよりずっと一緒に居た相棒の辛そうな姿など見たくはない。

 

「さて、私も――」

 

「ジータよ、お主の家が子供たちによって滅茶苦茶にされそうだが大丈夫かのぅ?」

 

 そっと告げられた言葉に家の方へ視線を向ければ、ビィが逃げ回る声や、カタリナが追いかける声や、張り切って意気揚々な声に、何かが壊れる音まで様々な音がジータの耳に届いてくる。

 

「――――やっば!? 全然大丈夫じゃないです!!」

 

「全く、調査をするのは結構ですが、これはちゃんとルリアちゃん達に言い聞かせなければいけませんね。ジータさん行きましょう」

 

「そうさな、せっかくの手がかりがあったとしても壊されちゃ話にならねえ。張り切っている嬢ちゃん達には悪いが少しお叱りが必要だな」

 

「ハイ!」

 

 リーシャ、オイゲン、アレーティアを引き連れ、ジータも家の中へと入っていった。

 

 新たな脅威と新たな敵の出現に不安を覚えながらも、一行は必要な情報を求め動き始める。

 差し迫る大きな悪意と、空と星を隔てる壁の厚さに気づかぬまま、一行は真実への扉を開き始めるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

アマルティア編でたくさん戦ったせいでザンクティンゼルは戦闘少なめになるかと思われます。(前回のは戦闘ではなくただの腕試しですのでノーカン)

ロキのわけのわからん感じとフェンリルの怖そうでかわいい感じを描けていたら作者は満足な今回。
読者さんが楽しめていたら幸いです。
それでは、次回にまたご期待ください。

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