granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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少しお待たせしました。

ザンクティンゼル編は大まかな構成はあれど文章は結構練り直ししてて時間がかかっております。
次も少し遅れそうです。
まぁ6月が描くの楽しくて張り切りすぎたので少し落ち着こうとは思っています。

それでは、お楽しみ下さい。


メインシナリオ 第36幕

 ――――閉ざされた島ザンクティンゼル

 

 自然豊かで風光明媚な島であり、ここファータ・グランデ空域でも端の方に位置するこの島は、周囲に山が連なり、中央に小さな集落があるだけの、本当に田舎としか言いようのない小さな島である。

 島の大きさと、山脈が周囲を囲み騎空艇が停泊するには適さない島の形状故、訪れる商船は少なく、また領土的価値も低いためどこかの国に支配されるという事もない。

 集落で興味を引く程の大きなことと言えば、どこかの家の旦那さんが風呂を除いただの、どこかの夫婦がケンカしただのと、そんな他愛のない話しか聞けないような、のどかな島である。

 

 

「なんか、随分長い事帰って来てない気がするな……セルグと出会った時からだからそんなに時間は立ってないと思うんだけど」

 

「そうだね、目まぐるしい程いろんなことがあったから。振り返ってみたら休む暇なんて昨日のポートブリーズでの一日くらいしかなかったし」

 

「でもやっぱりここに来ると落ち着くなぁ……早く家に帰ってリンゴを食べたいって気持ちになってくるぜ」

 

「アハハ、いっつも幸せそうに家でリンゴを食べてたよね、ビィは」

 

 以前と同じように森と集落の近くの平原へと降り立った一行は、騎空艇を下りて思い思いにのんびりとしたのどかな雰囲気を味わっていた。

 特にグランとジータ、ビィの三人は故郷の空気に感動も一入といった所だろう。静かで柔らかな笑顔は、故郷の空気に安心したが故か、自然な様子で落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

「うぅ~ん、風光明媚な田舎って感じの島だね~。傭兵やめて二人で隠居するならこういうところがいいよね~ねぇ、スツルム殿?」

 

「知るかそんな事。傭兵やめた時の事なんてその時になってから考えれば良い」

 

「またまた~そんな事言って、いつもの刺々しい雰囲気がなくなってるよ~」

 

「というか当たり前に今返したけど、スツルム。傭兵やめてドランクと暮らすことは確定なんだな……仲が良くて羨ましい限りだ」

 

 何となく自然すぎて流していたドランクの言葉の意味に気付いてしまい、セルグはそっと問いかけた。その視線には多分にからかいの雰囲気が伺える。そして示し合わせたようにドランクへ視線を向ければドランクも小さく笑っていた。

 ハッとしたような表情を見せるスツルムは何を思ってかは分からぬが小刻みに体を震わせている。哀れなドランクはその先に起こりうる事に気付こうとはしていない。セルグの言葉に合わせるようにドランクからも意地の悪い声が上がった。

 

「ふふふ、そっか~スツルム殿との隠居生活というのはとっても魅力て痛って!? まってスツルム殿痛ったぁ!? 待って待って待ってスツルム殿ほんの冗談、ほんの遊びで言っただけだから本気にしな痛って!? ちょっ、ちょっとセルグ君見てないで助けてくれないかなぁ~」

 

「フッ――巻き込むな。自分で蒔いた種だろう」

 

 ドランクからの救援要請にそっと視線をそらし、セルグは浮かべていた笑みを深くする。正に計画通り……これまでで一番の照れ隠しモード(照れ隠しかどうかは本当の所わからないが)のスツルムがドランクを穴だらけにする光景を見てセルグはほくそ笑む。こうまで期待通りの反応を返されては、ゼタやリーシャよりよっぽど扱いやすい。そんな悪い思考がセルグの脳裏をよぎった。

 

「セルグさん……あまり女性をからかうのは感心しませんね。ましてや相手がジータさんの様に初心なスツルムさんなら今のはいささかやり過ぎかと」

 

 ビクリと肩を震わせるセルグは油の切れた機械の様にぎこちない動きで後ろを振り返る。振り返った先にはおもむろに歩み寄ってくるヴィーラの姿。思い返すのは先日の出来事。

 いや、ポートブリーズでのことだけではない。彼女らの想いを受け入れつつあるセルグにとって、ヴィーラが意味深な笑みを湛えて近づいて来れば、様々な記憶が呼び起される。

 至近距離にまで近づかれてその手を取られたセルグは瞬く間に心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 

「貴方も他人をからかうほど余裕が無いでしょう――――痛みは伴いませんが、少し痛い目を見てみますか?」

 

「――結構デス」

 

 少しではあるが顔を赤くしながら片言で答えるセルグの様子にヴィーラは満足し、ドランクもスツルムから剣を刺されながら子供みたいな笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふ、僕とスツルム殿をからかっておいて一人だけ逃れようなんて痛って!? ちょっとスツルム殿! 事の発端は彼にも」

 

「これ以上余計な事をしゃべるな……まだ足りないか?」

 

 ギラリと短剣を見せつけられて、ドランクは冷や汗を流す。既に二桁回は刺されているであろうドランクに選択の余地はなかった。

 

「結構デース」

 

 奇しくも答えはセルグと同じであった。

 セルグとドランクの、情けなくもバカみたいなやり取りを眺めて笑いながら一行は一先ず、情報収集といった所でグランとジータ、ついでにビィが住んでいた家を調べてみることにした。

 和やかな雰囲気の中、集落へ向けてその足を進め始める。

 

 

「――やっぱり、そうなの……かな?」

 

 少しだけ不穏な。少しだけ哀しげな空気を纏う一人……否、二人を交えて。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「――――魔物だ」

 

 もうすぐ集落を目の前にするという所で、気配を察したグランが呟く。

 仲間達も察していたのか、小さな呟きであるにも関わらずグランが呟くのとほぼ同時に皆動きを見せた。ここら辺はもう百戦錬磨といった所か。数々の死線を潜り抜けてきた彼らは既に、どれほど気が緩んでいようと戦いの可能性がある場所では警戒を怠っていないのだろう。

 向かってくるのは、虫型の魔物が複数。それなりの数はいるが今さらこの島の魔物に苦戦するグラン達でも無い。応じようとする仲間達にも余裕が感じられるが、その中でセルグが唐突に前に出る。

 

「あー、悪いんだが皆少し下がっててもらえないか? ちょっと腕試しをさせてくれ――アレーティア、前衛を頼みたい」

 

「むぅ? それは構わぬが何故に前衛を欲しているのじゃ。お主の武器は」

 

「今日からちょっと変更だ。後衛で援護に回らせてもらう……まぁ、弱くなったのを何とかするための苦肉の策ってやつだ」

 

 そういってセルグはコートで隠れていた風火二輪を見せる。左右に差してあった風火二輪を両方とも抜き放つとその手に魔力を込めて感触を確かめるように銃を握った。

 スッと向かい来る魔物の一匹に狙いを定めてその引き金を引けば、風の魔力を纏いし銃弾が、狙い通りに弾け飛ぶ。その姿は使い慣れていない武器とは思えない程様になっていて、アレーティアは静かに唸った。

 

「ううむ、素人……というわけでは無さそうじゃな。よかろう、グラン、ジータ。少し勝手をさせてもらうぞい」

 

 そう言うや否や、アレーティアが魔物に向かって駆け出す。それと同時にセルグも前へと走り出す。

 

「アレーティア! 打ち漏らしは任せろ。それから息つく暇くらいは作ってやる!」

 

 セルグの声に言葉を返さず足を速めることで返事をしたアレーティアは魔物の群れに吶喊。

 抜き放った一閃で一匹。続いて返しの二閃目で二匹。一度離れて迫りくる三匹目を躱そうとしたところで後方から乾いた音が聞こえ、同時に襲い掛かってきた三匹目が弾ける。

 一瞬呆けたアレーティアが我に返るころには、彼を狙い次々と襲い来る魔物達が、音と共に弾けていった。

 

「ほっほぅ、これはまた、どうして……やりおるじゃないか」

 

 驚きと感心が混じったようにアレーティアは声を漏らす。最初の攻防だけで、セルグの狙いが読めたのだ。

 セルグが前衛を頼んだ理由は、恐らく前衛を任せたいからではない。敵を近づけないように留めてほしいわけではない。

 セルグが想定するのは今後の戦いで前衛が敵と戦う混戦状態を想定しての援護のシミュレーション。仲間の動きを想定し、魔物の動きを想定し、必要な行動を選択するその戦闘モデルを構築するため。

 アレーティアを選んだ理由は、彼程の剣の達人であれば、前衛としての動きが想定しやすいからだろう。剣の腕という点で考えた時、最も天ノ羽斬を扱うセルグと似通っていると踏んだのだ。

 

「どれ、もう少し動くとしようかのぅ」

 

 セルグの援護だけでも魔物は倒しきれる事がわかったところで、だがそれでは意味がなくなるだろうとアレーティアは再び動き始めた。

 剣の賢者と言われる所以、その練達した剣捌きは向かい来る魔物を丁寧に屠り、その身のこなしは襲い来る魔物の攻撃をあっさりとかわす。躱された魔物のその先には弾丸による死の宣告が待ち構えている。

 援護しやすく立ち回りを予測しやすい動きは、セルグにとって非常に助かる前衛の動きであった。

 わかり切っていたことではあるが、襲い来る魔物に成す術は無かった……

 

 

 

「チッ、やっぱり得意属性じゃねえからそんなにうまくはいかねえか!」

 

 小さな悪態と共にセルグは打ち続けていた風の風火二輪から弾倉を抜き出すと、次のを装填。その動きはとても一日二日ではたどり着けないほどなめらかな動作で行われ、次々とまた弾丸を放ち始める。

 押し寄せる魔物たちは強くはないがそれなりに数はいる。アレーティアを無視する魔物もおり、抜けて来た魔物を一匹残らず迎撃していくが、その中で一撃で仕留められない時が多々あり、セルグは武器属性との相性に思わず顔を顰める。

 

「火の方がまだいけるか?」

 

 右手に握る炎の風火二輪を構えると、魔力を高密度に圧縮。迫りくる魔物の中から複数固まっている箇所に狙いを定めて射撃。

 圧縮した魔力が打たれた魔物を中心に弾け小規模ではあるが爆発を起こし、複数を巻き込んで絶命させる。

 

「扱いにくい風は手軽な弾速強化だけにしておこう」

 

 更に他方から迫りくる魔物に今度は風の風火二輪を構える。込められた魔力で弾丸は覆われ、弾丸の最大の敵。空気による抵抗を消し去り弾速を跳ね上げた。

 乾いた音がなれば、弾速の上がった弾丸により次々と魔物が弾けていく。

 

「セルグ!!」

 

 グランの焦った声に目を向ければ、感触を確かめていて気を抜きすぎていたのか一匹の魔物に接近を許してしまっていた。

 仲間達も大丈夫だろうと完全に油断をしていた。援護は期待できない状態であるが、それでもセルグに焦りはない。

 当然だ……彼の本来の戦闘は天ノ羽斬による接近戦。

 

「この距離はオレの領分だ」

 

 風の風火二輪を上に放り投げ、抜き放った天ノ羽斬で一閃。最後の一匹であった魔物を倒しその場に静寂が訪れる。

 

「――っと。久しぶりにしては上出来だな」

 

 放り投げた風火二輪をしっかりとキャッチして、セルグは満足そうに笑った。

 

「上出来だな、っじゃなくてなんだよセルグ。その武器は?」

 

 落ち着いた状況にグランはため息交じりにセルグへと問いかけた。相も変わらず驚かせてくれるセルグの行動。もはや恒例行事になりつつある。セルグが持っている武器も、それを普通に扱えることにも、仲間達は一様に驚きを隠せないでいた。

 

「急な話になって悪かったな。少しだけ驚かせたかったのは、まぁ否定しない……こいつは風火二輪。風と炎を統べる星晶獣、ナタクのチカラを受けた銃だ」

 

「風火二輪って、セルグ……どこからそれを?」

 

「元々はアイリスの武器だよ。アイツが死んでから、ポートブリーズの工房に預けていたんだが、それをポートブリーズに立ち寄った時にもらってきたんだ。今のオレには天ノ羽斬をまともに使えないからな……」

 

 力なく笑うセルグの表情には僅かに悲しさが込められる。大切な相棒……そのチカラを十全に行使できないのはひとえに己が無茶を重ねてきたから。愚かであった以前の自分を恨むように自嘲している。

 

「天ノ羽斬が使えないってセルグ……どういうことよ?」

 

 疑問の尽きない仲間達を代表するようにゼタが問いかけた。組織から与えられた特殊なチカラを持つ武器たち。

 炎を様々な形に操るゼタのアルベスの槍。窮地をチカラに変えるベアトリクスのエムブラスクの剣。凄絶な痛みを与える奇妙な能力を有するクロードが使っていたイビルレギオン。

 そんな組織の戦士に与えられた特殊な武器の中でも、天ノ羽斬の性能は規格外だとゼタは組織から聞かされていた。それが使えないとはどういうことなのか……当然の如湧きあがってきた疑問にセルグは静かに答えた。

 

「天ノ羽斬の真骨頂。それは徹底的なまでの自己強化だ――――全開解放時の剣閃の加速。付与されるチカラの増幅。

 開発コンセプトはアルティメットワン……一点において究極の性能を誇る武器。それが天ノ羽斬のチカラだ」

 

「それじゃ、天ノ羽斬を使えないっていうのは」

 

「そうだ、強化されるオレのチカラが弱くなり過ぎた。剣速は衰え、付与できる光のチカラも弱い。元が弱くてはいくら強化しようと話にならないという事だ」

 

「それで別の武器を……だがお前さん、俺達なんか目じゃねえくらい、使いこなしてなかったか?」

 

 ラカムの言葉にオイゲンも頷く。形は違えど同じく銃を扱うもの同士。先程のセルグの戦闘は間違いなく訓練に訓練を重ねた、熟練の動きであった。

 

「そりゃあまぁ、初めてじゃないさ。アイリスの訓練の時に何度も実演はしたし、アイツの訓練に付き合うために何度も銃は扱ったからな。苦労したぞ、アイツはお手本に120%の完成度を求めるもんだったからな……」

 

 苦笑交じりに思い出し笑いをするセルグに、仲間達はその意味を理解した。

 面倒見の良い彼の事だ。訓練や特訓をする前に恐らく自分で徹底的にそれを扱えるようにしたのだろう。120%の完成度を求めたのは恐らく彼女ではなく、彼自身だと。グラン達は察した。

 

「まったく、自信が無くなっちまうな。ああも見事に銃を扱われちゃ、俺達の立つ瀬がないぜ」

 

「そう言わないでくれ。武器は扱えてもずっと前衛をやってきたオレは援護というのは素人だ。それに武器の性質上狙いも相当に甘い。前にも言ったが技巧派と言える二人の戦い方は参考にさせてもらうよ。もちろん、イオの戦い方もな」

 

 オイゲンの言葉にまたも苦笑しながらセルグはフォローの言葉を紡ぐ。当然幼い魔導師の事も忘れてはいない。彼らはこれまで、後ろから仲間達を支えてきた援護のエキスパートなのだ。前衛で好き勝手に暴れていたセルグの本心から出たであろう言葉に三人ともまんざらでもないように顔を綻ばせた。

 

「ふっふーん。それじゃ今度は私と並んで戦ってみて! 援護の天才魔法使いがセルグに手ほどきしてあげるんだから」

 

「あぁ、よろしく頼む。イオ先生」

 

「にっしっしー。セルグに先生って言われるのちょっと気持ちがいいかも」

 

 嬉しそうに笑うイオにつられてセルグも柔らかな笑みを浮かべた。

 

「さて、ということでグラン、ジータ。これからオレは前にあまり出られないから気を付けてくれ。一応天ノ羽斬は使える。だが使えるだけで以前の様には戦えない。風火二輪を使った方が役に立つとは思う」

 

「う~ん、それは分かったけど。別に弱くなったならむしろ無理して戦う必要もないんじゃないか?」

 

「そこはオレの気持ちも汲んでくれ。足手まといになりたくないのは分かるだろう」

 

「そんなこと言って。どうせ風火二輪に変えたところで無茶するのは変わらないんじゃないですか?」

 

 目を細めて、微妙に睨み付ける様な視線を向けるグランとジータ。少しだけ辛辣なジータの言葉にセルグが口を閉ざして呻く。

 きっとジータのいう事は間違いない。セルグ自身、無茶でも何でも必要であれば天ノ羽斬で限界までチカラを振り絞る事は辞さないだろう。銃を手に取り後衛でありながら囮となるため前に出たりするかもしれない。

 そんな未来が容易に想像できる程度には仲間達のセルグへの信頼は薄い。

 

「ま、まぁ必要とあればな……残念ながら風火二輪は属性の相性もあるから完全に使いこなせるわけじゃない。それこそ二人みたいに武器に適応して使えるんであればこいつは弾丸の威力も速さも自由自在のバカみたいな武器になるんだが、オレにもそこまでの才能は無いようでな。戦力としては微妙である事だけは覚えておいてくれ」

 

「フンッ、先程あれだけの戦闘をこなしておいて微妙なんてよく言えたものだな。あれだけの数を動じずに迎撃していくなんて何の冗談だと思ったぞ」

 

「ホントだよね~。僕らから見たらさっきのだって十分に異常だと思うんだけどー」

 

 セルグの言葉にスツルムとドランクは難色を示した。それだけ戦えて微妙とは嫌味のつもりか。といった所だろう。珍しく二人そろって苦言を呈してくる。

 

「仕方ないわよ二人とも。セルグは基本的に非常識が常識みたいなやつだから。私達とはもう感覚が違うのよ」

 

「フフ、ゼタの言うとおりですね。本来のセルグさんであればもっと異常な戦いをしていましたから。私達としてはあの程度では今さら、といった感じです」

 

「あ、あの~皆さんそこら辺にしておかないとセルグさんがしゃがみこんで落ち込んでいるんですが……」

 

 リーシャがおずおずといった様子で口を挟むと、仲間達が向けた視線の先でセルグがしゃがみこんでいるのが見えた。普段はからかってばかりであった彼のそんな姿に仲間達は二度目の驚きの表情を浮かべる。

 どうにもセルグは過去を乗り越えて柔らかな雰囲気になった半面、今まで強がって保っていた表情が崩れやすいようだ。人間らしくショックというものを受けて弱弱しい姿を見せやすくなっているきらいがある。

 そんなセルグの頭にビィがそっと乗っかり優しく慰めの言葉を発すた。

 

「まぁ、気にすんなってセルグ。オイラはいつもセルグの事をすげぇなって思ってたからよ……まぁ元気出せって」

 

「そうですよ! セルグさんはとっても強くて、とっても優しくて……わたしも凄いって思っていました。例え少しおかしい所があってもそんなの私と一緒ですから大丈夫です!!」

 

「お、おう。ありがとな、ビィ。ルリア……」

 

「セルグ……落ち込まないで」

 

「あぁ、オルキスもありがとう」

 

 顔を上げたセルグは三人の言葉に少しだけ元気を取り戻して立ち上がる。

 

「さて、それじゃさっさと行こう。こんなところで無駄話をしていても仕方ない」

 

「そうだね、私達の家はこちらです。付いてきてください」

 

 セルグが立ち上がったところでグランとジータが先導し一行は再び集落へと歩み始める。

 あと少しのところで魔物に阻まれたが集落はもう目の前だ。

 嬉しそうに歩く二人とビィの案内で一行は彼らの始まりの地へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「お? んん? まさか……グランとジータか? うぉーい!!」

 

 集落に入ってすぐの所で一行の姿を目にした少年から声がかかった。大きな声で駆けられた声に二人がそちらを向けば声の出所を確認して、すぐにグランもジータも駆け寄っていく。仲間達を置いてけぼりに知り合いの元へと向かった二人は晴れやかな笑顔を見せていた。

 

「久しぶりだな二人とも!」

 

「アーロン! ホント久しぶり!」

 

「元気そうでよかったよ。村の皆も変わりない?」

 

「あぁ、二人がいなくなる時に帝国が来ていらい、特に何もなく相変わらずここは穏やかなままだ。そういやこの間二人が帰って来てたって聞いたんだけど――――いつ来てたんだ?」

 

「あぁ、それはホントにちょっとだけ用があって立ち寄っただけで……まぁ、今回もなんだけど」

 

「あの時はちょっと艇が壊れそうで急いで出発したの。挨拶もなしに言っちゃってごめんね」

 

「ふぅん……まぁこうしてまた戻ってきたならいいけどさ。あっちの皆さんが仲間か? う~わ。そろいもそろって美人ばっかり……グラン、随分いい思いをしているみたいだな。あとでちょっと紹介してくれよ」

 

「何言ってるんだアーロン。さっきも言ったけど、用事が終わったらまた行かなくちゃいけないから無理だって。大体彼女たちはただの仲間で、僕個人とは何も――」

 

「あっれ~そんなこと言って今、リーシャさんに」

 

「わぁーー! ジータ!? やめろって、違うって言ってるじゃないか。大体ジータだって最近セルグの事気になっ」

 

「ちょっと!? 何言っちゃってるのよ! それこそグランの勘違いじゃない! 勝手な事言わないでよ」

 

「あ、あぁ~なんだ? 二人とももしかしてあの中に意中のヒトが」

 

「「違う!!」」

 

「お、おお…………そんな怒らなくても」

 

 二人の余りの剣幕に思わず尻餅をついてしまった少年アーロンは、不用意な発言をした自分を呪いながらも目の前で喧嘩を始める二人をみて少しだけ楽しそうに笑うのだった。

 

 

 

 仲よさそうに話す三人の姿に仲間達は、特に大人組は感慨深そうに彼らを見据えた。

 帰ってきた二人を出迎えた同じ年頃の少年。無邪気に笑いながら(慌てながら)再会を喜び話し込む二人を見た時、彼らは改めて気づいた。

 団長として仲間を引き連れ、旅をしている二人はまだ大人にすらなっていない少年と少女だという事に。

 

 帝国に立ち向かい、アーカーシャを目にし、それでも折れずに戦おうと仲間を奮い立たせた立派な二人の団長が、あどけなく笑い合い故郷の友と話し込んでいる。

 ルリアやイオは彼らより確かに幼いが、それでも彼らとてまた未成熟なはずの子供である事を目の前の光景を目にして認識した時、それを見守る大人達の胸中には大きな感情のうねりが広がった。

 

「知らなかったな。二人とも……あんな顔をするんだな」

 

「――あぁ、団長として、彼らはどこか大人びて物事を見ている節があったが……あんなにも自然な表情ができるのだな」

 

「あんな笑い方をするまだガキの二人が、今この空域を左右するような大きな事に挑んでいるって考えると。なんつーか、大人としてやるせねぇっつーか……」

 

「知らず知らず、俺達ぁあの二人に重荷を背負わせていたのかもしれねえな……」

 

「あの表情を見るとそうかもしれないわね。セルグと一緒であの二人もきっと違うって答えるでしょうけど」

 

「そうですね。まぁセルグさんと違い彼らはまだ心配なさそうですが……」

 

「で、ですからお二人ともそんな言い方をされてはまたセルグさんが…………まぁ、否定はできませんが」

 

 ゼタとヴィーラからの辛辣な物言いにセルグが呻く。リーシャが僅かにフォローを見せるも最後の一言で台無しだ。何故ここで自分に矛先が向くのか……そろそろ理不尽な気がしてきてセルグはまたもその場にしゃがみこみそうになった。

 

「お前らなぁ……終いには泣くぞ」

 

「ううむ、御嬢さん方は随分とセルグに手厳しいのう。こっちもこっちで心配じゃぞい」

 

「ま、君もそうだけど、彼らも含めて、少し肩肘張り過ぎなんじゃないかな?」

 

「同感だ。そんな事ではすぐに折れる……」

 

 またも珍しく意見のあったスツルムとドランクの言葉に一行は小さな決意をした。

 未だ大人になり切れていない団長を心の底から支えてやろうと。未だ発展途上である二人は、今後の経験いかんでいくらでもそのヒトと成りが変わる。グランとジータの未来が変わってくるのだ。

 二人を起点に集いし仲間達は彼らの未来が明るいものになることを願って、戻りくる二人を改めて優しく迎え入れるのだった。

 

 

 

 楽しそうに話す二人を待つこと数分。久方ぶりの友との再会に嬉しそうな顔を見せながら、グランとジータが戻ってくる。

 

「ごめん、ちょっと話し込んじゃって」

 

「皆さん、ごめんなさい。直ぐに案内しますね」

 

 少しだけ申し訳なさそうに謝る二人だが、それを安心させるようにカタリナが優しく笑いかけた。

 

「なに、気にするな。久しぶりの再会に水を差すほど無粋ではないさ」

 

「折角帰ってきたんだ。もっと皆に顔を見せてきてもいいんだぜ」

 

「逞しくなってきた姿ってのを見せてきてやんな」

 

 ラカムとオイゲンも加わり優しく二人を諭すも、名残惜しさを見せずグランとジータは首を振った。

 

「ううん。僕たちはやらなきゃいけないことがあるから……」

 

「確かに皆と会えるのは嬉しいですけど、今の私達はロゼッタさんの為にも止まってられない」

 

 先程の顔はどこへやら。いつもの団長の顔へと戻った二人に彼らも何も言わず頷く。

 それが二人の嘘偽り無い意志であるのなら、自分たちがどうこう言う事でもない。

 

 変わらぬ頼もしさを見せる二人に案内されて、一行は目的地へと赴く。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 集落の少し奥に行った所。小屋と呼ぶには大きいが家と呼ぶには少し小さい。そんなサイズの家がグラン達の家だった。

 取り立てて特徴がなく、素朴で贅が見られない家は静かなここの集落らしい。

 だがそれでも、久しぶりに帰ってきた我が家を前にして、どうしても心穏やかになってしまうのをグラン達は抑えられなかった。

 

「こう目の前にすると、本当に久しぶりな気がするな」

 

「フフ、ほんとにそうだね。家の中は埃だらけになってそうでちょっと怖いけど……」

 

「そういやオイラ達、本当に何の準備もしないで出て行っちまったからなぁ……」

 

 グランが懐かしめば、ジータとビィは想定される事態を思い浮かべ苦笑い。二人と一匹の旅のきっかけを考えれば仕方ないかもしれないが、集落の者に何の言伝もなく出て行ったのは間違いであったと今更ながらに思った。

 小さな集落だ。頼めばある程度家の維持ぐらいはしてくれたであろう。そんなあとの祭りな事態を考えている二人と一匹の前にセルグとカタリナが躍り出る。

 

「グラン、ジータ、ビィ。感慨にふけるのは後回しだ…………カタリナ」

 

「あぁ――――恐らくは二人。少なくとも集落の者ではないだろうな」

 

 二人は真剣な表情のまま互いに感じた情報を確認する。

 グランとジータの家。今は誰もいないはずの家から感じられるヒトの気配。しかもそれは明らかな敵意を含んでいることが感じられ、警戒を露わにしていた。

 

「ルリア、オルキス。間違いじゃなければいいんだが星晶の気配は?」

 

「それが、その……」

 

「家の中……一ついる」

 

 セルグの問いに答えた二人の言葉で一行はすぐさま警戒態勢を取った。ただ不審な人物がいると言うだけでは済まされない事態。

 辿り着いた目的地にいた先客はまさかの星晶獣という可能性に緊張が走る。

 

「僕達に気付いていないのか……動きはなさそうだけど」

 

「でも、むやみに刺激はできないよ。こんな所で星晶獣が暴れたら皆にどれだけの被害が出るか……」

 

 ヴァルキュリアのグランが雷神矛を構え、ホーリーセイバーのジータがラスト・シンを構える。

 最悪は相手を引き付けてこの場を離れていく必要があるだろう。場所が場所なだけに非常に戦いづらいのは間違いない。

 僅かな焦りと不安が二人の脳裏をよぎった。

 

「私が行きます。ファランクスも張れるから仮に不意打ちで攻撃されても被害は最小限に――」

 

「バカを言うな。ジータにそんな危険な真似をさせられるか。それならオレが」

 

「ダメです。今日からセルグさんは後衛で戦うって言ったじゃないですか。前衛は今、私の仕事です」

 

 ホーリーセイバーとなったジータの固い口調ではっきりと断られてセルグがジータの後ろへと押し切られる。それでも言いつのろうとするセルグを今度はグランが抑えた。

 

「セルグ、僕もジータの方が良いと思う。防御力から考えても今のジータ以上に適任はいない。今更僕たちを信じられないわけでもないはずだ」

 

「それは、信頼はしているが……」

 

 信頼はしている。既に彼らの強さは十二分に理解している。それでも明確に危険があるとわかっている場所に簡単に送れるほど、セルグは強くなれなかった。

 

「こうしていても始まりません。思い切って突入します」

 

 瞳に力を宿したジータが走り出そうとする。セルグが止めるよりも早く動きだし、家へ走り出した。

 だが……

 

 

「そんなに意気込まなくても、不意打ちでキミたちを倒そうなんて気は更々ないよ」

 

 

 ジータがドアにたどり着くよりも先に開いたドアの先から一人の男。その後ろから一つの気配が表れる。

 

「少し久しぶりかな? キミ達がいつ来るかと心待ちにしていたよ」

 

「随分待たせやがって。ちゃんと楽しませてもらうからな!」

 

 以前と同じように薄ら笑いを浮かべて、ルーマシーで出会ったロキと、星晶獣の気配を持つ、蒼い少女が。彼らの前に悠然と佇んでいた。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

ひょっこり出て来た、素の顔。
二人がいくら優秀でもそこには薄くとも消えはしない仮面というものがある。そんなところを描いた一話かなと。セルグの新武器なんてどうでもいいっす。

さぁさぁ、クライマックスが近づいて来ており作者は心の底から震えております。
どうぞ読者の皆様、飽きること無いように今後も読み進めていただければと思います。

感想お待ちしております。
それでは、お楽しみいただけたら幸いです。

追記。アニメ見て色々と描写が増えそうです。作者の中で曖昧だった部分っていうのが色々と見えて来たので、、、修正修正と増えて来そうです

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