granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
ザンクティンゼルへと飛び立つべく、グラン達はグランサイファーの元へと向かう。
新たな仲間、スツルムとドランクを加えて、さらに不安要素の塊だったセルグにも大きな変化が見られ、意気揚々と秩序の騎空団の騎空艇停泊所にたどり着いた一行は、グランサイファーの前で仁王立ちしている人影を見つけた。
「フフフ、待っていたぞ」
秩序の騎空団、第四騎空艇団船団長、モニカその人である。
「目が覚めたんですねモニカさん! お怪我は大丈夫ですか? 私はまだ何とか起きれましたが、それでもあちこち痛みが走ります……モニカさんやセルグさんは」
モニカを見つけて開口一番、嬉しそうにリーシャは駆け寄った。
ぐっすりと眠り続けていたモニカ。命に別状はない状態とはいえ、眠り続けるモニカを置いてザンクティンゼルに向かうのは忍びなかったリーシャは一安心といったところなのか矢継ぎ早に言葉が飛び出てくる。
「えぇい、うっとうしい! 大丈夫だ、怪我は確かにひどいがもう動ける。そんな事よりリーシャ……私に一言もなしに、出発しようとしたな?」
「えっ、いえ……その……やっと手がかりが見つかったのでつい。一応モニカさんの部下には伝言をお願いしていたのですが……すいません」
冷ややかな視線とモニカの言葉にいたたまれなくなって、リーシャは思わず謝罪を口にするが、その瞬間にモニカはニヤリと笑った。
「フッ、冗談だ。そもそもお主は今出向中の身。思う存分にグラン殿達の下で活躍すると良い。それよりだな……セルグ、ちょっと良いか?」
「ん? な、なんだ?」
リーシャをからかった所で、モニカは視線をセルグへと向ける。この瞬間にセルグは何やら嫌な気配を感じていた。つい最近も、こんな嫌な気配を察した覚えがあるが、具体的な事は思い出せない……だが、そんな理由で逃げ出すわけにもいかず、セルグはモニカの手招きに従いその身をモニカへと寄せた。
目の前には少しだけ、言いづらそうにもじもじするようなモニカの姿。――既に心の警戒レベルは警鐘を鳴らしていた。
「そのだな……アレーティア殿から聞いたんだが、私の危機にお主がものすごい勢いでガンダルヴァに向かっていったと聞いてな。それを知って、私は不覚にもお主に心をうば――」
「ちょっと待てぇええ!! てめぇこのクソ爺! そんなんじゃねえって言っただろうが!!」
モニカの言葉の途中で色々と先を察したセルグは魂の咆哮を挙げる。ついでギラリと音が聞こえるような目つきで発端である老人へと視線を向けた。
「フォッフォ、嘘はいかんぞセルグ。お主は”正に”鬼の形相で奴に立ち向かい、その後”必死な”様子でヴェリウスにモニカ殿を任せ、最後まで”心配そう”に見送っていたではないか」
「確かに言ってることは事実だが、色々と含ませんじゃねえよ!!」
何食わぬ顔で、様々な憶測を呼びそうな風に事実を語るアレーティア。セルグの嫌な予感は現実のものとなり、続いて危険な気配が鎌首をもたげる。
「良いじゃないかセルグ。元々私はお主の事は好いていたぞ。窮地に颯爽と現れ必死に守られたとあっては乙女の顔にもなってしまうというものだ」
第一声は本人からであった。
セルグとしてはまさかの想いにうろたえる中、モニカは頬を染め、乙女の顔を作り出し(演技かどうかはセルグにはわからない)セルグの胸の中へとしだれかかる。
歴戦の戦士であるというのに華奢で、柔らかな身体は小柄な彼女の魅力を存分に引き立て、セルグの心をくすぐる。
「待て待てモニカ。悪いがオレにそんな気は」
「ふぅん……ここまでさせといてその気はないんだ。アンタって本当に……」
次いで上がった声には多分な熱を感じた。いや、声ではなく空気に熱を感じる。それもそのはず、セルグの背後から聞こえた声の主は炎を扱うのだから。
声を上げたゼタはアルベスと心から炎を吹上げ、今にもセルグに一撃くれそうだ。
「ゼタ!? ち、違う!? オレはモニカが命の危険かもと思って必死になっただけだ! そこにそんな変な気持は」
「男のくせにうるさい奴だな……ホラ、こっちを向け」
「待てモニカ、だからオレはッ!?」
慌てて振り向いたセルグは、その瞬間に己の不用意さを呪った。瞬間的に感じた感触になんだか既視感を感じながらセルグは目を見開く。
目の前にはモニカの顔、感じるのは柔らかな感触。逃れえぬ状態でもたらされたそれは紛うことなき接吻。
キス、口づけ、唇と唇のまぐわい。表現は多種にできようが意味することは一つ。
それは愛する者への行為に他ならない。目の前の光景にセルグだけでなく、周りも言葉を失い、ひと時の静寂が流れた。
数秒か数十秒か。妙に長く感じられた時間が終わりをつげ、二人が離れた時、セルグは複雑に脳裏を駆け巡る言い訳や思考を捨て、ただ茫然としていた。
「…………おい、さすがに」
「私の想いは伝わったか?」
「――ッ?!」
少しだけうるんだモニカの瞳に目を奪われ、しかし次の瞬間には気恥ずかしくなってセルグは顔を赤くしたままその場を逃げ出しグランサイファーへと走り出した。そう……あのセルグが顔を赤くし、逃げ出したのだ。
「あ、セルグ!!」
「逃げた!!」
「待ちやがれ、セルグ!!」
仲間達は楽しそうな顔をしたり、怒りに顔を染めたり、呆れたような顔をしたりしながら、逃げ出したセルグを追いかける。
その場に残っていたのは……
「これで良かったか? ヴィーラ殿」
静かに笑みを湛えたヴィーラと少しばかり顔を赤くしたモニカだった。
「ご協力ありがとうございました。少々やり過ぎだとは思いますが……」
「これくらいは良いだろう。想いを告げるという木っ恥ずかしい事を皆の前でしたのだ」
「――接吻は予定に無かったと思いますが?」
静かに、視線鋭くモニカを睨み付けるヴィーラ。
彼女の言うように、セルグを好いているであろうと踏んだモニカにこのことを持ちかけたのは自分だ。決戦前夜のあの日の夜にモニカに皆の前でという条件付きで願い出ていた……確かにやってみれば相当に恥ずかしい事をさせたのは自分だから文句は言えないのかもしれないが、それでもやはり嫉妬心というものは出てきてしまう。
「そこはまぁ……私とて素直にあいつを好いているからな。役得というものだ」
「――まぁ良いでしょう。これであの人はまた、未来を見てくれそうです」
顔を赤くした……すなわち羞恥心をセルグは露わにしたのだ。モニカの想いに気付き、受け止め、意識をしている。
それはヴィーラにとって大きな前進だった。
「気にすることではないのかもしれないが、お主は本当に良かったのか? 普通なら自分だけを見てほしいものだろう?」
モニカとしては不思議で仕方ない部分であった。セルグを好いている部分を見抜かれたことは驚きであったが、それ以上にヴィーラはその想いを利用させてくれと頼んできた。
既に自分は想いを告げている。だがそれではまだ足りない……と。
「それは、当然ありますが……私だけではきっと足りないのです。あの人を救うためには……」
セルグをスツルムの前から連れ出した後の語らいでも、セルグはまだ頑なであった。相変わらず口では否定を続けていた。
だが、モニカによってセルグの牙城は大きく崩された……。
言葉ですら否定を出せずに逃走したのが何よりの証拠。既に彼に否定する程想いを跳ね除ける余裕は無かったのである。
「まぁ赤くなったセルグという本当に貴重な姿も見れたからな。きっかけをくれたお主には感謝しているよ」
「どういたしまして。今後も機会があれば存分に伝えてください。あの人が私達との未来を見たくなるまで」
最後にそう言葉を残して、ヴィーラは微笑んだままその場を去っていく。
残されたモニカはヴィーラの強かさに僅かに恐怖を覚えながらも、未だ冷めやらぬ余韻に当てられ、頬を赤く染めるのだった……
――――――――――
全員が乗り込み、アマルティアを飛び出したグランサイファーの一室。
そこは彼の部屋であり、そこは現在、彼にとって唯一安らげる安息の地であった。
「…………はぁ」
小さなため息を漏らすのはセルグ・レスティア。魂の抜けたような目でボーっとしている。
何故彼がこんな状態なのか? それは言わずもがな先程の記憶を脳内から排除し、すべての思考を捨て、忘れ去ろうとしているからである。
ドアの外から多分に喧騒が聞こえるが知らない。説明しろだの、モニカさんを誑かしただの、どうする気だだの、ぶっ飛ばすだの、いろいろ聞こえるがとにかく知らない。
今の彼には落ち着ける時間が必要であった。静かにセルグは目を閉じて最終手段狸寝入りに入ろうと目を閉じ――
”お主がああも取り乱すとは思わなかったぞ。実に面白い表情が見れた”
「おわぁ!?」
できなかった。突然傍らに現れたヴェリウスの声にセルグは寝ていたベッドから転げ落ちる。
次いで怒りの形相を向けるもヴェリウスはそのままベッドに体を休めていた。
「ヴェリウス……てめぇ」
”外がうるさくて適わぬ。早く静めてこぬか”
「誰が行くか! 行ったら面倒になるのは目に見えてるだろうが」
”それも全てはお主を想うが故よ……素直に受け止めてはどうだ?”
「ふざけろよ……二人から好意を寄せられて応えられるわけがないだろ」
”何を今さら常識人ぶっておる。この艇の中で最も非常識なやつの言葉とは思えんな。英雄色を好むと言うだろう。複数の異性と関係を持ったところでここの者達は誰も責めまい”
どことなく達観したような言葉を告げられ、セルグの目が点になる。
長い時を生きて様々なものを見てきたからこそ言える事なのかもしれないが、それを言っているのは星晶獣なのだ。余りにも人間臭い事をのたまうヴェリウスにセルグは驚きを隠せなかった。
「お前……星晶獣のくせになんて事言ってんだ?」
”記録の星晶獣故に、お主のような状況の男はごまんと見てきておる。まぁ、そのどれもが最終的には悲惨な結末を迎えていたがな……”
プツリと何かが切れるような音が聞こえそうであった。人間臭い事をのたまったと思ったら、まるで挑発するような言葉。静かに、セルグは拳を握りしめる。
「このっ……余りふざけたことを言ってると」
”それでも……お主にはシュヴァリエの娘や先の小娘のような、想いを向けてくれる存在が必要だ。嘘偽りなく、な”
「ヴェリウス……」
”想いを受け止めることを恐れるな。お主は先程、過去と向き合う覚悟を決めたはずだ。それに比べれば、想いを受け止めることなど造作もなかろう”
突然の真剣な声音と言葉にセルグは呆気にとられる。
自らを大事にしないセルグに、ヴェリウスも常々危機感を覚えていた。ヴェリウスとて、壊れそうなセルグを助けたいと願っていたのだ。
そんなセルグに舞い込んできた彼女たちの想いは、セルグが生きようとするためには必要不可欠だと感じていた。
静かな逡巡の後に、セルグは真剣な面持ちとなり口を開いた。
「オレが過去と向き合うのと彼女たちの想いを受け取るのは別の問題だ……オレは」
”まずは今日の夜をしっかりと乗り越えて見せよ。さすれば明日の朝にはお主の気持ちは大きく変わっておろう”
一応は長い時を生きているヴェリウスの言葉に、セルグは多少なりとも何かを感じ取ったのか、押し黙ると僅かに黙考した。短い沈黙が流れ、そののちに
「……わかった。よく考えておく」
静かに(部屋の外はうるさいままだが)、セルグは決意の表情を浮かべる。
喧騒に包まれたまま、セルグは夜まで知らぬ存ぜぬを貫き続けた。
――――――――――
所変わり、こちらは船室の一角に集まったグラン達。
笑顔、怒り、呆れ、多様な顔をしているが一様にその空気は明るい。
「それにしても見たかグラン。あのセルグが顔を赤くして逃げ出したんだぜ? く~アイツもやっぱり男だったってことだな」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらラカムがグランに話しかける。対するグランは少しだけ心配そうな顔だ。
「ラカム……程々にしとかないと出てきたときにセルグにシバかれるかもしれないよ」
特訓と称したいじめを受けたことのあるグランとしては、嬉々としてセルグをからかいそうなラカムの方が心配であった。
具体的には、目隠ししながらルリアが呼んだ星晶獣と戦うくらいは特訓としてやらせそうである。そんな光景を思い浮かべグランは思わず身震いする。
「モニカさん、なんていうかすっごく大人っぽかったです。身体はあんなに小さいのに……」
「ルリアさん!? 言っておきますがモニカさんは私達より年上ですよ。確かに、小柄なので幼くは見えますが、それでも育ってるところはしっかり育ってて……」
ルリアを窘めたリーシャは小さくなっていく声と共に自らの身体へと視線を向けていく。
何故だろう……別に明確にそうだと思っていたわけではないのだが、大きな敗北感を感じた。
頭を振り、湧き出てきたそれを振り飛ばすと、リーシャはまたルリアにモニカの凄さを語り始める。
「と、とにかく! モニカさんは私なんかよりもずっと年上でずっと凄いヒトなのですから、モニカさんの前で小さいとか言っちゃだめですよ!」
「は、はい!? ってモニカさん、そんなにずっと年上なんですか?」
リーシャの言葉に思わずルリアが疑問を浮かべる。
「あっ、い、いえ、年齢については私も詳しくは……ただ既に長い事秩序の騎空団として前線で戦っていたとしか知りません」
「そうなんですね……一体おいくつなんでしょう?」
「ルリアさん。それも聞いてはいけませんよ。私も一度だけそれを聞きましたが、その後地獄のような訓練に連れていかれました」
憔悴し切った顔でリーシャが語る。そう、一度だけリーシャはモニカに年齢を聞いたことがある。その時の事は今でもはっきりと思い浮かぶ。
”ほう……まだ下らない事に気を回す余裕があるようだな。どれ、少し追加メニューと行こうか。付いてこい、生き地獄を味合わせてやる”
魔力のような、オーラのような、何かかがモニカに纏い、その後リーシャは意識が途切れるまで地獄のような訓練を行った。これからの生涯でどれだけ頑張ってもあそこまで体を酷使することはないだろうというほどの……女性に年齢を聞くのはご法度だと、リーシャはその日心の奥に刻み付けたのだ。
余計な疑問はルリアにとって危険であると、リーシャはその後モニカの英雄譚をルリアに聞かせてやった……
「ゼタ……いい加減落ち着いては如何ですか。別にセルグさんはモニカさんの想いにお応えしたわけではないのですよ」
不機嫌さが未だ収まらない様子のゼタの元にはヴィーラがいた。相変わらず静かな笑みを湛えているが、その感じはまた少し、裏のありそうな笑みである。
「べ、別に私はアイツが誰と一緒になろうが知ったこっちゃないわよ。ただ、誰彼構わずその気にさせる様な事をしているから気に食わないだけで……」
ヴィーラの言葉にゼタは慌てた様子で言葉を返すが、ヴィーラにはそれが強がりだとすぐにわかった。
「つまりは、ちゃんと自分を特別に見てほしい……と? 本当にゼタは初々しいですね。ジータさんと変わらないくらい」
「ちょっとヴィーラ!? それどういう意味よ!」
「安心してください。貴方は本当に可愛らしいのですから自信を持って堂々と、貴方らしく振舞っていればいいのですよ」
「だ、だから違うって言ってるでしょ!? もぅ、最近のヴィーラちょっと意地悪じゃない?」
「親友とはこういうものでしょう? ゼタも私の事をからかっていいのですよ。できるのでしたら、ね」
ブルっと総毛立つような悪寒に見舞われ、ゼタは自分の肩を抱く。いつの間にやら燃え上がっていた不機嫌の炎は鎮火し、代わりに出てくるのは目の前にいるどうにもそこが知れない親友への恐れである。
「やめとく……ヴィーラを相手にそんなことしたら反撃喰らって落ちるのが目に見えてるわ」
「あら、残念……フフフ」
静かな笑みが、深まった気がしたゼタだった……
「う~ん。君たちって~いつもこんな感じなわけ?」
「流石に少し驚いたな。あれほどの殺気を向けられる奴が、あんな顔をして逃げ出すとは」
スツルムとドランクの疑問と驚きの声がジータに向けられる。船室内で皆が騒いでいる中、一応の案内役としてジータとイオが二人と一緒に連れ立っていた。
「あ~そうですね……私もさっきのセルグさんには驚きましたけど、基本はこんな感じで皆さん楽しそうですよ」
「そうよね……セルグが来たときも、リーシャが来たときも、いつも大騒ぎだったし」
一行を眺めながら、二人は興味深そうにしていた。
そんな中、ドランクはふと思い立ったように口を開く。
「ふ~ん。ところでさ彼って一体何者なわけ? スツルム殿は言っちゃたけど、僕も感じてた。彼の纏う気配は僕らの界隈でも相当珍しい……いや、少なくとも僕はあれほど強い死の匂いを纏うヒトを見たことはないね」
さっきまでのおちゃらけた様子は隠れ、その視線には真剣さと問い詰めるような、そんな意思が含まれていた。同じように彼らも殺しの経験があるのだろうか。それとも、傭兵故ヒトを見る目は確かなのだろうか。
声音と視線には鋭さが表れ、ドランクはジータに問いかける。
「おい、ドランク。口が過ぎるぞ私達は確かに同行しているが、仲良しの仲間になったわけじゃ――」
「君たちみたいな無垢な騎空士達の中で彼は異質すぎる。僕らから見れば羊の群れの中に狼がいるような気分だ。それでも彼は、自然に羊の群れに溶け込んでいる。これが保たれているんだから不思議で仕方無い……」
わざとらしい声音に何らかの意図を感じるが、今後一緒に行動するというのに彼らの仲間である一人を疑うような言動。これ以上は無用な挑発だと、スツルムは動いた。
「ドランク、いい加減に――」
「話はそれだけですか。だったら今すぐその不快な口を閉じてください」
だが、スツルムの言葉を遮って発せられた静かなジータの声に、スツルムもドランクも固まった。
鋭利なナイフの様に鋭く、ジータはドランクを睨み付ける。戸惑うスツルムと、品定めするようなドランクの視線がジータに突き刺さるが、そんなことは気にならない程、ジータの視線は怒りを秘めていた。
「へ~そんな怖い顔もできるんだ。訂正するよ……君たちは羊ではなく猟犬の類だったようだね」
普段は主人に従順な犬。それが一度解き放たれれば、狩りの為に得物を追い回す猟犬。二面性というのであれば今のジータを表す、適格な表現かもしれない。
驚いた様子を隠さずドランクはジータに言葉を返す。
「口を開くなと言いませんでしたか? 今から艇の外に突き落としてあげても構いませんよ」
「いいね~その冷めた目付き。新しい世界に目覚めてしまいそうだよ。でも悪いけど、僕にもここで引けない理由があるんだ」
「引けない……理由?」
ジータの怒りが露散する。興味本位で踏み込まれた事への怒りが消え、代わりに出てくるのは疑問。ここに来たばかりの二人が彼との事で引けない理由とは何か。疑問符を浮かべたジータにドランクは真剣な表情となり答える。
「ここにはあの人が大切にしているオルキスちゃんがいる……さっきも言ったけど、僕らから見たら君たちは羊の群れと狼だ。彼の事を知らない僕たちとしてはオルキスちゃんの安全を考えると、知っておかなければいけないことだったんだよ。少なくとも危険性は感じられたからね」
「だったら、そう言ってくれれば……」
「それだと仲間内だから本当の事を話さないかもしれない。今君がそうやって見せた怒りの様に、本当を知るためには、感情の起伏をもたらさなければ見えてこないものなんでね。まぁおかげさまで君たちが彼を心から信頼しているのは見て取れたからもう十分だけど……君たち見たいな無垢な騎空士がそこまで怒りを見せる程。彼は君たちから慕われている」
「ドランク……お前、私にはそんなの一言も」
「ごめんね~スツルム殿にはこういう腹芸って無理だと思ったからさぁ~。悟られないためには言い出せなかった痛って!? 待ってスツルム殿!! 僕大切な事したんだよ!? 必要な事だったんだってばぁ~」
ふざけた雰囲気を取り戻し、控えめに己をバカにした相棒に、スツルムは問答無用で剣を突き立てた。ギャーギャー騒ぐ愚か者に先程もたらしてしまった不穏な空気の分までしっかりお仕置きをする気構えで次々と突き刺していく。
気が済むまで突き刺したところでドランクを蹴飛ばし、スツルムはジータに向き直る。
「悪かったなジータ。こいつのせいで不快な思いをさせた。只、こいつの言うように必要な事だったとは思う……許してやってほしい」
「い、いえ……私もその、すこし言い過ぎました。ごめんなさい」
面と向かって告げられた謝罪にジータも静かに返す。既に表情は、心優しいいつものジータに戻っていた。
「ふ~ん。なんかドランクもセルグみたいなのね」
ふと零れたイオの声に、三人が目を丸くする。何を言っているのかわからないといった感じの三人にイオは逆に不思議そうな顔で口を開いた。
「ほら! だっていっつもセルグ、言いたいことをちゃんと言わないで回りくどい気遣いしてたじゃない? 今のドランクのだってオルキスの事を考えてのことだもの……なんかそっくりだなって」
本心を隠し、相手に別の方向から話を切り出す。言いたいことを素直に伝えない所は確かにセルグそっくりと言える。
そのことに気付かされたジータは納得したように頷き、小さく笑みを浮かべたスツルムはドランクへ小バカにするように視線を向ける。
「フッ、よかったなドランク。お前も狼の仲間みたいだぞ」
「あっれ~なんか僕一気に危険な感じにランクアップしちゃったんですけどぉ!? スツルム殿~僕は狼になんか」
「そうよね、狼よりはコロコロ色が変わるカメレオンなんかいいんじゃない?」
「あ、イオちゃんのいう事わかるかもしれません。なんていうか、本当の色が見えてこない感じ……ドランクさんをよく捉えていると思います!」
「あっれ~、むしろ爬虫類にまでランクダウンしたんですけど!? ちょっとそれはひどいんじゃないかなぁ~」
「いや、お前には妥当な評価だ。ジータ、一先ず私達はオルキスを守らなくてはいけない。それだけは覚えていてほしい」
「わかりました。元々は私達の方でも守り切るつもりでしたからお二人がいてくれれば助かります」
否定に騒ぐドランクを尻目に、ジータとスツルムは手を握り合う。何度か彼らとの戦闘経験があるジータとしては彼らの加入は大きい。
チカラの衰えたセルグにこれまでのような戦闘力は期待できない。むしろ期待したくはない。
気持ち新たに、期待を込めてジータは二人を迎え入れるのだった。
えがったですか? (いかがでしたでしょうか?)
やっと日の目を浴びることができた作者のモニモニへの想い。
とある本で表紙を飾ったモニモニに作者は心を奪われた。
この気持ち! まさしく愛だ!!
というリビドーに駆られ書き上げました。
っていっても妄想は最初だけですぐ真面目モードでしたけど。
モニモニファンの皆様これで納得してもらえないですかね。
それでは、お楽しみいただけたら幸いです