granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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数日開けての投稿。
前回に引き続き、キリがいいところで区切っちゃったので少し短め。

少しふざけつつもちゃんとしっかり真面目をやります。
それではどうぞお楽しみください。



メインシナリオ 第34幕

「はぁ…………」

 

 悩まし気に溜息を吐くのは、淡い茶色の髪の女性。秩序の騎空団第四騎空挺団船団長補佐、リーシャである。

 肩書きのやたら長い彼女が現在いる場所は、アマルティアの拠点にある書庫。戦いも終わり、一日の時を経て、今は求めていた情報を探しにグラン共々書庫にこもりっきりだ。

 船団長補佐として仕事はないのか? と言われると心苦しいところではあるが、彼女の体のあちこちには痛々しく包帯がまかれている。

 死力を尽くし、己の限界を超えるような戦いを制した彼女はその体に多大なダメージを負っており、団員達の計らいでアマルティアの復興作業には指示を出すだけにして、こうしてグラン達と書庫をあさる作業についているのだ。

 

 

 ポンメルンがガンダルヴァを回収し撤退した後、駆け付けたグラン達をみて、リーシャ、モニカ、セルグの三人は意識を失った。

 全力の戦い。倒れて尚、リーシャの声に立ち上がったモニカとセルグは未だ夢の中にいる。リーシャとて、一日は眠りについていた。

 まだこうして起き上がって書庫を漁ることができる自分は軽い方なのだろうと思い、リーシャは再び書棚に目を向け、目標のものを探し始める。

 

「リーシャさん~見つかりましたか?」

 

「あ、ルリアさん……」

 

 書棚の影からひょこっと顔を出したルリアから明るい声がかかる。

 彼女も疲労により眠りについていたが、リーシャが目覚める頃にはすでに元気一杯のルリアが復活しており、以前にも増して彼女の明るさは底抜けになっていた。

 目覚めたルリアに向けられた仲間からの心配の声。次いで掛けられたのが

 

 ”ルリアのおかげで助かったよ”

 

 その言葉を聞いた瞬間に、ルリアは自らの想いが間違いではなかったと悟り、皆を守れたことに歓喜した。

 皆の無事に安堵して涙が滲んで来たルリアに、グラン達がまたオロオロと心配する場面もあったが、ルリアがそれ以降一段と元気になったとはカタリナ談だ。

 

「簡単には見つからないようですね。ビィさんについてもですが、セルグさんが求める記憶に関する星晶獣についても……」

 

「う~ん、皆さんもなかなか見つからないって――」

 

「そうですか……とにかく地道に探すしかないですね。ここら辺はもう探したので私はあちらの方を探してみますね」

 

「わかりました! それじゃ私は、グランとあっちを探してみます――」

 

 ルリアがグランを探しに離れていくのを見ながら、リーシャは一人別の書棚を探し始めた。

 相変わらず無関係なものばかりが並ぶ書棚の中、古ぼけた一つの本が目に付く。

 

「うん? これ……日誌? 記入者……ヴァルフリート。これ、父さんの?」

 

 それは碧の騎士、ヴァルフリートが記した日誌。父でもあり、七曜の騎士の一人でもあるヴァルフリートの日誌に、僅かな期待を抱きながら、リーシャはおもむろに日誌を開く。

 

「ってこれ、前半がかなり破られてる……後半の方は――」

 

 ”小さな赤き竜。人語を解し星のチカラを抑える特異な存在。その出自は不明ではあるが、星晶のチカラ。ひいては星に関わるチカラを抑える特赦な能力を持つ。”

 

「これ、小さな赤き竜はビィさんの事? 星に関わるチカラを抑える能力……他には何か――これって、まさか」

 

 求めていた情報が見え隠れしてきて湧きあがってきそうな興奮を抑え、リーシャは次々とページに目を通していく。だが、その表情は、喜びから俄かに不安へと変わっていく。

 

「”小さな赤き竜と蒼の少女は決して相容れない存在であり、互いの為に近づくべきではない。”これってまさか、ビィさんとルリアさんの……」

 

 求めていた情報が見つかると共に、また別の不安の種が飛び込んできて、リーシャはしばらくそこで頭を悩ますのであった……

 

 

 ――――――――――

 

 

 ベルトを締め、黒のコートを羽織り、傍らに置いてある天ノ羽斬を手に持つ。

 病室で一人目を覚ましたセルグは、周りにまだ目覚めぬモニカ以外誰もいないことを確認して、すぐに身支度を整えはじめた。

 戦いは終わった――自分がここにいる必要はもうない。グラン達に見つからないうちに早く出ていこうと、準備を終えたセルグは、ベッドに横たわるモニカの傍へと歩み寄った。

 

「悪いな……約束、また今度だ」

 

 安らかに眠るモニカの顔にかかる髪を払い、セルグは静かに呟くと、ヴェリウスを近くに呼んで島を離れようと歩き――

 

「また、約束を破るんですか?」

 

 だせなかった。病室の外へと歩き出そうとしたセルグの目の前には、無表情なままセルグを見つめるジータの姿。言葉を発せず固まるセルグをよそにジータは言葉をつづける。

 

「まだ、体調は万全ではないはずですよね。せめてちゃんと快復してからでも良いじゃないですか。――これ以上心配をかけないで下さい」

 

 いつもならここで不機嫌さでも出しそうなものだが、ジータの声も表情も変化はない。そんなジータにセルグも落ち着いて言葉を返していく。

 

「そうはいかない。オレが離れた理由は聞いているだろう? 今のオレは一緒にはいられないんだ」

 

「それを言うなら皆の言葉を聞いたはずです。今のセルグさんが暴走したところで何ができるんですか? そんな状態で組織の戦士に見つかったらどうするんですか? 今はむしろ、私たちと一緒にいるべきだと思います」

 

「ヴェリウスが居れば問題はない。危険な可能性を態々抱え込む必要はないだろう」

 

 そう言ってセルグは静かに歩き出す。だが、ジータの横を通り過ぎ部屋を出ていこうとしたところで、セルグはジータの気配が変わるのを感じ取った。

 

「ッ!?」

 

 振り返った瞬間にはジータが目の前にいた。驚きながらもセルグは距離を離そうとするが、その前にジータは潜り込むように背後に回り込み、回転を利用した肘打ちでセルグの背中を強打。まさかの攻撃にセルグが怯んだところで、足を払い、倒れ込んだセルグのマウントをとって目の前に拳を突き付ける。

 

「こんなにもあっさり私に倒されて……それでもセルグさんは自分が危険だというのですか?」

 

「随分と手荒いじゃないか……ジータがこんな強行手段に出るとは思っていなかったぞ」

 

「――こうでもしなければ貴方は逃げてしまいそうでしたから」

 

 その瞬間、セルグの表情が一変する。まるで悪いことをしていたのがばれた子供のような、何を言われるのか不安な表情へと。

 

「――まさか、聞いていたのか?」

 

 恐る恐る、セルグは問いかけると、今度は無表情だったジータの表情も変わる。

 

「聞いていた……というよりは見ていた、といった方が正しいですけど。最初から最後まで、しっかり見ていました。その……あの瞬間も」

 

「ッ!? 言っておくがオレに応える気持ちは欠片たりとも」

 

「それはわかっていますけど……やっぱりその……ヴィーラさんって大人だなって思ったり」

 

 先ほどまでの無表情で、わずかに怖い雰囲気すら醸し出していたジータが一転しておろおろと自信なさげになったのを見て、セルグも同様におろおろとなったりする。

 そんな空気もつかの間、セルグは一先ずどいてもらおうと体に力を込めた。

 

「ジータ……どいてくれないか? 君が重いなどという気はないが、今のオレには君を振りほどくことは困難を極める」

 

「それなら治るまでどこにも行かないと約束してください。そしたらどいてあげます」

 

「それは困る、君たちに襲い掛かることを考えたら、オレはここにいることはできん」

 

「それじゃあ、仕方ないですね。私は貴方にこうして跨り続けます」

 

「おい、ジータ。頼むから――」

 

「ふぅん、面白そうなことしてるわね……それで、私はどうすればいい? 一先ず、襲い掛かるかもしれないセルグを叩きのめしておく? それとも跨り続けるジータに大人として色々と大切なことを教え込むべきかな……」

 

 冷たい……冷たい声が二人の耳をくすぐった。

 倒れるセルグとその上にいたジータの背後には、愛槍アルベスを携え、鬼のような形相をしているゼタがいた。その声音とは反対に、槍からは紅蓮の炎が噴き出しており、彼女の怒りは計り知れない。

 

「ぜ、ゼタさん!? 何でここに……グラン達と書庫を探しているはずじゃっ!?」

 

「リーシャが手がかりになりそうなやつを見つけて、今グラン達と話を進めているの。それでジータも呼んで来ようと思ってね。そしたら襲い掛かるとか跨り続けるとか聞こえたから、すこ~し嫌な気配を感じて急いで来てみたらなんだか面白そうな状態になってるじゃない。是非私に説明してもらえないかなぁ~」

 

 あからさまに不機嫌な様子を見せるゼタ。彼女自身、なぜそんなに怒りを覚えるのかはわからなかったが、倒れるセルグに跨るジータと、それを迎え入れるかのように手を伸ばそうとしていたセルグの姿が妙に親しい……否、特別な関係に見えて彼女の心はかき乱された。

 

「ゼタ、ちょうどいい。お前からも言ってくれ。ジータはオレがここを離れることを許してくれないんだ。ゼタならわかっているはずだ。オレがここにいるわけにはいかないってことが」

 

「あぁ、そういうことか……わかったわ。とりあえずジータ、どいていいわよ」

 

「で、でもそしたらセルグさんが」

 

「安心して、私も逃がす気は無いから……ハイこれ」

 

 ゼタがおもむろに取り出したるは縄。目の前に出されたそれにジータは目が点になるが、そんなジータにゼタは笑って返す。

 

「ラカムが用意してたのよ。”セルグは上手い事言っていなくなろうとするに決まってらぁ。勝手に行こうとしたらふん縛ってでも押さえつけてやれ”ってね。さっ、早く縛って連れて行くわよ」

 

「ちょっ、ちょっとまてゼタ!? お前は何を言って――」

 

「なるほど……さすがラカムさんですね。わかりました、お手伝いします!」

 

 清々しい程の笑顔で告げられた言葉にジータも笑いながら答える。

 目の前でうきうきとした様子で縄を手にしている二人に、セルグは言葉を失い、未だチカラの戻らぬ体からさらに自由も奪われるのであった……

 

 

 

 ――――――――――

 

 戦禍の爪痕が残るアマルティアの街並みを、一行が歩いていた。

 

 

「それにしてもお手柄でしたね、リーシャさん。まさか碧の騎士の手記にビィの事が書かれているとは思いませんでしたけど、これで何とか目的地もわかった」

 

「え、えぇ。私も、まさか父さんがビィさんを知っているとは思いませんでしたけど」

 

 グランが嬉しそうに声を上げる。

 書庫でリーシャが見つけたヴァルフリートの手記。その内容にはビィのチカラ、またそのチカラが封印されていることが記されていた。封印されている場所は、始まりの場所、ザンクティンゼル。

 グラン達の旅が始まった場所であり、セルグと出会った場所である、彼らの物語の始まりの地。

 

「この島についてから随分と色々あったような気がするが、ようやく前進だな。ザンクティンゼルに行けば、間違いなく何かがつかめる!」

 

「まさかあの田舎の島にそんな封印があるとは思いもよらなかったが、ひとまずは先に進めそうだな」

 

 ラカムとオイゲンが意気揚々とグランサイファーへ向かい歩き出し、仲間達もつられて明るい雰囲気のまま、後に続いた。アルビオンで帝国襲撃の話を聞いてからというもの、彼らはまたも気の休まる暇のない事の連続で、肝心の目的である、ロゼッタを助けるための手がかりに手を付けられなかった。ようやくの想いで見つかった手がかりは彼らの気持ちを上向けるには十分な内容であった。

 

「な、なぁグラン」

 

「ん? どうしたんだビィ」

 

 そんな中でビィだけは、その表情を曇らせてグランの頭に掴まっている。まるで不安な心を紛らわせるように、ビィはグランに寄り添っていた。

 

「オイラの封印……きっとお前の親父さんがしたやつだと思うんだよなぁ。オイラ、本当にそれを解いちまっていいんだろうかって気になってて……」

 

「ビィ……」

 

「親父さんがオイラに態々封印をするなんて、きっとなにか大切な理由があるんじゃないかって……」

 

 七曜の騎士とも肩を並べるグランとジータの父親。ロゼッタの話では、二人の父親は本当に色々と突き抜けてすごい人物だと言っていた。そんな人物が封印まで施したビィの能力。記憶がないことも含め、ビィの胸中に不安がわいてくるのは仕方ないことだ。

 

「しかし……ロゼッタがビィ君に言伝したのは恐らくだが、この能力の事だろう。星のチカラを抑える能力……星晶の模倣である魔晶もこれであれば抑えることができると。ロゼッタが危険な手段を私達に伝えることはないと思いたいが……」

 

「ロゼッタは父さんを知っているって言ってた……父さんを知っているロゼッタが、いくらユグドラシルの為だからって、危険のある事を教えてくるとは、僕も思えない」

 

「そう……だよな。ロゼッタの事はオイラも信じてるし、助けてやりてぇ。気にしてても仕方ねえよな! よしっ、さっさと行こうぜ!!」

 

 カタリナとグランの言葉に吹っ切れたのか、ビィも明るい雰囲気を取り戻し、グランの頭を離れる。力強く羽ばたくと、前を行くラカムとオイゲンに追いつき、元気に声を上げるのだった。

 

「あ、グラン! みんなも。もう話は終わったんですか?」

 

「少し遅かったか。ごめんね、ちょっと色々とあって遅くなっちゃって」

 

 そんな彼らの元に、実に清々とした顔でジータとゼタが合流する。その後ろには……

 

「ン―――ッ!」

 

 何かを訴えるような音を漏らし、妙な動きを繰り返す、麻袋に包まれたナニカがいた。

 

「あ、あの~お二人とも、戻られたのは良いのですが、一体ソレは……」

 

 リーシャがおずおずと問いかける。少なくとも中に何かが入っているのは確かであり、ソレが声のようなものを漏らしているのだ。気にならないわけがない。

 

「ん? セルグが入ってるだけよ。あ、ラカム。縄、ありがとね。役に立ったわ~」

 

「あ、あぁ……確かに縄は渡したがまさか本当に縛って? というか、さらに袋詰めってお前さんら」

 

「だって、セルグさん……絶対に逃げ出しそうでしたし。念には念をってことで、秩序の騎空団の方にこうして袋を用意してもらって、絶対に逃げられないようにしたんです」

 

 にこやかに、だが話している内容はとても十代半ばな少女が話しているとは思えない内容に、仲間達の顔が引きつる。ただ一人除いて。

 

「なるほど……セルグさんはまたお一人でどこかへ行こうとしていたのですか……」

 

 ジータやゼタとはまた違った笑みを浮かべた彼女の狂気を感じ取り、セルグは袋の中でビクリと自由の利かない体を震わせていた。

 

 

「なんか最近、セルグへの対応がひどくなってきている気がしないでもない」

 

「奇遇だなカタリナ、俺達もそう思っていた」

 

「というかゼタはともかく、ジータはもう少し優しいと思ったんだけど……」

 

「仕方ないよ、イオ。僕も正直セルグには愛想が尽きているところがあるからね。さっさと改心してもらうにはあれくらいの方がいいかもしれない」

 

「フォッフォッフォ。どうやらセルグは尻に敷かれるタイプのようじゃのう」

 

「どうでもいいけどおめぇらの言っていることも結構ひどいからな……」

 

 彼らの優しさは時に激しく、時に厳しく、時に乱雑なようである…………

 

 ―――――――――――

 

 

「はぁ……どうしてこんな扱いになった?」

 

 一先ず袋からは救出されたものの未だ縄に雁字搦めな状態のセルグが疲れたように呻く。袋詰めでさらにはここまで引きずられてきた。復興が始まったばかりで瓦礫だらけの街並みを歩いてきたのだから、セルグが受けた衝撃はさぞや凄かったのだろう。擦り傷がちらほらうかがえる程度には雑な扱いを受けたようである。

 

「とりあえず一緒に来てもらうよ。もう今更逃げることもしないだろうけど、縄はそのままね」

 

「おい、グラン。お前まで何を言っているんだ」

 

 ”安心しろ小僧共、こやつは我が飛ばなくてはどこにも行けん。今の我にこやつの為に飛ぶ気は無い。よってこやつが逃げ出すことは不可能だ”

 

「んなっ!? ヴェリウス、お前まで」

 

 ”どうせ目的地は同じだ。ちょうどいいであろう……”

 

「えっ、セルグの目的地って……」

 

 ヴェリウスの言葉に仲間たちは驚きと疑問を浮かべる。仲間達の疑問を察して、セルグは言いづらそうにだが口を開いた。

 

「ヴェリウスの本体……奴なら知っていることがあるかもしれない。こっちのヴェリウスを通じて聞こうと思ったらあいつは結構気難しくてな……直接来いとのたまいやがった」

 

「それでザンクティンゼルに?」

 

「あぁ、そっちはなんでだ? リーシャが手がかりを見つけたらしいが」

 

「はい。私の父、ヴァルフリートの手記にビィさんについての記述が……星のチカラを抑える能力が、ビィさんにはあり、それがザンクティンゼルに封印されていると」

 

「なるほど……それで魔晶のチカラを抑えると」

 

「あぁ、可能性としてはそれで対抗はできるんじゃないかと考えている」

 

 カタリナの言葉に、セルグは思案顔となった。そんなセルグにグラン達は再び疑問を浮かべるもセルグの思考を遮るように、セルグを呼ぶ声が仲間の中から発せられる。

 

「あの、セルグさん」

 

 静かな声の主は、ルリア。

 セルグの目の前に出てきたルリアは、落ち着く様に深呼吸すると、真剣な面持ちで口を開く。

 

「あの……私は……私の手は、もう小さくありません。私はもう守られるだけじゃなくて、みんなを守れます。今回の戦いで私は、皆さんを守るために、セルグさんとの約束を破ってチカラをつかいました。でも私は、間違ったとは思わないです。そうしなければ私はきっと後悔していた。だから……私はこれから、皆さんと一緒に戦います! 皆を、そしてセルグさんも、守って見せます! だからお願いです、もう自分から一人になろうとしないで下さい」

 

「ルリア……」

 

 それは戦いが終わり、己を見つめなおした小さな少女の大きな決意。必要であれば、自分も戦う。大切な人たちを失いかけた少女の決意は、一つの大きな歩みを見せていた。

 

「もう嫌なんです。誰かが居なくなってしまうのは……私にとって、ここにいる人たちは大切な人なんです。セルグさんも一緒のはずです。だから、一緒に居てください。私と一緒に皆を守ってください」

 

 そしてそれは、一人になろうとする、彼を必死につなぎ留めようとする言葉であった。

 ルリアの真摯な思いを聞いたセルグは、ルリアのその決意を秘めた瞳を見つめ返す。

 真っ直ぐに、セルグを見つめる蒼い瞳と、それを見定める蒼い瞳が交錯する。誰もが言葉を発せぬ空気が続き、カタリナがルリアのためにも言葉を重ねようとしたところで、セルグが口を開いた。

 

「ヴェリウス」

 

 一言呼ばれたヴェリウスは、セルグの思惑を読み取り動くと、セルグを縛る縄を解く。正確には鋭いその嘴を上手く使い噛み切り解したといった感じだが、それによりうろたえる仲間をよそに、自由になったセルグは、ルリアの視線に合わせるようにしゃがみ込むと、小さな頭に手を置いた。

 

「君も……大きく成長したんだな。ありがとうルリア。目覚めたばかりでグラン達の戦いを知らなかったが、君がそうして決意しなければ、今こうして皆が揃っていることはなかっただろう。そうなってたら、きっとオレは耐えられなかったと思う。君の決意を、君の想いを、今度は尊重しよう。君はもうチカラの使いどころを間違えないはずだ。君はもう戦いの怖さを知っている……それならもう、決意した君にオレがとやかく言うことはないよ。――よくやったな、ルリア」

 

 またも、向けられた賛辞の言葉にルリアが歓喜の涙を滲ませるとセルグはそっとそれを拭って立ち上がる。静かに立ち上がり、仲間達へと視線を向けると、セルグも決意を携え口を開いた。

 

「ルリアが決意した。だというのにオレがうだうだするわけにはいかないな……信じよう。お前達なら止めてくれると。ルリアなら、オレを返り討ちにできると。あぁ、ついでにオルキスもだな。もう迷いはない。共に……行かせてくれ」

 

「セルグ……私とルリアなら、負けない」

 

「あぁ、そうだな。頼りにしている」

 

「任せて……」

 

 オルキスもルリアの決意と同じようにセルグに強い意志を秘めた瞳を見せる。

 

「フフ、やっと素直になったわね」

 

「なんだか納得いかないです。私の時はあんなに頑なだった癖に……まさかルリアに!?」

 

 微笑ましく見守っていたゼタと、なんだか不機嫌なジータ。まさかの方向に転がったジータの思考にゼタが静かに呆れた声でたしなめる。

 

「ジータ……そろそろセルグも怒ると思うわよ」

 

「い、いえ、まさか。冗談に決まってるじゃないですか」

 

 ジータの返事を聞きながらも、セルグの様子をみて、”まさかね……”などと小さな疑いを持っていたのは内緒だ。

 再び一丸となれたグラン達はまた、意気を上げて、グランサイファーへと向かうのであった。

 

 

 




如何でしたでしょうか。

次回でアマルティア編は終了な流れですね。
次回も予定している内容だと短めになりそうですがご容赦を。
大体一話どのくらいの文字数がいいんでしょうね。(今更な気もしますが)
作者個人的には一万文字以内ってとこが長くも短くもないラインとしているのですが、如何でしょう?

そういえば、どっかのブログやまとめサイトで本作が紹介されてるのを見つけました。
テンション振り切れて発狂する勢いで作者は狂喜乱舞しました。
家族に見られて頭おかしいと思われました。

そんなこんなでまたやる気があふれてきてます。仕事忙しくて月曜から書けるかわかりませんがそんなに間は空けませんので次回にご期待ください。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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