granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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アマルティア編完結、、、では無いですね
でも戦いは完結致します。

どうぞお楽しみ下さい


メインシナリオ 第33幕

 徐々に日が落ちてきているアマルティアで最後の戦いが始まる。

 睨み合う四人。三対一の状況でありながら、ガンダルヴァには余裕の雰囲気があり、対するリーシャ達には張りつめた空気のみが漂う。

 

 風の刃が閃いた……軽く簡単な魔法であるとは言えその発動までの速度は尋常ではなく、リーシャが放つ魔法が口火を切る。

 

「フンッ」

 

 牽制である事は分かり切っている狙いの甘い攻撃に、ガンダルヴァはあっさりと躱すが、即座にセルグが接近。

 

「おぉお!!」

 

「おせぇ!!」

 

 振るわれたのはセルグの全力の一閃”光破”。それを簡単に切り払うと、ガンダルヴァは反撃に横薙ぎの一閃。セルグは受け止めることはせずにその場を後退し、攻撃直後の隙を狙いモニカが懐に入る。

 至近距離、顔がふれそうな程近くにまで入り込んだモニカにガンダルヴァが面食らった瞬間。

 

「雷槍光陣」

 

 地面に刀を突き立てて行うモニカの攻撃。前準備なしのそれはほとんど威力を持たないが、それでも地面から迸る雷撃は次なる隙を作り出すには十分であった。

 

「はぁああ!!」

 

 すぐに離れたモニカと入れ替わりにリーシャが攻めに転じる。セルグとモニカは散開し別の方から隙を伺うように回り込んでいく。

 

「(こいつ……)」

 

 俄かにガンダルヴァの表情が変わった。

 攻め込んできたリーシャに対し反撃を見舞うもそれを悉く躱され、逆に隙を突かれていく。

 

「ウインド!!」

 

 声とは裏腹に冷静な思考のまま、接近状態から放つ風の魔法でガンダルヴァを大きく後退させると、リーシャは間髪入れずに風の刃で追撃。体勢を整えようと動いたガンダルヴァの機先を制す。リーシャの追撃でガンダルヴァがわずかに体勢を崩した。

 

「ここだ!」

 

「落ちろ!」

 

 動きの鈍った瞬間をセルグとモニカが見逃すはずもない。挟むように振るわれた二人の刀にガンダルヴァは舌打ちしながらもモニカの腕を蹴り上げ、セルグの剣閃を防ぐ。

 

「隙だらけです!!」

 

 だが、それでは終わらない。ガンダルヴァの目の前に詰めてきているリーシャが剣を突き出す。

 眼前に突き出された剣を、ガンダルヴァは首を傾けて躱すが、それすらリーシャには織り込み済み。

 

「春華春雷!」

 

「多刃!」

 

 ギリギリの回避に意識を持ってかれたガンダルヴァに二人の攻撃が叩き込まれた。光のチカラを付与した瞬速連斬の技にガンダルヴァは防御しながらも大きく後退させられる。

 

「ぐっ――調子に乗るんじゃねえ!!」

 

 押されていた状況からガンダルヴァが一転。”フルスロットル”で身体能力を強化し不意を衝いて動き出す。剣撃からの体術でセルグとモニカを打ち倒し、そのままリーシャへと向かった。

 

「一撃で終わらせてやる、リーシャ!!」

 

 手加減もなにもなく、ガンダルヴァは全力で剣を振るった。リーシャの中に碧の騎士ヴァルフリートを感じたときから、ガンダルヴァにリーシャへの油断はない。

 仮にリーシャが何も変わらず全快時のセルグやモニカと比べ、大きく戦闘力で劣るとしても、全力で剣を振るう事をためらわない。

 それほどまでに今のリーシャの気配は、ヴァルフリートの気配を感じさせていた。

 情け容赦なく振り下ろされた剣閃はセルグやモニカ同様、リーシャにとっては驚異的な速さである。しかし……

 

「んだとっ!?」

 

 リーシャの剣はそれをはっきりと捕えていた。

 

「はぁ!!」

 

 驚愕に染まるガンダルヴァを尻目に、すぐさま受け流して反撃。回避して後退したガンダルヴァへと更に踏み込み、リーシャは追撃を行う。

 

「(マグレか……いや、そんなわけがねえ。こいつは間違いなく、俺様の剣が見えてやがる!)」

 

 胸中でリーシャの動きに動揺しながらもガンダルヴァは冷静に思考を回した。

 絶えず続けられる攻防はリーシャにとっては全力であるが、ガンダルヴァの脅威にはなっていない。実力の違いは確かである。だというのにリーシャはガンダルヴァの攻撃を難なく防いだ。

 落ち着いて己の剣が止められたからくりを突き止めようとするガンダルヴァだが、そんな悠長なことを彼らが許すわけもない。

 

「紫電……一閃!」

 

「チィッ!!」

 

 モニカの剣閃がガンダルヴァを襲う。刀を纏う紫電が薄い光の軌跡を残し、攻め入るリーシャの反対から迫るがガンダルヴァはそれを跳躍で回避。中空へ逃れたガンダルヴァを、しかしセルグとリーシャが追撃。同様に跳躍した二人とガンダルヴァが交錯するが、ガンダルヴァとてやられてばかりではない。

 

「だから……」

 

 ゾクッとするほどの気配。ガンダルヴァの目が光ったと錯覚するほどの殺気にリーシャとセルグは危険を感じ取った。

 

「調子に乗ってんじゃ……」

 

 だが感じ取ったのもつかの間、回避を許さないよう、剣を手放し両手を自由にしたガンダルヴァは間合いに入っていた二人の手をつかみ、地面に向けて全力で叩きつける。

 

「ねぇってんだよ!!」

 

「がっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 呻きと悲鳴に彩られた二人の声が響く中、今度はガンダルヴァが攻め入る。地面に刺さった剣を拾うより先にすぐさま立ち上がったセルグとリーシャに突進した。

 

「おらぁああ!!」

 

 拳撃によるラッシュ。息もつかせぬほどのそれは拳の弾幕だ。嵐のような攻撃に既に足元のおぼつかないセルグは躱すことができず吹っ飛び地面に転がされた。吹き飛んで転がったセルグに止めを刺さんとガンダルヴァが走るも

 

「行かせません!!」

 

 ガンダルヴァのラッシュを躱し切り、リーシャが立ちはだかる。先程の弾幕のような拳撃すら躱したリーシャに驚きはするもののガンダルヴァは全力で突撃。

 対するリーシャは距離を詰められる前に、周囲に風の刃を構築すると、自らも飛び込む形で放つ。

 放たれる風の刃とリーシャの動きを見て、ガンダルヴァは剣がない事は不利だと悟ったか、仕方なく大きく飛び退くことで一度後退。愛剣を拾い上げ一度戦う手を止めた。

 

 戦いは再び睨み合いへと戻る。

 

「大丈夫か、セルグ」

 

「あぁ、悪いモニカ。やはりとても調子が良いとは言えないな……」

 

 先程のガンダルヴァの攻撃を成すすべなく受けていたセルグはもうまともに攻撃を躱そうとしてもできないだろう。怪我が治ったわけではない。今のセルグは只気力だけで動いているに過ぎない。そしてそれはモニカも同様。

 動けはするがもう攻撃力はまともに期待できない。そんな状況である。

 だが、それでもリーシャには二人のチカラが必要であった。

 打つ手はある。リーシャにも奥の手と言える程強力な攻撃があった。だがそれに反して隙が大きく、当てるのは至難なその技は、狙うのであれば致命的な隙を作り出す必要がある。

 

「私が接近戦に入ります。セルグさん、モニカさんは隙あらば全力を叩き込んでください」

 

 リーシャが前に出ながら、作戦を提示する。聞いた二人は悩むこともなく、頷いた。

 既にリーシャの強さに疑う余地はない。先程の攻防でもいかにリーシャが優秀であるかは分かったのだ。ガンダルヴァと渡り合えるリーシャに対し、囮か、隙を狙うくらいしかできない自分達よりも主体はリーシャの方がいいと二人もすぐに理解する。

 

「無理だとは思わない。だが、無茶は」

 

「大丈夫です――私は負けませんから」

 

 僅かに心配な様子を見せるセルグの言葉にリーシャは答える。嘗ての牢屋でかたくなに戦おうとした時とは違う、今のリーシャに弱さは微塵も感じられなかった。

 むしろ彼女が見せるのは自信のある顔。これまで見てきた中で最も強さにあふれた顔だ。

 自信満々の顔で前に歩み出てきたリーシャを見て、ガンダルヴァはとうとう、警戒心をあらわにする。

 不可思議なほどに攻撃をかわし続けていたリーシャは、からくりは分からなくとも、すでに強者の一角だ。

 油断も隙もなく、ガンダルヴァはリーシャを見据えていた。

 対するリーシャもまた、ガンダルヴァを鋭く睨み付ける。

 

「(集中しろ。見るんじゃない……見通せ。次の動きを。奴の思考を)」

 

 リーシャの脳を思考が駆け巡る。彼女は今グランやジータと同じ極限の集中力を発揮していると言っていいだろう。

 だが、二人と違いそれは自らの動きを高めるためではない。

 

 先読み……相手の動きからその先を読むそれは戦いにおいて非常に重要な要素だ。

 セルグやモニカは感覚的にそれを読むタイプである。脳で処理するのではなく、視界に入った情報から、感覚的に次の動きを察知するそれは、勘や気配と言ったものを感じ取る能力。

 だが、リーシャの先読みは違う。リーシャのそれは、一挙手一投足という言葉ですら生ぬるい極限の分析。ガンダルヴァの視線、呼吸、足の配置や腕の位置、関節の曲がり具合など、すべての部分から情報を抜出し次なる行動を読むそれは、指揮官として戦場を読む彼女だからこそできる事だ。

 身体だけでなく、思考まで読み取ろうとするリーシャの先読みは恐ろしい精度を以て、ガンダルヴァの先を見通す。

 ガンダルヴァが出した答えは間違ってはいない。リーシャには、ガンダルヴァの剣が視えていたのだ。

 

「随分とやるようになったじゃねえか。お前まで俺様と渡り合えるとは思ってなかったぜ、リーシャ」

 

「セルグさんとモニカさんがいなくても私は貴方に勝つつもりでした。この程度で驚かれては困ります」

 

 こんな状況にもかかわらず、静かにセルグとモニカが目を見合わせる。

 冷ややかに――強がりであろうとも、地味にセルグとモニカをいらない子認定するリーシャに、二人の中で後のリーシャへのお仕置きが決定した瞬間だ。

 そんなセルグとモニカの思考など露知らず、リーシャは静かに構える。

 リーシャの戦いの性質上、防ぎ、捌き、反撃で仕留めるのが最も戦いやすい。ガンダルヴァが動き出すのを待ち構えるように、リーシャは動きを待った。。

 

「――そろそろ手加減は終わりだ。最後まで足掻き切って見せてくれ、全空が誇る最強の騎空士の娘よ」

 

 言葉と共に膨れ上がる気配にリーシャはガンダルヴァが勝負をかけてくるのだと悟る。

 

「お二人とも、ここで決めます。どうか……私にチカラを貸してください」

 

 動き出す気配を見逃さないように、視線はガンダルヴァに固定したまま、リーシャは静かに呟く。

 セルグもモニカもバカな思考を消して、最後の気配を察すると、それに相応しい選択をした。

 

「これで最後、出し惜しみは無しだ。――光来」

 

「終わりにしてやるぞガンダルヴァ。――旋風雷閃」

 

 最後の一撃。残り少ないチカラを高め、セルグとモニカは刀を鞘に納めて構える。どちらも、それが抜き放たれたときが最後の一撃となるだろう。

 二人の張りつめた気配を感じてガンダルヴァは嗤う。

 

「たのしかったぜセルグ、モニカ。お前達の存在は俺様にとって更なる高みへの踏み台となった」

 

「こっちはそんな余裕なかったぜ。次があったら本調子でもどうなるかわからん」

 

「お前との戦い程疲れるものはないな。前回の勝負でお前に一泡吹かせられたからまだ良いが、負けっぱなしというのはやはり癪にさわる」

 

 ガンダルヴァが名残惜しそうに告げると、セルグとモニカは呆れたような、疲れたような声で返す。

 そんな二人から視線を外し、リーシャを見ると今度は嬉しそうに口を開いた

 

「そしてリーシャ。お前も今日から化け物の仲間入りだ。俺様と互角に渡り合える奴なんてほとんどいねえ……やはりお前は、全空が誇る化け物の娘だ」

 

「――それは違いますガンダルヴァ。私は貴方達のように強くは成れません。いくら足掻こうとも、貴方達と同じ高みには至れない。だからこそ私は……私だけは、貴方の正義には負けられない。私が負けてしまえば、皆が信じる正義が偽物になってしまうから」

 

 セルグ、モニカ、ガンダルヴァ。皆、最強の名を取り合ってもおかしくない、根本から違う強者。こと強さという点では、リーシャは彼らに遠く及ばない。

 彼女が目指したヴァルフリートも、そういった戦士の一人であり、リーシャには決してたどり着けない境地にいる存在だ。

 だが、だからこそ、リーシャはここでガンダルヴァに負けるわけにはいかなかった。

 彼女が知る正義は力ではなく想い。何かを守りたいと、誰かを守りたいという想いが彼女も、そして仲間も支える正義だから。

 

「正義なんて人それぞれだ。手前が全部背負うもんでもねえ。だからみせてくれよ、お前が信じる、お前だけの正義の強さってやつを……力を否定した、本当の強さってやつをよぉ!!」

 

 言葉と共に巻き上がるチカラ。これまで体術と剣術でしか戦わなかったガンダルヴァが今初めて見せる属性のチカラ。

 彼の飽くなき闘志に相応しいそれは炎のチカラだった。愛剣のチカラを解放しガンダルヴァは、今全てを出し切って戦いに臨む。

 

「いくぜ!」

 

 フルスロットルで強化された強靭な肉体が躍動する。一足で接近したガンダルヴァが振るう剣をリーシャはギリギリで躱す。

 動きの先読みはできても威力までは読めない。ギリギリで躱したのはそれが防御をしたら叩き潰されるであろうと察したからだ。

 振り下ろされた剣に地面が爆砕されるのを見た瞬間に、リーシャはその感覚が間違いではなかったと気づく。と同時に、リーシャはガンダルヴァの背後に回り一閃。

 

「ソニックアウト!!」

 

 風のチカラを込めた一撃がガンダルヴァを捉えた。

 

「躱した上に良い攻撃をしてくるじゃねえか!」

 

 瞬時に反転しリーシャに向き直るとガンダルヴァは剣を振るう。それはセルグと同様、炎の斬撃となって投射され、リーシャに放たれた。

 

「ウインドシャール!!」

 

 躱しながら避けきれないものをウインドシャールで防ぎ、今度はリーシャが接近。斬撃の投射後間髪入れずに動いていたガンダルヴァを迎え撃つ。

 

「はぁあああ!!」

 

 全身全霊。すでにガンダルヴァの攻撃を迎え撃つにはそれだけの力が必要であった。打ち合っては不利とはわかっているリーシャは数合の攻防からすぐに先読み、ギリギリの回避をして、隙を作り出し剣を振るう。

 

「チッ!!」

 

 僅かに触れた剣閃がガンダルヴァの左手を浅く切り付ける。出血は多少あるが、この程度では全力の戦いを繰り広げるガンダルヴァの動きは阻害されないだろう。お返しとばかりに振りぬかれるのは虚を突く様に振るわれた蹴撃。

 先読みの弱点たる感情に任せた攻撃にリーシャが吹き飛ばされる。

 切り付けられたことへのとっさの反撃といったところだ。態勢からは理に適った動きではなくとも、それはリーシャの読みを覆す厄介な攻撃。

 

「もらったぁ!」

 

 瞬時に駆けだしたガンダルヴァは攻勢にでる。リーシャは立ち上がったばかり。迎撃の体制を整える前に攻め入ろうとするところは、油断も隙も見逃さないガンダルヴァらしい。

 対するリーシャはギリギリの劣勢の中それでも思考を落ち着いて回す。一撃一撃が強大な威力を誇るガンダルヴァの攻撃。防御の選択肢は潰され、さらには属性の相性としても、猛る炎にリーシャの風は不利であった。

 ならば……

 

「何ぃ!?」

 

 打たせなければいい……。

 リーシャの剣が、振りぬこうとしたガンダルヴァの剣の初動を抑える。

 動きとタイミングを完璧に読み切ったそれはタイミングを間違えば致命的な隙を晒し、動きを読み間違えばあっさりその身を切り捨てられていただろう無謀に過ぎる賭け。

 だがそれでも、リーシャはその賭けに打ち勝ち、攻撃に入ろうとしたガンダルヴァの動きを抑え込んだ。

 そしてそれは、大きな隙となる……

 

「絶刀招来――」

 

「春花――」

 

 リーシャが抑え込んだガンダルヴァの攻撃を跳ね除け、体勢を崩す。もはや言葉はいらない。隙を晒したガンダルヴァにセルグとモニカは高めていた力を解き放った。

 

「天ノ羽斬!!」

 

「春雷!!」

 

 極光の斬撃、次いで高めに高めた、雷刃の瞬速連斬がガンダルヴァに叩き込まれる。

 瞬時にガンダルヴァは迎撃を選択。

 

「ぬああああ!!!」

 

 激烈なまでの攻撃力。属性を加えたそれは、ガンダルヴァの奥義”ブルブレイズバッター”。その猛るチカラを相手が崩れるまで叩き込むような全力の連続攻撃である。

 その勢いだけで、ガンダルヴァは迫りくる二人の一撃を相殺してみせた。それだけにとどまらず技を放った二人をも巻き込み沈黙の途に就かせる。止めの一撃であろう二人の攻撃を迎撃しガンダルヴァは勝利を確信する。あとはリーシャを倒せばこの戦いは終わる。

 

「終わりだリーシャ! 手前の攻撃力では俺様は……」

 

 勝ち誇ったガンダルヴァがリーシャを見据えたとき、ガンダルヴァの表情は驚愕に染まる。

 落ち始めた夕日を背後に、リーシャに集うは渦巻く烈風。凝縮した風のチカラがその剣に集い、解放を今か今かと待ちわびて音を鳴らしていた。

 

「これが私の……覚悟の形だ!!」

 

 リーシャが飛び出す。跳躍に近い勢いで前方に飛び出すとリーシャはその全てを剣に乗せて突き出した。

 

「トワイライトソード!!」

 

 全力を放った直後のガンダルヴァにそれを迎撃する術はない。だがそんなことでガンダルヴァが引く事もない。

 

「打ち砕いてやらぁ!!!」

 

 咆哮と共に剣を構えると、渦巻く風のチカラに剣を叩きつける。再度炎のチカラを解放し、猛る炎熱がリーシャの全てを乗せた攻撃を押し返そうとした。

 

「くっ……負けない! 私の覚悟はこんなもんじゃない!!」

 

 押されかけた己を叱咤し、リーシャが叫ぶ。それは自分への言魂……もてるチカラの全てを振り絞るための彼女自身に向けた魂の叫び。

 覚悟の声に押されるように、リーシャの風が勢いを増すと、ガンダルヴァが徐々に押されていく。

 

「バカな!? ぐっ、……こんなことが。こんな……ち、ちくしょうおおおお!!」

 

 全てを込めたリーシャの一撃にガンダルヴァが飲み込まれていく。

 静かになったアマルティアの大地に、ガンダルヴァが横たわっているのを見て、リーシャは静かに笑う。

 

 秩序の騎空団に今、勝利の女神が微笑んだ。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「よくぞやったリーシャ!!」

 

 バシバシとリーシャを叩き、モニカが労う声が辺りに響く。ついでにリーシャの身体にも……

 少しの後に目を覚ましたモニカは戦闘の結末を見て綻んだ。

 意識を失う直前まで、かわいい後輩の心配は尽きなかったが、最悪どころか最良の結末を手に入れた後輩に飛び上がらんばかりに喜んでいた。

 

「ホント、よくぞまぁ……打ち勝ってくれたな!」

 

 セルグもリーシャの頭をバシバシ叩き始める。既にお仕置きは実行されているようだ。

 モニカとセルグは一瞬だけ目を合わせると、全力を出し切りボロボロなリーシャにやんわりと苦痛を与えていく。

 

「ちょっ、いたっ、お二人とも!! 痛いですって!」

 

「本当によくやったリーシャ。正に今回はお主の大金星だ!」

 

「初めて会った時が随分と遠い昔のようだ。こうまで強くなるとは、思ってもみなかったぞ」

 

 身体に響く、お仕置きが終わり、モニカとセルグから素直な賞賛を向けられ、リーシャは頬を赤く染めた。

 

「いえ、そんな……結局お二人が居なければ、どうしようもなかったですし、私一人の力では」

 

「またそんなことを言って、それを言われたら足で纏いに近かった私とセルグはどうなるんだ」

 

「誇れよ、もっと。お前は確かに逆境を跳ね除け自分の力で奴に打ち勝ったんだ」

 

 謙遜を重ねるリーシャに、二人は優しく告げる。本当によくやった。卑屈なリーシャが真に自分の功績を認められるように。

 その想いを察して静かにリーシャが笑おうとした時

 

 

「ううむ……まさかこうなっているとは、ですネェ」

 

 

 瞬間、声の聞こえた方向に、セルグが目を向ける。

 

「ポンメルン!!」

 

「お久しぶりですネェ。ついでに貴方達の健闘を称えましょう。よくもまぁ、この程度の戦力で中将閣下を打ち破り、兵士たちを打倒してくれましたネェ」

 

 静かに、ポンメルンが魔晶の気配を放つ。グラン達との戦いでそれなりに消耗はしているが、実質彼の状態は無傷に近い。ルリアの覚醒により部隊のほとんどをやられたため撤退を決めたが、彼自身はまだ戦えるのだ。

 必然、セルグ達には緊張が走る。消耗なんてものではない、すでに彼らは全てを出し切りもはや戦う事も困難だ。今の彼らに抗うすべはない。

 

「そう身構えなくても結構です。第四庁舎は奪還され、中将閣下は敗北。今回は帝国の完敗ですネェ。私は中将閣下をお連れして撤退させていただきます」

 

「何っ!? そんな事させるわけ」

 

「落ち着けセルグ! 今の我らで奴を相手にすることなど」

 

「その通りですネェ。かと言ってこちらももう戦力はなく、この島を放っておくしかない。痛み分けということでここは終わりとさせて頂きますネェ」

 

 動こうとしたセルグをモニカが抑え、ポンメルンは悠々とガンダルヴァを回収していく。その場にまだ健在であった兵士達数人がガンダルヴァを運ぶ姿をみて、セルグは歯噛みしながらもそれを見る事しかできなかった。

 

「それでは、私も撤退させていただきます。あぁそうだ、一つ忠告を差し上げましょう」

 

「何?」

 

 セルグに向き直ったポンメルンの忠告と言う言葉に、セルグは眉をひそめた。意図が読めず戸惑うセルグをよそにポンメルンは告げる。

 

「ルリアのチカラ……あれはとんでもないものです。努々、注意されますようお伝えしておきます、ですネェ」

 

 そういって、ポンメルンは兵士を伴い彼らの前から姿を消していく。

 残されたセルグ達は、勝利の余韻も吹き飛ばされて、ポンメルンが残した不穏な言葉に、わずかな不安を胸の内に抱えることになった……

 

 

 




如何でしたでしょうか。

イメージは本作フェイトエピのように緊迫した戦いからの王道な流れを描いたつもりです。
リーシャの扱い優遇しすぎじゃねって?
原作じゃここしか活躍どころないしアニメもハブられたっぽいんでサイゲへの一種のアンチテーゼです。ご理解ではなくご容赦頂きたいです(土下座
一応作者としてはどのキャラにもしっかり見せ場を作っていくつもりで書いてありますので決してリーシャのみってわけではないことをお伝えしておきます。

アマルテイア激闘編いかがでしたでしょうか。
作者としてはかなり前から構想を練っていたので読者様が心動かされる話になってれば嬉しく思います。

それでは。お楽しみ頂けたら幸いです。

感想、お待ちしております

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