granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
これって一話だけ非公開とかできないんでしょうか?
大筋は変わらないので超展開にご注意くださいとだけは警告しておきます。
それではどうぞお楽しみ下さい。
大きな爆発音が上がり、ガンダルヴァが顔を上げる。
「中将閣下!!」
部下の一人の声にガンダルヴァが向けた視線の先は第四庁舎。近くで煙を上げており戦闘が始まったのだと伺える。
慌てた様子で走りくる兵士を見据え、ガンダルヴァは報告だろうと待った。
「中将閣下!! 第四庁舎が秩序の騎空団の強襲を受けております!! 敵の指揮官は、秩序の騎空団の船団長”モニカ”!!」
驚愕に目を見開く。船団長補佐であるリーシャが指揮を執り突っ込んできた時点でモニカの怪我は簡単に完治するようなものではないと、戦力に含めていなかった。
そんなモニカの復活の報にガンダルヴァは大きく動揺する。
「なんだと!?」
「中将閣下!!」
「隙だらけです!!」
動揺したガンダルヴァの背後から、リーシャが斬りかかる。
すんでのところで防御したがガンダルヴァの顔に一筋の赤い線が走った。怒りの表情を浮かべてガンダルヴァはリーシャを睨みつける。
「ありがとうございました、ガンダルヴァ」
挑発するように、リーシャは笑った。
「んだと……」
「さすがにここまでリーシャの思惑通りにいくとは思わなかったぞ。オレ達だけを相手にここまで戦力を持ってきてくれるとはな」
並び立つセルグも小さく笑う。
「最初に全員で姿を現したのはブラフ。途中で本隊は迂回して皆第四庁舎に向かっていたんですよ」
わざと帝国兵士の目の前に姿を現し、全戦力を見せつける。報告を出した兵士は全戦力で攻めて来たと報告を出すだろう。
だが最初の一当てのあとはセルグが全力で前線を押し上げる間にひそかにグラン達は離脱。潜んでいたモニカと第四庁舎に向かっていた。
「最初だけでもオレ達が全員で攻め込んできたと思わせればお前は戦力を伴って出てくる。戦力を分断したならあとはオレとリーシャが何とかここにお前をつなぎ留め、本体が第四庁舎を落とすまでの時間を稼げばいいわけだ」
驚異的な戦力を保有するガンダルヴァが居なければ、十二分に拠点の攻略は可能だ。セルグとリーシャの役目はできるだけ長く、そして本気で攻め続け、その攻撃が全力を込めたものだと示すことだった。
「貴方は一人で戦況を覆せるといいましたね。確かにその通りです。貴方が本気になれば、ある程度の優勢はひっくり返せる」
「残念ながら、お前の言う通り今のオレにそのチカラは無い。であるなら、オレ達が作るべき状況は一つだ」
「貴方を足止めし、その間に圧倒的優勢を作り出す。それが私たちの作戦です」
第四庁舎を奪還し、そこを主軸にすれば戦力の差は埋められ、グラン達とモニカが揃えば仮にここでセルグ達がやられてもガンダルヴァを倒すことはできる。セルグとリーシャを捨て石として、第四庁舎を奪還するのが、リーシャが提案した作戦だった。
グランや治療を終えて戻ってきたジータからの反発はそれは強いものだった。
既にまともに戦えないとわかっているセルグにガンダルヴァを当てる。ガロンゾで負けてリベンジに燃えるガンダルヴァを考えるとどれだけ危険なのかは火を見るより明らかである。
それでもリーシャは、セルグの言葉を信じた。倒すことはできなくても戦い続けることはできる。その言葉は間違いではないだろうと。
更に起き上がったモニカの同意もあり、リーシャの作戦は決行され、今こうして実を結んでいる。
わなわなと肩を震わせるガンダルヴァを見ながら、セルグとリーシャは再び戦闘態勢をとった。仮に今からガンダルヴァが戻っても、その頃には第四庁舎は彼らの手の内だろう。
だが、セルグにそれを許す気はない。
「さて……続きだガンダルヴァ。第四庁舎が落ちるまで。もう少しオレと踊ってもらうぞ」
勝ち誇るように笑うセルグに、天ノ羽斬の切っ先を向けられたとき……
ガンダルヴァは歪に口を歪めて嗤った。
「そうか、そうか……モニカも出てくるとは思わなかったぜ……重症にまで追い込んだはずだったからな」
やけに落ち着いた声に、セルグとリーシャは眉を潜めた。肩を震わせていたガンダルヴァは愉悦に表情を歪めている。
それは、彼らの思惑が。彼らの作戦が、ガンダルヴァにとって取るに足らない、予定調和だということ。
「フッフッフ……ハァッハッハッハ!!」
ついに声を上げたガンダルヴァは顔に手を当てその表情を隠すように笑い続ける。
「本当におもしれえ奴らだ。確かに見事な采配だ。モニカの存在を忘れ、お前の存在に引っ張り出された俺様は、てめえらの作戦にまんまと引っかかったわけだ」
「そこまで理解していて随分と余裕だな。負けが見えて諦めたか」
「ちげぇよ。それでも尚、てめえらに勝ちは無いから笑ってんだよ。クックック……」
ガンダルヴァの発言にセルグとリーシャの顔に緊張が走った。
今更強がるとも思えない二人は、すぐに身構え、ガンダルヴァを見据える。
「残念だがなぁ、いるんだよこっちにも。俺様なんかより、よっぽど覚悟を以て、チカラを手に入れた優秀な軍人ってのがな。モニカが居たところで、第四庁舎が簡単に抜かれることはない。更にいうなら、今ここにいるお前たちはもはや絶望的って状況を忘れてねえか」
「ほぅ、急いで戻らなくていいと? 素直に負けを認めないところはお前らしいが、下手な強がりは」
「てめぇは知ってるだろ、セルグ。ポンメルンの奴だ。今のアイツは強ぇ。俺様ほどじゃなくても、特別製の魔晶を使ったアイツはモニカとなら渡り合えるだろう。モニカがもし、本調子じゃねえなら、下手すりゃ潰しちまうぜ」
「なん……だと」
セルグの脳裏に思い浮かぶのは前回の邂逅。部下の為に覚悟を決めたポンメルンの姿。それがさらに強くなってグラン達の前に立ちはだかっているというのなら、ガンダルヴァの余裕は納得がいく。
それは同時に彼らの前提が崩壊することと同義である。
「残念だったな、ポンメルンが居なきゃお前たちの勝ちもあったかもしれん。だが、アイツが居る限り、第四庁舎は落ちねえよ」
「そんな……モニカさん」
セルグとリーシャは僅かに絶望を浮かべる。状況は完全にひっくり返った。作戦は成功していた。思惑通りにガンダルヴァも帝国の戦力も分断でき、帝国の戦力の半分はこちらに呼び寄せたのだ。そう正しく
ガンダルヴァと大差ない強さを持つポンメルンが第四庁舎に待ち構えている。グラン達は第四庁舎をすぐに落とすのは難しくなり、そしてセルグとリーシャ達は……
「ッ!?」
セルグが攻撃の気配を察して呆然としていたリーシャを抱え後退。
次の瞬間にはアドヴェルサの砲撃が着弾する。
「呆けるな、リーシャ!! どんな状況であろうと、お前が諦めたら、オレもここにいる仲間たちも終わりだ! いったはずだ、戦況を見据えろ。全てを使いこなせ。まだお前にはできることがあるはずだ!!」
「ッ!? ハイッ!!
セルグの叱咤に直ぐに応え、リーシャはまた剣を握りしめた。
「うるせぇな、今のお前たちに何ができるってんだ?」
諦めの悪い言葉を吐くセルグにガンダルヴァは苛立ちを募らせ睨みつける。
「オレに対抗できる力はないが、まだ手はあるんだよ! ヴェリウス!!」
セルグの呼びかけに応えヴェリウスは地上に降り立つ。その姿はいつもの小さい姿ではない。ザンクティンゼルにいる本体から多くのチカラを受け取っている今のヴェリウスのサイズは、グラン達と初めて出会った時のように大きな姿をとっている。
”ふんっ、呼び出すのが遅いぞ若造!”
「頼む、こいつらを守ってくれ……お前が居れば少しはまともになるはずだ」
”そう来たか……我を取り込むよりはよほどマシだな。任せろ。お主の願い、今再び適えてくれよう”
融合するかと思っていたヴェリウスはセルグの言葉に一安心といった様子をみせ、飛翔した。
星晶獣ヴェリウス。記録を司る星晶獣ではあるが、星晶獣として当たり前の能力は持っている。それ即ち、その巨躯を以て兵士を薙ぎ払うぐらいはできるのだ。
セルグと融合はしなくてもヴェリウスとて戦いという点では、星晶獣というヒトからすれば規格外の枠組みに入る。飛翔し、爪と嘴を持ち、さらにはエネルギー体となる羽を打ち放つことができるその戦闘力は十分であろう。
「なるほど、てめえにはそんな相棒がいたのか」
「さっきも言ったな。もう少しオレと踊ってもらおうか」
ヴェリウスが援護に回り、リーシャと、少ない団員達は帝国軍と戦闘を再開する。
ガンダルヴァと対峙するセルグは、刺し違えても仕留める覚悟を決め、今再びガンダルヴァとぶつかり合った。
――――――――――
グラン達と第四庁舎に待ち構える帝国軍との戦い。
そこには二つの誤算があった……
「うぉおおお!!」
「はぁあ、ですねぇええ!!」
グランが持つ七星剣と、ヒトの形を保ったままのポンメルンの剣がぶつかる。
第四庁舎を責める一行の前に現れたのは、魔晶を持ったポンメルン。しかしそのチカラは、彼の姿形には変異を及ぼさず、その能力だけを馬鹿みたいに増幅させるように使われていた。これまでのように大きな異形の形へと変化することなくそのチカラを手にしたポンメルンは天星器を使うグランもジータも歯牙にかけず戦えるほど強かった。
モニカを含めてすぐに第四庁舎を奪還するつもりだったグラン達は苦戦は必至だろうと即座に判断。窮地に陥るであろうセルグとリーシャの下にモニカと団員達を向かわせることを決定する。
切迫した状況ではあったが、グラン達の実力の程をみてモニカもそれを承諾。
果たしてグラン達は仲間だけで第四庁舎を奪還することとなった。
だが、体に変異をもたらさないポンメルンの魔晶の強さは……
「甘い、ですねぇええ!!」
恐ろしい強さへと変貌していた。
ポンメルンによって吹っ飛ばされたグランのカバーにゼタとヴィーラが走る。
「アルベスの槍よ。我が信条示すため、汝が最たる証を見せよ! その力の全てを今ここで解き放て!!」
言霊の詠唱と共にアルベスの槍が炎を纏い、そうして彼女自身も紅蓮の槍となって吶喊。
「プロミネンスダイヴ!!」
跳躍からのゼタの攻撃をポンメルンは手を翳して魔力障壁を張って防御。
「隙だらけです!!」
背後に回ったヴィーラの剣閃がポンメルンを襲うが、それをポンメルンは紙一重でかわし蹴撃で反撃。ガンダルヴァのように大きな体を持っていなくとも、目一杯に体を使い振りかれた回し蹴りはヴィーラの腰を捉え、大きく吹き飛ばした。
「ヴィーラさん!? イオちゃん、お願い!!」
「うん!」
ジータの声に応え回復にイオが回り、ジータは五神杖を携え前線に出る。
走りながら翻した手の周囲に魔法弾を構築、それを放ち牽制をしながらの杖による魔力爆発での攻撃を狙う。
「はぁああ!!」
動作は最小限。突き出された杖に対し、ポンメルンは回避を選択。回避といってもそれは、突き出された杖を剣で軽く反らし、ジータを懐に入れるための回避である。
「捕まえた……ですねぇ」
ジータの胸元に当てられた手には大きな魔力。次の瞬間、ポンメルンの手から放たれるのは寸勁。ゼロ距離からの掌底は魔力で底上げされジータの体を貫通するような衝撃と共に、肺に多大なダメージを与えた。
「がふっ……」
吐血したジータに近くにいたルリアはポーションを飲ませる。モニカの時とは違い、重症ではあるが、すぐにポーションと自身での魔法によって治癒が施され、すぐに立ち上がるジータ。だが、その足は震えていた。
「なんて……強さ」
もはや付け入るスキがない。ただでさえ苦戦しているのに相手はポンメルンだけではないのだ。
魔晶兵士だっている。当然兵士だって数が多い。ラカムとオイゲン、イオといったメンツは援護だけで手一杯だ。
それでも前衛のグランとゼタ。ヴィーラとカタリナが、そして剣の賢者アレーティアがポンメルンと魔晶兵士三体によって完全に封殺されている。
「ジータ!? グランが!!」
ハッとして視線を向けたジータは、グランがポンメルンの攻撃で大きく切り付けられたのを見た。
「クッ、ゼタさん、ヴィーラさん。カバーしてください!!」
直ぐに治療に向かうジータのカバーに入った二人は魔晶兵士の数を減らそうと奮戦するが、ポンメルンの脅威がちらつき、倒すことに専念できないでいた。
「グラン! しっかりして!」
ヒールの魔法で治療しグランの傷が塞がっていく。切り付けられていたのは剣を握る右腕。一度軽く振って調子を確かめたグランは礼を述べる余裕すら見せず、すぐに戦線に復帰した。
「(マズイ……ヒールだって無限にできるわけじゃない。こっちの消耗が激しすぎる!!)」
次々と負傷していく仲間たちにイオとジータの回復が止まることはない。だがそれとて無限ではないのだ。戦線の崩壊は目の前に迫っていた。
「てやぁああ!!」
渾身の一振り。七星剣はとうに解放状態であり、そのまばゆい輝きは間違いなく大きなチカラの奔流を纏っている。
だがそれでも、
「無駄ですねぇえ!!」
ポンメルンの障壁を打ち破ることができない。
「グラン離れて!!」
ゼタの声に反応し、グランが交代すれば後方より炎の壁が迫る。ゼタが放つサウザンドフレイムがポンメルンの周囲にいた兵士も含めて炎の壁に押しつぶした。
それでも、ポンメルンは健在だ。兵士がやられたところを目にしたポンメルンが、静かな怒りを秘め、ゼタを急襲。
ガツン!と大きな音を鳴らして武器をぶつけ合ったゼタは、つい最近こうして力をぶつけ合ったギルガメッシュ並みの強さを感じる。
「(形は変わってなくても大きくなってる時と同じレベルで化け物じゃないのよ!)」
胸中でポンメルンの異常な強さに悪態を吐きながら、ゼタは打ち合わないように後退。入れ替わるように新たな仲間、アレーティアが肉薄。
既にポンメルンの強さは把握している。アレーティアは出し惜しみなしの全力攻撃に入った。
「つぉおお!」
一閃。アレーティアが持つ土の属性を纏った渾身の一閃”序”。威力としては申し分ないそれはセルグの光破と同じタイプの一撃に重きを置く強烈な技。
それをポンメルンは魔晶で底上げした膂力で返す。
「はぁ!!」
間髪入れずに、アレーティアは二本目の剣を抜剣。吹き散らすような嵐の剣技”破”を叩き込む。ポンメルンは後退しながらの防御を選択。間合いから逃れるように確実な防御をこなしながら数歩下がった。
「逃さん!!」
アレーティアにチカラが漲る。瞬間的に剣へとチカラを付与する”急”でその攻撃力を絶大に高め、後退したポンメルンの懐まで入り込む。
「受けてみるがよい! ”白刃一掃”!!」
両手に持った剣による交差する剣閃。序から始まるアレーティアの攻撃は、彼が長い人生をかけて培ってきた全てと言ってもいい程、研鑽と洗練が見える技であった。
「調子に乗るなですネェ!!」
交差する剣閃に対しポンメルンは真っ向から反撃。アレーティア同様に魔晶によって高められたチカラを付与し、振りぬかれる白刃を打ち払った。
「なんと!?」
瞠目しながら、アレーティアは後退。己の全てをぶつけて尚、上回られたことに静かな動揺と大きな敗北感を感じながら、アレーティアは仲間達の元に一度終結した。
「なんて男じゃ。まさかこうも完璧に防がれるとはのぅ」
「何なのあれ……聞いてないどころか反則級なんだけど」
「これまでとは全く異なる強さ、ですね」
「でも、第四庁舎を奪還して早くセルグ達のところに向かわないと」
「落ち着けグラン。焦っては隙を晒すことになる。奴は既に油断も慢心もない、恐ろしい相手となった」
焦るグランにカタリナが釘をさす。モニカは向かったがそれでも向こうにはガンダルヴァが居る。決して優勢になるとは言えない今、できるのであれば早く援軍に向かいたいのが現状だ
だが、既にグラン達も他を気にする余裕がない。戦闘が始まってから十数分。一気に消耗した彼らには、まだまだ兵士たちが残っているというのに疲労が見えてきている。
「俺達後衛の攻撃力じゃまともに渡り合えねえ……悪いが足止めが精いっぱいだ」
「いいえ、ラカムさん。痛打を喰らわないためにも前衛の隙を埋める援護は必要不可欠です」
「ジータの言うとおりね。正直、さっきからヒールの使い過ぎで魔力が持ちそうにないわよ。もう少し消耗を避けないと」
「二人一組だ。アレーティアと僕でポンメルンを抑える。皆は前衛と後衛で組んで、できるだけ隙を晒さないように他の兵士達に当たってくれ。ジータは皆の回復を。それから状況に応じて指揮を」
一斉に頷く仲間達を見て再度剣を握りしめると、グランは待ち構えるように立っているポンメルンを見据えた。
「おしゃべりはもういいですか、ネェ?」
動き出さないグラン達に焦れたか、ポンメルンが口を開いた。
「相変わらず貴方方の強さには驚かされますネェ。こちらはこれだけの数をそろえているというのにまだ凌ぎ切っているというのですから」
「聞き捨てならないな、ポンメルン。攻めているのは自分達みたいな言い方じゃないか」
「ルリアが居る以上そちらはいくら攻めても最終的には守りに入る戦いでしょう? こうして戦場にまで戦えぬルリアを連れ出してきている時点で、貴方たちが拠点を攻め落とすなんてこと、不可能なんですネェ」
ビクリとルリアの肩が震える。
ポンメルンの言葉でルリアの心には大きな罪悪感が生まれた。拠点を取り戻す大事な戦い。なのに、戦えないくせに奪われてはいけないという爆弾を抱えているせいで、仲間たちが本気で攻め入ることができていないのだと。
「(私が……みんなの邪魔をしている?)」
小さく浮かび上がった疑問はルリアの中で大きな不安を掻き立て始める。だが、そんなルリアの胸中を察してカタリナがすぐに声を上げた。
「そうしてルリアを手放したところを奪い去っていくつもりか? 随分と姑息じゃないか」
「いえいえ、そんな気は全くありませんですネェ。ただ事実を言ったまでです」
「黙ってもらおうか。そんなつまらない小細工に乗せられるつもりはない!!」
グランの怒りの声と共に戦いが再開される。
作戦通りにポンメルンと戦うのはグランとアレーティア。
魔晶兵士を叩きに向かうゼタ、ヴィーラ、カタリナとそれを援護するオイゲン、ラカム、イオ。
ジータはルリアの守りに回りながら、回復と度々迫りくる兵士達を五神杖で迎撃。
徐々に兵士の数を減らしながらも、彼らの消耗は激しく、その戦いが長く続くことはなかった。
一人また一人と力尽き倒れていく。
それは彼らがこの旅で味わう、初めての完全なる敗北であった。
「終わりですネェ!!」
ポンメルンの剣にグランとアレーティアが切り捨てられる。
ゆっくりと倒れ伏す二人の仲間を視界に収めながら、ルリアは周囲を見回した。
魔晶兵士につかまりラカムが叩きつけられていた。
ポンメルンが放った魔法により、イオは爆発に巻き込まれ気を失う。
オイゲンは肩に銃弾を受けその手に持っていた銃を手放していた。
ゼタとヴィーラはやっとの思いで魔晶兵士を倒したところで不意打ちを受け、重症。
視界に閃いた光を見れば、ルリアに向けて魔法が放たれており、次いでルリアはその身に小さな衝撃を受ける。
「ルリア!!」
付き飛ばしてくれたのは彼女の大切な存在カタリナ。魔法に飲み込まれ、カタリナが目の前から消えたとき、ルリアは胸にこみあげてくる仲間を失った恐怖にその場で嘔吐した。
いつも頼もしく戦って。最後には必ず勝利してきた大切な人たちが今、見るも無残な姿で戦場に倒れている。
信じられない。認めたくない。そんなはずはない。
「(ウソだ……ウソだウソだウソだウソだウソだ)」
胸中で何度否定しようと戦場の音は消えず今、最後の一人が目の前で倒れた。
「ルリア、逃げ……」
パタリと力なく落ちたその手がルリアの目の前に差し出されたまま動かなくなった。
「ジー……タ」
ルリアに手を伸ばしながら小さく呟かれた声に、隣にいた小さな仲間が涙を流しながら応える
「ルリア!! 逃げるぞ!! セルグ達の所に行って助けを呼ぶんだ!! ルリア、早く行くんだよぉ!!」
「ビィ……さん」
「早くしろぉ!! このままじゃあいつらが、みんなが死んじまう!?」
「ルリア……急ぐ」
一緒にそばにいたオルキスもまたルリアの手を取り、引っぱる。。曲がりなりにも、アーカーシャを起動に導いたオルキスは、己とルリアの重要性を知っていた。今ここで帝国に捕まるのは非常に危険であることを理解していた。何としても逃げ切らねばと必死にルリアの手を引こうとするが、これまでまともに体を動かすことのなかった彼女にヒト一人を、ルリアを引っ張って走る力など備わってはいない。
握力が入りきらず滑って手放してしまったオルキスが尻餅をつく中、ルリアの思考は現実を見ることなくぐるぐるとまわり続けていた。
「(死ぬ……? みんなが。何で……? そんなはず)」
ルリアはわかっていた。今セルグ達の下に助けを呼びに行ったって。きっと彼らも動けない。ましてやここまで傷を負った彼らを治療する術などない。
ルリアはわかっていた。もはやどうすることもできない。彼らは負けて、自分はこのまま帝国に連れていかれるのだろうと。
ルリアはわかっていた。ここが自分たちの旅の終着点なのだと。
一歩一歩、兵士たちが近づいてくる光景をどこか夢見心地な頭で視界に入れながら、ルリアはただただ茫然としていた。
「――ここまでのようですネェ」
笑みを深めるポンメルンが徐々にルリアの視界を埋めていく。近づいてくるポンメルンを見て逃げろと叫ぶ思考とそれを全く受け付けない体が相反し、ルリアは立ち上がろうとして転んだ。
ドシャっと地面に倒れたルリアは諦めの最中、小さな仲間と小さな友が必死に呼び続ける声だけを耳に入れ、意識が浮かんでいくのを感じる。
”ここで……終わり?”
胸に黒い絶望が渦巻いた。
”皆、死んでしまう……?”
現実感を帯びてきた恐怖に胸が押しつぶされそうだった。
”私には何もできない……?”
続いて去来する無力感に心が壊されそうになる。
”もう、カタリナとも。グランやジータとも、会えないのかな?”
思い浮かぶのは仲間達の笑顔。ずっと助けてもらって、守ってくれた、大好きな人たちの笑顔。
”セルグさん……お願いです。皆を助けてください”
縋るように、ルリアはセルグを思い浮かべた。
強くて……とにかく強くて。いつも何とかしてしまう。そんな彼の強さはルリアにとって、揺らぐことのない信頼にも似た絶対的強さで、この状況を何とかしてほしいと強く願ってしまう。だが、
”君の手はまだみんなを守る様な大きな手じゃない”
セルグを思い浮かべた瞬間に、ルリアの心に光が灯った。思い出したのは自ら封印すると決めたきっかけの言葉。
胸に灯るは、手をこまねいていた己への怒り。チカラを使わぬと決め、いつの間にか守ってもらうことを当たり前と思っていた自分にルリアは怒りをぶつける。
「(違う!!)」
必死に立ち上がらせようとしたビィとオルキスを跳ね飛ばし、ルリアは立ち上がった。
今消えようとしている命の灯を見て、彼女の想いは奮い立った。
「違う! 私たちは、まだ終わってない!!」
誰に向けた否定か。誰に向けた意思表示か。言葉には出せない渦巻いた勇気が彼女の忌まわしきチカラを開放する。
「私はもう、守られるだけじゃない!!」
嘗て己に誓った想い。仲間に誓った想い。だが、仲間に止められた想い。両手を広げたルリアに集うは忌まわしきチカラの証。星晶の鳴動。
「私の手は……もう小さくない!!」
枷となっていた、大事な仲間の言葉を否定し、今ルリアは自らその扉を開ける。星晶のチカラ。空に非ざる、星の獣を統べるチカラを。
「今度は……私が。だからお願い。みんな……チカラを貸して!!」
蒼の少女の願いに応え、星は空に反旗を翻す。
「皆を助けて! ”フェニックス”!!」
彼女の声に応え顕現するのは炎の化身。終わりと再生の象徴……星晶獣フェニックス。
その炎は癒しの炎とされ、その身に刻まれた傷の全てを燃やし尽くし。あだなすものには終わりとなる灼炎をもたらす。
巨大な炎の鳥が顕現すると、帝国兵士たちは瞬く間に焼かれ、グラン達に降り注ぐ炎は彼らの傷を全て燃やし尽くした。
「チカラを貸して! ”マナウィダン”」
顕現するは双子の雨神。荒れ狂う水を操り、島を沈めることすら可能な水神。
双子の腕の一振りと共に、帝国兵士の目の前に巨大な水の壁が広がり、兵士たちの悉くを押し流した。
「撃ちぬいて! ”サジタリウス”」
顕現するは人馬一体の星晶獣。その手に持つ大弓に星晶のチカラが収束する。
解き放たれたそれは巨大な一矢となりて次々と魔晶兵士を貫いていく。
「ルリア、あぶねえ!!」
ビィが叫んだ瞬間、遠目から銃撃と魔法がルリアを狙う。だが、ルリアは止まらない。
「助けて! ”シルフちゃん”!!」
ルリアの声に応えるは小さな少女の姿をした星晶獣シルフ。シルフはルリアの周りを繭のようなもので覆いすべての脅威からその身を守った。
「あれは……今までルリアが取り込んできた」
「星晶獣達……」
「それも四体同時になんて」
フェニックスの炎で回復したグラン達が驚きの声を上げる。自分たちが横たわっている間に形成はひっくり返っていた。
それも、これまで守り続けていた少女のチカラによって。
驚きと共に見せるのは小さな恐怖。どうすることもできない戦力差を、今ルリアはその小さな手に宿るチカラだけで、全て埋めたのだ。
以前セルグに止められて以来、ルリアはこのチカラを使うことはなかった。必要がなかったというのもあるかもしれない。 だが何より、このチカラを使うことが、危険を呼び寄せるかもしれないと知ったからだ。
大切な仲間が。家族同然となった仲間が危険にされされないよう、ルリアはできる限りこのチカラを恐れた。
だが、目の前で仲間を失いかけたとき、抑えられていた想いを開放したルリアは、その純然たる意志の下、出来る全てのチカラを行使。
元々制御できるように一度に呼べる数は一体であった召喚は、彼女の願いのままにその数をふやして帝国軍を蹂躙する。
これまでの旅路で取り込んできた星晶獣達を、ルリアはその想いのままに制御下に置き、今、完璧な使役を見せつけた。
「これが、ルリアの本当のチカラ……なのですネェ」
炎が、水が、風の矢が。攻撃を加えようが、その悉くが眉に防がれる。次々と部下たちが屠られていく姿に、ポンメルンは戦う意思を失う。
仕方ない事だろう。星晶獣が四体。そんなのはチカラを失う前のセルグですら無謀な戦力差だ。
今使っている魔晶の制限時間ももうすぐであり、グラン達はフェニックスによって回復。もう……勝ち目はなかった。
「動けるものは動けないものを連れて撤退しなさい、ですネェ」
「た、大尉!? 何を言うのですか!!」
「第四庁舎も放棄。すぐに戦艦に戻り撤退準備をしておきなさい。こうなった以上我々に勝ち目は無いでしょう。吾輩は中将閣下をお連れしなければなりません」
次は自分たちの撤退戦だ。第四庁舎を守り切ることができなかった今、目の前にいるグラン達がガンダルヴァの元へ向かえば、いくらガンダルヴァといえど全てを跳ねのけることは不可能。そうなったとき自分はガンダルヴァを連れて撤退しなければならない。それが特別な魔晶と共に強さを授けてくれたガンダルヴァへの恩返しだ。
「……了解しました。ご武運を!!」
ポンメルンの想いを悟ってか部下の一人はすぐさま撤退を始めた。まだ戦闘自体は終わっていない。今であれば戦艦に戻るのはたいして難しくはないだろう。
部下たちが一斉に撤退を開始するのを見届けると、ポンメルンは、その場を後にして走りだすのだった。
戦う者がいなくなり、静かになった戦場で。息を切らせたルリアと星晶獣だけが、ただ悠然と立っていた。
如何でしたでしょうか。
まさかのアレーティアとオルキスの存在を忘れて書いてしまうとは。
やっとの思いで出演してもらったのにパッとしない出番でしたし、作者は大いに反省しております。
でも最終決戦ではきっちりみんなに出番がありますからどうぞお楽しみに(いつになるかわかりませんが
次回は、リーシャファン必見回を予定。
鳥肌立つような回にしたいですね。どうぞおたのしみに。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです
改めて。感想、ご指摘お待ちしております