granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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さてさて、頑張りまして更新しております。

ここら辺が一番楽しいかも……でも今回の話はちょっと難しかった。
荒れに荒れてるオリジナルバトル編

どうぞお楽しみください


メインシナリオ 第30幕

 

 

 アマルティアの第四庁舎の通路をガンダルヴァが歩く。

 秩序の騎空団の施設を我が物顔で歩くが、その表情は決して良いものではなかった。

 

「おい、報告はまだか?」

 

 そばに控えていた兵士の一人に尋ねる声には苛立ちが乗せられていた。問われた兵士は僅かに身をすくませながらも直ぐに答えを返す。

 

「現在も鋭意捜索中ではありますが、船団長モニカも逃げ出した老人も発見の報告は上がっておりません」

 

「昨日の小型艇についてはどうなっている?」

 

「大きさを考えても、乗れる人数は五人から六人といったところです。ですが……見かけた兵士の報告では例の機密の少女を連れた騎空団ではないかと」

 

「何?」

 

 兵士の報告にガンダルヴァの表情が変わる。歩みを止め顎に手を当てて思案の顔を浮かべると、ガンダルヴァは黙考する。

 

「(セルグとかいうのが居た騎空団だったな。団長のガキどもは結構なやり手だったが……なるほどなぁ。仲間のピンチに駆け付けたってとこか)」

 

「それから、別の報告では、船団長となっていたリーシャもいたそうです」

 

「何!?――そうか、フッ。ハハハ……ハッハッハ!!」

 

 突如声をあげて笑い始めるガンダルヴァに兵士は呆気にとられた。何かおかしいところがあったのだろうか。相手にいなかった指揮官が来たことは決して帝国としては嬉しい話ではないはずなのだ。

 

「まさか、ノコノコ餌になりにくるとはな。あのガキどもにセルグの野郎に謎の爺。更にはヴァルフリートの娘も来るとは……最高の展開じゃねぇか。おい、哨戒中の兵士共を第四庁舎に集結させろ。見回りも減らして庁舎の周囲を重点的に固めておけ。それから……あいつに庁舎の防衛に回るように伝えろ。いいな?」

 

「は、はぁ……了解いたしました」

 

 ご機嫌な様子でその場を去っていくガンダルヴァを見送りながら、兵士は指示通りに伝令を走らせるのだった。

 

「(まさか、あのクソ野郎の娘が来るとはな。最高だ……本当に最高だ!)」

 

 狂喜の笑みを浮かべたガンダルヴァの笑い声が第四庁舎に響き渡り続けるのであった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「それでは、グランさん、ジータさん。そちらはお願いいたします」

 

 朝も過ぎた頃、隠れ家の前には決意の表情を浮かべてグラン達と秩序の騎空団の戦力が集結していた。

 

「負けるとは思っていない……だが、頼むから気を付けてくれよ」

 

「セルグがそれを言う? 今回一番きついのセルグなんだけど?」

 

「本当ですよ……いくら効果的だからって。また私たちの気も知らないで……」

 

 心配な表情を浮かべるセルグに、逆にグランとジータから心配の声が上がった。

 昨日の作戦会議。リーシャが告げた驚きの作戦にグランとジータは全力で反対をした。

 なぜならそれは、現在まともにチカラを振るえない、セルグに最も負担をかける作戦だったからだ。

 だが、当の本人であるセルグには断る気は更々なく

 

 ”理には適っている。効果も高いだろう。何より、拠点を奪還できる可能性が高い。現状でこれ以上の作戦はオレは思いつかない”

 

 本人にこう言われてはやる気を出されては、グラン達も我を通すことはできなかった。

 画して、いつも通りにセルグが無茶をする作戦がこの日展開されることになってしまう。

 

「セルグさん……お気を付けを。昨日も言いましたが」

 

「やめろヴィーラ。昨日の事は絶対に皆の前で言うんじゃない」

 

 そっと近づいてきたヴィーラがセルグに耳打ちする。他の仲間たちはそれぞれに最終確認をしているようで二人のことは気にしていない。

 ヴィーラは静かに慌てるセルグの様子に微笑みながら言葉をつづけた。

 

「あら、私としてはむしろ」

 

「やめてくれ……決戦前にこれ以上オレを疲れさせるな。お前のせいで眠れなかったんだからな」

 

 セルグの言葉にヴィーラの目が細くなる。セルグの目を見ると確かに隈が浮かんでいる。それを確認した瞬間にヴィーラの笑みは深くなった。

 

「なるほど……どうやら効果は思いのほか大きかったようですね。良いことを聞きました」

 

 心底嬉しそうに、ヴィーラはセルグの元を離れていく。

 寝られなかった……それはつまり、ヴィーラの言葉か、ヴィーラの行いのどれかに考えさせられる事があったのだろう。

 それはヴィーラとしても、仲間としても嬉しい事の兆し。ヴィーラとしては自身の事を意識してもらえたのかもと心が躍り、仲間としては生きることへの意識に変化があるかもしれないと希望が生まれる。

 眠れなかったという事実は思いの他、ヴィーラに多くの情報を与えた。

 

「危険は多いと思いますが、何としても生き延びてくださいね。私はご一緒できませんので」

 

「死ぬ気はないさ。君の言葉があろうとなかろうと」

 

 既に戦闘へと意識を集中し始めるセルグはそっけなく答えるとリーシャと共に最終確認を始めていた。

 

「ヴィーラ? どうしたの。セルグと話してたみたいだけど」

 

 セルグが離れたところで、ゼタはヴィーラの様子を気にして声をかけてくる。妙に気にかけている……そんな気がして心配事でもあるのかと問うゼタに、ヴィーラは振り返りながら答える。

 

「ゼタ。いえ、本当に大丈夫かと心配になりまして」

 

「――まぁ、仕方ないよね。リーシャのいうことは、間違ってはいないもん」

 

「それはわかっています。私たちができることと言えば、早期に決着をつけるくらいしかありません。ゼタ、共に奮起いたしましょう」

 

「なんか……どうしたのヴィーラ? 妙にやる気というか、セルグの事気にしているというか」

 

 露骨であったか……そんな思考がすぐさまよぎり、ヴィーラはごまかす様に笑う。

 

「フフ、大切な友となった貴方が好いている殿方ですもの。なんとしても守り抜かなくては、貴方に顔向けできませんから」

 

「ちょっ!? もう、ヴィーラ!? こんな日にまで何を言ってんのよ!!」

 

 瞬く間に顔を染める目の前の友を見ながら、可愛らしい……などとヴィーラが思っていたのは内緒である。

 あっさりと話題をそらされたゼタが騒ぐのを受け流し、ヴィーラも最終確認のため、仲間たちの輪に入っていくのであった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 第四庁舎の周辺を見回る兵士は遠くから歩いてくる人影を見つけた。

 

 数は二つ。吹きすさぶ風に流される銀糸の髪と淡い赤茶色の髪が遠目からでも確認できた。

 

「あれは……例の騎空団の? もう一人は秩序の騎空団のリーシャか!? 中将閣下に報告だ!! 敵を発見。第四庁舎正面から向かってきていると報告しろ!!」

 

 近くにいた一人が伝令に走ると共に、周囲から兵士たちが集まってきて迎撃の準備を始める。抜剣し、杖を構え、弓を構える。

 遠目からでも戦闘態勢を整える兵士たちを確認した歩み来る人影は、その足を速め始める。

 

 

「リーシャ、見せるのであれば本気で行く必要がある……きっちりついてこいよ」

 

「貴方こそ、途中でやられたりしないで下さいね!」

 

「言ってくれる! じゃあ……いくぞ!!」

 

 セルグが声を上げると同時に二人の背後から、砂塵に隠れていた秩序の騎空団が現れる。その隣にはグラン達も並んでいた。

 数は決して多くないが、皆が全力で戦おうという気迫の下、一致団結して動くさまは、迎撃に構えた兵士たちの気勢を削いだ。

 

「絶刀天ノ羽斬よ! 我が意に応えその力を示せ。立ちはだかる災厄の全てを払い、全てを断て!」

 

 言霊の詠唱と共にセルグの動きが変わる。解放から即座の全開解放。天ノ羽斬の強化能力をフルに使った全力戦闘状態に入ったセルグは、リーシャを置き去りに走り出す。

 瞬足。次いで瞬速。瞬く間に接近してきたセルグに武器を振るうことすら適わず、兵士たちは振るわれた天ノ羽斬が放つ斬撃の投射で次々と沈んでいく。

 走り抜けて動きを止めたセルグに魔法と銃が向けられるが……

 

「撃てぇーーー!!」

 

 リーシャの声で後方からの援護射撃が敢行されセルグの隙を埋めた。

 怒涛の勢いを見せるセルグとリーシャによって今、決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 ―――――――――――

 

 

「中将閣下! 敵が、敵が現れました!!」

 

「来たか!? どこからだ? 誰だ?」

 

「ハッ! 第四庁舎正面から、恐らく潜んでいた全戦力を回してきたのだと思われます。怒涛の勢いで前線を押し上げこちらに向かってきております。先頭を走るのはリーシャです」

 

「何ぃ? どういうことだ」

 

 兵士の報告にガンダルヴァは怪訝な表情を浮かべた。

 

「(モニカ……は動けないか。戦力差は歴然。それなのに正面からの突撃……なめてやがるのか)」

 

「それから、数日前に庁舎を襲撃したあの男と、機密の少女を連れた騎空団が居ると」

 

「何だと! バァカ、それを早く言えってんだよ! 俺様が出る! 部隊の半分を迎撃に回せ! 俺様が行くまで押し込まれるんじゃねぇと伝えておけ!」

 

「ハッ!!」

 

 指示を出し終えると、ガンダルヴァは速足で第四庁舎を後にする。

 

「(ふんっ、何が狙いかは知らねえが、所詮はガキだったってことか。戦力の把握もできねえと見える。こいつは本当にひょっとすると、ひょっとするかもな)」

 

 愉悦に笑みを浮かべたガンダルヴァは愛剣を携え戦場に向かう。まずはセルグ。逃げられたこともあり、溜飲はいまだ下がってはいない。しばらく動きがなかったということは本調子になるまでを待っていたのだろう。

 ガロンゾでの借りを返すには最高のシチュエーションであった。

 

「待ってろよ。今度こそきっちり白黒つけてやるぜ……」

 

 戦闘狂であるが故、ガンダルヴァの戦いにおけるプライドは高い。一度は負けた相手に油断などなく、付け入るスキを与えるつもりはなかった。

 握りしめる愛剣の鞘がミシミシと音を立て、ガンダルヴァの気配は徐々に膨れ上がっていく。見据える先は、彼にとっても大きな意味を持つ戦場であった……

 

 

 ――――――――――

 

 

「ぐぁあ!」

 

 また一人倒す……セルグは、止まることなく動き続けた。

 斬撃の投射。それを主軸に襲い来る兵士たちを全て払いのけ、隙ができれば前進する。

 少し後ろにはリーシャがついてきていて、セルグの援護のために風の攻撃魔法を飛ばしていた。

 

「バテてないだろうな?」

 

 追いついてきたリーシャに一言かける。かなりの勢いで攻め込んできた。遠目にも第四庁舎が見えてきて、このまま進めるのであれば一時間もしないうちに庁舎には攻め込めるような状況にあった。

 

「まだなんとか……それにしても弱くなっても規格外ですね。息一つ乱していないなんて」

 

「素直に化け物って言っておけよ。オレの代名詞みたいなもんだ」

 

「化け物ならあんなに必死に仲間を守ろうとはしませんよ」

 

 相も変わらず自分を卑下にする男だと胸中で笑いながら、リーシャは反論の言葉を投げる。

 

「そんな化け物もいていいだろ?――――もう少し走るぞ。ついてこい」

 

「道を切り開いて下さい。ですが、無茶はしないで下さいね」

 

「それもまた無茶だと気付いてほしいところだ……」

 

 苦笑しながらもセルグはまた走り出す。瓦礫だらけの街の中、天ノ羽斬が閃けば、次々と兵士たちが倒れる光景は変わらない。

 また一しきり倒したセルグが走り出そうとした瞬間。セルグは大きな殺気を感じ取り跳躍。大きく後方に下がった。

 セルグのいた場所には大きな爆発が起こり、砲撃がされたことがわかる。

 

「……アドヴェルサか? 嫌なことを思い出させる」

 

 地味に嫌な思い出が甦り、セルグが小さく毒吐く。だが、それは……彼にとっても同じことであった。

 

「それはこっちも同じだ……セルグ。俺様はこの木偶の坊によって助けられたんだからな」

 

 アドヴェルサのすぐ脇でセルグを見据えるドラフの大男。

 

「来やがったか……ガンダルヴァ」

 

「待たせたようだな。決着……つけようぜ」

 

 復讐の炎を瞳に燃やし、ガンダルヴァが決戦の部隊に降り立った。

 

 

 

「四日ぶりか? 元気にしてたかよ」

 

「おかげさまでな。あの時は見逃してくれてありがとよ」

 

「ふん、減らず口を。今日はまともなんだろうな。あんな腑抜けた戦い……俺様は満足できねえぜ」

 

 前回の戦いを思い出しガンダルヴァは疑わしげに視線を向ける。つまらない戦いは御免だと言外に語るその言葉にセルグは余裕の笑みを見せて答えた。

 

「その身で試せばいい。ガロンゾの再現をしてやるよ」

 

「はっ上等じゃねえか……魔晶部隊!! 奴らに地獄を見せてやれ!!」

 

 ガンダルヴァの声に応え三体の魔晶兵士が出現。後方に控える秩序の騎空団の部隊へと向かう。横槍を入れさせるつもりは無いようで魔晶兵士の相手だけで団員たちは恐らく援護はできなくなるだろう。まともに戦うなら指揮官であるリーシャが向かう必要がある。

 

「リーシャ……ガンダルヴァは俺が引き受けたぞ。あっちは任せた」

 

「――――信じていますから。貴方は大丈夫だと」

 

 静かな意思を込めた瞳にセルグが映り込む。相変わらず、余裕そうに見えるその裏でセルグが冷や汗を流しているのは察することができた。

 恐らくはガンダルヴァの実力が想定より強くなっているのだろう。予定されていたセルグの負担がさらに増えたのだ。

 だがそれでもここで作戦は変えられない。すでに()()()()()()……

 

「作戦会議は終わったか? それじゃ、行くぜ!!」

 

 ガンダルヴァがセルグに飛び掛かる。上段から振り下ろされた剣を躱したセルグは短く距離をとって、天ノ羽斬を構えた。

 

「もう一度見せてやるよ。裂光の剣士の由来を……」

 

「前と同じと思うなよ。てめぇを倒して、俺様は最強であることを示さなきゃならねえんだからな」

 

「そうかい……いくぞ!!」

 

 気合の声と共にセルグが接近。一足で間合いへと入り込んだセルグの剣閃がガンダルヴァに向かった。

 

「おりゃああ!!」

 

 対するガンダルヴァも剣を以て防いだ。刀と剣がぶつかり合い、その場に大きな音が響く中、セルグはチカラの衰えを悟られないようすぐに動く。

 鍔迫り合いを解除。ガンダルヴァとの押し合いをわずかに引いて流すとそのまま背後に回り一閃。

 

「ちょろすぎらぁ!!」

 

 迎撃の剣閃がセルグの一閃を打ち払う。なんの捻りもない、ただの力だけでセルグの一閃は弾かれるも弾かれたその勢いすらセルグは力へと変える。

 

「光破!!」

 

 弾かれた勢いで体を回転。その勢いのままにチカラを乗せた光破にガンダルヴァは目を見開いた。

 瞬時の判断でガンダルヴァはフルスロットルを発動。その巨躯を躍らせ、大きく跳躍。今度はガンダルヴァがセルグの背後を取った。

 

「くっ!?」

 

「喰らえぃ!!」

 

 蹴撃。長身から繰り出される驚異的な威力を孕んだ蹴りがセルグの腹部を捉える。

 だが、脚から伝わる感触に、ガンダルヴァは蹴撃の不発を悟る。

 

「捕まえ……た!!」

 

 腕を交差して衝撃を吸収。更にインパクトの瞬間に後方に飛ぶことで、威力を弱めたセルグは、伸びきった脚を捉えていた。更に捉えた脚の下に潜り込み、片足立ちとなったガンダルヴァに足払いを仕掛ける。

 

「調子に……乗るんじゃねえ!」

 

 潜り込んだセルグにそのまま捉えられた脚を振り下ろす。攻撃に移っていたセルグは虚を突かれ、ガンダルヴァの巨大な足に踏みつけられた。

 

「ぐっ!?」

 

 小さく苦悶の声が漏れる中、セルグは不躾に乗せられた足を切り落とさんと刀を振るう。当然ガンダルヴァはそれを察知して僅かに後退。二人は再度にらみ合う形となった。

 

「そのちいせえ体で俺様に体術を仕掛けるとはいただけねぇな……ご自慢の剣技はどうしたよ?」

 

 消極的――先ほどの攻防に仕留める気が感じられず、ガンダルヴァは怪訝な表情を浮かべた。

 

「そんなに死に急ぐなよ。すぐに終わったら今度はオレが詰まらねえだろ」

 

 対するセルグは余裕の笑みで返す。だがその裏で、セルグの胸中は穏やかではなかった。

 全開解放時の天ノ羽斬はセルグからもたらされる光のチカラを増幅して纏い、本来であれば驚異的な威力を誇る。光破や多刃といった技でなくとも振るえばその威力は簡単に防げるものではないほどに……だがそれを、先ほどの攻防でガンダルヴァが力任せに弾いたのだ。

 天ノ羽斬が増幅する元であるセルグのチカラが弱すぎる。剣速も衰えているそれは、様子見の戦闘でありながら、その実セルグにとってはすでに精一杯の戦いなのだ。

 体術に移行したのはチカラの衰えを悟られないため。だがそんな小手先の技術が通用する相手ではない。

 

「てめぇ……まさかとは思うが、この間みたいに弱ぇんじゃ――」

 

「焦るなと言ってるだろう。そんなに見たきゃ見せてやるよ」

 

 総毛立つ程の殺気……セルグの気配が膨れ上がり、その身を闇が覆う。

 星晶融合。ごまかしきれないと悟ったセルグは深度1にすら届かないヴェリウスとの融合を用いて、奥の手を見せる。ガロンゾの戦いでは……ガンダルヴァとの戦いではまだ使っていないこれであれば、まだ本気には見せられる。

 セルグにできることはもはや、どれだけ強く見せられるかだった……

 

「ほぅ、まだ面白そうなものを隠しもってやがったか……いいねぇ。それでこそ倒し甲斐があるってもんだ」

 

「その余裕……すぐに消してやる」

 

 嬉しそうにガンダルヴァが嗤う。対するセルグは先ほどまでの余裕の笑みを決して、今できる全力を捻りだしていく。

 

「はぁ!」

 

 不意打ち気味にセルグが動いた。前触れのない唐突な動きを予期していたようにガンダルヴァは無難に躱し、セルグとガンダルヴァは剣戟の嵐を作り始める。

 ヴェリウスによって僅かにブーストされたチカラが天ノ羽斬によって増幅され、強烈な一撃となった剣戟が徐々にガンダルヴァを押していく。

 

「グッ、いいぜ! もっと、もっとこいよ!! この程度じゃまだ満足しきれねぇえ!!」

 

 押されながらもガンダルヴァは嗤う。本気となったセルグと打ち合い、ギリギリの攻防を見せる。魂をすり減らすような限界ギリギリの戦いを、彼は求めていた。

 二人の戦いはここから、十分近く届かない打ち合いが続く。

 

 

「くっ……チィ!?」

 

 僅かな隙。それを付かれ、セルグが態勢を崩した。天ノ羽斬を持つ腕が弾かれ、がら空きとなった胴体に付きが放たれる。

 ギリギリで右手で鞘を引き抜き防いだセルグは一度大きく後退。長きにわたる打ち合いが終わりを迎えた。

 

「はぁ……はぁ……(そろそろ限界だな)」

 

「チィ、逃したか」

 

 ガンダルヴァも仕留めきれなかったと悪態を吐いていた。

 戦局はまだ五分。互いに決定的な一撃はまだもらっていない。魔晶兵士とリーシャ達の攻防も進展はほとんどないまま膠着状態を保っている。セルグがこの状況に静かに息を吐くと、ガンダルヴァは疑わし気にセルグに視線を向けながら呟いた。

 

「……面白くねえな。何を企んでいる?」

 

「何?」

 

「気づかないと思ったか。ガロンゾであったような圧倒的な威圧感のないお前の攻撃。恐らくは本調子ではないと見える。そんなてめぇだけで俺様を抑えるのが作戦か? 俺様を倒せる唯一の可能性であるてめぇを当ててきたって作戦だと思ったが、余りにも拍子抜けだ」

 

「(気づかれていたか……)何を勝った気になっている。拍子抜けとは心外だな。互角で戦ってる奴が粋がってんじゃねえよ」

 

「そうして俺様をお前にくぎ付けにしておいて、別動隊が庁舎を狙うってとこだろうが……戦力を分けたのは失敗だったな」

 

「――何を言って」

 

 ガンダルヴァが、手を上げる。すると周囲には帝国兵士、アドヴェルサ、魔晶兵士と次々と姿を現す。

 圧倒的な戦力差。それがセルグ達の目の前に突き付けられた。

 

「これと同じだけの戦力が、第四庁舎には詰めている。そっちと違ってこちらの戦力は十分だ。お前たちが向かってくるのなら押しつぶせば勝てる。お前らの少ない戦力で、あれをすぐ抜けるとは思えねぇ。よしんば抜けたとしても、こっちを片付けてから俺様が向かえば戦況はすぐにひっくり返る。一人で戦況を覆せる俺とお前がここにいる時点で、戦力差で有利なこっちの勝ちは揺るがねえんだよ」

 

 仮にグラン達が第四庁舎を襲撃したところで、これだけの数と同等の戦力が防衛についているのであればグラン達だけですぐに制圧は難しい。事前に得ていた情報から、ガンダルヴァはグラン達の行動を読み、きっちりと戦力を残してきていたのだ。

 

「勝った気になるなと言っているだろう。お前をここで倒せば済む話だ。終わらせて――」

 

「強がりはよせよ。余裕もチカラもねえのはもうわかってんだ……どういうわけか知らんが短い間に随分と弱くなっちまいやがって、本当に残念だったぜ」

 

 自らを負かした相手。完膚なきまでに叩きのめされた相手との再戦は見るも無残なほど弱くなった、相手の弱体化によってあっけなく勝利に終わる。ガンダルヴァにとってすでにセルグは相手にならず、再戦に勝利したというよりは、再戦する前から勝利していた状態で、ガンダルヴァの落胆は一入であった。

 

「もういいだろ? じゃあな」

 

 ガンダルヴァの指示でアドヴェルサが起動。その照準をセルグへと向けると砲撃の準備へと入った。

 既に自らの手で決着をつけることすら放棄してガンダルヴァは踵を返した。そのすぐあとには砲撃の爆発音のようなものが聞こえ、ガンダルヴァはつまらない戦いへと終止符を打った。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 第四庁舎を目の前にして、佇む彼らは、チカラがみなぎるのを感じる。

 既に戦闘が始まってから小一時間は経過しているだろうか。ガンダルヴァが戦力の半分を伴い出撃していったのは彼らにしてみれば僥倖であった。それでも、第四庁舎は、多くの兵士に守られている。ここを落とさなくては勝利は無い。

 多勢に無勢。全体を見れば戦力差はそれに近い状況である。

 だが……

 

 

「行くぞ……お前達」

 

 構える騎空士は声に従う。。

 

「皆、全力で行くぞ……」

 

 頷く仲間は武器を取った。。

 

 

 彼らには恐怖も迷いもない。

 何故ならこれは約束された勝利の戦い。一人で戦況を覆せるガンダルヴァをセルグが一手に引き受け、その間に第四庁舎を落とす作戦であり、その為に、陽動となったセルグとリーシャ。一部の団員以外は全てこちらに回っている。無論セルグとリーシャは数に押しつぶされて長くは持たないだろう。ならば、その前にここを落とし、その後に全員でガンダルヴァを倒す。

 多勢に無勢な戦力差でそれができるのかと言えば、普通なら誰もが無理だと答えるだろう。だが、彼らにはそれをできるチカラがあった。何より、彼らには頼もしき応援が駆けつけてくれたのだ。

 

「リーシャが頑張っているというのに、私が奮起しないわけにはいかないからな」

 

 彼らの先頭を行くのは小柄な女性。セルグとガンダルヴァ以外で一人で戦局を覆し得る、もう一人の圧倒的強者。

 シャンと音を鳴らしながら、彼女がその長刀を抜き放った時、彼らの心には炎をが灯る。

 

「行くぞ!! 第四騎空挺団船団長モニカ!! 今一度、戦場を駆けよう!!」

 

 倒れたはずの秩序の牙が、グラン達の前を走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

正直なんかリーシャの作戦が上手くまとまらなかった。
前回でドヤ顔させておいて大した作戦じゃなくてリーシャファンごめんなさい。
ほんとはもっと鳥肌立つくらいすごい作戦立てさせてあげたかったんですが、今回作者の頭はそれを捻りだしてくれませんでした。
でも戦闘シーンだけはすいすいとかけちゃってそれとのすり合わせがまた微妙になってきて。……
うん、反省します。

感想、ご指摘お待ちしております。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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