granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
お気に入り登録が増えててプレッシャーをそろそろ感じてきています。
フェイトエピソード 「裂光の剣士」 終
ザンクティンゼル
「う、うう……あ」
穏やかな風が頬を撫で、沈みかけた日差しが最後の抵抗にとセルグの瞼を焼く。その眩しさにセルグは目を覚ました。
目の前にはジータの顔があり後頭部には柔らかな感触。ジータの脚を枕に、寝かされていたようだった。
「目が覚めましたか? フフフ、まだそんなに時間は立っていないですが傷は大丈夫ですか? 随分思いっきりやってしまいましたから……一応ヒールはかけましたけど痛いところはないですか。 ああ、グランは貴方に奥義を放った後、すぐに気絶してしまって今は向こうで皆が看ています」
目覚めたセルグとの今の状態にやや気恥ずかしげな表情をみせるジータ。そんな雰囲気には気づかずセルグは先ほどの戦闘を思い出し呟く。
「そうか……負け、たんだな。まさか負けるとは思っていなかった。本当なら思いっきり叩き潰すつもりだったんだがな」
「私たちには仲間がいた。貴方は一人だった。それがこの戦いの勝敗を分けたんです」
戦いの中で伝えたかったこと。ジータのその想いはセルグへと確かに届いていた。
「そうか、強いな。仲間とは……アイリスとは上司と部下の関係だったからな。お世辞にも強いとは言えない奴だったし。ともに戦う感じではなかった。お前たちの関係が少し羨ましく思う……」
ジータ達の関係を羨ましいとセルグは告げる。悔しさを僅かににじませた声で放たれた言葉にジータは子供を諭すような声音で返した。
「何言ってるんですか! もうセルグさんもその仲間になるんですよ。勝負は、私たちの勝ちなのですから」
ジータの言葉にセルグは呆けた。その顔に妙な幼さが見えてジータは笑う。
「ふっ……ふふふ、なんて顔をするんですか。もしかして何で戦っていたのか、忘れていたのですか? セルグさん、大人な人だと思っていましたが案外抜けているところもあるんですね」
からかうようにジータは微笑んだ。
「あ、ああ。そうか……そうだったな。なんで戦っていたのか忘れていたよ。確かに今の俺は間抜けな顔をしていただろうな」
そう言ってセルグは穏やかな笑みをみせた。先程まで激闘を繰り広げていたとは思えない静かな時間が流れていた。穏やかな雰囲気の中にいた二人だったが
「おい! みろよ! あのジータが、男とイチャイチャしているぞぉ」
そんな穏やかな空気に水を差すトカゲが現れる。
「なっ!? ビィ! 私はそんなつもりでは」
ジータ達とは少し離れた位置でグランの看病をしていた仲間たちがこちらに向かってきていた。グランも目覚めたようだ。
「おぅおぅ、顔を赤くしやがって、とうとうジータに春が来たってやつだな。なぁグラン」
そう言ってグランに同意を求めるビィ。グランもニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ同意する。
「確かに……最初にセルグを誘ったのもジータだったしなぁ。そっかぁジータに好きな人ができたのか。兄としては感慨深いものがある、ってうわっと!?」
しみじみと息を吐きながら頷くグランに魔法弾が飛ぶ。ジータをみると冷たい微笑を浮かべていた。ジータの微笑みにどことなくヴィーラの存在を感じたグランが凍りつく。
「グラン。あまりふざけていると……怒りますよ。それよりも団長として言うことがあるでしょう」
「う、まったまった! 冗談だって…怒るなよ。改めて、セルグ。僕たちの騎空団に入って欲しい。僕達は弱くなかっただろう。セルグの言うとおり僕たちの力は証明した。あとを決めるのはセルグの意志だけだ」
「ずっと一人で戦い続けてきた貴方には私たちの仲間になることでこれからを安心して生きて欲しい。笑顔で生きて欲しい。貴方の過去を聞いてそう思いました。これが私たちの願いです」
グランとジータの言葉。セルグの心を揺さぶるその言葉はどこまでもまっすぐにセルグの心を打つ。対外的な仮面を被り、他人と深く関わることを恐れてきた。アイリスを失ったあの絶望がセルグに人と関わることを拒ませていた。その拒絶の心をふたりの言葉が解していく……
沈黙がしばらく続いた後、セルグはゆっくりと口を開く。
「ありがとう。これ以上ないくらい、オレには嬉しい申し出だ。もう皆の強さに不安はない。いや、不安だったのはきっとオレの心の弱さだったんだろう。もう迷いはない。喜んで入団させてもらうよ。オレの名はセルグ。こっちが星晶獣ヴェリウスだ。皆、これからよろしく頼む」
笑いながら入団を快諾するセルグに、もはや拒絶の意志も表情に陰りもなかった。
「(いつか全てを乗り越えてこいつらと笑い合いたい。そんな夢を見てしまうオレをおまえはどう思う、アイリス?)」
胸中で自問自答を繰り返そうとしたセルグに風が吹きつけられた。
”もう、大丈夫だね”
風の中になんとなくアイリスの声を聞いた気がした。
周りが騒がしくセルグを迎えて話している中で当人は吹きつけられた風に最愛の人を感じ、後押しされるように皆の輪に入っていく。
「(行ってくるよ、アイリス)」
心の中でそう呟くセルグの背には一際強い風が当たる。もはやアイリスの声が聞こえたのは気のせいだと疑わなかったが。
”いってらっしゃい”
それでも、背中に当たる風にアイリスの声を聞くのであった。
これは彼が加わる始まりのお話
いずれ世界を救う者達の物語に投じられた一滴は、この先の運命を変えていく
全てはここから始まった
別にヒロインと決めているわけじゃないんだ。
でも慌てふためいて顔を赤くするジータが書きたいんだ。あとでクロスフェイトでも書こう。