granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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始まりました、アマルティア編。

のっけからオリジナル感マックスです。といってもその出来事への流れがオリジナルって感じで
大筋見るとそんなにオリジナルにはならないのかも、、、

それでは、お楽しみください


メインシナリオ 第28幕

 ――――アマルティア陥落

 

 

 グラン達がその報を聞いたのは翌日の事である。

 心持ち新たに、アマルティアへと出立しようとした矢先、艇にいるリーシャを見た団員が報告に来たのだ。

 恐らくはリーシャがグラン達と共に居ることはまだ伝わってなかったのだろう。アルビオンに駐在していた団員は驚きと焦りが入り混じった様子で出立しようとしたグランサイファーに駆け寄ってきた。

 一旦出立を取りやめ、グラン達は詳しい話を聞くべくアルビオンの支部へと赴いた。

 

 

「それでは、詳しく報告をお願いします。状況が分からないので時系列も踏まえて」

 

 真剣な面持ちでリーシャが促すと、団員も姿勢を正しはっきりとした口調で報告を始めた。

 

「はい。事が起きたのは四日前になります。時間はお昼を過ぎたころでした。エルステ帝国の戦艦一隻がアマルティアに襲来。モニカ船団長をはじめ各員は迎撃に出ましたが、敵の指揮官、エルステ帝国中将ガンダルヴァによって、船団長が敗北。船団長はそのまま囚われの身となり、各員は散り散りとなってしまったそうです。その日の内に拠点は陥落。帝国の手に落ちました」

 

「モニカさんが……負けた?」

 

「ガンダルヴァってあの」

 

 仲間達から俄かに声が上がる。今の報告だけで状況はとんでもないことは理解できたし急がなければいけないとも理解できた。

 

「皆さん落ち着いてください。まだ報告は終わっていません。続きをお願いします」

 

「は、はい!」

 

 僅かに浮足立った仲間達を制し、リーシャは報告を促す。ここで慌てて飛び出したところで……一分一秒が変わったところで事態の好転はあり得ない。むしろモニカが囚われている以上、頼みの綱は自分なのだと、リーシャは動き出そうと焦る心を律した。

 

「現在、アマルティア島はエルステ帝国の支配下にあります。島にいた各員は散発的なゲリラ戦を展開しておりますが状況は悪化の一途を辿っています。アマルティアからの応援要請によって各島の駐在部隊から戦力をかき集めておりますが、拠点の奪還は至難、という状況です」

 

 団員が報告を終えると、リーシャは黙考する。今伝えられた報告だけでわかる事はかなり少ない。それでももたらされた情報から大まかな推測を立てなければ、今後の動きは決まらない。リーシャは必死に状況を読んだ。

 

「――モニカさんが捕えられたのが四日前……ゲリラ戦を展開しているとはいえ、拠点はすべて掌握されていると思って良いでしょう。奪還は、確かに難しいですね……戦力が集まるまではどれくらいかかりますか?」

 

「早くても後二日はかかります」

 

 思わず顔を顰めてしまう。拠点を奪われてすでに四日……今すぐにでも動きたいという状況で動かせる戦力がないのは、取れる選択肢が大いに限られる。

 

「厳しいか……既に後手に回っている以上、すぐにでも動く必要があります。一隻という事から考えても、帝国に恐らく余裕は無いはず。前回の襲撃では二隻回しての襲撃だったんです。二度の失敗、二度目は増援も用意していたことからも、戦力を落とした今回の三度目は、戦力的に余裕のある襲撃ではないと思われます」

 

 アポロを抹殺するために行われた二度の襲撃。それと比較して戦力は一隻である事。一度目の失敗から二度目には増援を寄越してきた事から考えると。拠点を潰すために送られた三度目の襲撃は余裕のない襲撃とリーシャは読んだ。

 

「それは、確かにあり得そうだな……そもそも帝国が襲撃する理由はなんだ?」

 

「はっきりとはわかりません。ですが、前回の襲撃後、我々は帝国に対し強い抗議を行いました。にも拘らず三度目の襲撃……恐らく帝国は秩序の騎空団を完全に潰すつもりなのでしょう」

 

 アポロがいないアマルティアを襲撃する理由は、秩序の騎空団の壊滅しかありえない。裏に隠された目的があったとして、現状それを知る術はないし、考えても仕方ない。無駄な推測を捨て置き、思考を進める。

 

「状況としてはかなり不利ですね。恐らく島に近づくのですら困難な状況かと思われます。島を掌握されたという事は迎撃準備も万端でしょうから……お姉さま、エルステの戦艦の搭載火力はどの程度でしょうか?」

 

「具体的な数は私も覚えてはいないが、艦底の火砲四門。側面の火砲十は下らないだろう」

 

「恐らくアドヴェルサもあるはずです。それだけの数の火砲を掻い潜り島に接近しなければなりません。一隻とて大きな脅威です」

 

「その通りですね。恐らく普通に騎空艇で接近しては島にたどり着く前に落とされる可能性のほうが高い」

 

「それじゃ、どうするってんだ……」

 

 リーシャ、ヴィーラの状況予測を聞くと、島に近づくのですら絶望的に思えてきて、オイゲンが呻く。

 グランもジータも、こういった状況には口を挟めず、話を聞くだけに留まっていた。

 

「――難しいですが皆さんの協力があれば……」

 

 少しの間をおいて、リーシャは打開策が見えてきたのか、おずおずと話し始める。はっきりとしない物言いはどこか遠慮がちな様子に見え、ここでグランは初めて動いた。

 

「リーシャさん。僕達はまずアマルティアに行かなければならない。その為なら強力は惜しまないです」

 

「あ、えっと……その。とても危険なのですが」

 

 グランの言葉にリーシャは言いづらそうに、危険が伴うと告げるが、そんなこと今の彼らには関係ない。

 

「元々帝国を相手にしようってんだ。今さら危険がなんだってぇ話よ!」

 

「大丈夫です、リーシャさん。私達はどんな困難にも打ち勝って見せますから! それに、私たちは帝国に対して協力関係なはずです」

 

 先程まで呻いていたオイゲンも、黙っていたジータも強く答えた。仮に目的地がアマルティアでなくても、彼らに協力の是非はない。仲間として迎え入れたリーシャが苦境に立たされているのなら、それは自分達も共にしなくてはならない苦境だ。できることがあるのなら全てやる。その決意の想いを以て彼らはリーシャを見据える。

 

「――はぁ、本来であれば無関係な貴方達を巻き込みたくはないのですが。どうせ気にしないんですよね……申し訳ありませんが、力を貸してください」

 

 わかってはいたが、こうして目の前で頼もしい姿を見せられると、つまらないことを気にしている自分がバカに思えてリーシャは呆れたように納得する。続いて力強い声音で彼女は助力を申し出るのだった。

 

 

 

 部屋を変えて会議室へと通された一行は団員達も交えて今後の作戦会議を始める。

 

「まずは秩序の騎空団で小型の高速艇を二艇用意します。操舵士はもちろん、ラカムさん、オイゲンさん。お二人にお願いします」

 

「ほぅ、小型のか……」

 

「大丈夫ですか?」

 

 小さく呟くオイゲンにリーシャは心配そうに声をかけるが、それに答えるのはラカムだった。

 

「グランサイファーに比べりゃ朝飯前だな」

 

 ラカムは十代半ばから商船の操舵士として活躍を始めている。グランサイファーは中型だが大型も当然経験はあるし、小型など練習として何度乗ったかわからないくらいである。

 ましてやラカムより経歴の長いオイゲンは言わずもがな。

 

「あぁ、任せときな!」

 

 二人の答えは簡単すぎてあくびが出ると言いたげな程、自信のある答えだった。

 

「お願いします。私達は二手に分かれてそれぞれにアマルティアに向かいます。戦艦の砲撃はすべて、お二人の腕で躱してください。ゆっくりと降り立つ余裕は無いでしょう……砲撃を上手く躱しながら周囲の森の近くに着陸してください」

 

「おいおい、無茶を言ってくれるぜ。森なんて障害物だらけで着陸には一番避ける場所だぜ」

 

「周囲に何もないところに降りてはすぐに囲まれる可能性があります。すぐに身を隠すためにも障害物の多い森の近くに降りるのは必須になります。島に着いたらまずは現地の団員と合流し状況を把握。そして、敵の防御を掻い潜り、ガンダルヴァを倒します」

 

「うわ~着陸プランも島についてからのプランも雑ぅ~」

 

「し、仕方ないじゃないですか!? 現状動けるのは私達だけですし、島の状況も詳しくわからないのでは……」

 

 雑――リーシャの計画はその一言に尽きた。島に降りるまでの手段ですらすでにリスキーである上に、着いてからも恐らく独自の判断での動きが多くなってくるだろう。

 思わず上げたイオの感想にリーシャは慌てた様子で口を開く。

 

「アッハッハ! 良いんじゃない。臨機応変って事でしょ。その方が私達らしいわよ」

 

「ヘヘ、ゼタの言うとおりだぜ! それに兵士なんかじゃグラン達は止められねえからな」

 

「少数精鋭で懐に入っての電撃作戦か……全く大人しい顔してなかなかとんでもないプランを考えるじゃないか」

 

「カ、カタリナさん! 大人しい顔ってなんですか!? 私は別に普通ですよ!」

 

 先ほどまで凛々しい船団長補佐の顔をしていたリーシャの仮面が、仲間たちによって瞬く間に剝がされる。

 目の前で180度ひっくり返ったような表情の変化を見せたリーシャに、その場にいた団員たちは目を丸くした。

 

「え~っと、そのリーシャ船団長?」

 

「あっ!? 気にしないでください。これはいつもの事なので。というか忘れてください! それから今の私は船団長補佐です」

 

「そ、そうでした。すいません」

 

「いえ、それではすぐに小型艇の用意をお願いします。アマルティアの状況次第では援軍の要請を出しますので戦力はできる限り早く用意できるように尽力してください」

 

「ハッ! 承りました!」

 

 リーシャの指示に敬礼と共に団員たちが一斉に動き出す。これだけを見れば立派な船団長補佐だということがわかる光景だろう。きびきびと動いていく団員たちを見て、ルリアは感心したように声を上げる。

 

「はわ~こうやって見ると、リーシャさん本当にかっこいいですね!」

 

「おいおいルリア、それってつまり普段はかっこよく見えないって言ってるようなもんだぞ……」

 

「へっ!? いえ、ち、違いますよ!? 私はそんな普段は大人なのに慌ててばかりでかわいいとか思ってないです!!」

 

「そ、そうですか……慌ててばかり……ですか」

 

 隠し事が下手すぎるルリアの、本音を聞いてしまい、リーシャはズゥンと擬音を漂わせながら会議室の床に四肢を着く。

 

「ドンマイ、リーシャ」

 

「うぅ、オルキスさんの優しさが目に沁みます」

 

 落ち着いたオルキスの声と言葉にリーシャは少しだけ元気をもらった気がして立ち上がる。

 

「あ、あの~リーシャ船団長補佐……」

 

「ハッ、っと何でもありません。気にしないでください」

 

 またも団員の声に慌てて、船団長補佐に戻るとリーシャは引き続き状況把握と指示に回った。

 

「なんていうか、ルリアの言ってることって的を射ているわよね……」

 

「確かに……よく見ていると思う」

 

 イオとオルキスはそんなリーシャを見て、ルリアの本音はよくリーシャという人を捉えていると感じた。団員たちの前では立派な船団長補佐になれるのに、ただのリーシャとして過ごした騎空団の空気に入ると妙に慌てていることが多い。

 

「フフ、オルキスちゃんもルリアの事をよく見てあげたらどう? きっと色んなところが見えてくると思うよ」

 

「色んなところ……食いしん坊?」

 

「うっ……それはそうかもしれないけど」

 

「あとは、怖がり」

 

「そうだね、よく見てる。他には?」

 

「夜にこっそりおやつ食べてた」

 

「えっ?」

 

 オルキスの証言に聞き捨てならない内容の話があって、ジータの眉がピクリと動く。すぐさまオルキスを問い詰めたジータはその後鬼の形相となってルリアへと向かった。

 

「ル~リ~ア~!」

 

「ジ、ジータ? 何がどうしてそんな怖い顔になってしまったんですか」

 

「オルキスちゃんから聞いたのよ。また夜におやつ食べてたんですって? あれほど! 太るからやめなさいって言ったのに!!」

 

「ひぇええ~グラン!! 助けてください!!」

 

 美しいよりは、可愛らしいのほうが強いジータの表情が、あまりにも恐ろしい貌となっており、色々と危険を感じたルリアはグランの後ろに隠れた。グランを盾にしてこっそりとジータの様子を伺うが……

 

「ジータ!? こんな時に何をしているんだ! 今は大事な」

 

「どいてグラン!? こっちも大事な話なの!! ルリア、コラっ、まちなさい!!」

 

 一瞬のスキをついて、ルリアが逃走。すかさずジータは追いかける。支部の中を走り回り始まった追いかけっこに秩序の騎空団は大騒ぎとなり、この後、二人はこっぴどく怒られることになるのだが、それはまた別のお話。

 

「……本当に大丈夫なのかなぁ」

 

 会議室に残っていた団員の一人がつぶやいた声が、支部全体に広まったのもまた、別のお話……

 

 

 ―――――――――――

 

 

 

 ボロボロとなった家屋の一つ。まだ崩れてはいない民家の中でセルグはベッドに横たわっていた。

 

「セルグ、調子はどうじゃ?」

 

 横たわって天井を見つめていたセルグの元にしわがれた老人の声が届く。

 視線を向ければ、セルグを第四庁舎から連れ出した老人がいた。腰には二本の剣。よれた外套と目深にかぶった帽子が特徴的な風来の剣士。

 

「大分良くなった。感謝してるよ、アレーティア」

 

 老人、アレーティアにセルグは小さく笑って返した。

 第四庁舎を脱出した二人は帝国の目を搔い潜り、この民家に身を潜め既に三日が経っていた。

 

「外の状況は?」

 

「まだ、抵抗は続いている。かなり小規模にはなってきておるがの」

 

「そうか……そろそろここもまずいだろうな」

 

「もう動けるかのう?」

 

「問題ない。ある程度なら戦えるくらいには回復した。モニカの様子も気がかりだ。秩序の騎空団と合流しよう」

 

「当てはあるのか?」

 

「優秀な相棒がいるからな。道中見つからなければ、場所については問題ない」

 

「ほっほぅ。それならば行くとしようかのう」

 

「あぁ」

 

 静かに荷物と天ノ羽斬を持つと、セルグはアレーティアと一緒に民家を後にした。

 

 

 アマルティアの街並みはすでに崩壊していた。

 潜伏している秩序の騎空団をあぶりだすために幾度となく行われた砲撃。先ほどまでセルグとアレーティアがいたような形を保ったままの民家はかなり稀であった。

 瓦礫だらけとなった街並みの中、セルグとアレーティアは帝国兵士に見つからないよう慎重に進んでいた。

 

「なぁ、アレーティア」

 

「む? なんじゃ」

 

「なぜ、オレを助けてくれたんだ? わざわざ帝国を敵に回したせいでこんな逃げ回る羽目になって……」

 

 自分を助けるためにこんな状況に巻き込んでしまったことを心苦しく思いセルグはアレーティアへと問いかける。

 助ける理由などあるはずがないのに、なぜ助けたのだと。

 

「フォッフォ、お主が気に入ったから……ではダメかのう?」

 

「納得はできないな。あの状況で気に入るも何もないだろう」

 

「何を言うか。お主はあの女子(おなご)を助けるために飛び込んできたのじゃろう? それだけで儂が動くには十分じゃよ。お主の怒り様。あれを見ればどれほどお主があの女子を大切に思っておるのかわかるというものじゃ」

 

「……別にそういうわけでは」

 

「照れるでない。若い者の特権じゃ。好いた惚れたは若い内に楽しまんといかんぞ」

 

「だから、そういうわけじゃ」

 

「ホレ、静かにせんか。見つかるぞ」

 

「くっ、隠れ家着いたら覚えてろ」

 

 思う存分話せる状況になったらしっかり誤解を解こうと固く誓うセルグは、そのままヴェリウスの思念を元に秩序の騎空団の隠れ家へと急いだ。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 秩序の騎空団によって小型の騎空挺が用意され、一行は再び会議室へ集まっていた。

 

「それでは、確認しますね。ラカムさんを操舵士としたグループにはグランさん、カタリナさん、ルリアさん、オルキスさん。それから私が乗り込みます」

 

「こちらはオイゲンさんを操舵士にゼタさん、ヴィーラさん、イオちゃん、私。それから一応ビィって感じですね」

 

 リーシャとジータを中心にそれぞれのグループが集まり、互いの顔を見合わせる。

 

「こちらは私が、そちらはジータさんが指揮を執ってください。島に着くまではまず無事にたどり着くことを最優先です。島に到着次第、第四庁舎より一番遠いこの地点の隠れ家に集結します」

 

 リーシャがアマルティアの地図を指し示す。第四庁舎から一番離れたところにある小屋と思わしき場所が合流地点のようだ。

 

「ここであれば残留している団員達もいるかもしれない。もしいなければ、今は使われていない昔の隠れ家なども探します。拠点の攻略の前に状況把握が先であることを念頭に入れておいてください」

 

 現場につけば合流するまで連絡は取れない。あらかじめ確認できることはしっかりと確認しておく必要がある。一行は戦闘の役割も含めて確認を怠らなかった。

 

「わかりました。ゼタさん、ヴィーラさん。私は今回現地の団員さんの治療も考えビショップで行きます。前衛はお二人に任せっきりになってしまいますのでよろしくお願いします。イオちゃんは周囲をよく確認しながら、二人の援護をお願いね」

 

「リーシャさん。僕はウェポンマスターで前にでます。カタリナにはルリアを守ってもらわないといけないし、オイゲンは後衛。前衛は僕一人で押し切るから、リーシャさんは中衛でその場の状況把握と指示に集中してください」

 

「それは頼もしいのですが……お一人で大丈夫ですか?」

 

「打ち漏らしは出るかもしれないけど、突破するのなら、一人で十分です。任せてください」

 

 自信ありの表情で見据えてくるグランに、リーシャはそれ以上疑問を抱くことはない。やるといったらやる。それができる実力があることはよくわかっているのだ。

 

「それでは、行きましょう。皆さん。現地で必ず合流しましょう」

 

「はい!」

 

 声を揃えて返事をすると皆それぞれに小型艇に乗り込む。最初から命のかかった作戦に緊張感が漂う中、二艇の騎空挺は一行を乗せ空へ飛び出した。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 アマルティアの空を砲弾が飛び交う。

 次々と戦艦から放たれる砲撃。地上からはアドヴェルサが砲撃を放ち、硝煙が漂う中、一行を乗せた小型艇はその中を縫うように駆け抜けていく。

 

「うっひゃーー!! なんて勢いだっての」

 

「ラカム!! なんで少し嬉しそうなんだよ!?」

 

「当たり前だろ! こんだけ難易度の高い航行、人生で一度あるかないかだ。しっかり楽しませてもらうぜ。っつーわけで、ちょいとマジになるから舌噛まねえように口閉じてろよ!!」

 

 ラカムが口を閉じた瞬間、ラカムの表情がガラリと変わる。狙撃をするときのように鋭い目つきとなり、硝煙の漂い方から風を、手に握る舵から艇の挙動を把握。次の瞬間には紙一重で砲弾を躱し、小型艇は急速に速度を上げる。尾翼の小さな動きが、風を捉え、舵の重さから細かく小型艇の姿勢を調整。瞬きもしない極限の集中の中、砲弾の嵐を避けて、ラカムは小型艇をアマルティアへと向ける。

 

「ぐっ、このぉお!!」

 

 再度すれすれを過ぎていく砲弾に後ろに乗る仲間たちがゴクリと唾をのみ込んだ気配がした。それでも、速度を抑えることはしない。

 高速艇ともなればその速さは戦艦の砲手とて簡単に追い切れる速度ではない。ましてや島に接近すればするほど、その動きは捉えにくくなるだろう。

 であるならまともに狙われているここを抜ければ、砲撃は一先ず潜り抜けられるのだ。

 張り詰めた神経をギリギリの綱渡りをしているような気分でつなぎ留め、ラカムは舵を握る手と視界に入る情報に意識を集中し続けた。

 

「――――抜けた!! 着陸するぞお前ら! しっかりつかまってろ!!」

 

 数舜。砲撃の嵐が途切れた瞬間に、ラカムは抜けられたことを確信しさらに速度を上げる。地面があっという間に近づいてきて仲間たちの顔から血の気が引く中ラカムはギリギリのタイミングで騎空挺の船首を上げ、地面に胴体着陸。ゆっくりと着陸する余裕は無いというリーシャの言葉に忠実に従い墜落に近い勢いでアマルティアへと着陸した。

 

 

 

「ラカムは行ったか……こっちも行くぞ。舌ぁ噛まねえように気をつけろよ!!」

 

「オイゲンさん! 信じてますから!!」

 

「おうよ! 任せとけ」

 

 ラカムが動き出すのと同時にオイゲンも動き出していた。ラカムとは違い、オイゲンは戦艦の砲門の向き、地上からのアドヴェルサからの砲撃を正確に把握し、できる限り狙いにくいところへとフラフラ飛んでいく。

 遠回りに見えるその航行はしかし、最も安全なコースを行く動きであり、狙いにくいオイゲンの艇よりもラカムの艇に砲撃が集中していく。

 

「お~お~、ラカムもやるじゃねえか。んじゃ俺も負けてられねえな!」

 

 オイゲンは次々と修正舵を取り、小型艇を巧みに操る。ラカムが砲弾の隙間を縫うように最短ルートを行くような動きなら、オイゲンは砲弾の嵐を読み切り確実に斜線を躱す堅実な動きだった。砲手が驚くようなトリッキーな動きで狙いをつけさせず着実にアマルティアへと近づく小型艇は島に近づいたところで、一気に減速。島の下側から回り込んだ小型艇は砲撃の射線を取らせないまま、森の中へとゆっくり着陸した。

 

 

それぞれ別の地点に降り立ったグラン達。

周囲を警戒しながら小型艇を降りればそこにはやはり、帝国の兵士が集まってくる。

完全に取り囲まれる前に方位を突破し、さらには振り切らなくては隠れ家には向かえない。すぐさま全力の戦闘モードに切り替わったグランとジータは、別の場所にいながら声を揃えた。

 

「よし……行くぞ!!」

「さぁ……行きましょう!!」

 

 アマルティアへと降り立った一行は、予定通りに森の中を駆けだした。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「もうすぐだ……この先の小屋が、秩序の騎空団の隠れ家らしい」

 

 セルグの案内で(正確にはヴェリウスの思念によるものだが)二人は秩序の騎空団の隠れ家の付近まで来ていた。

 道中何度か兵士に見つかることもあったが、増援も伝令も呼べぬままあっけなく二人に沈黙させられ、特に問題もなくここまで来たセルグは尾行されていないかも含め周囲の様子を確認しながら足を進める。

 

「それにしても先の砲撃音……何あったのかのう?」

 

 数十分程前、空を多数の砲撃音が覆った。帝国兵士が気を取られて空を見上げてるのをこれ幸いと二人は巡回中の兵士の間をすり抜けていたのだが、既にあぶりだしの砲撃はもうやり切ってるはず。何が目的の砲撃かはわからなかった。

 

「可能性としては、秩序の騎空団の増援が来たから迎撃に撃ってたってとこか……?」

 

「ううむ、それで自体が好転するとは思えんがのう……」

 

「リーシャが居ない今。モニカも動けない秩序の騎空団に勝ち目はない。多少の増援程度では砲撃もそうだが、ガンダルヴァを倒せない。状況は完全に手詰まりだろうな……」

 

「お主が本調子まで戻ればどうなのだ?」

 

 アレーティアがセルグに問いかける。

 数日体を休め、大分傷は癒えてきたものの、それでもセルグの体は全快とまではいかない。回復を待てば勝てる可能性はあるのではとアレーティアは考えた。

 

「厳しいな……傷は癒えているが本調子には程遠い。というよりはある程度以上の回復が見込めないといった状況だ」

 

 手を握りながら感触を確かめるセルグの調子は良くない……というよりは融合の反動が消えないのだ。傷は消えた。体を襲う鈍痛は消え、体を動かすのは問題無い。だが、融合によって体に残った疲労が消えていなかった。力を入れようと本調子の半分程度しか力が入らない。

 最深融合の反動か、それとも反動があるのに無理して戦ったからか。理由は定かではないが、セルグは今、培って来た剣技だけで戦うような状態であった。

 

「せめて、グランとジータでもいれば勝てる見込みもありそうだが……っていうかアレーティア。お前でもあいつには勝てないのか?」

 

「老人にあんなのを相手にしろとはお主はなかなかひどい奴じゃのぅ」

 

「まぁそりゃあ、あの状況でオレを抱えて逃げ切れるなら期待もするだろう」

 

「残念じゃが、あやつが相手では厳しいのは儂も同じじゃ。お主がいう通り、せめてグランやジータが居れば何とかなるかもしれんが」

 

「ん? 待て待て。グランとジータを知ってるのか?」

 

「ううむ。儂としてはお主が知っていることに驚きじゃ」

 

 拠点ももう目の前に見えてくるだろうというところでセルグは足を止める。

 何気なくアレーティアから出てきた名前に驚きを示し、セルグは詳しく話を聞こうとしたところで、その場に驚きの声が上がった。

 

「まさか……セルグ!?」

 

「もしかして、アレーティアさん!?」

 

 セルグを呼んだのはグラン。

 逆の方からはジータがアレーティアを呼んでいた。

 

「お前たち……何でここに」

 

「ホッホッホ、これは面白いことになってきたのう」

 

 アマルティアにこの日、反撃の狼煙が上がるのだった……

 

 




如何でしたでしょうか。

さぁ、名前も出ました新キャラ。アレーティアさんです。
次回にはキャラ背景が出てくると思うのでここでは割愛。

団員が増えてグラン達は喜び、作者は戦慄しております(ビィとルリあの影がまた薄くなりそうです
最近出番の薄かった操舵士二人には今回見せ場をつくったぁ!って気分でしたが如何でしたか?
かっこいい二人になってたら嬉しいですね。

それではこの後の展開にもご期待下さい。

お楽しみ頂けたら幸いです。

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