granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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アマルティア最前線part2

オリジナル街道疾走中ですがご理解していただきたい。

それではどうぞお楽しみください


幕間 アマルティア最前線 2

 グラン達と別れ、ヴェリウスと空を行くセルグ。

 星晶獣であるが故ヴェリウスは疲れを知らない。普通の鳥ではできない島と島の移動も、ヴェリウスのおかげで騎空艇を持たないセルグには難しいことではなかった。

 

「ヴェリウス。本当に知らないのか? 記憶を取り戻す星晶獣について」

 

 ”そんなものは知らぬ。他の空域を股にかける秩序の騎空団なら文献でも何でもあるだろうと、目的地を決めたのは貴様であろう。何をいまさらグチグチ言っておる。”

 

「いや、それはそうなんだが、今あそこに行くと出られないんじゃないかと思ってな……」

 

 セルグは一先ずの目的地をアマルティアへと定めた。記憶を取り戻す星晶獣……そんな特異な星晶獣の情報がアマルティアにならあるのではないかとの考えからだが、何故かセルグの表情は芳しくない。

 セルグが言いづらそうに言うのはまた牢屋にぶち込まれないかという懸念だ。別れ際に帝国の調査任務への協力という名目でセルグは自由を与えられたはずだった。それが理由はあれど騎空団を離れ一人で自由に動いている状態なのだ。彼の懸念も仕方のないことだろう。

 

 ”それについてはお主でなんとかする他あるまい。あの小娘とて話のできる者のはずだ。お主が現在の状況を話せば理解も示してくれよう”

 

「そうだといいがな……ついでにいうとモニカは小娘って年じゃないぞ」

 

 ”たわけが。いかに年を取っていようが、幾星霜の年月を見てきた我から見れば、人など等しくジャリ以下よ”

 

「まぁ、そうだな……それにしても、お前とのんびり空を旅するのは久しぶりだな。期間にしていえば大した時間ではなかったが、アイツ等との旅は退屈することがなかったからな」

 

 ”ふんっ、我としてはほとほといい迷惑だと言っておこう。小僧どもと旅をするようになってからというもの、お主は遠慮なしに我との融合を使うようになった。いちいち呼び出される身にもなれ”

 

 妙に刺々しい態度のヴぇリウスに、不思議に思いつつもセルグはヴェリウスの小言を聞き流した。

 老人のお小言とはいつの時代もどんな生物でも若者には届かないものでセルグも例外ではないようだ。

 

「そういやお前、ルーマシーに付く前にフラっとどっか行っちまったが何していたんだ」

 

 ”お主の負担軽減のために本体とのパスを繋ぎなおして来ただけだ。感謝せぬか愚か者。先のシュヴァリエの娘との戦い。間違いなくお主は死の一歩手前まで行っておったぞ。全く無茶をしおって”

 

 アルビオンでの戦い。想定を超えたヴィーラの強さに仕方なく使った最深融合による反動。それはポーションを飲んだからと言って簡単に消えるものではなかった。

 今のセルグの体は見た目は何ともなくてもまさにボロボロの状態。筋肉、骨、さらには内臓まで、極度の疲労によってもたらされた肉体の破壊は呼吸ですら痛みを伴うほどにセルグの体を蝕んでいた。自然治癒に任せている今、セルグの完治にはおそらくそれなりの時間をかけなくてはならないだろう。

 

「そうしなければどっち道殺されていたさ。すでに正気を失っていたしな……アイツ等、ヴィーラの事を責めていなければいいが」

 

 ”何故あの小娘を庇う? あの小娘はいうなればお前を死の淵に追い込んだ張本人ではないか”

 

 僅かに苛立ちを混ぜてヴェリウスが吐き捨てる。ヴェリウスにとってセルグが死に掛けるほどの状況に陥ったのはヴィーラによるもの。セルグを友とするヴェリウスには簡単にぬぐえぬわだかまりが残っていた。

 そんなヴェリウスに小さな感謝を抱くも、セルグは窘めるように飛び続けるヴェリウスの首を撫でながら口を開いた。

 

「それを言うならオレは、ヴィーラに仲間を排除するという余計な重荷を背負わせたクソ野郎だ。発端も原因もオレにある以上、責められるべきはオレだ……先に切りかかったのもオレだしな」

 

 己の異能が、己の行動が、己の過去が、ヴィーラに暗く重たい決意をさせた。セルグが懸念するのは彼女とのことでグラン達の仲が拗れないかだった。

 

 ”そうだったな、お主はそういう奴であったな。相も変わらずなんでも背負い込むとする愚か者だ。お主がそんな風に思うことを誰も望んでいないというのに”

 

「だからこそオレは自分を戒めなければならないんだよ。アイツ等はきっと何をしてもオレを許してしまうから」

 

 ”……馬鹿者が、勝手にしろ。それはそうと、そろそろアマルティアが見えてくるころだぞ。身体は大丈夫か。小娘の前で位、シャキッとしておれよ”

 

 恐らく何を言っても無駄だとヴェリウスも悟ったのだろう。適当にセルグの言葉を流し話題を変える。

 

「わかってる。これ以上心配かけたくないからな。敵襲だと間違えられて撃ち落とされたりしないように、お前こそ気を付けて……」

 

 だが、それに答えたセルグの声が尻すぼみに萎んでいった。それと同時に彼の表情がみるみる驚愕に染まっていく。

 

「アマルティアから煙が……!? ヴェリウス高度を下げろ! 帝国戦艦だ」

 

 煙を上げるアマルティアと、次いで視界に入ったアマルティアに停泊しているエルステ帝国の戦艦を見て、セルグはヴェリウスに高度を下げるように指示。島の底のほうへと回り込み状況を確認する。

 

「どういうことだ……いったい何が?」

 

 ”状況が読めぬな……一先ずお主を一目のつかぬところに降ろそう。我は上空より状況を探ってくる。お主は隠れながら地上で状況を探れ。わかり次第思念で伝える”

 

「わかった。頼む」

 

 ヴェリウスがアマルティアの木々の中にセルグを降ろすと、体を小さくし、目立たないようなサイズになって飛翔していく。

 それを見送るとセルグもすぐさま周囲を警戒しながら気配を伺った。

 

「(周囲に人の気配はないが、遠くでは戦闘音らしき音。声も聞こえるな……帝国の戦艦が堂々と停泊していることから考えても、秩序の騎空団の拠点は落ちたか?)」

 

 冷静に状況を予測するが判断材料は少ない。だがそれでも、戦闘が勃発している事。ここが秩序の騎空団の拠点であり、そこに帝国の戦艦が当たり前に停泊していることから、平和的な状況でないのは確実であった。

 

 ”若造、戦闘が随所で行われているようだ。帝国と秩序の騎空団の両者がぶつかり合っている。だが、状況は……秩序の者達が絶望的だ”

 

 ヴェリウスの思念が届き、セルグは僅かに息を呑む。想定はできたが状況が絶望的とは思わなかった。まさかの事態にセルグの警戒意識が高まり、木々の中に身を隠すように移動を始める。

 

 ”あの小娘の姿が見当たらん。どうやら秩序の者達は指揮官がいない状態のようだ”

 

「(モニカがいない? 何がどうなっているんだ――状況が読めないな。一先ず誰かから話を聞く必要があるか)」

 

 セルグは周囲の音を聞き分け、戦闘音のするほうへ向かう。未だ痛みの走る身体だがこれでも多少の戦闘はできる。兵士程度であれば楽勝ではあるし、融合さえしなければこれ以上悪くなることもない。右手で天ノ羽斬の鞘を握ると、しっかりとした感触が返ってきて、ある程度チカラが戻っていることもわかった。今の状態で、厳しい相手となると可能性としては限られてくる。

 

「(魔晶兵士がたくさん……とかでもない限り大丈夫だろう)」

 

 頭に浮かんだ嫌な予想を振り払いながらセルグは音の聞こえる方向へと走り出した。

 

 

 

 

 ガシャガシャと鎧の音を立てながら、帝国兵士が走る。その先にいるのは比較的軽装で走る秩序の騎空団の団員。今は投獄されているモニカ直属の部下の二人であった。

 

「クソッ! ちょろちょろと逃げ回りやがって!」

 

 怒り心頭な様子で帝国兵士がいきり立つ。発見してからすでに十数分。必死な想いで追いかけているが秩序の騎空団にとって庭のようなものであるこのアマルティアにおいて、彼らを追跡して捉えるのはなかなかに骨の折れる事であった。

 

「――おい、次の角だ」

 

「了解」

 

 逃げる二人は冷静に状況を見定める。短い言葉で互いに意思の疎通を図ると、細い路地へと入り込む。

 

「クッ、逃がすか!!――ッグ!?」

 

 視界から消えた彼らを逃がすものかと、息が切れながらも追い縋ろうと兵士が角を曲がった時、兵士の意識は途切れた。

 角を曲がった瞬間に振りぬかれた銃による打撃。走りこんでいた勢いも相まって、兵士は後方に回転するように倒れこんだ。

 

「――見つかる頻度が高くなってきたな。数だけはバカみたいに多いもんだから徐々に逃げ場がなくなってきている。結局第四庁舎にも近寄れずか……このままではモニカ船団長が」

 

 兵士を仕留めたドラフの男が呼吸を整えながら落ち着いた様子で呟く。

 

「そうだな。こちらの戦力は少ない……正面切っての戦闘は自殺行為だし、ああも警備を固められては打つ手がない」

 

「向こうとしてはわざわざ出向いてやる必要はないって寸法だろう。モニカ船団長を捕えている以上取り戻しに来るのは確実とふんだんだろうな」

 

 苦虫を噛み潰すように表情を歪める。偵察に出たはいいものの状況は厳しいの一言に尽きた。指揮官であるモニカは囚われ、リーシャは島を離れている。第四騎空艇団の柱ともいえるべき二人がいないことは彼らにとって、月明かりのない夜の森を彷徨うのと同義だ。打開策も、突破口も見つからないまま二人は周囲を警戒して、他の追手がいないことを確認すると、慎重に待機している仲間の元へと戻ろうとする。

 

「っ!? 誰だ!!」

 

 ガサリと背後の森が音を立てた。

 すぐさま小さくも強い語気でもう一人のヒューマンの男が銃を構えて森へ視線を向ける。

 反応を示さない不審者に二人が動こうとしたところで突如、二人の目の前に何かが飛来した。

 

「――刀?」

 

「それでオレは丸腰だ。頼むから打たないでくれよ」

 

 森の中から声と共に一人の男が姿を現す。両手を上げて降参するように二人の前に歩み出てきたのは丸腰の状態のセルグであった。

 

「あなたは……確か少し前に島に拘留されていた」

 

「バカ野郎! S級警戒人物だぞ!! 構えろ、隙を見せるな!!」

 

 落ち着いたドラフの男と対照的にヒューマンの男はあわてた様に銃を構えなおす。対するセルグは呆れたようにため息を吐いた。

 

「はぁ……丸腰だって言ってるじゃねえか。何なら後ろでも向いてやろうか? ほら、これで落ち着いてもらえるかい」

 

「な、何のつもりだ……いまアマルティアは」

 

「落ち着けエリク。少なくとも敵対の意思はなさそうだ」

 

「その通りだ。モニカに頼みがあってきたんだが、どうやら緊急事態のようだな……えっと、ドラフのアンタはなんて言うんだ?」

 

「俺はレド。あなたは確か、セルグ・レスティアだったか?」

 

「あぁ、覚えてもらえててうれしい限りだ。さてレド、聞きたいことがいくつかあるんだが……ッ!?」

 

 聞き出そうとセルグが口を開く瞬間、森の中より銃声が響き渡る。

 

「レド! まさか見つかったんじゃ!?」

 

「急いで戻るぞエリク! すまないが話は後で頼む」

 

 そう言うや否や二人は森の奥へと駆けだした。向かう先は現在、少しずつ終結してきた仲間たちがいる場所。響いた銃声に最悪の事態を予感して全速力で駆けていく。

 

「(緊急事態か。隠れ家が見つかったといったところだろうな……加勢して信用を得れば聞き出すのも楽になるだろうか)」

 

 その場に残されたセルグは脳内で事態を想定、終えたところで彼らを追うように駆けだす。一先ずは状況が分からなくては何もできない。

 もしかすればモニカがいるかもしれないと、淡い期待を抱きながらセルグも森の中へと走って行った。

 

 

 

 ―――――――――――

 

 

 

 森の中にある小さな小屋。

 少なくはあるが終結していた秩序の騎空団の者が拠点としていた小さな小屋が帝国兵士によって発見。制圧部隊との激しい戦闘へと発展していた。

 

 数は騎空士達が圧倒的に有利ではある。発見されたとはいえ哨戒中の兵士など決して多くはない。だが、その中には不運なことに魔晶を持つ兵士がいた。

 

「グァッ!?」

 

 一人の騎空士が無残にも魔晶兵士によって叩き潰された。

 変異を遂げた魔晶兵士はその凶悪な四肢だけでも恐ろしい脅威となる。囲んで銃撃を放とうが、剣で切り付けようがお構いなしなその耐久力もあり、騎空士達の壊滅は時間の問題。

 絶対絶命の仲間たちの元へ、エリクとレドの二人が駆けつける。

 

「間に合ったか……だが」

 

「魔晶兵士か。こいつはまずいな」

 

 ギラリと駆けつけた二人に魔晶兵士が視線を向ける。その瞬間に命の危機を感じて怖気が走る二人だが、それ押し殺し仲間たちへ声を張った。

 

「ここは俺たちに任せて逃げろ!!」

 

「別の拠点に行け! 俺たちも後で合流する」

 

 エリクとレドの叫びに仲間たちは僅かな逡巡の後駆けだす。モニカ直属の部隊であった二人であれば時間を稼いだ後逃げられると取ったのか、それとも全滅するよりは良しと見たのか。それは定かではないが、それでも二人は彼らが逃げてくれたことに安堵した。

 

「さて、エリク。なんとかするか」

 

「かっこいいこと言っといてなんだけど、俺何ともならない気がしてるわ」

 

「少しだけかく乱してから逃げるだけなら……まぁ、なんとかなるかもしれんな」

 

「おい、おまえもそんなんかよ。よくもまぁぬけぬけと合流するとか言えたもんだ」

 

 絶体絶命である状態で二人は軽口を言い合い小さく笑う。

 怯えてても、やる気にあふれすぎてもこの場合は良くない。撤退が目的であれば、視野を広げ、一瞬の隙をついて逃げ出す冷静さが必要なのだ。

 二人は意識せずともそれをできるくらいには優秀であった。

 手に握る銃で牽制をかけて撤退戦を始めようとした時、二人の頭上を黒い影が通り抜ける。

 

 一閃……鞘から抜き放たれた刀は白光を纏い魔晶兵士が剣を握る右腕を断つ。続いて魔晶兵士の背後に降り立った影はそのまま回転と共に二閃目で足を断つ。倒れこんだ魔晶兵士に三閃目。その首を刈り取り魔晶兵士を絶命させる。

 

「不意打ちで悪いが、こちらも万全ではないのでな……」

 

 少しだけ申し訳なさそうな声を発して、魔晶兵士を刈り取ったセルグは鞘に天ノ羽斬を収めると二人へと向き直った。

 

「さて……ちょうどいい状況だ。聞かせてもらうぞ。今のアマルティアの状況をな」

 

 問われた二人に否はなかった。

 助けられたこともあるだろう……本来であれば死を覚悟して臨む戦いがあっさりと終わりを告げたのだ。それも二人にとっては何の苦もなく。目の前に躍り出て脅威を排除してくれた恩人であれば是非もない。

 だが、そんな感謝の念よりも先に二人の心は恐怖に染まっていた。魔晶兵士を瞬く間に倒す実力もそうだが、何よりも恐ろしきは今しがた命を刈り取ったというのに何の感慨も持たずに質問を投げかけてくる事だった。セルグの雰囲気は断れば死を予感させるほどにあっさりとしすぎていたのだ。

 

「げ、現在アマルティアはエルステ帝国の支配下にあります」

 

「お、おい。レドこいつは」

 

 口を開いたレドをエリクが止めようとするが、レドは聞く耳持たず続ける。

 

「昨日、アマルティアに帝国戦艦が襲来。応戦はしたもののモニカ船団長の敗北と共に我々は拠点を奪われ、各地で小規模なゲリラ戦を繰り広げているところです」

 

「モニカが負けた? それは本当なのか? 俄かには信じがたいが……」

 

 続くレドの言葉にセルグが驚きを見せる。モニカの実力が確かなのはセルグも知っていた。

 組織の戦士が襲撃した際、怒りに染まりながら全力で戦うモニカを見たのだ。彼女の剣の腕は確かであり、セルグが相手でも十分に渡り合える実力者のはずであった。

 

「船団長を倒したのは帝国の指揮官ガンダルヴァ。かつてこの第四騎空艇団の船団長だった男です」

 

 ガンダルヴァの名前を聞いた瞬間、セルグの雰囲気が変わる。先程まで驚きに染まっていたセルグは納得したように頷きながら、小さな怒りをその瞳に燃やしていた。

 

「ガンダルヴァか――、それならわからなくもないか。それで、やられたモニカは今どうしているんだ?」

 

「――それを聞いてどうするおつもりですか?」

 

「決まっているだろう。モニカを助けに行ってくる。場所さえわかればどうにでも――」

 

「それなら、俺たちと協力してもらえませんか? あなたほどの実力者がいれば拠点の奪還だってできるかもしれない。我々の隠れ家に一度来ていただき一緒に作戦を」

 

 僅かに見えた希望。先程の戦闘だけでもセルグの実力が確かなのは十分にわかる。さらに彼の肩書はS級警戒人物という危険ではあるが実力という意味では申し分ない肩書だ。協力を申し出るレドは、セルグがいればモニカ奪還の可能性が高まると考えたが、セルグの答えは決まっていた。

 

「悪いがお断りだ」

 

「な、何故ですか!? 我々も多少は戦力に」

 

 言い募ろうとするレドを手で制してセルグは続ける。

 

「そんな悠長なことを言ってる場合ではないだろう。お前たちはまだこの島に潜伏していて、ゲリラ戦を仕掛けているんだったな。先の話でも隠れ家というのがあるようだし、それはまぁいいとして。そんな状況で、捕えたモニカに何もしていないと思うのか?」

 

「そ、それは……」

 

「答えは決まりきっている。島の全土に偵察の手を伸ばすなんて非効率極まりない。情報を持ってるかもしれないモニカに拷問でも何でもして吐かせるだろう――アイツの事だ。決して吐きはしない。こうして悠長に話している時間なんてあるはずがない」

 

「し、しかし……焦って事を仕損じては」

 

「だから、今すぐ動けるオレが行くだけだ。お前たちにはお前たちの事情もあるだろうしすぐ動けない秩序の騎空団に合わせるつもりはない。なによりS級警戒人物との協力関係など、お前たちにとっては百害あって一利無しだ。お前たちはお前たちで動いていればいいだろう」

 

「フン、話にならないじゃないか。一人で何ができるってんだよ!」

 

 自分たちの助けなどいらないという態度のセルグに憤慨してエリクは背中を向けた。対してレドは沈黙し思案する。

 しばらくの塾考の後にレドは口を開いた。

 

「船団長が囚われているのは第四庁舎です。恐らくは収監されているでしょうから建屋二階の背面側のどこかにいると思われます」

 

 塾考の末、レドはセルグに己の持つ情報を伝えた。

 現状彼らにモニカを奪還する術はない。それは偵察に行ったレドだからこそわかる事実。自分たちの手で助け出したいという願いはあったがセルグの言うようにモニカが危険な目に会っていることを想定すれば事は急を要する。

 縋るような想いでレドは、セルグに希望を託した。

 

「了解した。助かるよ」

 

 必要なことを聞いたセルグはすぐさま彼らに背を向けて歩き出した。

 

「どうか、船団長をお願いします……」

 

 律儀に頭を下げるレドに、セルグは内心に、呆れと感嘆を覚えた。S級警戒人物との接触。それは秩序の騎空団にとっては大きな意味を持つはずだ。勝手に協力関係を結ぶなど以ての外だと……そう思うからこそセルグは突き放したわけだが、それでもレドはセルグに対して頭を下げた。実直な姿に好感を持ったセルグは、感じた呆れを声に乗せながら言葉を返した。

 

「――任せとけ、なんて答えるほどお前たちと親しくなったつもりはないが、安心しろ。アイツとは酒盛りに付き合う約束があるんでな……こんな状況じゃ約束もクソもないだろう? 必ず助け出してくるさ」

 

 言外に任せろと言うセルグの言葉にレドはとうとう涙を滲ませる。

 頼り切るわけではない。自分たちもこの後仲間と合流し、奪還の作戦を考え後を追うつもりだ。それでも今は、セルグの言葉が頼もしくて仕方なかった。

 

「お願いします……」

 

 重ねた願いの言葉を受け、セルグはヴェリウスを思念で呼ぶ。

 

「(さて、出番だぞ。ヴェリウス)」

 

 ”そのボロボロの体でまた無茶をするつもりか? 飽きもせずよくもまぁ背負い続けるやつだ”

 

「(半分はオレがガンダルヴァを仕留められなかったのが悪い。ガロンゾで仕留めておけばこうはならなかっただろうさ)」

 

 ”そもそもお主はあの時取り逃がしたわけでもなく不意を突かれ、やられていたではないか。流石にそれで仕留めなかった自分が悪いというのは無理が過ぎる”

 

「(いつものことだろ……そんなのは)」

 

 ”――あぁ、いつもの事だな”

 

 一目のつかないところにでるとセルグはヴェリウスに乗り、第四庁舎へと飛翔した。

 向かう先は囚われた小さな勇者の元。モニカの無事を願いながら、セルグはヴェリウスと共に空を駆けた。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「――――んっ、くっ……ぁ」

 

 小さな格子窓が一つあるだけの牢獄。薄暗く静かな牢屋の中で、モニカは目を覚ました。

 目覚めと同時に、脇腹へと響く鈍痛に寝ぼける暇もないまま意識を覚醒させて、モニカは現状を把握する。

 

「(ここは……第四庁舎の拘留室か。ご丁寧に手まで縛ってくれるとは、よほど私が怖いと見える)」

 

 一応は簡易的なベッドに寝かされていたが、モニカの手には手錠がかけられており、体を走る鈍痛から治療なども施されていないと見えた。

 痛み故深くは吐けない、浅い溜息と共にモニカはそっと目を閉じる。

 神経を研ぎ澄まし、傷つけられた体の状況を把握していく。

 恐らくあばらは折れているだろう。最後にもらった一撃はそれだけの威力があったし、やんわりと触っても走る鈍痛は呻きたくなるほど強烈なものである。体のどんな動きにもかかわるであろう部分の骨折に、モニカは嫌な顔をしながら続いて腹部を触る。コチラも触れば鈍痛が走った。内臓までは痛手を受けていないだろうが、内出血くらいはしているだろう。

 

「つぅ……二度も思い切り蹴りつけおって。私をなんだと思っているんだあいつは」

 

 腹部とあばら。二か所に走った痛みにモニカは直前の戦いを思い出す。互いに得物を持っているにもかかわらず、自分はボールのように蹴り飛ばされ、枯れ木のように蹴り倒された。妙にぞんざいなやられ方に憎まれ口の一つも叩きたくなるというものだ。

 

「(状況はわからないがまずは大人しくしておくべきだな……この状態ではどうせ何もできん。いずれは伝令を受けてリーシャも駆けつけるはず。恐らくは彼らも――)」

 

 そう結論付けて、モニカはそのまま寝ている状態を装う。目覚めたと知られれば、何らかの接触があるだろう。目的まではわからないが、モニカを殺さず生かしておいたということは、生かしておかなければいけない理由があるからだ。

 態々相手に付け入る隙を与えまいと、目覚めの気配を殺したが、それは無駄な努力に終わる。

 

「起きたのならそう言えってんだよ。寝たふりを決め込むとは意地の悪い奴だ……」

 

 牢の扉が重苦しい音と共に開くと、その先からガンダルヴァが現れた。ジロリと見据えてくるガンダルヴァの目は怒りと嘲笑を孕みモニカに向けられている。

 

「なんだ、居たのか。そっちこそ、態々人が起きるまで近くで待っているとは意地の悪い奴だ」

 

 対するモニカはガンダルヴァの言葉に皮肉で返す。目覚めたと同時にこの場に現れるとは、きっとモニカの目覚めを今か今かと待っていたに違いない。乙女の寝顔を眺めていた趣味の悪い奴という意味も込めてモニカは辛辣に言い放った。

 

「ふん、良い様だな。秩序の騎空団、第四騎空挺団船団長モニカが、手枷をはめられ牢獄の中とは」

 

「ふっ、自分でここにぶち込んでおいて、よくも抜け抜けとそんなことが言えるものだ」

 

「だから言ってんだよ。あのとき俺様に止めを刺していればこうはなっていなかっただろう。戦いに非常になり切れないその甘さが、今も昔も変わらない俺様とお前の決定的な差だ。強さだけかと思ったら、中身まで腑抜けになっちまいやがって」

 

 残念そうな声音で呟かれるガンダルヴァの言葉を聞きモニカの心に灯がともる。

 

「貴様のような戦闘狂と一緒にしないでもらいたいな。昔も今も、私の掲げる理念は変わらない。どんな者も正しき秩序の元に裁定を下す。青の騎士を信じて掲げた理念を、私は曲げはしない」

 

「それが甘いんだよ。どんな綺麗事を並べようが、正しい正論を並べようが、力は力だ。お前も、俺様も……そしてあのクソ野郎のヴァルフリートも、結局は力に頼ることしかできねえ。てめぇが信じるヴァルフリートも最後には力で俺を追い出しただろうが」

 

「ふっ、まるで子供の癇癪だな。もしかしてあれか? 青の騎士への嫌がらせのためにここを襲ったのか? だとしたらとんだお笑い草だな。つまらない男になったのはむしろお前のようだガンダル――」

 

 瞬間、モニカの体が宙を舞う。ガンダルヴァがベッドを蹴り上げ、宙に浮かんだモニカの首元を掴み上げた。怒りの形相を見せながら、ガンダルヴァは唸るように口を開く。

 

「お喋りはここまでだ。てめえのお仲間がまだチョロチョロと抵抗してやがる。どこかを隠れ家にしているようでな……こういった時の対処として合流場所とかを決めてあるんだろう? さっさと吐いてもらおうか」

 

「ぐっ――話すと思っているのならとんでもない侮辱だな。おとといくるといい」

 

「あぁ……そうかよ!!」

 

「ッ!?」

 

 声に力が入りガンダルヴァの剛腕がモニカの腹部に突き刺さる。不意打ちで抉り込むように突き刺さった拳にモニカは声を上げることすらできず、激痛に身を捩った。

 

「あっ……かは」

 

 漏れ出る吐息に交じるだけの微かな苦悶の声。今のだけで意識が途切れそうなものだが、それでもモニカの意識はまだ続いている。途切れずに保ってしまった意識は次なる機会をガンダルヴァに与えてしまう。

 

「もう一度聞こう。こっちもあまりのんびりしたくはないんでな。隠れ家となる拠点はどこにある?」

 

「うっ……ぐ、知らんな」

 

 激痛に悶えながらも、モニカは力を振り絞り拒否の意を示す。

 次の瞬間には骨折している脇腹に拳が振るわれた。

 

「あ"ぁぁあ"あ"あ"!!」

 

 視界がぐるんと裏返り、激痛にモニカの意識が飛ぶ。だが、それで終わることを許さず痛みに意識はまた戻され、訴え続ける痛みの信号がモニカの脳髄を焼いた。

 

「あっ、あぁ……」

 

 もはや身を捩ることすらできない力抜けた体を晒すモニカに、ガンダルヴァが苛立ちを募らせる。

 

「チッ、やりすぎたか……これじゃ受け答えもまともにできねえ」

 

 仕方なく治療用の魔導士を呼びつけようとしたところで、第四庁舎に轟音が響く。まるで建物を破壊せんばかりの衝撃と共にその音の発生源はガンダルヴァの元へと向かい、牢屋の壁をぶち破って現れた。

 

「ガンダルヴァあああ!!!」

 

 轟音の中から絶叫と共にセルグがガンダルヴァに向かう。モニカの悲鳴を聞きつけた瞬間にその居場所を察知して、セルグは瞬時に天ノ羽斬を開放。居並ぶ牢獄を全てぶち破り、最短ルートでこの場に辿り着いたのだ。

 

「てめえは!?」

 

 セルグの乱入にガンダルヴァは冷静に対応する。掴んでいたモニカを放り投げ、携えていた剣を抜剣。全力で叩きつけられる天ノ羽斬を防いだ。

 だが、放り出されたモニカを黒い影がすぐさま回収する。

 

「ヴェリウス!! すぐにモニカを連れていけ!! レド達のところに連れて行けば治療は受けられるはずだ!!」

 

 ヒューヒューと小さく歪な呼吸音が鳴るだけのモニカの様子に危険な予兆を感じ取り、ヴェリウスも戸惑うことなくその指示に従った。

 

 ”心得た! 先に行っておる。決して無茶はするでないぞ”

 

 すぐさまヴェリウスは外へと繋がる壁を破壊して飛翔せんと羽を広げようとしたが、それはガンダルヴァに阻まれた。

 

「バカが! 行かせるわけがねえだろ! アドヴェルサ起動。撃ち落とせっ!!」

 

 ガンダルヴァの声に外で待機状態だったアドヴェルサが起動。モニカを背負い飛び立つヴェリウスにその照準が向けられた。

 

「させるかよ!! 絶刀招来天ノ羽斬!!」

 

 セルグもアドヴェルサを破壊すべく奥義を放つ。放たれた極光の斬撃にアドヴェルサは成すすべなく沈黙し、脅威の消えた空をヴェリウスが飛び去った。

 突然のセルグの乱入。まさかの乱入者であり、あっけなくモニカを奪われるまさかの事態にガンダルヴァが殺意を込めて、セルグを睨みつける。

 

「てめぇ……いい度胸じゃねえか。こうまでしてやられるとは思わなかったぜ」

 

「それはこっちも同じだ。随分手荒い真似をしてくれたな。今度は全力で殺してやる!!」

 

 対するセルグも殺意を込めてガンダルヴァと対峙した。モニカのあの姿を見た瞬間からセルグに止まる気はない。ヴェリウスが飛び去ったのならばモニカの安全は確保できただろう。であれば、後顧の憂いを断つ為にここで目の前の暴君を消す。

 ガロンゾで対峙した時とは違い、互いに全力の殺意を込めて睨み合う両者の戦いは最初から全開の幕開けとなった。

 

「フルスロットル!!」

 

「光来!!」

 

 互いに自己強化をかけて真っ向からぶつかり合う。盛大な音を撒き散らしながらぶつかる刀と剣が離れると、すぐさま次の打ち合いが始まりその剣戟はとどまることを知らぬまま勢いを増していく。

 

「ッツ!? グッ!!」

 

 だが、怒りで意識の隅に追いやっていた痛みがセルグの動きを阻んだ。元々まともに戦える状態ではなかったにもかかわらず怒りのままに建物へ突撃。アドヴェルサの破壊のためにノータイムでの奥義の敢行と、彼の代名詞と言っても過言ではない無茶というものをすでにセルグはいくつも繰り広げている。

 痛みに僅かに硬直したセルグの隙を逃さずガンダルヴァが攻勢を強めた。打ち合いの衝撃のたびに広がり始める痛みにセルグが徐々に後退する中、耐えきれずに体勢を崩したセルグにガンダルヴァの剣閃が牙を剥く。

 

「くっそがぁ!!」

 

 間一髪。受け流すように間に刀を割り込ませ、セルグは攻撃を躱した。だが、躱した直後の隙だらけになったセルグをガンダルヴァが逃すはずもなく、掌底が叩き込まれる。

 声を上げる事すらできないまま、セルグは自らが明けてきた穴を通りいくつもの部屋を通り過ぎて吹っ飛んでいく。

 たった一撃……ガンダルヴァの実力が上がっているのもあるかもしれないが、掌底を受けただけでセルグの身体はもう言う事を聞かないほどのダメージを受けていた。

 

「グッ、く、このぉお……」

 

 痛みにうめきながらも必死に立ち上がろうとするセルグに、ガンダルヴァは警戒をしながらも歩み寄る。あまりにもあっけなさすぎるセルグの姿に疑問は抱きつつも、完膚なきまでに敗北したことを彼は忘れてはいない。どんなに優勢であろうと、どんなにセルグが弱く見えようとも。今のガンダルヴァに油断はなかった。

 

「どうやら本調子じゃねえみたいだな。おかげで楽に借りが返せそうだ――さて、死んでもらうぞ」

 

「くっ」

 

 身体は動かず味方もいない。絶体絶命の状況にセルグはガンダルヴァを睨み付ける事しかできない。

 不甲斐ない。情けない。様々な自身への罵倒が駆け巡るも、いかに罵倒して奮い立たせようと身体に力は入らなかった。

 

 

「うぅむ、どうやら不穏な状況のようだのぅ」

 

 

 そんな中、落ち着いた男性の声が二人の間に割り込んできた。

 怪訝な表情と共にガンダルヴァが声の主に視線を向けるとそこには、恐らく元々拘留されていたであろう老人がそこにいた。

 目深にかぶった帽子と、よれたマント。腰に刺さる二本の剣から旅の剣士といった所だろうか。帽子で表情は隠れて見えないが、その雰囲気はこの状況を見て尚、落ち着きはらっている。

 

「あん? なんだ爺。お前さんどこから出てきた?」

 

「何を言うか帝国の軍人さんよ。元はと言えば扱いが面倒だとお主らが儂をここに放り込んだんじゃろうて」

 

「おぉ、そいつは悪かったな。それじゃどこにでも行っていいから邪魔だけはするんじゃねえぞ」

 

 老人の相手も程ほどに、ガンダルヴァはセルグへと視線を戻す。

 借りを返す絶好の機会を逃すわけがない。剣を構えて、そのまま振り下ろした。

 だが……

 

「ッツ!? 爺……てめぇ」

 

 先程の老人が割って入る。腰に差していた剣を抜き放ちガンダルヴァの剣を受け止める姿は間違いなく練達した武人の気配を醸し出していた。

 

「目の前で若人が殺されようというときに、動かぬわけにもいくまい。ましてやそれが女子を守るために飛び込んできた優しき若人ならばな」

 

 飄々とした声でありながら、老人は虎のごとく鋭い目付きでガンダルヴァを睨み付ける。

 その双眸に強者の気配を感じると、ガンダルヴァは一度退いた。

 

「爺……てめぇ何者だ?」

 

「その辺にどこにでもいる老人と変わらぬよ。剣が使えること以外はのぅ」

 

「ほぅ……いい度胸だ。面白そうじゃねえか!」

 

 突如舞い込んできた強者との出会いにガンダルヴァが笑みをこぼす。再び臨戦態勢へと戻ったガンダルヴァを前にして老人は剣を収める。

 

「ううむ……お主の相手はちと骨が折れそうだのぅ。悪いがここはお暇させてもらおうか」

 

「何ぃ……?」

 

 ガンダルヴァが疑問符を浮かべた瞬間。一瞬の気が抜けた時を狙って、老人は剣を抜き放ち二閃。

 二人の間の天井を崩落させ、瓦礫で目の前を塞ぐとすぐさまセルグを抱えて逃走した。

 老体でありながら二階から飛び降り、軽やかな足取りで近くの森へと逃げ込む老人に、ガンダルヴァは事態の推移をみることも適わないまま、二人を取り逃してしまう。

 

 数分の後、第四庁舎にはガンダルヴァの怒りの咆哮が轟き渡った……

 




如何でしたでしょうか。

モニモニ、、、申し上げておきますが作者はモニモニ大好きです!!シナリオ上仕方なくあんな目に、、、モニモニファンの皆様申し訳ありませんすいません。許してください
さてさて、やっとの思いで出せたこの新キャラ。
正直口調とか大分怪しいですがわかる人には分かるかと、、、
恐らく半年くらい前のアンケートからの結果になります。
出演のタイミングは2回目のアマルティア編と決めていたので予定は変わっていないのですがここまでくるのに時間がかかりすぎましたね。
もし忘れず待っていた方がおりましたら申し訳ありませんでした。
イベント、過去編、特別編と浮気ばかりしていた作者のせいであります。

今後の展開にご期待下さいといったところで、それでは。

お楽しみ頂けたら幸いです。

感想……お聞かせくださいm(_ _)m (要約 寂しいです

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