granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
次もそこそこ出来上がっております。
ドンドン楽しくなってきております。
読み返して自分の作品を自ら楽しむ気持ち悪いじょうたいです。
でもちょいちょいまた評価をいただき感激しております。
それでは、お楽しみください
ルーマシー群島周辺ではエルステ帝国が誇る戦艦がいくつも滞在し、砲撃を続けていた。
目標は一つ。ルーマシーを覆う繭を破壊するため……
その内の一隻、宰相フリーシアが乗る戦艦の艦橋には彼女の苛立ちが表れた怒声が響き渡る。
「アドヴェルサ全機起動!! 各兵装全て自由です! なんとしても――あの荊を破壊しなさい!!」
ルーマシーを覆う荊の繭を破壊するため、フリーシアの命令に即座に帝国兵士達は動き出す。瞬く間に集中砲火が始まり、ルーマシー周辺は火薬の匂いと轟音に包まれるも、その効果は微々たるもの。思うような結果が得られず、フリーシアは唇を噛んだ。
「ふざけるな……あと一歩。真の世界が手に入るまであと一歩だったのだ――なんだあの星晶獣は!? ヒトが星晶獣に変わるだと? 奴らの中に紛れていたのか。マリスを抑え、あまつさえ我々を島から追い出し、島を荊で覆うなどと。守護神にでもなったつもりか!」
突如帝国の目の前に顕現した星晶獣はそのチカラでユグドラシル・マリスを抑えつけ、更には兵士達を蹂躙し、フリーシアに猛烈な攻勢を仕掛けた。幸いにも魔晶で呼び出したリヴァイアサンやミスラを使い、なんとか逃げおおせることはできたものの、島を脱出した瞬間に次々と島を荊が覆い始めたのだ。
様々な兵装で攻撃を加えているが、荊の強さは尋常じゃなく貫ける気配は見られない。停止したアーカーシャも遺跡の中にあり手ぶらで帰還したフリーシアにとって、現状は想定される最悪の事態であった。
「人形の裏切り。それによるアーカーシャの停止。そのままルリアと共に人形も奪われ、切り札のマリスも失った。更に肝心のアーカーシャはルーマシーに残されたまま、こうして島を締め出されている。これ以上にないほどしてやられたではないか――例の騎空団を追った部隊から連絡は!」
「ハッ! 先ほど伝令があり、敵の騎空艇の早さが思いのほか早く、追従を断念したと」
小規模の追撃部隊を編成しグラン達を追わせていたが、その成果も無し。もはや八方塞がりな状況にフリーシアの苛立ちが増していく。
「チッ、役立たず共が……」
「フリーシア宰相閣下。お耳に入れたいことが!」
思わず舌打ちと悪態が口を出てしまったフリーシアの元へ、慌てたように兵士の一人が報告にやってくる。
「なんです? 今はそれどころでは」
「本国からの通達です――――とのことです」
兵士に耳打ちされたフリーシアの顔がまたも歪む。
「わかりました――貴方達はこのまま攻撃を続けなさい。高速艇の用意を。私は一度本国へ帰還します」
「ハッ! 攻撃を続行するぞ、全砲座に人員配置!島からの攻撃も考えられる。警戒は厳にしろ!」
命令を受けて即座に動き出す兵士に冷めた目を向けながら、フリーシアは期待をしないでその場を後にした。
「(面倒な時に面倒な事を……あの男、一体何を考えている?)」
通路を歩きながら思考するフリーシア。この火急の事態に本来であれば戻りたくは無かったが、戻らざるを得ない相手から呼び出しであった。脳裏にその相手のにやけた顔が思い浮かぶ様な気がしてフリーシアは不機嫌そうに首を振る。
「これ以上、面倒なことにならなければいいのですが……」
嫌な予感程当たると言うが、今のフリーシアはその予感が現実になる事を、半ば確信しながら高速艇に乗るため戦艦内を歩いていくのだった。
ルーマシーより脱出したグラン一行。
命からがらといった状態で出てきた彼らは、帝国の追っ手を振り切り一先ずの休息を取るため、ルーマシーより近いアルビオンへと停泊していた。
だが、なんとかアルビオンには着いたものの、上陸することなくグランサイファーの甲板で誰しもが俯いて言葉を発せないでいた。
疲労のせいもあるだろう――島についてからすぐに帝国の襲撃。怒りに任せての全力の戦闘の後にゼタやオイゲンはギルガメッシュ達との戦いが有り、先に向かったグラン達はどんな攻撃を繰り出しても倒せない化け物となったユグドラシル・マリスと戦い続けたのだ。
アーカーシャの起動に継ぎ、異変が起きたセルグとの攻防。そのまま森を挙げての追撃を逃れる撤退戦。
どれだけの時間神経を張り巡らせていたのかわからない程、彼らは長い時間を戦い抜いたのである。
だが、彼らが静かな理由はそれだけではない。
「――ロゼッタ」
グランが小さく呟いたその名は一向に影を落とす。
ルーマシー脱出の際、一人島に残り彼らを見送る事になった彼女の存在が、皆気がかりで仕方なかった。
「ねぇ、ジータ。ロゼッタはなんで残ったの?」
最後まで残ってたジータなら何か聞いているだろうか。そんな思考の元ゼタが問いかけると、話しかけられたジータは疲れで下げていた視線を上げると口を開いた。
「――魔晶のチカラによって、ユグドラシルは崩壊寸前のギリギリまで追い詰められてしまったそうです。ロゼッタさんは、誰かがユグドラシルの傍にいてあげなければいけないって……そう言ってました」
「それからもう一つ。ロゼッタさんから言伝が有ります。皆さんに向けて……」
ジータから引継ぎリーシャも口を開いた。
「ロゼッタから言伝?」
「はい――”貴方達にはあの子を救うチカラがある。より良い未来へたどり着くチカラがある。それで、私達を救って欲しい”、と……」
それは彼らに向けた懇願――自分ではどうすることもできなくて彼らに望みを託した彼女からの真摯なメッセージ。
ロゼッタの言葉を受け取った仲間達は胸中で心を震わす。
信じて託されることのなんと嬉しい事か。胡散臭い一面はあったが彼女も確かな絆を深めた仲間である事を改めて感じた。
決意新たに、疲労で俯いていたグランとジータの瞳に力が宿る。それはどこまでも広がる空のように深い強さを秘めていた。
「皆、しっかり聞いて欲しい。私もグランも絶対に諦めない。絶対にロゼッタさんを助ける、絶対に黒騎士さんも助ける」
「そして最後にはオルキスも黒騎士も、そして僕達も笑える、一番の結末を手に入れる。確かにマリスには手も足も出なかった……僕もジータも正直不安だ。だけど、だったら強くなればいい! 今のままでダメなら今よりもっと強くなればいいだけだ……だから皆、一緒に付いてきてほしい」
双子が揃って仲間達へと頭を下げる。危険な戦いが待ち受けるであろう道に再び飛び込もうとすることを申し訳なく思い。だがそれでも皆の力が必要だと助力を求めるため。
「グラン、ジータ――」
そんな二人の言葉に仲間達は重苦しい空気に包まれる。二人を見る彼らの表情は窺えない。
反応がないまま訪れた沈黙がグランサイファーを支配する中、一人が声を挙げた。
「へっ、何を今更! 任せてくれグラン。次は奴さんに風穴開けてやらぁ! 大体俺がいなきゃ誰がルーマシーまでお前達を届けるってんだ」
ラカムが快活に笑いながら声を挙げる。続いて口を開くのは――
「その通りだな。操舵士がいなきゃ話にならねえだろ。ましてやヒヨッコ操舵士に命を預けるわけにはいかねえもんな!」
ラカムを挑発するように言葉を投げたオイゲンだ。
「んだとぅ、上等だオイゲン! そろそろこの俺が上だってことを証明してやろうじゃねえか!」
「おぅおぅ、やってみな。返り討ちにしてやるぜ」
先程の沈黙はどこへ行ったか、女子でもないのに姦しく騒ぐ二人にカタリナがため息一つ吐いてグランに向き合う。
「全く、男と言うのは。空元気にしてももう少し静かにしてもらいたいもんだ。さて、グラン。少しお説教をしてやろう」
「お、お説教?」
まさかこのタイミングでお説教とは思わなかったグランがカタリナからのお説教発言に慄く。
場合によっては平手くらいは覚悟しなくてはいけないかと考えたグランだったが対するカタリナは微笑ながら口を開いた。
「あまり私を侮辱しないでもらおうか。ザンクティンゼルで私はルリアと共に君たちと誓った。共にどこまでも行くと……今更一緒に来てほしい等と言われては聞き捨てならんな」
「あ、あはは。別にカタリナが来ることを疑ったわけじゃ」
「そうでしょうね。お姉様程の優秀な騎士を手放すことほど愚かな振る舞いはありませんもの……ところでグランさん、ジータさん。私が負けたまま大人しくいられるとお思いですか? おめおめと逃げおおせたままで私が引き下がるとでも? 全く、失礼にも程がありますわ。お姉様とは関係なく、私もこのまま引き下がるつもりは毛頭ありません。先程の問いかけなど是非も有りません」
「わ、私だって、カタリナと一緒にどこまでも一緒にいきますよ!!」
間に入り込んで不服そうでありながらも喜びが垣間見えるヴィーラ、カタリナに負けじとどこまでもついていく意思を見せるルリア。三人の言葉にグランとジータは笑みをこぼした。
「全く、何言ってるんだかねー。そもそも私はマリスとほとんど戦ってないけど……星晶獣がいるのならそこは私の戦場よ。私としても、一緒に連れて行ってもらえなきゃ面白くないわよ!」
「御二人とも私が一緒にいる理由をお忘れですか。貴方達と共に帝国の悪事を暴き、黒騎士の罪の在処をハッキリさせる。秩序の騎空団として、ここまで関わって今更撤退などできるわけが有りません! ちゃんと最後までお供させていただきますよ」
続くようにゼタもリーシャも、己の矜持の為にと二人についていく事を告げる。
沈黙から一転し次なる戦いに向けて意気の上がる彼らはいつの間にか笑い合っていた。
只一人を除いて……
「(やっぱり……みんな大丈夫じゃない)」
一人、輪の中に入らずに俯いているのはイオだ。
彼らの中でただ一人、ロゼッタから願いを託されたイオは、己の使命として彼女の言葉通りに彼らを支えようと思っていた。だが、思った通り彼らはあの強大なチカラをもったユグドラシル・マリスと戦った後でも折れることは無かった。
「(私なんて……怖くて仕方なかったのに)」
一人だけ抱いていた想いが違うことにイオは恐怖した。何をしても効果のないマリス。圧倒的存在感で世界の崩壊すら招くことのできるアーカーシャ。あの二つを目の前にして幼きイオは命の危機をヒシヒシと感じていた。
前衛と後衛の違い故か、これまでイオが命の危機を感じることは極稀であったし、あっても護ってくれる仲間がいた。
森を支配下に置いてどこからでも攻撃してきたマリスと、その存在感だけで命の危機を感じさせるアーカーシャを思い出した時、イオの胸に去来したのは死の予感。
ヒトとして――死に恐怖する事などなんらおかしい事では無い。生きている以上それは普通の事であり、それを恥ずかしく思う必要など無い。だが彼女の目の前には、死の恐怖に打ち克ち前を見る事の出来る仲間達がいた……いてしまった。彼らの強さに尊敬を抱きながらも、小さな孤独がイオの胸に広がり始める。
「おい、ガキんちょ。どうした――」
一人俯いている彼女を心配したラカムが声を掛けた時イオが抑えていた堰は崩壊し、彼女の感情は零れだしてしまう。
「――――して」
「な、なんだって?」
「どうして!? なんで皆そんなに平気な顔してるの!!」
大声を上げたイオに仲間達が驚きながらもイオを見つめる。
「何もできずにやられそうだったんだよっ! 世界を創りかえる事だってできるのが相手になるかもしれないんだよっ! そんなの、強くなったって勝てるかわからないじゃない!!」
明確なヴィジョンが無くても目的を語れる。無鉄砲なまでの強さは本来イオがロゼッタに求められたもの。だがあっけなくイオの心は恐怖に染まり、それに対して彼らは恐怖を乗り越える強さを持っていた。彼らがまぶしく見え、それを否定する自分がひどく矮小 に思えてしまいイオは叫んだ。
なぜそんなに前を向けるのだと。存在そのものが違う相手が怖くないのかと。
「イオ、君が恐れる気持ちはわかる。私達とて恐怖を感じた相手だ。だから私たちはもっと強くなろうと」
「わかってないわよ! カタリナもグランも! ジータもラカムもオイゲンも、みんなみんな私の事なんて全然わかってない!!」
カタリナが窘めるのを遮りイオは叫び続ける。胸の内に宿った恐怖をどうにかしたくて。恐怖を知らない彼らに自分の想いを知って欲しくて……
「ち、ちがいますよイオちゃん!? 皆さんはきっとイオちゃんの事をちゃんとわかってくれてるはずです!」
「そんなのウソ! ロゼッタに私は託された……みんなが辛くて下を向いた時は貴方が支えてあげてって。でも、皆は全然大丈夫で、前を向いて歩き出そうとしている。あんなのを目にしたのに。全然敵わなかったのに、強くなろうとしている。それなのに私は、あの時から怖くて怖くて……もう戦いたくないと思っちゃって。でもみんなと一緒に戦わなきゃって……ルリアにわかるの!? 託されたのに応えられない私の気持ちが! みんなに、私の気持ちがわかるの!?」
涙混じりに吐き出される慟哭は、まだ幼い少女が絞り出すには重すぎる程多くの想いを抱えたものだった。
ポロポロと溢れる涙が甲板を濡らしていくのを見て、グラン達は少女が抱えた想いを知る。
自分だけに託された想い。自らの使命と受け止め、果たそうとしたその想いは強大な存在に脆くも打ち砕かれた。
彼女に託された想いも、それによって彼女が抱えた葛藤も、幼い身には重すぎたのだ。
「そうか……イオも、怖かったんだな」
「――え」
イオの叫びで沈黙の途にあった一行からようやくグランの声が上がった。呟くような小さい声で言葉を発したグランはイオの元へ向かうと、目線を合わせて、震える小さな手を取った。
そんなグランの手はイオと同じように
「ゴメンな、イオ。実は僕もずっと怖くて足が震えてた。あんなに命の危険を感じたのは初めてだったし、アーカーシャなんて起動しただけで押し潰されるかと思ってた」
「あ、それアタシもだわ。流石の威圧感だったよね。世界を変えるだけのことはあるわ。呼吸をするのも忘れてたからもしかしたらそっちで死んでたかも」
グランの言葉に乗っかるようにゼタも冗談交じりに己の胸中を語った。
「この年になってチビッたのは歳のせいだと思いたいくらい、俺もあいつにゃやべえもんを感じてたな」
オイゲンもまた小さな笑みを浮かべながら、その時の心境を語る。
他の仲間達も同様、先ほどまでの自信に溢れた表情は成りを潜め、代わりに浮かんだ表情は彼らの本心が露呈しているのがわかる。
「イオ。君の反応が普通だ。生きている以上、死の恐怖から我々は逃れることはできない――それでも私達が恐怖を抑えていられるのは何故だと思う?」
イオに向かいカタリナは淡々と問いかける。
「そんなの……皆が強いからでしょ」
対するイオは涙を堪えながらキッと睨みつけるように答えた。
「違うな、私たちが君より
「そうですね――イオさんにルリアちゃんが折れずに立っている姿を見れば、不思議と力が漲ってきますもの」
「違いねぇ。ガキんちょががんばってるのにオッサンの俺が折れるわけにはいかねえってな」
カタリナに続き、ヴィーラもラカムも。語るのは大人としての小さなプライド。
「大人ってのは不思議なもんでなぁ……手前より幼い奴には弱みを見せたがらねえのさ」
みっともなくともな――そう締めくくってまたオイゲンは小さく笑った。
仲間達の胸中が語られ、彼らの強さの理由を徐々に理解し始めたイオは何も言えずに呆けていた。
弱いのは彼らも同じ。怖かったのは彼らも同じ。それでも折れなかったのはまだ自分が折れずに立っていたから……
空回りする思考がまとまらないイオは背後から優しいぬくもりを感じる。
「――ジータ?」
イオの横にある優しい色合いの髪と優しく抱きしめてくれる腕。背中越しに感じるジータの気配もグランと同じで震えていた。
「ごめんね、イオちゃん……私達が強がったからきっと自分だけ弱いって傷ついたんだよね。でもね、みんなあの時イオちゃんと同じように……ううん、きっと皆は、イオちゃんよりも怖かったんだ。大人の方が死の恐怖と言うものを知っているから。私だってそう。それでも、皆ががんばれたのはイオちゃんがまだ立っていたから……貴方が私達よりもずっと強かったから私たちは負けるものかと立っていられたの。だから安心して、イオちゃんは私達よりずっと強い子なんだから」
語りかける声は彼女の人を表すように慈愛に満ちて紡がれる。
仲間達の言葉は決してイオを慰めるためではない。事実として彼らはマリスとの戦いでも、アーカーシャの起動の時も、その絶対的なチカラの差に明確な死を予感していた。勝ち目が見えずに折れそうになる心を支えたのは、懸命に抗い続ける、まだ幼き魔法使いがいたから。
「イオさん。弱い事なんて気にしなくていいんですよ。私達も同じでまだまだ、皆弱いのですから」
「知らず知らず、幼い君を私たちは同列に扱ってしまっていたんだな。すまなかった、イオ――君が皆を背負う必要はない。折れそうになったら今度は私たちが支えよう。だからもう一度、私達と一緒に立ち上がってもらえないか。君がいれば、私達もまた折れずに立ち向かえるんだ。君がいれば、折れそうなときに踏みとどまる事ができる」
「リーシャ……カタリナ」
「イオちゃん! 怖いなら怖いって言ってください。私は戦えないけど……その時は私が星晶獣を呼んででもイオちゃんを守って見せますから!」
「ルリア――」
次々と声を掛けてくれる仲間達に堪えていたイオの涙が再度零れ始める。だがそれは、先ほどの様に慟哭に泣く涙ではなかった。
「フンッ、ルリアの癖に生意気! 私なんかよりよっぽど怖がりの癖して、どの口でそんなこと言うのかしら」
嬉しさに涙を溢しながらも、イオはルリアにまけじと言い返した。
「むぅ、言いましたね。イオちゃんだってこの間一人で夜眠れなくてロゼッタさんのところに言っていた癖に!」
「ちょっとルリアっ!? 何でそのこと知ってるのよ?」
「ふふふーん。この間ロゼッタさんに聞いたんですよ。イオちゃんがしおらしくロゼッタさんの部屋に行って一緒に寝ていい?って来た事を。フフ、可愛いですね、イオちゃん」
「そんな、誰にも言わないって約束したのに……信じられない!? もぅ、ロゼッタのバカーーッ!!」
先程の雰囲気はどこに行ったのか、空に向けて今はここにいない仲間に魂の咆哮を放つイオ。いつも通りに元気な姿は、彼女が胸に抱いた恐怖を、仲間と共に乗り越えた証。
良くも悪くも子供と言うのは思い込みが激しい。この仲間たちとなら立ち向かえる。どんな相手だろうと戦える。心の底からそう思えたイオがもう恐怖に沈むことは無かった。
ロゼッタが言う無鉄砲なまでの強さ。幼さゆえに見せられる皆を支える強さ、イオはそれを本当の意味でこの時手にしたのだ。
彼等は笑った――
次なる戦いに向けて、恐怖に塗れた心を押し潰そうと。
望む未来を手にするために、必要な強さを得ようと。
助けを待つ人達を必ず救うために。
「よし! まずは休息を取ろうか。今の状態じゃ焦って何かをしてもしょうがない。ヴィーラ、アルビオンでどこか宿を教えてもらえないか」
グランがパンと手を叩き、気持ちを切り替える様に大きな声で一先ずの休息を提案する。
今後の行動も決めなければいけないが今の状態では良い考えも思い浮かばないだろう。皆同意するとヴィーラへと視線を投げた。
だが、元アルビオンの領主であるヴィーラは何故か思案顔になる。知り尽くしていると言っても過言ではない場所のはずである……仲間達はヴィーラの表情に疑問を浮かべた。
「ヴィーラ?」
「あぁ、失礼しました。実は宿を取る前にやるべきことがあるのを思い出しましたので……」
「やるべき事? なんなら私も手伝おうか。アルビオンなら私も良く知っているしな」
同じアルビオン騎士学校を出たカタリナ。アルビオンについては地理もある。手伝えることは無いかと申し出るカタリナにヴィーラは嬉しそうに笑った。
だが、この時。彼女の笑みが酷く歪んだものである事に仲間達は気付けなかった。
「それは嬉しい申し出ですわお姉様。それでは――――」
ヴィーラは静かに剣を抜く。魔物退治でも必要なのだろうか? 剣を抜いたヴィーラに不穏な空気を感じつつも、仲間達は静かにヴィーラの動きを待った。
「そこに眠る男を殺すので、手伝っていただけますか?」
意地悪な神は彼らに安寧というものを与えない。
冷たい殺意は、まだ目覚めの訪れぬセルグへと向けられた――
如何でしたでしょうか。
原作とは違うイオちゃんヒロイン回。
本作では仲間達が仲間割れを起こすことにはならず、でも彼女の感情の吐露がされるような話の流れになりました。
読者からみた今回のヒロイン回。イオちゃんはちゃんとヒロインになっていたでしょうか。
イオちゃんのヒロイン力が見せられていたら幸いです。
それでは、またオリジナルに動きを見せそうな次回にご期待ください。