granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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戦闘回。わたしにはこれが限界でした。お楽しみください。


フェイトエピソード 3

フェイトエピソード 「裂光の剣士」

 

 

 

空域 ファータ・グランデ ザンクティンゼル

 

 

 

 往くぞ!!

 

 

 静かな草原で始まりの声を上げたのはグランだった。掛け声とともに走り出すグラン。同時に仲間たちも動き出す。

 

「ディスペルマウント!」

 

 カタリナの詠唱とともに発動される魔法『ディスペルマウント』。相手が行う行動阻害、毒や麻痺といった異常を与える攻撃から身を守る加護を付与する魔法だ。六人は光の膜に包みこまれ加護を受ける。加護を受けたグランとヴィーラが走りだし、詠唱を終えたカタリナが続いた。

 向かってくるグラン達を迎撃しようと身構えるセルグは何かに反応し後退。セルグのいた場所にはジータが杖から放ったアローレインが降り注ぐ。さらに、後退したセルグの先には左右から襲いかかる魔法と魔力で威力を底上げされた銃弾。カタリナのマウントに隠れるように散開していたイオとラカムが放ったものだ。

 

「チィッ!」

 

 舌打ちと共にセルグは飛んできた魔法を天ノ羽斬で迎撃。銃弾は身に纏う闇で弾いた。

 セルグを次々と狙う、示し合わせた攻撃。彼らの連携速度は彼らの信頼に比例するように淀みなく次の動作へと移行させていく。

 防御に天ノ羽斬を使わせたグランはセルグに攻め入るチャンスと判断。全速で接近し槍を突き出した。それをセルグは体を横にずらして緊急回避……だがそれすらも折込済みとグランが小さく笑う。

 

「ここだ!!」

 

 回避行動を取り体勢を崩したセルグにグランの後ろから魔力で形成された蒼と黒の剣が飛来する。

 

「アイシクルネイル!」

「リストリクションズネイル!」

 

 掛け声と共に放たれた二人の魔力の剣を防御で対処したセルグに、技と同時にカタリナとヴィーラが接近。左右から挟むように魔力を纏った渾身の突きが放たれる。

 グランまでが囮になった一連の流れ。タイミングよく仕掛けられた連携攻撃はセルグの対処を遅らせ見事に捉えたかに見えた。

 だが、攻撃の余波で巻き起こる砂塵が晴れてグランが目にしたのは予想とは全く違う光景だった。

 

「なっ!? バカな!」

 

 セルグを捉えたと確信していたカタリナが驚愕の声を上げる。

 グランの目に入ってきた光景は、カタリナの突きを天ノ羽斬で防ぎ、ヴィーラを地面にたおして踏みつけているセルグの姿だった。

 あの一瞬、セルグはヴィーラの突きを身を逸らして躱し、前傾姿勢となったヴィーラを地面に叩きつけた。僅かに遅れてきたカタリナの剣は突きという防ぎにくい攻撃にも関わらず、難なく天ノ羽斬で逸らしていた。カタリナの剣はセルグの服を引っ掛けるだけにとどまる。

 

 

 

 

 

「ダメだよあれじゃ……みんなわかってないよ」

 

 後方で見守る待機組の中でゼタがつぶやく。聞こえてきたゼタのつぶやきにオイゲンが疑問を投げかけた。

 

「ネエチャン、どういうことだ? 一体何がわかってないって」

 

 ローアインもルリアもビィもみなゼタに視線を向ける。そんな仲間たちの視線に応えるようにゼタは口を開く。

 

「みんなセルグの強さを見誤ってるってこと。 私達は今まで何度も星晶獣を倒してきた。そしてセルグも星晶獣と戦い、倒してきた実績がある。そこからセルグと団長たちの総合的な戦力が互角だと考えるのはわかるけど……そんなに単純じゃないんだ。みんなと会う前の私だってバザラガや支援部隊の人たちと一緒に星晶獣を倒してきた。みんなにしたって全員でこれまで戦ってきてるよね」

 

 そうでしょ、と問うゼタに頷くオイゲン。ルリアやビィ、ローアインも視線を向けた。

 疑問が尽きなそうに表情を浮かべる仲間達に、ゼタは淡々と告げる。

 

「忘れちゃいけないよ。セルグはこれまで”一人”で星晶獣を屠ってきた。一人っていうのは戦闘においてとんでもなく不利なんだよ。相手の攻撃は集中する。一度状況が悪くなれば立て直しは難しく、援護も期待できない。そんな一人での戦いをセルグはこれまで、星晶獣とヒト。その両方を相手にしてきているんだ。そんな彼が普通に戦ってて、簡単に隙を見せるはずがないんだよ」

 

 ゼタが告げる純然たる事実。星晶獣に一人で立ち向かうのと二人で立ち向かう難易度の違い。単純に戦力通り2倍ということにはならないのは明白だった。

 

「私が昨日セルグを倒しちゃったから……あんなの倒したとは言えないんだけど。それで勘違いしていると思うんだ。意識がはっきりとしていて十全の力を振るえるセルグはとんでもなく強い……そこらで星晶獣を相手にするのとは違うってことを理解してないとダメなんだよ」

 

 ゼタの見解は的を射ていた。それを聞いたオイゲンには冷や汗が伝う。もしかするとグランたちはとんでもない相手と戦っているのではないか。俄かに、そう理解し始めたのだ。

 

 

 

 

「連携は問題なし。受けてはいないが威力も十分だっただろう……だが戦闘経験値の差は致命的だな!!」

 

 攻撃を捌ききったセルグは批評を交えて感想を述べる。言い切る瞬間に足に力を込めて踏みつけられていたヴィーラが苦悶の声を上げると、グランが我に返り再度接近。カタリナが後退して離れたところを槍で大きく薙いだ。

 しかし、セルグをその場から動かそうとしたグランの槍は振るった方向とは逆に弾き飛ばされる。

 

「な!?」

 

「オレがどの程度強いのかもわからないのに安易に接近。早々に勝負を仕掛けてきたのが間違いだ。連携速度は十分でも攻撃速度が遅い。あの程度なら余裕をもって対処ができる……こちらが一人だからとたかをくくったか?」

 

 刀を振り切りグランの槍を弾いたセルグが告げる事実。相手の実力もわからないまま勝負を仕掛けるとは愚の骨頂だと、セルグが苦言を呈した。

 そんな会話の最中で、前衛の危険を判断したイオとラカムが遠距離から攻撃を仕掛ける。

 

「エレメンタルガスト!」

「バニッシュピアース!」

 

 セルグの足元から巻き起こる冷気を纏った魔力の風と、ラカム炎の銃弾がセルグに向けて放たれる。攻撃を受けるまいとセルグは横たわるヴィーラを蹴り飛ばしその場を後退。

 

「大丈夫かヴィーラ!」

 

 グランとカタリナが駆け寄るとヴィーラは蹴られた箇所を押さえながら怒りの形相でセルグを睨んだ。

 

「くっ、まさかああも簡単に躱され、あまつさえ踏みつけられようとは」

 

「想定外の強さだ。あの連携で崩せなかった。いや”崩した”と思わされていた。まんまと踊らせていたとは……」

 

「言ったはずだ。昨日とは違うと。お前たちが倒してきた星晶獣と同じつもりで戦っているなら考えを改めろ」

 

 甘く見ていたのはグラン達の方だった。これまでヒトとは比べ物にならない存在である星晶獣をいくつも相手にしてきたその経験が、ヒト一人を相手にすることへの慢心を生んでいた。目の前にいるのは星晶獣を一人で屠ってきた相手なのだ。星晶獣より弱いはずもない。

 セルグの強さへの認識を改めたグラン達の目つきが変わる。

 

「みんな気を引き締めよう。目の前にいるのは星晶獣よりもずっと強い相手だ。手加減してたわけじゃないけど本気で行かないと戦いにならない」

 

 グランの声に真剣味が増した。一瞬たりとも気を抜けない相手だと注意を促す。それに釣られるように仲間達の雰囲気も変わり始めた。

 

「一対六で戦うことに慢心していた。すまないグラン……もはや慢心はない。全力で行かせてもらうぞ、セルグ!」

 

 そう告げるとカタリナは帯剣していた武器を変える。新たに取り出したのは蒼く透き通るような美しい剣。装飾は簡素でありながら美しく芸術性のある剣であった。

 剣を持ち替えたカタリナの雰囲気が変わる。普段のカタリナの守ることに長けた性質から一転し、攻撃にも思考を向けたより戦闘向きな意識に変わる。

 

「シュヴァリエ!!」

 

 ヴィーラの呼びかけに応え現れるのは、彼女に付き従う大星晶獣シュヴァリエ。現れたシュヴァリエは光となってヴィーラの元へ向かった。

 光はヴィーラを守る鎧となりヴィーラ・シュヴァリエとして顕現する。シュヴァリエの力を身に纏うヴィーラの上位戦闘形態だ。

 

「ラカム、私たちも本気の本気で行くわよ!」

 

 イオの呼びかけにラカムも応える。二人共己が持つ武器を変える。ラカムは銃を。イオは杖を。

 グランとジータ以外の四人が出し惜しみ無しの全力戦闘状態へと移行した。

 

「そうだ、本気で来い。さっきので終わりじゃ話にならん」

 

 セルグは先ほどのグラン達を思い出し挑発的な笑みを浮かべる。だが、グラン達にはもう笑みなどなかった。

 張り詰めた神経、命を取り合うような緊張感が六人を支配する。想定するはこれまで戦ってきた星晶獣をことごとく一人で蹂躙できる凶悪無比な戦士。そう考えるとセルグがどれだけ化物じみているのか理解できた。

 集中して機を伺うグランと余裕を見せるセルグが対峙する。膠着状態に入りわずかな静寂が過ぎる中不意に静かな風が木々をざわめかせた。ざわめきをきっかけに今度はセルグが動いた。

 

 一足で接近。グラン、ヴィーラ、カタリナが固まっていたところを切り払う。三人が散開し離れたところで二足目の追撃。最初のターゲットは正面にいたパーティの主柱のグラン。

 

「光破!」

 

 気合一閃。光を纏わせた天ノ羽斬の斬撃はグランを力任せといった勢いで吹き飛ばす。

 

「ヒール!」

 

「ヒールオール!」

 

 寸前でガードはしたものの盛大に吹き飛ばされるグランにセルグの放った一撃の威力がとてつもないものだと判断したジータとイオが、すかさず回復魔法を唱える。なんとかすぐに起き上がれたグランだったが、表情は険しい。先ほどの一閃だけでいかにセルグの強さが強大なのか理解できたのだ。

 

「攻撃が来るとわかって最低限のガードはできた……それでもこれだけのダメージを受けるなんて」

 

 前方ではカタリナとヴィーラが連携を駆使しお互いを助け合うことでなんとかセルグの攻撃を凌いでいるのが見えた。二人共セルグの攻撃を受けないよう必死に躱し、防いでいる。

 

「ラカム! 二人の援護を。あのままでは落とされる。ジータ、アローレインでなんとか動きを妨害してくれ。それから前衛の体力には常に気を配るんだ。イオは魔法で攻撃しつつジータと回復の援護を」

 

 指示を出すや否や、先ほどの攻撃で手放してしまった槍を拾い参戦しようとグランが駆け出す。前方ではカタリナとヴィーラがギリギリの攻防を見せていた。

 

「少し早いので行こう。見切れるか、”多刃”!」

 

 掛け声と共にセルグの持つ刀の切先がブレる。その刹那、カタリナとヴィーラには閃光とともに数多の斬撃が襲いかかる。威力は決して高くないが逃げ場のない恐るべき速さの剣閃。なんとか防いでいた二人は為す術もなく切り捨てられた。

 

「二人共下がれ!」

 

 気合とともに放たれるはラカムの銃弾。『デモリッシュピアース』。威力を高めた銃弾が炎を纏いセルグに向かうもセルグは背中に黒い翼を顕現させて防御。

 先ほどのバニッシュピアースとは比べ物にならない威力の技であるにも関わらず。結果はバニッシュピアースと変わらず難なく防御され、思わず顔をしかめたラカムだが、そんな彼の目の前にはセルグが振り抜いた天ノ羽斬から放たれた光の斬撃が飛んできていた。

 

「くっそぉ!!」

 

 すんでのところで回避したラカム。冷や汗が頬を伝うがすぐに動きだす。

 対するセルグは手持ち無沙汰となっていた右腕に黒翼を象る剣を出現させる。魔力でできた剣は正に羽の様に軽い。だが重さはなくともその纏うチカラは驚異的だ。星晶獣のチカラを受けた剣などヒトが出せるチカラの比ではない。

 

「さて、深度2だ。ここまでくると空を飛べそうだが、飛びながら戦うなんて不慣れなことはしないさ。きっちり地上戦で勝負してやる。」

 

 告げられた事実はセルグの戦闘力の飛躍だった。深度2というからには深度1よりも戦闘力が上がったのは間違いないだろう。状況はさらに悪くなったが、それでもグラン達は引かない。

 動じず、怯まず。崩れを見せないで挑んでくる六人にセルグは徐々に余裕の表情を消していった。

 

 ジータが再度放つアローレインが口火をきる。後退してかわすセルグにカタリナとヴィーラが接近。さらにその後方から二人を援護するように光の魔法弾が放たれた。イオが放った『フラワリーセブン』。七つの魔法弾が意思を持ったかのようにセルグに多方向から襲いかかる。

 

「やるな……」

 

 回避を断念してセルグは両手の武器で光弾を切り払う。その隙にカタリナとヴィーラは接近。凄まじい連携と連撃でセルグを攻めるも、セルグはそれをことごとく捌いていく。三人が作る膠着状態の中に

 

「デュアルインパルス!!」

 

 疾走と共にグランが突撃してくる。強化魔法『デュアルインパルス』が仲間たちの動きを軽くしグランも含めた三位一体の動きでセルグを追い詰めていった。

 徐々に捌ききれず後手に回っていくセルグにグランの突きが僅かに掠った。セルグが躱しきれずに体勢を崩したのを見逃さずにイオは奥義を敢行。

 

「ここ! クリスタルガスト!!」

 

 足元より巻き起こる質量を持ったかのような重い魔力の風にセルグが動きを止めた。

 

「ここだあああ! 真・雷鼓!!」

 

 動きを止めたセルグへ、グランが雷神矛で奥義による追撃。手にした槍に雷が迸り、それは吹き荒れる魔力の風と合わさり、セルグを暴虐の渦へと包み込んだ。

 

「ぐ、うおおお!!」

 

 雄叫びとともに翼を広げセルグは身を襲う風と雷を弾き飛ばす。しかし魔力の風と雷はセルグに軽微ではないダメージを与えたようだった。次に控えていたカタリナとヴィーラに対処が遅れた。

 二人がそれぞれに奥義を放とうと魔力を剣に込める。振るわれた剣閃から放たれるは氷の刃と闇の剣。更に、ここで決めると二人の攻撃に合わせて追撃に入るグラン。

 だがそれでもセルグにはとどかない。

 

「なめるなあああ!!」

 

 硬直した体に鞭を打ち、体を回転させるセルグ。回転とともに振り抜かれた天ノ羽斬はヴェリウスの力も受け、光と闇の巨大な斬撃となってグラン達をまとめて吹き飛ばした。斬撃はそれだけにとどまらず後方に控えていた三人すらも巻き込む。

 

 一蹴

 

 優勢に運べていたはずがたったの一撃でパーティは壊滅的な被害を受けた。グランはセルグの正面にいたためダメージはさらに深刻だった。すぐにジータが駆け寄るとグランの傷が尋常ではないと判断し、回復魔法の詠唱を始める。

 

「リヴァイブ!」

 

 グランの下に魔法陣が現れ穏やかな光がグランを包んでいく。再生魔法『リヴァイブ』。ヒールオールよりも多量の魔力を複数ではなく一人に向けて放つ魔法だ。込められた魔力はヒールオールの比ではなく驚異的な治癒能力を発揮する。戦闘不能状態へと陥っていたグランの傷が回復し動けるようにはなった。

 しかし、グランが回復はしたものの六人のダメージは小さくない。後衛のジータ、イオ、ラカムはまだ動けるが前衛三人には傷も疲労も現れてきている。

 既にパーティは満身創痍の様相を呈していた。それでも負けるわけにはいかない。それはグランにとっては一人で戦うセルグには負けられないという意地であり、ジータにとっては一人で背負い続けるセルグを救いたいという願いだった。

 逡巡……二人は突破口をつかもうと思考を回し、グランはある答えにたどり着く。

 

「イオ、魔力が回復したらヒールで少しでも皆を回復してくれ……ジータ、ボクと前に出よう。アレを使って勝負に出る」

 

 決意の声とともに放たれたグランの発言に皆が息を呑んだ。

 

「ま、待つんだグラン! アレを、消耗している今扱うというのか? 無理に決まっている。それよりも私たちと連携で攻めたほうが」

 

 カタリナが制止の声を上げるがグランは聞く耳を持たなかった。

 

「ダメだ、カタリナもヴィーラも既に体力はギリギリだろ。僕はさっきリヴァイブをもらったからまだ動ける。ジータも後ろにいたからなんとか動ける。僕たち二人なら連携も申し分ない。カタリナとヴィーラには援護を頼むよ。イオ、回復と攻撃魔法での援護。できるか?」

 

「そのくらい任せなさい! そのかわり、負けたら承知しないんだから」

 

 イオがまだ戦えると言うように元気に返すと、続いてグランはラカムへと視線を向ける。

 

「ラカム、難しいとは思うけど遠距離からの狙撃を狙って見てくれ。セルグの意識外から攻撃を狙うんだ」

 

「任せろ。狙撃なんてやった事はねえがこなしてみせらぁ!」

 

 不穏な言葉を吐きつつラカムもまだ戦えると応えてくれた。

 

「カタリナとヴィーラはチャンスを伺っててくれ。セルグの翼は防御能力も高い。決めるには全員の力が必要だ。ジータ……行けるか?」

 

 全員に指示を出したグランが最後にジータを見やると既に準備を終えていた。その右手には”金色に輝く杖”が握られており、左手には同様に”金色に輝く槍”がグランに向けて突き出されていた。

 

「鍛錬は積んできました。ぶっつけ本番ではありますが、やってみせます!!」

 

 ジータは静かに、揺るがぬ意志で応える。

 

 

 

「話し合いは済んだか? 随分待たせてくれたな。おかげでこちらも少し回復できた。既に満身創痍のようだが……まだ、やるのか?」

 

 言外に自分には勝てないと告げてきたセルグの前にグランとジータが並び立つ。

 金色に輝く槍と、杖を携え二人は目を閉じ集中していく。深く、深く……このまま負けるわけにはいかない。その想いが二人を極限の高みへと昇らせる。

 

「まだ負けていない !勝負はこれからだ!!」

「諦めません! 必ず貴方に勝利してみせる!」

 

 二人の咆哮に合わせ仲間たちは位置に着く。誰一人その眼に諦めはなかった。

 

 変わらないどころか更なる力の躍動を感じて警戒を深めながらも、セルグはどこまでも受けて立つつもりで構える。

 全力で叩きつぶすことでグランたちには諦めてもらうつもりだった。真実を話した時から巻き込むわけには行かないと考え、最初から仲間になるつもりなどなかった。セルグはグラン達を信用はしていても”信頼”はしていなかったのだ。

 どんな武器を持ち出そうが全力で叩き伏せる。一人で背負うことをやめないセルグはグラン達の全力に拒絶の意思をこめて刀を向ける。

 

 だからであろう。戦いの中にセルグの拒絶の意思を感じていたグランとジータはそれが許せなかった。自分たちには共にいる資格が無いと。言葉はなくともそれを突きつけられているのを感じた二人は、拒絶するセルグよりもそれをさせている自分達に失望する。

 

 

 

「いくぞ……”一伐槍”!」

 

 だから求めた、彼に負けない力を。

 

「応えて……”五神杖”!」

 

 だから願った。彼を救える力を。

 

 二人の叫びは同時に。決意と祈りを胸に宿した二人は己が手に持つ武器へと呼びかける。二人の叫びに呼応するように槍と杖は光の柱を上げる。眩いばかりの光が収まるとそこには、先ほどまでとは比べ物にならないオーラと魔力をはなつ二人の姿があった。

 二人が放つ光にセルグは驚きの声を上げる。

 

「なっ……は、ははは。マジかよ。二人共資格者だっていうのか!! こいつはすごい! まさか天星器を覚醒させてあまつさえ使役できるレベルだとはな……これは本気でやばそうだ」

 

 驚愕と共に乾いた笑いを浮かべるセルグはグランとジータが起こした奇跡の凄さを理解していた。

 

 

 

 天星器……それはかつて覇空戦争の時代に活躍した星の民の英雄たちが用いた武器。恐ろしい威力を発揮したその逸話は伝説や神話の類に匹敵する。それほどの武器たちであった。

 現在では出土し、掘り出されて所在が確認されているものがいくつかあるが、そのどれもが時間とともに力を失っているものばかりである。

 グランとジータは様々な素材を集め、職人に頼み、旅の中でこの天星器の本来の力を取り戻してきた。

 だが、徐々に覚醒してきた天星器は持ち主を選定していた。尋常な使い手ではとても力を使いこなせず只の武器に成り下がるのであった。扱えるのはそれこそ全空域にその名を轟かす十天衆や七曜の騎士というような化け物レベルであろう。

 その天星器に今、二人が認められているのだ。

 

 

「すごい……これが天星器の力なのか?」

 

 後ろに控えていたカタリナは驚嘆の声を上げる。グランとジータはこれまでに何度も天星器を使いこなそうとしていたが、一度として力を引き出すことは叶わなかった。カタリナ達にとっても天星器の力を目の当たりにするのは初めてだったのだ。

 

「恐ろしく澄み切った魔力。相手を威圧するような雰囲気とは裏腹にその魔力は穏やかで温かい」

 

 ヴィーラは感じる魔力にどことなく安心感を覚える。今のふたりならもう大丈夫だろうと。そう思わせる力の鼓動。目の前に立つ二人はヒトの域を超えているのかもしれない。

 

「いきます」

 

 荒れ狂う力の奔流の中、静かにつぶやいたのはジータ。同時に動き出したグランはデュアルインパルスで速度を上げ、最速の突きを放つ。

 力の込めた一撃ではなく、相手に躱されないよう早く鋭い一撃へとスタイルを変えた突きがセルグに襲いかかる。

 

「疾い!?」

 

 予想外の突きの早さに思わず体を大きく仰け反り交わしたセルグ。普段であれば見切って躱すところができなかった。天星器の制御。それによって二人にもたらされた驚異的な集中力。天星器を使いこなすために極致へと至った二人は戦闘への没入が深かった。

 考察をやめグランに対処しようとセルグが動く。体勢を整え迎撃のため翼から魔力の羽を飛ばすがその全てをグランは槍で切り払った。

 

「見切っているのか……恐ろしいな。もはや格下とはおもえッ!?」

 

 グランに戦慄していたセルグが気配を感じ取る。そこにいたのは背後に回り杖を振りかぶったジータであった。

 

「はぁ!!」

 

 気合と共に振り下ろされた杖。しかしそれはただの打撃ではない。

 受け止めたセルグを魔力の爆発が襲う。至近距離で起こった爆発によって吹き飛ばされるセルグに間髪入れずの追撃。魔法弾を飛ばしセルグをさらに追い詰めていく。

 

「(なんて規格外な!? インパクトにおける局所的魔力爆発。それも指向性を持たせ自分には被害が及ばない極小範囲での爆発を寸分の狂いもなく起こすとは……並大抵な制御能力じゃない)」

 

 セルグは魔法弾を切り払いながら、恐ろしい強者へと変貌した二人への対策を構築していく。

 狙うは各個撃破……魔力制御系のジータであれば、いくら制御能力が高かろうと速さで攻めれば追いつけないはず。

 そんな思考が回り、近接武器ではないジータに狙いを定める。接近してきたグランを今度は余裕を持って迎撃した。

 いくら集中力を高めようとも、実力ではセルグが上。グランをあしらい後方へと大きく吹き飛ばして、その隙に一息でジータの懐に飛び込むとジータの迎撃態勢を整わせないように最速で剣を振るう。

 だがそれは難なくジータの杖に防がれた。

 

「バカな、見切られただと!?」

 

 セルグの驚きの声に反応を見せずにジータは防御を崩し反転、魔力を込めて杖を突き出すもセルグはすぐに反応。ジータにガードされた事に驚き、一瞬動きを止めたがすぐにジータを落とそうと連撃を繰り出していった。

 しかし、ジータはそれをギリギリのところで全て防ぎきる。グランが戻るまでにジータを倒しきることができずセルグが舌打ちと共に攻勢を変え防御に回った。

 一転してジータがグランと共に攻め入る。杖と槍の取り合わせなのに見事な連携でセルグを追い詰めていった。

 セルグにとって、既にジータの攻撃は只の打撃ではない。魔力に因る局所爆発など起こされては、それはグランの槍と変わらぬ脅威としてセルグの視界に映っていた。

 

 

「ビショップのときのジータは誰よりも視野が広い。後衛として回復に回るジータはそれだけ戦闘の動きが見えているってことだ。攻めることは難しくても防御に専念すれば簡単には落とされないさ!!」

 

 もはや余裕なく攻撃を捌いているセルグへグランがそう言い放つと一気に攻勢を強めた。槍の速度が上がり、間合いを自在に変え槍の性能をいかんなく発揮していく。突き、薙ぎのコンビネーションを繋げその動きは徐々にムダを省き小さくなっていく。いつの間にかジータは後ろにさがり魔法弾での援護に移行。グランの隙を埋めるように魔法弾でセルグを牽制する。

 

「(マズイな……ここにきてグランの動きの鋭さが増して来ている。もはやためらってはいられないか……)」

 

 セルグの中で一つの覚悟が決まった。顕現させた黒い翼の力で飛翔し大きく距離を取る。静かに目を閉じたセルグは内に眠るヴェリウスの力を感じ取る。翼が大きくなり闇の力が増した。天ノ羽斬には光と闇がまとわりつき激しく鳴動する。

 

「ここまで出す気はなかった……深度3だ。悪いがオレも負けてはやれんのでな」

 

 そういい放つセルグの表情はわずかに苦しそうなのをグランとジータは見逃さない。おそらく体に負担をかける状態なのだと悟った二人は決着をつけるべく仲間に視線を一度だけ向けた。

 警戒を強めているグラン達を前にセルグが先手を打つ。翼で飛翔しグランを飛び越えたセルグはジータに急襲。虚を付いたセルグにジータは防御も間に合わず叩き伏せられる。

 

 はずだった。

 

 振り下ろされた天ノ羽斬がセルグの腕から弾かれる。視線を向けた先には愛用の銃を構えたラカムの姿。意識が完全にジータに向いた瞬間を狙い狙撃していた。

 ラカムに意識を裂き、目の前で隙を見せたセルグにジータが小さく告げる。

 

「これが私たちの全力です! 聖柱五星封陣!!」

 

 セルグの真下に現れた魔法陣が光の柱を上げる。膨大な魔力がセルグの体を焦がしていく。

 

「あの一瞬でこれだけの魔力を溜められるわけが……」

 

「私には仲間が居る! 貴方のように一人ではないから……信じて託せる仲間がいる! だから!」

 

 セルグの疑問に答えるのはジータの叫び。それはジータが伝えたかったこと。仲間を信じて最大まで魔力を溜めて放つ準備をしていた。ラカムが、イオが援護をしてくれるからと。ジータは仲間の援護を疑わなかった。

 ジータの言葉は一人では何もできないのだと暗にセルグへと伝えていた。

 

「私達は随分頼りにされているようだな。こんなにもボロボロだというのに……」

 

「それでもいまのジータさんの言葉は不思議と力を奮い起こしてくれます。」

 

「ああ、やるぞヴィーラ!」

 

「ハイ! お姉さま!」

 

 ジータの奥義を受けて動けないセルグに追撃する二人は、その力を振り絞り自身の最大の技をぶつける。

 

「グラキエスネイル!」

「ドミネイトネイル!」

 

 二人の騎士が放つ突きが魔力を纏い氷の刃と闇の剣を放つ。両翼に放たれた刃は見事にセルグの翼を断った。

 翼を断たれ、体を焼かれ、満身創痍となったセルグは力を振り絞り黒翼の剣を振るおうとするも、そんな最中に背後から聞こえる声は状況に似つかわしくない落ち着いた声……

 

「どうだい、セルグ。これが……みんなの力だ」

 

 声に気づき、後ろから走ってくるグランを視認したセルグは他の仲間たちは動けないと断定。意識を全てグランに向けて迎撃の用意をする。

 だが、魔力を剣へと送り最後の奥義を繰り出そうとしたセルグの腕は突如凍りついた。

 

「へっへーん。この私をお忘れかしら」

 

 ピンポイントで氷の魔法”アイス”を腕に当てたイオにグランは感謝した。最高のタイミングで最高の援護をしてくれた……このチャンスを無駄にはしない。槍の先端に魔力が収束し、輝く光が一伐槍を包見込んだ。

 

「これで最後だ!! 太一輝極衝!!」

 

 光と共に吶喊したグランは槍を突き出した。放たれた光の奔流はセルグを飲み込み、セルグの姿を後方へ吹き飛ばす。

 

 激闘にようやく幕が降りた。

 




はい、戦闘回でした。
あとはフェイトエピ終章といったところで終わりです。



お楽しみいただけたら幸いです。

追記 フェイトからクライマックス感が……とおもったのは作者だけでしょうか?

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