granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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メインシナリオ更新!

いよいよ重要な局面の一歩手前といったところまで来ております。
話があまり進んでいない焦らしプレイを楽しみつつ重要な設定に絡む話もある第22幕

どうぞ、お楽しみください。


メインシナリオ 第22幕

 ズシン、と音を立てルーマシーの大地に降り立つのは、星晶獣ギルガメッシュ。

 大地の力をその身に宿し、幾多の戦場を駆け、幾多の敵を屠り、英雄の名をほしいままにした歴戦の戦士である。

 フリーシアを追うべく走り出した一行の目の前に、突如現れた強大な壁。ギルガメッシュを前にしてグラン達は思わず二の足を踏んでしまう。

 

「なんて威圧感だ……大星晶獣クラスじゃねえか!?」

 

 サイズは精々がドラフの男性の二、三倍と言ったところである。だがそれでもラカムの言うようにギルガメッシュから感じる威圧感はこれまでに遭遇してきたティアマトやユグドラシルといった巨大な大星晶獣に匹敵する。

 

「ヒト型を取っている奴等は大抵そんなもんだ……槍を持ってたり、弓を持っていたり馬に乗っていたりなんでもござれだぞ」

 

「なに冷静に言ってんだよセルグ!! ピンチだろうが!」

 

 嘗て、己が出くわした数々の星晶獣達を思い出してセルグは呟く。妙に懐かしそうに見えたのはツッコミを入れたラカムだけではないだろう。

 だがそれも仕方のない事。セルグにとって星晶獣と戦うことは日常茶飯事だったのだ。今更目の前に星晶獣が現れた程度で驚くはずもない。

 

「わかってるな。グラン、ここは……」

 

「オレに任せろって言ったらぶん殴るよ」

 

 セルグの言葉に被せる様に、グランは拳を握りしめながら言い放つ。しっかりと睨みを聞かせている当たり、本気で殴りそうだ。余りの勢いで告げられてセルグが驚きを見せるも、すぐさまグランの返答に不服な様子を見せた。

 

「おい、グラン……この状況でオレの心配なんて」

 

「何を言おうが一人でなんて許さない。せめて二人。いや、三人で……ッ!?」

 

 言葉の途中でグランもセルグも回避行動を取った。

 唐突に二人を分かつように振り下ろされたのはギルガメッシュが持つ無骨な大剣。まだ距離は離れていたはずが接近を感づかせない程の俊足で動き出したギルガメッシュに仲間達は分断されてしまう。

 

「あっぶねぇな……人様の会話を邪魔す」

 

 回避したセルグは自分の側にゼタとオイゲンがいるのを見てニヤリと笑った。

 

「ちょうどいい……グラン!! こっちはオレとゼタとオイゲンだ。すぐに片付けるから先に行っててくれ!!」

 

 三人という提示された条件を見事にクリアしたこの状況にセルグは笑う。星晶獣を倒すとなれば自分の領分。一人で片付ける気ではいたがゼタもこちら側なのを見て好都合だと言う様に笑みを浮かべていた。

 

「そんな事!?……だぁあ、もうなんて都合の良い展開!! わかったよもう!! 絶対にすぐ追いついてきてくれよ!!」

 

「追い付いてこなかったらビィに噛みついてもらいますからね!!」

 

「うぉい、ジータ!! オイラに何させる気だ!?」

 

「セルグさん、必ずですからね!!」

 

 もはやギルガメッシュと示し合わせているのではないかと言うほど都合の良い分断のされ方にグランは半ばやけくそ気味に叫んだ。

 しかし、迷うのは一瞬。捨て台詞の様に信頼の言葉を残し(一部おかしいのもあったが)、グラン達はフリーシアを追い始めた。

 心配だろうがなんだろうが分断されてしまっては仕方ない。ましてやフリーシアを逃がしては元も子もない。

 なし崩し的ではあったが、決断したからにはグラン達が振り返ることは無かった。

 

 残されたセルグ達は、ギルガメッシュと正面から対峙する。

 振り下ろした大剣を持ち直し、セルグ達を睨むギルガメッシュは、彼らを視界に捉えながらもまだ動き出す気配はなく、飛び出す機会をうかがっているようであった。

 

 

「さぁて……ゼタ、オイゲン。行けるか?」

 

 捨て台詞を聞かなかったことにして、セルグは背後にいる仲間達に呼びかける。その声音はどこまでも平常通り。

 恐れることは何もない。過去の自分とは違い、頼れる仲間に背中を預けられる今、セルグにとって星晶獣狩りなど児戯に等しい。

 

「むしろ聞き返してあげる。星晶獣狩りの腕は錆びついてないでしょうね?」

 

「へ、お前さんと一緒ならなんも怖くねえな」

 

 そんなセルグの気持ちを読み取ってか言葉を返すゼタとオイゲンもその声音に余裕を見せている。

 

「へぇ……まさか三人で相手にする気? さっき君の仲間が言ってたけど、ギルガメッシュは大星晶獣どころかそれを上回る強さを持っているけど?」

 

 この場にまだ残っていた謎の男が三人を挑発するように言葉を投げるが、対するセルグ達はそんなこと関係ないと言わんばかりに戦闘態勢を取った。

 たとえ大星晶獣を上回ろうとも、今の自分達が負けるはずがない。自らの勝利を微塵も疑うことなく、彼らはギルガメッシュを睨み付ける。

 

「言いたいことはそれだけか? 悪いがその程度じゃ相手にならねえよ。星晶獣相手ならこちとら百戦錬磨だ」

 

「どこの誰だか知らないけどアンタの思い通りにはいかないわよ! このでかいのを瞬殺して、すぐに宰相さんを追ってあげる!」

 

「ハッハァ! 残念だったな坊主。こいつら相手じゃどんな星晶獣も形無しだろうよ。当然、俺も援護に入るから尚更な……」

 

 挑発を返すように投げかけられた言葉に、男は興味深そうに目を細めた。品定めするようなその視線はセルグ達がどの程度の実力を持っているのか計っているのだろうか……幾ばくかの時を置いて、男は口を開く。

 

「おもしろそうだね……今後の為にも君たちには全力を見せてもらおうか。いけ……ギルガメッシュ」

 

 小さく呟かれた声に応えるようにギルガメッシュが動き出す。

 その巨躯をものともしない俊敏な動きは、巨躯故に一足でセルグ達の目の前まで距離を詰めてきた。

 空気を切り裂く鋭い音を纏いながら振り下ろされた大剣が地面を粉砕し、土砂が舞う。不意打ち気味に来た攻撃を無難に回避した三人は即座に動き出した。

 

 トンっと地面を粉砕した大剣を足場に跳躍。ギルガメッシュの眼前に跳びあがったセルグは天ノ羽斬を横薙ぎに一閃。

 

「光破!!」

 

 首元目掛けて放たれた光破をギルガメッシュは空いている手で背から別の剣を取りだして受け止める。金属の甲高い音が鳴り、天ノ羽斬と大剣が火花を散らす中、セルグは僅かに瞠目した。

 決して手は抜いていない己の剣閃を、あっさりと受け止めたギルガメッシュに強敵の予感を感じながらも、すぐさま次なる手を打とうとしたところでセルグは何かを察知。目の前の大剣を蹴りつけて緊急回避すると、真下より振り上げられた大剣がセルグの居た空を切った。

 

「良いのか? オレにかかりっきりで」

 

 距離を取ったセルグの言葉と同時に、防御と反撃に両腕を使ったギルガメッシュの脚に大きな衝撃が走る。

 見ればセルグに気を取られたギルガメッシュの膝にはアルべスの槍が突きたてられていた。

 刺さったまま連鎖爆発を起こすソレはゼタの全力、プロミネンスダイブ。

 無防備のまま受けた衝撃にギルガメッシュが膝を折るが、痛覚を感じていないギルガメッシュは大剣を手放しその剛腕を足元のゼタに向ける。

 空気を切り裂きながら唸る拳はヒトがその身に受ければ原型を無くしてグシャグシャに潰されること請け合いな無慈悲な拳。

 情け容赦の無い拳がゼタに迫るもそれは別の攻撃に阻まれる。

 

「させっかよぉ!!」

 

 オイゲンの渾身の一撃が迫る剛腕の軌道を変えた。ゼタに向かう拳はその目の前の地面を抉るだけに留まり、彼女の目の前にはギルガメッシュの無防備な顔までつながる一本道が出来上がる。

 

「もらいっ!!」

 

 すぐさまゼタは腕を足場に駆け上がった。狙いは炎を纏う槍を使っての頭部の粉砕。ヒトであろうが星晶獣であろうが確実に仕留められる最適解。

 だが、ギルガメッシュとて容易くやられるはずは無い。駆けあがるゼタの足場となっている腕を振り払い、ゼタを空中に投げ出す。

 

「やばっ!?」

 

 足場を失い、空中で身動きを取れないゼタをギルガメッシュの大剣が襲う。拳の次は大剣。ヒトなんて鎧を着ていようが容易く断つことのできる剣閃がゼタの目の前に迫っていた。

 

「こなくそ!!」

 

 間一髪。アルべスの槍の先端を当て、更には力を受け止めず流すようにしてその場でゼタは回避をとった。ギルガメッシュの膂力故に受け流した力はゼタをその場で回転させるが、何とか身体を断たれる危機からは免れる。

 

「ゼタ、次が来るぞ!!」

 

「うそぉ!!」

 

 回避したのも束の間、振り抜かれた大剣がすぐさま切り返されゼタを断たんと迫る。。

 オイゲンの声に危機は察知できたものの、既に体勢は崩れており、回避のしようがない。ゼタは覚悟を決めて防御を取ろうとしたが、セルグがその状況を許すはずもない。

 

「かかりっきりで良いのかって……」

 

 ギルガメッシュの足元に現れたセルグ。回避行動で離れた距離を数歩で詰め、地面を砕かんばかりに踏み込んだ足からその力を腕へと伝える。

 

「言ってるだろぉ!!」

 

 抜刀の鞘走りを利用したその剣閃の速度は普段の見えない剣閃を超えた最速の一閃。早さを切れ味へと変換してギルガメッシュの足を深々と斬り裂いた。

 辛うじて断ち切られるまでは行かないものの深く切りつけられた足は武器を振るうには踏ん張りが利かずに、ギルガメッシュの体勢が崩れる。

 ゼタを狙った大剣は空を切り、ゼタは無事に地上へと降り立った。

 セルグの援護が無ければ少なくとも攻撃を受けてはいただろう。ギルガメッシュが握る大剣とその強靭な体躯を見て、ゼタはその身を僅かに震わせる。

 

「ゴメン、セルグ。助かった……」

 

「気にするな。大星晶獣よりもって部分は本当らしいな。対応力から見てもある程度理性的に戦うタイプか……」

 

「おい、セルグ。星晶獣ってのはこんなにもヒトと同じ戦いができるもんなのか? こいつぁまるで星晶獣となったヒトを相手にしている気分だぜ……」

 

 嘗てグラン達と共に戦ったリヴァイアサンを思い浮かべながら、オイゲンはギルガメッシュの戦い方に驚いていた。

 冷静な思考の元、彼らの攻撃を防ぎ、攻撃を繰り出してくる戦い方は武器を持って戦うヒトとなんら変わらない。

 強大な力を持ちながらヒトと同じレベルで戦えると言うのは、力押しで荒れ狂う海神と戦うよりもよほど怖いと、オイゲンの頬を冷や汗が伝う。

 

「あの男に掌握されてるんだろうな。それを抜きにしても、明確な意思と言葉をもって戦いを楽しむやつとかもいるし今更驚くことではないよ。ただ……ヒト型は総じて強い」

 

「そうなの? 確かに、私が団長達と出会った時の風神と雷神も相当強い枠だったけど……」

 

「そもそもこいつらはヒトよりも圧倒的な力を持っているんだ。超常的な力から純粋な意味での力まで、オレ達とは比べ物にならない。その上で明確な意思を持っていると言うことはヒトと同じ思考ができるという訳だ。どうだ、基礎能力から圧倒的に違うヒトを相手にした時、簡単に勝てるか?」

 

 静かな考察の後、二人は納得したようにセルグの問いに答えた。

 

「そりゃあおめぇ……」

 

「――厳しいわね」

 

「だろ? だからヒト型ってのは厄介なんだよ。まぁそれでも、オレ達が負ける道理はないがな」

 

 再度天ノ羽斬を構えたセルグの纏う雰囲気が徐々に鋭さを増していく。それはこれまでが準備運動と言わんばかりの変化の兆し。

 様子見の一閃。仲間を気にした立ち回り。彼の真骨頂はそんな守りの戦いではない。

 

 攻めの戦い。

 幾多の星晶獣を屠り、命のやり取りを何度も体験してきた彼の戦いの本質は、命を奪う戦いだ。

 

「当然ね。アタシとセルグの武器はこういうのを相手にするためにあるわけだし。何より、このままやられっぱなしじゃアタシの気が済まない」

 

 言葉と共にセルグとゼタから軽い雰囲気が消えた。

 セルグは天ノ羽斬を全開解放。頭上に描いた光の円から落雷の如き奔流を受け、自身の能力を強化する。

 ゼタもまた、アルべスの槍の力を最大限に解放する。同時にたどり着くのは掴みかけている集中の境地。紅蓮の炎を纏いながら槍を構える姿は正に真紅の穿光である。

 

 セルグは元、と付くが組織の戦士として、二人が星晶獣を相手に後れを取るはずがない。オイゲンにそんな確信を抱かせる程に目の前の二人はその強さをはっきりと感じさせた。

 

「へへ、お前さん等と一緒なら負ける気はしねえな!」

 

 もはや勝利は見えたと言わんばかりの余裕の表情で彼らはギルガメッシュと対峙する。

 油断や慢心ではなく、純然たる事実として、彼らの実力はギルガメッシュを上回ってるのだろう。

 

 

 だが、忘れる事無かれ……

 

 

 ダンッ、とまるで銃の発砲音の様な大きな音が響き彼らは一陣の風を感じた。

 何かが彼らの間を駆け抜けていった……それは恐らく間違いない。だが目の前にギルガメッシュはいる。それならば何が?

 

 

 相手とて一体とは限らない事を……

 

 

「ゴフッ」

 

 嫌な音が聞こえ背後を振り返ればそこには、腹部を光の矢で貫かれ木に張りつけにされたセルグの姿。新たな脅威を感じゼタとオイゲンが視線を巡らせた先。ギルガメッシュの背後にそれは居た……

 

「どうだい? ちょっと足りなそうだったからもう一体呼んでみたんだけど」

 

 この状況に余りにも不釣り合いな無邪気な声の先……ギルガメッシュの背後にそれはいた。

 大弓を構え、光の矢を番えた星晶獣。その大弓から察するにギルガメッシュとは前衛後衛の役割分担もできて相性は良好だろう。それはつまり、彼らにとっては最悪な組み合わせである事を意味する。

 

 星晶獣ヘクトル

 

 ギルガメッシュと同等に英雄の名を欲しいままにする武勇の星晶獣が顕現していた。

 

 

 

 

 

 セルグ達と別れ、グラン達はひた走る。

 森の奥へと消えたフリーシアを追う彼らは、なかなか追いつけない状況に苛立ちを募らせながらも、襲い掛かる兵士や魔物たちを退け、可能な限り早く駆けていた。

 

 

「はぁ、はぁ……ルリア、イオちゃんも。大丈夫?」

 

 走り続けて息が荒いジータは、後ろを走る幼き少女達に声を掛ける。

 兵士たちを退けながらとは言え、前衛である自分達や大人であるラカム達にはまだ余裕があった。だが、彼らと比べるとまだ幼いイオや戦闘要員ではないルリアには体力的な不安がちらつく。

 

「はぁ……だ、大丈夫です……ジータ。まだっはぁ、走れます」

 

 案の定、ルリアは息も絶え絶え。イオはもはや言葉を返す余裕が無い。

 

「みんな、少し止まろう。このままじゃマズイ。ラカム、カタリナ。後方の警戒を」

 

「そうだな……このままじゃ追い付いても逆にピンチだぜ」

 

「良い判断だ、一先ず歩いて呼吸を整えよう」

 

 グランの声に皆が一度走るのを止める。アポロが先を急ぐと言い出すかと思われたが存外不満を見せずに共に留まったことにグランは少しだけ安堵した。

 周囲に敵の気配はない。帝国兵士達も追い付いては来ていないのか森は静寂に包まれていた。

 

「あまり悠長にはしていられないが、追い付いてみたら疲れ切って動けないでは話にならない。丁度いいな。少し話をさせてくれ」

 

 そんな落ち着いた空気の中、アポロは唐突に口を開いた。

 仲間達の視線が集まる中、アポロは少しだけ悔いる様に。だがその決意の眼差しを見せつけてグラン達に語り始める。

 

「これからフリーシアと対峙するだろうからな……先にお前達には話しておきたい。私の目的とこれから成そうとしていることを……ここまで協力をしてくれたお前達だからこそな」

 

「黒騎士……何を突然」

 

「静かに聞いてくれ。知っての通り、私はオルキスを取り戻す。その為に今こうして人形を助けに来た。だが人形を取り戻した暁には、私はお前達の敵になるだろう」

 

「なっ!?」

 

 アポロが告げる敵対宣言に誰もが反応を見せる。

 オルキス救出は彼らの願いでもあるから見返りが欲しいなどという気は彼らにも無かった。だが、感謝されるならまだしも敵対すると告げられてはアポロの意図が読めないのは当然だ。

 グラン達の驚きを余所にアポロは言葉を続けた。

 

「先にも言ったな。人形を取り戻すまでは我々の利害は一致すると。今、私の計画の全てを話そう……」

 

 口を挟ませないような硬い雰囲気の中、アポロは静かに語り始める。

 それはどこまでも自分本位で、聞けば誰もが怒りを見せるであろう、彼女の願い。

 

「私の計画は人形を取り戻し、人形とルリア。その両方を犠牲にすることでオルキスを取り戻す。これが……私が成す事だ」

 

 たった一人を取り戻す為に、他の全てを犠牲にする彼女だけのちっぽけで大きな願いであった。

 

 

 

「ふ……ふざけるな黒騎士!! 私達はオルキスを救い、ルリアを護るためにこうして戦っているのだぞ!! 貴様、今共に戦っている私達を愚弄しているのか!!」

 

 彼女の願いを聞いたグラン達から瞬く間に怒りの声が挙がる。

 裏切りと言っても過言ではないだろう。グラン達はフリーシアの魔の手から今のオルキスとルリアを護るために戦っている。そしてアポロはそこに自分の目的もあるからとグラン達に助力を求めて来たのだ。

 それが蓋を開けてみれば、グラン達が守ろうとするその二人を犠牲にする計画。

 怒りに震えるのは声を上げたカタリナだけではない。イオも、ロゼッタも、ヴィーラも。皆が怒りの視線を向ける。

 

「お、おちつけ姐さん!! まだ黒騎士の奴は詳しい事をなんにも」

 

「落ち着けるわけがないだろう!! こんな……こんなふざけた話があるものか!!」

 

 今すぐにでも剣を抜き放ちそうなカタリナをグランが抑える。一触即発な空気を纏うカタリナを抑えたグランはまだ冷静だと誰もが思っていた。

 だが、ジータとビィは気付いた。それが怒りを必死に抑えているに違いないであろう事を……普段は温厚で優しいはずの彼が纏う空気はいつもと違う。

 

「カタリナ、少し黙っててくれ……」

 

「ぐ、グラン……」

 

 グランが見せるのは僅かな殺気。理由は単純にして明白。

 アポロがルリアを犠牲にすると告げたからだ。

 オルキスを救いたい。その想いに嘘は無いが、その先にルリアの死の可能性があるのなら話は別。団長として、大事な仲間が死ぬ可能性に協力する程彼はお人好しではなかった。こういった時いつも怒りを見せる、今はここに居ない彼のように……ここで協力を止めてアポロを討ち取る事すら視野にいれてグランはアポロを睨み付ける。

 刺々しい殺気はまだ大人になりかけの青年が出すとは思えない冷たい空気と共にアポロに突き刺さった。

 

「改めて聞こう、黒騎士。一体何故、どうしてそんな事になってしまうのか」

 

「ふ、小童が一丁前に殺気まで放つとは。随分あの男に影響されたと見える」

 

「黒騎士、ルリアを護るためなら、僕は貴方を殺すことを厭わないよ。詳しく話してもらう」

 

 アポロの言う様に有無を言わさない声音は、まるでセルグの様だと背後に並ぶ仲間達も息を呑んだ。

 

「そういきり立つな……何をどうするか。正直なところ私も確実だとは思っていないし、本当にそれで大丈夫なのかもわからない。そうだな、まずはルリアの能力についてだ。ルリアの能力は、星の民との関係とかそんなものから来た能力ではない。ルリアの能力は星の民とは全くの無関係だ。私とフリーシアが調べてきて唯一わかったこと。それは……ルリアが適応者だと言う事だ」

 

「適応……者?」

 

「ああ。一つ聞きたい。お前は寒い暑いというもの感じたことはあるか?」

 

「それはもちろん、有るだろう。バルツでは暑かったし、ポートブリーズの風は涼しいと感じた」

 

「そうだな、それが普通だ。だが、ルリアの場合それは暑い寒いでは終わらない。ルリアはどのような環境に置かれても決して生命の危機的な状態にはならない。どのような環境に居ても活動でき、死ぬことは無いんだ」

 

「は? 一体何を言って」

 

「ルリアはその時々で己を変異させる。見た目が変わるわけではなく、もっと本質的な部分でな。広義的に言うのであればこの世界に於いて、求めるもの全てに成れる。それがルリアの能力だ」

 

 一様に皆が疑問符を浮かべる。突拍子が無さすぎて意味が分からない。そんな表情を浮かべながらそれぞれが今アポロが言った事の意味を計りかねていた。

 

「えっと……私は何にでも変身できるということなんでしょうか?」

 

「全然ピンとこねぇな。言っている意味も良くわかんねぇし。それで? それがオルキスの嬢ちゃんを救うのと何の関係があるんだ?」

 

「今のオルキスは嘗ての心を、いや魂を失った状態だ。つまりは元々あった部分が欠けてしまっている。そこで人形にルリアを適合させ失ったものを補完する。ルリアによって補完された完全なオルキスを生み出す……それが、私の計画だ」

 

「つまり今のオルキスちゃんをルリアちゃんで上書き……という所でしょうか? 七曜の騎士ともあろう者が随分不確定で成功の見込みが薄そうな計画を立てていますね。これならば艇にいる愚か者共のバカな計画の方が幾分かマシだと思えるほどに」

 

 吐き捨てる様に、ヴィーラが皮肉る。そもそものルリアの能力についても不確定。更にはルリアとの適合をして人格は混ざらないのか、身体に変化はないのか。

 何が起こるか予想もつかないような不安要素だらけの計画であった。

 

「そんなことは百も承知だ。それでも私はそれに縋るしかないのだ。そうしなければ私は私を保てない……オルキスを取り戻せなくては、私に価値など無いんだよ」

 

 自嘲の混ざったアポロの表情に仲間達の怒りの気配が薄れていく。それはこれまで弱さを頑なに見せようとしなかった彼女が晒すように見せた弱さ。

 そして気づいてしまう。彼女はもはや壊れかけているのだと……

 弱さを鎧で隠し、辛さを言葉で否定し、現実と言う絶望を願いという希望で塗りつぶしてきた。そうして彼女は何とか己を保ってきたのだ。

 只一つ、オルキスを取り戻すことだけを見続けて。

 

 だが、計画を告げられた今、そんな弱さを見せられたところで、グラン達がそれを良しとするわけがない。

 

「黒騎士さん……何故いまこんな話を? そんな話をされて、私たちが頷くわけがないのに」

 

 小さな哀れみを目に宿しながらも、ジータは彼女の計画を否定して、今告げてきた事への真意を尋ねた。

 わざわざ告げずに黙ってやれば計画の遂行はしやすかったはずだ。今この時、怒りの声を受けることは無かっただろうと。

 そんなジータの声にアポロは再びいつもの空気を纏う。一時みせてしまった弱さを完璧なまでに覆い隠した彼女はまた普段の強い口調で答えた。

 

「ふっ、今も星晶獣と戦ってるアイツや、こうして人形を取り戻すために必死になるお前達を見て、どうしても居た堪れなくなってしまった……と言ったところだ。協力したお前達とだけは正面から向き合いたいとな。人形を取り戻した後、私は私の目的の為に、正々堂々お前達と雌雄を決する。話はこれまでだ、休憩は十分だろう。行くぞ」

 

 思いの丈を一息に言い切り、アポロは歩き出す。その背に垣間見えるのは今まで通りの自信と覇気に溢れた背中。

 だがグラン達にはもう、それが強がりにしか見えず戸惑いの表情を浮かべてしまう。

 

「ホラ、呆けてないで! 早くいきましょう。彼女が何を想って話したのかはわからないけど、いまここで戸惑ってても仕方ないわよ」

 

 ロゼッタの一声で皆が我に返ったかのように動き出した。

 こういった時、彼女の存在と言うのは大きい。普段はからかったり、からかったり、からかったりとわけのわからない言動ばかりの彼女だが、芯の通った落ち着いた声は戸惑う彼らを現実に戻すにはピッタリであった。

 

「そうだな……思うところは在るけど。今はこうしていても仕方ない。カタリナ、ヴィーラ、それからリーシャさんも一応ルリアからは目を離さないでいてほしい。正々堂々といったが万が一と言うこともある。動いてくるなら対応を……」

 

「わかった、用心しておく」

 

「お任せください」

 

「了解しました。それからグランさん、私の事はリーシャと呼んでくださって結構ですよ。一応その……私もこちらの団の一員ですので」

 

「あ……そ、そうだね。秩序の騎空団の人だからつい……」

 

 リーシャの指摘にグランが妙に慌てた様子で弁解する。先程までの張りつめた空気はどこに行ったのか。今の彼はいつもの朗らかな青年に戻っていた。

 

「というかグランって妙にリーシャさんに他人行儀だよね。カタリナやヴィーラさん、もっというならオイゲンさんにだって普通に口を訊いてるのに……」

 

 そんなグランの様子を訝しむのはジータ。彼の口調は仲間かどうかの線引きだと思われていたが、もしかしたら違うのか? そんなどうでもいいところではあるが気になってしまう疑問が湧いてくる。

 

「あ~その……ね。今はそんなこと気にしている場合じゃないしとりあえず置いとい」

 

「フフ、まだまだねジータ。そんなの、グランだって年頃の男の子なんだから理由は一つに決まってるじゃない。ね?」

 

「えぇ!? そうだったんだ……ごめん、グラン。わたし気が付かなかった」

 

 やっぱり彼女は彼女のままだったようだ。ロゼッタによってサラリと落とされた爆弾をジータが間髪入れずにキャッチしてグランは瞬く間に顔を赤くした。

 

「ロ、ロゼッタ!! 変な勘繰りはやめてくれ!! 別に僕はそう言うんじゃなくて、純粋にリーシャさんに憧れというか感銘を受けていると言うか……とにかく!! 今はそんな事でお喋りしている時間は無い! ほら、黒騎士に置いていかれる。早く行こう」

 

 ここまで誤魔化すのが下手な奴も珍しい。普段からかわれるジータやリーシャと違い、慣れていないからなのか……視線は泳ぎ、無駄に声を張り、最終的には誤魔化し切れずに会話を打ち切ったグランに仲間の誰もが面白そうな視線を投げながら付いていく。

 

「あ、あの~……私は一体どう反応すればよかったのでしょうか?」

 

 一人立ち尽くすリーシャ。今目の前でいたいけな少年のような青年の、淡い想いを知ってしまったわけだ。彼女自身、そういった色恋沙汰と言うのはこれまで生きていてからっきしなため非常に反応に困っていた。

 

「リーシャちゃん。私たちの団長は優良物件よ! 器量よし、腕っぷしもよし。度胸もあるのに更に優しいとくれば、逃す手はないわ。さぁ、貴方から迎え入れてあげなさいな」

 

 チャンス到来と言わんばかりにロゼッタはリーシャへと詰め寄ってグランを売り込む。ロゼッタの言葉に少し先を想像してしまったのか、グランに続いてリーシャもその顔を赤く染めた。

 

「ロ、ロゼッタさん!? このような火急な事態を迎えている時にそう言う話題はやめてください。これから私たちはフリーシア宰相と対峙すると言うのに、そんな気の抜けた状態では」

 

 クソ真面目といっても過言ではないリーシャの言動にロゼッタがあからさまにため息を吐く。

 これはまだまだ面白くならなそうだと残念に思いながらも少しだけ真剣な表情を作りリーシャへと向き直った。

 

「はぁ……全く。まだまだお子様なのね……護りたい人がいる。それだけでヒトって強くなれるものよ。黒騎士を見てごらんなさい。あの子もいうなれば、過去のオルキスちゃんという存在を護るために戦っている……自分が壊れそうになっても必死でね。あの強さの根源は大切なヒトを想う気持ち。貴方もそう言うヒトの一人や二人、いてもいいと思うけど?」

 

「それは……そうかもしれませんが。だからといって急にそんなこと言われても……」

 

「難しく考える必要はないわ。その人をもう少し注意深く見てあげるだけ。それだけで色んな新しいことが見えて来るわよ」

 

「――はい。考えておきます」

 

 小さく、考えるそぶりを見せながらリーシャはロゼッタに応える。

 その表情には戸惑いが有りながらもどこか嬉しそうに見えた。

 

「よし! それじゃ、いきましょう」

 

 リーシャの答えに満足したのかロゼッタは仲間を追う様に走り出す。前を見れば黒騎士だけでなくグラン達とも少し離されていて、リーシャも慌てて追いかけた。

 

 こうして一行は歩みを進める。

 ある者は途切れそうな希望に縋りながら。

 ある者は気恥ずかしいであろう想いを持て余しながら。

 ある者は胸に抱いたわだかまりを抱えたまま。

 

 それぞれの想いを抱えたまま進む彼らの先には、一つの終着点が迫りつつあった……

 

 




如何でしたでしょうか。

戦闘の切れ方が前回と同じパターンんな所が少々不満でしたが他にいい区切りもなく、このような形です。
さて、ルリアの設定がちらりと明かされましたが、こちらはあくまで当小説内での設定ですので原作とはちょっと変わっています。(これ以上は余計なことは言えませぬ

次回こそフリーシアとご対面かな
戦闘中の3人がどうなるのかも含めてお楽しみに!

感想お待ちしております
それでは。楽しんで頂けたら幸いです。

最近グラブル小説が増えて来てる、、、オラワクワクすっぞ状態な作者です
もっともっと増えて欲しいですね。いろんなキャラの魅力を引き出して欲しい。作者は能力不足のため今のメンツでも出し切れずに四苦八苦しております故、、、

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