granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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戦場もおわりそこそこ早めに投稿。

オリジナル色強く進んでいるルーマシー編になります。
原作でも大事なお話がそこそこ出てくるのでどう織り交ぜていくか悩みどころ。

それではお楽しみください


メインシナリオ 第21幕

 こんなはずではなかった……

 

 一人、また一人なんて表現では到底追いつかない。

 フリーシアの目の前で行われる数の暴力ならぬ質の暴力。

 己の一言が大きなうねりとなって自らに迫ってくるこの状況にフリーシアは、恐怖していた。

 

 

 

「ジータ! ブラインドを掛ける、魔晶兵士を仕留めろ!!」

 

 声を上げると同時に前線に出ていたグランは帝国兵士を相手にしながらも暗闇魔法ブラインドを放つ。僅かな間に七度放たれたそれは仲間達に押し寄せようとしていた魔晶兵士を見事に捉えた。

 それと同時にグランの檄にジータが応える。

 レイジとウェポンバーストの発動。自身に滾る魔力と研ぎ澄まされた集中力は視界に入った複数の魔晶兵士をハッキリと捉え奥義の体勢をとる。

 七星剣を構えたジータの周囲に、輝く七つの光点が出現すると、巻き起こる力の奔流に身を任せ、ジータは七星剣を振り抜いた。

 

「一つ!!」

 

 剣に従い、光点の一つが魔晶兵士を貫く。

 

「二つ! 三つ!」

 

 立て続けに振るわれる剣によって光点が飛び交い、瞬く間に魔晶兵士が沈められていく。アマルティアでは苦戦していたはずの魔晶兵士であったが、今のジータは攻撃力と言う一点においては最強のウェポンマスター。アマルティアでの戦闘の経験も相まって、彼女の実力は大きく上昇していた。

 

「最後! 北斗大極閃!!」

 

 最後の一振りで七体目の魔晶兵士が沈む。

 

「ふぅ……良い感じ」

 

「隙だらけだ!!」

 

 息を吐いたジータを背後より帝国兵士が切りかかる。だがそれは無理無茶無謀と言うもの。

 言葉通り隙だらけに見えるジータだが、彼女は一人ではないからだ。

 

「隙だらけなのはテメェだ!!」

 

 横殴りに掻っ攫われるように、兵士が飛ぶ。魔力を込めた激烈な銃弾を受けて吹っ飛ぶ姿は、いっそ見ていて気持ちが良いなどと感じたジータは、そろそろ自分は危ないヒトの仲間入りなのではないかと少しだけショックを受けていた。

 

「大丈夫か、ジータ?」

 

「ありがとうございます、オイゲンさん。奥義後の隙を狙われました」

 

「へ、嘘吐けぇ、余裕で対処できただろうが」

 

「あ、バレましたか。最近セルグさんに黒騎士さんと強い人が多いですからね。団長として威厳を見せておかないと」

 

 そう言って笑うジータに、オイゲンは軽く恐怖を覚える。己の半分も生きていない少女が相当な高みにいながら更に高みを目指しているのだ。グランもそうだが末恐ろしいとはこの事だろう。

 

「ま、まぁあんまり無理すんなよ。お前達若いもんを守るのは俺達大人の役目なんだからよ。なぁヴィーラ?」

 

「オイゲンさん! おしゃべりはその位にして、ドンドン戦ってください。いくら弱いとは言え、相手は害虫の如くワラワラと湧いてくるのですから」

 

 声を掛けられたヴィーラは兵士を切り捨てながら、いつもの麗しい笑みを張り付けてオイゲンに苦言を呈する。

 

「お、おおう。わりぃわりぃ。すぐに援護するぜ!」

 

 こちらにもまた違う意味で軽く恐怖を覚えながら、オイゲンはすぐさまヴィーラの援護に入って行った。

 

 

 

「さぁて、チビッ子。いっちょやってやるか!!」

 

「ラカム! 子ども扱いすんじゃないわよ!! 見てなさいアイツラまとめて私の魔法でケチョンケチョンにしてやるんだから!!」

 

 ラカムの言葉にイオが吠える。クルクルと魔法の杖を回しながらイオが集中して魔力を解放した時、杖から放たれるのは幾つもの魔法弾。

 次々と兵士達を沈めていくイオの姿は正に天才魔法少女と言ったところだろう。子供にしては……そんなちんけな枠に収めることはできない程イオの魔法は優秀の一言に尽きる。

 一振りすれば敵を凍らせ、一振りすれば炎が猛り、一振りすれば光弾が飛ぶ。発展途上な彼女の実力は未だに未知数であり、限界をまるで感じさせない。

 

「お~お~いいね。その勢いで全部やっておっさんの俺を楽させてくれ」

 

「この……オジンラカム!! ちゃんと戦え~~!!」

 

 ケラケラ笑いながら軽口を言うラカムにイオは詰め寄るもラカムはその背後を打ち抜く。

 見れば、遠目からイオを狙い撃とうとしていた兵士の姿。

 

「安心しな。ガキを守るのは大人の役目だ。好きなだけ暴れていろ、危ない芽は俺が摘み取ってやる」

 

 ニヤリと笑うラカムにさっきまでの怒りはどこへ行ったか、イオも笑う。

 

「へっへーん、やっとラカムも私の実力を認めたって事ね。それじゃ、背中は任せたからね! ちゃんと守ってよ!!」

 

「ヘイヘイ、お姫様っと」

 

 イオが魔法で圧倒し、ラカムが隙を埋める。

 普段は何かといがみ合うことが多い二人だがこの時は見事に噛み合った連携を見せて、帝国兵士達を次々と打倒していった。

 

 

 

「ルリア、ビィ君! 私から離れるなよ。ロゼッタ、リーシャ殿、援護を頼むぞ」

 

「任せて頂戴。ここは私の故郷ですもの。ここを荒らすいけない子にはきっちりとお仕置きしてあげるわ!」

 

「攻撃魔法と防御魔法で援護します。何としても守り抜きましょう!」

 

 ルリアとビィを護るのはカタリナにロゼッタにリーシャ。

 カタリナは襲いくる兵士をあっさりと捌ききり、ロゼッタは茨で相手の動きを妨害する。リーシャが状況に合わせ適宜攻撃と防御を行う。

 視野が広く、手段の多い彼女たちは互いにカバーし合うことで、完璧な防御網を敷いていた。

 

「カタリナさん、六人接近です。半分はこちらで」

 

「わかった! ロゼッタ、少し守りを任せる」

 

「ハイハイ、行ってらっしゃい」

 

 言葉少なく伝達すると、すぐにリーシャの言わんとすることを察してカタリナは残りの三人を引き受けに走った。

 ロゼッタはすぐにルリアとビィの護衛体制。別の方向から来た三人を迎撃にでたリーシャは瞬く間に三人の兵士を無力化していた。

 

 同行する時は武闘派ではないと言っていたリーシャが思いのほかあっさりと帝国兵士達を捌いていく姿をみてカタリナは感心する。

 と同時に思いだすのはモニカの言葉。彼女の自己評価は低く、常に自分に求めるものを高くしていたと……

 

 彼女は知らず知らず、多くの研鑽を積んできたに違いないと胸中でリーシャの評価を多分に上げると、信頼しきってリーシャに前線を任せた。

 

「凄いわね、リーシャちゃん。貴方それだけ戦えるのに武闘派じゃないっていうの?」

 

 からかい交じりにロゼッタが問うとリーシャは顔を顰めて答える。

 

「モニカさんに比べたら私なんて足元にも及びません……ここにはセルグさんや黒騎士、あとは私よりずっと若いのにあの実力である団長の御二人もいますし、この程度で満足なんて」

 

 不服そうに、自分の強さを全然理解していない発言にロゼッタは呆れたようにため息を吐いた。

 

「あ~もういいわ。リーシャちゃん……それちょっと贅沢よ。それだけ戦えるのなら十分誇っていい。そりゃあ強い人はもっと強いだろうけど貴方の強さはそれだけじゃないんだし、素直に誇りなさいな」

 

「その通りだリーシャ殿。それだけ戦えて部隊指揮ができて、守りの戦いもこれだけできるのなら立派と言うものだ。いちいち自分を他人と比べていてはきりが無いぞ」

 

 カタリナも同意して口を挟む。二人の言葉にリーシャは呆気にとられるもすぐさま二人が言いたいことを理解して笑みを浮かべた。ここらへんも頭の回転が速い彼女だからこそだろう。

 

「――そうですね。本当、改めてここにきて良かったと思います。ここでなら、私は私として、強くなれる……さぁ、どんどん行きましょう!!」

 

 なかなか治らない卑屈癖を捨て去り、リーシャは今その力を思うがままに振い続けた。

 

 

 

 皆が存分に力を発揮し、すさまじい勢いで帝国兵士を駆逐していく中、背中合わせに立つのはグランとゼタ。次々と襲いくる兵士達を難なく迎撃していく姿は他の仲間達と同様、圧倒的である。

 そんな最中、ゼタは背後のグランに声を掛けた。

 

「はは、みんなすっごい勢い。ねぇ、グラン。ちょっと私と勝負しない?」

 

「なんだよゼタ、急に……こんな時に勝負って」

 

 困惑しながらも戦闘を続け、あまつさえ瞬く間に三人の兵士を四天刃で屠る様はこの場に於いて強者の一角であることを如実に知らしめる。だからこそ、ゼタは今ここで勝負を持ち出した。

 

「やっぱり納得いかないのよ。セルグが言った団内の実力評価って奴がね……年下の団長さん達に劣ってると言われてハイそうですかって簡単に引き下がれるほど、私は弱く在りたくないの」

 

「そんなのセルグが勝手に言った実力診断じゃないか。僕達自身そこまで強いとは思ってないしあんまり気にしなくても……」

 

「だ~め。それでも二人が強いのは確かなのよ。私が自信を失ってしまう位ね……だから試させて、アタシとアルべスの槍の本当の力と、貴方達と天星器の力。どちらが強いのか」

 

 真剣なゼタの表情にグランは何かを察した。どうせ引き下がらないと言うのもあるし、自分自身、ゼタとの差なんてないと言いつつもどこか勝っていてほしいと思う期待も持ち合わせていた。

 勝負と言うのはグランにとって魅力的な提案であった。

 

「……わかった。受けて立つよ、ゼタ」

 

「――ありがと。勝負はシンプル。立ちはだかる敵を薙ぎ払い、沢山倒したほうが勝ちね」

 

「えぇ……それって、攻撃型なゼタが滅茶苦茶有利なんじゃ……」

 

「あら、弱音? 自信無くなっちゃった?」

 

 安い挑発ではあったが、男として、自信が無いとは言えなかった。仮にそれが不利な勝負になるかも知れなくとも……グランはムッとしたような顔で即答する。

 

「いいよ……その条件で行こう。折角だから僕も優劣を付けさせてもらう」

 

「そう来なくっちゃ!! でも、簡単じゃないからね。私とアルべスの槍の本当の力、見せてあげる!」

 

 そう言うとゼタは一度瞳を閉じた、戦闘中に何をしているのか思うが、あくまで数瞬の間。視界を閉ざし、より鮮明に必要な事を思い描くため。

 集中を高めたゼタからアルべスの槍を解放するため言霊が紡がれる。

 

「アルべスの槍よ。我が信条を示すため、汝が最たる証を見せよ。その力の全てを今ここで解き放たん!」

 

 これまでと違う詠唱は彼女の信念の表れか。胸に去来するはラビ島での感覚。セルグの未来を護るためにと己の全てを使い切る全力を振るった時の事。ただ星晶獣を狩る為でしかなかった自身の戦いに明確に目的が生まれた時、彼女もアルべスの槍も大きく変わっていた。

 彼女の心の変化が現れた言霊にアルべスの槍が強く反応し、これまでよりもずっと紅い炎を纏う。神々しさすら感じさせて彼女は力を解放した。

 

「ゼタ……それって」

 

「こいつも文句を言ってるのよ。強いのは何も天星器だけじゃないってね」

 

 不敵な笑みをこぼすゼタの雰囲気はこれまでと違うことがグランにはわかった。炎を纏い敵を見据える姿は、初めて彼女と会った時の過剰な自信で塗れたものではなく、なにか大きなものに支えられた揺るがない自信で溢れている。

 

「さて、先にいかせてもらうわよ!」

 

 スッと音も無く動いたかと思えば、既にゼタは帝国兵士を一人打ち倒していた。

 今まで力強い戦いが多かった彼女の余りにも鋭い動きにグランは思わず目を奪われてしまうも、ゼタはそれで止まることは無い。最速で、最短で、最効率で。次々と兵士達を打ち払う。

 

「凄い……全く、セルグの見解なんて宛にならないや。往くぞ四天刃。僕達も負けてられない!」

 

 返事は無くとも、四天刃の輝きが増したのを感じて、グランも帝国兵士へと向かう。当然ながら対抗意識が燃え上がったグランもその能力を徐々に上げて戦いに没頭していく。

 二人の勢いは破竹の如く。押し寄せていた帝国兵士達を及び腰にさせ、前線を押し上げていった……

 

 

 

 

 

「ぐぅ、このままでは……貴方達! 全員で何としても時間を稼ぎなさい!!」

 

 既に敗北どころか壊滅の様相すら見えそうな目の前の戦況に、フリーシアは撤退を始める。兵士達にはその時間稼ぎを命じて、すぐさま森の奥へ消えようとした。

 

「フリーシア宰相閣下、それでは!?」

 

「マリスを使います。もはやなりふり構ってはいられない……貴方達が何と言おうと現在窮地に立たされているのは我々です。貴方達の役目は職務を全うし、彼らを私に近づけさせない事です。良いですね?」

 

「は、ハッ! 了解しました!!」

 

 反論を許さない威圧の瞳を向けながら、下された命令に兵士長は了承しかできない。

 フリーシアの命令に、成すべきことを一点に絞った兵士長は兵士達に向けて大きく声を上げた。

 

「全隊構えぇ!! ここで押し留めるぞ、続けぇー!!」

 

 フリーシアの言うマリス。これが何なのか知っている隊長は、この場に居合わせてしまった不運を呪いながら、部下と共に職務を全うするべく命令を下す。

 例えその先の結果がどう転んでも変わらない事を理解しながら……ただ彼は、迫りくる暴力的な強さを持つ騎空士達に抗い続けるのだった……

 

 

 

 

「おい、十二時の方向で数三だ」

 

「わかってる」

 

 短い言葉を交わした直後には剣閃が放たれ、遠目に居た兵士が三人打ち倒される。

 

「ほら、四時の方向でルリアを狙ってる奴がいるぞ」

 

「うるさいだまれ、見えている」

 

 鬱陶しいと言わんばかりの言葉を吐きながら、今度は魔法が飛び密かにルリアを狙っていた兵士が吹き飛んだ。

 現在最も目立たず、だが最も難しい戦いをしている二人、セルグとアポロである(本人達は至って平然としているが)

 戦場の中心に並び立ち、セルグは斬撃を、アポロは魔法を放って、密かに仲間を狙う兵士達の悉くを、何もさせずに打ち倒していた。

 

「変態的だな黒騎士。なんだそのほぼノーモーションな魔法の発動は? 剣だけじゃないのかよ」

 

「そっくりそのまま返してやる。なんだその出鱈目な剣閃は? この私ですら、距離を取られたままソレを放たれたらと思うと身の毛がよだつ」

 

「嘘吐け、艇で手合せした時難なく防いだじゃねえか。飛んでいくか直接斬るかの違いしかねえんだ。見えてるお前が対処できないわけがない」

 

「それはお前も同じだ。あれだけの身のこなしにその剣速。私が魔法を放つ前にお前が斬る方が早いだろう。そもそもお前相手では魔法が当たる気がしないな」

 

 互いに素直ではない称賛をし合っている状況ではあるが、会話をしながらも彼らは依然敵を屠り続けている。

 もはや常識が非常識と言えそうな、異常識な二人は、一度戦況を考察した。

 

「さて、黒騎士。勢いも弱まってきた……そろそろ攻勢に出るべきじゃないか? このままただ凌いでいるだけでは増援を呼ばれてきりが無くなる。オルキスを救うためにもまずはフリーシアを捉える必要がある」

 

「そうだな……幸いお前の仲間達もおおいに余裕がありそうではあるからな。それじゃあ先陣を頼むぞ」

 

「はぁ!? お前面倒だからってこっちに押し付け」

 

「私の魔法と剣はお前より遅い。お前の方が突破力があるだろう? 蹴散らして道を拓いてくれ」

 

 面倒事を押し付けられたとセルグが抗議するが、アポロの眼を見て留まる。真摯にセルグを見る目はそれが適当だと判断し頼んでいるからに他ならない。それをアポロの眼が言外に告げていたからだ。

 

「――まぁ、妥当か。わかった、すぐにオルキスの所まで連れて行ってやる。そのかわり、アイツラに怪我させるなよ!」

 

 代わりにセルグはアポロを信じて殿を任せた。こちらもアポロの方が妥当であるのだろう。アポロは少しだけ笑みを浮かべて返事する。

 

「フッ、誰に物を言っている。期待しているぞ」

 

「あいよ……リーシャ、包囲を突破する! ルリア達を頼むぞ!!」

 

 カタリナ、ロゼッタと護衛体制を敷いていたリーシャにセルグが大きく声を張って先に進むことを告げる。

 告げられた言葉で今からどう動くのかを察したリーシャも戦闘の音に負けないように大きく声を張って返した。

 

「任せてください! それから、お気をつけて!!」

 

 リーシャの声に返事を返すことなく、一度頷いてからセルグは走り出す。

 向かう先は最前線を張っているグランとゼタの元。

 オルキス救出の為に、騎空団が動き出した……

 

 

 

 

「流石ね、グラン。全然負けてくれない……」

 

「そっちこそ、ドンドン倒していくから付いていくので精いっぱいだ」

 

 やや疲れた表情を見せながら、ゼタとグランが笑い合っていた。周囲には数えることも億劫になるほど兵士達が転がっている。

 二人とももう勝負どころではなくなっているくらい兵士を倒していそうである。

 そんな二人の間をセルグが駆けていった。

 

「グラン、ゼタ! 行くぞ、道を切り拓く!!」

 

 駆け抜け様にかけられた声に、グランとゼタはすぐさま応じた。何をすべきかすぐにわかる当たり、二人はセルグとの相性もよさそうである。

 

「行くよ、グラン! こうなったらどっちが走り抜けられるかよ!!」

 

「望むところだゼタ! 絶対に負けない!!」

 

「それじゃ、二番手は私が行かせてもらいます!!」

 

 予想外な三人目の声にグランとゼタが呆気にとられた瞬間、ジータが二人の間を走り抜けていった。

 思わず、顔を見合わせた二人は出し抜かれたことに気付いてすぐに追従していく。

 

「負けられるかぁ!!」

 

「ジータ! 抜け駆けは許さないぞ!!」

 

「余計なおしゃべりしてるからですよ」

 

 二人の文句もなんのそのと受け流したジータが、立ちはだかる敵を屠りながらセルグについていく。

 前を走る男の背に頼もしさと頼り辛さの両方を感じながら、ジータはその背を追い続けた。

 

 その後ろを慌てたように追いかけ始めるグランとゼタ。

 続いてヴィーラ、オイゲン、ラカムにイオ。

 更にリーシャ達が続いて、殿はアポロだ。

 一行は帝国兵をなぎ倒しながら、森の奥へと撤退したフリーシアを追撃していく。

 

 

 

 

 鬱蒼と生い茂る木々の間を、フリーシアは可能な限り急いで進んでいた。

 置いてきた兵士の数を考えると時間の猶予は余り無い。彼女の表情に浮かぶ焦りがそれを物語る。

 何もかもが誤算であった……あの場であれ程までに抵抗されるとは考えていなかった事。彼らがあそこまで実力を上げているとは想定していなかった事。己の発言がああも彼らの怒りを買い、勢いを増す一助となった事。上げれば上げるほどに己の思慮の浅さを噛みしめていく事をフリーシアは実感した。

 だがそれでも……

 

「アマルティア侵攻の三倍は魔晶を用意した。ガンダルヴァ中将はいませんでしたが、ここまで一方的にやられることは想定外でした……天星器を使いこなしていたのは知っていたが、それでも魔晶兵士と同等と言って過言ではなかったはずだ。一体何がここまで奴らを変えた?」

 

 歩きながらも思考するのは、想定との食い違い。ガロンゾで出し抜かれてから、彼らに対しては最大限の実力を想定して戦力を投入してきた。

 事実、アマルティアでは彼らは島より逃走するしか手段が無かった状況に追い込んでいたのだ。七曜の騎士であるアポロの存在は大きいがそれだけではなく、騎空士の面々が想定より強くなっていたのは間違いない。

 

「ふふ、随分追い込まれているようだね……手助けが欲しくは無いかい?」

 

 思考していたフリーシアの耳に若々しい少年の様な声が届く。

 声を聞いた瞬間にフリーシアの表情が歪んだことから、声の持ち主に余り良い感情を抱いていない事が分かる。

 

「こんなところに何故貴方が……? 少なくとも貴方がここに用があるとは思えませんが」

 

 剣呑な声で返しながらフリーシアが見据えるのは、声に似つかわしい少年とも青年とも取れる若い男性の姿。

 動物の頭蓋や、毛皮、羽等の奇抜な装飾の衣装に身を包んだ酷く浮世離れした人物であった。

 

「これは心外だなぁ、せっかく君の事を助けに来て上げたのに」

 

「それは驚きです。貴方が我々に干渉するとは思わなかったものですから……それで、何をしてくれるのです?」

 

 フリーシアはにべも無く返す。言葉通りの思惑があるわけないと理解している。目の前の男がそんな事の為に動くはずがないと

 

「お前があまりにも使えないから少しだけ手伝ってやると言っているんだ。全く、無様にも程があるよね~あの程度の連中に後れを取ってあまつさえ計画自体がとん挫しそうなんだから」

 

「とん挫? 何を見て言っているのかわかりませんが? 予定外の事が多少あれど計画に致命的な障害など」

 

 男の言葉に訳が分からないと言う様に返したフリーシア。だが、その意味をすぐに知ることになる。

 

「見つけたぞフリーシア!!」

 

 この場に到着した彼らによって。

 

「バカなッ!? もうここまで。兵士達は何を!!」

 

 驚きと怒りの混じった声を上げる。それもそのはず。いくら彼らが強かろうと間には魔晶を持たせた兵士もいたのだ。こんなにすぐに追いつけるはずがない。

 

「だから、ダメなんだよ君は。君に追い付こうと必死な時にわざわざ兵士達を相手にするとでも? ねぇ?」

 

 見知らぬ男に話を振られて僅かに戸惑う一行。前に出たセルグが怪訝な表情のまま答えた。

 

「誰だ……? まぁそいつの言うとおりだな。わざわざ相手にしてられるか。面倒な魔晶兵士にはブラインド。迫りくる雑魚には片っ端から遠距離攻撃で吹っ飛ばして来た。さて、観念してもらおうかフリーシア」

 

 天ノ羽斬を突きつけて、フリーシアに鋭い視線をやるセルグは、この場で捉えようと息巻く。

 仲間達も同様、各々が武器を構えて、既に臨戦態勢となっていた。

 

「クッ、こんなところで……」

 

 この場で捕らえられては成す術もないだろうと、フリーシアが唇を噛んだ。周りに兵士達はいない。全てを足止めに回したと言うのに、それを呆気なく突破されて追い詰められてしまった。

 浅はかな予測と、護衛を連れなかった自分の愚かさに苦虫を噛み潰したように表情を歪める。

 

「ほら、わかったら早く行ってよ。足止めはしてやるから。このままじゃ……全然面白くない」

 

 そんな中、男が言い放つ言葉にフリーシアは疑惑の眼差しを向ける。まさか本当に助けに来たのかと。あり得るはずがないと思い込んでいた事が現実のものになりそうで、フリーシアは淡い期待を抱きながらも男に視線を向けた。

 

「――信じてよろしいのですか?」

 

「信じようが信じまいが選択肢は限られてるだろ。邪魔だからはやく行けよ」

 

「――礼は言いませんよ」

 

 ぶっきらぼうに返されてフリーシアは走り出す。捨て台詞を男に残して。

 

 

「全く、本当に面倒くさいね。自覚有るのかなぁ、助けてもらうって……まぁいいや。さて、君たちには少し遊んでもらおうかな。このままじゃ簡単に終わっちゃうし」

 

「貴様、何者だ?」

 

 一行を前に余裕綽々な男の雰囲気はどうにも異質な気がしてアポロが警戒しながら前に出る。

 走り去るフリーシアを逃してしまったのは、この男が得体のしれない何かを持っていそうだったから……

 

「あぁそっか。今は君もそっち側だったね。と言うよりは、元々彼女とは袂を分かっていたかな。君がそっちにいるのは面白かったんだけど、問題はそっちの奴だよね」

 

 言葉の終わりに、男が在る人物へと視線を向ける。

 

「……セルグ?」

 

 誰かが呟いた疑問の声が妙に響く。だが、当のセルグは疑問の表情など見せずに男に向けて天ノ羽斬を向ける。

 アポロ同様に得体のしれないものが男にはあったが、それでも今優先すべきはフリーシアの確保。

 このままここで止まっていては逃げられてしまうと、僅かに焦りが見えていた。

 

「何を言っているか良くわからないが、そこをどいてもらおうか? こっちは面倒な奴を振り切ってここまで来たんだ。無駄な足止めを食らいたくないんでな」

 

「……フッ、ハハハ!! いいね、そうやって焦ってくれよ。君がそうやって悔しがってくれる方がこっちとしては面白いからね」

 

「話にならんな……行くぞお前達。相手にするだけ無駄だ」

 

 急に笑い出した男を目にして、呆気にとられた一行は、敵意を見せない男を相手にするのは無駄だと悟り、通り過ぎることを決める。

 

「そうだな。グラン、ブラインド頼む」

 

「う、うん……」

 

 ブラインドで視界を封じれば、時間は稼げるし通り抜けるのも容易だ。グランがブラインドを飛ばし一行がそのまま男を素通りしようとした瞬間

 

「ッ!? なんだ?」

 

 絶大な気配が一行を襲う。

 

「アッハッハッハッハ!! バカだねぇ、完全な存在である僕が君たちみたいな不完全な奴らを本気で相手にするとでも思った? 君たちの相手はこいつだよ。こい……”ギルガメッシュ”」

 

 男が嘲笑う。翻した手の先で空間が歪んだ。それはルリアがするのと同じ召喚の前兆。この空の世界に数多の傷跡を残した災厄、星晶獣の召喚。

 絶大な気配は歪んだ空間より、彼らの前に顕現した。

 

「おいおい……こんな時に」

 

「マジかよ……」

 

「こいつはヤバそうだな」

 

 

 浅黒の体躯は筋骨隆々。背に幾つもの武器を背負いしその姿は、それだけでどんな戦士も霞ませるような圧倒的威圧感を見せる。

 強者とは……戦士とはこれほどまでに強くなれるのかと。そんな戦士の頂を掴んだもの。

 神話に眠りし英雄王の名を冠した、絶対無敵の戦士が意思の無い瞳をグラン達に向けていた……

 

 




如何でしたでしょうか。

まさかの奴が介入、しかもすごい奴がやって来た。
攻撃とか特殊技とかボスの技の表現をどうするのかはいつも悩みまする

徐々に原作乖離が激しくなって来ております。原作崩壊とかタグつけた方がいいのでしょうか

それでは、お楽しみ頂けたら幸いです

感想お待ちしております。

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