granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
かなり久々の本編の更新です。
原作においても大きな話の動きがあるルーマシー編
本作においても非常に大きな動きが出てくるかと思われます。
それではお楽しみください
リーシャからの情報を元に、ルーマシー群島へ向け進路を取ったグランサイファーが空を走る。
もうすぐ島も見えてくるだろうと言うところで、グラン達は甲板に顔をだし、先を見て警戒を露わにしていた。
これから向かう場所は既にフリーシアを筆頭に帝国の者達が先んじている場所なのだから当然と言えば当然の警戒だろう。ラビ島で島の周囲を囲んでいた帝国戦艦を思い出して、一向はいつもの柔らかい空気から張りつめた空気へと変わっていた。
「それにしても、なんでルーマシーなのかしら?」
緊張した空気の中、ふと湧いて出たようにイオから疑問の声が挙がる。
確かに情報として、リーシャからフリーシアの居場所が割れたものの、その目的は不明。思い出したように沸いた疑問は仲間達に伝搬していった。
「そうだよね……あそこって森に覆われた何もない島って話だし。カタリナ、何か知ってる?」
「ううむ、私もこれと言って思い当たる節は……」
「無いわけではない。尤も、確実かと言われれば怪しいがな」
「黒騎士?」
問いかけるジータと悩むカタリナに被せる様に口を開いたのはアポロ。何かを思い出すよう思考を巡らしている様子が伺える。
「――ルーマシーの森の奥には、星の民の隠された遺跡がある。知る者はエルステ王国時代の関係者ぐらいのものだが、奴なら知っていてもおかしくは無いだろう」
「隠された遺跡……か。なんでまたルーマシーなんかに星の民の遺跡が? それにエルステ王国と何の関係があるんだ?」
木に覆われ、およそヒトの立ち入ることのない未開の地。それがルーマシー群島である。仲間達の誰もが感じた当然の疑問がセルグから挙がると、アポロは少しだけ笑みを浮かべて答える。
「ふん、物知り顔なお前もさすがにこれは知らんか。だが、これを説明するにルーマシーの歴史を紐解く必要があるな」
やや自慢げに見えたのは自分だけではないだろうと思いながらセルグは微妙な視線でアポロを見据える。少しだけからかおうかと思ったのは内緒である。
そんなセルグの思考等露知らず、アポロは静かに語り始めた。
「ルーマシーは今でこそメネア皇国の領地となっているが、元々は王国時代からのエルステの領地だった。そしてルーマシーにはエルステが秘密裏に交流を持っていた星の民達の居留地があったんだよ」
「それってつまり……」
「あぁ、エルステは以前より星の民との友好関係を築いていた」
アポロが告げる事実に仲間達の表情が変わった。
星の民との共存……かつて空の世界を支配し、今尚星晶獣という爪痕を残している星の民と、エルステは友好関係を築いていたのだ。驚かないわけがない。
「本当なのですか? 古い話とは言え覇空戦争で星の民への心象は悪い。情報が洩れれば、空の民全体を敵に回しかねない程に。いくら人が寄り付かない森だけの島だからって、星の民を匿うというのは相当にリスクを伴いそうですが……」
「小娘、貴様は今まで何を見てきた? オルキスとルリアを帝国が重要視しているのは何故だ? 星晶獣という規格外の化け物を扱える者達。それだけで空の民を敵に回しても匿うに足る理由だと思えないか」
「それはそうだが……リーシャの言う様にリスクはでかい気がする。信じ難い話だな……」
「リスクが高かろうが、エルステは星の民を受け入れた。だからこそオルキスがいて、ルーマシーには遺跡がある。これは紛れも無く事実だ」
今一合点がいかないのか、セルグも反論するが、アポロは純然たる事実を告げる。
友好関係が無くては空の民と星の民の混血児など生まれるはずもない。ましてや王族に名を連ねるなどありえないと……
オルキスと言う存在はこの事実を証明するまたとない証であった。
「そっか、それでオルキスのお父さんは星の民だったのか」
グランが納得した様に呟いた。
ラビ島で唐突に出てきた星の民の生き残りの存在。ましてや国王だったと言われて混乱したものだが、それには今アポロが告げたような経緯があったのだ。
「それじゃあ、フリーシア宰相はその遺跡を求めてルーマシーに?」
「その可能性位しか私は思いつかん。奴の過去を考えると知っているのは間違いないだろうから尚更な……」
「アポロ、それならそこに何があるのかお前さんなら知ってるんじゃねえのか?」
「いいや、私と言えど星の民が残した遺跡の中身までは知らん。フリーシアが求める可能性があると示しただけだ」
オイゲンが更なる情報を求めてアポロに問いかけるが、これ以上はわからない様で、アポロもお手上げと言う様に両手を上げる。
「遺跡かぁ……星の民の残したってなると、やっぱり星晶獣がいるのかな。団長達と初めて会った時を思い出すね」
星の民の遺跡と聞いてゼタが何かを思い出したように言葉を発する。
「あぁそういえば、ゼタとバザラガに初めて会った時も遺跡に星晶獣がいたんだよね。となるとやっぱりその可能性はありそうだ……」
それはグラン達とゼタの出会いの話。
未開の島の発見に際し、学者の護衛として付いていったグラン達と、組織の任務としてその島に居るやもしれない星晶獣を狩りに来たゼタとバザラガコンビとの、今は懐かしい思い出話である。
「へぇ、その話気になるな。初めて会った時ゼタとバザラガはどんなだった? ゼタとバザラガのコンビなんて噛み合わないだろうと思っていたからな……是非聞いてみたい」
すぐさま食いついてくるのはセルグだった。興味津々な様子でグランとジータ、ルリアやビィに視線を投げる。
セルグの言葉を聞いてすぐにルリアが答えた。
「う~んなんていうか、凄かったです。バザラガさんとはすぐにケンカするし、星晶獣ともすぐに戦い始めるし……」
「互いに一歩も譲らず手柄を奪い合おうとしてたしね……あの時のゼタは喧嘩っ早くておっかなかったなぁ」
「へへ、ゼタが喧嘩っ早いのは今も変わんねぇと思うけどな!」
「コラ、ビィったらもう……気にしないでくださいゼタさん。あの時の私たちはお二人に凄く助けられましたし、グラン達が言うほどゼタさんの事を悪くは……あ、あの、ゼタさん?」
ルリア、グラン、ビィの言葉になんとかフォローを入れるジータだったが、時すでに遅し。
目の前には手と膝をついて滅茶苦茶落ち込んでいるゼタの姿があった。
「あぁ、気にしないでジータ。自分でもちょっと自意識過剰だったって言うか、色々と思い出したのと素直な感想に凹んでいるだけだから。あの頃は……若かったのよ」
「ははは、散々な言われ様だな。俺達も知らない話だったがゼタはそんなにおっかねえ奴だったか。やっぱりゼタは男よりも男らしいみたいだな。 それにしてもお前さん、最後の一言はまんま無駄に年を食ったおっさんの発言だぞ」
後悔の念がたっぷりと詰まったゼタの最後の一言で、ラカムが思わず噴き出した。
からかい交じりに余計な言葉を言い放つ当たり、それなりに年を重ねていても彼の危険予知能力は低いと見える。
案の定、危険なワードをちりばめられたラカムの言葉に火が付いた者が一人。
「ラカム、そういえばアマルティアでも余計な事言ってくれてたわね……丁度いいわ。今ここでシメてやる!!」
投擲されたるのはアルべスの槍。残念ながらラカムに命中することはなく、ラカムの足元に突き刺さってしまうが、威嚇としては十分だろう……もしかしなくても威嚇じゃない可能性の方が高いが。
「おわっ!? あっぶねぇじゃねえか! いくらなんでも槍投げつけんのはやり過ぎだろう!」
「うっさい! セルグと言いラカムと言い、私の事をすぐからかって……覚悟しなさい!!」
甲板に突き刺さった槍を拾い上げながらゼタが走り出し、ラカムが逃げる。いつだかにも見たことがある命がけの追いかけっこが始まりだ。
「どわぁ!? お、落ち着けゼタ! はやまるな。っていうか、からかう頻度ならセルグの方がよっぽど」
「ラカム!? てめぇ、ここでオレに矛先を向けるか! 自分の失言は自分で処理しろ!」
「だぁああもう、うっさいわね。問答無用!!」
聞く耳持たずとゼタがラカムとセルグに強襲する。
忘れられがちだが、ゼタは星晶獣を倒すために訓練された戦闘のエキスパートである。普段はセルグが相手の為、のらりくらりと躱される事が多いが、普通はそうはいかない。セルグはまだしも操舵士でしかないラカムでは逃げ切ることは不可能であろう……。
「ぐぼぇ!?」
哀れ、セルグに囮にされたラカムはその背に盛大なドロップキックを喰らいマウントを取られた。
その後彼がどうなったのかは、仲間達のみぞ知る……
「あわわ、ラカムさん。大丈夫でしょうか……」
「はぁ、全くこれからフリーシア宰相と対峙するかもしれないと言うのに……セルグが来てからどうにも落ち着きがなくなったと思わないか、グラン?」
背景に追いかけっこの喧騒とその後の鈍い音が聞こえる中、ルリアは心配そうにしており、カタリナはため息一つ吐いてグランに苦言を呈する。
「同感だよ……ゼタはもう少し大人の落ち着きがあったように思ってたけど。って言ってもさっきの話を思い出すとそうでもないね」
落ち着きがなくなったという意味でグランも同意をしめすもその表情は呆れたと言うより仕方ないと諦めの表情が強い。
「フフフ、グランとカタリナにはきっとわかんないだろうなぁ。ゼタさんはきっと……」
見守る二人の間にジータが割り込む。どこか楽しそうに笑ってる姿に二人は疑問符を浮かべた。
「む? ジータは何か知ってるのか」
「な~いしょ。きっとあの感じじゃ本人もわかってないんだろうしね」
「あら、それは貴方にも言えるんじゃなくて? ジータ」
妙にしたり顔なジータの言葉にカタリナとグランは何も言えなくなるが、今度はロゼッタが混ざってくる。
「ロゼッタさん……う~ん。どうなんでしょう? そんな気もするけど、私の場合グランに向けるのと同じな気もするんです」
少しだけ悩む素振りを見せながら答えたジータの言葉にロゼッタは毒気を抜かれたように呆気にとられた。
「存外ドライな反応。ちょっと慌てるのを期待してたのに……」
「もうからかわれ慣れましたよ……特にヴィーラさんとロゼッタさんには」
ジータから少しだけ疲れた笑みが漏れる。それはきっとこれまでに散々からかわれてきた経験が出せる、何とも言えない表情。
「でも彼に向ける目とグランに向ける目はちょっと違うと、お姉さんは思うなぁ~」
「そうなんですか? 私自身も最近よくわかってないんですけど……」
既にグランとカタリナは会話から外れ、別の話に夢中になっている。これ幸いとばかりにロゼッタはジータに顔を近づけて、小さく呟いた。
「一歩引いて物事を見るようになると若さがなくなるわよ。まだまだ若いんだから、そこら辺をもっと楽しまなきゃ」
最後にポンと頭に手を乗せてからロゼッタは去って行く。次なる獲物はリーシャの様である。
真面目な話では強かになったリーシャもロゼッタ相手には形無しなのか、すぐに慌てふためく姿が見られた。
リーシャをからかうロゼッタを見てからジータはそっと視線を下げる。
「ダメなんです。きっと……私じゃあの人は救えないから……」
吐き捨てられた言葉は、悲しい声音に彩られていた……
ルーマシー群島。
ここファータ・グランデ空域に於いて、エルステと二分する大国、メネア皇国の領地である群島にグラン達は降り立つ。
鬱蒼とした木々の中にある、ざわざわとした気配は動植物から魔物まで、数多の生物が長い時をかけて形成してきたこの群島の生態を表すか様に、ヒトを拒絶する雰囲気を醸し出していた。
「さぁて、たどり着いたわけだが……なぁリーシャ。お前さんの話じゃここに宰相さんがいるってぇ話だったが、本当にいるのか? 以前と同じでヒトの気配なんてまるでしな」
「いいえ、ラカム。間違いなく宰相さんはいるわ。この島の、ここからずっと奥の方に……」
島の雰囲気からフリーシアの所在について僅かな疑念が渦巻いていたラカムをロゼッタが一蹴する。
目を細めて薄暗い森の奥を見つめるその表情には、普段の彼女とは違う真剣さに溢れ、否応にも納得させる自信を感じさせる。
「ロゼッタ、何か知っているのか? 断言するからにはそれなりに根拠があるんだろう」
「セルグには言ってなかったわね。ここの森の中で私が知らない事はないのよ」
ウインク混じりに返してくるロゼッタの言葉に、セルグが怪訝な表情を見せた。
根拠を示せと言っているのに、知っているという事実だけ。求めていた答えが返ってこなかった事に加え、情報を出さないロゼッタにセルグの視線が鋭くなる。
「何を言っているんだ? ロゼッタ、事ここに至って仲間を疑う気はないが、何故知っているかを話せないのか? 秘密主義は余計な誤解を生むぞ」
「フフ、やぁね。そんな怖い顔をしないで頂戴。言ったでしょ、女は秘密を重ねるだけ美しくなるの……っていうのは建前で、本当は理由があるんだけどね。でも、まだこれは語れない……事情もあるし、私としてもまだ話したくはないのよ。いずれは話すからそれまで待ってもらえるかしら?」
グランとジータを見やりながら少しだけ寂しそうに告げたロゼッタの言葉に、セルグは一先ず引き下がる。
セルグとしては誤解を生むから一部隠すくらいなら情報を出さない方がマシだと言いたかっただけなのだが、どうやらもっと込み入った事情がありそうだと察してそれ以上何も言うことは無かった。
「ねぇ、リーシャ。本当に宰相さんはここに来たの? ラカムが言う様にヒトの気配がまるでしないよ」
「ゼタさん……お気持ちはわかりますが、この場合は逆です。報告をくれた団員も帝国の者も島には入っているはずなのです。それなのにヒトの気配がしなさすぎます。むしろ何かあると考えるべきです。 グランさん、一先ずは秩序の騎空団の団員と合流したいと思うのですがよろしいですか? 合流ポイントは決められていますので」
「うん、わかった。案内をお願いするよ」
「はい、ではこちらに……」
一行はリーシャの案内の元、警戒しながら森を進み始めた。
しばらく森を進んだ先、リーシャによると合流地点と思われる場所まで来たとき、一行は足を止める。
木々が無い少し開けた場所。野営地にするには最適な場所と思えるここが合流地点の様である。
「やっぱり……誰もいないどころか痕跡すらない」
「なぁなぁここが合流地点なのかよぉ……何もねぇし、誰もいねぇぞ」
「そうですね……ここに来るまでに魔物さん達も見かけませんでしたし。あれ? セルグさん?」
合流地点に何もない事、森の雰囲気がおかしい事に不安を見せていたルリアは、セルグの異常に気付いた。
森の一点を見つめ、何かを必死に探しているような……集中していてルリアの声も聞こえていない様である。
「あ、あのセルグさん……?」
「ん? あ、あぁすまないルリア、どうしたんだ?」
「いえ、なんだかずっとあっちを睨んでいるようでしたので……」
「あぁ~気にするな。目が悪くなったような気がして遠くまで見えてるか確かめてただけだ」
「う~ん、遠くなんて暗くて、目が良くても見えないと思いますけど……」
セルグが見ていた先に視線を向けてルリアは至極まっとうな疑問を投げる。
薄暗い森の中。日の光は鬱蒼と生い茂る緑に阻まれ地表にほとんど降り注ぐことが無いこの島では、一寸先は闇とはいかなくても遠くを目視することは難しいだろう。
「そうだろうな、結局わからなかったよ。さて……リーシャ、ストップだ!」
周囲に団員がいないかと捜索に動こうとしたリーシャを、セルグが止めた。
「なんですか? この異常事態に対し、いまから動こうと言う時に」
不満そうなリーシャの声を受け流し、セルグは天ノ羽斬を抜いた。
「リーシャ、悠長な事を言ってるな。皆さん随分とお待ちかねの様だぞ」
「えっ――まさかっ!?」
セルグの言葉に一瞬の間が生まれるも、その意味を理解してリーシャは周囲を見回す。だが、その時には既に一行の周囲に、多数の気配が現れていた。
「待ちくたびれましたよ、皆さん」
突然現れた大量の帝国兵士達。更にその中から、一人のエルーンの女性が出てくる。
その顔には勝ち誇ったような笑み。一行嘲笑うその表情にアポロが真っ先に不快感を表した。
「随分なお出迎えだな、フリーシア。こんな何の役にも立たないような有象無象をかき集めたようだが、まさかこれで勝った気になっているのか? だとしたらとんだお笑い草だが」
嘲笑には嘲笑で返す。嘲るような笑みと共にアポロはフリーシアに辛辣に言い放った。己を含め、騎空団の面々もいるこの状況で、ただの兵士を何人連れてきたところで脅威ではないと言う様に。
「フッ、精々粋がっていなさい。――それにしても随分時間がかかりましたね。私達がルーマシーにいることは秩序の騎空団を通じて、とうに伝わっていたと思いますが?」
「当に伝わっていたってそれ、脱出したオレ達と秩序の騎空団が合流することが前提じゃねえか。一体何をどう推測したら時間がかかったなんて話になるんだよ。そもそもの前提から不確定要素だらけだろ」
何の確証もない前提から成された推測だとセルグが苦言を呈すると、フリーシアの表情が歪んだ。
「協力して我々を突破していって何を今更。全く、貴方は相変わらず厄介な存在でしたよ。まさかあれほど兵士を押し留める事ができるとは思いませんでした……丁度いいですね、ルリアを取り返すついでにここで死んで頂きましょう」
そう言ってギラリと睨み付けてくるフリーシアを相手にしてもセルグは肩を竦めて返す。
「おぉ、怖い怖い。人気者は辛いね。できれば遠慮しておきたい所だ」
フリーシアの恐ろしい発言におどけたように返すその態度には、やられることは無いと思っている節が垣間見える。アポロ同様に彼我の戦力差はハッキリしているとセルグも言外に示していた。
「ここまで誘い込んだのに逃がすとでも思っているのですか? 前最高顧問である黒騎士と秩序の騎空団、そして貴方達が組んでいることなど想定内です。ならば当然然るべき対策を施して当たり前でしょう?」
そういってフリーシアが合図を送ると、周囲を囲む兵士たちの一部が魔晶を取り出した。その人数はパッと見では数えられない程いる様に見える。グランもジータも、その他の仲間達もその脅威を知っているだけに僅かに息を呑む。
アマルティアで見た魔晶兵士が出てくることは想定していたが、その時とは比にならない数である。彼我の戦力差は絶望的に思えてしまった。
グラン達の動揺を見抜いてフリーシアは勝ち誇ったように笑みを深めた。
「フッ、どうやら状況が呑みこめたようですね。どうでしょう? 今ならまだ間に合います……我々の研究資材であるルリアを返してもらえるのなら命だけは助け」
フリーシアの言葉が途中で止まる。直後にはフリーシアの背後にいた兵士の一人が吹き飛ぶ。
天ノ羽斬を振り抜いて放たれた斬撃。それがフリーシアの顔のすぐ横を通り過ぎていた。
兵士へと視線を向けたフリーシアは言い知れぬ不安に駆られながら恐る恐る斬撃の出所へと振り返る
「ルリアが……なんだって?」
「ッ!?」
振り返るフリーシアへゆっくりと視線を向けて、セルグは再度問いかける。その身に暗い雰囲気を纏い、フリーシアを睨む姿はまるで悪鬼の様である。
ヒトをヒトと……否、生き物を生き物と思わない発言はセルグにとって禁句であった。
嘗ての記憶に残りし、忌まわしき施設。生きている者への実験の数々が行われた凄惨な場所の記憶が、フリーシアの発言によって甦り、セルグの心に深い闇を落とした。
脳裏に思う浮かぶのはルリアが数々の実験によって辛い目に会っている姿。当然、そんなことが本当にあったかはわからないし、セルグには知る由もない。
だがそれでも、フリーシアがルリアへ向ける視線はそれが実際にあったのだろうと思わせる様に、嫌悪感を抱く視線であった。
普通に生きる事を許さないような……平和な生というものを脅かす存在に対して、セルグは暗い憎しみを募らせる。
「もう一度訊く。今お前はルリアが何だって言った?」
再度投げかけた言葉は返答を求めているもののそれは既に、殺気という見えない暴力を叩きつけているに近い。
これまでに味わったことが無いような殺意に晒されフリーシアが慄く。自分の命を握られている感覚。一度動けば首が飛ぶかもしれないと幻視させるほどの殺気は、戦いに従事することの無い者にとっては凶器に等しい。
だが、怒りを覚えているのはセルグだけにとどまらない。
「あ~あ、怒らせちゃったよ……ガロンゾで言ったよね。
「私も今の発言は許せないかな……知ってますか宰相さん? 普段怒らない人って怒るとすっごく怖いんだよ。私もグランも今日はちょっと本気の本気で行かせてもらいます」
先程まで動揺が隠せなかった二人からも静かな怒りが溢れ出す。グランはガロンゾに続いて聞いたのは二度目。ジータもそうだがフリーシアの”研究資材”の言葉に怒り心頭のようだ。
セルグの怒りに触発されたように、彼ららしからぬ明確で強い怒りは彼らが戦力差を覆す予感をフリーシアに感じさせた。
「こ、小僧どもが何を粋がっている!? 皆さん、魔晶を使い奴らを」
「随分周りが見えていないようだなフリーシア……残念だが、貴様は竜の逆鱗というものに触れてしまった様だぞ」
生意気にも多勢に無勢なこの状況で、自分達が裁く側だと言う様に言葉を叩きつけた彼らに対し、フリーシアは慌てて兵士に魔晶の使用を促そうとしたが、それをアポロが遮った。
アポロが向ける視線の先にはこちらもやる気満々と言ったように闘志と怒りを漲らせる彼らの仲間の姿。
「まぁな。俺もイラッとはしていたんだ……ポートブリーズでのこともそうだがテメェ等はヒトをヒトと思わねえことばっかりしやがるからなぁ。一度キツイお灸を据えてやるよ!」
「騎士として、何よりルリアを見てきたものとして。先の発言は見過ごせんな。ヴィーラ、私の我儘の為に少し力を貸してくれ――――あの愚か者を叩きのめす!」
「もちろんですお姉さま。私としても、聞き捨て成りませんでした。殺生がキライな私としては残念ですが、今日はあまりよろしくない日になりそうです……皆さん覚悟はよろしいですか?」
ラカムが、カタリナが、ヴィーラが、その目に敵意をハッキリと映し声を上げた。イオやオイゲン、ゼタも同様。
追い回されて狙われて……これまでにため込んでいた怒りが爆発したかのように彼らはその意思をハッキリと示してフリーシアへと向ける。
「み、皆さん!? どんなヒトであろうと罰というのは秩序の騎空団の定めに則り」
「リーシャちゃん!? 今は余計なことは言わない方がいいわ」
臨戦態勢の仲間達の余りの形相に、冷静でいたリーシャが止めに入るも、それは慌てたようにロゼッタに抑えられる。さわらぬ神に祟りなし……今の彼らに余計なことは言わない方が良さそうだとその場の空気が物語る。
「あ、はい……」
小さくうなだれるリーシャ。共に居る仲間に押し負けるとは夢にも思わなかっただろう……同行するにあたって無茶はしないようにと約束したはずだったが早くも暗雲が立ち込めてきている事にリーシャは肝を冷やしていた。
「天ノ羽斬!!」
「四天刃!!」
「七星剣!!」
セルグが天ノ羽斬を。
ダークフェンサーの黒鎧を纏うグランは金色の短剣”四天刃”を。
ウェポンマスターの鎧を纏うジータは金色の剣”七星剣”を解放する。
「全員ぶっとばしてやる!!」
強者の気配を光の奔流と共に見せつけて彼らは今、大国であるエルステ帝国へその牙を剥いた。
如何でしたでしょうか。
のっけからオリジナル色に塗れていますがどうかお許しを。
執筆時間がグラブルのせいで確保できませんがちまちま進めております。
もう少しまとまった時間が欲しいですね、、、過去編も進めたいしネタの幕間も挟みたい
焦らずやって行きたいですがどうしても期間が空くと焦ってしまいます。
それでも途中でやめることはないのでそこだけはご安心を!
それではお楽しみ頂けたら幸いです。
感想お待ちしております