granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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注意
暗いです、重たいです。
正直読まなくても本編には関係ないものですので
気分が悪くなるならブラウザバック推奨です。

短いですがセルグ視点で綴られる悪夢を描きました。
本当は作戦会議ネタと一緒に書いていたのですが、これと一緒にはできないと思って分けた次第です。

それでは、どうぞ。



幕間 みせられたのは罪の証

 暗い……暗い世界に一人立っていた。

 まっさらで、なにもない世界。空は黒く、星も何もない。そのくせ松明様な光源も無いのに足元に広がる水面の様な景色はどこまでも見通せる。そんな不可思議な場所に私は立っていた。

 

「また……ここか。」

 

 呟いた自分の声は驚くほど色が無い。まるで機械の様に発せられた声はこの先、何が起きるのかも、何が出てくるのかも分かっていた。

 自嘲と共に視線を下げれば、そこには諦めにも似た表情を見せる自分の姿が映っている。

 ”あぁ、酷い顔をしている……”、なんて意味のない言葉がまた漏れ出てきた。

 

「また、来てくれたんだね……セルグ」

 

 聞こえた優しい声に視線を上げれば、そこには嘗て失った最愛の女性が微笑を浮かべて立っていた。

 死した時より幾分か歳を重ねて見えるのは、私の夢の中だからなのか。互いに若さよりも大人っぽい雰囲気を纏う様になったと思う。そんな彼女の姿に今尚、愛しいと思えてしまうのはやはり彼女が私にとってなにものにも代えがたい大切な存在だったからなのだろう。

 だが、それでもこれから起きることは夢のように甘いことではない私は分かっていた。

 

「アイリス……今日はどんなのを御所望だ?」

「うぅん~そうだね。いつも通りで行こうと思ったけど、少しだけ面白いのを思いついたんだ。」

 

 彼女の無邪気な笑みが深くなる。と同時に周囲に変化が巻き起こった。

 

 

 流れる風景が形を整えると、いつの間にか私はあの忌まわしい研究所にいた。

 無機質な人口の壁が洞窟を補強している通路に立ち、隣には彼女が、後ろにはアイツラがいた。

 

「この先に目標は居るのか?」

「はい、そのはずです。我々は後方支援に徹しますが何かあれば指示をお願いします」

「そっちの事はアイリスに任せる。アイリス、必要があったらそいつらに指示を出せ。対象の強さ如何では洞窟の崩落も考慮して撤退を視野に入れておいてくれ。」

「それはいいけど……また一人で何とかしようとしてない?」

「今更だな……一人で何とかできるなら何とかするさ。できなければオレも撤退する、安心しろ。」

「はいはい、ちゃんと帰ってきてよね。」

 

 記憶の通りに私は勝手に口を開いていた。まるでこの時の自分に乗り移ったような奇妙な感覚で、何もできず会話だけを眺めているのはもどかしくて仕方ない。

 ブスッとする彼女をそのままに、私の身体は意思とは逆に勝手に先へと進んでいく。その先に待つ運命を知らずに始まりと終わりの場所へと……

 

 

 

 床を紅が染める。

 身体を断たれ、倒れた彼女から流れ出る鮮血だけで、足元は紅く染め上げられていく。

 オレの中で眺める事しかできなかった私は、何もできないまま、ただ彼女の死の瞬間という悪夢を、再び見せつけられていた。

 

 ”化け物を庇ってこれとは……可哀想に、お前と関わらなければこんなところで巻き添えを食うことは無かっただろう”

 

 アイツラの一人が告げてくる言葉が胸に刺さる。何を今更と思いながらもわかり切っていた事実が否応なく貫くように心を抉った。

 

「”なぜ……なぜオレを庇った。なぜ……命を擲った。”」 

 

 奇しくも、過去のオレと今の私の言葉が重なる。どうしようもない現実を前に頭が割れそうなほど痛く、視界がはっきりとしない。

 もはや開くことのない彼女の双眸を見て、私の心はあの日に戻ったように黒い衝動に支配されていく。

 

「”よくも! よくも! 殺してやる……お前ら全員、殺してやる!!”」

 

 彼女を抱きしめながら呪いの様な感情の声が溢れた。荒れ狂う衝動のままに天ノ羽斬を手に取ろうとした瞬間に、カチャリと金属質な音が、私の耳に届いてくる。

 

「ダメだよ、セルグ。悪いのは全部セルグなんだから……」

 

 静かな声に反応し、見上げた視線の先には風火二輪を構えている彼女の姿。剣をもっていたアイツラだったはずの彼女達の姿だった。全員が緑の紋様が浮かんでいる銃を手にして、こちらに突きつけている。

 

「アイ……リス?」

「うん、私だよ、セルグ。さぁ……逝こう」

 

 もうオレと私の声は重ならなかった。聞えるのは私の声だけとなり、代わりに重なって聞こえるのは彼女達の声。

 いつもの笑顔と優しい声で告げられた瞬間に、その場に渇いた音がたくさん鳴る。

 パンッと音が鳴るのを3回までは聞こえた気がする。その先はもうわからなかった。

 視界が弾け、痛覚は消え、ただ衝撃だけが身を襲った。随所に穴が開き、私の身体は力なくそれを受け止めるだけとなる。それでも、奇跡的に飛ばない意識は抱きしめた彼女だけは手放さなかった……手放したくなかった。

 

 音が止んだ。

 私は消えた視界の中で懐の彼女を求めて腕に力をこめる。彼女たちからアイリスを守るように抱く腕の中から、私は最後の声を聞いた。

 

「どうして……こっちにきてくれないの?」

 

 すぐ近くで再び渇いた音が鳴った。

 

 

 撃鉄の音と寂しそうな声は懐から聞こえた気がした………… 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!? ハァ、ハァ……またか」

 

 額に玉のような汗を浮かべてセルグは目を覚ました。

 着ている服も汗でべっとりと張り付いていて目覚めの不快感が更に増す。嫌な夢を見たと言う程度ではない……剣を突きたてられたように痛む胸が、自身に何が起きたのかを如実に物語っていた。

 

「ヴェリウスのせいか……はたまたリーシャのせいか。最近は少なかったんだがな……」

 

 静かな部屋で久方ぶりに起きた目覚めの悪すぎる夢に、小さく乾いた笑いが漏れる。

 具体的にどんな夢だったのか、セルグは正直覚えていなかった。只、事実として彼女に殺される記憶だけが生々しく残っている。

 試しにと身体のあちこちを触ってみても特におかしな部分はない。

 

「余計な事を思い出させてくれるな、全く……少し、外に出るか」

 

 見れば外は徐々に明るくなってきているようだった。そろそろ夜もあける頃合いだろう。

 セルグは汗と共にまとわりつく陰鬱とした気分を振り払うために、甲板へと向かった。

 

 

 

 甲板へとでてきたセルグが気持ちの良い風を浴びようと船首へ向けて歩き出したところで後ろから声が掛かる。

 

「セルグ? こんな時間にどうしたんだ」

「カタリナ、こんな早くからお前こそ何してるんだ」

「私はいつも通りだ。早朝の剣の鍛錬にな……」

 

 手にしていた愛剣、ルカルサを見せつけてカタリナが笑う。その美しい貌と夜明けを迎えた早朝の雰囲気も相まってその姿は神秘的に思えるほどに美しかった。

 恐らくローアインが見てればその場でテンションバカ挙げ状態になるほどの、魅力あふれるカタリナの姿にセルグは思わず見惚れる。

 

「なるほど、ローアインやヴィーラが夢中になるのもわかる気がするな。朝日も相まってやたら綺麗に見えるぞ、カタリナ。」

「んなっ!? 何を言うんだセルグ! 顔を合わせていきなりからかうのはやめてくれ。大体そういう君だって妙に艶っぽい姿をしているじゃないか。その服をはだけて微妙に肌が見える姿はジータ達には刺激が強いから見られないようにしてくれよ。

 女の私から見ると君の身体はその……鍛えられた端正なカラダが妙に色気があると言うかだな……端的に言ってしまうと目に毒だ」

「あ~悪いな。 少し夢見が悪くて汗を掻いたからさ……気分を変えようとそのまま出てきたんだ」

 

 はだけた服のせいで目のやり場に困るようなセルグの姿に、カタリナが苦言を呈する。

 鍛えられた肉体は、セルグの褐色の肌と相まって男性としての色気を醸し出していた。

 視線をチラチラと寄越しながら告げてくるカタリナの言葉に、珍しいのかと意外そうな顔を浮かべてセルグは返す。

 

「そう言っているカタリナが既に直視できてないじゃないか。というか一度ガロンゾで見たことがあるだろう?」

「確かにガロンゾで見たには見たが、あの時は君が無事かどうかの心配の方が先に来ていたしな、何よりその微妙に見えるか見えないかという感じが良くないんだ。いっそのこと脱いでくれてる方がまだ良い」

「――カタリナ……その発言は少し問題じゃないか? というかそんな言葉訊かれたら要らない誤解を生むから慎んでく」

 

「なるほど……お二人は既に体を見せあえるような仲と言う事ですか。つまり貴方はお姉さまに近づく害虫という認識でよろしいのでしょうか?」

 

 セルグの懸念も空しく第3者の声が2人の間に飛び込んでくる。見ればそこにはヴィーラの姿。いつもの微笑を浮かべながらもその顔には狂気が見え隠れしており、カタリナとの鍛錬の為に携えてきた剣には手が掛けられていた。

 

「ヴィ、ヴィーラ。盛大に誤解していると言っておこう……おい、カタリナ! 何とかしろ!」

「ヴィーラ。 安心して良い、私とセルグは決して君が思うような関係ではない。だから! 一先ずはその剣から手を離すんだ……」

 

 慌ててセルグとカタリナが弁解を始める。だが、二人の慌てる様子はむしろヴィーラに更なる疑惑を与えたようで勢いを増して詰め寄ってくるのだった。

 

「ご安心をお姉さま。すぐにお姉さまを惑わす害虫は排除して差し上げます。」

「違う違う、ヴィーラ! 誤解だオレとカタリナは何も無い!」

「落ち着くんだヴィーラ、いくら君でもセルグが相手では……」

 

 このままではローアインの二の舞だと、本格的に逃げ出すべくセルグが動こうとした瞬間、ヴィーラは雰囲気をガラリと変えて本当の微笑を見せる。

 

「フフフ、冗談ですわ。お二人の会話は最初から聞いていましたから、全てわかっております。 セルグさんから口説き文句が出てきたのは驚きでしたが……」

「――全く、勘弁してくれ。ローアインの惨状を知っている身としては気が気じゃないぞ。ついでに言っておくが別に口説こうと思ったわけじゃない。少々夢見が悪くて落ちてた気分を和らげるためにからかっただけだ」

「あら? それにしては少し声音に本気が見えた気がしましたが……?」

 

 訝しげにヴィーラの視線が鋭くなってセルグを見定める。まるで隠し事は許さんとばかりに向けられた視線にセルグは少しの沈黙の後、照れくさそうな表情で視線を逸らしながら答えを返した。

 

「――まぁ、思っていたことは正直に言った……かな」

「ッ!? セルグ、からかうのはやめてくれ」

「フフフ、やはりそうですか……それならば仕方ありませんね。今回はお姉さまの美しさに気付いたと言うことで不問に致しますが、次からはお気を付け下さい。あまり誑かすようなことを言いますと……許しませんから」

 

 普通に見れば見惚れる麗しい令嬢といった佇まいのヴィーラの笑顔が、セルグには酷く恐ろしいものに見えた。一先ずは事なきを得たと胸を撫で下ろすが、危ない橋を渡る1歩手前までは行っていたのだと自覚して恐怖する。

 

「常々、心がけておくとしよう。まだ死にたくはないからな」

 

 

 いつの間にか、暗い夢で重たかった心が軽くなっていることにセルグは気付く。

 目の前で始まった2人の鍛錬を眺めながら、痛みが走っていた胸に手を当てると、落ち着いた鼓動が返ってくるのが感じられた。

 

 

 しかし、夢の事は払拭できたが、ヴィーラからまた違う恐怖を植え付けられてしまった朝の一幕だった。

 




如何でしたでしょうか。

後半に少し清涼剤を入れましたが、重苦しく描けていたかな、、、

セルグが見る悪夢がどんなものかを具体的に描いてみました
感想お待ちしております


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