granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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またもや大変長らくお待たせいたしました。
幕間でごまかしておりましたがラビ島編スタートです。(別にごまかしていたわけではないですがね

それではお楽しみください。


メインシナリオ 第15幕

空域 ファータ・グランデ ラビ島周辺空域

 

 

 グラン達一行はグランサイファーに黒騎士を乗せ、一路、ラビ島を目指していた。

 

「空図によるとそろそろラビ島が見えてくるはずなんだが・・・」

 

 操舵士のラカムの言葉に甲板に出ていた仲間達は身を乗り出し周囲を見回すも、ラビ島がみえてくる気配はまだない。

 目的地がもうすぐだという妙な緊張感の中で、アポロは沈黙を保ったまま甲板に重苦しい空気を振りまく。

 

「・・・・」

 

「あーその・・・なんだ。メフォラシュだったか?今向かっているのは。」

 

 甲板に広がる重苦しい空気を嫌って、ラカムは閉口し続けるアポロへと問いかけた。

 ラカムの記憶の中にはラビ島の情報はない。目的地がどんな場所か知ることも含めて当たり障りのない話題を振る。

 

「そうだが・・・それが?」

 

「どんな街なんだ?俺たちは聞いたこともねえが・・・カタリナは何か知っているか?」

 

 取りつく島のなさそうなアポロから視線を移し、今度は元帝国軍人であるカタリナにも問いかけて見る。

 

「むっ?ああ・・すまない聞いていなかった。何の話だ?」

 

 話を聞いておらず上の空だったカタリナが聞き返すも、珍しいその姿にラカムを始め仲間達は怪訝な表情を浮かべた。

 

「おいおい、らしくねえな・・どうしたってんだ?」

 

「い、いや・・・」

 

「あ、あれ!?帝国の戦艦じゃない?」

 

 どもりながらラカムの言葉に弁論しようとするカタリナを遮りイオが遠くに帝国軍の戦艦を見つけ声を上げる。イオの声に反応して、示す先を見れば帝国の戦艦が数隻、駐留しているのが見えた。

 こちらを視認したのかグランサイファーへと近づいてきて帝国兵士は声の届くところまで寄ってはっきりと告げてくる。

 

「そこの騎空艇!この先のラビ島は我々エルステ帝国が立ち入りを制限している!寄港するのならばこちらに許可証を見せろ!そうでないのならば即刻引き返せ!」

 

 帝国の領土であり、上陸するには許可証が必要だと告げてくる帝国兵士の言葉に一行は思わず唸る。許可証など持ち合わせてはいないし、何よりも黒騎士を始めルリアにカタリナと帝国軍の中ではお尋ね者な一行だ。素直に応対すればどう考えても上陸は望めないことが読めた。

 

「ううむ、面倒だな・・・落としてくるか?」

 

「ちょっとセルグ!?過激にも程があるよ!!」

 

 セルグが少し考える素振りを見せたあとにとんでもない提案をしてくる。手っ取り早くあながち間違いでもない提案ではあるが、余りにも短絡的なセルグの思考をグランが止める。

 

「だが素通りして島で追いかけっこになるのはゴメンだろ?後顧の憂いは立つべきだ。オレがヴェリウスと一緒に・・・」

 

「いや、その必要はない。島に到着するまでに必要な分だけあしらいながら叩けばそれで十分だ。島に降りてしまえばそれで事は済む。」

 

 今度はアポロから強行突破の案が出された。セルグと50歩100歩な意見にグランがまたも呻く。どうにもセルグやアポロといった腕に覚えのあるものたちは力押しになりがちなようだとグランは頭を抱えそうになる。

 荒事になればまたグランサイファーを損傷するかもしれないと脳裏をよぎってしまうのは、ガロンゾにギリギリでたどり着いた記憶が鮮明に思い出されたからだろう。

 

「し、しかしだな!この先のラビ島は帝国の領土だろう?島の中にも兵士たちはいるだろう。騒ぎのままに上陸すれば向こうでも・・・」

 

 カタリナが上陸後のことを危惧する。島についてからも兵士に追われてはたまらないとアポロへと抗議するカタリナにアポロは小さく笑みを浮かべながら答える。

 

「安心しろ。奴らが固めているのは出入りだけだ。この島はそういう島だからな。」

 

「ふぅん。なんだかわからないけど帝国を取り仕切っていた貴方がそういうのなら間違いはないのかもしれないわね。団長さん!アタシは黒騎士の意見に賛成だよ。いちいち相手にするのもキリがなさそうだし。無駄に消耗もしたくないしね。

 

「グラン。ここは黒騎士さんの言うことを信じて飛び込もっか。」

 

「グラン、私も黒騎士さんを信じたいです!きっと、嘘じゃないです!黒騎士さんはオルキスちゃんのために必死に戦おうとしていたんですから!」

 

「ジータ、ルリア・・・」

 

 ゼタが賛同し、ジータとルリアがアポロを信じるとグランに訴える。

 

「ふん、まともな根拠がほとんどないような論理だが、それこそが本質だ。いかなる理由を重ねようが結局はお前たちが私の言うことを信じるかどうかだ。最終的な根拠はお前たちの気持ち次第なわけだからな・・・」

 

「はぁ・・・セルグと黒騎士のせいでみんなに無茶が伝染しそうだよ・・・」

 

 本来なら大人しく争いを好まないような二人の訴えにグランもため息をつきながら決心する。

 

「そう落ち込むな、いざってときは何とかしてやるから。」

 

「諸悪の根源はセルグだからね!?一番最初に最もむちゃくちゃな提案してきたセルグが良く言うよ!」

 

「お、おおう。スマン。悪かった。じゃあ代わりに突破の援護をしてやるから許してくれ。ラカム!最短ルートを突っ切れ!道は切り開いてやる。いくぞヴェリウス!!」

 

 言うや否や、すぐさまセルグはグランサイファーの外へとその身を投げ出す。ルリアとジータガ僅かに息を呑むがその瞬間に落下する事もなくすぐさま大きくなったヴェリウスがその背にセルグを乗せ帝国戦艦へと向かっていく。

 

「またああやって一人で行っちゃうんだもんな。あの戦い方だって一歩間違えれば空の奈落へ真っ逆さまなのに・・・人の気も知らないで。」

 

「グランさん。今は嘆いていても仕方ありません。私たちも迎撃の準備をしましょう。彼とて全てを防げるわけではありません。」

 

 ヴィーラがグランの傍らで剣を抜いて構えていた。僅かにその声にはグランを慰めるような気持ちが見えるもすぐに向かい来る帝国兵へと意識を向けていた。

 

「そうだねヴィーラ。ラカムとオイゲンは航行に集中して!折角ガロンゾで直したグランサイファーをまた壊されないようにしっかりね!ほかのみんなは戦闘の準備を!黒騎士、焚きつけたんだからしっかり戦ってもらうよ!」

 

「ふ、無論だ。あの程度の雑魚いくら群がってこようが一掃してくれる!」

 

 グラン達も帝国の包囲網を突破すべく迎撃行動に移っていく。

 

 

 

 帝国の戦艦を振り切り一行はラビ島へと上陸した。

 視界に映るほとんどが砂と岩の荒野に埋め尽くされ、緑はなく、人の気配が希薄な遺跡のように風化した家屋が立ち並ぶ。

 旧エルステ王国首都メフォラシュ。かつては栄華を誇り、今では忘れられた都がそこにはあった。

 

「ここが・・・ラビ島。なんだかちょっとバルツに似ているわね。」

 

「バルツも砂と岩ばっかりだったもんな・・おまけに火山があってめちゃくちゃ暑いし。干からびるかと思ったぜ。」

 

 フレイメル島のバルツ公国。かつて旅をした、荒野と火山に覆われた島を思い出しビィが僻易したように呟くと

 

「あら、バルツの人たちはあんな暑さでへばるほどヤワじゃないのよ。どっかの軟弱なトカゲとは全然違うんだから!」

 

「なんだとぅ、オイラはトカゲじゃねえし、軟弱でもねえぞ!!」

 

「ふふ、こーら。喧嘩しないの。」

 

 言い争いを始めるビィとイオをたしなめるのはロゼッタ。子供の兄弟喧嘩を収める姿はまるでお母さ・・・バラの香りがしてきたのでこれ以上はやめておこう。

 

「それにしても古い街並みだな・・・もはや街っていうより遺跡に近いだろこれ。」

 

「観光気分はいいが、油断はするんじゃないぞ。」

 

 ラビ島の様子をまじまじと眺めている一行を目にしてアポロは注意を促す。

 

「そうですね・・・帝国の領土なら兵士もいるだろうし・・」

 

「いや、その心配はまずない。それよりも」

 

 ジータの言葉にアポロが言葉を返す前に、上陸して早々、常とは異なる気配を連れてきた騎空団一行に魔物が押し寄せてきていた。

 

「なるほどな・・・兵士よりも魔物が先か。こりゃあ油断ならねえ街だぜ。」

 

「いまさら魔物程度にやられるわけもないがな・・・いつどこで襲われるかわからんってのは兵士よりも厄介だ。注意して進もう。」

 

 オイゲンとセルグはすぐさま迎撃に動いていく。

 相手にならない魔物といえど、見つかれば騒ぎ立てる兵士とは違い、有無を言わさず襲いかかって来る魔物は場合によっては兵士より驚異であった。

 一行は周囲を警戒しながら襲い来る魔物を蹴散らし、街の中央を目指して進んでいく。

 

 

 しばらく進むと一行の目の前に大きな建物が見えてくる。風化した街並みとは違い、まだしっかりとした形を残し、月日を感じさせる外観は、逆に厳かで深い歴史を感じさせる。

 

「見えるか?あれが、エルステ王国の王宮だ。帝国となり首都をアガスティアに移して以来、表向きはあそこには何もないことになっている。」

 

 言葉の後、僅かに溜めを作ってから睨むようにアポロは王宮を見据えると口を開く。

 

「フリーシアは恐らくあそこに居る。あの人形を連れてな。」

 

「なぜあそこに居るとわかる。艇で言っていた王国を取り戻したいって話と関係あるのか?」

 

「まぁ、そんなところだ。さぁいくぞ。早いところ王宮へたどり着かなくてはなるまい。のんびりしていては魔物に食われるぞ。」

 

 アポロがそう告げて足を進める。向かうは目の前に見えるエルステ王国の王宮。様々な想いを抱えてアポロは歩いていくのであった。

 

 

 

 足を進める一行は遺跡のような家屋が並ぶ街を歩く。相も変わらず魔物はあちこちに跋扈しており気の休まる暇もなかった。周囲を警戒し続けながら歩く一行に少しだけ疲労が見えて来る頃、カタリナがある疑問をアポロへと投げかけた。

 

「街中で兵士を見かけないどころか住人もまともに見かけない。現れるのは魔物のみとは・・一体どうなってるんだこの街は?本来ならば街中に現れる魔物など治安維持の兵士が真っ先に始末するはずだろう?」

 

 カタリナの疑問は尤もであった。これまでに一行が遭遇したのは魔物のみ。住人もいなければ治安維持の為の兵士も見かけない。街並みに整備や維持が行われた形跡はなく、かつての王都にしては余りにも寂れていた。

 

「そうだろうな・・・この島に配備されている兵士は少ない上、街を守るために配備されているわけではない。この島の秘密を守るために配備されているに過ぎない。島の周囲を守る戦艦もそうだ。あれは島への侵入を拒むと同時に島から人を出さないためでもある。」

 

「な!?それじゃこの島の人たちは・・・」

 

 ジータは驚きの声を上げてアポロを見据えた。優しき少女は自らの推測が間違っていないかと視線でアポロへと問いかける。

 そんな視線をアポロは受け流し、感慨なく言葉を返す。

 

「島を出ることはできない。エルステの許可無しにはな・・・最もそんな許可出た前例など、少なくとも私は知らないがな。」

 

「それってつまりエルステ帝国はこの街の住人たちを見殺しにしているってこと?」

 

「そうだな・・・言い訳をするつもりはない。私も含めエルステ帝国はこの島の住人を見殺しにしている。」

 

「なっ黒騎士!?」

 

 ジータとアポロの会話を聞いていたグランが今度は非難を込めてアポロを呼ぶ。だが、何か言いたげなグランの視線すらも受け流しアポロはグランにも強い視線と共に言葉を返していく。

 

「私を非道と罵りたいのなら好きにしろ。だがそれでも私には成し遂げねばならぬ望みがあるのだ。大切なものも、大切な場所も。何を犠牲にしてでも成し遂げねばならない望みがな。そのためなら何だって捨ててやる。誇りも安らぎも、思い出も・・・私の命さえもな。」

 

 強い意志を込めた瞳はアマルティアで牢獄にいた時と何ら変わらない。むしろ自由に動けている今は強くなったとさえ思える。そんなアポロの瞳は、一行にそれ以上の反論を許さなかった。

 だがそんなアポロに怯まずに言葉を返すものがいた。

 

「成し遂げねばならない望み・・・か。あのね、黒騎士さん。私も最近になってから気づかされたことなんだけどさ。貴方のその望みがもし誰かの為ならよく考えたほうがいいよ・・・貴方が全てを捨ててまで成し遂げることを、その誰かは望んでいるのかってことをね。」

 

「っ!?・・・何も知らない小娘が知ったような事を言わないでもらおう。」

 

 静かにゼタへと睨みを聞かせて答えるアポロは僅かに同様を声に表す。

 

「いいや、オレもゼタの意見に同感だな。今は物言わぬ誰かのため。オレたちヒトは己の中で勝手に他者の想いを決めつけて自分に押し付ける。きっと辛かっただろう。きっと悲しかっただろう。そんな勝手な決めつけで己を縛り、己の望みを他者のせいにする。黒騎士、よく考えるべきだと思う。お前が全てを捨てることで誰が喜ぶのかをな・・・」

 

「・・・無駄話は終わりだ。先を急ぐぞ。」

 

 ゼタに続いたセルグの言葉にも明確に返事を返すことはなくアポロは再度歩き始めた。

 少しだけ俯くその表情と後ろ姿に迷いが見えたのをグラン達はなんとなく感じた気がしたのだった。

 

 

 

 歩き続ける一行は口数少なく、重苦しい雰囲気のまま周囲を警戒し続けていた。

 

「やれやれ・・・アマルティアからこっち、どうにもピリピリしてるな。」

 

「そうだね、仕方ないとはいえちょっと息苦しいな。」

 

 ラカムが呻き、グランが同意を返した。決して仲良く旅を共にするわけではないアポロと一行の関係はどうしても和気藹々とした普段の雰囲気が消え去り重苦しいものと変わってしまう。

 

「だって私たちは今、あの黒騎士と一緒にいるのよ。カタリナは特に色々と思うところもあるだろうし空気だって重くなっちゃうわよ・・・」

 

 イオが仕方ないことだとグランと共に呟くがそれを聞いていたオイゲンは罰が悪そうに表情を歪ませた。

 

「なんつーかその・・・すまねえな。」

 

「そんな、オイゲンさんが別に謝ることじゃ・・・」

 

「ふふ・・そうよ、全てはあの子が自分で決めたことなんだから。」

 

 ジータとロゼッタはオイゲンのせいではないと言い聞かせるもそれで彼自身が納得できるはずもなく、顔を俯かせたまま肩を落とす。

 

「いや、しかしだなぁ・・・こんなんでもオレぁアイツの親だからよ・・・」

 

「じゃあ・・・あの子のやったことの責任を全て貴方が取るって言うの?国を乗っ取り、侵略を進め沢山の人達を犠牲にしてきた。バルツの大公さんの言うとおり一部は黒騎士が直接手を下していないことだとしても、あの子はそれを知って見届けてきた。見殺しにしてきた。その罪を貴方が贖うというの?」

 

「っ!?それは・・・」

 

 ロゼッタの言葉は自分を追い詰めるように表情を歪ませたオイゲンに対してかなり厳しい物言いだろう。

 

「ふふ・・・意地悪言ってごめんなさい。でもね、黒騎士だっていつまでも子供じゃないわ。もう立派に親の貴方が面倒を見きれないほどたくさんのことを成し遂げて来た。たくさんの想いを背負ってきた。」

 

 親であっても当事者ですらないオイゲンに何ができるわけでもない。親だからというだけで己を責めるのはお門違いだとロゼッタは告げる。

 

「悪事であれ善事であれ、彼女もあなたの手を離れいろいろなものを重ねてきたのよ。それを認めてあげて、その上で父親がすべきことって他にあるんじゃない?」

 

「オレがすべきこと・・・か。」

 

 オイゲンは少しだけ吹っ切れたような表情をして思案する。何ができるかわからなくても、ただ己を責めて俯いていては何も変わらないし何もしてあげられない。ロゼッタの言葉に気づかされたオイゲンの表情に活力が戻ってくるのをみたセルグはこそこそと後ろでグランと会話をしていた。

 

「年長者だと思っていたオイゲンに説く姿を見ると思うよな。ロゼッタって胡散臭いっていうか絶対見た目通りの年齢じゃないって・・・」

 

「セルグ、ダメだよそれは!?禁句だって!!」

 

「だ、だがなグラン・・・気にはならないか?ロゼッタが何者なのかとか、実はオイゲンよりもずっと年上だったりとか・・・」

 

 慌ててセルグを止めるグランをセルグに同意を示すラカムが逆に窘めた。ひょっとしたら、そんな推測が現実のものになるかもしれないと考えを巡らせていたとき、氷のような声音を二人は耳にする。

 

「ラカム、セルグ。女性に年を尋ねるのは無礼だと習わなかったのかしら?少し・・お仕置きが必要かしらね?」

 

 彼女の得意属性は風だったはずだ・・・いつの間に水属性を扱うようになったのだろう。そう思わせる冷や汗が流れるような恐ろしい雰囲気にセルグとラカムが固まる。そんな二人を一瞥したあとロゼッタは振り返りジータとイオの元へと向かった。

 

「女の魅力は秘密の数だけ増すものよ。ジータもイオちゃんもよーく覚えておきなさい。」

 

「え、あ、はい!」

 

「う、うん・・・!」

 

 一部始終を見ていた二人がどもりながらも元気よく答える。その答えにロゼッタは満足げに笑みを浮かべて口を開いた。

 

「ふふ・・・良いお返事ね。それじゃあ先に向かいましょう。囚われのお姫様を救いに、ね・・・」

 

 実力が計り知れないセルグやアポロとは違った意味で、計り知れない雰囲気のロゼッタに一行がまた一つロゼッタの不思議を見つけた時だった。

 

 

 

 

 

「ひぃぃ!?」

 

 王宮へ向かう一行の耳に、突如悲鳴が聞こえる。

 

「っ!?今の悲鳴は?」

 

「向こうからだ!いくぞ!」

 

「え、あ、早い。もう行っちゃった・・・」

 

 慌てた様子で声の出処へと走っていくアポロを目にしてゼタが少しだけ驚いた表情を見せていた。

 

「あんなこと言ってたけど、やっぱり黒騎士も自分の国の人は大事なのね。」

 

「悠長なこと言ってるなよ!オレ達もいくぞ!!」

 

「うん、行くよ!みんな!」

 

 イオの暢気な言葉にセルグとグランが促すように声を発してアポロを追いかけていった。

 

 

 グラン達も追いつき一緒になって魔物を討伐する。

 

「はぁああ!!」

 

 アポロが魔物を斬り払いその場にいた魔物は全て沈黙した。

 

「ありがとうございます、旅の方・・・兵隊さん達は島の周りを守るばかりで街には見向きもしてくれませんで。本当になんとお礼を言ったらいいか。」

 

 襲われていたのは恐らくこの街の住人であろう老婆であった。命の危機を救われ、しきりに礼を重ねて一行に感謝を告げる。

 

「いや、それより怪我は・・・!?」

 

 そんな老婆に別に大したことはないとアポロは向き直るがすぐに何かに気づいて視線を逸らした。

 

「なんだ急にそっぽ向いて?」

 

「黙れ、先を急ぐぞ。」

 

 不思議に思ったビィが問いかけるも、取り付く島もない態度でアポロは先を急ごうとする。

 

「ああ!お待ちください、旅の方!大したものはお出しできませんがせめてうちでお礼を・・・貴方、どこかで?」

 

 そんなアポロを止めるべく老婆はぜひお礼をとアポロの前に躍り出た。しかしその表情はアポロと同様に何かに気づいたような素振りを見せる。

 

「やべぇぞ・・もしかしたらあの婆さん黒騎士に気づいたんじゃ・・・」

 

「いや、あの鎧姿の中身があれだとは普通思わないだろう?流石にそれはないんじゃないか?」

 

「確かにな・・・けどここは帝国の領地だし、鎧を外して出歩いてることだってありえるんじゃないか?」

 

 老婆の変化に一行はアポロの正体を感づかれたと推測した。帝国の領土である以上黒騎士の指名手配はここにも触れが出ているのかもしれないと察する。

 

「ああ、やっぱり!貴方・・・」

 

「やべぇ、完全にバレちまったみてぇだ!」

 

「仕方ない、すぐにここからずらかるぞ!」

 

「別に兵士なんか殆どいないしバレてもいいんじゃないかとは思うがな・・・」

 

 一人セルグだけ、慌てる仲間をよそに平常運転だ。未だに兵士の姿を見ていない以上それも仕方のないことかもしれない。

 だが次に老婆の言葉は一行の予想を裏切るものだった。

 

「アポロちゃん!アポロニアちゃんじゃないのかい?ねぇ、そうだろう?」

 

「へ、おばーちゃんこの人知ってるの?」

 

「ああ、随分久しぶりだがねぇ・・こんなに立派になって、一目じゃ誰だかわからなかったよ。こんな別嬪さんになって・・・」

 

 老婆の言葉はアポロと旧知の仲であることを表すものだった。

 

「そうだねぇ・・10年ぶりぐらいかね。ちょうどあの頃だったね。オルキス様の事は本当に残念で・・・」

 

「っ!?オルキスちゃんを知っているんですか?」

 

 思わぬ人物の名前にルリアが驚きの声を上げた。なぜこの老婆がオルキスの名前を知っているんだろうか。声を上げずともグラン達には同様の疑問が走る。

 

「へ?そりゃあ、知ってるもなにも・・・オルキス様はこのエルステ帝国の王女様じゃないか。」

 

「え?」

 

「は?」

 

「なんだって!?」

 

 老婆がもたらした情報は一行に更なる動揺をもたらした。すぐにカタリナがアポロへと詰めより疑問を投げかける。

 

「どういうことだ!?説明しろ黒騎士!」

 

「ご婦人の言っている事は何一つ間違いはない。オルキスはエルステ帝国の前身であるエルステ王国の王女であり・・・私の、たった一人の親友だったんだ。」

 

 

 既に大人となっているアポロと10年前から親友であるという現在幼い少女のオルキス。

 一行は徐々に明かされていく真実を垣間見た気がした・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

ラビ島編は原作でもいろんな部分の謎や設定が明かされてくる説明回てきな意味合いが強いシナリオでこの作品でもオリジナルな要素は薄めになってくるかと思われます。
アマルティアやガロンゾよりも短くなるとは思いますがラビ島の後からがどんどん物語が動いてくると思いますので作者も執筆するのが楽しみであります。


投稿できなかった間にだいぶお気に入り登録が増えており嬉しさを隠しきれない作者であります。
皆様本当にありがとうございます。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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