granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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久方ぶりとなってしまいました

少々リアルの仕事の都合で執筆時間が全く取れない現状です。(仕事寝る仕事寝るのループが終わらない)

次回からラビ島編スタートになります。こんなに待たせておいてシナリオが進まないことはどうかご容赦いただきたい
ラビ島編は何度か原作シナリオを見直し構成を練っているところです。(半額期間もあるからグラブりたい)

それではお楽しみください。


幕間 戦力把握と手合わせと

「ほう、では貴様はまだ入団して日が浅いというわけか?」

 

「そうだな、つい最近だ。オレとしても随分と濃い日々を過ごしたせいで長いこと皆と一緒に旅をしている気分でいたが割とオレは新参だよ。」

 

「その割に随分と信頼されているのだな。まぁ同じ程度に心配もされているようだが。」

 

「言ってくれるな。オレとしてもどうにも自分の行動が思うように結果を残していないことは薄々感じていたところなんだからさ・・・」

 

 グランサイファーの食堂となる一室でセルグとアポロが会話をしていた。

 これまでのグラン達との邂逅において、セルグの姿を見受けられなかったアポロが、グラン達から随分と慕われているセルグを見てなんとなく疑問に感じた部分を問いかけていたところだ。

 

「おまっちゃした~、セルグさんオカエリっす。腕によりをかけて作った自信作。ばっちゃん直伝の最強の味噌汁付き朝食フルコースよ!どうぞ味わってください。そっちの黒騎士さんもどうぞ・・・」

 

 そんな二人の会話に割って入るようにローアインが朝食を持ってくる。セルグの無事の帰還に喜びを露わにしながら自慢の料理を振舞ってくれるようだ。

笑顔で自分を迎えてくれるローアインと久々に味わう彼の料理に、散々怒られ心身共に疲れた一晩を明かしたセルグは、心から癒しのひとときを得ていた。

 

「ああ・・・染みる。お前の料理は最高だよローアイン。これだけでも帰って来た価値があるってもんだ。」

 

 味噌汁をひと啜り。じじ臭い雰囲気を醸し出しながらもセルグはローアインの料理に舌鼓を打つ。幸せそうな笑みを浮かべるセルグの姿にローアインも満足そうに頷いた。

 

「へへ、ばっちゃん直伝はもうサイッキョーの味っすからね!いつかこれでキャタリナさんを落としてみせるってなもんで、日々修業中っすよ!」

 

「確かに、風体はアレだが料理の腕は良いようだな・・・」

 

 対面でセルグの様子を見ていたアポロも試しにとすすった味噌汁の味に思わず感嘆の声を漏らしている。そんなアポロの様子にセルグはニヤリと笑うとローアインに声をかけた。

 

「ほう、元帝国最高顧問の舌も唸らせるとは・・・やったなローアイン。」

 

「ウス、あざっす~。あ、片付けは後でしとくからそのまま残してくれて構わないんでどうぞごゆっくり~」

 

 そう言ってその場を去って行くローアインを見送り食事を再開するセルグとアポロ。目の前の朝食を、沈黙を保ったまま二人は食していった。料理の味故かその勢いは少々早い。食卓から朝食が消えるまで大した時間はかからなかった。

 食べ終わったセルグは目の前に座るアポロを見ると改めて口を開いた。

 

「まさかお前の口から料理の感想を聞けるとは思わなかったよ。それも高評価なようで更に驚きだ。」

 

「ふん、美味いものを美味いといっただけだ。それより先も言ったが、戦力把握をさせてもらおう。恐らくはこの騎空団の中でもトップの実力を持つであろうお前の口から聞きたい。ここの連中の評価をな。」

 

 アポロがセルグに問いかけるのは騎空団内の実力の程度だ。彼女自身の目的のためにもどの程度の実力者がいるのかは把握しておく必要があると考えてのことだろう。

 問いかけられたセルグは僅かに難色を示した。

 

「日が浅いといっただろう。オレの評価ではあまりアテにならない気がするが?」

 

「弱いものに強さの程度などわかるまい。こういうのはトップの奴に聞くのが一番だ。多少情報がズレていても構わん、教えろ。」

 

 セルグの不安をにべもなく切り捨てるアポロは、さっさと話せと言わんばかりにセルグへと向ける視線を鋭くする。仕方なくセルグも幾分か思案してから自分なりの戦力分析を披露するのだった。

 

「はぁ・・・わかったよ。まずはグランとジータだな。天星器を扱えるあの二人は団内でも抜きん出ている実力者だ。恐らく天性のものであろう驚異的な集中力と適応力。様々な戦闘スタイルと属性を扱うアイツ等は真性の天才と言えるだろうな。そしてまだ大人というには少々幼い精神性は逆を言えば成長率が著しいとも言える。難点はその精神性故にまだ実力にはムラがあるといったところか。天星器の扱いも常にできるわけではないしな・・・あと戦闘において少々甘い気はするな。心に隙があるというか。それでも実力はトップクラスだ。平時でも魔晶兵士と1対1なら時間はかかるが問題なく倒せるだろう。」

 

「ほう、随分と買っているのだな。貴様の性格を察するに奴らを戦わせたくなくて自分が必死に闘っているように思っていたがな。弱いくせに戦おうとするな、ぐらいは言うと思っていたよ。」

 

「その考えは間違ってはいなかったよ。オレにとってアイツ等も守る対象で戦わせたくなかった。特にグランやジータ、イオといった子供が大人の都合で戦いに巻込まれるなどと・・・」

 

 そう言ってセルグの表情が曇る。セルグの中では帝国の企みに巻き込まれて戦う彼らの現状に納得ができていない部分もあるのだろう。

 

「その考えには賛同できんな。奴らにだって意志や想いがあるから戦っている。仲間である貴様が守る対象として奴らを見ているなど思い上がりと侮辱もいいところだ。」

 

 だがそんなセルグの葛藤をアポロは切って捨てる。セルグの考えはグラン達の安全は願っていても、グラン達の想いをないがしろにするものだった。それぞれの想いや信念を軽んずるセルグの考えは、絶対的な意志を持って帝国と対するアポロの目には酷く自分勝手で傲慢なものに見えた。

 

「同じようなことをグランにも言われたよ。そんなのは仲間じゃないってな。だからオレも信じることにしたのさ。さて、次だが・・・ゼタ、ヴィーラ、カタリナかな。こと戦闘においてはグラン達に匹敵する攻撃能力を有するゼタとヴィーラ。剣の腕はもちろんのことだが視野が広く守りの要となるカタリナ。ここら辺が次点だろう。魔晶兵士と1対1なら苦戦はするがなんとか倒せるといった感じか?あとはラカム、イオ、オイゲンだが・・・3人とも遠距離攻撃を得意とするスタイルだからな。直接的な攻撃力というよりは援護を主とする技巧派な感じが強いだろうな。イオは回復魔法を使えるし操舵士である二人は度胸もあって精神的支柱の面もあるだろう。最後にロゼッタだが・・・正直わからん。現状見えている実力では後衛組とさして変わらない印象だがどうにも違和感が拭えなくてな。何かを隠しているのは間違いないんだが、それが見えてこない。とまぁ、こんな感じだがこれで満足か?」

 

「概ねな・・・どうだお前達。こんなことを言っているが・・・」

 

「は?」

 

 説明が終わり一息ついていたセルグはアポロの言葉に後ろを振り返る。そこには部屋の前で集まってこちらを見ていた仲間達がいた。

 

「あ、あはは・・・ちょっと過大評価に過ぎるんじゃないか、セルグ?」

 

「グラン、ちょっとどころじゃないよ。私たちがこの中で一番って言ってるんだよ!」

 

「大体は妥当なところか。ロゼッタについては私たちも少々気にはなっているが、どうせ語らないだろうし実害も無いので放って置いてる。と言ったところだ。」

 

「あら、私の扱いって存外雑みたいね。お姉さん少しショックだわ・・・」

 

 グランとジータが恐れ多いと言わんばかりに顔を引きつらせれば、カタリナはロゼッタへの評価に同意をしていた。端的に言えば胡散臭いといった評価をなされたロゼッタは少しだけ拗ねたように口を尖らせてショックを受けたとセルグに非難の目を向ける。

 

「まぁ俺たちは妥当だろうな。前衛向きな戦いはしないし、技巧派ってのは悪かねえ表現だな。」

 

「私は納得いかない!私の魔法は援護だけじゃ無いんだから!!」

 

 ラカムとオイゲンの評価は納得のようで少しだけ安心したセルグだったが、その後のイオの発言に罰が悪そうな表情を見せる。

 

「そうは言ってもオレだって日が浅いのに分かるわけもないだろう。判断材料と言ったらザンクティンゼルで戦ったのくらいだし・・・最後には見事に意識外からの援護魔法でやられた口だしな。別に弱いと言ってるわけじゃ無いんだから勘弁してくれ。」

 

「フン!今度は私の魔法で大活躍して見せるんだからよく見てなさいよ!」

 

 思わず抗弁するセルグの言葉にイオはそれ以上責めることはしないものの、グランとジータに対抗意識でも燃やしているのか次の機会に己の実力をしっかり見ておけと意気込むのであった。

 そんなセルグとグラン達の様子にアポロは小さく笑みを浮かべた。大体の評価は間違っていないようで安心したようだ。

 

「本当に良く慕われているようだな。今度は貴様等に聞こう。この男の実力はどれ程のものだ?」

 

 続いてアポロはグラン達へと問いかける。目の前に佇むセルグの実力について。

 アマルティアの戦いではセルグの戦う姿はほとんど見れず。だが、グラン達の言動から相当な実力者だという事はわかっていた。セルグの実力によってはフリーシアの算段を大きく崩せるのではないかと。己の目的の為の打算がアポロの脳裏によぎる。僅かながらグラン達の評価を聞くときよりも逸る気持ちを抑えてアポロはグラン達の言葉を待った。

 

「う〜ん・・・率直にいうと計り知れない、かな。一度みんなで戦って勝てたけどセルグにはその先がまだあったみたいだし。」

 

「底が見えないですね。やろうとすればどこまでも強くなれそうな感じです。」

 

「そうですね、星晶獣ヴェリウスの力も使役するとなるとどこまで強くなれるのか、私達では計りかねます。」

 

 グラン、ジータ、ヴィーラがまず意見を述べる。しかしそれは具体的な実力の程がわからない不明瞭な評価。だがそれでもまるで得体の知れない存在とでも言いたげな仲間からの評価にセルグは呻く。

 

「お前達はオレをなんだと思ってるんだ。ガロンゾでもボロボロにされたオレへの評価がそれって・・・」

 

「安心しなさい。アドヴェルサの砲撃を喰らって生きてるだけで化け物認定は確定よ。」

 

「確かに・・・アレ受けて生きてるのはちょっと信じられないわね。」

 

「ラカム、オイゲン。そろそろ泣いていいか?」

 

 反論した瞬間にゼタとロゼッタに化物認定をされて更にショックをうけて床にのの字を書き始めるセルグ。そんな姿にさらに追い打ちを掛けるように仲間から言葉が投げかけられる。

 

「残念だが俺たちもそこには同意だな。お前の強さは底が知れねえ。」

 

「だ、大丈夫ですセルグさん!セルグさんがどれだけヒトから外れてようとセルグさんは大事な仲間ですから!」

 

「ル、ルリア・・・励ましたいのはわかるが今の言葉はむしろ逆効果じゃねえか?」

 

 ラカムとルリアが止めを加えた。

 

「ちょっと部屋で休んでくるわ・・・」

 

 セルグはショックのあまり部屋でふて寝することに決めた。彼の瞳に僅かばかりに涙が滲んでいたのを仲間達の誰もが気づかなかった。

 そんなセルグの様子を見ながらも、アポロはグラン達から求めていた答えを得られず、内心では慌ててセルグを引き止めるべく声をかける。

 

「まて貴様。折角だから食後の運動に付き合ってもらおうか。」

 

「ん?どういう」

 

「手合わせしろと言っている。お前の実力も知っておきたいからな。残念ながら仲間の誰もがお前の実力を知らないようだ。私が測ってやろう。」

 

「艇の上じゃ全力では戦えないだろう?実力を把握するのは難しいんじゃ無いか?」

 

「私を誰だと思っている。剣技だけで構わん、それでも十分測れるさ。」

 

 断ろうとするもなかなか引かないアポロに怪訝な表情を見せるも、このままでは引かないだろうと判断したセルグは、仕方なくアポロへと向き直って要望にこたえることにした。

 

「拝啓、オイゲン殿。貴方の娘は血の気が多いようですって後で手紙でも描くかね。まぁいいや。剣技だけでいいならわかった、手合わせ願おうか・・・」

 

 セルグの言葉と共に二人はグランサイファーの甲板へと出て行く。

 

 

 甲板で少し距離をとって向かい合うセルグとアポロ。その手には天ノ羽斬とジータがアマルティアで渡した予備の剣が握られている。

 アポロが握る剣をみてセルグは口を開いた。

 

「さて、やる前に少しだけ説明でもしておこうか。オレの武器、絶刀天ノ羽斬は全ての防御能力を断ち切ることができる。星晶獣の中には奇妙な防御技や能力を持っている奴が多かったりしてな。それ等に関係なく攻撃を届かせることができるわけだ。まぁ対人ではほぼ無意味だろうな。あくまで特殊な防御能力からの干渉を受けないってだけだ。普通に防御は出来るから安心してくれ。ただ、特殊な製法で作られているのかこれまでにこの刀が刃こぼれをしたことはない。武器破壊は狙えないと思ってくれ。」

 

「随分と奇妙な能力だな。まぁなんであろうと問題は無いだろうが。」

 

 武器の差を考慮したセルグの発言をどうでも良さげに返すアポロにセルグの視線が少しだけ鋭くなる。

 

「言ってくれるぜ。一応小さな自尊心って奴も持ち合わせてるんでな・・・本気でやらせてもらおうか。」

 

 言葉とともにセルグの気配が膨れ上がる。アポロの言葉がセルグのプライドを刺激したのかその雰囲気には若干の怒りが見えていた。

 

「心地いい強者の気配だな。楽しませてくれそうだ。」

 

 アポロもセルグの変化にニヤリと笑う。己の予想を上回りそうなセルグの気配はアポロの思惑を良い意味で覆してくれそうだった。

 向かい合う二人の気配が重苦しく甲板を支配する。二人の手合わせを見ようと甲板に出たグラン達は始まる前から既に目が離せないでいた。

 

「いくぞ・・」

 

 小さく発した声と同時にセルグが動く。

 甲板の板を踏み抜くような脚力は、5歩は必要な間合いを1足でゼロにする。初手は鞘に収まっていた天ノ羽斬を抜き放つ横薙ぎの斬り払い。それをアポロは全く動じずに剣で防ぐ。セルグは振り抜いたままの勢いで体を回転させアポロの背後へと回り込む。回転の勢いそのままに再度振り抜かれる横薙ぎの一閃をアポロは屈んで交わすと、お返しとばかりに背後を切り払う。

 

「うおっと!?」

 

 視線を向けずに返された斬撃に思わず身を仰け反らして躱したセルグは鞘を杖がわりにして体を支えるとそのまま足払いをかけた。かわすために僅かに跳躍したアポロに向けて2度目の剣閃を向ける

 

「多刃」

 

 振るわれた斬撃は数多。瞬速で放たれた剣閃をアポロは僅かに驚愕しながらも防いで距離をとった。

 しかし、距離をとったアポロの腕部に着けられていた鎧の一部にはいくつかの傷がついていた。

 

「この私が防ぎきれずに傷をつけられるとはな・・・やるじゃないか。」

 

「お褒めいただき光栄だ・・と言いたいところだがそんなちょっと傷がついた程度では攻撃を加えたと言えんだろう。こっちとしては防がれたことが不服だな。」

 

「フン、減らず口を。今度はこちらから行くぞ!」

 

 今度はアポロが動き出す。セルグ同様に1足で間合いを詰めたアポロは正面から叩き切るように剣を振り下ろす。だが、刀よりも肉厚な刃を持つ重い剣をアポロはセルグと同様に驚異的な剣速で振るう。

 セルグはまともに受け止めないように刀の反りを利用して受け流すように躱したが、受け流された剣は甲板に振り下ろされることなく返す刃で受け流したセルグを追撃する。

 振り下ろした剣を無理やり止めて追撃へと移行したアポロの剣に戦慄しながらもセルグは刀で受け止め、お返しとばかりにセルグも渾身の力を込めた一閃を見舞う。

 

「光破!」

 

 アポロの膂力を利用したカウンター気味に放たれた一閃をアポロが剣で受け止めたとき、甲高い音と何かが割れる音が響く。

 

「あ・・・」

 

 思わぬ結果に間の抜けた声を上げたのは近くで観戦をしていた仲間たちだ。その目に映っていたのは天ノ羽斬によって半ばから断ち切られてしまったアポロが握る剣だった・・・

 

「引き分けってところか・・・お互いにしっかりとした一撃は入れられなかったな。」

 

「そうだな、力では私が、速さではお前が上だったか。フン、まさか互角で立ち回られるとは思わなかったぞ。」

 

 アポロからの素直な驚きと称賛の言葉にセルグも笑みを浮かべて答える。

 

「力任せに剣閃の向きを変えてくるとは思わなかったよ。ついでに防いだら腕がしびれるともな・・・流石は七曜の騎士といったとこか。ホントの全力ではどうなるか想像がつかない。」

 

 お互いに予想していた実力を相手が上回っていたのか、湛え合うセルグとアポロ。お互いに褒めたたえ合う姿は笑い合う戦友のような光景に見えるが近くで見ていたグラン達はそんな笑顔とは真逆の戦慄の表情を浮かべていた。

 かろうじで把握できたのはセルグの横薙ぎの初撃をアポロが防いだところまで。それ以降の攻防はほとんど把握できず、セルグが技を放った事は確認できたがそれがアポロにどのように向けられたのか。アポロがどう防いだのかは分からず。わずか数合で終わった攻防で目の前の二人の実力が仲間たちの理解の及ばぬところにあるのを感じていた。

 

「どうしたんだ、グラン?」

 

 そんな仲間達の中に一人、険しい目をしていたグランに気付いたセルグは、怪訝な表情と共に声をかける。ただただ驚愕を貼り付けていた他の面々と違いグランの表情にだけは疑念や怒りに近い何かが伺えた。

 

「・・・セルグ。ザンクティンゼルで僕らと戦った時は全然本気じゃなかったのか?少しずつ強くなってきたからこそ分かる、今の攻防だけで僕らにどの程度実力の開きがあるのか・・・あの時手を抜いていたんだったら僕等は」

 

 ザンクティンゼルで戦った時は全力ではなかったのかとグランの胸中には疑念が渦巻く。

 手を抜かれていたのか?仕方なく仲間になってくれたのか?浮かんでは消える疑問は、実力で勝ったからこそ仲間になってくれたと思っていたグランの心に重くのしかかってくる。

 

「何勘違いしてるんだよ。あの時の戦いは正真正銘オレの全力だ。戦いの後は融合の反動でしばらく動けない状態だっただろ?なりふり構わずな勢いで戦っていたわけだ。それでもお前達に負けたんだから手を抜いてるはずがないさ。」

 

「でも、今の手合わせは融合していないのにあの時と同じくらい・・・下手するとそれ以上に感じられた。ジータはどう思った?」

 

 尽きない疑念を確かめようと今度はジータにも問いかけるグラン。問いかけられたジータもおずおずと自信なさげに答える。

 

「・・・そうですね、ザンクティンゼルで勝てたことが一気に信じられなくなるくらいには力の差を感じたのは確かです。」

 

「そこ等へんにはいくつか理由があるかな。まずあの時はまだ俺も融合状態に慣れていなかったことだ。初めて振るう力に振り回されていたことは否めない。融合状態の力にオレの感覚がついて行けてなかったんだ。もう一つはお前達と共に旅を始めてからガロンゾではガンダルヴァ、アマルティアではあの撤退戦と激闘には事欠かなかったか事だ。元々オレはひっそりと生きていたからな・・・長いこと戦いとはご無沙汰だったから勘を取り戻してきたって感じだ。ま、要するに成長するのはお前達だけじゃないってことさ・・・あんまり余計な事を気にするなよグラン。今のオレは、間違いなくオレの意思でお前達と旅をしている。お前達に負けたから仕方なく旅をしているわけじゃないんだからさ。」

 

 これまで組織に見つからないようにひっそりと生きていたセルグは長いこと戦いとは無縁の生活を過ごしていた。鍛錬は行っていたが実戦の機会はほぼなかったと言っていいだろう。目立つ行いはせず、島から島へと移り住んで生きてきたことで知らず知らず錆び付いていた戦闘の感覚が、グランたちとの旅によってもたらされた実戦の連続で取り戻されつつあったのだ。

 

「でも・・・」

 

 セルグに気にするなと言われてもグランの気持ちは複雑だった。

 実力で勝っていたのだと思っていたザンクティンゼルでの戦いはまだセルグの本調子ではなかったのだと知ってしまったのだ。あの時仲間とともに戦ったとはいえセルグに勝てたからこそ自信満々にセルグを騎空団に勧誘することができた。その自信が覆されたことはグランにとって簡単に拭えるわだかまりではなかった。

 

「何が不満なのかはわからないがホラ、折角戻ってきて出会った時よりもパワーアップしてるんだから嬉しそうにしろい!」

 

 セルグはそんなグランの不満な顔を消し飛ばすように快活に笑った。グランの頭をビシビシと叩いてそんな顔をするなと告げている。

 

「それはそれで面白くないからちょっと嫌かも・・・はぁ、セルグの背中がまた遠のいた。」

 

 グランは渋々納得するも、せっかく少しは近づけたと思った実力の差が開いたことに僻易する。

 2度目の天星器の使役で、魔晶を使用したポンメルンを退けたグランは少しずつ成長していた自分の実力を感じていたが、目標となる高みがさらに上がってしまったのだから彼の心情が複雑なのは仕方ないことかもしれない。

 

「悔しいと感じているなら上々だ。まだ追いつけるって事だからな。大きな開きがあれば人は絶望し諦める・・・悔しいと思えるならオレとお前達の差はそれ程大きくはないよ。まぁ、がんばるこった。」

 

 そんなグランにセルグは再度頭をビシビシ叩いて答える。慰めや気休め・・・ではないだろうとグランは感じる。彼の性格ならばここでその場しのぎの発言が意味のない事がわかってると思えた。

 セルグの言葉は十中八九本心からの言葉だと理解できたグランは、セルグに向けて言葉を返す。

 

「そんなもんかな、とりあえず一対一で今度は手合わせしてもらえない?自分の限界を知りたいしセルグからアドバイスとかもらいたい。」

 

 強くなりたい。そんな単純明快で強い気持ちがグランを動かす。目の前に佇む遥か高みにいる仲間へ少しでも近づこうと手を伸ばした。

 

「お、いいなそれ今からやろう。黒騎士の実力にオレも危機感を抱いていたからな。帝国と本腰入れて対立する前にちょっと強くなっておくか!」

 

「あ、私も一緒にお願いします!天星器を使いこなす練習もしたいし・・・グランに置いていかれるのは私も嫌だもん!」

 

「ふむ、このまま置いていかれては癪だ。セルグ、私も頼みたい。」

 

「ちょっとー!その前に私の魔法の力がどんなものかセルグに見せるのが先よ!」

 

 セルグの一言がきっかけにあれよあれよという間に大賑わいとなる仲間達。我先にと特訓を申し出るジータ、カタリナ、イオに詰め寄られタジタジといった状態になるセルグを見てアポロは口を挟む。

 

「フン、良かったな。大人気じゃないか。」

 

「おいおい、何言ってやがる。お前も手伝うんだよ!目的のために戦力強化は必要だろう?」

 

 このまま逃がしてなるものかとアポロへ援軍要請を出したセルグ。だがその言葉を聞いた瞬間にアポロの顔には身震いを起こさせるような嫌な笑みが張り付いた。

 

「良いのか?帝国では私の下についたら訓練で死ぬか戦場で死ぬかのどちらかだと言われていたのだが、そんな私に教えを請いて良いのか?」

 

「お前・・・何する気だよ?」

 

 不穏な雰囲気と発言に戦慄するセルグの表情を見た瞬間アポロは満足そうに悪い笑みを崩した。

 

「フ、冗談だ。」

 

 からかわれたのだと理解したセルグは若干だが苦々しい顔を浮かべてボソリと呟く。

 

「オイゲンに後で娘さんがめんどくさいですって言っておくかな・・・」

 

「貴様・・・」

 

 昨晩同様にまた不穏な空気になりそうな二人を仲間たちが必死に宥めて、グランサイファーの甲板で騎空団の特訓が始まる。

 それぞれの瞳には先に待つ帝国との戦いを見据えての戦う意志がギラギラと漲り、ラビ島に到着するまでの間、グランサイファーの甲板に静寂が訪れることはなかった・・・

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

長い投稿期間の空きの間にお気に入り100件とUA10000を達成しており、読者の皆様に感謝がつきません。
ありがとうございます!

次回は今回ほど間は明かないようにしたいですね。
楽しんでくれている人がいるのが作者のやる気の糧です

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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