granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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今回は少し短めのお話になります。

長かった(気がする)アマルティア編が終わり、シナリオ上は後半に入ってくるところでしょうか。作品自体は始まったばかりですが。
もう一度シナリオを見直して登場人物全体の行動や想いを見直さないといけませんねぇ

それでは、お楽しみください。


メインシナリオ 第14幕

空域 ファータ・グランデ アマルティア島

 

 

 

 時は少し遡り、停泊所へとたどり着いたグラン達騎空団一行は、すぐに艇へと乗り込む。

 幸いにも、ここにはまだ帝国兵士が侵入することはなく外の騒ぎが嘘のように静かであった。

 

 「セルグは大丈夫かな・・・」

 

 「大丈夫だろう、いざとなったら飛べるって言ってたし、逃げるだけなら身体一つで飛べるあいつにとって難しいことじゃねえだろうさ。」

 

 グランの心配の言葉にラカムが明るく答えるも仲間達の表情は優れない。過去にも大丈夫だといって死にかけた実績のある男の言葉は、信憑性が皆無であった。

 

 「ふん、あの男がどうなろうと私の知ったことではないな。それよりも飛び立てる準備でもしておいたらどうだ?最終手段としてはこのままこの艇で逃げることもあり得るのだろう?いざというとき飛べなくては逃げられないぞ。」

 

 アポロが心配を浮かべるグラン達を一蹴してグランサイファーの出発準備を促してくる。

 

 「そうですね・・・いざとなったら逃げるためにも準備はしておかないと。ラカムさん、オイゲンさん。お願いできますか?」

 

 「おう、そうだな任せろ。すぐに準備を澄ませてやらぁ。」

 

 「少しはセルグの頑張りに報いらねえといけねえもんな・・・任せろジータ。すぐに済ましてやる。」

 

 「少し待ってほしい・・・黒騎士、お主に確認しておきたいことがある。皆を交えてな。」

 

 ジータの言葉に動き出そうとするラカムとオイゲンを、話があると言ってザカが止めた。

 一体何事だと言わんばかりに視線がザカへと注がれる。

 集中する視線を気にせずにザカは口を開いた。

 

 「黒騎士・・・お主の悪事、その真実についてじゃ。儂の記憶と推測が正しければ、先に教えられたこ奴の悪事。そのほとんどがもしかすると帝国が作り上げた嘘かもしれんのじゃ・・・」

 

 ザカが告げる予想だにしなかった言葉に皆がどよめく。

 

 「ちょっと待ってください、大公さん。秩序の騎空団とてちゃんと調べて動いたはず。それなのにそのほとんどが嘘であるなんて・・・さすがに考えにくいのではありませんか?」

 

 「ヴィーラの言うとおり。リーシャさんとモニカさんが何も裏を取らずに動くとは思えないです。ザカ大公、一体どういうことなのですか?」

 

 ザカに対してヴィーラとグランが疑問の声を上げる。ザカは少しだけ考えた後にまた口を開いた。

 

 「まずは儂の記憶じゃが・・・儂はバルツで、ルリアちゃんを手に入れるために画策しておった。だがそれと同時にもう一人・・・黒騎士が連れていた少女も狙っておったのだ。お主らの中では黒騎士はバルツを混乱に陥れるために儂を操ったことになってるじゃろう?だがそれなら、儂があの少女を狙う事など無いはずではないかの?」

 

 バルツ公国にてザカが星晶獣コロッサスを復活させ、ルリアを手に入れようと画策していたのはグラン達も知っていた。そしてそれがザカを操ることでルリアを手に入れようとする黒騎士の画策だと言うことも。

 

 「黒騎士の連れていた少女って、オルキスの事よね・・・?だとしたら確かに変だわ。オルキスは傍にいるのにししょーを操ってオルキスを手に入れようとするなんて意味わかんないもの。」

 

 「それは確かに・・・妙な話だな。」

 

 イオがザカの言葉からこれまで推測されていた事との矛盾を見つけ出す。イオの言葉にカタリナも疑問の表情を見せた。

 

 「そうじゃ、コロッサスを作ってた時、確かにわしは誰かに操られていた。霞がかかった記憶ではあるがそれでもよく覚えておる。そこのルリアちゃんと、黒騎士が連れていた少女を、黒騎士では無い誰かの命令で狙っておった。残念ながらその誰かまでは思い出せんのだが・・・」

 

 記憶を辿りながらザカは話し出す。グラン達が真実へとたどり着くために少しでも己が気づいていることを伝えようとする。

 

 「一つ確かな事は、その誰かは黒騎士と対立しており、黒騎士からその少女を奪おうとしていたことじゃ・・・黒騎士、お主は既にそれが誰かもそやつの狙いも知っておるのではないか?」

 

 「ふん、どうだかな・・・仮に知っていたとして、それを知ってどうなる?結局のところ私が敗北し、あの女が一枚上手だった。この事実は変わらない。その結果がこのザマだ。」

 

 問いかけられたアポロは手枷を見せつけて答える。その表情には僅かに挑発的な笑みが含まれていた。

 アポロの言葉に一行はなんとも言えない表情をする。敗北を認めた人間とは思えないその笑みと言葉は、アポロが一つも諦めてはいないことが感じられた。

 

 「黒騎士さん、教えてください。ルリアとオルキスちゃんを狙っているのは誰なのか。貴方はバルツで私たちに警告してくれました。大公さんがルリアとオルキスちゃんを狙っているって・・・あの時の貴方の言葉は大公さんの話とも辻褄が合う。」

 

 「へぇ、大公さんの証言だけだったら記憶違いで済むかもしれないけど・・・本人からの警告もあったんならジータの言うとおりで、もはや疑いようがないわね。黒騎士さんどうなの?」

 

 ジータとゼタの問いかけにアポロは口を閉ざす。話す気がないのか、それとも迷っているのか一行には思惑が読めなかったがそこにザカがアポロを促すように口を挟んだ。

 

 「黒騎士、お主が語らずとも彼らは既に真実へとその目を向けている。彼らであればその内お主の知る真実にたどり着けるだろう・・・」

 

 「アポロ・・・話してくれねえか?俺がお前のために何かできるのなら俺は・・・」

 

 「ふん・・・黙れ。真実にいくら近づこうが力の無いものはたどり着く前に現実に飲まれるだけだ。貴様等に真実へと挑むその資格があるのか?」

 

 アポロは全員を見回して問いかける。

 そのアポロの視線に強い視線を返す二人がいた。

 

 「どんな現実が襲いかかってこようと僕らは負けない。なんたって目的地はイスタルシアだからね。」

 

 「うん、瘴流域を超えて空の果てまで向かう私たちに、帝国程度が用意する真実なんて関係ないです。」

 

 「大体ここまでの戦いを見ても、こいつらがその辺の帝国兵なんかじゃ話にならない程強いのがわかるじゃねえかよ!!」

 

 グランとジータが小さく笑いながらアポロへと答えを返しビィが馬鹿にするなと怒りを見せる。二人と一匹の言葉を皮切りに仲間たちがアポロを囲んで頷く。

 

 「ふ、ククク。お前たちは私の期待を良い意味で裏切ってくれるな・・・」

 

 アポロが笑う。ここまで張り詰めた空気を出し続けていたアポロの纏う空気が柔らかくなり、ルリアがアポロへ問いかける。

 

 「黒騎士さん、教えてください。貴方が何と戦っていたのか。そして・・・私とオルキスちゃんが何者なのか。」

 

 全ての真実を知る為、ルリアは黒騎士へ請う。

 アポロはルリアの言葉に、真剣な表情となって答える。

 

 「ルリア・・・お前がそう望むなら、教えよう。だが、望んだ答えが有ると思うな。真実は常に、最悪な想像をも絶望させる。」

 

 「ふ、この者たちにそんな脅しは通用せんよ。見くびるでないわ。」

 

 ルリアに試すような視線を向けながら答えるアポロに、ザカはそれが無駄だと諭す。

 ザカの言葉に納得したアポロは、全てを飲み込むような意思を秘める瞳でグラン達を見回すと口を開く。

 

 「ならば・・・貴様等を覚悟ある実力者として頼みがある。今この場にいるお前たちだからこそできることだ・・・」

 

 「頼みだと・・・?一体何をさせようというんだ。」

 

 「私をこのアマルティアから、脱獄させて欲しい。」

 

 何を言われるかと身構えていた一行でもアポロからの申し出に、驚愕は隠せなかった。

 

 「脱獄って・・・一体何を考えているのですか?そんなことをすれば我々だって・・・」

 

 「連中の襲撃に紛れ逃げ出そうと思っていたがお前たちの協力があれば容易いからな。それにあの小さい奴が言っていただろう。いざとなったら艇で逃げ出せるようにと。ここで私を連れてアマルティアを離れたところで問題はあるまい。」

 

 ヴィーラが黒騎士を逃がすことで罪に問われないかを示唆したがアポロはそれを一蹴する。

 確かにグラン達はモニカに逃げるように言われていたが、現状はまだ急を要する場面ではない。言われてわかりましたと簡単にできることではなかった。

だが幸か不幸かその時は来てしまう。

 

 「いたぞ、黒騎士だ!!先へ向かわせてくれた大尉のためにもなんとしてもやつを抹殺するぞ!!いけぇええ!!」

 

 声と同時に現れるのは多くの帝国兵士と魔晶兵士が2体。

不意を突かれた一行は迎撃準備が遅れ帝国兵士達の接近を許してしまう。

 

 「しまった、会話に気を取られすぎた!?」

 

 グランの声にすぐさま戦闘態勢を取ろうとするが、そこにまた新たな声が響く。

 

 「直ちに帝国軍を迎撃するぞ!!リーシャ船団長の期待を裏切らぬよう獅子奮迅の働きを見せろ!!」

 

 その場に別の方から参戦してくるのはリーシャが寄越した20人の増援。騎空艇停泊所はわずかな間に混乱を極める。

 

 「さぁ、今がチャンスだ!状況は混乱の一途を辿っている。この場を逃げ出せば問題はあるまい。あとは私の手を取るか、取らないかだ・・・」

 

 この状況を好機と見たアポロがグラン達へ選択を迫る。

 グランとジータは顔を見合わせた。僅かな時間、視線だけの言葉無き会話を済ませた二人は決断する。

 グランはアポロの手を取り、手枷を外す。ジータは予備の剣をアポロへ差し出した。

 

 「黒騎士・・・貴方を信じよう。ラカム、オイゲン!出航の準備を急いでくれ!!ゼタ、ヴィーラ。僕らは少しでも帝国兵を迎撃するよ!」

 

 「黒騎士さん、私も貴方を信じます。カタリナ、艇の守りはお願い。ロゼッタさん私と一緒にセルグさんを迎えに・・・」

 

 「ジータ、危ない!!」

 

 ロゼッタが声を上げる。ジータが声に反応して頭上を見上げた瞬間彼女の目の前には飛びかかる魔晶兵士の姿があった。

 

 「あ・・・」

 

 呆けた声を発してジータが固まる。どう動いても回避も防御も既に間に合わないタイミングであった。

 魔晶兵士はジータに向かい剣を振り下ろしており、その場の誰もが間に合わないことを悟る。

 己の命の終わりを悟ったジータはその剣を見つめることしかできなかった。

 

 「間に合ったあああああ!!」

 

 だが、目の前の終焉を告げる敵は、横から飛んできた光の斬撃と後ろから飛んできた剣によって吹っ飛んでいく。

 

 「ふぅっ、ギリギリだったな。大丈夫かジータ。悪かった、あっさりと抜かれちまってこんなところまであいつらを攻め込ませちまって・・・」

 

 斬撃を放ったのは追いついてきたセルグ。ジータが無事な事を確認して安堵するとすぐにもう1体の魔晶兵士へと向き直った。

 

 「敵を目の前に何を悠長なことをしている。そんなんでよく私にあんな啖呵を切ったものだな?」

 

 剣を投げたのはアポロだった。いきなりの失態に皮肉を言われたジータは罰が悪そうに肩をすくめる。

 

 「グラン!状況は?何をすればいい?」

 

 「私と一緒にやつらを迎撃するぞ。出航の準備ができるまではへばるんじゃないぞ。」

 

 セルグが状況確認しようと口を開いたところを剣を持ったアポロが並び立った。

 

 「・・・いつの間に仲間になってんだ?まぁいいか、見せてくれ。七曜の騎士の実力を。」

 

 「ふん、心配はしていないが足でまといにはなってくれるなよ?」

 

 「要らない信頼をどうも。疲れてるから任せたいところなんだけど?」

 

 「知らんな・・・しっかり働け。」

 

 「へいへい・・・」

 

 軽口を言い合うセルグとアポロ。だがその二人が並び立つ光景は、帝国兵にとっては悪夢そのものであった。

 最強と名高い七曜の騎士アポロと、先程まで化物と言われ圧倒的な強さで帝国兵を蹂躙していたセルグ。

 何もしなくても、そこにいるだけで帝国兵は腰が引けていく。

だが二人は容赦せず帝国兵士達へと向かい、魔晶兵士すら相手にならない強さで帝国軍を屠っていった。

 

 「グラン殿、ジータ殿。儂はここで降りよう。イオが秩序の騎空団に追われるようなことにならんよう事情の説明をしておきたいのでな。黒騎士の罪状についてももう一度精査する必要が有ると伝えねばならん。」

 

 「わかりました、よろしくお願いします。」

 

 ザカの言葉に言葉短くグランが答えると、ザカはグランサイファーを降りていく。

 セルグとアポロの活躍で既に周囲の帝国兵はいなかったが増援の気配がなくなることは無かった。

 

 「お主らも艇に戻るが良い。あとはワシが受け持つ。」

 

 ザカの言葉を受けてセルグとアポロも艇へと戻る。二人が戻ると同時にラカムとオイゲンが声を張った。

 

 「よし、出航だ!行くぞお前等!!」

 

 「振り落とされないようにしっかり捕まっとけ!!」

 

 グランサイファーの動力部が轟音を上げて動き出すと、瞬く間に加速してグランサイファーは大空へと飛び立った。

 

 

 グランサイファーが飛び立つ姿を見送ったザカは停泊所より空を眺めていた。

 黒騎士を取り逃がした帝国は撤退を始めており周囲には勝鬨を上げる秩序の騎空団の声が響き渡る。

 

 「ザカ大公!!彼らは?」

 

 そこに急いで走ってきたのか息を切らせながらリーシャが到着する。

 

 「おお、リーシャ殿か。無事かね?彼らは黒騎士を連れて脱出していったよ。」

 

 「そんな!?だってここには私の部下もおりましたし脱出の必要は・・・」

 

 「無かったかもしれん。だが彼らは真実を知るためにそれが必要だと考えたのじゃ。」

 

 「・・・ザカ大公。詳しくお話を伺えますか?モニカさんの発言がある以上彼らの脱出は仕方ないことかもしれませんが、黒騎士と何があったのか。彼らの目的は何なのか。私たちは知る必要があります。」

 

 ザカの言葉に徐々に雰囲気を尖らせていくリーシャは、最後には睨みつけるような目で言葉を発していた。

 

 「そう睨まないでくれ。ちゃんと話す。だがまずは少し休ませてくれんかの?お主も相当疲れておるじゃろう?」

 

 「そう・・・ですね。隊舎までご案内します。事情を聴くのは明日にしましょう。本日は我々の不手際で多大なご迷惑を」

 

 「よさぬか。儂はなんとも思っておらん。儂が勝手に首を突っ込んで疲れただけじゃ。気にするでない。」

 

 リーシャの謝罪の言葉を遮り、ザカは笑う。大らかなその笑いはリーシャの張り詰めた緊張の糸を緩ませた。

 ザカと同じく笑みを浮かべるリーシャは空を見やる。グランサイファーが飛んでいった茜色の空を。

 

 

 こうしてグラン達はアマルティア島を後にする。

 真実を探して伸ばした彼らの手が掴むのは、求める未来か。残酷な現実か。

 

 




如何でしたでしょうか。

原作と違いこの作品では、アマルティアに攻め込んできた帝国軍は相当な数で攻めてきたことになっております。
よって帝国の狙いである黒騎士を連れて脱出することがアマルティアを助けることになるという解釈でリーシャたちは理解するといった形になります。
ご都合感はありますが、後々の違和感を消すための小さな布石のつもりです。
ちょっとだけ補足させていただきました。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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