granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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古戦場中の投稿!
やっとこさと言った感じで投稿しております。
どうにも執筆時間の確保が最近難しくなってきており更新が遅くなってきそうですね。
頭の中で構想という名の妄想だけが膨らんでいく作者です。

それでは、お楽しみ下さい。


メインシナリオ 第12幕

空域 ファータ・グランデ アマルティア島

 

 

 薄暗い牢屋の中で彼女は騒がしさの消えたアマルティア島で起きていることを推測していた。

 

「・・・恐らくはあの女が私を見逃すはずがない。秩序の騎空団に攻め込むなど帝国軍だけだろう。」

 

 囚われの身になろうとも、彼女の眼光は衰えることなく薄暗い牢屋の中で爛々と輝く。諦めなどどこにも見当たらない。今にも手にかかる戒めを破壊し、暴れだしそうだ・・・そんな印象を抱かせるのは、彼女が全空域において最強の名を欲しいままにする“七曜の騎士”が一人、黒騎士だからであろう。

 

 「騒ぎに乗じれば、いくらでもチャンスはあるはずだ。諦めんぞ・・・必ずや脱出し、オルキスを・・・」

 

 呟かれた言葉は誰に聞かれることもなく静かに消える。彼女は己が目的の為に粛々とそのチャンスを待ち続けていた・・・

 

 

 

 リーシャの案内でグラン達は黒騎士が捕らえられてる牢屋へ向かい歩いていた。

 

 「ふぅん、それじゃ今までにも度々黒騎士とは争ってきたってわけか・・・」

 

 グランから今回の軽い経緯を聞いていたセルグが、納得したように声を出す。

 

 「そうだね、バルツで会ってからアウギュステにルーマシーと。目的はわからないけど大星晶獣をけしかけてきて・・・、まぁおかげで空図の欠片が集まったりと得るものも多かったりするわけだけど。」

 

 グランは少しだけ複雑な顔をする。ともすれば黒騎士はグラン達の旅の手助けをしているとも言えなくはなかった。窮地に追い込まれることもままあったが、それでもこうして無事に旅を続けており、イスタルシアへの手がかりを着々と集めつつあったグラン達から見ると、黒騎士の存在は決して悪いことばかりに繋がっているわけではなかった。

 

 「実は私もそこら辺のくだりを知らなかったけど・・・団長さんたち随分と出だしから波乱万丈な旅をしてきたのね・・・」

 

 ゼタもこれまでの経緯を聞いて驚き混じりに声を上げる。

 

 「アルビオンでも帝国とはひと悶着ありましたし・・・私も一枚かんでいるのであまり思い出したくはないですが、団長さんたちと帝国の、ひいては黒騎士との因縁というのは既に浅からぬようですね。」

 

 ヴィーラは過去の出来事を思い出し顔を歪めながらも、知らなかった経緯を聞いて感想を述べる。

 

 「その黒騎士さんが、エルステ帝国からの要請で秩序の騎空団に捕縛・・・やっぱり、帝国でなにか大きな動きがあったと見るのが普通でしょうね。」

 

 ロゼッタが帝国の現状に見解を見せる。ガロンゾでグラン達の前に現れたフリーシア宰相の存在と、隣にいた黒騎士のそばにいつも寄り添うようにいたはずのオルキスと呼ばれた少女。ロゼッタが言うように、エルステ帝国内部で大きな動きがあったのは確かだろう。

 ロゼッタの言葉にグラン達は思案顔になる。

 

 「おいおい、ここで帝国内部に何が起きてるか考えてても仕方ないだろう。どうせ今から本人に会いに行くんだ?考えてないで黒騎士の下へ行けば万事解決だ。」

 

 「そうですね、私たちはそのために来たわけですし・・・リーシャさん少し急ぎましょう。また帝国が来ることも考えられます。」

 

 セルグの言葉にジータが同意を示して先を促す。

 

 「そうだな!また帝国に襲われちゃたまんねぇ!はやくいこうぜ!!」

 

 ビィも同意してブンブン飛んで行く。そんなビィを微笑ましく一行は眺めながら急いで黒騎士の元へと向かおうとした、そのとき

 

 

 アマルティアに号砲が轟いた

 

 

 「なんだ!?」

 

 声を上げたのは誰か・・・少なくともセルグとモニカはすぐさま反応をしていた。

 一行が音の出処を見るとそこには・・・

 

 「帝国戦艦・・・それも2隻だと・・・」

 

 カタリナが小さく呟く。彼らの見上げた空にはエルステ帝国軍最新の戦艦が2隻浮かんでおり、次々と兵士たちが降りてくるのが見えた。

 

 「バカな!?今日撤退に追いやったのだぞ!!いくらなんでも部隊の再編が早すぎる!?」

 

 モニカの切迫した声が上がる。余りにも想定外な速さで襲来してきたエルステ帝国に驚きを禁じ得ないようだった。

 

 「あわわ・・・どうしましょう!?一体どうすれば・・・」

 

 「落ち着けルリア。慌てても何も好転はしない。リーシャ殿。セルグを連れてる今、優先すべきは黒騎士を我々で確保して、セルグも含め守りきることが第一目標だと思うのだが?」

 

 「そうじゃな、カタリナ殿の言うとおりじゃ。今ここですべきはまず黒騎士の安全を確保せねばならん。奴らの狙いが黒騎士の抹殺なら、そこにいるセルグよりも彼女の方が危険じゃろうて・・・」

 

 「そう・・・ですね。幸いまだ帝国兵は遠い。すぐに向かいます!申し訳ありませんが全速で走りますよ!!」

 

 リーシャはすぐに決断し走り出す。切迫した状況に皆は遅れることなく付いて行き、黒騎士が捕らえられている牢屋へと走り出す。

 

 

 

 「走れ走れ!!固まらないで散るんだ!なんとしても早急に黒騎士を見つけ出せ!!」

 

 指揮官の号令が響き降り立つ帝国兵は一斉に散開して走り出す。およそ戦闘に入ることを考えていないその動きはすぐに秩序の騎空団に知れ渡るも、その拡散の早さは指揮官のいない秩序の騎空団を後手に回らせる。

 

 「まるで戦闘の意思がない・・・隊列も小隊での動きもなし、一体何を・・・考えてもわからないか・・・焦るな!施設の防衛を第一に!!まずは侵入してくる帝国兵を迎撃しろ!!」

 

 秩序の騎空団はまとまりながら各施設を防衛するために動いていく。だがすぐに違和感に気付くことになった。

 帝国兵達は隊舎や警備隊屯所などの施設は全て見向きもせずに走っていく。

 

 「攻めこんで・・・こない?一体どういう・・・・しまった!?すぐにリーシャ船団長の元へ救援部隊を送れ!!奴らは最初から最後まで黒騎士抹殺のために動いている!!」

 

 気づけたところで兵力の差は圧倒的。もし黒騎士の居場所が知られてしまえばリーシャ達の下には侵入してきた帝国兵全てが集結することが予想された。

 

 「我々も動くぞ!!すぐに部隊を編成!警備隊も含めて奴らの意識をこちらに割かせるように戦闘を仕掛ける。急げ!!」

 

 例えリーシャやモニカがいなくても秩序の騎空団はしっかりと動けていた。だが彼らは知らない。降下してきた部隊数は、簡単に減らせるような数ではないということを・・・

 

 

 

 「エルステ帝国・・・我々に正面切って戦いを挑むどころか、アマルティアに我が物顔で侵入してくるとは!!絶対に好き勝手させんぞ。」

 

 モニカは怒りを顕にしていた。あっさりとアマルティアへと侵入してくる傍若無人ともいえる振る舞いに怒り心頭といったようであった。歴戦の戦士であるモニカの怒りは、改めてそれを感じさせるように覇気を放つ。

 

 「うへぇ・・あの嬢ちゃん小っちぇ割りに、怒るとめちゃくちゃおっかねえんだな・・・」

 

 そんなモニカの様子にビィは思わず慄く。モニカはお世辞にも体が大きいとは言えない。だがそれでも放たれる覇気は、言葉を発したビィだけでなく、グラン達も圧倒する。

 

 「モニカさんは、人は見掛けに拠らないという言葉を体現するいい例です。あの体躯でありながらモニカさんはこの第四騎空艇団最強の実力者で、昨晩の戦闘においてもその強さは圧倒的で、セルグさんを狙ってきた襲撃者を軽く叩きのめしたんですから!」

 

 リーシャがモニカのことを誇らしげに話す。尊敬する元上司にして、今尚その頂きが見えてこないモニカの強さは彼女にとっても誇らしい部分であった。

 

 「ほう、リーシャ・・・つまり私は小さくて幼く見えるということか?昨晩からどうも良い口を利くようになったではないか。フフフ、次の修練を楽しみにしておれよ・・・」

 

 凄みを効かせてリーシャに言葉をかけるモニカの様子にグラン達は可哀想なものを見るようにリーシャを見つめる。

 

 「そ、そんな!?別に私はモニカさんを馬鹿にしたわけでは!!」

 

 「いいのだ、私自身この体で年齢よりも幼く見られているのは知っている。よもやそれを一番の部下であったお主にまで見られているとは、夢にも思わなんだが・・・・セルグよ、今度私の休日に酒でも酌み交わしてくれないか?リーシャには内緒でな。」

 

 「この緊急事態に何をアホな会話してるんだお前たちは・・・」

 

 「失礼な、私は本気だぞ!」

 

 「・・・大人しくこの騒動が収まったなら考えておく。」

 

 「本当か!?約束だぞ!!フフフ、久しぶりに楽しみな休日を取れそうだ。よし、急ぐとしよう!!

 

 「はぁ・・・余所者の俺達より緊張感が無いって大丈夫なのかおたくら?」

 

 一連の流れを聞いていたラカムがあまりの緊張感のなさに呟く。

 

 「全部セルグのせいじゃない?あいつがあの二人を誑かしてるのがわるい・・・」

 

 「ゼタ、言っておくがオレにそんな気は更々ないからな。お前たちとは旅を続けたいと考えてるし・・・オレには果たすべき約束がある。この騎空団から離れる気は毛頭ないよ。」

 

 ゼタが皮肉交じりに呟いた声にセルグがすぐに反応を返した。小さくつぶやかれた約束という言葉に、ゼタは少しだけ気恥ずかしくなった。

 

 「ふ、ふん!だったら早くその手枷外してもらえるように大人しくしておきなさい。また無茶して余計な罪を被ってたら、戻ってくるのだって一苦労でしょ?」

 

 恥ずかしさをごまかすように、ゼタは言葉を返す。セルグはそんなゼタの姿に僅かながらに笑みを浮かべた。

 

 「そうだな・・・気をつけるさ。」

 

会話をしながらも走り続けていた一行は、黒騎士がいる牢屋の目の前にたどり着くところだった。

 

 

 

 

 「ほう・・・貴様等、揃いも揃って何の用だ?帝国が攻めて来ているのだろう?私なんかに構っている余裕はないと思うが・・・」

 

 牢屋の前へとたどり着いた一向に向けられたのはいきなりの苦言であった。

 手枷をつけられ、腕部のみ鎧が残っているアンバランスな服装で黒騎士は意向を出迎える。その眼光は鋭く一行を睨みつけていた。

 

 「アポロ・・・・」

 

 敵意むき出しでいる黒騎士に、前に出たオイゲンが口を開く。

 

 「気安く私の名を呼ぶな!!貴様にその資格が有ると思っているのか!?」

 

 しかし、オイゲンの言葉に黒騎士はさらに敵意剥き出しにして怒りの声を出す。

 思わず黒騎士の言葉に罰が悪そうに顔を背けるオイゲン。そんなふたりの様子にリーシャが割って入った。

 

 「これは・・・一体何かあったのですか?」

 

 「ん?ああ・・・俺達も理由は教えられていないんだが、どうもオイゲンと黒騎士には何か因縁があるらしくてな・・・」

 

 ラカムがリーシャの言葉に答えるも、リーシャの疑問感は拭えない。

 

 「何か過去にあったのかもしれませんが、親子だというのにこの態度はなんで・・・」

 

 「お、親子!?」

 

 リーシャの言葉にグラン達は驚きの声を重ねる。

 

 「え?ご存知ではなかったのですか。黒騎士、本名はアポロニア・ヴァールで、オイゲン・ヴァールの実の娘ですが・・・」

 

 リーシャによって明かされた事実にさらにオイゲンは顔を歪める。

 

 「そ、それじゃ!あたし達はオイゲンの子供と争っていたっていうの!?」

 

 「へぇ、抱えていたものが明かされてスッキリしたんじゃないかしら?ねぇ、オイゲン?」

 

 「オイゲンさん・・・どうして今まで教えてくれなかったのですか?」

 

 イオ、ロゼッタ、ジータと順番にオイゲンにむけて問いかける。だが仲間たちの言葉はさらにオイゲンの顔を背けさせる。

 

 「そりゃ、おめぇ・・・言える訳ねえじゃねえか・・・こんなこと。」

 

 「ふん、所詮その男はそういう男なのだ。いざとなればどんなものも裏切る・・・私の母を裏切ったようにな!!」

 

 辛そうな顔をするオイゲンを責めるようにアポロは語気を強める。

 

 「まて!?それはちが」

 

 「ひとまず目的を優先しないか?帝国兵がここを嗅ぎつけるのも時間の問題だろ?オイゲンと黒騎士の間にどんな事情があるか知らないけど、遅れた反抗期な騎士さまのお気持ちに合わせる余裕なんて現状ではないだろ?」

 

 「なんだと・・・?」

 

 オイゲンの弁解の声を遮りセルグは皆に告げる。そんなセルグの言葉に殺気すら放つアポロ。その殺気にルリアとイオが震えた。だがセルグは視線すらアポロへと向けずにいた。

 

 「どこの誰か知らんがふざけた口を聞いてくれるな。何も知らないお前に何が」

 

 「だから何も知らないんだから、そっちの事情なんて気にしてられないんだよ。リーシャ、モニカ。早くしよう。既に足音が近づいてきてる。グラン、ゼタ、ヴィーラ。来たところを奇襲だ。援軍を呼ばれては困る。決して逃がすな。」

 

 「う、うん!わかった、任せてくれ!」

 

 セルグの言葉にすぐさま動くグラン達。牢屋へと侵入してきた帝国兵を有無を言わさず気絶させていく。あっさりと帝国兵を無力化した3人に思わずセルグは唸った。

 

 「なんだか・・・少し強くなったか?動きが良くなってるような・・・」

 

 「全部セルグのせいだね。セルグがいないから強くならざるを得なかったんだ・・・」

 

 グランはここぞとばかりにセルグに皮肉を放つ。唐突に投げられた言葉に呆気にとられるも

 

 「そいつは上々・・・もうオレはいなくてもよかったりするか?」

 

 「冗談はやめてくれ、セルグがいなくちゃ誰が回りくどい気遣いをしてくれるのさ?ジータがそろそろ次の問題はまだかってソワソワしそうだよ。」

 

 「グラン!?私はそんなこと」

 

 「お前ら・・・たくましくなったというか・・・随分言うようになったな。」

 

 セルグが安心したような笑みを見せた。

 小さく言い合う3人をよそに牢屋からアポロを連れ出したモニカ達が口を開く。

 

 「さて、なんとしてもこのまま第四騎空艇団の本部まで二人を護衛して行こうと思う。すまないがグラン殿、ジータ殿、それにザカ大公。お力添えをお願いしたい。」

 

 「前衛は道案内も兼ねて私とモニカさんが努めます。ザカ大公には我々の援護をお願いします。騎空団の皆さんはルリアさんとセルグさん、それから黒騎士の護衛に徹していただけますか?」

 

 「任された、援護に徹しよう。場合によっては前に出ることもできるでな。」

 

 「わかりました。こっちは護衛を優先します。前衛が欲しければゼタとヴィーラにお願いしてください。」

 

 「突破力なら任せて。」

 

 「露払いならいつでも。」

 

 「オイゲンさんとラカムさんは左右に展開してください。近寄る敵の迎撃を。ロゼッタさんと私で後方を守ります。カタリナとイオちゃんは最後の守りね。みんなの傍にいて守ってあげて。」

 

 「了~解。おやっさん、今はこっちに集中だ。」

 

 「おう、切り替えはしっかりするさ・・・」

 

 リーシャの言葉にグランとジータが指示を出していき役割を決める。オイゲンが僅かに心配の種になっていたが、老練の騎空士に気持ちの切り替えの心配など不要であろうと仲間たちは信頼し切っていた。

 

 「それでは皆さんお願いします。外に出たら私達の先導に従い走り続けてください。行きま」

 

 「見つけたぞ!!伝令だ、すぐに戻って伝えろ!!それから狼煙も上げるんだ!!」

 

 リーシャが動き出そうと声を上げようとした瞬間、帝国兵の声が先んじて響いた。

 

 「狼煙・・・?急ぐぞリーシャ、恐らくは全兵力が狼煙に集まることになっているだろう・・・早く外にでなければ身動きがとれなくなる!!」

 

 「はい!ではみなさん、行きましょう!!」

 

 こうして一行はセルグと黒騎士を護衛しながら、外へと走り出していく。その先に待つのは人海の言葉がふさわしい、人が蠢く戦場であった・・・・

 

 

 

 「まだ狼煙は上がらないのですかねぇ!黒騎士発見の報告はでてこないのですか!?」

 

 戦艦の甲板で苛立たしげに声を張り上げるのは作戦指揮官のポンメルン。上空より目を皿のようにして地上の変化をみつけようとしていた。

 

 「ポンメルン大尉!!狼煙が上がりました!!報告もあります!」

 

 そこに舞い込んできた黒騎士発見の報。ポンメルンは作戦開始後初めて笑みを見せた。

 

 「よくやりましたねぇ!!すぐに向かいます。魔晶部隊、狼煙の地点を包囲するように順次降下して包囲網を作りなさい。私ははっきりと場所がわかり次第そこに降ります。なんとしても包囲網を完成させますよぉ!!」

 

 ポンメルンが躍動する。

 作戦の成功をたぐり寄せるように次々と指示を出していくその姿は指揮官にふさわしいものだった。

 動き出したグラン達に帝国の魔の手はじわじわと迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 建物を出た一行は目立たぬように森の中を静かに走っていた。

 

 「はぁ、はぁ・・・皆ついてきているか?」

 

 モニカが後ろを振り返り確認する。

 幸いにも兵が集まるより早く動き出せた一行は、それほど囲まれることもなく兵士を撃退しながら進んでいた。

 

 「ふん・・・滑稽なものだな。自分達の島と呼べる場所でこうも逃げ回らなければならんとはな。」

 

 「なんだ、皮肉なら別に我々は気にならんぞ。自覚もしているしこの事態の不手際は我々にあるからな。」

 

 モニカはなんともなさそうに、アポロに言葉を返す。だがアポロはモニカの様子にさらに笑って答えた。

 

 「一つ提案をしようか?拘束されている私は、この状況ではただのお荷物だ。私を置いていけばこんなところでコソコソと」

 

 「できませんそんな事!!だって、帝国の人たちが黒騎士さんをあんなにも必死に探しているんですよ!?何をされるか・・・」

 

 ルリアがアポロの声を遮り割って入る。その瞳に嘘はなく、本気でアポロを心配していることが伺える。

 

 「そうか、ルリア。お前はそう言ってくれるか・・・妙に懐かしい心地だな・・・」

 

 そんなルリアの言葉に、懐かしさと優しさを感じてアポロは初めて柔らかな雰囲気を醸し出す。

 

 「黒騎士さん。貴方が何を言おうと僕達はあなたを守り通す。貴方はきっとルリアについて色んなことを知っているはず。ルリアの願いを叶えるためにも、オルキスと一緒にいたあなたの存在はきっと必要不可欠だと思うから。」

 

 「だから余計なこと言ってないで足を動かしてください。流石に付いてこれないなんて言い訳は聞きませんからね!」

 

 グランとジータも柔らかなアポロの雰囲気に押されて守り通すと宣言する。

 

 「ふ、お前たちまでそんなことをいうか・・・随分とお優しいじゃないか。私は嫌われてるもんだとばかり思っていたがな・・・しかし秩序の騎空団の面々はどうだ?私の罪状は知っているだろう。極刑は免れない。結果が同じであれば私を置いていけば手間も省けるし安全の確保もできるぞ。」

 

 リーシャとモニカに向けて笑いながら己を差し出せというアポロ。だがリーシャもモニカも動揺を一切見せずにそれに答える。

 

 「残念ながらその提案は聞けませんね。貴方が持っている真実は多すぎる。エルステ帝国が上げた罪状だけでは見えない部分も多いです。貴方が持っている真実はエルステ帝国の裏を知る重要な手がかりになります。」

 

 「我々は秩序の騎空団だ。秩序を司る我々は例え結果が同じであろうと、命を懸けてお主を守る。そして生きて裁きを受けさせる。それが碧の騎士が掲げた我々の理念だ。何を言われようがそれが揺らぐことはないさ。」

 

 「そこの小さいのだけかと思ったらそっちの小娘も随分強かになったじゃないか・・・この前相対したときはオロオロ情けないったらなかったが。この程度では動揺も誘えないようだな・・・・」

 

 二人の様子にアポロは嘆息して返す。面倒な事態になってるというのに、全くそれを意に介していない二人に驚きとも呆れとも取れるように言葉を吐く。

 

 「ジータ殿の言うとおり余計なことを行ってないで荷物にならんように動け。」

 

 そんなアポロにもう話は済んだというようにモニカは先へ行くよう促す。

 

 「全く、手枷を付けた罪人相手に動けとはひどい秩序もあったもんだ・・・」

 

 この場で得られた一つの事実。帝国によって消される可能性が潰えたことにアポロは表に出さないように胸中で歓喜する。

 

 「(あとはどうにか手枷を外し自由になれば・・・チャンスはどこかにあるはずだ。決して逃すなよ、アポロ)」

 

 胸中で自分に言い聞かせてチャンスを伺うアポロ。そんなアポロの思惑は誰にも気づかれることはなかった。

 

 「ところで、さっき黒騎士が言ってたその罪状ってのは何なんだ?」

 

 セルグがふと気になったことを問いかけた。仲間たちも同じことが気になるのか、歩みは止めなくとも、話を聞こうとリーシャとモニカに視線を向ける。

 

 「そうですね・・・少し状況の整理を兼ねてお話しましょう。

 先日、私達、秩序の騎空団にエルステ帝国より要請がありました。内容はエルステ帝国最高顧問アポロニアの捕縛。罪状は3つ。1つはエルステ帝国の乗っ取り、及び独裁による苛烈な他島への侵略。次に、危険な実験を伴う魔晶の作成。」

 

 「最後にその魔晶を粉状にした魔物をおびき寄せる粉末・・・これを秘密裏に流通させ、市井の治安を著しく悪化させたことだ。

 黒騎士よ・・・エルステ帝国より挙げられたこれらの訴えに対し、異論はあるか?」

 

 モニカがリーシャの言葉を引き継ぎ最後にアポロへと問いかける。

 

 「さぁ、どうだろうな・・・」

 

 是非もない答えに皆が訝しげな視線を送る。

 

 「これはもう、認めたってことでいいんじゃない?」

 

 イオは敵意の視線と共に言葉を放つ。

 

 「まてまて、イオ。さっきもリーシャが言っただろう。黒騎士が持っている真実は多いと。所詮は組織が挙げた個人の罪状だ。オレのような例などいくらでも考えられる。組織が作り出したオレの罪状はどうだった?結論を決めるには時期尚早だ。」

 

 セルグはそんなイオを窘めた。アポロは急に自分を庇うような言葉を吐くセルグを鋭く睨みつける。

 

 「なんだ?先ほどとは打って変わってこちらの肩を持つじゃないか・・?」

 

 「別に、肩を持ったわけじゃない。ただ経験上組織が挙げる情報なんて信じられるもんじゃないと知っているだけさ。オレはこいつらに真実を知ってもらって救われた。お前が真実を話して救われる可能性があるのならそのチャンスくらいは持って欲しいと思ってるんだけだ。」

 

 「ほう・・・お前も誰かにしてやられた口なのか?その手枷もそれが原因か?」

 

 「ふむ・・・どうやら、事の大小で違いはあれどやったことには変わりないって点もオレ達は似通ってそうだな・・・」

 

 いつの間にやらアポロの視線は柔らかくなり、セルグが最初にした発言で刺々しくなっていた雰囲気が露散していた。似たような境遇に置かれた二人には妙な仲間意識が芽生えたのかもしれない・・・そんな雰囲気に水を差すようにモニカが口を挟む。

 

 「おしゃべりはおしまいだ・・・進むぞ。」

 

 モニカの声に従い行動を再開する一行。一行の目の前にはまた、チラホラと帝国兵が見えていた。

 

 

 

 帝国兵を退けながら走っていた一行に、突如大きな気配が襲いかかる。

 

 「ッ!?止まれ!!」

 

 戦闘を走っていたモニカとリーシャの目の前に大きな剣が振り下ろされた。

 

 「こいつは・・・例の魔晶を使った兵士か・・・?」

 

 そこにいたのはグラン達をボロボロにした魔晶を使って変身を遂げた兵士。出力をさらに上げたのか禍々しさも感じる存在感も強くなっていた。

 

 「1体程度で我らを止めようとは甘く見られたものだな・・・」

 

 モニカは目の前で道を塞いだ魔晶兵士をみて余裕を見せる。しかし、無情の声がモニカに届いた。

 

 「そうですねぇ・・・1体だとしたら、ですがねぇ・・・」

 

 その場に聞こえる声の主は前方を塞いだ魔昌兵士の後ろから。絶対にやり遂げる意思をもった瞳が彼らの行く手を塞いだ。その声に合わせるように前方180°の範囲に魔晶兵士が出現する。その数5体。だがそれだけであれば、彼らは絶望しなかったであろう。

 彼らの周囲には数多の帝国兵が取り囲んでいた・・・

 

 「やっとですねぇ・・・ここまでおびき寄せて周囲に気づかれぬように兵を集めていき・・・魔晶兵士も集結させました。もう逃げ道はどこにもありませんねぇ。大人しく降伏するか、無残にも嬲られるか・・・選びなさいですねぇ。」

 

 ポンメルンはこの状況においても油断を見せなかった。一行の一挙手一投足を見逃さないように視線で射抜く。

 

 「これは・・・流石にまずいな。グラン殿、ジータ殿。あの魔晶兵士の強さはどの程度だ・・?」

 

 モニカは冷や汗混じりに戦況の把握をしようと問いかける。

 

 「1体1では恐らく無理です。攻撃力だけでなく防御力、さらには耐久力も桁外れです。長期戦になることは必至ですし、他の兵士も襲ってくるでしょう・・・」

 

 「モニカさん、一点突破しかないかと思われます。戦力では圧倒的に不利です。」

 

 「そうは言いますがリーシャさん・・・それだって簡単では・・・」

 

 リーシャが提案するがジータには可能な気がしなかった。

 

 「ふむ・・・まんまと一杯食わされていたとはな・・・私も守られていて気が抜けていたか・・・」

 

 「何落ち着いてんだ黒騎士。これは基本的にお前のせいなんだからな・・・」

 

 「私を守ろうと決めたのは貴様等だろう?責任転嫁をするな。」

 

 「・・・まぁそれもそうか・・・ジータ!あれの強さはガンダルヴァと比べてどうだった?」

 

 セルグはアポロと少しだけ言い合ったあとジータに問いかける。ジータもなにかいい案が出てくるかと素直に答えた。

 

 「ガンダルヴァ程は・・・耐久力や防御力が高くて倒すのが大変っていうのが大きな感想です・・・何かいい作戦が?」

 

 「モニカ!聞きたいことがある。オレの罪状は情状酌量の余地がありなんだよな?」

 

 ジータの問には答えず今度はモニカに問うセルグ。モニカもセルグが何かできるのかと素直に答えた。

 

 「そうだな・・・正当防衛も認められるだろうしその可能性は十二分にあると言って良い。だがそれががなにか関係があるのか?」

 

 「よし、それだけわかればいい。無茶にはならないだろう・・・」

 

 モニカの答えに勝手に満足をしてセルグは前に歩き出す。仲間たちから離れ魔晶兵士の前へと、無造作に歩いていく。

 とうとう、兵士が剣を振ればセルグは叩き切られる範囲にまで近づいた。

 

 「どうした?オレは抹殺対象じゃないから攻撃しないのか?」

 

 余裕を見せるセルグの様子に言い知れぬ恐怖を感じて怖気づく魔晶兵士。だがそれでも、上司であるポンメルンの為にと理性を総動員して剣を振るおうとした。

 

 「う・・あ・・・ぬああ!!!」

 

 巨体の兵士がその体に見合う巨大な剣を振るう。セルグは全くそれに動きを見せずに剣を受けた。

仲間たちはまさか何も抵抗することなく斬られる訳はないと思っていた為、動き出せずにいた。

 

 「セルグ!?」

 

 巻き起こる砂塵の中に仲間たちの声が重なる。誰もがまともに受けたセルグの無残な姿を想像したことだろう。だがそこに響くのは先ほどのポンメルンが放った無情の言葉から、一転して彼らが希望を感じる声だった。

 

 「流石の威力で助かった・・・おかげで自分の手で手枷を外せた!」

 

 そこにいたのは剣を手枷で受け止めて破壊したセルグの姿だった。

 

 「セルグ!!お主何をバカなことをしている!?」

 

 「ん?罪人の手枷を何度も何度もお前たちが外すのはまずいと思ってな・・・今回はこうして自力で外させてもらった。」

 

 仲間たちの心配をよそになんてことはないだろうといった表情でのたまうセルグに仲間たちの怒りは振り切れる。

 

 「セルグ!!流石に何か言ってからやってくれよ!!また目の前でセルグが死んだかと思ったじゃないか!!」

 

 「ふざけすぎです!信じられません!!絶対に許しませんからね!」

 

 グランとジータの声を皮切りに、仲間たちに一斉に責め立てられるセルグ。だが彼にとってそれは予想されていたことなのか全然気にしている様子は見られない。

 

 「まてまて、とにかく今この場を切り抜けるのが先だろう?ホントは黒騎士にも一緒に闘って欲しいところなんだが・・・まぁ流石にできないだろうからな。代わりにオレの全力でこの場を切り抜けよう。」

 

 セルグは声に出さずに傍らにヴェリウスを呼び出す。

 

 「リーシャ、モニカ。俺が道を切り開く。みんなを連れて突破してくれ。

そしたら二人は秩序の騎空団を動かせるはずだ。それまでは俺が頑張るから早く連れてきてくれよ。それでさっさとこいつらを追い出そう。」

 

 「まて、セルグ・・・この数を相手に一人で相手にするのか?そんな馬鹿なことを認められるとでも・・・」

 

 とても容認できない提案にモニカが難色を示す。リーシャも同様にセルグを止めようとするが、その前にアポロが口を挟んだ。

 

 「お前たち二人が動けなくては秩序の騎空団は機能せず。そしてこの数を相手に私を守り続けるのも不可能だとアイツは悟ったのだ。一人で戦いに集中するためには邪魔な奴らが消えてくれた方がいいという話だよ。」

 

 「出会ったばかりのオレの思考がそんなに読めるとは恐れ入った・・・その通りだ。自由に戦えるなら、オレに負けはない。空も飛べるからやりたい放題だ。だからみんなにはここを突破して安全なところに行って欲しい。

 グラン、これは俺がお前たちを守るためにやるわけじゃない・・・黒騎士をお前たちが守るためだ。この場を突破したところでどうあっても追撃は来るだろう。お前たちにはなんとしてもそれらを防いでもらわなきゃいけないからな。

 ボスキャラは全部こちらで引き受けるってだけだ。だから・・・そっちは頼んだぞ。」

 

 セルグはここで初めて信頼をみせた。黒騎士を守るためにグラン達にこの場を突破した後を任せたのだ。

 

 「本当に・・・大丈夫なんだね?やられたりしないよな?」

 

 「さっきもあれ受けてピンピンしてるだろ。それにアドヴェルサによる不意打ちはもう喰らわない。万に一つもやられる可能性はないさ。安心してくれ。」

 

 疑うグランに、セルグは確信をもって答える。セルグが言い切ったのをみて、グランも疑うのをやめた。

 

 「わかった・・・ルリア、アレを渡してあげてくれ。」

 

 「あ、わかりました!」

 

 グランは唐突にルリアを呼びつけると何かをセルグに渡すように指示する。

セルグが渡されたのは細長い布袋。

 

 「まさかルリアに持たせていたのか・・・なんでまた?」

 

 「セルグが駆けつけて守ってくれないかと思ってね。ルリアがさらわれないようにお守り代わりだよ。それじゃあ任せるよ・・・」

 

 「任せろ・・・これを渡してくれたなら、本当に負けはないさ。むしろここで全て片付けやってもいいな」

 

 ニヤリと笑うセルグの言葉に何故か言い知れぬ不安を皆が感じた。だが信じることにした。彼がアレを手にしてヴェリウスまで呼んでいるのだ。心配するだけ無駄だと悟った。

 

「さて、リーシャ、モニカ。突破したらちゃんと仕事してくれよ。流石に一人で戦い続けるとしんどいかもしれないからな。」

 

「本当にお主はどこまでも勝手で己を省みないのだな・・・いつか女に泣かれるぞ。」

 

「流石に頼りにしすぎで自分が情けなくなります。待っていてください。すぐに戻りますから!」

 

 セルグの呼びかけに、二人は呆れとやる気を見せて返す。

 

「それじゃ、あとは任せたからな・・・

行くぞヴェリウス、深度2で一気に飛ばしていく!」

 

 “(どれ、我らの力、骨身にしみる程度には思い知らせてやろうぞ)”

 

 セルグの声に傍らに佇むヴェリウスが答える。闇の力の塊となったヴェリウスがセルグの中へと入り込む。瞬間、セルグは漆黒の翼を生やし、右手には翼の剣を左手にはルリアより渡された細長い布袋をもっていた。

 

 「絶刀天ノ羽斬よ!我が意に応えその力を示せ。立ちふさがる災厄の全てを払い、全てを断て!!」

 

 布を取り去られた天ノ羽斬が光と共にセルグの左手に握られる。既にその力の鼓動は周囲を取り巻く帝国兵士を及び腰にさせていた。

 

 「天ノ羽斬全開解放・・・“光来”!」

 

 さらにセルグは天ノ羽斬を限界まで強化する。一度振るえば光の斬撃が全てを断つ、正真正銘、まだ仲間のだれもが見ていないセルグの最大戦闘状態となった。

 

 「右翼を切り払う・・・そこを行け!」

 

 小さく呟いて進路を伝え、大きく指示を出したセルグは溜め切った力を解放する。

 

 「絶刀招来“天ノ羽斬”」

 

 

 巨大な斬撃が一人の魔晶兵士を飲み込むとすかさずリーシャを先頭に皆が走り抜ける。帝国兵士の全てが追いかけようとするところをセルグが立ち塞がる。

 

 

 「待たせてしまって悪かった・・・随分と長いこと襲いかかってこなかったのには少し驚いたよ。ポンメルン大尉殿。」

 

 「何故でしょうね・・・まぁ理由なんてどうでもいいですが。私がやることは一つだけです。今のあなたをなんとしても倒し黒騎士を始末するだけです。行きますですねぇ!!」

 

 そう言ってポンメルンも魔晶を発動する。他の魔晶兵士よりもずっと強い力の波動は周囲を威圧するという点ではセルグと変わらない。

 

 「この状態は割と負担なんでな・・・さっさと終わらせてやる。」

 

 「奇遇ですねぇ。我らの魔晶も体に負担が大きいのです。さっさと終わってもらいましょうか・・・」

 

 

 ポンメルンとセルグ。妙な共通感を持ちながら二人にとって負けられない戦いが始まろうとしていた。

 

 




如何でしたでしょうか。

最近アクセス解析にも目を通し始めたのですが皆さん作者が更新をすると凄い勢いで最新話を読まれていくのですね(^^;;

待ち望んでいる方がいると自惚れてしまっても良いのか、少し舞い上がってしまいそうな作者です。

それはそうと、評価者10名、お気に入りも随分増えて100名も見えてきそうな感じで評価されている事に感謝がつきません。皆様本当にありがとうございます。
ランキングとかにこの勢いで乗ってみたいですね。精進しながら頑張っていきます。
これからもよろしくお願いします!!

それでは、お楽しみいただければ幸いです。

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