granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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会話が多くて今回あまり話が進みません。
今回もあとがきに作者の補足があります。正直解釈に困る難しい部分がありました。

それでは、お楽しみください。


リアルの都合でしばらくの間更新が遅れそうです。






メインシナリオ 第11幕

空域 ファータ・グランデ アマルティア島周辺

 

 

 

 

 上空に待機していたエルステ帝国戦艦は現在、アマルティアを少し離れて待機していた。

 

 「それで・・・みすみすルリアを取り逃がし、せっかく与えた魔晶も全て破壊され、更には黒騎士を発見することもできなかったと・・・・?」

 

 司令室には険悪な空気が、漂うどころではなく充満していた。帝国宰相フリーシアは絶対零度の瞳で、何も成果を出せずに帰ってきた目の前の大尉を見やる。

 

 「えぇ、そのですね・・・宰相閣下。吾輩としましても、やはり大々的に正面切っての戦いはいささか被害も大きくなり目的達成も困難かと存じます。少数精鋭での潜入作戦に切り替えた方が・・・・」

 

 ポンメルンはおずおずとフリーシアに進言する。秩序の騎空団は規模が大きい。一筋縄でいくほど簡単な相手ではないことが先の戦いで身にしみていた。

 

 「ほう、それで・・・少数精鋭とは・・・一体誰を指して言っているのですか大尉?ガンダルヴァ中将なら今はいませんよ。もしあの魔晶を持たせた兵士というのであれば、潜入任務には向かないと思いますが?」

 

 ポンメルンの進言にフリーシアがありありと怒りを募らせる。失敗したと悟ったポンメルンだったが既に遅くフリーシアは怒りと共に口を開く。

 

 「この愚か者が!!あんなにも兵を動員しておいておめおめと帰ってきた愚か者が偉そうに潜入任務だと?その情けない実力でそんな作戦しか思いつかないから上手くいかないのではありませんか!」

 

 「ヒッ、申し訳ありません!!」

 

 思わず平謝りするポンメルンを冷たい瞳で見下ろすフリーシアは、冷静になってから告げる。

 

 「次は倍の兵を動員します。魔晶は同じ数しか用意できませんが貴方の裁量で使わせなさい。一騎空団を相手に、次もしも失敗してあっさりと帰ってくるようなら降格や除隊も覚悟しておくことです。よろしいですね?」

 

 ここでもう一度ポンメルンにチャンスが与えられたのは彼にとって幸運だったのか不運だったのか・・・どちらにせよ、彼にはもう選択肢が無かった。

 

 「承知しました。必ずや宰相閣下の為に、黒騎士を抹殺してきましょう。」

 

 その胸に宿るは覚悟か自暴自棄か。帝国軍人ポンメルン大尉にとって人生最大の戦いが幕を開けようとしていた・・・

 

 

 

 

アマルティア島

 

 

 帝国軍を退けたグラン達は、リーシャ、モニカと共に改めてセルグの元へと向かっていた。

 

 「本当に凄かったですね。リーシャさん。ガロンゾ島でお会いした時とは全然雰囲気違くて、自信にあふれてるというか、全てを見通しているっていうか・・・」

 

 ジータは救援に駆けつけた時のリーシャを思い出し熱い声で語る。

 

 「や、やめてください!!私はそんな大したことはしていません・・・ほとんど戦っていたのはあなた方なのですよ。私から見れば美味しいところだけ持っていったようでむしろ申し訳ないといいますか・・・迷惑もおかけしているわけですし・・・」

 

 リーシャはそんな賞賛の声にいたたまれなくなり縮こまる。

 

 「なんだか、素直に褒められてるのを受け取れない嬢ちゃんだなぁ・・・モニカの嬢ちゃん。リーシャはいつもこうなのか?」

 

 ビィがモニカに尋ねるとモニカは心底楽しむように笑う。

 

 「リーシャは褒められ慣れておらんのだ。いつも自信なさげにしてて、必死に全てに取り組んでいた。自分を卑下にし、自分に求めるものを常に大きくしていた。だからいつもやる気だけ空回りで上手くいかなかったんだが・・・それを昨晩セルグが変えてくれたのだ。あやつの言葉でな・・・あやつには感謝しても仕切れん。なぁ、リーシャよ?」

 

 「モ、モニカさん!?わざわざ他の騎空団の皆さんの前で私の失敗を話さないで下さいよぉ・・・それに、彼からは学べたこともありましたが素直に感謝なんかしません!私と年齢なんてほとんど変わらないと思うのに、小娘扱いするし・・・失礼にも程があります!!」

 

 モニカの言葉になぜか矛先がセルグに向かうリーシャだが、その表情は言葉とは裏腹に、怒りがあまり感じられない。

 

 「ふぅん・・・これはどうやら本当に面白くなりそうね。ねぇリーシャちゃん?お姉さんちょっと教えて欲しいことがあるんだけど・・・」

 

 ロゼッタが意味深な笑みを浮かべてリーシャへと尋ねる。その笑みに若干ロゼッタと距離を開けながらリーシャはロゼッタに顔を向ける。

 

 「モニカさんとセルグはどんな感じだった?結構仲が良さそうだったりする?」

 

 「・・・?そうですね、なんというか、何故か気が合う友といった感じでしょうか・・・この島についてからというものセルグさんは牢屋の警護の時もモニカはまだかーと、私がいるときには訴えるくらいにはモニカさんと仲が良さそうだと記憶しています・・・」

 

 ロゼッタの質問の意図が読めず包み隠さず答えるリーシャ。予想外な答えにモニカが頬を染める。

 

 「な、なんと・・・セルグはそんなに私を求めていたのか。さすがに少し照れるな・・・」

 

 まるで恋する少女のような反応を示すモニカに一行は口をぽかんと口を開ける。これまでモニカは頼れるお姉さんといった目で見ていた一向にとって余りにも乙女チックなモニカの姿は印象と正反対であった。

 

 「ふぅん・・・あの野郎。再会したら絶対殴ってやる。」

 

 「ちょ、ちょっとゼタさん、落ち着いてください!!」

 

 不穏な言葉を発するゼタをジータが窘めようとするが

 

 「へぇ・・・ジータは許せるのかしら?仲間である私たちが心配していたのをよそに女の子とイチャイチャしてたセルグを・・・」

 

 ゼタの言葉に考える素振りを見せるジータ。

 

 「・・・許せません!私は泣きそうなほど心配だったのに・・・モニカさんと楽しく過ごしていたなんて!!」

 

 ゼタの言葉にあっさりと裏切るジータ。だがそこにリーシャとモニカが口を挟む。

 

 「あの・・・別に私達、そんなに面白おかしくおしゃべりとかしてたわけではないのですが・・・」

 

 「勘違いしているようだが、我らはあくまで秩序の騎空団で、あやつは被疑者だからな・・・・確かに話しやすくて仲良くはなったがお主らがいうような関係ではないぞ。」

 

 「モニカさん・・・さっきあんな顔しておいてそれは少し説得力がないのではありませんか?」

 

 ヴィーラが先程のモニカの様子に苦言を呈するが、モニカはもうどこ吹く風でなんてことはないように告げる。

 

 「さすがに私も個人的な感情が芽生えるほどは仲良くなったつもりはない。先程のはお主らをからかっただけだ。いい演技だっただろう?」

 

 ニヤリと笑うモニカに初めて遊ばれたことに気づいたゼタとジータ。

 

 「フフフ、私をちっこい船長などと呼んだ罰だ。どうだ、これが大人の余裕というやつだ、思い知ったか小娘。」

 

 ゼタを小馬鹿にしたようなモニカの態度に怒りが噴出しそうなゼタをたしなめるのはグラン。どうにも最近貧乏くじを引かされている気がしないでもなかった。

 

 「モニカさん・・・大人気ないですよ・・・」

 

 「仕方なかろう。成長したリーシャがどうにも素っ気無いからな・・・このくらいは良いではないか。」

 

 モニカがリーシャに責任転嫁する。

 

 「べ、別に素っ気無くはしてないじゃないですか!?」

 

 モニカの言い様に文句を言わずにはいられないリーシャ。

そんなこんなで無駄に和気藹々としながらもグラン達はやっと皆で、セルグの元へとたどり着くのであった。

 

 

 

 

 セルグは牢屋で一人、喧騒の消えたアマルティアにひとまずの平穏が訪れたことを悟る。

 

 「さぁて・・・オレは一体どうなるんだろうな・・・組織が刺客を寄越した時点でオレの証言の信憑性も高くなるだろうし・・・いっその事全てをアイツ等には教えとくか。このままこうして牢屋に入れられたままじゃどうにもならないからな。できればグラン達と旅を続けたいとは思うが・・・」

 

 自分の処分がどうなるのか・・・考え始めたらキリがなくとも、それしかやることもなくああでもないこうでもないと思考のループにハマる。

 

 “(考えるのは後だな・・・お迎えが来てくれたようだぞ)”

 

 ヴェリウスの言葉と同時にセルグの耳に複数人の足音が聞こえてくる。その意味を察してセルグは笑みを浮かべる。会えなかった時間は短いのにも関わらず、色々とあって久しぶりに再会する気がしてならなかった。

 

 「フ、随分と大所帯で来るじゃないか・・・グラン。」

 

 「そうかな?宣言通りだと思うけど。ちゃんとみんなで来ただろ。」

 

 「そうだな・・・またお前たちの勝ちだ・・・」

 

 「今度はセルグの負けってわけでもないんじゃない?」

 

 「・・・それもそうだな。」

 

 微妙な笑顔を浮かべながらテンポよく会話をする二人に皆が首をかしげる。

 

 「何やら二人だけの約束があったようだが、とにかく・・・無事で良かった、セルグ。」

 

 カタリナが置いていかれてる仲間を代表して口を開く。その瞳にあるのは安心にほかならない。

 

 「そうだな、一先ずは無事だ。この先がどうなるかは不安だがな・・・まぁ心配をかけて済まなかった。」

 

 「セルグさん・・・ご無事で良かったです。ゼタさんから組織の刺客の可能性もあるって聞かされて・・・本当に心配でした。」

 

 ジータが安堵の表情でセルグに言葉を投げる。ジータのそんな姿にセルグも優しく言葉を返す。

 

 「そっか・・心配かけたな。このとおり元気だ。安心してくれ。」

 

 危うく涙を流しかけるジータ。そんなジータを押しのけ、リーシャが前に出る。

 

 「すいません。積もる話もあるでしょうが、セルグさん、出てもらいます。」

 

 「どういうことだ?処分が決まった・・・ってわけでもなさそうだが?」

 

 セルグも含め騎空団一行は、リーシャの言葉の意図が読めないでいた。そんな一行をみてモニカが口を開く。

 

 「黒騎士を狙って、帝国が襲ってきた。同様にセルグにもまだ襲撃の可能性がある。どちらも被疑者としては一級の重要人物だからな、一箇所にまとまってもらおうというわけだ。黒騎士は下手をすると逃げそうなので、お主に移動してもらう。」

 

 モニカが詳しく説明すると皆が納得する。セルグはまだ疑問が有るようで考える素振りからまた質問を投げかけた。

 

 「まぁ別に構わないが、それよりもオレの処分についてはどうなるんだ?組織からの刺客が来ただけでオレの証言はもう疑いようがないだろう?流石に無罪放免とはいかないだろうが情状酌量の余地が有ると思うんだが・・・」

 

 セルグは思い切って聞いてみる。できればグラン達とまた旅をしたい。その思いに偽りはなく、なんとか自由になりたいと願っていた。

 

 「ふむ・・・私個人としてもお主は信頼に値する人物だしな、刺客の襲撃があったことも考えれば、いくらでもそれは有り得るとは思うのだが・・・お役所仕事ってやつは、手続きだなんだと非常に面倒で時間がかかるのだ。もうしばらくは不自由な想いをさせると思う。我慢して欲しい。」

 

 モニカが申し訳なさそうに言う。そんなモニカの姿に急かすこともできないセルグはそのまま押し黙る。

 

 「モニカさん、急ぎましょう。また帝国が攻めてこないとも限りません。」

 

 リーシャが皆を促す。そのリーシャの姿に帝国は撤退しただけで黒騎士抹殺を諦めたわけではないのだと、一同は理解する。

 牢屋を開けられたセルグは、少しだけ心を躍らせていた。拘束されているとはいえ、狭い牢屋からある程度自由に動ける世界へと出られたからだ。

 

 「やっぱり狭くて暗いってのは気持ちが落ちるもんだ。外に出られることがこんなに嬉しいとはな・・・」

 

 「別に自由にしたわけじゃないからな。勘違いするなよ。」

 

 モニカがそのまま走り出しそうなセルグに忠告する。

 

 「わかってるさ・・・少なくとも迷惑をかける気はないよ。」

 

 セルグも重々承知だとおとなしくしていた。本当はヴェリウスと融合して空でも満喫したいなどと思っていたりもしたがそれは内緒だ。

 

 「それでは行きましょう。まずはザカ大公と合流して、それから黒騎士の下へと向かいます。事情聴取はそこで皆さんと行います。セルグさんは、黒騎士と同じ拘留所に放り込みますが、よろしいですね?」

 

 「放り込むとは随分な言い方だな・・・モニカ、オレ何かしたか?」

 

 セルグへの雑な扱いになにやら不穏な気配を感じ、セルグがモニカに尋ねる。

 

 「さほど年齢も変わらぬお主に、昨日小娘扱いされたのが気に食わないようだぞ。まぁつまりお主のせいなのだが・・・」

 

 「年齢ではなく、考えなしに戦っていた事に対するものなんだがな・・・モニカ、何とか宥めておいてくれないか?」

 

 「断る、自分でやれ、お主のせいだ。」

 

 セルグは何とかしておいてくれとモニカに丸投げするが、にべも無く断るモニカにセルグも困った顔をする。

 

 「ううむ・・・リーシャその、だな、今日は随分と大活躍だったそうじゃないか。迅速な判断で団員を上手く使ったと聞いたぞ。」

 

 おずおずとリーシャの機嫌を直そうと奮闘するセルグ。仲間たちはそんなセルグの初めて見せる姿に驚きの顔を浮かべるが、そのセルグを前に、成長したリーシャは大きく立ちはだかる。

 

 「嘘ですね、たった今私達が来たばかりで他に情報源なんてあるわけがない。誰かから聞き及んでいることはありえない。いいからさっさと歩いてください。」

 

 あっさりと嘘を看破され、更にうろたえるセルグ。余りにもでまかせが過ぎたかと、どうにか機嫌を直す為の突破口を真剣に考えていたセルグにリーシャはため息をつく。

 

 「はぁ・・・別に怒ってなどいないです。確かに小娘扱いにはムッとしましたが・・・昨日の貴方の言葉には、私にとって大きな価値があった。ただ・・それが余りにも効果があって素直に嬉しくなれないだけです。感謝は、していますよ・・・貴方のおかげで私は多くの事が見れるようになった。ありがとうございました。」

 

 素直に礼を述べたリーシャに、呆けた顔をするセルグ。

 

 「なんですか、その顔は?私がお礼を言っちゃいけないのですか。全く、本当に失礼な人ですね貴方は・・・」

 

 「いや、今度は随分素直になるもんだからついな・・・そうか、オレの言葉で何かを掴めたと言うならオレとしても嬉しい限りだ。良かったよ。」

 

 そう告げるセルグを一瞥してリーシャはまた前を向く。

 

 「さぁ無駄話はここまでにして移動しますよ。皆さん付いてきてください。」

 

 そう言ってリーシャは歩き出す。その表情がわずかに綻んでいたのはだれにも気づかれることは無かった。

 

 

 

 

 

 怪我をした団員の治療が行われていた警備部隊の屯所に一行がたどり着く。周辺は先の戦闘でひどく荒れていたが、街にある建物への損害は思いの外軽微であった。

 秩序の騎空団が戦後の処理をしている光景を眺めながら、先の戦闘で多少なりとも怪我をしていたザカ大公も治療を受けていた。

 

 「流石に魔晶を使った兵士は手ごわかったのう・・・お主らももし会うことがあったら気を付けよ。普通に戦えば10対1でも簡単ではないぞ。」

 

 治療してくれてる団員に注意を促すザカ大公。団員は笑いながらそれに答える。

 

 「ハハ・・・大公殿、ご心配は有り難いですが我らはあんなのと敵対したら逃げますよ。それはもう、勝ち目がでてくるまで何が何でも。こちらに船団長か船団長補佐でもいない限りまともに相対する気はありませんって!」

 

 「それが賢明じゃの・・・利口な考えだ。」

 

 ザカは治療している団員に感心する。己の命を大事にする答えは素直に好感が持てた。

 そこにグラン達を引き連れリーシャが戻ってくる。

 

 「ザカ大公、戻りました。急ぎで申し訳ありませんが、すぐに黒騎士との面談に向かいたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 「おお、戻ったか。わしは構わんぞ。治療も受けさせてもらった・・・また奴らがきても戦えるようにはなったぞ。」

 

 ザカは力瘤を作り、朗らかに笑う。そんな大公に本心では大人しくしてほしいと思うリーシャも表には出さず対応する。

 

 「その時はまた、力を借りるやもしれません・・・それでは向かいましょう、こちらへ。」

 

 着いて早々すぐに歩き出すリーシャにわずかな焦りを感じたザカだったが、何も聞くことも無く今度は付いてきた騎空団一行を見る。一人だけ手枷で拘束されているセルグを見つけ、ザカは目を細めた。

 

 「お主がセルグとやらか・・・随分と物々しい手枷を付けられておるな。」

 

 セルグへと声を掛ける。セルグは急に話しかけてきたザカに警戒の目を見せた。

 

 「グラン、この人は?」

 

 「バルツ公国のザカ大公。僕らと同じで黒騎士の件でここに呼ばれたみたい。」

 

 「へー、黒騎士は一体何をしたんだ・・・・大公さんまで出てくるなんて。」

 

 普段通りに会話をしようとするセルグにザカは厳しい目を向ける。

 

 「無理に雰囲気を作るな。儂にはわかる・・・一体何人殺めた?お主の目は隠すことなく物語っておるぞ。」

 

 ザカが告げた言葉にセルグの雰囲気が変わる。鋭くザカを睨み付け口を開いた。

 

 「年長者は本来敬うタイプなんだがな・・・何が言いたい?目を見ただけでオレの何がわかる?大公様は随分と便利な能力をお持ちなようだな。」

 

 セルグは大公の問いかけに鋭い視線を向けて答える。ザカが見抜いた部分はセルグの心の琴線に触れたようだ。

 

 「ちょっと!ししょーどうしたの!?なんでセルグにいきなりそんな事・・・」

 

 イオがただならぬ雰囲気を感じ取りザカとセルグの間に入る。心配そうなその表情は仲間達にも伝搬した。

 

 「どうしたのですか、ザカ大公・・・彼は大切な仲間です。何度も私達を助けてくれて、気にかけてくれて。イオやルリアのような子供達の事を大切に想ってくれる優しい人です。」

 

 ジータがザカに問いかける。セルグの事を知っている仲間達からすればザカのこの態度は理解できなかった。

 

 「こやつは目的の為なら、躊躇せず人を殺めることができるだろう。こやつの瞳に宿る意思は強い。強すぎると言ってもいい。お主らの言うことが確かなら、この者は大切なお主らを守るためなら人を殺めることをなんら厭わない。」

 

 セルグはザカの言葉に心底驚いた表情を見せた。

 

 「驚いたな・・・どこまでお見通しなんだ?確かに大公殿の言うことは当たりだ。オレは目的の為なら人を殺めることを厭わない。」

 

 今度はセルグの言葉に仲間が驚愕する。グランがすぐに声を上げた。

 

 「セルグ、本当なのか!?」

 

 「落ち着けグラン。少なくとも殺したくて殺すわけじゃない。これまでお前たちとは住む世界が違ったんだ。

 あの事件以降、オレには幾度となく組織から暗殺部隊が来た。その数は18人。オレの情報を持ち帰られるわけにもいかずやむなく殺した。確かに簡単に人を殺めてはいるが、やるかやられるかの世界で殺さずになんて甘いことは言ってられないんだよ。」

 

 セルグの告白に仲間たちは複雑な顔を見せる。確かに事情が事情なら仕方ないことかもしれない。だがそう割り切れる仲間はこの中に多くは無かった。

 しかし、ザカが告げるのはまた別の事実だった。

 

「儂が言いたいのは軽々しく人を殺めていることに対してではない。お主はそれほどまでに殺めておって何故、“正常”でいられる?」

 

 予想外の問いかけに空気が固まった。セルグも含めて全員がザカに視線を向ける。皆、何を言いたいのかわからないという表情であった。

 

「そこまで命の駆け引きをして人を殺めようものなら、血を浴びてきただろう。怨嗟の声を聞いたであろう。普通であれば人を殺めたか否かはそのものに大きな変化を及ぼす。だがお主の意思の強さはどこまでも変わっていないはずだ。断言しても良い。きっとお主という人格は殺人という境目で全く変わっておらぬじゃろう・・・お主は人を殺めているのに全くそれに“穢れておらぬ”のだ。そんなこと、ヒトとしてあり得ぬ事よ。」

 

 セルグの表情が固まる。告げられた事実はセルグの異常性。多くの人を殺めているセルグが余りにも普通にグラン達と共に旅をしている。余りにも殺人という事実を感じさせずに溶け込んでいた事への異常性をザカが指摘する。

 

 「それっておかしい事なんですか?軍人だって戦いとなれば時に人を殺めることだってありますし・・・」

 

 いつまでも話していたザカ大公とセルグを気にして引き返してきたリーシャが問いかけた。

 

 「リーシャ、それは違う。確かに軍務、任務で軍人が人を殺める時はあるだろう。だがそれらはあくまで命令や任務で動いているのだ。それが必要だとされているからだ。最たる例は戦争だな。あの場に於いてはより多く倒したものこそ讃えられる。それらとセルグのは別の事だよ。セルグのは個人の為。ひいては自分の為に行われた殺人だ。被害者の無念、加害者への恨みというのは計り知れない。軍務で行われた殺人ですら戦場の英雄と呼ばれる者の中には殺人に狂うものもいる。人を殺めた人として、セルグは余りにも普通すぎるのだ・・・」

 

 リーシャの言葉にはモニカが答える。その顔には僅かにセルグに対する恐れが見えた。

 

 「ふむ、それで。だからどうしろと?オレは異常だからこいつらと一緒にいるんじゃないとでも言うのか?」

 

 セルグは表情を戻しザカに問いかける。問われたザカも警戒心はあるようだが決して邪険にするようでも無かった。

 

 「別にそうは言っておらん。じゃがお主は己の異常に気付いた方が良い。その穢れない意思は、仲間との亀裂を生む可能性を秘めておる。全てが全てお主と同じ存在だと思うでないぞ。むしろお主が異端なのだ・・・努々、その異常を忘れるな。」

 

 ザカはただ心配していた。セルグという存在の異常性。そしてセルグを完璧に受け入れてしまっているグラン達との関係性を。

 

 「忠告、感謝しよう。少なくとも自覚はなかった・・・大公殿の言葉が無ければ気づかなかったことだ。」

 

 セルグは最後に感謝を示すと視線を伏せた。突如告げられた己の異常性に思うところがあるのか、仲間達も声を掛ける事はせず見守るだけにとどまる。

 

 「そ、それでは、黒騎士の下へ向かいますよ。皆さん、行きましょう。」

 

 リーシャが話は終わったと、皆を促す。セルグと再会した先ほどまでとは打って変わって、仲間たちは足取り重くリーシャに付いていく。重苦しい雰囲気に包まれる一行にセルグは明るい声を出す。

 

 「そんな空気になるなよ。オレの異常がわかったところで、何かが変わるわけでもない・・・一緒に居るのが嫌だと言うならオレは抜けるが、お前たちはきっとそんなことは言わないだろう?」

 

 顔を上げセルグは確かめるように皆に問いかける。

 

 「もちろん!僕らは気にしないよ。」

 

 「はい、何も問題ありません!」

 

 「そんな事・・・考えられません!!」

 

 グランとジータ、ルリアがすぐさま答える。

 

 「お前さんの優しさは知ってるしな・・・ルリアを怒った時のお前は、確かにルリアの事を想って感情を顕わにしてた。優しさから怒れるヤツに悪い奴はいねえさ。」

 

 「子供連中を心配するお前の姿を何度も見てきたからな。戦闘中ですらお前は常に仲間を気に掛けてる。そんなお前を疑うやつはここに居ねえよ。」

 

 オイゲンとラカムは言葉と共にそれに同意を示す。

 

 「それなら、暗い空気になるのは間違いだろう。さぁ、いつも通り笑っていこうぜ。」

 

 そう言って笑顔を見せて歩き出すセルグ。皆もつられて笑顔に戻り、談笑をしながら歩き出す。

 一行の間には、笑い声が絶えることなく続いていた・・・すぐに笑顔を消したセルグとそれを見つめる一人以外には。

 

 

 

 

 

 

 帝国戦艦の甲板に一人の男が立っていた。彼の名はポンメルン。その視線は眼下のアマルティア島へと注がれ、瞳には決意と覚悟が見えた。

 

 「必ず・・必ずや任務を達成するのですねぇ・・・」

 

 命令を下されたポンメルンは必死で思考を巡らした。しかし、人海戦術は大きな兵力差があって初めて効果を発揮する。現状、動員できる兵士と秩序の騎空団の規模を考えると、正面からぶつかって取れる有効な戦術は思いつかなかった。 

 

 「狙うは黒騎士の首のみ・・・もはや手段も何もない。ひたすらに目的だけを目指し動くだけ。」

 

 だから彼が選択したのは戦術ではなく覚悟。背水の陣をもって目的達成だけを狙う戦術だった。

 

 「戦力の逐次投入は下策。全部隊一斉降下!!第一段階は黒騎士の捜索。最速で奴をみつけるのです!!第二段階は伝令。発見したら奴に手を出さず伝令を優先しなさい。狼煙も上げるのです。全ての兵士が居場所を把握するように情報を飛ばせ!そして最終段階は当然、黒騎士の抹殺です。何としてもあの者を抹殺し作戦を成功させるのですねぇええ!!」

 

 「サー!イェッサー!!」

 

 ポンメルンの命令に応え、夥しい数の帝国兵士がアマルティアへと降下する。戦艦に残るのはポンメルンと選定された5人の魔晶を持つ部下。情報が入り次第最速で向かうために艇にとどまっているのだ。

 

 「黒騎士・・・かならずこの手で殺してあげますネェ・・・」

 

 

 もはや笑みなど見る余裕の無いポンメルンには油断も慢心もなかった・・・魔晶の力をもってすら負け続けた彼は今、どこまでも隙を見せない覚悟で戦場を見下ろす。

 

 

 覚悟を決めた軍人によって動き出した帝国はアマルティアを激動させる。

 

 




如何でしたでしょうか。

解釈の難しい部分というのはザカ大公の話のとこです。

シナリオ中で襲い来る帝国兵に対して騎空団一行は退けているのか、討伐しているのか。
っというところになります。

この作品の中では、今回作者はグラン君たちが皆命を奪うことなく帝国兵を撃退していると捉えております。(とても優しい世界です)

ゲーム中ではそういった部分は詳しく描かれないので自己解釈に因る部分であり、優しい世界にするか、現実的な世界にするか、悩みました。
決め手はイオちゃんがガンガン帝国兵殺していくとか考えたくないという理由で優しい世界としました。

もしノベルやアニメで作者の解釈を覆す設定があってもこの作品ではこの設定で行くことをご理解いただきたいと思います。

それでは。お楽しみいただければ幸いです。

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