granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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アマルティア本編スタート!

ちょっとフリーダム過ぎないかとは不安も有りますが、オリ主入る時点で原作乖離はもうどうしようもないですよね

その代わり心躍る話を描きたいと作者は願っています。

それではお楽しみ下さい!



メインシナリオ 第9幕

 空域 ファータ・グランデ アマルティア島

 

 

 早朝、まだ人の気配もまばらなアマルティア島の騎空艇停泊所に、グランサイファーが停泊する。

 ガロンゾ出立から数日。オイゲンと交代しながらも、宣言通りに不眠不休で舵を取り続け、最高速でグランサイファーを飛ばせつづけたラカムとオイゲンが、甲板に倒れ込んだ。

 

 「着いたか・・・グラン、ジータ。少し休憩したら向かうから、先に行ってろ・・・」

 

 「老体にはなかなかしんどい航行だったからオレもちぃっと疲れた。先に行っててくれ・・・」

 

 二人は疲労困憊といった様子でグラン達に先に行く様に促す。彼らがここまで必死に急いできたのは、仲間であるセルグの安否を確かめるため・・・彼らの苦労の為にもグラン達は二人を置いて先に行くことを選んだ。

 

 「秩序の騎空団には案内をお願いしとく。ラカム、オイゲン。ありがとう!!」

 

 「ゆっくり休んでください。ありがとうございました!!」

 

 グランとジータが二人に感謝を述べ、艇を降りていく。仲間達も一通り二人に労いの言葉を述べてから、グラン達に続いていく。

 

 「おっさん・・・少しはオレ、優秀な乗り手になれたか・・・?」

 

 「俺を唸らせるにはまだまだだな・・だが上々だ、お疲れさん。」

 

 「へ、そうかい・・・ありがとよ・・・」

 

 二言三言、言葉を交わして二人は休息に入る。二人の顔にはすがすがしさのある笑顔がみえた・・・

 

 「・・・ここからはオレの仕事だ。トモちゃん、エルっち。二人を食堂で寝かしといてくれ。ばっちゃん直伝の最強料理で、二人を復活させてやんよぉ!!」

 

 グランサイファーにてまた、三人の男の戦いが始まる。仲間を想う気持ちは彼らも同じなのだから・・・

 

 

 

 「ガロンゾ島にてそちらの船団長のリーシャ殿に招かれた。彼女を出してもらえないか?大至急確認したいことがあるのだ。モニカ殿でも良い。とにかく、取り急ぎお願いしたい!」

 

 艇を降りた一行を秩序の騎空団の団員が出迎える。すぐさま必要な応対を求めてカタリナが説明をしていた。

 

 「申し訳ありませんが船団長、船団長補佐は、現在休まれております。特に船団長は昨晩の緊急事態に際し負傷し、軽傷ではありますが怪我もしています。まだ時間も時間ですし、少しお待ちいただきたい。」

 

 事務的に、簡潔に現状を述べる団員。だが、彼らには聞き逃せない言葉があった。

 

 「緊急事態って、おい!一体、夜に何があったってんだ!?」

 

 「そんな・・・遅かったっていうの・・?」

 

 「セルグは?セルグは大丈夫なのか!?」

 

 ビィとジータが慄き、グランが問い詰める。態度を急変した一行に団員は驚くも冷静に、自分が知らされている事実を告げる。

 

 「セルグとはセルグ・レスティアさんで間違いないですね?ご安心を。あの方は無事です。昨晩彼の牢屋が襲撃を受けましたが、船団長がこれに応戦。船団長補佐と一緒に撃退したと報告が挙がっております。彼に怪我は無いようです。」

 

 団員の言葉を聞いて肩に入っていた力を抜く一行。大きく息を吐き、緊張をほどいた。

 

 「うう・・よかったですぅ。」

 

 「ま、簡単にやられるヤツじゃないよねぇ」

 

 「全く、寿命が縮む思いだな・・・」

 

 「お姉さまの寿命が!?なんということを・・・」

 

 「ヴィーラちゃん、さすがに今は黙ってなさい・・・」

 

 各々が安堵の表情と共に呟く。

セルグの無事が確認できた一行は、どうせなら一緒に会いに行こうと一先ずはラカムとオイゲンを待つことにした。

 

 

 

 

 「失礼します!モニカ船団長補佐。ガロンゾから事情聴取のために招かれたという騎空団一行が到着したと報告がありました。」

 

 執務室にいたモニカに部下から報告が入る。

 

 「おお、来たか・・・リーシャには?」

 

 「まだです。深く眠っておられるようで、報告にはまだ赴いておりません。」

 

 「それでよい。怪我事態は軽傷だが傷は深い・・・今は休ませてやろう。私が行く、案内を頼む。」

 

 「はい、こちらです。」

 

 部下の案内でモニカはグラン達の下へ向かう。

 

 「(組織の次は黒騎士か・・・全く、休まる暇がないな・・・)」

 

また始まるであろう厄介事の種を感じて少しだけうんざりとした表情をみせるのだった。

 

 

 

 

ラカムとオイゲンが合流し(なにやら少し元気になりすぎてて落ち着かない二人であったが)、停泊所で待機していたグラン達に、到着したモニカが歓迎の言葉を告げる。

 

「よく、来てくれた。遠路はるばるようこそ、アマルティアへ。」

 

 「モニカさん・・・どうも。早速なんですがセルグのいるところへ案内して欲しい。」

 

 グランが代表として一行の要求を告げる。

 

 「わかっておる・・・待たせてしまったようだしな。案内しよう、ついてきてくれ。」

 

 モニカを迎え一行はアマルティアの街へと繰り出した。

 

 

 

 「少し説明でも交えようか。この島は秩序の騎空団の拠点として存在している。こうして街もあるが、基本的には団員達の家族が住まうだけだな。付近には魔物もでるが、住人が襲われない様、常に大規模な部隊の巡回をさせて・・・」

 

 語りの途中でモニカの様子が変わる。周辺を見回し険しい表情をしていた。

 

 「モニカ殿・・・どうされた?確かに魔物の気配はあるが、この程度なら・・・」

 

「おかしい。魔物の気配が多い。巡回部隊は何をしているのだ・・・すまないが先に警備の駐屯所へ向かわせて欲しい。何か起きているのだとしたら急ぎ対処せねばならん!」

 

 カタリナの問いに答えたモニカが足早に歩き出す。妙に焦った様子のモニカに不思議に思うも、グラン達もついていく。道中何度か魔物も襲い掛かってくることもあったが、難なく対処していった一行だが、その光景にモニカの不安は加速していった。

 

 

 

 「なんだ、これは・・・何が起きたのだ。誰か!状況を説明しろ!!」

 

 駐屯所に着いたモニカは、目の前の状況に絶句した。警備に回ってるはずの大部分の団員が怪我をして治療を受けていた。

 

 「モニカ船団長補佐。申し訳ありませんっぐ・・・皆巡回中に、突如何者かに襲われ、警備の者達は一様に動けない状態となっております。」

 

 「突如何者かにって魔物にでも襲われたのか・・・?」

 

 警備兵の言葉に言葉を漏らすのはラカムだったが、それをモニカが否定する。

 

「いや、魔物程度でこの惨状はおかしい。ましてや皆が目撃もせずやられているなど・・・」

 

「十中八九、統率された人間の仕業でしょう・・・考えられるのは、セルグさんの組織か、或いは・・・」

 

 「とにかく現状を把握する必要がある。誰か動ける者はいるか?」

 

 モニカの呼びかけに比較的軽症な二人の団員が現れる。

 

 「緊急事態だ。一人はリーシャへの伝令を。辛いだろうが起こして事態に対応させてくれ。もう一人は動ける者を集めて街の防衛に・・・戦闘が予想される。気を抜かずに対処しろ。グラン殿、ジータ殿。すまないが街の防衛をしながら事態の対処に一緒に当たってもらいたい。

 今、この島にはバルツ公国より、大公殿が・・・」

 

 「お呼びかな?モニカ殿よ。」

 

 会話の最中に男の声が割り込む。そこにいたのはドラフの男性。雰囲気は優しそうだが、ドラフ特有の巨躯は威圧感を隠せない。

 

 「ザ、ザカ大公!?なぜこちらに!?」

 

 「師匠!?なんでこんなところにいるの!?」

 

 モニカとイオが同時に声を上げた。

 

 「ちょっと、ラカム。あの方は?」

 

 初めてザカ大公に出会った仲間を代表してロゼッタがラカムに問いかける。

 

 「お、ああ。そうか三人は初めてだったな。あの人はザカ大公。バルツ公国の大公さんだ。俺らがバルツでイオと始めた会ったときにちぃっとな・・・」

 

 「へー大公さんと知り合いなんだ。団長さん達って実はすごい経験してたりするんだね。」

 

 「まぁヴィーラちゃんもアルビオン領主だし、割と凄い人とは知り合いになってるようね・・・」

 

 ロゼッタが現状、仲間にいるヴィーラも含めて、凄い人物達と知り合いになっているグラン達のこれまでの冒険に感嘆していた。

 

 「おお、イオ!!久しぶりじゃのう。元気にしておったか?」

 

 「それは、元気だけど・・なんで師匠がこんなところに?」

 

 「うむ、秩序の騎空団の要請でな。黒騎士の事情聴取に協力してくれと頼まれて遠路はるばるバルツより来た次第じゃ。もしやお主たちもか・・?」

 

 ザカ大公がグラン達を見回して問いかける。

 

 「はい、そうです。私たちも同じ話でここに呼ばれました。」

 

 「そうか、グランにジータじゃったな。久しぶりじゃのう。イオは迷惑をかけておらんか?年の割に背伸びをする子でな・・・どうにも意地っ張りな子じゃから心配しておったのだが・・・」

 

 ザカ大公が心配そうな瞳でグラン達に質問する。グランとジータはそんな大公に思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

 「あ、あはは。意地っ張り・・・ではありますね。子ども扱いされると怒りますし。」

 

 「子ども扱いされて怒ったところを優しく窘められてたりっていうのもよく見かけます・・・」

 

 「ちょっと二人とも!態々師匠に言わなくてもいいでしょ!!信じられない!!」

 

 イオが明かされたくない出来事を報告する二人に憤慨する。

 

 「これ、イオ。わしはお主の保護者としてちゃんと知っておきたいのだから二人を責めるでない・・・」

 

 そんなイオをザカ大公が窘める。

 

 「むぅ・・・そう言われたら・・・引くしかないじゃない。」

 

 大公を前に年相応な反応を見せるイオに仲間たちが微笑ましく笑みを浮かべるのだった

 

 「そのだな・・・お主たちの間で盛り上がるのは良いのだが、少し状況をわきまえてはもらえんかな・・・」

 

 そんな中に静かに怒りを見せるモニカに一同は冷や汗を流す。

 

 「すまぬ、すまぬ。そう怒らないでくれんか。久々に会えた孫娘みたいなものじゃから少々はしゃいでしまったわい。それでモニカ殿、先ほどから起きている事についてだが・・・」

 

 「ザカ大公の安全の為には、まず街の安全を確保しなければならないな。グラン殿、ジータ殿。ご助力願いたい。既に騎空団の半数は動けないような状態だ。この事態に対処するには圧倒的に人手が足りない・・・」

 

 本来であれば客人として招いたグラン達を巻きこみたくはなかったモニカ。その表情は悔しげでグラン達に対する申し訳なさが垣間見える。

 

 「わかりました。協力しましょう。」

 

 「セルグさんが心配ですけど・・・仕方ありませんね。」

 

 グランは快く、ジータは多少不満そうではあるが承諾する。

 

 「こいつらは迷惑だとか考えねえヤツラだから安心しろって、嬢ちゃん!」

 

 ビィが補足するように付け加える。

 

 「こら!!嬢ちゃんなんてモニカさんに失礼ですよ!!何考えてるのビィは・・・」

 

 「・・・まぁ、いいかな。それはそれで若々しい響きだし・・・とにかくだ。皆どうかよろしく頼む。」

 

 「任せてくれ!」

 

 音は違えど返答は同じ。グラン達は口をそろえて了承する。

 

 「それならば儂も協力しよう。だてにイオの魔法の師匠はしておらん。戦力としては申し分無いと自負できるぞ。」

 

 ザカ大公も事態に対処しようと提案する。

 

 「ううむ、しかし一国の大公殿にそんなことをさせては・・・いえ、実力を疑う訳ではないのですが・・」

 

 渋るモニカにザカ大公は笑う。

 

 「ハッハッハ、小娘がなにを遠慮しておる。バルツの民を侮るでないわ。ここで仮にわしが怪我をしてもそれは自業自得。そちらに責任を追及することなどせんよ。安心せい。」

 

 「ふっふーんだ。その前に私の魔法で怪我なんかさせないんだから!」

 

 折角再会した師匠に実力を見せようと息巻くイオ

 

 「おお、頼りにしておるぞ、イオ!」

 

 親バカの如く甘いザカ大公に、モニカは自分の心配が杞憂だと悟る。

 

 「はぁ悩むのが間違いであったか・・・仕方ない。協力に感謝する!」

 

 事態の対処の為、グラン達と秩序の騎空団、ザカ大公の妙な取り合わせの仲間が動き出す。

 

 「モニカさん、お願いがあるんだ。ジータを連れてセルグを迎えに行ってもらいたい。この状況じゃセルグだって牢屋に入れたままってわけにはいかないでしょ?安全なところに移送する必要があるのなら利用しない手はない。彼の実力なら大抵の戦闘は何とかできるし、事態に対処するにはもってこいだと思う。

それに・・・セルグの無事を確認しないとジータが落ち着かないんだ。艇にいるときからずっとソワソワしてて・・・こっちはザカ大公と僕らで何とかするからお願いできないかな?」

 

 グランが今から動こうというタイミングでセルグを連れてくるようにモニカに頼み始めた。

 

 「グラン!別に私は!!その・・・ちゃんと落ち着いてますよ。」

 

 誰が見ても落ち着いてるとは言えない。そんな説得力の無い表情で否定するジータに

 

 「ジータ、そんな顔で落ち着いてると言われても説得力無いんじゃない~?」

 

 ゼタがからかうように言うと皆も同調する。

 

 「むぅ・・・わかりました!モニカさん、セルグさんの下と案内してください!!私が迎えに行きます!!」

 

 意地を張ったようにやる気を見せるジータだったがそんな彼女の様子にモニカは何かを察した。

 

 「ふむ、確かにセルグなら腕を拘束したままでも戦えそうだからそのまま戦ってもらうか・・・大手を振って戦わせるわけにはいかないが。それにしてもなんだ、ジータ殿はセルグを好いておるのか?

ふむ・・・確かに奴は大きな包容力というか一緒にいると安心感があるからな。そう思うのも無理はないな。私も昨日それでやられそうだったぞ。リーシャも満更でもなさそうだし・・・ライバルは多そうだな・・・」

 

 ニヤリといった笑みを浮かべるモニカだったが、このモニカの発言がきっかけとなった。

 

 「なんですって・・・ちょっとグラン!私も一緒に行ってくる!!あのバカセルグ・・・ジータがこんなに心配してるのを余所にそこのちびっ子船長と頼れな船長を相手にイチャイチャしてたっていうの?絶対許さない!!ぶん殴ってやる!」

 

「ゼタさん!!だから違いますって!も~グランなんでこんな時に変なこと言うの!?ふざけないでよ!!」

 

「いや、僕は・・・」

 

そんなつもりではなかったグランが慌てて弁明しようとするも

 

「小娘!ちびっ子船長とは私の事か!?いい度胸だ、この騒動が終わったら覚えて居れよ!!どちらが大人か、よぉくその身にわからせてやる!!」

 

モニカがゼタの発言に激怒。

 

 「ふふ、なんだかおもしろいことになってきたわね・・・それにしてもゼタもなかなか素直になれない子ね・・・あれじゃさすがに気づいてもらえないわよ。」

 

 「ロゼッタさん、どちらにせよセルグさんは素直になろうとも気づかないかと・・・ジータさんのあれですら気づかないのですから。」

 

 落ち着いた二人の外野が燃料を投下して・・・

 

 「ちょっと二人とも!!なんで私までそんな感じで見られてるのよ!?別に私は」

 

 「そうですよ!!ゼタさんだって、なんだかんだと言ってセルグさんが心配なだけじゃないですか!?私と一緒です!!」

 

 瞬く間に燃え広がらせた。

 

 「な!?ジータ!!私は違うわよ!!勝手なこと言うんじゃない!!」

 

 どうしてこうなったか・・・グランの一言がきっかけに姦しく騒ぎ始めるジータ達。

 

 「グラン・・・お前のせいだぞ。」

 「グラン・・・何とかしろよ。」

 「グラン・・・責任とって。」

 「グラン・・・早く収拾しろ。」

 

 「ええぇ!?僕のせい!?」

 

 「「「「当たり前だ!!!」」」」

 

 全くもって想定外な事態に責任を負わされたグランが、文句を言われながらも彼女たちを抑えたのはまた別のお話・・・

 

 

 

 

 

 「はぁ・・・余計な時間を取られるし、結局僕が迎えに行くことになるし・・・女の子って意味わかんない・・・」

 

 そうぼやきながら走ってるのはグラン。隣にはモニカが一緒に走っていて、先ほどの提案通りにセルグを迎えにいくのを自分が行う羽目になっていた。

 

 「先ほどのは私もつい抑えられず、売り言葉に買い言葉といった感じで騒いでしまった・・・面目ない。」

 

 「いや、モニカさんのせいじゃな・・・くもないですけど。ゼタやジータも悪いので。ついでに言うならロゼッタとヴィーラも・・・」

 

 「彼女等のせいでもないと思うがな・・・強いて言うならセルグのせいか。」

 

 「よし、再会したらこの気持ちを乗せて殴ろう。そう決めた・・・」

 

 セルグの居ないところでセルグがなぜか責められていた。

 

 「ところで、お主の仲間たちは大丈夫か?あんなに落ち着きが無くてちゃんと戦えるのかちょっと心配だが・・・」

 

 モニカが先ほどの騒ぎから疑問を呈する。浮足立っていたりはしないだろうかと不安になったのだ。だが、答えるグランの顔は自信満々の不安の無い表情をしている。

 

 「大丈夫、みんなかなり強いから。帝国の兵士なら何人来ても問題ないくらいね・・・」

 

 「ほう・・・何とも頼もしい話だ。そのまま秩序の騎空団で働いてはもらえんか?」

 

  自信満々なグランの言葉に冗談交じりにモニカが返す。二人はそうして笑いながらセルグの下へと走っていくのであった・・・

 

 

 

 

 「おやおや、まさか貴方たちが既にこの島に来ているとは思わなかったですねぇ・・・」

 

グラン達と別れ、街の哨戒をしていたジータ達の目の前には帝国軍大尉、ポンメルンの姿があった。

 

 「ポンメルン!また貴様か!?今度は何が目的だ!」

 

 すぐにカタリナが前にでてポンメルンと対峙する。

 

 「それを貴方たちに教えるわけがないですよぉ。それよりもこちらの質問に答えていただきたいですねぇ・・・貴方たちは黒騎士に会いに来たのですか?」

 

 「そちらと同様、こちらがそれをわざわざ教えるとでも?いささか考えが浅はかではありませんか?」

 

 棘を含みながらもカタリナの隣に並ぶヴィーラ。ジータも含め戦闘態勢に入ろうとする中に、突如必死な声が響く。

 

 「あの!なんで帝国は黒騎士さんを捕まえるように言ったのですか!?オルキスちゃんはどうしているのですか!?お願いします!大尉さん、教えてください!!」

 

 大人たちの会話の中に割って入るルリア。オルキスがどうなっているのか、その手がかりを知るかもしれない人物の登場に、縋るように手を伸ばす。

 

 「ルリア!何をしているんだ、下がれ!!」

 

カタリナが前に出ようとするルリアを抑えた。しかし、ルリアはそれを煩わしく振り払おうとした。

 

 「ルリ・・・ア?」

 

「カタリナ・・・私、オルキスちゃんの声が聞こえなかったの・・・痛いとか苦しいとか・・・もしオルキスちゃんが黒騎士さんと別れて・・・ショックでなにも感じなくなっちゃったのなら、私は・・私はあの子を助けてあげたいの・・・」

 

ルリアが胸の内を吐露する。同じ様な力をもつ似た者同士の友達。そんなオルキスの事が全く見えなかったガロンゾ島での出来事が、ルリアの心にしこりとなって残っていた。

 

 「ふむ・・・ルリア。貴方がこちらに来てくれると言うのでしたら、教えてやるのも吝かではではないですねぇ・・・」

 

 ポンメルンは条件を提示する。その条件はオルキスを想うルリアの心を迷わせる。

 

 「・・・私が行けば・・・私はオルキスちゃんと一緒に居てあげられますか?」

 

 「待つんだルリア!!そんなこと!!」

 

 カタリナが止めるも迷うルリアの心には、カタリナの声が届かない。

 

 「私が責任もってそれは約束しましょう・・・」

 

 にやりとほくそ笑むポンメルン。だが、ルリアにはそのポンメルンの表情が見えていなかった。迷いながらも前に出ようとするルリア・・・だがそれはルリアの手を掴む優しい手に止められる。

 

 「ダメだよルリアちゃん・・・」

 

 「ゼタ・・・さん?」

 

 小さなルリアの手を掴むのはゼタだった。呆けるルリアの前に目線を合わせるようにしゃがみ込むゼタは優しく声を掛ける。

 

 「セルグも言ってたでしょ。貴方の手は小さい。まだ誰かを守れるような大きな手ではないんだって・・・貴方が自分を犠牲にして得られる誰かの幸せ。そんなもの私達も、きっとその誰かも・・・望んじゃいない。

 助けたい子がいるなら傍にいる私たちを頼って。貴方の想いにきっと私たちは応えてみせる。今はここにいないけど、バカセルグだってルリアちゃんの想いの為ならきっと全力で応えてくれる。

 だからね、あんな帝国の変態さんに騙されちゃだめだよ!絶対約束なんて守らないんだから・・・ね?」

 

 ゼタの優しい言葉に感化されたロゼッタがルリアの逆の手を取る。

 

 「ふふ、ゼタがこんなかっこいい事言うなんて思わなかったわ・・・ルリアちゃん。私も同じ気持ちよ。貴方が望むならそれを叶えるために私たちが応えてあげる。だから、あんな変態さんに騙されちゃダメよ!」

 

 「ロゼッタさん・・・」

 

 二人に負けるまいとラカムがルリアの頭に手を置いて口を開く。

 

 「くーっゼタは男よりも男らしい女だな・・・ルリア、願いがあるなら言ってみろ。男であるオレとおっさんが、ゼタに負けない様に頑張ってやるさ。な、おっさん?」

 

 「おう、やってやろうじゃねえか。ルリア、お前さんが自分を犠牲にするこたぁねえ。オレ達に任せな。」

 

 「ラカムさん・・オイゲンさん・・・」

 

 「ラカム・・・後でシメる。」

 

 かっこよく決めたラカムについでにお仕置きの予定も決まった。

 

 「もう、ルリアちゃんは本当にかわいいですね。お姉さまと一緒に必ず私が守ってあげますわ。」

 

 「も~ルリアの癖に生意気!私を差し置いてあんなおじさんを頼るなんて!私の方がルリアの事100倍助けてあげられるんだからね!!」

 

 「ヴィーラさん・・・イオちゃん・・・」

 

 ヴィーラとイオが皆に続く。

 

 「ふふ、みんなカッコいいね。ルリア・・・私たちはザンクティンゼルから一緒にやってきたでしょ?私やグランより、あの人を頼るのはちょっと許せないかな・・・」

 

 「ジータ・・・ごめんなさい。私・・・」

 

 助けてくれる事への感謝か、頼らなかったことへの後悔か・・・どちらであってもルリアは己を囲む仲間を見て涙を流し始める。

 

 「本当に・・・君たちと出会えて良かった・・・これほどの仲間に出会えようとは。ルリア、感謝しよう。今こうして仲間に囲まれていることに・・・」

 

 カタリナが想いを紡ぐ。頼りになる仲間達へ感謝をこめて・・・

 

 「カタリナ・・うん!皆さんありがとうございます!私は皆さんと一緒に、オルキスちゃんを助けたいです!」

 

 未熟な少女は助けたいと叫ぶ。力を持たぬ自分には何もできない、だから力を貸してほしいと。

 

 「ようし!なら、アイツをさっさとぶっ飛ばしてオルキスの居場所でも聞き出そうぜ!!」

 

  小さな竜の声に仲間たちは呼応する。少女の純粋な願いが、応える仲間に力を与える。

 ジータ達は意気揚々と武器を取り出した。

 

 「カタリナ!ルリアとビィを守って!ゼタさん、ヴィーラさん。私と前衛に行きましょう!ポンメルンを倒します。」

 

「任せろジータ!ロゼッタ援護を頼んだ・・敵は私が迎え撃つ!ラカム、オイゲンは三人の露払いだ。邪魔する帝国兵を打倒せ!」

 

 矢継ぎ早に指示が出され仲間たちが動き出す。

 

 「ふむ、素晴らしい場面をみせてもらったわい。わしも滾るとしよう!!」

 

 事の顛末を見守っていたザカ大公が躍動する。吹き荒れる魔力が帝国兵たちを威圧した。

 

 「そ、その程度で私達が怖気づくとでも!?ふん・・・皆さん魔晶は持ちましたか?」

 

 ポンメルンの声に合わせて、魔晶を取り出す帝国兵がいた。

 

 「な!?まさか貴様!!自分の部下にまで魔晶を使わせる気か?この外道が!!そんなことをすれば弱い者は反動で・・・」

 

「相変わらずうるさい騎士ですねぇカタリナ中尉ィイ!兵士が国の為に死ねるなら本望でしょう!さぁ、今まで散々コケにされた兵士諸君。叩きのめしてやりなさいですねぇ!!」

 

 魔晶を持つ兵士がそれを頭上に掲げる。放たれる力は彼らの姿を変え、体を大きくし、力を与える。禍々しく姿を変貌させていく帝国兵の姿は、変身したポンメルンとさしたる違いは無かった。

 

 「うう、そんな・・・こんなのって・・・」

 

 ルリアが感じる黒い力に恐怖と悲しさを浮かべる。

 

 「やってくれるわね・・・大公さん?今からでも逃げていいわよ。ルリアちゃんだけならともかく、貴方みたいに重要な人物。守り切れる自信がないもの・・・」

 

 ロゼッタがザカ大公に戦況の不利を感じ撤退を促した。

 

 「バカを言っちゃいかん。弟子が戦い、師匠のわしに逃げろと申すか?わしを・・・バルツを嘗めるでない!!」

 

 「師匠の魔力・・・凄い!!よーし私も負けらんないんだから!!矢でも鉄砲でも魔晶でもかかってきなさい!!」

 

 吹き荒れるザカの魔力に触発されてイオもやる気をみなぎらせる。それが空元気に近くとも、士気を上げねば、簡単に押し潰されると悟っていた。

 

 「みんな!作戦に変更はないよ。私とゼタさん、ヴィーラさんが前に出ます。ラカムさん、オイゲンさんは援護を。カタリナとロゼッタさんでルリアを守って。イオとザカ大公は状況に合わせて遊撃してください!相手がどれだけ強くとも怖気づいちゃダメ!行くよ!!」

 

 ヴァルキュリアの鎧を纏うジータが戦闘モードに入る。視線鋭く帝国兵たちを射抜くその姿は戦乙女と呼ぶに相応しい。その手に握るは一伐槍。自然とそれを意識した彼女はあの時を思い出す。

 

 「(ああ、これ・・・あの時と同じだ・・・負けられないって気持ち。ううん、前よりもできそうな感じがする。凄い、なんか無敵のヒーローになった気分!)」

 

 自らに語りかけるジータ。その語らいは数瞬・・・・戦闘モードに入ったジータの口調が変わり、高らかに吠える。

 

 「今日の私は、最初から全力だ!!いくぞ、“一伐槍”!!」

 

 溢れる力の解放。力の息吹が仲間たちを鼓舞した。

 

 

彼らにとって最大の戦いが今、幕を開ける。

 

 

 

 一人、未だに牢屋に取り残されていたセルグ。昨晩の様に無理に牢屋を破壊して出ていくわけにもいかず、状況もわからずと、誰かが来てくれないか心待ちにしていた・・・

 

 「ヴェリウス、外では何が起きてるんだ?」

 

 “(何か聞けば飛び出しそうなお主に応えるわけがなかろう・・・)”

 

 「と、いわれてもな・・・どうせお前と融合しないと剣すら使えないしな。誰かが来るか、お前が助けてくれなきゃどうしようも・・・なんだ?」

 

 セルグは独り言の途中で何かを感じ取った。

 

 「この淀んだ、暗い力は・・・魔晶か?それも複数・・・ヴェリウス!すぐに見てくるんだ!!急げ!!」

 

 “(ふむ、確かに嫌な感じがするな。心得た。)”

 

 ヴェリウスが飛び立つのを見送るセルグは焦燥に駆られる。

 

 「なんだ・・・なんだその数は!?いったいどれだけの魔晶を・・・」

 

 「セルグ!?」

 

 焦りを募らせていたセルグに声が届いた。

 

 「モニカ!!それにグランも?なんでお前がここに?」

 

 「セルグの無事を確認しに。どうしたんだセルグ、凄い焦ってるようだけど・・」

 

 セルグの様子の変化に気づいたグランが問いかけるがセルグはお構いなしにモニカへと向き直る。

 

 「モニカ!すぐにオレをここから出せ!拘束も外してくれ!!」

 

 「何を言っておる!いくらお主の頼みとはいえ、そんなことしてはお主の罪状にも影響が・・・」

 

 「大きな力が動いているんだ!!グラン、ジータ達はどうした?誰かと戦っている可能性はあるか?」

 

 セルグが今度はグランへと確認する。

 

 「それはあり得るけど、一体どうしたんだセルグ?ちゃんと説明を」

 

 「魔晶の力を感じたんだ。それも複数な・・・もしそれがジータ達と戦ってるなら戦況は絶望的だ・・・二つとか三つとか、そんな数じゃなかった!」

 

 「そんな!?だってここに帝国がきてるわけが・・・」

 

 「そうか、団員達がやられていたのはやはり帝国の仕業だったのだな・・・だとすれば狙いは、黒騎士の抹殺・・・やつら、混乱に乗じて全てを知っている黒騎士を亡き者にするつもりか!?」

 

 モニカがセルグがもたらした魔晶の情報から帝国の企みを推察する。

 

 「わかったなら早くここから出し」

 

 「落ち着けセルグ。今のお主を外に出すことはできん・・・今のお主は冷静さを欠いておる。グラン殿、急ぎ戻るぞ。我らも援護に向かわねば。」

 

 「はい・・・セルグ!落ち着いて聞いてくれ。僕らはそんなに頼りないか?ザンクティンゼルで君を打ち負かしたのに、まだ信じられないというのか?もしまだ僕らを守られる側だと思っているのなら僕らはもう仲間じゃない・・・だから見ててくれ。もう僕らは負けない。セルグ無しで帝国のヤツラを倒して見せるから・・・だから信じて待っててほしい。

 モニカさん・・・いこう。」

 

 そういって振り返るグランの目には決意が見て取れる。モニカを威圧するような力強い決意であった・・・

 

 「セルグ、私からも言っておこう。昨晩も思ったのだがな・・・己の身をもっと省みろ。お主がそうして身を削ることを、心配するものがいるはずだ。私も含めてな・・・その者達の気持ちをよく考えてくれ。」

 

  去り際にモニカも告げて二人は足早に駆けていく。皆が戦っている戦場へ向かって。

 

 

 “(ふむ・・・行ったようだな・・・どうするのだ?)”

 

 グラン達が行くのと入れ替わるように、ヴェリウスが姿を現した。

 

 「・・・オレは恐れていたんだな。また失うことを・・・ヴェリウス、報告はいいや。素直に待ってるとしよう。

グランとモニカが行ったんだ。きっとリーシャも動くだろう。ならばオレは信じて待たなくてはならない・・・アイツらが信じてくれるように、オレも信じてやらなければならないんだ・・・」

 

 セルグは笑う。守る対象としか見ていなかった己を恥じて、自嘲を浮かべる。

 彼らは自分が守らなくても十分戦える。彼らは十分に強いはずだと。そう理解していながらも彼らが傷つくことを嫌い、ひたすらに守ろうとしていた。

 だからグランは、守る対象として自分達を見るセルグを仲間ではないと断じた。そして仲間として見られるためにセルグを置いて戦いに赴いたのだった。

 それを理解したセルグに迷いは無かった。

 感じる力の鼓動は暗く重い。心配の種は依然としてセルグの心にくすぶっている。それでもセルグは信じて待ち続ける事を選んだ。

 

 その胸に宿るは大きな信頼と小さな寂しさだった・・・

 

 

 




如何でしたしたでしょうか。

最近はこの作品の事しか頭にない作者です。

ちょっと補足。ジータちゃん覚醒の要因ですが
セルググランいない→私ががんばらなきゃ
ルリアの願いを聞いて→ルリアの想いに応えたい
って感じから以前と同じ、最適な精神状態へと飛んで行ったって流れです。

黒騎士出てくるまで長そうです、ハイ。
次多分戦って1幕使っちゃいますね、ガロンゾ超える長さに待ったなしです。

それでは。お楽しみいただけたなら幸いです。


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