granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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ガロンゾ編、これにて終了です。

ガロンゾだけで第7幕……あっちへフラフラこっちへフラフラと話を展開していってしまい長々となってしまいましたね。

ミスラとの戦闘もありますが、非常に難しかったです。(あいつの行動って意味わからないんですよね)

いろんな伏線も散りばめられて、HRTじゃありませんが風呂敷を回収できるかも心配な作者であります。

それではお楽しみください。


メインシナリオ 第7幕

空域 ファータ・グランデ ガロンゾ島周辺

 

 

 暗い暗い闇の中。意識のはっきりしない微睡みの中で、セルグは微かな声を聞いていた。

 

 “……まさかこうもあっけなくやられるとは思わなかったぞ。”

 

「――声? だれだ……オレを知っている?」

 

 微かな声であるにもかかわらず、それは聞き取る聞き取れない以前に、直接その声が頭に響く様にはっきりとセルグに届き、微睡みが終わる手前まで、セルグの意識は俄かにはっきりとしてきていた。

 

 “ふむ、記憶はやはり備えられなかったか……まぁ上々であろう”

 

「記憶? 確かにオレは組織の訓練が始まる以前の記憶はないが」

 

 記憶と言う単語にセルグは過去の自分を思い出す。一番古い記憶は、幼いながら他の大人に混ぜられ、星晶獣狩りの戦士として訓練を受けていた時分の事。おおよそ普通の少年時代など過ごしていないセルグの始まりの記憶は組織の戦士として生きることから始まっていた。

 そしてそれ以前の事をセルグは知らない……父も母も。組織の中に育ての親ともいえる保護者のような存在はいたが、両親ではないことは幼いころより既に聞かされていた。

 

 “それも仕方ないことだ……おや、時間のようだな……逢うときを楽しみにしているぞ、セルグ”

 

「おい、まて! 記憶ってなんだよ……お前はオレの過去を」

 

 遠ざかる声に追いすがるように、セルグは声の主を呼び止めるが、同時にセルグの意識は覚醒を迎えたようで微睡みの世界から離れていった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 水中から水面へと浮上するような感覚に見舞われながら、セルグは意識を覚醒させた。目を開けて体を起こすと、傍らには小さくなってるヴェリウスがおり、セルグを突いて起こしてくれたようだ。

 

「――ヴェリウス? ここは……オレはどうなったんだ? この重苦しい感じの部屋は帝国の戦艦か」

 

 頑強で重苦しい感じのする内装は、グランサイファーとは雲泥の差であり、ここが帝国の戦艦内であることが伺えた。

 周囲を見回したセルグは続いて自分の状況を確認。適度な治療が施された形跡があり拘束はされているものの、体の状態に問題はなさそうだった。怪我の原因については思い当たる記憶が無いが体の状態が問題なければ別に良いだろうとセルグは余計な思考を切り捨て、動き出そうとする。だが、手首と足首にはきっちりと拘束具が取り付けられており、ちょっと力を入れた程度ではビクともしなかった。

 

「ヴェリウス、拘束は外せないか? なんとしても脱出を……」

 

「目覚めたようですね」

 

 突如聞こえた声にセルグは驚き視線を向ける。そこには最初から部屋に居たのかそれとも入ってきたのかは定かではないが帝国宰相のフリーシアが居た。

 

「ご機嫌はいかがですか? 貴方は帝国軍最強の兵器、アドヴェルサの砲撃の直撃を受けた後、ここに運び込まれて治療を受けていただきました。生半可な攻撃では貴方を行動不能にはできないと考えられたので、ガンダルヴァ中将に注意を引いてもらい隙を狙った次第です……威力は抑えていましたが治療を施すとすぐに怪我が消えていくのには少々驚きました。そのせいでしっかり拘束をする羽目になりましたよ」

 

 やれやれといった感じに疲れたような表情を見せながら、フリーシアはセルグに現状を説明してくる。

 アドヴェルサの砲撃。自分が戦艦内に捕らえられている理由と現状の丁寧に説明されセルグは驚きと困惑に包まれた。

 

「随分とご丁寧な対応をどうも。人の事を主砲級の兵器で吹っ飛ばしておいて治療を施したり、丁寧な説明を加えたり。おまけに傍にヴェリウスを置いてくれたりと。一体何がしたいんだ?」

 

 命を容易に奪える兵器で攻撃しておいて治療まで施すフリーシアの狙いがセルグには皆目見当もつかなかった。疑惑は自然に言葉に乗せられ、棘を含ませながらセルグはフリーシアへと問いかける。

 

「スカウト……ですよ。貴方の戦力は恐ろしいほどに高い。ガンダルヴァ中将を退ける実力。従えている星晶獣ヴェリウスの事も考えると、貴方のチカラは現状帝国でも最上位と言っていいでしょう。それこそ、七曜の騎士等と同等かもしれない程に……その力を欲するのは当然でしょう? お仲間が一緒では話しにくいと思いましたので、こうして荒っぽい手段というやつでここまで運び込めるようにしたのです。

 まぁ、当初の目的は貴方の抹殺だったのですがね。ガンダルヴァ中将との戦いを見て計画を変えさせていただきました。如何ですか? 私の悲願の為にも、強い人材はのどから手が出るほど欲しいのです。私の悲願の一助となってはもらえませんか?」

 

 フリーシアが真摯な瞳でセルグを見つめる。帝国宰相であるフリーシアが一騎空士であるセルグに頼み込むという、ありえない状況にセルグも呆気にとられた。

 

「自分が何を言ってるのかわかっているのか? 帝国に付け、ではなくお前に付けといってる意味が……お前は帝国の宰相だろう? 今のを聞かれれば下手すら反逆罪になりかねない。一体何を考えている?」

 

 セルグは言葉の端々に感じたフリーシア思惑を読んで問いかける。先ほどのフリーシアの発言は帝国の意思ではなく、フリーシア個人の意思が感じられた。

 

「人払いは済ませてあります。ある程度信頼されるためにもヴェリウスをここに置いておきました。残念ながら私に戦闘力が無い以上、拘束はせざるを得なかったですが……あなたが危惧する通り私の目的は帝国の繁栄ではありません。私個人の目的の為に、あなたを勧誘しております」

 

 フリーシアは力強くセルグを視線で射抜く。なんとしてもセルグの力を手に入れたい。そんな強い思いがその視線に込められているようであった。

 

「折角のお誘いで悪いが断らせてもらおう。大体何を目的としているかもわからないし、お前がどんなヤツなのかも知らない。それでお前に付くなんてできるわけがない。更に言うなら、ルリアを狙う帝国に手を貸すなんて真っ平御免だな。お前達帝国が今まで何をしてきたのか理解して言っているのか」

 

 セルグは当たり前のことを並べて返事をする。どんな態度で頼まれようと目的も不明な事に手は貸せるわけが無かった。

 ましてや勧誘してきたのはエルステ帝国の宰相。近年急速に勢力を拡大してきたエルステ帝国。その侵略によって大きな被害を被った島は珍しくない。元々エルステ帝国にいい感情を抱いていなかったセルグにとって簡単に頷ける話ではないのだ。

 

「私の目的は……歴史への反逆です。それが適えば、これまでエルステが行ったすべての所業を帳消しにできる。それほどの計画です。今はこれ以上は語れませんが」

 

 セルグの返答にフリーシアは苦々しく目的を抽象的に述べるだけに留まった。今はまだ具体的な事は言えないと。そんなフリーシアにセルグはため息一つ。興味を無くしたように視線をそらした。

 

「話にならないな……つまりはオレへの勧誘なんてその程度でしかないわけだ。本当に信頼して付いて欲しいと思うなら、目的ぐらい明確に話せるようにしとけ」

 

「そうですか……真に残念ですが、こうなっては仕方ありませんね。貴方が敵となることを考えたら今ここで命を絶っておくべきでしょう」

 

 勧誘が失敗に終わったとわかった瞬間、フリーシアは態度を変えセルグの命を絶つと宣言する。彼女が言うように七曜の騎士に並ぶような強さを持つセルグを野放しにしては彼女の企みは大きく崩される可能性がある。そんなフリーシアの宣言に臆することなくセルグも視線を返した。

 

「やっぱりそうなるか……まぁオレもガンダルヴァに同じことをしようとしたからな。その判断は間違っちゃいない。だが、少々遅かったようだぞ」

 

「なに……?」

 

 ニヤリと笑って言い放つセルグの言葉に、フリーシアが怪訝な表情を浮かべた瞬間、部屋のドアが爆発しフリーシア諸共吹き飛ばした。

 突然の事態ながらセルグに驚きは微塵もない。まるで何が起きるのかを知っていたかの様に平然と、ドアの無くした部屋の入り口を見据える。

 

「セルグ!! 無事か?」

 

 入り口に立っていたのは炎を纏う小手をつけたグランだった。衣装はサイドワインダーから変わり、軽装で格闘家の様相を呈している。“オーガ”と呼ばれる近接格闘専門のバトルスタイルである。

 

「おう、救援ありがとな。吹っ飛んできたドアで危うく死にかけるとこだったけどな……」

 

「セルグさん!! ああ、ホントに良かったです! 目の前でセルグさんが撃たれた時はもう死んでしまったかと……」

 

 グランの後ろから顔を出したジータは涙交じりにセルグへと抱きつく。生きているセルグに感極まったのか羞恥心など感じていないようだったが、直後に背後からドスの聞いた声が響いた。

 

「あらあら、ジータったら上半身裸の男に抱きつくなんてすっごい大胆ねー。セルグも全く抵抗しないなんて――最低。ちょっとグラン! 妹がセルグに誑かされてるわよ!!」

 

「ゼ、ゼタ……なんでそんなに怒って」

 

 グランがゼタの態度の急変に慌てながらも、宥めるように落ち着かせようとするが、ゼタの雰囲気は変わらない。

 セルグの格好は現在治療を受けていたこともあって上半身は裸で、ショートパンツをはいてるだけだった。半裸の男性にみだりに抱き着いたジータを窘めるゼタの気遣いかはわからないが、そんなゼタの様子にジータも慌てて否定する。

 

「ち、ちがいます! べつにこれはそんな大きな意味でやったわけじゃなくて……生きているセルグさんをみれたらつい嬉しくて」

 

「へー嬉しくて男の人につい抱きついちゃうなんて、ジータって実は破廉恥な子だったんだねーー」

 

 清々しいまでの棒読みな声には、ジータの言葉が全く信じられないといったゼタの意識が垣間見える。彼女自身なぜジータにこんな態度をとっているのかはわからなかった。勝手に言葉が口を突いて出てきてしまっているのだ……元々思ったことは素直にいうタイプではあるが。

 

「ぜ、ゼタさん! 違います! そんなんじゃ……」

 

「ほらほら、落ち着けジータ。ゼタも何をそんなに怒っているんだ? 助けに来てくれたのは嬉しいが、いい大人が子供相手にみっともないぞ」

 

 見かねてセルグはゼタを窘めたが、今度はゼタとジータの瞳にセルグに対しての怒りが灯る。

 

「み、みっともないって何よ! 人が折角心配してあげてたってのに何様よ、このバカ!!」

 

「はぁ……別に狙ってたわけじゃないけど……狙ってたわけじゃないけど。――また子ども扱い」

 

 

 意識せずとも二人の怒りを買ったセルグの言葉を聞いて、その後ろで一緒に救援に駆けつけてきてたグランとイオはげんなりした様子で会話をしていた。

 

「ねえグラン、セルグって実はアホなんじゃないかと思うんだけど」

 

「空気読めないってこういう事なのかな、イオ……」

 

 二人の呟きは三人の喧騒の中に消えていった……

 

 

 

 

 

 敵地で一体何をしているのだと、最年少のイオに一喝され、大人二人と少女一人の喧騒が収まると、セルグは拘束を解いてもらい戦闘準備をした。

 

「さて、余計な時間を食ったな。脱出しようか。天ノ羽斬は……お前たちが確保してくれてたんだな。ありがとう」

 

「うん、最初は形見にとでも思ってとりあえず拾っておいたんだ」

 

 天ノ羽斬をセルグへと差し出しながら、グランはその時の心情を思い出し暗い顔をしていた。

 

「グラン、いくらひどい攻撃を受けたからってそれは最初から絶望しすぎじゃねえか? 縁起でもねぇ」

 

 形見という言葉に思わずセルグは嫌な顔をする。どんな攻撃を受けたかは記憶にはないが、それにしたってすぐに死亡扱いとはいかがなものだろうか……

 

「仕方ないわよ……セルグの飛ばされ方本当にひどかったもん……即死だと思ったわよ」

 

 イオがその光景を思い出し身震いする。他の面子も同様な反応を示しておりセルグはどれだけ自分が恐ろしい攻撃を受けたのかを悟った。

 

「それにしても……一体どうしてセルグをこんなところに……?態々治療まで受けさせてたみたいだし」

 

「さぁな、偉い人の考えることっていうのは凡人には理解できないもんさ。」

 

 グランが帝国の行いに疑問を感じるもセルグは何もわからないというようにごまかす。スカウトを受けたフリーシアとの対談は、断りはしたもののなぜかセルグの中で、素直に仲間には打ち明けられない話となっていた。

 

「この中で一番常識の枠からはみ出てそうなヤツのセリフとは思えないわねぇ……」

 

「なんだ? まだ怒ってるのか? 理由はよくわからんが……」

 

「お、怒ってないわよ!? ただアンタが、一番常識外れな人物だって言ってるだけよ!!」

 

「――? まぁ、自覚もあるし、確かにそうかもしれんが……」

 

 ゼタの勢いに思わず納得して言葉を返してしまうセルグだった。

 準備を終えたセルグを迎え、五人はグランサイファーが停めてある地点まで帝国兵をなぎ倒しながら進んでいく。

 

 

 

「ううむ……結構な怪我だったらしいが。何の問題もなく体は動くな」

 

 戻る途中でセルグはふと呟く。グラン達の話からも相当な威力の攻撃を受けているはずだった。事実セルグも瞬間的に意識を飛ばしているから、それが事実なのだと半ば体感的にではあるが理解した。

 だというのに、それでもセルグの身体は何の問題も無く現在、戦闘を可能としていたのだ。

 刀を振るい、兵士を蹴飛ばし、曲がり角で出合い頭にきた兵士には頭部をつかんで壁に叩きつけるなんて荒々しい事までして見みせる。

 その姿には怪我の気配など微塵も感じられない。

 

「どうしたの、セルグ? やっぱりどこか調子悪いとか……?」

 

 ゼタが怪訝そうな表情を浮かべるセルグを気遣う。そんなゼタにセルグは少し困った声で答えるのだった。

 

「むしろ調子が良すぎるんだよな……戦艦の主砲みたいなの喰らった割には体が普通に動いているのが少し気味悪いんだよ。フリーシアの話じゃ治療を施したら怪我がどんどん治っていったらしい……帝国が凄いのか、オレがおかしいのかだな」

 

 少し自嘲気味に話すセルグに、ゼタはなにも見解を示せなかった。代わりにゼタはそんなセルグの不安を飛ばす様に明るく声をかえす。

 

「ふぅん、まぁ動けるに越したことはないんじゃない。それじゃしっかり戦ってよねセルグ!!」

 

 そういって先を急ぐゼタにセルグは一言くらい文句を言っても良いのではと思いながらも素直についていく。

 会話をしながらも帝国兵をバタバタと何の問題も無く切り捨てていく二人に、グランとイオが戦慄していたのはまた別のお話……

 

 

 

 ――――――――――

 

 

「セルグ! てめぇこの野郎! 死んだかと思ったぞ!!」

 

 グランサイファーに戻って最初にセルグが聞いたのはオイゲンの笑顔と共に繰り出される怒声だった。

 

「すまなかった、心配をかけたようだな。」

 

「無事で何よりだ……ちょっと無事に過ぎないか? 怪我がどこにも見当たらないんだが……」

 

「お、お姉さま!? 心配なのはわかりますが男性の体を舐め回すように見るのはおやめください!?」

 

「ヴぃ、ヴィーラ何を言ってるんだ!? 私は決してそんなつもりでは……」

 

 カタリナも駆け寄りセルグの状態を見て声をかけるも、変な人が一名いたせいで疑惑の眼差しを向けられることになる。

 

「態々治療してくれたんだって……訳わかんないよね、帝国の宰相さん」

 

 カタリナが疑問に思ったであろうことに説明をするのはゼタだった。その顔にはどうにも納得できていないことが伺えた。

 

「と、とにかくまぁ、無事で帰ってきてくれた事を喜ぼう! セルグ、お前さんのおかげで、こうして俺はまた飛ぶことができた……礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

 セルグの言葉が約束を果たす一助となったラカムが感慨深く頭を下げて礼を述べた。そんなラカムの姿に思わずセルグは顔を顰めた。

 

「やめてくれ、ラカム。一体なにが助けになったかはわからないが、大したことは言ってないんだ。情けなくもあとで追いつくって言っておいてこうして迷惑をかけてるオレの方が肩身が狭くなっちまうだろ……いいんだよ。気にしないでくれ。」

 

「そうよね~、ガンダルヴァを相手にするって言ってたかと思ったら砲撃受けて死にかけてるんだもの……こうして助けに来なくちゃいけなかったわけだし約束に縛られるのよりよっぽど迷惑かもね」

 

 いたずらっぽく笑いながらロゼッタが茶化すと、セルグはまたも表情を歪める。

 

「――何も言い返せない」

 

 珍しく何も言い返せないセルグの姿に仲間たちはここぞとばかりに声を揃えて責め立てる。いつしかグラン一行は和気藹々とした雰囲気を醸し出してグランサイファーの甲板の上で笑い会うのであった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「随分楽しそうですね……さぁ最後の悪あがきです。人形……いけますね? 星晶獣ミスラの召喚を命じます」

 

 甲板にでてきたフリーシアは仲良くグランサイファーで談笑しているグラン達を見据えて、見事にしてやられた事に若干の怒りを感じながら傍らにいた少女へと指示を出した。人形と呼ばれた少女がフリーシアの言葉に反応すると、そっとその小さな両手を翻す。

 少女の反応を見て肯定と受け取ったフリーシアは強い声で命令を下す。

 

「行けるようですね。ならば彼らにぶつけなさい……その力、全てを!!」

 

 

 

 

「――ッ!? この気配……星晶獣? まさか!」

 

 直ぐ近くから感じられた星晶獣の気配にルリアが振り返る。そこには帝国戦艦の甲板に出ていたフリーシアと無表情な少女がいた。視界に映る少女を見た瞬間にルリアの目の色が変わる。

 

「オルキスちゃん!!」

 

 大空にルリアの声が木霊した。まるでグランサイファーから身を投げ出しそうな勢いで少女へと届かぬ手を伸ばすルリアに、生気のない目で視線も返さずに召喚を進める少女の名は”オルキス”。ルリアと似た力を持ち星晶獣を使役することのできる少女であった。

 響き渡り届いたはずのルリアの声は、オルキスの心にまでは届かず、感じられる星晶獣の気配は徐々に膨れ上がっていく……

 

「このタイミングで星晶獣ってことは……」

 

 ルリアが落ちないようにカタリナが押さえつける一方で、膨れ上がる気配にグランが警戒しながらこれから起こるであろう事を予測すると、それにノアが答える。

 

「ミスラだろうね……僕も力を感じるよ」

 

「でも……オルキスの保護者って黒騎士でしょ? 黒騎士があそこにいないのになんでまさか鎧の中身が実は宰相さんだったり……なんてことはないわよね?」

 

「いや、それはねえな……あれは間違いなく別人だ」

 

「というか、お前たち、黒騎士ってあれだよな……七曜の騎士だよな? なんでそんなやつを知ってるんだ」

 

 オイゲンの否定を聞きながら、セルグは当然の如くグラン達の会話に黒騎士が出てくることに疑問を抱いた。

 

「いまとやかく考えても仕方ねえ! ミスラが来るぞ! 全員構えろ!!」

 

 ラカムの声をきっかけにグランサイファーと戦艦の間の空間が歪む。

 その空間からは、いくつもの時計が分解されて組み合わされたような、とても生き物とは思えない星晶獣が現れた。

 いくつもの歯車、目玉の様に中心にある緑の宝玉。一定のリズムで歯車は小さく動いておりまるで時を刻むかのようである。

 星晶獣ミスラ。契約を司るガロンゾ島の大星晶獣が顕現した。

 

 

 

「あれが……星晶獣ミスラ」

 

 これまでに出会ってきた星晶獣とは全く違う様相のミスラの姿にグラン達は驚く。

 ポートブリーズ群島のティアマト。アウギュステ列島のリヴァイアサン。ルーマシー群島のユグドラシル。これまでにであった星晶獣達はどれもまだ生物としての外観というものを持っていた。

 だが目の前のミスラは違う。無機物だけで構成されたようなその姿は生物の感触を感じさせない。生きた兵器とされる星晶獣としては異例の姿にグラン達は驚きを隠せなかった。

 

「すごい……機械っぽい星晶獣ですね。気配は別に他の星晶獣と変わらないんですけど……」

 

「どんな見た目をしていても星晶獣だ……油断するなよ」

 

 ミスラの姿に呆気にとられるグラン達にセルグが釘を刺す。その声をきっかけにグラン達も表情を引き締めた。

 

「さぁ、いくぞ!!」

 

 グランの掛け声に合わせ、仲間たちが一斉に動き出した。

 

 

 

 グランサイファーの甲板の上で戦闘が始まった。

 まずはグランとゼタが接近する。それぞれが全力をもって己の得物で攻撃するがそれはミスラに届く前に見えない何かに阻まれた。無理はせず一度引き下がるグランとゼタに合わせるように、オイゲンとラカムが銃撃を放つも、それもミスラに届く前に悉く弾かれていく。

 

「フィールド系の防御壁……か? ヴェリウス、何かわかるか?」

 

 セルグは先ほどの攻防を見てヴェリウスに疑問を投げるが、思念での返事はなくヴェリウスからも情報は得られないようだった。

 一行がミスラの防御に戸惑う隙にミスラは歯車を飛ばして攻撃してくる。

 

「チッ!? 自分の体の一部を飛ばして攻撃してくるとは。歯車捕まえたらあいつ動けなくなったりしないか……?」

 

「セルグさん、バカな事いってないで、ちゃんと戦って下さい!!」

 

 セルグの呟きに、ジータが叱責を混じえて檄を飛ばした。見れば歯車の攻撃は数もそこそこで、仲間たちは回避に気を取られ攻撃をできないでいた。

 飛び込んでくる歯車を剣戟で叩き落とし、さらに足で押さえつけてセルグは有言実行と言わんばかりに歯車を捕まえてみるが、その効果は彼が睨んだような効果は見られず、ミスラは以前、動き続けていた。

 

「真面目だったんだがなぁ……グラン、ゼタ!! さっきの一撃、どんな感じで弾かれた?」

 

 セルグが解決の糸口を探そうと歯車を躱しながらグランとゼタに声をかける。

 

「なんていうか、普通に壁に阻まれてるって感じだった。」

 

「うん……見えない壁を殴ったようだった」

 

 ゼタ、グランがそれに応える。それを聞いたセルグは幾らか思案した天ノ羽斬の刀身をなぞりながら、言霊を詠唱。

 輝く刀身を見せながら、解放された力はセルグを包みこんだ。

 

「ラカム、オイゲン。力を貸してくれ! 防御壁をオレが切り裂く。タイミングを図ってあの目玉みたいなのを打ち抜いてくれ!」

 

 セルグが、後衛で援護に回る二人に呼びかけると、二人とも同時に頷き、次の一撃の準備を始める。

 

「「よっしゃ、まかせな!!」」

 

 ラカムとオイゲンの言葉が重なる。返事と共に二人はセルグの後ろに回った。

 

「セルグ……一体何をする気だ?」

 

 ライトウォールで防御に回っていたカタリナが戦況を覆せる手を求めてセルグに問いかけると、セルグは不敵な笑みを見せた。

 

「天ノ羽斬の言霊は伊達じゃないってところを見せてやる」

 

 そう言うとセルグは言霊を詠唱。天ノ羽斬に光を漲らせミスラへと接近する。

 

「全てを断て。”光破”!!」

 

 セルグが振るう斬撃は、ミスラの防御壁をものともせず振り下ろされた。

 

 

「今だ! バニッシュピアース!!」

 

「おうよ! ディアルテ・カノーネ!!」

 

 セルグの斬撃に合わせ、二人の攻撃がミスラを撃つ……弱点のような緑の宝玉を打たれ、ミスラは火花を散らして動きを鈍くした。

 

「効いてるっぽいね……みんな畳み掛けよう!!」

 

 グランがミスラの様子に好機と見て号令をかけた。

 

 グランの拳が、宝玉を粉砕し、ジータの剣が歯車をバラバラにしていく。ゼタが刺突の連撃を浴びせ、ヴィーラはカタリナと左右から挟むように切り刻む。ロゼッタが作り出す茨がミスラを蝕み、イオが歯車を凍らせていく。

 帝国兵士などモノともしない実力をもつ彼らから、数の暴力とも言える攻撃を浴びせられ、ミスラは呆気なくボロボロになりルリアによって吸収されることとなった。

 

 

 

 

 星晶獣ミスラを退けたグラン達。

 セルグも仲間に加え、これまで行く先々の島で星晶獣との戦いを潜り抜けてきたグラン達にとって、ガロンゾの大星晶獣ミスラであろうと、大きな脅威とはならなかった。

 帝国の戦艦もそれに合わせて撤退し、ひとまずの事態の収拾を得ることとなり、一行はグランサイファーの甲板で一息ついている。

 

 

「ミスラは吸収できました。空図の欠片も一緒に手に入りました……でも」

 

 だがミスラを吸収したルリアの声には元気がなく、辛そうな……悲しそうな顔を隠せなかった。

 

「オルキスちゃんの声が……聞こえないんです。何か、きっと何かわかると思ったのに。何も聞こえないんです。これが……今のオルキスちゃんの心なの?」

 

 ルリアがオルキスを案じて辛そうな表情を見せる中で、グラン達はこの状況を考察をしていた。

 

「黒騎士がオルキスのそばに居なかったことも含め、帝国に何か動きがあったのは明らかだろうな……それが恐らくはオルキスにとって辛いものになっているのではないか?」

 

「そうだね……黒騎士も決していい扱いをしているとは思えなかったけど、それでもさっきのオルキスには何も反応がなかったことから見て、以前よりも、オルキスにとっては辛い状況にあるんだと思う」

 

「でもグラン……そんな感情が薄くなるような程辛い状況って? 一体どんなことがあったらそんな事になるのかしら」

 

「オレには黒騎士との関わりがわからないから何とも言えないがルリア、声が聞きたいなら今度会った時に頬でも引っぱたいてやれ。そしたら悲鳴でも文句でも出てくるだろう……今ここで、いくら嘆いてたって何も始まらないぞ。次会った時どうするか考えておくほうがよっぽど利口だ。」

 

「セルグ、ルリアはただ声が聞きたいっていうわけじゃなくて」

 

「――違うよ、グラン。セルグさんは言いたいのは、次会った時ちゃんとこっちを振り向いてもらえってことを言ってるんだよ。ね、セルグさん?」

 

「お、おう、その通りだ。」

 

「ふふ、なんだかだんだんわかってきたんです! セルグさんの遠まわしな気遣いの言葉の意味が……なぞなぞみたいでちょっと楽しいですよ。」

 

 笑顔でそんなことを告げてくるジータに、謎解きをだしてるつもりなどなかったセルグは苦笑いしかできなかった。

 

「ふーん、セルグって本当に面倒な言い回しが好きよね」

 

「だが、その真意を理解すると、優しさに満ち溢れていて気持ちがいいものだ。私もそのなぞなぞというのに参加しておこう。いつかセルグの言葉をすぐに理解できるように……な」

 

 カタリナのからかう言葉に仲間たちが笑う。顔を俯かせていたルリアもその表情に笑顔を取り戻し、一行は楽しい雰囲気のままガロンゾへと戻っていった。

 

 

 

 ―――――――――――

 

 

 

「全く無茶をしすぎですよ! 何を考えてるんですか!!」

 

 騎空艇ドック内に整備士の怒鳴り声が響き渡る。無事に帰ってきた一行を出迎える彼の顔はそれはもう、呆れと怒りとその他諸々と非常に複雑な表情を湛えていた。

 

「悪い悪い! でも、この方が修理のし甲斐があるってもんだろう?」

 

 そんな整備士の怒鳴り声に、、オイゲンは悪びれもせず言葉を返した。

 

「はぁ、全く……一歩間違えれば今頃皆さん空の底だったっていうのに」

 

 彼の言う事に間違いないだろう。ギリギリの状態でガロンゾへと辿り着いたグランサイファーを緊急事態とは言えそのまま飛び立たせたのだ。

 飛び立つ前にオイゲンは動力部がいかれなければ、等と言っていたがそれは違う。正確には”どこも”いかれなければ大丈夫。といった状態であったはずなのだ。

 そんな状態のグランサイファーが無事に帰ってこれたのはラカムの腕によるものか、それともノアのチカラによるものか。それは定かではないが、運命的ともいえるほどの奇跡に近い事であろう。

 整備士はため息と共に無事に帰ってきた一行の姿に安堵の表情も見せていた。

 

「だいぶ無理させちゃったけど……グランサイファーがもう治らないなんてことは?」

 

 イオが不安な表情で整備士に聞くと、前にノアが出てきて口を開いた。

 

「そこは安心してくれ。陰ながら僕も整備に力を貸すからね。艇造りの星晶獣の名にかけて。それにグランサイファーの製作者のプライドに懸けて、完璧に直してみせるさ」

 

「ハハッ、これ以上の頼もしい整備士もいねえな! ノアよろしく頼む」

 

 ラカムはそんなノアの姿に一片の不安もないようだった。グラン達もその様子に一安心というように笑う。

 

「それでは、私たちはゆっくり休むとしようか……予期せぬ事態の連続でさすがに疲れたよ」

 

「そうですね……お姉さま。もしお疲れのようなら、宿で私がマッサージでも。――む、皆さん。どうやらお客さんのようです」

 

 ゆっくり休もうと提案するカタリナに答えていたヴィーラは、一向へと足を進めてくる二名の人間を視界に捉える。

 嫌な予感と、カタリナとの語らいの時間を不意にされたことに、僅かに睨むような目つきになってしまうのはご愛嬌。不穏な気配を醸し出しながら、ヴィーラは仲間達へと警戒の視線を投げた。

 

「失礼……こちらの騎空団の団長はどなたでしょうか?」

 

 揃いの帽子とコートで身を包んだ二人の女性……雰囲気から同じ組織の人間であることは察することができた。話しかけてきたのは腰に剣を携える細身の女性。もう一人の小柄な女性は副官なのか、後ろで控えている。

 団長という言葉にグランとジータが前に出た。

 

「団長は僕と、ジータだ。何か用ですか?」

 

「私たちは七曜の騎士が一人、碧の騎士率いる、秩序の騎空団の者です。この度、エルステ帝国からの要請で、元エルステ帝国最高顧問、黒騎士アポロニアを捕縛いたしました。つきましては、その事情聴取にご協力願いたいのですが」

 

「く、黒騎士が捕まった!?」

 

 告げられた事実に一行が驚愕する。

 それもそのはず。黒騎士は七曜の騎士と呼ばれる全空域に名を轟かす超実力者。これまでの度々あった邂逅でもその実力を毛ほども見せていない正に、底が知れない存在だったのだ。そんな人間があっさりと捕らえられた事を告げられれば驚くのも当然。

 

「はい……これから”アマルティア島”の我らの拠点で事情聴取が行われます。お手数ですがご同行いただけますか?」

 

「まて、リーシャ……情報にはなかったが。とんでもない奴のお出ましだ」

 

 話を進めて動き出そうとしたリーシャと呼ばれた女性を止め、後ろでひかえていたもう一人の女性が口を開いた。

 その声の雰囲気には事務的な感じではなく、戦闘に入る直前のような、極限の緊張に近いものがあり、リーシャ共々グラン達も息を呑む。

 

「モニカさん……?」

 

「そこの男は大罪人だ。なぁ、セルグ・レスティア殿」

 

 モニカと呼ばれた女性は強い視線でグランの後ろにいたセルグを射抜く。その視線を追うようにグラン達もセルグに振り返った。

 睨みつけられるセルグはうんざりといった様子で答える。

 

「はぁ……最初の島から色々あって大変だと思ったら最後の最後でこれか。すまないなグラン。オレの旅は前途多難なようだ」

 

 

 

 ガロンゾに現れた二人組。秩序の騎空団は新たな事態をグラン達にもたらした。

 目に見えぬ陰謀と策略が大きなうねりとなって、一行を静かに飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

ガロンゾ編だけでもそこそこ原作との乖離が激しい気がします。
それでもこの先はどんどんオリジナルの流れが入ってくるかと思われます。
まぁ基本は原作沿いになります。大きく逸脱することはないかと。
その中でセルグが混じった事での変化をお楽しみいただければと思います。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。

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