granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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ガロンゾ編、終わりが見えてきました!

ちょっとセルグが強すぎな気がするんですけど、後半でリーシャがガンダルヴァと互角な事を考えるとちょっとってなっていろんな流れを考えました。強さのバランスが難しいです。ジャンプ漫画とか描くヒトはこんな気持ちなんですかね

早くガロンゾ終えて、次の島に進みたいですね。

それでは楽しみください。


メインシナリオ 第6幕

空域 ファータ・グランデ ガロンゾ島

 

 

 ガロンゾの街をグラン達が駆け抜けていく。

 騎空艇ドッグを離れ、追手を振り切ろうと奔走する一行。だがその周囲は既に帝国の兵士たちが次々と包囲を進めるべく詰め寄ってきており状況は切迫していた。

 

「ゼタ、ヴィーラ! 後ろから来るのを迎撃してくれ!」

 

「カタリナ! 十時の方向、ライトウォールお願い!」

 

 グランがゼタとヴィーラに指示を出し後続の迎撃を任せると、回り込んでいたであろう魔導師から放たれる魔法へと対処するためジータがカタリナに防御を願う。

 

「任せて! いくよ、ヴィーラ!」

 

「お任せ下さい!」

 

「了解だ。守りきってみせる、”ライトウォール”」

 

 指示を受けてゼタとヴィーラは即座に反転。その槍と剣をもって後続で走っていたイオに迫っていた兵士たちを次々と打ちのめしていく。

 同時に、カタリナは帝国兵が放った魔法を防御魔法ライトウォールで防いだ。

 

 

「イオちゃん、ラカムさん、横から来るのに対処して下さい! ロゼッタさん、私と一緒にオイゲンさんと道を切り開――あれは!?」

 

 ジータの言葉が止まる。視線はある場所に固定されていた。

 

「私たちを出し抜こうなど百年早いですねぇ! 貴方たちが逃げ出すことなど想定内なのですよぉおお!」

 

 そこにいたのはすでに魔晶で変身を完了していたポンメルンだった。グラン達を視認するや否や、その手に持つ巨大な槍を振りかぶり投擲する。

 

「グラン、オイゲンさん、危ない!!」

 

 槍の狙う先は前を走っていたオイゲンとグランだった。ジータの叫びにギリギリのところで交わすことができた二人だったが足を止めてしまい一行は次々と駆けつけてくる帝国兵に囲まれていく。

 

「うわぁ……まずいねコレ。ちょっとノアだっけ? あんた、星晶獣の力でなんとか出来たりしないの?」

 

「残念ながら僕は戦闘において強さを発揮するようなことはできないかな。言ってしまえば艇大工の星晶獣だからね……」

 

 ゼタに問われたノアは残念そうに返す。ゼタもある程度予想はできたのか、”そりゃそうか……と返すだけで終わった。

 

「くっ、囲まれたか!?」

 

「仕方ない……ジータ、僕と二人で帝国兵を抑えよう。カタリナ、ヴィーラ。ルリアをお願い。残りのみんなでポンメルンを全力で倒してくれ! 指揮官を落として包囲を抜ける!!」

 

 そのまま逃げる事を断念したグランの指示にすぐさま仲間たちは動く。サイドワインダーのグランとウェポンマスターのジータが後方から襲い来る帝国兵に立ち向かいカタリナとヴィーラはルリアを狙う帝国兵を迎撃していく。残りの仲間はゼタを中心にポンメルンを倒すべく全力戦闘に移行する。

 

「プロミネンスダイヴ!!」

 

「エレメンタルガスト!!」

 

「バニッシュピアース!!」

 

 ゼタの炎の槍が、イオの氷を含んだ魔力の風が、ラカムが放つ炎を纏う銃弾がポンメルンへと炸裂する。しかし……

 

「ハーっハッハッハ! その程度全然効かないですねぇ!」

 

 ポンメルンには全く効いている様子がなかった。

 

「なっ、前回はちゃんと効果があったのに!?」

 

 少し前に戦った記憶とは違う結果に驚きを隠せないゼタは確認するようにポンメルンを見やるもその姿に損傷は見られない。

 

「魔晶の出力を上げたのですよぉ。前回とは違うということを思い知るのですねぇ!!」

 

 ポンメルンは復讐を果たすすべく、ゼタに巨大な槍を振るった。驚愕しながらもそれをかわしたゼタは仲間の元へと下がるとポンメルンと対峙した。

 

「やろう……さっさと片付けないといけないし。みんな、援護をお願い! 時間を稼いで! 何とかしてみせるから!」

 

 そう告げるとゼタは後ろに下がって目を閉じ集中していく。その間を任されたイオ、ラカム、オイゲン、ロゼッタがゼタには近づけさせまいと前に出る。

 ロゼッタが魔法陣より荊を展開。ポンメルンの動きを封じようとするが、それは力ずくで振り切られる。イオが氷の魔法アイスで動きを封じようとすればそれは先手を取られ、魔力を練り上げる前に不発に終わった。後方からラカムとオイゲンが銃弾を打ち放つも、それは変貌を遂げたポンメルンの鎧部分に弾かれていく。

 打つ手を模索しながらも四人はゼタに希望を託して、ポンメルンと膠着状態の戦闘に入っていった。

 

 

「落ち着け……できる。しっかりと見据えろ、イメージしろ」

 

 そんな攻防をよそに、後方で集中を高めたゼタは小さく己に言い聞かせている。足元には炎が吹き出し槍にも徐々に炎が集う。ひたすらにイメージを固め集中していくゼタはある光景を思い出していた。

 

「思い出せ! 天星器を使った時のグラン達を。あの時感じた、他の思考を置き去りにした100%戦闘に集中した状態を……」

 

 ザンクティンゼルでのグラン達の戦いを思い出し己を同じ高みへと昇らせようと集中したゼタが目を見開く。

 

「よし、いける。”ラプソディ”!」

 

 掛け声とともに、ゼタの身体を魔力が巡る。自身の感覚を鋭敏にし、相手の弱点を見出す事の出来る業ラプソディの発動をきっかけにゼタの世界が変わる。高めた集中力が世界の動きを遅くした。そんな極限の集中状態の中、ゼタはポンメルンへと向かう。狙うはポンメルンの魔晶の核となる部分。鋭敏化した感覚で見つけ出したポンメルンの弱点となる核を見つけたゼタは相手の動きを見切り懐へと潜り込んだ。

 

「もう一回喰らっとけええええ!」

 

 ゼタが再度放ったプロミネンスダイヴはポンメルンの魔晶を砕いた。

 

「ぐう、またしてもこの私が……こんなガキどもに。くそおおお、ですねぇ!!」

 

「やった!! グラン、ジータ行こう! 包囲を突破するよ!!」

 

「急いで頂戴。すぐに兵士が追跡してくるわ!」

 

 変身状態がとけたポンメルンが悔しさを隠せずに叫ぶ。グラン達は好機と判断しポンメルンがいるところから包囲を脱出しようとした。

 

「フフフ、ハァっハッハッハ! 作戦通りですねぇ」

 

 だが、敗北したにも関わらずポンメルンは嗤った。先程みせた悔しさを一転させ、醜悪な笑みと共に声を上げて嗤っていた。

 

「なんだ……何がおかしい?」

 

 不審なポンメルンの様子にグランが問い詰める。既に突破することを忘れ仲間達全員がポンメルンの不審な様子に、嫌な予感を感じていた。

 

「今頃あなたのお仲間はガンダルヴァ中将と戦ってやられている頃でしょう」

 

 確信めいた表情で告げられた言葉にグラン達が目を剥いた。

 

「何を言ってるんだセルグがそんな簡単にやられるわけが――」

 

「ええ、そうでしょうとも。あの男も相当な実力。ガンダルヴァ中将といえど確実ではないでしょうねぇ。ですが彼の実力など関係ありません。彼を倒すのはガンダルヴァ中将ではないのですから、ネェ!」

 

 ポンメルンは心底嬉しそうに作戦成功を喜ぶ。その笑みはこれまで散々煮え湯を飲まされてきたグラン達へ一矢報いたことへの喜びからか、まるで至上の喜びを噛み締めているようであった。

 

「一体なんだというのですか!? 答えなさい! セルグさんをどうする気ですか!?」

 

 ジータもポンメルンの様子に僅かな不安がよぎり問い詰める。

 

「幾らあの男が強かろうと、ガンダルヴァ中将を相手に勝てようが勝てまいが恐らく全力での戦いとなるでしょう。そうしてガンダルヴァ中将に気を取られているところを撃ち殺すのですよ! 帝国最強の兵器アドヴェルサを使ってねぇ!!」

 

「なっ!?」

 

 告げられた事実にグラン達は慄く。帝国の兵器アドヴェルサ――グラン達は一度アルビオンでその兵器を目の当たりにしている。それは戦艦の主砲とも言える圧倒的威力を持つ兵器であった。ガロンゾに来た理由でもあるグランサイファーの損傷の大きな原因ともいえるその威力は言わずもがな。直撃すれば一撃で中型の騎空艇を落とせるであろうそれを、帝国はセルグに向けて放つと言うのだ。

 

「てめえら正気か!? ヒトを相手にあんなものを撃つだと。下手すりゃ原型すらのこらねえぞ!! てめえらには道徳ってもんがねえのかよ!!」

 

 ラカムが信じられないようにポンメルンを糾弾する。そんなラカムの言葉にも何も変化を見せずにポンメルンは淡々とした口調で返すのだった。

 

「前回まんまと我々を出し抜いた貴方達に対抗するため、宰相閣下は直ぐにアドヴェルサの起動を命じになられました。特に私を倒したあの男については並々ならぬ危機感を抱いたようですねぇ……ガンダルヴァ中将を囮にあの者を抹殺すべく作戦を展開されました。ふふふ、私の役目は邪魔が入らないようここで貴方達を足止めすることだったんですねぇ!! もっとも、もう一つの私の任務であるルリアを奪還することはできませんでしたがねぇ……」

 

 ポンメルンはグラン達の悔しさを煽るように作戦の概要を説明する。狙い通りにいかなかった部分もあったようで不満な表情は見せていたが、グラン達はそんなことを気にする余裕がない。

 

「ラカム、急いで戻ろう!! セルグが危ない!!」

 

「そうだな……急がねえと!」

 

 グランの声に続くように仲間たちは元来た道を引き返す。先程まで襲いかかってきた帝国兵は糸の切られた人形のようにただ立ち尽くしグラン達を見送る。兜の奥に嘲笑を潜めて……

 

 

 

 

 

 

 

 ――――剣閃が舞う。

 常人では目で追うことすら困難な速度で振るわれる刀と剣がぶつかり合う。

 セルグとガンダルヴァの戦いは場所を移し、騎空艇のドックから街へと移動していた。

 

「ぬおおおおお!!!」

 

「はぁあああああ!!」

 

 裂帛の気合と共にガンダルヴァとセルグが技を放つ。ぶつかり合うエネルギーは行場をなくし、二人の間で爆ぜるも、そのまま距離を取り合った二人はタイミングを計るように動き回りながらその機を伺い街を走る。

 

「さすがにでかい事言うだけあってつええじゃねえか!! ここまで俺とやり合うとは思っていなかったぜ!!」

 

「ふん、まだ本気になってない奴が何を言っている!! 後から言い訳にされるのも面倒だ。本気でこい!!」

 

 ガンダルヴァの叫びにセルグが返す。すでに何者も入れないような次元で戦っていながらまだ二人は本気ではないという。

 剣と刀がぶつかりあった回数はすでに百を超えるが、まだお互い一つも傷を付けていないほど実力は拮抗していた。

 

「いい度胸じゃねえか、なら本気で行かせてもらうぜ! その小さな体でどこまで耐えられるか……試してやらぁ!」

 

 弾けたように声を上げたガンダルヴァは剣を構えながらその体に闘気を滾らせる。同時に駆け巡る魔力は彼の身体能力を大いに強化する技の一助となり、ガンダルヴァは目を見開いた。

 

「いくぜ……”フルスロットル”だぁ!!!」

 

 気合の咆哮と共にガンダルヴァが加速する。先程までとは違う圧倒的な速度はセルグにガンダルヴァの残像を見せる程だった。

 

「早いっ!?」

 

 おもわずそのスピードに目を剥いたセルグは直感的に体を仰け反らせる。瞬間、目と鼻の先をガンダルヴァが振るった剣が通り過ぎた。

 驚愕しながらも仰け反った勢いに合わせそのまま足払いで体制を崩そうとしたセルグの足をガンダルヴァはいとも容易く反応して捕らえる。

 

「しまった!?」

 

「ハッハァー!! 遅いんだよ!」

 

 そのままセルグを振り回し投げ飛ばすガンダルヴァ。セルグは体制を整えられないまま騎空艇ドッグの石壁へと突っ込んだ。ボロボロに崩れていく石壁の中にセルグが消えていく。

 

「どうしたどうした!! まさかこの程度じゃねえんだろ? 早く出てこいよ!」

 

 声高々にセルグを挑発するガンダルヴァ。その声に応えるよう、崩れた瓦礫が爆ぜてセルグが姿を現した。

 

「上等だ……やりがいがあるってもんだ!」

 

 現れたセルグはダメージがほとんど無いようだった。天ノ羽斬を握り直したセルグはすぐに全速を以てガンダルヴァに接近する。

 

「こいつでどうだ、多刃!」

 

 天ノ羽斬がセルグに振るわれる。先程まで切り結んでいたときとは比べ物にならない速さで連続で放たれる斬撃がガンダルヴァに迫るが。

 

「フッハッハッハ! 見え見えだぜ!」

 

 ガンダルヴァはその巨躯を俊敏に躍らせ、全てを躱し、防ぎきってみせた。更に斬撃が終わると同時に返すようにセルグを切り払う。身のこなしだけでなく剣閃まで早くなっているガンダルヴァの斬撃をセルグは跳躍しながら防御。空中でわざと吹き飛ばされるようにして距離を取ろうとしたところを、ガンダルヴァが放つ、蹴擊が襲う。

 

「ッ!?」

 

 言葉を発せぬままセルグは再度飛んでいく。地面と平行に飛んでいくその姿はガンダルヴァの蹴擊がどれだけの威力かを物語っていた。

 そのまま地面を転がりセルグは沈黙。動き出す気配のないセルグの様子にガンダルヴァはみるみる表情を変えていった。

 

「なんだぁ……この程度かよ? ちょっと本気出したらこれか。残念だぜ、結局てめえも――」

 

「なるほど……残像が見えるほどの圧倒的な身のこなし。そのデカイ図体でそんな動きができるとは想像していなかったよ」

 

 残念そうな表情で呟くガンダルヴァの声を遮り、セルグが何とも無さそうに声を上げた。 多少のダメージはあるようだが大したことは無い。そんな雰囲気でセルグは起き上がり、冷静に先ほどの攻防を分析する。

 

「ほう、随分タフじゃねえか。普通だったらさっきのだけでも死んでるぜ?」

 

 ガンダルヴァは表情には出さないがなんともなさそうなセルグに驚きを禁じ得なかった。己が本気を出したあとの攻撃で大したダメージを受けて無い状態のセルグに、やはり強者であることは間違いないと確信する。

 数々の敵を屠ってきたガンダルヴァにとって、己の攻撃というのは数回決まれば決着がつくほどの威力があると自負できるものなのだ。

 そんなガンダルヴァを尻目にセルグは刀を天に翳した。纏う雰囲気はさっきまでと違い、怒り任せに始まった戦いの中から落ち着きを取り戻し、冷静で淡々とした雰囲気を醸し出す。

 

「今度はこちらの番だな。悪いがこれを使えば、もう手加減は出来ない。死にたくなかったら防御するといい――まぁ、その防御の上からでも殺す自信はあるがな」

 

 不敵な笑みをこぼしセルグは天にかざした天ノ羽斬で円を描く。切っ先が描く軌跡に沿って光の真円が浮かび上がると、降り注ぐ光がセルグを包むように照らした。

 

「天ノ羽斬全開解放――”光来”」

 

 セルグの小さな呟きと共に落雷の如き光の奔流が落ちる。光は徐々に天ノ羽斬へと収束していき尋常非ざる力は稲妻のごとく刀身を迸っていた。

 刀身に描かれた幾何学模様に青い光が灯り、神秘的な雰囲気を持った天ノ羽斬を構えたセルグはガンダルヴァを見据える。

 

「さぁ、これがオレの全力だ……いくぞ」

 

 小さなつぶやきと共にセルグが刀を振るう。それは先ほどまで互角に戦っていたガンダルヴァですら視認できない早さで振るわれた。

 ガンダルヴァの背後で石壁が爆ぜる。それは僅かに軌道を逸れて放たれた光の斬撃によるもの。再度セルグが刀を振るう。今度は察知できたガンダルヴァだったが避けること叶わず後方に吹き飛ばされる。

 

「組織にいた頃のオレの二つ名……”裂光の剣士”っていうのは、幾重にも放たれた剣閃が光を何本にも裂いたように見えるって事で付けられたらしい。その真髄は、何者も見切ることのできない最速の剣技。相手に切られたことすら認識させない光の剣だ。喜べガンダルヴァ。グラン達にすら見せたことが無いオレの切り札さ。お前はそれだけ強かったということだ」

 

 圧倒的なまでの剣閃の速さにガンダルヴァは言葉を失う。いくら身のこなしが早くなろうともアレを避けることなど叶わない。それを頭ではなく身体で理解してしまった。

 

「て、てめえ!! 何勝った気でいやがる! そんな程度で負ける俺様じゃねえんだよ!!」

 

 激昂と共にガンダルヴァはセルグに向かう。フルスロットルで強化されたその早さは先ほどと変わらない。平静でいられなくても体は最大効率で動いているのは、彼がそれだけ強い戦士であるからに他ならない。接近したガンダルヴァは全力を以てその剣を振り下ろした。

 しかし、それは難なく天ノ羽斬に防がれる。剣閃の加速、それは攻撃はもちろんの事防御にも有用だ。更には天ノ羽斬に漲るチカラはいかに強大な攻撃力をもつガンダルヴァの攻撃と言えど、容易に防ぐことができるだけの圧倒的なチカラを孕んだ絶刀。

 膂力の違いは、天ノ羽斬が纏う光のチカラにひっくり返されていた。

 

「天ノ羽斬全開解放はオレの剣速を最大限まで高める技だ。そしてそれは同時にオレのチカラをも最大限に高めてくれる」

 

 天ノ羽斬に纏う光が雷のようにバチバチと音を鳴らす。凝縮された光の力は放たれる場を求めてせがむ様に声を上げていた。

 

「先程も言ったな。死にたくなければ防御するといい。それでも、お前の結末は変わらないだろう……”絶刀招来天ノ羽斬”!!」

 

 セルグが至近距離で刀を振るった。

 解き放たれた光の斬撃は、広がらず、その威力をひたすらに高めてガンダルヴァを打ちぬく。

 抗うことなく、吹き飛んでいったガンダルヴァは騎空艇ドックの工廠へと突っ込み起き上がる気配を見せなかった。完璧な一撃に勝利を確信したセルグはガンダルヴァが消えた方へ歩み寄っていく。

 

「まだ、息があるか。このまま見逃したら後々面倒だな。ここで息の根を止めておくべきだろう」

 

 瓦礫に埋もれるガンダルヴァにまだ息があることを確認したセルグは冷たい視線を向ける。帝国に狙われているグラン達。今後もガンダルヴァと度々戦うとなってはルリアが奪われる可能性は高まる。

 当然の帰結として、セルグはガンダルヴァの命を刈り取るべく天ノ羽斬を掲げ振り下ろそうとした。

 

 その瞬間――――

 

「セルグ! よけろおおおおおお!!」

 

 グランの声が響いたのと同時にそれは轟く。

 鈍く体に響くような重い音。刀をふり下ろそうとしたセルグは横殴りに何かにさらわれるように大きく吹き飛びセルグの意識はそこで途切れた……

 

 

 

 

 

 グランの目の前からセルグの姿が消える。否、宙を舞っていた。

 刀を振り下ろそうとしたセルグに向けて放たれたアドヴェルサの砲撃は寸分違わずセルグへと直撃し、その体を木の葉の様に吹き飛ばしたのだった。

 

「いやあああ!!」

 

「くそおおお!!」

 

 ジータの悲鳴と、グランの雄叫びが響き渡る。グランはすぐさまキルストリークでアドヴェルサを正確無比な一撃をもって破壊。回復できるイオがジータと共にセルグに駆け寄ろうとするが、それを阻むように二人の前には帝国の戦艦が姿を現した。

 ジータ達が驚くのも束の間、帝国兵が降り立つと、すぐにセルグの体を艇へと載せていく。

 

「フフフ、これで全て私の狙い通りですね。星晶獣を従える男。ルリアの代わりとなる可能性も捨てきれない。ついでにこの鳥の星晶獣も手に入り、ミスラと共に上手く使えそうですね……本当にすばらしい収穫だ。それでは騎空団の皆さん。次はルリアをいただきに参ります。楽しみに待っていなさい。フフフ……ハァーっハッハッハ!!」

 

 高笑いを残してフリーシアは去っていく。グラン達から大切な仲間となったセルグとヴェリウスを奪って……

 

 

 

 

 

 

 

 帝国の艇を見送ったグラン達は急いでガロンゾの騎空艇が停泊する港へと向かった。理由は当然、兵士達を回収してから撤退するだろうと見越して停泊中の艇に襲撃をかけ、セルグを奪還する為である。

 

「くそっ! ダメだ、どこにも戦艦がない。そっちはどうだったカタリナ?」

 

「ダメだ、どこにも見当たらない……」

 

「こっちもダメ、どうしよう……グラン。セルグさんが……セルグさんが」

 

 今にも泣き出しそうなジータの姿に仲間たちも顔を伏せる。そんな一行を見かねてノアが落ち着いた声で言葉をかける。

 

「グラン、ジータ。みんなも落ち着くんだ。ラカム、さっき君は言ったよね? あんなものを受けたら下手すれば原型すら残らないと」

 

「あ、ああ……確かに言った。それだけの威力があの兵器にはある」

 

 ラカムの言葉にノアは納得したように頷く。

 

「やはり、奴らは最初からセルグを捉えることが狙いだったようだね。考えてみてくれ、ラカムがいうような威力の兵器で彼を殺す気でいたなら、彼をわざわざ回収することもないはずだ。それにラカムの言葉が本当なら、彼を撃った砲撃は明らかに想定よりも弱い。間違いなく直撃させているにも関わらず、彼を回収した事実は、帝国に彼を殺す意思がないことを裏付けさせる」

 

「ということは?」

 

「少なくともあの砲撃による命の別状はない、ということだ。」

 

 ノアの言葉にグラン達は安堵する。目の前でセルグが横薙ぎに吹き飛ばされた光景は衝撃的すぎた。思わずだれもが彼の死を連想したのだ。その可能性が薄くなったことは、グラン達にとって朗報以外の何ものでもない。

 

「とは言え、状況はまずいだろうね。恐らく帝国の戦艦はすでに港を離れている。どうあがいても”現状”では僕らに手立てはないよ。」

 

「なんだって……じゃあ諦めろっていうのか!!」

 

 グランがノアの言葉に激昂する。あっさりと切り捨てるように諦めの言葉をはくノアに詰め寄った。

 

「落ち着いてグラン。現状では、ということは何とかできる方法があるんですよね?」

 

「帝国の戦艦は最新鋭の戦艦だ……簡単に追いかけるなんてことできるわけ――まさか!?」

 

 オイゲンが考えを述べる途中で気付くように言葉を止めた。

 

「そう、グランサイファーなら……不可能じゃないだろうね」

 

 ノアは淡々とそれを口にする。

 ノアが言う”現状では”、というはそういうことなのだ。グランサイファーが飛べない現状では成す術がないということ。そしてグランサイファーさえ飛べればなんとかできるというのだ。

 

「で、でもそれは約束が」

 

「ああ、まだ、ノアとの約束が……」

 

 申し訳なさそうにラカムが顔を俯かせる。

 飛びたい。助けに行きたい。それは仲間と同様にラカムも同じだ。だが己が忘れている約束のせいで大切な仲間を助けに行けず、大切な仲間達を島に縛りつけてしまっている。そして大切な彼の人生とも呼べる艇も……

 そんなラカムの様子を見て、ノアは優しく笑いかけた。

 

「ラカム、セルグの言葉を思い出してご覧?」

 

「セルグの……言葉?」

 

 ノアの言葉に導かれるように、ラカムの脳裏にセルグの声がよぎった。

 

 

 ”大体まだガキの頃にできる約束なんてたかが知れてるだろう。ガキの頃に難しい約束なんかできるわけないんだから、その時のラカム少年が一体何をしたかったのか考えれば見えてくるだろ”

 

 

「難しく考える必要はないんだ。君は信じてるはずだ……彼の言葉と、グランサイファーを。君が信じるなら、きっとまたグランサイファーは空を飛ぶことができるはずだよ」

 

 ノアが諭すように告げる言葉の一つ一つがラカムの脳裏にパズルのピースのように組みあがっていく。

 

「俺が、セルグの言葉を? グランサイファーを、信じる。だからまた、空を――!? そうか。ノア……お前」

 

 難しい顔をして呟いていたラカムの顔が一変する。全てを思い出したそれは、満面の笑みだった。

 

「ふふ、思い出せたようだね。それじゃ行こうか? グランサイファーが僕たちを待っている」

 

 祈るようにラカムを見守っていたグラン達を引き連れ、ラカムはグランサイファーに向けて走り出した。

 

 

 

 

 騎空艇のドックへと戻ったグラン達はすぐさまグランサイファーに乗り込む。オイゲンは整備状況を確認すると嬉しそうに声を上げた。

 

「まだほとんど整備を始める前だった見てえだな。おかげで逆に助かった……これなら動力部がいかれなきゃグランサイファー自体には問題ねえ!」

 

 オイゲンの声でなんとか飛べる状態であることにグラン達は胸をなでおろす。

 

「しかし、大丈夫なのか。その……約束の方は? 星晶獣の力で縛られているんだ。無理に飛ぼうとすれば、どうなるか」

 

 カタリナは不安を隠せない表情でラカムに問いかける。

 もし約束を違えていたら……艇は飛べないどころか下手すれば空の奈落に落ちる可能性だってある。

 あり得るかもしれない可能性にカタリナ同様、他の仲間達の顔にも不安がチラついていた。

 そんな仲間達に、ラカムは自信満々の顔で応える。

 

「安心しな、もうオレははっきりと思い出したからな。あの日の約束を……ノアとの思い出をな。ノア、オレはグランサイファーを信じるぜ!」

 

「それがいい……それでこそ、僕も。グランサイファーも報われるというものさ」

 

 穏やかな笑みを浮かべてノアはラカムに答える。その表情には一片の不安もない。飛べることを確信しているノアの表情にラカムも確信をもって舵を握った

 

「いくぜ、グランサイファー! これが、約束の答えだ!!」

 

 高らかに声を上げラカムは舵を取る。その声に答えるように、グランサイファーは唸りをあげて空を舞う。空気を切り裂き帝国の戦艦に向けて、ガロンゾの港を飛び出した。

 

「うおっと!? 飛んでる……島を出ることができたっていうのか!?」

 

 ビィが空を飛んでいることに感嘆の声を上げる。

 

「結局何が約束だったのよ!! ラカム、ちゃんと説明して!!」

 

 イオは空を飛ぶグランサイファーに満足したのか、湧いてきた疑問を口に出した。

 

「へへ、それはな。セルグの言うとおりだったんだよ。簡単なことだった……いつかノアを乗せてグランサイファーを飛ばしてみせる。それが、ノアとの約束だったのさ!」

 

「なるほど、確かに子供ができる簡単な約束ですね。なぜそれが簡単に思い出せなかったのかが逆に疑問ではありますが」

 

「っぐ!? おいおいヴィーラ……せっかく飛べたんだからそこには目を瞑ってくれよ」

 

「あら、これは失礼しました。フフフ、別に責める気はありませんよ。こうして飛べたのですから何よりですもの」

 

 ヴィーラに痛いところを突かれたラカムが呻く。流石のヴィーラも微笑を浮かべてからかうだけでよしとした。

 

「フフ、僕がグランサイファーの製作者であることを知らないラカムが、僕を乗せてグランサイファーで飛ぶと約束してくれた。難破船となってしまったとは聞いていたからね……僕にとってどれほど嬉しかったことか」

 

 感慨深くノアは呟く。その表情に艇に乗る皆が自然と優しい笑みを笑べた。

 

「あぁ……気持ちの良い風だ。待ち続けた甲斐があったというものだ。あとは、僕の大事な友人を取り返してくれるかな? この艇を彼とも一緒に乗りたいんだ……」

 

「ああ、任せなノア。セルグ、お前のおかげでオレは思い出せた……だから今度は、俺が助けてやる番だ!!」

 

 ラカムは誓う。なんとしてもセルグを助け出すと。その想いに応えるように、グランサイファーはぐんぐんとスピードを上げて、ガロンゾ周辺で待機中であった帝国の戦艦へと飛翔していった。

 

 

 

 

 

「まさか、グランサイファーが飛んできているだと!?撃ち落とせ!なんとしても艦に取り付かれる前に撃ち落としなさい!!」

 

 

 司令室でフリーシアが叫ぶ。飛べないと思われていたグランサイファーがこちらを追いかけてきていると報告を受けてすぐに指示を飛ばしたが迎撃の準備などできているわけもない。慌てたように動き出す兵士たちを見ながら、フリーシアは唇を噛む。

 

「動けるようになっていたとは……あの男にやられガンダルヴァ中将は動けるような状態ではない――かくなる上は」

 

 現状と事態の想定。幾つかの思案をしたあとフリーシアは戦艦内のある場所へと向かった。

 

 

 

 戦艦へと接近したグランサイファーの甲板の上で、操舵を握るラカムが声を張り上げた。 

 

「帝国の戦艦に横付けするぞ! グラン、ジータ。なんとしてもセルグを取り返してきてくれ!!」

 

「当然だ、何があっても取り返してみせる!」

 

「待っててくださいラカムさん! 必ず、連れてきますから。」

 

 ラカムの声にグランとジータが強く応えた。潜入するメンバーはグランとジータ。仲間達は艇を守るべくグランサイファーに待機のようだ。

 

「グラン、ジータ。私達もいくよ」

 

 だが、二人の隣に並ぶのはゼタとイオ。その手に武器を持ち準備は万端の様子である。

 

「あのバカをさっさと連れ帰って心配かけた償いをしてもらわないとね!」

 

「私は子供扱いしたことをたっぷり後悔させてやるんだから! さぁいくわよ!!」

 

 二人の参戦にグランとジータが笑みを浮かべる。散々からかわれていたゼタと、子供扱いされて怒っていたイオがセルグの為に戦ってくれる。彼がどれだけ慕われているかが感じられた。

 

「よし、いこう!!」

 

 戦艦に横づけされた瞬間に四人はすぐさま飛び移ると全力で走り出した。迫り来る帝国兵の全てを軽々となぎ倒していく。

 胸の内にある想いをチカラと変え、鬼神のごとき勢いで、グラン達は戦艦内を走り抜けていった……

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。

最近のアクセス数の伸びには驚きと感謝しかありません。

投票(しかも高評価だらけ)してくれた方々、誠にありがとうございます。

お気にいり登録もグイグイ増えており感謝しています。

感想いただけた方。やはり直接お言葉をもらえるのは非常に作者にとって嬉しいものであります。(やりとりもできて本当に嬉しいです)

読み進んでくれた方にこの場で感謝申しあげます。

皆様ありがとうございます

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