granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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いつもの有言不実行でごめんなさい。
次は早めに投稿できると思います。


第三幕 前哨

 

 

 空を走る騎空挺。

 

 その甲板にて落ち着かない様子でいるのは、スフィリアより脱出してきたグラン達四人である。

 無論、心配の種はスフィリアに置いてきたカタリナと街の安否。

 彼女の実力は信頼しているし信用している。

 悪いことにはなっていないだろうと思いながら、やはりもしもを考えては胸中に宿る不安を抑えられずにいた。

 

 更には、災厄の問題がある。

 ルリアが感じた気配から想定するは、今回の一件が誰かによって引き起こされている可能性。

 その誰かが、何をするかはわからないが決して捨て置ける事ではないだろう。

 既に島々は落ちている。被害規模は計り知れず、いつ彼等の故郷であるザンクティンゼルが落ちるかもわからない。

 忍び寄る災厄の魔の手は、すぐ背後まで迫っているかもしれないのだ。

 

「ルリア、例の気配は?」

「ごめんなさい。スフィリアを出た頃から、霞のように捉えられなくなってしまって……」

「気配を消した……ってこと? 意図的に、つまりは表立って行動するのは避けたいってことなのかな?」

「まだわからないよ。どのみち、確定した情報なんて何一つ持ってないしね」

「でもよぅ、そうなるとオイラ達はこの後どうすれば良いんだ?」

 

 ビィの言葉に思案する一行。

 スフィリアで得た手掛かりは、島を浮かせる星晶獣の存在……その可能性だ。

 だがそれを調べるにもどこを調べれば良いのか。

 

「──まずはポートブリーズでラカムと合流しようか。グランサイファーがないと、僕たちは身動きがとりにくい。それに、風に所縁のあるポートブリーズなら四大元素の星晶獣の事も何かわかるかもしれない」

「うーん、そうだね。確かに、あそこなら風の星晶獣について詳しい情報がありそう」

 

 グランとジータの言葉にルリアとビィも頷く。

 やることが定まってしまうと、また待つ事しかできなくなって不安が沸きあがるが、四人は騎空挺が進む先を見据えて心を落ち着けるよう努めた。

 

「あの、君達……もしかして騎空団蒼の翼かい?」

 

 突然かけられる声に四人が一斉に振り返る。

 声に敵意こそ感じられないものの、スフィリアでの失態があってかグランとジータは瞬間的に警戒を露わにした。

 

「誰だ?」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!? 別に何か危害を加えようってんじゃないんだ!」

 

 振り返った先には、恐らくはどこかの騎空団の一団と思われる五人組がいた。

 グラン達よりは年上だろうが、それでもまだ若そうな……駆け出しの雰囲気が垣間見える。

 

「あ、あぁ、ごめん。ちょっと色々とあって警戒しちゃって……」

「確かに私達は、騎空団蒼の翼ですが、何か御用ですか?」

 

 警戒を解いて応対する二人に、思わずホっと息をついた件の男は、改めて一枚の紙を取り出すと二人に差し出した。

 

「君達がポートブリーズへ行くって話してたのが聞こえて、もしかしたらと思って声をかけたんだ」

「これって……」

「一億ルピの、賞金首」

「なんでも、島が落ちる災厄は騎空団蒼の翼が起こしたものであると……眉唾の話だけど、どこかの富豪が本気にしたらしくてポートブリーズにはその手配書が回っていたんだ」

 

 手に取った一枚の紙には人相書きと賞金額が五人分。グランとジータ、ルリア、カタリナ、そしてラカムまで。流石にビィの分までは無かった。

 恐らくは手配の出所がポートブリーズだったのだろう。彼らの仲間全員と言うわけでもないが、それでも賞金総額はとんでもない。

 思わぬ事態に声が出ない中、いち早く我に返ったグランが再び警戒心を露わにする。

 こんな手配書が出回っているのなら、もはや近づく人間は(ことごと)く敵になりかねない。

 

「まさか、君達は賞金目当てで僕達に──」

「わわ、待ってくださいグラン!? それならわざわざこんな紙渡してくれませんよ!」

「どっちかっていうと、警告……ですよね? ポートブリーズに向かおうとする私達への」

「あぁ、その通りだよ。大体俺達みたいな弱小騎空士が君達を捕らえられるわけないだろって」

「確かになぁ……兄ちゃん達言っちゃ悪いけど全然強くなさそうだもんな。グランとジータを捕まえるなんて──ふがっ!?」

「ビィ、失礼極まりないよ。ごめんなさい皆さん。それからありがとうございます。手配書の事、教えていただいて」

 

 余計なことを口走るトカゲの口を塞ぎ、ジータは愛想笑いで返した。

 だが、こうなってしまうと素直にポートブリーズへ行くわけにもいかなくなった。勿論ポートブリーズにいるであろうラカムの事は心配ではあるが、既に手配書が回っているなら、状況は進展しており彼がポートブリーズを離れていてもおかしくはない。

 護衛をヴィーラに依頼していた以上、最悪の事態は回避できていると踏んで、グラン達はポートブリーズを避けるべきかと考えた。

 

「とはいえ、そうなると……どうする?」

 

 グランの言葉の意味を理解して押し黙る三人。

 カタリナを置いてスフィリアを脱出したというのに、途端に手詰まりとなってしまった。

 手配書などという事態が完全に想定外なのもあるし、それによってラカムと合流できなくなることも考えてあるはずがない。

 

 どうするかと悩む四人だったが、事態は彼らを差し置いて変化していく。

 

「ッ!? グラン、ジータ! 例の気配です!」

 

 沈む空気を切り裂くように走るルリアの声に、グラン達はおろか手配書をくれた彼らにまで緊張が走った。

 

「ルリア、状況は?」

「はっきりと感じます。多分、今さっきまた顕現……した? それに似たような気配がもう一つ。もしかしたら仲間とかじゃ……」

「ルリア、気配の具体的な場所はわかる?」

「はい、ジータ。ここからそんなに遠くないです。あっちの方角に……」

「っていうことは、バルツ方面か」

 

 グランとジータは顔を見合わせる。

 千載一遇と言ったところだ。これを逃すわけにはいかない。

 頷きあった二人は同時にルリアへと視線を向ける。

 

「ルリア、いける?」

「そこまで大きな距離じゃないですし、大丈夫です」

「よし、それじゃ早々に行こうか」

「あーグランとジータだったか。一体何を……」

 

 声をかけ辛そうにしていた件の男の声にハッとすると、二人は改めて彼らに向き直った。

 

「ごめんなさい、私達は直ぐにいかなきゃいけないので────手配書の事、ありがとうございました!」

「ありがとうついでに、もう一つお願いがあるんだけどいいかな?」

「お願い?」

「ポートブリーズに着いて、もし手配書のラカムって人を見かけたら、伝言をお願いしたいんだ」

「そ、そのくらいなら問題ないけど……なんて伝えりゃいいんだ?」

「僕達は災厄の原因を追ってる。その先で合流しようって」

「災厄の原因……だって?」

「おーい行くぞグラン!!」

「わかってる!! それじゃ、お願いね!」

「お、おいお前ら!? 一体何考えて──」

 

 驚いた様子を見せる彼ら。それもそのはず、グラン達四人は信じられないことに空を走る機空挺の甲板から飛び出さんばかりに走り始めていた。 

 落下防止の柵まで突撃していったかと思えば、四人はほぼ同時に跳躍し、蒼き空へと飛び出していく。

 

「おいおい、嘘だろ! 何考えてんだ!!」

 

 彼らの騒ぎを聞きつけ目を向けていた他の乗客たちからも悲鳴が上がった。

 慌てて彼らも、落ちていったはずのグラン達の安否を確かめんと揃って駆けだす。

 

「ルリア!!」

「はい! お願いします────『フェニックス』!!」

 

 瞬間、駆けつけようとした彼らを熱風が襲った。

 炎の具現、ルリアが召喚した星晶獣──神鳥フェニックスが落ちたはずの四人をその背に乗せて彼らの目の前へと舞い上がった。

 

「うおわぁ!?」

 

 眼前に突如現れた強大な気配に思わず尻餅をついて転げる彼ら。

 そんな彼らを尻目に、フェニックスは大空を舞う喜びを表すかのように悠々と飛び去って行く。

 残されるのは、あまりの展開に呆ける彼らと、ヒソヒソト囁かれる他の乗客たちの声。

 

 ──あれが例の騎空団の? 

 ──やっぱり噂は

 ──星晶獣を従えるなんて

 

 聞こえてくる言葉と声音には、驚嘆と共に畏怖を感じられた。

 

「あれが、例の……星晶獣を従える少女」

「大丈夫か?」

「あ、あぁ。驚いただけだよ」

 

 仲間の手を取り立ち上がった彼は、グラン達が飛び去ったほうを見据えていた。

 

 

「いつか……いつかきっと……」

 

 

 静かに呟かれた言葉は、風と空にかき消されていった。

 

 

 

 ────────―

 

 

 

 

 バルツ、フレイメル島近くのある島にて、剣の賢者と評される老人──アレーティアは難しい顔をしながら、道なき道を進んでいた。

 よろず屋シェロカルテから密かに聞き及んでいた、全空を襲う災厄。その調査にグラン達も携わったと聞いて、彼もまた独自に調査を進めていた。

 それなりの苦労をして手に入れた情報から、この島の洞窟には火を司る星晶獣が祀られていると聞き、ようやっとの思いでここまでたどり着いたのである。

 

 だが、いざ辿り着いてみると──なんという事だろう。

 まるで洞窟を崩落させんばかりの超常たる激戦が、彼の目の前で繰り広げられているのだ。

 重ねた齢が、彼に驚愕の声を上げさせることだけは止めたが、彼が動きを止めるのまでは防げなかった。

 呆然と足を止め、超常たる戦いに視線を走らせる。

 

 片や、目深に被ったフードによって顔こそ見えないものの体付きからは男だとわかる剣の使い手。

 片や、なんとも形容し難い意匠の衣を纏い、槍を以て男に応じている……恐らくは女傑。

 

 互いに恐るべき練度の戦いをしていた。

 身体を操作する精度が尋常ではない。

 皮膚一枚……薄皮一枚をこすらせるような絶妙な距離感での回避。かと思えば、荒々しく繰り出される剣戟は全身のくまなくを使って繰り出される乾坤一擲。

 断言できる──あれは自身が未だ辿り着けぬ境地の戦いであると。

 妬みが湧き出てこないと言えば嘘になるが、アレーティアはつぶさに目の前の戦いを観察する。

 勝負は互角に見えた。それすらも、未だ至らぬ己の見分では怪しいが、とにかく互角かのように見えた。

 繰り出される槍の刺突を往なす男。お返しに薙がれた剣を、僅かな動きで躱す女。

 目まぐるしく変わる攻防を、目を見開いて観察していく。

 

「(むぅ……誘いか)」

 

 男の動きに微かな違和感を抱く。

 僅かな綻びだ──理路整然と突きつけられる尋常じゃない攻防の中に、時折顔をのぞかせる僅かな隙。

 相対していないアレーティアだからわかるであろうそれは、対峙する彼女には気付けない巧妙さがあった。

 

「(潮時かのう……)」

 

 戦いの終わりという意味を込めて、アレーティアは脳内で呟く。

 

「がはっ!?」

 

 彼の呟きが聞こえたかのように、戦いは決着へと向かっていた。

 誘いに誘われ、釣りだされた槍の女は勝負を決めようとして逆に返される。

 隙を突かれて大きく切り付けられた背中に裂傷が走り、それは彼女の動きを阻害するに十分な負傷となった。

 

「さすがだった。武勇を誇る天司……やはり後回しにしておいて正解だったようだ」

「くっ、痴れ者め。妾の顕現する隙を狙うとは……ただで済むと思うなよ」

 

 切り伏せられた姿のままきつく男を睨みつける彼女に、少しだけ覗かせる男の口元が小さく歪んだ。

 それは酷く、嫌悪感を抱かせる嗤いの形であった。

 

「ふぅん? ただで済ませる気はないと? それじゃあ──どうなるのかな!!」

「ごはっ!?」

 

 徐に、伏せって成す術ない彼女を蹴りつける。続いて蹴り転がす。無様に転げまわる彼女の姿に更に男は嗤いを深めていく。

 醜悪と表現することしかできない嗜虐の行動に、アレーティアの表情が険しくなっていく。

 

「良い様だ。嗜虐趣味に目覚めてしまいそうなくらいな!!」

「がっ!?」

「ふっ、血と泥に塗れた姿も一興に値するぞ」

 

 頭部を強かに踏みつけられ、男の言葉通りに血と泥に塗れる彼女であったが、その表情と視線には依然変わらぬ、屈することのない強さが備わり続けていた。

 

「ぐっ、はぁ……はぁ……痴れ者が。随分と歪んだ嗜好をしている」

「当然だ。何千年と暗い檻に閉じ込められれば誰でもそうなる。歪むには良い環境だろうさ」

「っ!? やはり貴様は──」

 

 ここに来て初めて、彼女の表情が崩れる。

 男の正体に当たりがついたのだろうか。察した事実に驚愕するとともに、その事実が覆せない脅威の出現を確信させる。

 

「もう遅い。既に二つの羽根は奪った。そしてここで──三つ目だ」

「くっ、貴様ぁ!!」

 

 これ見よがしに見せられるは、男によって奪われたばかりの大切なもの。彼女のチカラの根源であり、この空を守るための掛け替えのないチカラである。

 それを奪われ、あまつさえ空の世界を破滅させる一端となってしまう事が……彼女の琴線に触れた。

 

「ふっ、先よりよほど良い表情じゃないか。とはいえ……、羽根を奪われてもこの戦闘力。やはり武勇の天司は侮れないか。ここで叩いておくに越したことはないだろう」

 

 ぎらりと見せつけられる直剣の刃。その先は言わずともわかる。僅かに息を飲むも、彼女の毅然とした態度は崩れることはなかった。

 

「やってみろ。火の元素あるところに妾もまたある────貴様如きに滅ぼせると思うなよ」

「その威勢にも飽きてきたところだ。それじゃ──サヨナラ」

 

 無常にも刃は振り下ろされる。

 変わらぬ態度で男を睨みつける彼女の首を目掛けて、鈍い光を反射しながら鋭い刃が迫った。

 

 鳴り響く音は、生々しい肉を切る音ではなかった。

 悲鳴のようにつんざく金属音。刃は刃でもって防がれ、男か彼女かが息を飲んだ音が聞こえる。

 

「悪いが……見るに堪えない非道を見過ごせるほど、儂もできてはおらんのじゃよ」

 

 振り下ろされた剣を受け止めて、剣の賢者アレーティアは男の前に立ちはだかった。

 

「へぇ、俺の剣を容易く……この間の槍使いと言い、人間にしては強いのがよく出てくるものだ」

「ほぅ、ということはお主はヒトではないと?」

「答える義理はないよ。まぁ人間でない事くらいはわかるだろうけどね」

「であれば──容赦は必要あるまいな!」

 

 剣のせめぎあいをしながら男と言葉を交わしたアレーティアは、一つ自身の中でスイッチを切り替える。

 目の前の存在は、油断どころか決死の覚悟を以てもしても敵わぬ相手であると。

 それは即ち、相手が侮っている今だけが唯一、抗えるチャンスなのだと。

 裂帛の気合と共に、宝剣アンダリスが鳴動する。

 彼の剣に宿りし全てを開放し、己のチカラの一助とする。

 目に見えるほどの強大な地属性のチカラを纏い、アレーティアは獲物を狩る虎の如く、眼前の男を睨みつけた。

 

「へぇ……やっぱりすごいな、キミ。彼我の実力差はわかっているだろうに、それでも俺の前に本気で立つとはね」

「勝敗と実力は別物だと心得よ。勝敗は必ずしも相手を下すことではない。弱くとも……勝てる方法はいくらでもある!」

「何?」

 

 訝しんだ男が、一瞬だけ惑った。

 その隙を見逃さず一閃。アレーティアは眼前の男ではなく、洞窟の天井へとその刃を振るった。

 二閃、三閃と振るわれたアレーティアの全力は瞬く間に洞窟の天井を崩落させる。

 アレーティアはそのまま瞬時に伏せっていた彼女を抱えると、道中も剣を振るい、洞窟を崩落させ続けながら外へと撤退した。

 轟音と埃を振り払いながら、どうにか洞窟を脱出したアレーティアは、しばらく続く崩落の音が鳴りやむまで警戒を続けていた。

 ようやっと収まりを見せ、静寂が辺りを包んだところで、大きく息を吐いて座り込む。

 剣の賢者と言われた彼でも逃げの一手。それほどまでに先の男に脅威を感じた。

 長い年月を重ね、幾多の戦いを乗り越えてきた彼は、強さの気配により敏感なのであろう。

 無鉄砲に挑むことはできなかったのだ。

 

「ふぅむ、どうにか逃げ切れたか」

「ヒトの子よ、なんて無茶を。一つ間違えれば妾諸共生き埋めになっていたところだぞ」

「ふぉふぉふぉ、あれ程に危うい相手は初めてでのぅ……逃げの一手にしても確実に逃げるにはリスクをとる必要があった」

「おかげで助かった……と言いたいところだが、残念ながら今すぐ其方は逃げたほうが良い」

「足止めにもならんか?」

 

 崩落による生き埋め。普通であれば生きて出てくることすら難しい。普通であれば────

 

「恐らくはな……その証拠に」

 

 チカラの気配。顕現の予兆。

 武勇の天司と呼ばれた彼女の言葉を裏付けるように、ルリア曰く羽根宝石と呼ばれる存在。ヴァーチャーズが周囲に顕現を始める。

 

「これは?」

「下位天司だ。我ら上位天司の使役物ではあるが、それでもヒトの子には十分な脅威となろう──加えて」

 

 崩落した洞窟の岩山から光の柱が上がった。

 光の柱は、岩の中を何の苦も無く押し進んでアレーティアの方へと向かってくる。

 かくして、光の柱の中からは無傷の様子の男が現れた。

 

「やってくれたね、微妙に死ぬかと思ったよ」

「チッ……心にもないことを」

 

 思わず漏れ出る武勇の天司の悪態を聞きながらアンダリスを握り直し、再びアレーティアが構える。

 武勇の天司を後ろ手に隠し、あくまでも応戦する構えをとった。

 

「人間にしては見事な機転だったよ。惜しむらくは相手が天司だった事かな」

「ほぅ──随分な自信だのぅ。些か過信にはなっておらんか?」

 

 おどけた様にアレーティアが返す。

 今さっきまでの張りつめた気配が霧散していた。

 アレーティアの豹変に、同じ轍は踏まないと男は惑う様子を見せずに警戒を露わにしたまま構えた。

 

「まさか? 純然たる事実だよ。手負いの天司と人間であるキミ。対して無傷の俺……力の差は歴然で障害になるわけもない」

 

 今度はきっちりと仕留める────その事を、男は言外に告げた。

 

「ふぉっふぉっふぉ。その程度しか見えておらんから過信だと言っておるのじゃ」

「何?」

 

 歴然たる実力の差。絶体絶命のはずを覆すその声音に、今度こそ男が訝しんだ。

 次の瞬間、空を切り裂き、空気を切り裂き、何かが飛来した。

 瞬間的にその場を退き、難を逃れる男。彼が居た場所には金色に輝く剣が突き刺さっていた。

 

 新たな敵の気配に警戒する男。武勇の天司も同じように警戒を見せていた。

 そんな中に、彼らを包み込むような熱風が吹き荒れる。

 直後流星の如く大地へと降り立つ二つの影。

 

 騎空団、蒼の翼が団長──グランとジータが戦場へと降り立った。

 

「目の前の男が災厄の元凶……そう言うことで良いんだね、アレーティア?」

「構わぬ。ついでに女子を甚振る歪んだ嗜好の持ち主じゃ」

「最低──それじゃ手加減はいらないね!」

 

 グランは突き刺さった七星剣を引き抜く。

 同時、ジータはその手に五神杖を顕現させた。

 

 沈んでいく──集中の境地へと

 昇っていく──最強の高みへと

 

 

「「全開解放」」

 

 

 溢れ出る金色の極光。天星器の輝きが周囲を照らした。

 

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりだというのに最初から全力じゃのぅ」

「こやつら、本当にヒトの子か……」

 

 おどけるアレーティアとは対照的に、武勇の天司が驚愕に顔を染める。

 感じ取れるチカラの気配は既に、ヒトの範疇を超えていた。

 それは彼女が人間とは遥かに一線を画す、天司と呼ばれる存在であるがために、余計に信じられない事実であった。

 

「へぇ、ヒトの身で天司の戦いに割り込んでくるなんてね────何者だ」

 

 対峙する男もまた、目の前の二人の存在を感じ取り、最大限の警戒を見せていた。

 彼の言葉は、単純にこの戦いに割り込んできたことを指すものではない。

 人間の身でありながら、天司と遜色ない領域へと踏み込んでいる、ヒト非ざるチカラを見せる、二人に対する言葉である。

 

 そんな天司達の驚愕など意に介さず、グランとジータは眼前の敵を睨みつけた。

 

 

「セルグが……命を懸けて守ってくれた世界なんだ」

「それを壊そうなんて、許さないよ!」

 

 

 大切な仲間が守ってくれた世界を──失ってなるものかと。

 

 一つだけ──たった一つだけの大切な想いが、そこにあった。

 




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