granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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キャラクターフェイトと合わせて執筆開始。
時系列は本編エピローグ後。セルグがまだ戻る前の時系列から始まります。

正直、シナリオ構成は悩みに悩んでおります。
リチャ、テレーズ、スタン、アリーザ、ユーリ、ファラ。こいつらの扱いどうしようって感じで……

大筋はもうできてるんですけどね。作者の小説では初見になっちゃうから既に関係性のあった人物としてイベント通りに描写するのが難しく。

もしかしたら大きく原作とは変わってくるかもしれませんね。

なにはともあれ、プロローグですが、どうぞお楽しみください。


どうして空は蒼いのか
プロローグ


 そこは────世界の中心であった。

 

 中心とはいってもそれは空の世界の更には一つの空域、ファータ・グランデの……と付く。経済的な意味合いで在ったり国家的な意味合いで在ったりもない。

 ただただそこは文字通り、ファータ・グランデ空域における中心地である。

 

 カナンの地。

 それは、ファータ・グランデの超低層域にある一帯。球状の厚雲に覆われ、浮力は効かず、時空すら歪んでると言われる……現在のヒトでは到達不能な区域であった。

 存在自体が眉唾物。実態がそもそも不確かなそこは“ヒト”では辿り着けないであろう完全なる未開の地。

 

 そんな誰も知らない未知の中の未知にも。確かに存在するものがある。

 

 小さな……本当に小さな、島としての体を持つぎりぎりの浮島。そこにぽつりと建てられた、厳かな神殿。

 

 そこで彼は、空の世界を見守りながら、幾千年の時を過ごし続けてきた。

 

「──世界が、揺れる」

 

 静かなつぶやきに答えるものは居ない。

 低く抑揚のない、無機質な声音が神殿内に響き渡った。

 声からすれば男性……なのであろう。上質で軽装な感じの黒鎧を身に纏い、腰には複数の長刀が差されている。

 何より目立つのは、その背に生える白き羽。左右三対の六枚羽が大きく彼の背後を覆い、端正な顔立ちと共にその神聖さを際立たせていた。

 

「──これも、進化の行く末なのか」

 

 一体何が見えているのか……その呟きの意味は計り知れるところではないがそのセリフには憂いが含まれていた。

 その最中、静かな空間で物思いに耽る彼の耳が、何かを引き裂くような強烈な音を拾う。

 ばりばりと目の前の空間を光が裂いていく。予見するは顕現の気配……未来を見通すように回った思考は、この先に何かが現れる事だけは容易に掴めた。

 

「ここが……空と幽世の狭間か」

 

 張り裂けんばかりに膨れた光が収まりを見せる時、そこには一人の男が彼と同様に低く抑揚のない声で呟きながら立っていた。

 背には彼と同じように黒と白の二対の()を持ち、腰には空のように澄んだ蒼の鞘をもつ刀を差している。

 

「──君は一体、何者だ?」

「理解はしているのだろう。我も、其方(そなた)も……」

「予想はできている。君の存在理由は恐らく空の安寧。そして、その為にここに顕現した。違うか、コスモスの使者」

「その通りだ。世界を見守る中で不穏な動きを察知して応ずるためにここへと顕現した──すまないが顕現し続けるには形態を変える必要がある。少し待って欲しい」

 

 そう告げると、現れた男は再び光に包まれる。

 蒼の光を纏いながら、そこに黒と白の光が分裂していき、やがてまたも収束していく。光が収まった時、そこには先程より軽い雰囲気となった男と白黒の鳥が一羽ずつ肩に止まっていた。

 

「待たせて悪いな。挟間とはいえ覚醒状態のオレの存在は空に影響を与えてしまう──さて、自己紹介をしておこうか。オレの名は“セルグ”だ、天司長殿」

「こちらの事は知っていると見受けるが一先ずは返そう。私の名は“ルシフェル”──聞かせてもらおう、君がここに顕現した理由を」

「あぁ、まずは──」

 

 互いに互いの存在を理解している。そんな奇妙な二人は紹介もそこそこに本題へと入っていく。

 

 

 翼と羽の邂逅……ここから、世界は未曽有の危機に陥っていく。

 数千年に渡る因果の鎖と、過去からの因縁。

 明かされる世界の始まりと、時を超えて蘇る終焉の使者。

 

 天司とヒトが紡ぐ、大いなる物語の始まりだった。

 

 

 

 ──────────

 

 

 アウギュステ列島区役所。

 その場は、いつもと少しだけ違う雰囲気に包まれていた。

 列島の中で名だたる商会が集まる会議の中で、普段であれば腹の探り合いをしながらもアウギュステの発展の為に実のある話し合いが行われる。

 だが今はどうか? 各人の声はどこか固く、表情は険しい。

 

「ふむ、主だった商会はそろった様だな。では緊急会議を始めようと思う」

 

 招集をかけたと思われるハーヴィンの男。区長である彼が取り仕切り、会議の始まりを告げた。

 

「集まってもらったのは他でもない。すでに聞き及んでいる者も多いだろうが、各地で起きている『災厄』と呼ばれる事象についてだ」

 

 “災厄”──その言葉に集まった商会の代表たちは眉を顰める。

 無論、情報とはビジネスにおける最大の武器。ここに居る皆がその情報についてある程度の情報を聞き及んでいた。

 

 曰く、突然島が落ちる。

 曰く、ファータ・グランデだけでなく他の空域でも同様。

 曰く、気流気象に異常は無く島の落下は、島に働く浮力の消失が有力。

 曰く、被害は面積の小さい島から。その規模は徐々に拡大している。

 

 情報源も内容も様々ではあるがどれも裏付けの取れた確定情報。

 つまり今、この空の世界で間違いなく島々の落下現象が起きていた。

 それが──災厄である。

 

「僭越ながら利権には中立的な立場である私が、連絡系統に優れる皆さんの協力と共に対策を検討していきたいと思う」

「それでは私から。まずは情報を整理して各勢力に連絡が必要でしょう。私の商会は規模が大きいですし末端の商会から市井にまで注意を呼びかけます」

「こちらは各国とのパイプが太い。各国の首脳陣に話をしてみます」

「んじゃぁ俺は……帝国か? 確かにパイプはあるが、少々面倒だなぁ」

「それでしたら私は、騎空士さん達に情報提供をしておきますね~」

「あぁ、シェロカルテ君。ついでに信頼できる騎空団には空の避難経路の確保を頼みたい。お願いできるかね?」

 

 次々と今後の動きを決めていく各商会の代表。

 その中には、あのよろず屋シェロカルテもいた。騎空士に対して多くの仕事を斡旋し、あの十天衆とも懇意にしている彼女であれば、できることも多いだろう。

 区長の依頼に、シェロカルテは脳内で動けそうな騎空団をピックアップ。脳裏によぎるのは最近活躍の著しい“彼等”であった。

 

「それでは、グランサイファーの皆さんに依頼をして──」

 

「その者達こそが、今回の災厄の元凶だとしたら?」

 

 飛び込んできた声に、その場にいた全員が驚愕する。

 聞き覚えの無い声は間違いなくこの場にいるはずの無い部外者。それがいつの間にか、音もなく部屋に入ってきて壁に背を預けてそこに居たのだ。

 目深にかぶったフードで顔は伺えないが、声から察するに男性か。腰に差した剣と黒い鎧が物々しく、とてもこの場に不釣り合いな男であった。

 

「君は、誰かね。今は会議中だ……無関係な者はすぐに出ていってもらいたい」

「無関係とは心外だ。せっかく君達に事の真相と商談に来たと言うのに」

「商談……? 貴方は一体……?」

「俺は『天司』さ。空と星の狭間の者という意味だそうだよ──ナンセンスだろう? 星の研究者の感性はどうも理解できん」

 

 天司。その言葉の意味を図り兼ねて惑う会議の面々であったが、男は意に介さず話を続けていく。

 

「さて、商談を始めようか。

 何、シンプルな話さ。俺は空の世界に審判を下す……できる限りスピーディにね。だが、君等の連絡系統が微妙に邪魔になる。

 だから、成り行きを静観してもらいたい──対価は、俺が創る新世界の民に選んでやろう」

 

 どうだろうか? 

 そう締めくくられた言葉に、再び惑う面々であった。

 理解のできない言葉が多い。審判? 新世界の民? 一体この男が何を言っているのか、この場に理解できたものは一人もいないだろう。

 それ程までに彼の言葉は荒唐無稽と言えるものであった。

 

「君は何を……意味が分からない、一体何が目的だ?」

「──そうか、話せて良かった。ではヴァーチャーズ、後始末を」

 

 区長の言葉に交渉決裂と取った男は指を鳴らして合図を送る。

 瞬間、その場に異質な気配が複数顕現を果たした。

 黄色の球体を囲う赤い結晶が三つ。そこに紫の羽根が生えたような奇妙な物体。明滅をしながらもその気配は不穏なものへと膨れ上がっていった。

 

「まずい、皆逃げるんだ!」

 

 区長がその気配にいち早く気が付き声を挙げるが遅かった。

 部屋を横切る閃光が、二人の代表を撃ち抜く。奇跡的に急所を外していたためか息はあるものの重傷と言って相違ない。

 突如として牙を剥いた男の行動に、残りの者が慌てる中、ヴァーチャーズと呼ばれた小型の攻撃端末は次なる標的へと狙いを定めた。

 

「おいおいおい、なんだよこりゃ……一体どういうつもりで」

「お二人共息はあります。とにかく急いで脱出を──」

「いかん、シェロ君!!」

 

 狙われたシェロカルテが息を呑んだ。閃光が奔る──走馬灯を垣間見る中、彼女の命を刈り取らんとそれは寸分違わぬ狙いをつけてその眉間へと向かっていた。

 

「(グランさん……ジータさん……)」

 

 

「させるか!!」

 

 

 閃光は、穿光によって弾かれた。

 紅蓮を纏うアルベスの槍が間一髪のところでシェロカルテを狙う攻撃から彼女を守り、そのままヴァーチャーズを破壊する。

 

「貴方は……ゼタさん」

「どうも、よろず屋さん。全く、異様な気配に気が付いてきてみれば……一体何がどうなってんのこれ?」

「囀るなゼタ。今はこの場をどうにかするのが先だ」

「へぇ、ヴァーチャーズを容易く……何者だい?」

「何よアンタ? とりあえずこの騒ぎの主犯ってことで良いわけ?」

「気を付けてください、その男は恐らくグランさん達とも何か関係があるみたいで」

 

 男との一連のやり取りから少ない情報を拾ったシェロカルテの言葉に、ゼタの気配が一つ剣呑なものへと変わる。

 シェロカルテの命を狙う男が、グラン達とも関係? となれば、間違いなく良からぬ話に違いない。

 助けに来ただけのゼタであったが、今目的は目の前の男を捉える事にシフトした。

 

「バザラガ、ここに居る皆をお願い……アンタの身体ならこの変な奴からも皆を守れるでしょ?」

「構わん、だが……問題は無いのか?」

「ちょっとわかんない。全然気配が読めないし──でも、負ける気はないわよ!」

 

 俊足。瞬く間で間合いを詰めて繰り出される刺突を前に、男は腰の剣を抜き放ち防御。

 その表情からは余裕が消えていた。

 

「やるじゃない、今のは本気でやる気だったんだけど……」

「ヒトにしてはやるじゃないか。微妙に──危なかったよ!」

「っ!?」

 

 即座に離れるゼタの足元が薙ぎ払われる。

 その剣は間違いなく早い。グランやジータと同等か……もしやそれ以上。

 

「バザラガ、行って! こいつやばい!」

「逃がすと思うのかい?」

 

 お返しとばかりの俊足。ゼタを避け、バザラガが庇うより早くシェロカルテの元へと至った男が剣を振り上げた。

 

「させん!!」

 

 間一髪、その身を盾にシェロカルテを守ったバザラガが苦悶の声を我慢する。

 瞬時にゼタは全開解放。シリウスを呼び出し男を穿たんとアルベスを打ち出した。

 

「おっと、これは少々厄介だね。仕方ない──ここは引くとしようか」

「逃がすわけないでしょ!! シリウス・ロ──」

「待てゼタ……それはこの建物を崩壊させる」

 

 バザラガの静止を受けて僅かに舌打ちをしながら収束したチカラを霧散させるゼタ。

 狙われていた男は不敵な笑みを残したまま光の粒子と共に消えていく……。

 

「してやられたって感じね……一体何者よ、アイツ」

「わからん。だが、少なくとも奴の攻撃力はこの体を楽に重傷へと追いやることが出来るほどに強い──ぬぅ」

「ちょっ、バザラガ!?」

 

 崩れ落ちるバザラガの姿に慌てるゼタ。

 バザラガの身体は魔術による施術を施した特別性だ。防御力はもとより、再生力も高い。不死身と呼ばれるほどの肉体を、僅か一太刀でここまで追い詰めるなど、一体どんな攻撃をしたというのか……ゼタの不安は募った。

 この相棒の事だろうから時間を置けば元通りにはなるだろうが……新たな敵の出現に、ゼタの頬を冷や汗がつたう。

 

「ねぇ、よろず屋さん……あの男、団長達と関係があるって?」

「はい~、詳しくはわかりませんが、今空を騒がせている災厄の原因は彼らにあると……」

「何それ……とにかく、急がなきゃまずそうね。行くわよバザラガ」

「わかっている。団長達の事が気がかりだ」

 

 一先ずの脅威を退けた二人は駆け付けた警備兵たちにその場を任せ、騎空挺の発着場へと向かう。

 空を見れば、憎たらしいくらいに晴れ渡っていて、外に出た二人の目を焼く。

 そんな快晴の中走る二人の心は、いつになく曇ったままなのであった。

 

 二人は世界を揺るがす脅威の存在を、その肌ではっきりと感じ取っていた……

 

 

 




いかがでしたでしょうか。

現在はサイドストーリーの方でキャラエピも更新しておりますので、一緒に読んでいただければ幸いです。

感想お待ちしております。

それでは。

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