granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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話が……進みません(−_−;)

ガロンゾ編長すぎてまずいですね。
一つの島を終えるのにどれだけかかるのやら

それでは、お楽しみ下さい。


メインシナリオ 第5幕

空域 ファータ・グランデ ガロンゾ島

 

 

 

「はぁ、はぁ……なんとか、みんな無事に脱出できたかな?」

 

 グランが全員を見回して問いかける。そんなグランに仲間達は問題無いように頷く。

 攫われた少年を救出すべく帝国戦艦へと潜入したグラン達はなんとか救出作戦を成功させて、現在、ガロンゾの街で物陰に潜みながら休息を取っているところであった。

 

「それにしても、帝国の中将……ガンダルヴァでしたか。とてつもない強さでした。正直、グラン達が来てくれなかったら、ルリアもそこの男の子も連れ去られていたと思います。全く……歯が立たなかった」

 

 戦艦内での戦いを思い出しジータは悔しさに表情を歪ませる。そんなジータに同意を示すのは共に戦い、成す術が無かったカタリナ達だ。

 

「銃弾は簡単に防ぐ。剣撃はあっさり見切られる。全く、セルグといい勝負だ……」

 

「本当、勘弁してほしいぜ。銃弾ってそんな簡単に防げるもんじゃねえだろうがよ」

 

「老体にはちぃっとキツイ相手だったな……中将ともなりゃ普通は前線から退いてそうなもんだが、ありゃ根っからの武闘派だな。死ぬまで前線で戦い続けるタイプだぜ」

 

「流石の私も肝が冷えたわぁ……でもその後の団長さん達、二人ともかっこよかったわね!」

 

 一人ズレている人もいたが、そんなカタリナ達の様子に、グランも真剣な面持ちで答える。

 

「そんなに凄かったの? となると、これからは彼の存在を視野に入れて動かなきゃいけなくなるかな……セルグ、どう思う?」

 

「一先ず、オレが相手をしよう。今回みたいに分かれて行動でもしなけりゃ対処できるだろうさ。できるようなら面倒だから殺しておく。不安要素はできるだけ排除しておきたい。まぁ任せてくれ、きっちり借りは返しておこう」

 

 そう告げるセルグの顔には凶悪な笑みが見え隠れしていた。戦艦内で仲間がやられていたのを見たセルグは、その胸の内に強い怒りを宿していたが、グランに不意打ちを任せるために何とかそれを押し留めていた。己の手を下せずに、止めをグランに任せていたこともあって、溜飲が下がってはいなかったことが伺える。

 

「せ、セルグ……あまり直接的な表現は。その、ルリアやイオもいることだし……教育上良くないというか」

 

「あ、あぁ、すまない。これからは気を付ける。確かに言葉が悪かったな――さて、哀れにも今回巻き込まれたっていう不運な少年ってのは誰だってお前!?」

 

 セルグは救出された少年を見やるなり驚愕に声を上げる。仲間達は急に驚きの声を上げたセルグに驚くがそれよりも先に少年が動いた。

 

「やぁ、セルグ。久しぶりだね。こうして君にまた出会えたことに、僕は運命を感じずにはいられないよ!」

 

 そこには嬉しそうな表情でセルグに話しかける少年がいた。

 

 

 

 

 

 

 騒動の収まった帝国の戦艦内では被害状況の確認とグラン達の追跡任務への指示の声が飛び交っていた。

 

「すぐに島全体に捜索隊を出すのですねぇ!」

 

「ですが大尉。先ほどの戦闘で動ける人員がかなり減っております。人海戦術は難しいです」

 

「ポンメルン大尉! 動ける人員だけで構いません! すぐに捜索隊を派遣しなさい!」

 

 報告を聞いていたフリーシアは声を荒らげてポンメルンへと指示を出した。ポンメルンがその指示に慌てて捜索隊を編成すべく動いていくのを見送ったフリーシアは司令室で怒りの形相を露にする。

 

「クソッ! まんまとしてやられた! あれほどの数の兵士を相手にできる囮にガンダルヴァ中将を退けての救出を成功させるなんて……たかが一騎空団がどれだけの強者を抱え込んでいるというのだ。

機密の少女を連れた騎空団。こうなっては本気で潰す必要がありそうですね」

 

「なんだ? 結局してやられたわけか? 宰相さんよ。」

 

 怒りを隠そうともしないフリーシアの姿をみて司令室へと赴いたガンダルヴァが声を掛ける。グランから強烈な一撃をもらっていたにも関わらずその姿は壮健でどこにも負傷は見られなかった。

 

「ガンダルヴァ中将! 一体何をしていたのですか!? 貴方ともあろう者があんな小僧の率いる騎空団に遅れを取るとは!」

 

「ああ~悪かったな。ガキと雑魚しかいなかったんで油断してたのは確かだ。心配しなくても次はしっかり命令を遂行してやるさ。」

 

 フリーシアの怒りを向けられたガンダルヴァは、口では申し訳ないと言うもののこの騒動を引き起こした騎空団に強者の気配を感じて笑みを浮かべていた。

 戦闘を楽しむ狂気の笑みにフリーシアは僅かに戦慄するが、それを押し殺してフリーシアはガンダルヴァへと再度命令を下す。

 

「次こそは確実に任務を果たしてもらいます。機密の少女の奪還。なんとしても遂行するように」

 

「わかったわかった。こっちも楽しみだからな。しっかりやらせてもらうさ。だから早く見つけてくれよ」

 

 そう言ってガンダルヴァは戦艦内の私室へと戻っていった。

 フリーシアはガンダルヴァを見送ると冷静になって状況を確認し始める。

 

「島を出ることはできないのなら発見は時間の問題。奴らの戦力が幾ら高くてもガンダルヴァ中将に敵うとは思えませんが――最悪の想定は必要ですね」

 

 フリーシアは呟くと同時に通信機へと手をかけた。

 

「整備班。例の兵器の起動をしておきなさい。すぐに使えるように調整も。大至急です」

 

 通信を終えたフリーシアは一息ついて報告を待つ。あとは魚が網にかかるのを待つだけ……静かに待つフリーシアの表情が怒りから徐々に笑みへと変わっていくのに、大した時間は必要なかった。

 

 

 

 

 

「はぁ……まさかお前だったとはな、ノア。知ってれば助けになんか行かなかったんだが」

 

 呆れたように……いや、どことなく悔しそうに呟くセルグ。そんなセルグと、ノアと呼ばれた少年の様子に訳が分からず立ち尽くす仲間達。

 セルグをみて運命を感じずにはいられないとのたまう、少女のような少年の様子に一部から何やら不穏な視線が向けられていた。

 

「セルグ、あんたこの子知ってんの? 名前まで知ってるってことは、セルグのことだから結構な仲なんじゃない?」

 

 仲間を代表してゼタが問いかけていく。やや棘のある言葉も交えてかけられた問いかけにセルグは苦虫を噛み潰したような表情をみせながらも、素直に口を開いた。

 

「名前知ってたら結構な仲って、お前オレの事バカにしてるだろ?」

 

「うん、友達作るタイプじゃないだろうし」

 

 あっけらかんと答えるゼタに頬を引きつらせつつも、なんとかそれをぐっとこらえて表情を戻し、セルグは仲間の疑問に答えるのだった。

 

「間違っちゃいないが、お前後で覚えてろよ……そいつは星晶獣だよ。以前この島に来たときにオレが狩ろうとしたんだが、ふわふわした奴で、害もないから放っておいたんだ。確か“艇作り”を司る星晶獣だったか?聞いた時はなんでもありなんだと笑ったな」

 

 セルグがもたらしたまさかの情報にグラン達の表情が一変する。

 

「せ、星晶獣!?」

 

 グラン達の驚愕の声が重なった。一見するとどこからどう見てもヒューマンの少年にしか見えないノアが星晶獣だと言われて驚かない人間などいないだろう。

 

「ふふ、彼の言うとおり、僕は艇作りを司る星晶獣、ノアだ。ついでに言うなら、グランサイファーの製作者でもある」

 

 ノアが自己紹介として告げた事実に仲間たちはまたもや驚愕の声を上げる。今度はセルグも含めて……

 

 

 

「まさか、そんなにも驚かれるとは思わなかったよ。君たちなら星晶獣なんてたくさん知っているだろうに」

 

「いや、確かに何度も目にしてはいるが……こうして面と向かって話せる星晶獣は初めてだ。本当に星晶獣なのか?」

 

 カタリナは、ルリアに確認の意を込めて視線を投げる。

 

「ううん、ちょっと気配はわからないです。なんとなく感じるんですが、とっても掴みにくくて」

 

 ルリアも気配を感じられず困った顔を見せた。チカラが弱いのか、気配が弱いのか、なんにせよ見た目や態度と同じでノアの感触はルリアにとってつかみにくいようである。

 

「星晶獣って何なんだ? オイラもう、わけがわかんねえよ」

 

「セルグさんも言ってましたけど、ホント何でもアリなんですね」

 

「それにグランサイファーの製作者だってマジなのか?」

 

 ビィとジータが呟けば、続いてラカムがノアとグランサイファーの思わぬ繋がりに、信じられないように問いかける。

 

「ああ、ラカムにも伝えるのは初めてだったね。以前の君はとても幼かったから、難しい話は全て隠していたんだ。ごめんね」

 

 ラカムの問いにやや申し訳なさそうな声でノアは答えた。

 とりあえずは一通り皆が疑問を解決したところでセルグは再びノアへと言葉をかける。

 

「んで、何で態々救出なんて待ってたんだよ? 星晶獣であるお前が態々捕まって、態々助けられるのを待ってるとか、迷惑にも程があるぞ?」

 

「いいじゃないかセルグ。久しぶりに訪れてくれた旧友が捕らえられた僕を助けに来てくれる……これほど心躍ることはないよ! それに、彼らなら間違いなくそうしてくれると信じていたからね。グラン、ジータ。それにラカムやオイゲンも……僕が知ってる彼らなら間違いなく動いてくれるとわかっていたから待っていたのさ」

 

 ノアは実に嬉しそうに語った。しかし、セルグの表情は優れない。

 

「その信頼は確かにオレ達にとっては嬉しい評価かもな。だがその信頼のせいで、下手をすればルリアが帝国に捕らえられていたかもしれない……素直に喜べる気はしないな。」

 

 セルグは視線鋭くノアへと返す。セルグの怒りを含んだ視線にノアは少しだけ目を伏せた。

 

「それはすまなかったね……つい君達との邂逅が嬉しくて君達への迷惑を考えていなかった。でもその気になれば彼女がなんとか……っとどうやら命の危険が迫ってきそうなのでやめておこうか。とりあえず、どうか許して欲しい」

 

 何かを言いかけて止めたノアに怪訝な表情を見せるセルグだが、追及はせずに謝罪を受け取る。焦った表情をしていたノアの周囲にはバラの香りが漂っていた……

 

 

 

 

「それで、本題に入りたいんだが……グランサイファーが飛べないって話だ。あれは一体どういう意味なんだ? 約束ってなんなんだ?」

 

 ノア救出作戦の目的でもあった、約束への言及。ラカムがノアに気になっていたことを問いかける。

 

「前にも言ったね、グランサイファーはとある約束を果たさないと飛べないんだ。その約束とはラカム。君と僕との大切な約束だ。それを果たせなければグランサイファーはいつまでもこの島に縛られ飛べないだろう……」

 

「それは本当なのか……申し訳ないが、第一俺にはお前との記憶が無い。確かに何かを忘れてしまってる感じはしているが、そもそもその約束すら本当にしたものなのか疑問だ」

 

 ラカムはノアの言葉を信じ切れずにいた。それはそうだろう。約束と言われてもノアと出会った記憶すらラカムにはないのだ。ノアが言うには約束までしたと言うのだからそれなりに親密な関係を築いているはずがラカムはそれを覚えていない。

そんなラカムにノアは嫌な顔をせずに答えを返す。

 

「おや、僕の言う事を信じてくれないのかい? 困ったな……グランサイファーが飛びたてないのは事実だし、約束を思い出してもらえないと、僕にはどうにもできないんだけど。そうだ! それじゃ、僕とラカムの馴れ初めを皆に聞かせよう。話を聞けば少しは思い出すかもしれない。あれはそう……十年以上も前の話だよ。」

 

 急に語り始めたノアに仲間たちは興味津々と耳を傾けていく。その表情をほころばせ嬉しそう聞き耳を立てる仲間達へと嬉々として語り始めた。

 

「幼いラカムは見知らぬ島でつい保護者のオイゲンとはぐれてしまい、泣きじゃくりながら裏通りを」

 

 初っ端からラカムが赤面する黒歴史が始まりラカムは慌ててストップをかける。

 

「まてまて! なんでそんな事知ってんだ!? それを知ってるのはオレとオイゲンと……」

 

「何故って? 僕がその時君と出会ったからさ。可愛いものだったよ。泣きながら必死にオイゲンの名前を叫ぶラカムはね」

 

「ま、まて! わかった、わかったから! あ~確かにお前さんはこの島で俺と出会っている。きっと約束もそのときにしたんだろ……」

 

 もはややけっぱちに近い勢いでラカムはノアとの出会いの記憶に付いてをみとめた。彼自身はまだ何も思い出していないがこれ以上恥ずかしい子供の時分の事を晒されてはたまったものではない。

 ジロリと聞こえてきそうな視線を向けてノアを睨み付けていた。

 

「ふふ、信じてもらえて何よりだよ」

 

「……あの慌てよう。どうやら本当の事らしいわね。」

 

 二人のやりとりを見てイオがしてやったりといったような表情でラカムを茶化す。

 

「ラカムにもそんな時代がね~いまじゃ全然考えられないわね。」

 

 ゼタが興味深そうに頷き、仲間たちは皆一様に新たな発見を楽しんでいた。

 

「ラカムさん、少し落ち着いてください。あまり大きい声を出されては――」

 

「おい! こっちから声が聞こえたぞ!!」

 

 大声でノアを止めたラカムのせいでヴィーラの忠告空しく、一行は捜索中の帝国兵に見つかってしまう。

 

「全く……誰かさんが大慌てで大声出すから見つかっちまったじゃねえか! さっさと片付けて場所を変えようぜ!!」

 

 ビィがラカムを責めるように言うも、その一声ですぐさま戦闘態勢に入る一行。捜索部隊程度では伝令を出すことも叶わずあっさりと討ち取られていった。

 

 

「グランサイファーのあるドックに向かおう。艇の中に隠れてしまえば捜索の手から逃れられるだろう……街の中じゃオチオチ話もできない。」

 

「その方が良さそうですね。ラカムさんも落ち着いて考えたいでしょうし……皆さん行きましょう。」

 

 カタリナが艇に戻ることを提案してジータの声のもと、一行はグランサイファーへと向かう。

 

 

 

 

 街中を慎重に歩くグラン達。道中も思案を続けるラカムはしきりに唸りながら首をかしげていた。

 

「約束……か。だんだん思い出してきた。確かにあの時、俺はノアと会っている。迷子になっていたところを助けてもらって……それから覚えていないがいろんなことを話してた。」

 

 ラカムは必死に思い出してきたことを紡ぎだす。徐々に思い起こされる幼い記憶が僅かながらノアの存在を思い出させたようだ。

 

「なぁ坊ちゃんよ……」

 

 そんなラカムを尻目にオイゲンはノアへと話を振った。

 

「お前さんがラカムと約束したってのはわかったが、それとグランサイファーが飛べないことがどう関係あるんだ。約束を果たさないと飛べないってのは……まさかとは思うがお前さん、星晶獣の力を使ってグランサイファーを?」

 

 徐々に目つきが険しくなるオイゲン。彼の言葉に仲間達にもピリピリした雰囲気が漂いそうになる。

 

「確かに、グランサイファーを飛べなくしているのは星晶獣の力だね……ただし僕の力ではないよ。それを説明するにも、これから向かうグランサイファーがあるドッグは丁度いいかもしれない。」

 

 意味深な回答を残してそのまま歩き出すノアに、グラン達は疑念を抱きつつもついていくことにした。

 

 

 

 

「ああ、グランサイファー……こんなにボロボロになってまでラカム達を守っていたんだね。製作者としてこれほど誇らしいことはない」

 

 ドッグに着くや否や、ノアは嬉しさと悲しさの混じった感嘆の声を上げる。

 

「一先ず乗り込んで話をしようか……ラカム何か思い出した?」

 

 グランがここまで考え込んでいたラカムに声をかけるも、その表情は曇ったままだった。 一行は艇へと乗り込み話を再開する。

 

「それで、約束とグランサイファーが飛べない理由。これが星晶獣の力って話だったな……ノア、一体どういう事なんだ?」

 

 セルグが早速話を切り出した。ノア以外の星晶獣によってグランサイファーは飛べないという。その言葉の意味とは。グラン達も期待を込めたようなまなざしをノアに向ける。促されるようにノアは静かに語り始める。

 

「僕とは別に、この島には星晶獣がいるのさ。どちらかと言うと、僕のほうが野良で、島にまつわる星晶獣と言えばそっちの方だよ。名は”ミスラ”。契約を司る星晶獣だ」

 

「契約を・・・司る?」

 

 グラン達はいまいち、理解できていない様子である。そんなグラン達にノアはヒントを与えるように質問を投げかけた。

 

「このドッグで行われていること。君たちはこれをみて不思議に思わなかったかい?」

 

 そういってノアはグランサイファーからドック内を見渡す。同様に視線を向けたグラン達の目の前で行われているのは艇の製作や整備。そして仕事への報酬の支払が行われていた。

 

「別におかしい所はないと思うけど……敢えて言うならみんな厳つい強面のオッサンばっかりって所かしら?」

 

「おいおいイオ……そんな言い方はあんまりじゃねぇか? ここのオッサンたちだって好きで強面になったわけじゃ」

 

「というか職人ってやつはみんなあんな感じだろう。別段不思議な事じゃないと思うが……オレが気になった事と言えば、この場に紙とペンがないって所か」

 

「そういえば、請求書などの書面が無いのには私も驚いた……高額な取引になる騎空艇関連は普通、契約書などの書面は必須だと思っていたからな……」

 

 セルグとカタリナが気づいたことを告げるも、この島の事をよく知っているオイゲンが反論する。

 

「しかし、ここの奴らはみんな義理堅いからな……契約を反故にする奴なんかいねえし、何十年も前からこの形だ。他の島とは違うかもしれねえがそれは住民が義理堅いかどうかって話だろう?」

 

「そりゃあまぁ、ここが以前からそうだって言うならそうなのかもしれないが」

 

「そう、普通ならそう思うだろうね。でも、もしそれが逆だったら?」

 

 ノアは静かに問いかける。問われたグラン達はノアの言いたいことが読めずに呆けたまま次の言葉を待った。

 

「契約を守るために義理堅いんじゃない。契約を守らざるを得ないから義理堅くなってきた……としたらどうだい?」

 

「な!?」

 

 ノアの言葉にグラン達は息を呑んだ。

 

「星晶獣ミスラは、無意識や事象に働きかけて契約と言われるものを全て遵守させる。そこに例外はなくどれだけ強力な星晶獣であろうともね……」

 

「それじゃあまさか、俺がノアと交わした約束をミスラが?」

 

 ラカムが思わずノアへと問いかける。飛べない理由。約束を果たさなければいけないとなればラカムが言うように答えは決まっている。

 

「そうだね、本来なら子供の他愛ない目標のような約束だった……でも、幸か不幸かそれは契約としてミスラに認識されてしまったんだ。これが、グランサイファーがこのままではガロンゾから飛び立てない理由だよ」

 

 ノアはどこまでも淡々と話す。ラカムからすれば思い出せない約束に縛られてグランサイファーが飛べない一大事だというのに何も問題など無いと言わんばかりの表情である。

 忘れられた約束を果たすなど、思い出せなければそれは暗証番号を忘れた金庫に等しい。思い出せなければグランサイファーが再び空に飛びつたのは絶望的だろう。

 

「まじかよ! それでグランサイファーは今、星晶獣の力でこの島に縛り付けられてるってことか!! おぉいラカム、何とかならねえのかよ!」

 

 ビィが驚いたように事実を繰り返すと、隣で思案していたジータがルリアへと問いかけた。

 

「ねぇルリア。それってルリアの力で何とかできたりしない? ルリアがミスラの力を吸収して、その影響を無くすとか――」

 

「それは無理だね。残念だけどミスラの能力は、ミスラ自身でも止められないし消せない。一度交わされ、契約とみなされたものは全て例外なく干渉することができないんだ。」

 

 ジータがなんとかできないかと考えるもノアの言葉に一蹴されていく。

 

「そんな……私ではどうすることもできないんですか?」

 

「まぁ約束を果たせればいいだけだよ。もっともそれを教えてあげないのは僕のエゴだけどね、ラカム。君なら思い出せるはずだよ。君の眼は変わらず空を見続けているんだから……あの日、約束を交わしてもらった時の嬉しさ。もう一度味あわせてほしい。」

 

 一切の疑問を持たずにノアはラカムを信じ切っていた。そんなノアの信頼にこたえられないラカムは焦りを感じ頭を抱える。

 

「くっ……思い出せねえ。俺は一体何を約束したってんだ!」

 

 憤るラカムだったが、グラン達にはその様子を眺める事しかできなかった。

 

「焦ってどうする?大体まだガキの頃にできる約束なんてたかが知れてるだろう。ほら、そこの子供連中に聞いてみたらどうだ?ルリアにイオ。ジータにグランとよりどりみどりだ。ついでにビィもいるぞ。」

 

 そんなラカムを見かねてセルグが助け船をだす。焦っても確かに仕方ない。冷静に記憶を掘り起し、その場面を思い出さなくてはいつまでたっても先には進めないだろう。

 この状況でも落ち着いたように言葉を発するセルグにラカムも俄かに冷静さを取り戻すのだが……

 

「セルグ!! こんな時までふざけないでくれ! ついでに僕は子供じゃないよ!!」

 

「セルグさん、イオちゃんとルリアはまだしも私は子供じゃないです!!」

 

「ちょっとジータ!! なんでルリアとセットで私まで子供扱いなのよ!!」

 

 当然の如く怒り出す子供組はセルグに向けて反論の嵐だ。

 

「だーー! なんでお前らはそんなにそこに食いつくんだよ! 言葉のあやだろう。要するに難しいこと考えんなって言ってるんだよ! ガキの頃に難しい約束なんかできるわけないんだから、その時のラカム少年が一体何をしたかったのか考えれば見えてくるだろって話だ!!」

 

「いちいち回りくどいのよ、アンタは! 素直にそう言いなさいよ!!」

 

「人の発言する言葉全部を鵜呑みにすんじゃねえよ!!」

 

 セルグの言葉に思わず猛反発するグランとジータ。さらにイオとゼタも加わり大騒ぎとなってしまった。

 

 

 

「全くこんな程度の低い者達に出し抜かれていたとは。一生の不覚です……それにしても星晶獣ミスラ。契約を遵守させる能力とは。ルリアの奪還のついでのつもりが思わぬ収穫となりました」

 

 そんな時にグラン達の耳に届いたのはエルステ帝国宰相フリーシアの声。

 

「んな!? いつの間に!!」

 

 ビィが驚きに声を上げると同時に一行には緊張が走る。宰相である彼女がここにいるのであればそれなりに多くの戦力を伴っているはず。周囲を見渡せばドック内には多くの帝国兵士が待機していた。

 

「星晶獣ミスラの力。うまく使えば、帝国の支配はより盤石となるのは間違いないでしょう。すばらしい情報をありがとう……上手く使わせていただきましょう。」

 

 フリーシアの口ぶりは既にミスラを手に入れてそれを十分に使えるような口ぶりだった。

 余裕のあるフリーシアの様子にグラン達の脳裏にはある少女の姿が思い浮かぶ。

 

「まさか、オルキスちゃんに!?」

 

 ルリアがフリーシアに向けて、懸念していたことを問いかける。ルリアの問いに僅かに驚きの表情を浮かべたフリーシアはすぐに表情を戻すと眼鏡を押し上げながら答えた。

 

「そうでしたか……あなた方はあの人形の事を既に知っていたのですね。ご想像通り、人形の力で既にミスラは我らが手中にあります。あとはここでルリアを捉えれば任務は完了です。 皆さん! くれぐれもルリアを殺してはなりませんよ。特にガンダルヴァ中将。決して暴走等しないようにお願いします……」

 

 フリーシアの声に従い帝国兵がグラン達を取り囲む。一番前に位置取るのはジータ達を苦しめたガンダルヴァだった。

 

「アイツ!? グランのあれを喰らったっていうのに全然平気そうじゃない!?」

 

「そんな……手加減無しの全力だった。狙いも完璧だったし、無事なはずは」

 

 イオとグランが平気な姿で最前列にいるガンダルヴァに慄く。

 

「ふん、あの程度でオレ様を仕留めようなんて百年早いんだよ!! さて宰相さんよ、機密の少女以外はいくらでもやっていいんだろ?」

 

「ええ、構いません。ご自由にどうぞ」

 

 フリーシアの言葉を聞き、救出班だったジータ達六人に緊張が走る。身をもって体験したガンダルヴァの実力を思い出し、平静を装おうとしても体が言うことを聞かず硬直してしまうのを感じていた。

 

「お許しも出たからな、たっぷり楽しませてもらうぞ……そこのガキ二人! 団長だったか?お前たちが一番楽しめそうだ。ほら、早くや――――ッ!?」

 

 気合十分に吠えようとしたガンダルヴァにグラン達の後ろから巨大な工具が飛んでくる。飛んできた方を見れば、そこには投擲の姿勢のままでいるセルグがいた。

 セルグは視線が集まるのを確認すると、いつもと変わらぬ声でグラン達に告げる。

 

「ほら、体も顔も固まってるぞお前たち。何をしなきゃいけないか見失うなよ。ルリアを守り切るのが最優先だろ。自分達に手に負えないとわかってるならさっさと逃げろ。只の兵士程度なら負けることもないはずだ。」

 

「ハッ、そうだ!! みんな行くよ、街に出てなんとか逃げ切ろう!!」

 

 そういうとグランはルリアを抱えて走り出す。追従するように仲間たちも出口へと向かっていく。

 一斉に駆け出し出口に向かうグランとすれ違いざまに小さな声でセルグは囁いた。

 

「こっちは任せろ。あとで“飛んでいく”」

 

 セルグの言葉を理解したグランはさらに足を早めた。騎空団一行は正に全力疾走で外へと飛び出していく。

 

「バカが!! 逃がすわけがッ!?」

 

 追いかけようとしたガンダルヴァに、今度は斬撃が飛ぶ。すんでのところで躱したガンダルヴァは攻撃してきたセルグを睨んだ。

 

「バカはお前だ。何故オレが残ったと思ってるんだ……」

 

 ガンダルヴァはその瞬間わずかに恐怖を覚える。目の前にいる男が放つ存在感。決して大きくは無いのに、放たれる殺気は自分を小さくさせるような圧迫感を伴って放たれる。

 しかし歴戦の戦士たるガンダルヴァはすぐにその恐怖を捨てる。己が実力への絶対的自信を以て、セルグに不敵な笑みを浮かべる。

 

「なるほど……今度はお前が戦ってくれるわけだな。楽しめそうじゃねえか!」

 

 セルグの姿に愉悦の表情を浮かべるガンダルヴァ。そんなガンダルヴァの意思など眼中にないようにセルグは一人呟く。

 

「ジータから話は聞いたよ。随分手荒な真似をしてくれたな……お前に掴まれたルリアの腕には痣が、イオとジータにはたくさんの傷がついていた。どれもオレが一緒にいれば無かったはずの傷だ……」

 

 セルグは噛みしめるように言葉を紡ぐ。戦艦でジータ達がやられていた姿を見てセルグが抱いたのはガンダルヴァへの怒りではない。

 守れなかったことを……ひたすらにその事を悔いていた。彼女たちが傷ついたことへの怒りはどこまでもセルグ自身に向けられていたのだ。

 報復を考えて浮かんだ愉悦の笑みも、すべては自分への怒りをごまかして静めるため。なまじ強者であるが故に、手を伸ばせば届くはずの仲間の危機を助けられなかったセルグの罪の意識は重い。

 

「これは只の八つ当たりだ。それでも……原因となったお前を殺せるならこれ以上の憂さ晴らしはない……覚悟しろガンダルヴァ、子供達を傷つけたお前の罪は重いぞ!!」

 

 抜刀するセルグ。言霊の詠唱は既に終えており、天ノ羽斬の刀身に纏う輝きはセルグの心情を如実に表すかの如く強まっている。

 対するガンダルヴァも抜剣。相対するセルグに、未だかつてない強敵の予感を感じ心を震わせ剣を取る。

 既に帝国兵は全員その場を去り、グラン達の追走任務に移行していた。その場に残っていたのはセルグとガンダルヴァ。そして命令を下していたフリーシアの三人。

 哀れなフリーシアはセルグとガンダルヴァが放つ殺気に押し潰されていた。

 

「(化け物共め……)」

 

 もはや言葉を発せず胸中で慄く事しかできない。戦士ではないが故に彼女にヒトが持つ戦闘力の分析などはできないが、それでも帝国内で聞いたガンダルヴァの武勇伝はあり得ないほどにすごいの一言に尽きる。

 星晶獣とぶつかり合う。戦艦の砲弾を打ち返す。一日で、更に一人で、一つの島を陥落させる。

 眉唾とも思える武勇はどれも伝説的だ。

 だがそんなガンダルヴァと同等の気配を以て、対峙する男がいたのだ。彼女の胸中に沸いた言葉は恐らく彼女だけが感じる事ではないだろう。

 呼吸すら忘れそうなほどの殺気のせめぎ合いの中、フリーシアが酸素を求めて呻いた。

 些細な音でしかないそれをきっかけに二人は動き出す。

 

 

「さあ、楽しませてくれ!!」

 

「そんな余裕があるならな!!」

 

 

 喜びと激情に彩られた言葉と共に、今帝国最強と騎空団最強がぶつかり合う。

 

 




如何でしたでしょうか

説明することが多くなるとキャラが目立たなくなってきますね。上手く描ける様に精進していきます。

それでは。お楽しみいただければ幸いです。

感想お待ちしています。

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