granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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古戦場の感覚短くて忙しかった(という言い訳)
ちょっと詰め込んだ71幕。どうぞお楽しみください


メインシナリオ 第71幕

「ヴィーラっ! 大丈夫?」

 

 苛烈にヴィーラを攻め立てる獣達を退け、ゼタは親友へと駆け寄った。

 ゼタの声に意識がほどけたか、戦闘の気配を失い崩れ落ちるヴィーラ。思わず、ゼタの脳裏に最悪がよぎる。

 

「ヴィーラ!!」

 

「──フフフ、焦らなくても大丈夫ですゼタ。私はここに……何も問題はありません」

 

 ボロボロではあるが、そこには柔らかに微笑む彼女の姿があった。光を纏ったような純白の鎧は欠け、体中に攻撃の痕を残し、その表情には極限の疲労を宿している。死線をいくつも潜り抜けたような傷が全身に刻み込まれていた。

 それでも、彼女は微笑んでいる。親友に情けない姿を見せぬよう……心配をかけまいと。

 そんなヴィーラの姿がゼタの心を締め付けた。

 

「ヴィーラ……ごめんね、私が不甲斐ないばかりに」

 

「気にするな、と言っても気にするのでしょう? でしたら、私から言えることは一つですよゼタ────貴女の新しい強さ、早く私に見せてください」

 

 微笑みが不敵なものに変わる。挑戦的なそれは、ゼタの闘志をくすぐった。

 確かにそうだ、気にするなと言われて納得するような、そんな安いプライドをゼタは持ち合わせていない。

 強者であり、対星晶獣戦のエキスパートである自負を、そんな言葉だけで取り戻せるわけがない。

 

 己の弱さがこの苦境を生み出したのなら、己の強さで取り返せ。

 胸中で叫びあがる声がゼタの心を奮わせた。

 

「残念ながら、もう私は動けそうにありません────後は任せます」

 

「上等、ゆっくり休んでなさい。後は私が全部ぶっ飛ばしてやるから」

 

 先程までの殊勝な態度を隠し、ゼタはヴィーラへと返した。彼女の意志に頷くように、周囲を囲う光の槍がぐるりと一周回って見せる。

 ヴィーラを抱きかかえゼタは立ちあがると、その体を壊れ物を扱うように丁重に、ラカムを治療しているロゼッタの元へと持っていき共に横たわらせた。

 言葉少なにロゼッタへ任せると伝える彼女のその行動は、つまりは己一人で目の前の星晶獣二体を相手にするともとれた。

 

「ゼタ、貴方まさか……一人でやるつもり?」

 

 不遜。傲慢。

 先程までの苦戦を考えればそう思わずにはいられないが、それを為さねば成らないほど、今の彼女は自身を追い詰めていることの証でもあった。

 全開開放。それを経た今、仲間を守り敵を……星晶獣を討つのは己において他はない。心配の声を上げるロゼッタを尻目に、脳裏に浮かぶ最愛のヒトを想ったゼタの気配は鋭利なものへと変わっていく。

 

 

「(アイツならこの程度……何の苦も無く倒して見せるんでしょうね)」

 

 

 そう考えた瞬間、追い詰めていたはずの心は軽くなる気がした。

 全開開放により同じ高みへと昇った……ならば負ける道理などあってはならない。

 気合十分と、ややシャープな形に変異を遂げたアルベスを一振りし、ゼタは挑戦的な目を眼前の敵へと向けて、闘志を剥き出しにした。

 その姿、目の前にいる二体に負けず劣らずの猛犬を思わせるような様相である。

 

 

「覚悟しなさい犬っころ。アタシの仲間を傷つけた罪は重いわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 次から次へと厄介な変貌を遂げていく。

 チカラの解放は星晶獣こそが専売特許であろうに、それに追従するように次々と限界を超えてくる一行に僅かな恐怖を抱きながら、ロキはフェンリルとケルベロスに思念で指示を下した。

 いくら強くなろうが、完全に枷を外した二体を前に勝てるはずなどない。これは連綿と紡がれてきた、星と空の格付け。長きに渡り受け継がれてきた空の歴史がそれを裏付ける。

 空の民が幾ら奮起しようと、今この場でその歴史が覆ることなどあり得ないと、ロキに疑うことを是とさせなかった。

 

「わかったぜロキ……すぐに終わらせる!」

 

「これ以上煩っていられない」

 

 故に、最も信頼できる戦い方を下す。

 四脚による機動力を活かした至近戦。懐に飛び込めば膂力で比較にもならない差がある二体が有利である。

 ゼタの目の前からかき消えるような早さをもって、フェンリルとケルベロスは強襲する。

 突撃の速さそのままに鋭利な爪を振り下ろすフェンリルと、強烈な踏み込みからその勢いを多分に乗せた回し蹴りを放つケルベロス。

 

「なっ!?」

「嘘っ!?」

 

 左右から挟むように繰り出された攻撃を、しかしゼタは視線すら向けずに防いでいた。

 いや、正確には違う。防いだのは彼女を囲うように展開していた光の槍が三本。それぞれ左右に折り重なるように展開し攻撃を防いでいた。

 それはまるで槍の檻。全開開放と同時に展開した六本のアルベスは主と戦う槍であり、主を守る盾にもなる。

 

「──バースト・ロア」

 

 トリガーとなる言葉と共に、6本の槍が爆裂。

 蓄えられた火属性のチカラによりフェンリルとケルベルスを大きく吹き飛ばすと、ゼタの傍らへと再び控える。

 

「イイ子ね……“フォロー”に移行。ここからは付いてきなさい」

 

 再び彼女の言葉をトリガーに、六本のアルベスがその動きを変える。彼女の傍を少し離れ広く展開。

 それを見届けるや否や、ゼタは吹き飛ばされた二体の片割れ、フェンリルに向けて踏み込んだ。

 

「はぁああ!!」

 

 最速を以て突き出されるアルベス。

 力任せ、勢い任せな戦いなど、今の彼女にはあり得ない。全身の可動域を余すことなく利用した鋭い突きは、彼女にとって確かな最速である。

 バースト・ロアによって僅かに生まれた意識の隙間。ゼタの追撃に一瞬対応が遅れたフェンリルは回避すること間に合わず肩口にアルベスを突き込まれた。

 

「ぐぁっ、て、てめえ──がっ!?」

 

 言葉は続かなかった。ゼタの動きに追従するように2本のアルベスがフェンリルの両足を射抜いている。

 更にゼタは追撃。

 

「焼き尽くしなさい──ブレイズ・ロア!」

 

 本体と二本の分身。計3本のアルベスより伝わる炎がフェンリルの体を包み込む。

 その火力は全開開放前のアルベスの比ではない。

 悲鳴の声すら挙げさせることなく、フェンリルの躰を焼き尽くした。

 

「ちっ、なんていう火力だ。ケルベロス、再構成の時間をお願い」

 

 思わぬ事態にロキの余裕が消える。

 即座に転送して呼び戻したフェンリルのコアから再構成を開始。消失した躯体を創り出す間、ゼタに対応させるべくケルベロスを差し向ける。

 

「ココ、ミミ行くよ!」

「本気わん! 

「ぶったおすわん!」

 

 その手に戻したココとミミにケルベロスは絶大なチカラを宿す。

 直後、闇のチカラを付与された二匹を、最速で打ち出し縦横無尽に駆け巡らせた。

 

「トライアド・ダムネーション!」

 

 これまでとは違う、速度も威力も桁違いとなったココとミミの突撃。

 空間を埋めつくすかのように無軌道を描くケルベロスの奥の手は、数瞬の間を置いてゼタの体を狙う。

 頭部と頸部。人体において急所と言えるであろう場所を的確に狙ったそれは星晶獣のチカラも加わり必殺の一撃となるだろう。

 

 だが、これまでと違うのはゼタとて同じ事。

 全開開放となったアルベスのシリウスモード。

 先程のオートで迎撃した防御はまだ彼女が扱いを把握していなかったからに過ぎない。今の彼女にはケルベロスの攻撃がどこから来るのかが手に取るように感じ取れた。

 シリウスモードの利点。分身体のアルベス6本による知覚領域の拡大。敵性存在を機械的に検知し、それを感覚的にゼタへと伝える。ラカムのような危機察知能力を、アルベスを介することでゼタも同様に得ているのだ。

 無論、分身体による攻防への利点も計り知れないだろう。

 故に──

 

「甘いのよ!」

 

 手の持つ槍と、分身体の迎撃網がココとミミを打ち落とす。

 

「再構成完了。いけ、フェンリル」

 

 ゼタの躍進にロキの声音が冷たさを増していく。

 常であった薄ら笑いも軽い気配も存在していない。

 冷酷で無慈悲な声の下、再びフェンリルをけしかけケルベロスにも指示を下す。

 

 今度はこちらの番だといわんばかりにフェンリルが吶喊。

 先程焼き尽くされた分も含めてやり返さんとゼタに迫った。

 

「うぅがるぁああ!!」

 

 氷の咆哮が氷柱を生み出す。ゼタの能力を見て図ったフェンリルは搦手を選択。氷柱で隙を生み出し叩く作戦に出た。

 

「くぅ……よくも。ココ、ミミ、もう一回行くよ!」

 

 同時にケルベロスも怒りの炎を宿し動き出す。

 再び放たれたトライアド・ダムネーション。さらに今度はケルベロスもゼタの下へと踏み込み直接叩きに来ている。

 氷柱とフェンリル。ココとミミとケルベロス。先程より明らかに多い攻め手は、偶然にも完全一致のタイミングでゼタへと襲い掛かった。

 

 全開開放を経たところで、知覚領域が広がった所で、ゼタ自身の身体能力には変化は無い。それは反応速度も反射速度も当然である。

 天ノ羽斬のように自己強化を施す術を持たない以上、アルベスとゼタではこれほどの攻撃を捌く手段があっても、捌き切れるだけの能力は無い。

 

「ロゼッタ!!」

 

 ならば、とゼタは自身での対応を捨てる。

 一人でできる。一人で倒せる。そんな思い上がりが今更あるわけもなかった。

 だから、仲間を頼ることを厭わない。

 彼女の呼びかけに当然の如く応える茨の結界。

 氷柱が突き刺さる寸前に、ココとミミがゼタを捉える寸前に、茨の結界が割り込み事なきを得る。

 

 

 そして────

 

 

「今度はばっちり見えてるだろ? おっさん!」

 

「生意気言うじゃねえか。満身創痍だからって外すんじゃねえぞ、ラカム!」

 

 ロゼッタによる防御が成った瞬間を見逃さず、二人の操舵士は体を地面に横たわらせたまま狙撃体勢へ。

 二人とも負傷はそこそこ。ロゼッタによる治療とて僅かな時間では効果が見込めるはずもない以上、今の二人は負傷を圧しての動きだが、不安を抱かせるような気配ではない。

 

「バニッシュピアース!」

 

「ディアルテカノーネ!」

 

 ありったけ、全てを込めた銃弾が二つ。ゼタへと突撃していたフェンリルとケルベロスを正確無比な射撃で打ち落として見せた。

 

「がぁ!?」

 

「こんの、調子に乗──」

 

「──隙だらけじゃぞ、星の獣よ!」

 

 全力の一撃を防がれ、更には全力の一撃をもらい生まれた僅かな隙が、この戦いの明暗を分ける。

 肉薄するは老練の剣士。

 ラカムが、ロゼッタが、ヴィーラが、ゼタが……仲間達が稼いだ時間が今一度彼等に立ち上がる猶予を与えてくれた。

 だから飛び込んだ。もっとも危険のある星晶獣の懐へと。

 そして再び閃かせる……剣聖と呼ばれた者が培った剣技の全てを。

 

「イオよ、援護は任せるぞ……はぁああ!!」

 

 一閃。全力を込めた一撃“序”がケルベロスを打ち上げる。

 同時、その場を駆けた一つの光弾がフェンリルを打ち上げる。

 

「逃れられると思わないでよね!!」

 

 打ち上げられた二体に対して追撃。序から“破”へ、目にもとまらぬ連続攻撃へと移行したアレーティアによってフェンリルとケルベロスが幾度も打ち出され、その全てをイオのフラワリーセブンが追撃。

 都度七回、二体の星晶獣をアレーティアの眼前へと叩き落とし続けた。

 

「こんなもんで」

 

「このくらいで……倒せると思ったら」

 

「否! これで終いじゃ────白刃一掃!!」

 

 “急”の発動によって、アレーティアは己に宿るチカラの全てを開放。極限まで振り絞った集中力とチカラを以て奥義を打ち放つ。

 剣聖の持つ二刀が、態勢を整えようとするフェンリルとケルベロスを捉えた。

 ギリギリの所で四肢による防御だけはできたものの、二体はアレーティアの一撃に大きく後方へ弾き飛ばされる。

 ──その先には、二体を使役するロキの姿が。

 

 

「お膳立ては済んだようです──後は貴女が決めてください、ゼタ」

 

 

 もはや動けぬヴィーラは、きっと届いていないであろう声を少し先にいる親友の背中へとかけた。

 少し遠目ではあるが目に見えてわかる。ゼタの周囲を渦巻く尋常じゃないほどのチカラの奔流。

 それが解放されたアルベスによるものなのか、それとも彼女自身が持つチカラなのか。あるいはその両方なのかもしれないがとにかく、この戦いに終止符を打つであろう事を予感させた。

 

 

「アルベスの槍よ、全てのチカラを今ここに」

 

 

 静かに構える彼女の呟きに応え、集う分身の槍が六本。彼女の目の前で踊るように円筒状に並んだ。

 その様は槍でできた巨大な砲身を思わせる。解放されていくチカラがそこに集い、淡い青の光を徐々溜め込んでいく。

 ロゼッタが生み出した茨の空間を、青く優しい光が埋めつくしていった。

 

「二人とも、早くこっちに。今すぐ転移を──」

 

「遅い!」

 

 飛ばされてきた二体を傍に呼び寄せ、ロキは慌てたように転移魔法を起動。

 だが、やられ続ける二体の再構成を考えて意識と魔法のリソースを割いていた事。二体がこうも簡単にやられる事を想定していなかった意識の隙がロキの明暗をも分けた。

 

 

「これで終わりよ! ──穿光招来、シリウス・ロア!!」

 

 

 両手で担いだアルベスの槍で、ゼタは砲身を貫いた。

 次の瞬間、きっかけを与えられた砲身から決壊したダムの様に青い光が溢れ、ロキに向かって迸る。

 魅入るほど眩い、絶大なまでの青き穿光“シリウス・ロア”が、そこにいたロキだけにとどまらず全てを飲み込み撃ち貫いていった。

 

「でぇやぁあああ!!」

 

 止めない。手心は加えない。

 そういわんばかりの気合の咆哮。彼女の声に従い閃光は激しさを増していき、光はより太く巨大になって埋めつくしていく。

 

 どのくらいの時を青い光が蹂躙しただろうか。

 時間にして数秒の出来事であろうが、傍で魅入っていた仲間たちには妙に長く感じられる光景であった。

 光が収束し、全てが終わった後に残るものは、静寂とぽっかり空いた外まで見える巨大な穴が一つ。

 

 

「ふぅ、皆が一緒で良かったね……」

 

 

 静かな空間の中で、ゼタの呟きだけが妙に綺麗に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「行くぞ!」

 

 

 セルグの声を皮切りに、火蓋を切って落とされたバハムートとの最終決戦。

 

 巨大な咆哮が轟く中、真っ先に飛び出したのは彼女。青い大弓を構え、すでに収束した魔力矢をつがえたソーンである。

 コスモスのチカラを得たその一矢は、当たれば間違いなくバハムートの存在とチカラを削ぐことができよう。

 

「ニオ、強化をお願い!」

 

「わかってる」

 

 滑るように彼女に追従して並んできたニオが旋律を奏で、彼女の調子を整える。

 際立つ集中力、鋭くなっていく気配は狩人である彼女の本能が剥き出しにされたようであった。

 

「そこっ!」

 

 引き絞られた弓から矢が放たれる。

 グランのキルストリークを軽く凌駕するであろう、ソーンの必殺の一矢“クリンチャー”が暗雲立ち込める空を駆け抜けた。

 着弾──爆発のような派手な音を立てることはないが、その威力をはっきりと物語るように、バハムートの胸部が大きく抉れる。

 コスモスによる再生叶わぬ今、その傷は間違いなくバハムートにとって深手となる大きなものであった。

 そして今まで付くことなかった傷が出来たなら、そこを突くのが常套手段といえる。

 セルグが生み出した白い鳥に乗り、バハムートへと吶喊するのは槍を握るウーノ。

 

「これでも槍使いで最強を謳う自負があるのでね……守りだけだと思われては癪というものだ」

 

 鋭くバハムートを見据えたウーノは白の鳥リアスと共に接近していく。

 無論バハムートとて手をこまねいているはずがない。巨大な腕が、巨大な魔力弾が、そして破壊の奔流が……情け容赦なくウーノを襲う。

 それらを突き、払い、そして受け止めていく。ただの防御ではなくカウンターを織り交ぜた迎撃は、確かな威力を発揮し、バハムートへとダメージを蓄積していった。

 そして、十分に接近したところでウーノはリアスの背を蹴り飛び出す。

 

「受けるがいい──天ノ逆鉾!」

 

 青の槍を構え、リアスの飛行速度に跳躍の速度を加えたウーノは弾丸の如くバハムートへと迫り、ソーンが付けた傷へとその槍を突き立てた。

 青のチカラと共に、一筋の光となったウーノの一撃はソーンのクリンチャーで穿たれた傷をさらに深く──

 

「ぬぉおおお!!」

 

 否、裂帛の気合と共にウーノはこの一撃に全てを込めた。抉られた胸部をさらに深く、深く……そしてとうとう貫いてみせる。

 バハムートの巨躯に空虚な穴が開いた。

 

 空を揺るがすような咆哮が悲鳴へと変わる。

 

 その大きさゆえに耳をつんざくような悲鳴と形容できる。が、悲鳴は同時に怒りの証左でもあった。

 大翼をはためかせ僅かに上昇。胸部を貫かれて尚、全く衰える事のないバハムートは幾度となく放ってきた破壊の奔流を口腔へと溜めていく。

 コスモスにより再生のチカラこそ機能しなくなったものの神に等しき星晶獣には依然として純然たる破壊のチカラが備わっている。悲鳴の咆哮は怒りの砲口となり、バハムートの口元より眼下へと解き放たれようとしていた。

 

 

 

 常人であれば怯んで動けなくなるような悲鳴の咆哮を聞きながら、地上にもまた彼らの次なる一手が待ち構える。

 

「フュンフ、無理はしちゃダメだよ」

 

「ありがとーエッセル。でもあちしは大丈夫だよ」

 

 地上にて準備万端と構えているのはフュンフだ。

 ここまで最も活躍しているであろう最年少のフュンフをエッセルが気遣うが、魔導の申し子である彼女はどこ吹く風といった様子である。

 自由に戦っていいとウーノに言われたせいか、枷を外されたような感覚でフュンフは攻撃魔法の行使を始める。

 瞬間、膨大な魔力が彼女より迸った。

 ジータもイオも……恐らく黒騎士ですら届かぬ魔導の才。正に神童と呼ばれるに値する規格外の才覚が今解放される。

 光の魔力が宙を漂い、その形を成していく……イオがよく扱う魔力弾だろうか? 或いはジータのエーテルブラストの様な放射型の光魔法? 

 彼女が形作ったその魔法はどちらでもなかった。敢えて比べるのであればルリア。本質は違うが目の前の巨龍を喚びだしたルリアが近い。

 

 そこにあったのは莫大な魔力が作り出す光の龍。それが、彼女がもたらした埒外の魔法であった。

 顔や鱗といった表面上の細部に造詣はないが、その形だけは紛うことなき龍種のそれ。サイズこそバハムートには遠く及ばないだろうが、生物の頂点に君臨する龍種と呼ぶに相違ない。

 

「いっけぇえ──!!」

 

 杖の一振りと幼い声が合図となった。口にあたるであろう部分を大きく開いた光の龍は、その身と同じ光を束ねバハムートへと打ち放つ。

 少女を背に乗せて余りあるであろうその体躯を超えるような、強く大きな閃光を。

 同時に、バハムートも破壊の奔流を解き放つ。

 アダムを壊し、セルグを殺した大いなる破局を……少女が生み出した龍が放つ、白き閃光が食い止める。

 

 白と黒の対照的な光がアガスティアを照らした。拮抗する互いの攻撃はアガスティアの直上でぶつかり合い激しい魔力の火花と音を散らす。

 もはやヒトの入る余地がないと思える、強大すぎるチカラのせめぎ合いであった。

 だがそれでも、ヒトが生み出したチカラではバハムートに届かないのが覆せない事実だ。

 

「うぅ~ちょっと無理そうだよ~」

 

 徐々に、白き閃光の方が押されていく。

 白き龍の背に跨り、その身に魔力を供給し続けるフュンフであったが、彼我のチカラの差を感じ取り苦悶の表情を浮かべていた。

 そんな彼女を勇気づけるように、一人の男が声を挙げる。

 決戦に臨む佇まい。その身より漏れ出る覇気は純然たる強者の証。天星剣王シエテその人である。

 

「大丈夫だぞフュンフ。今日はお兄さんが本気も本気、超本気だからね。もう少し耐えてくれ……あのくらいすぐに俺が──」

 

「もーおしゃべりばっかり長いんだよぉ!! こっちは大変なんだからさっさとしてよ。もぅホント、そーいうとこだぞ!!」

 

「あぁーわかった、わかったって……それじゃ、天星剣王シエテ参る!」

 

 幼子にどやされながらもシエテは目つき鋭くバハムートを睨みつけ青い剣に宿る全てのチカラを開放する。

 いつものように剣拓を召喚することはない。アナザーより渡された青い剣の剣拓を取ろうとしたができなかった以上、バハムートに有効なのはこれ一本以外に他はないのだ。

 剣拓の様に打ち放つことなく、剣の柄を握りしめる感覚にどこか緊張に似たものを感じて、知らず知らずシエテは何度も握りなおした。

 

「今日だけの特別な一太刀だ。ありがたく受け取りな──はぁああああああ!!!」

 

 感触を確かめたのも束の間、青き光が天を突くように立ち上ると、その光と共に全てのチカラをのせて振り下ろす。

 巨大、というよりは青い光によって長大な一振りとなった剣が、大いなる破局を切り裂いていき、破壊の奔流だけに留まらずバハムートの身体をも切りつけ、アガスティアへと叩き落とした。

 

「シス、カトル! 手を止めるな、次だ!」

 

「言われなくても」

 

「わかっていますよ!」

 

 バハムートが地上に叩き落されたところで、次なる一手へ。

 態勢を整える猶予を与えることなく、上空よりシスとカトルが急襲する。

 青く輝く尖爪と短剣を構え、足場としていたヴェルとリアスの背から飛び出すとバハムートの大翼へと目掛けて急降下を開始する。

 

 叩き落されたバハムートは二人の気配に気づき迎撃──僅かに先手を取った。

 勢いよく身体を起こしそのままに巨大な腕で二人を薙ぎ払う。暴風を思わせるような音を立て、空気を切り裂きながら二人を襲う。空中で落下するだけの二人にそれを回避する術は無い。

 あわやといった所で、バハムートの腕を立て続けに爆発が襲った。まるで機関銃のように連続した爆発音。もたらしたのは地上で二つの銃を構えるエッセルである。

 

「ジャマはさせないよ、“スターダスト”!!」

 

 コスモスに上乗せされた火のチカラ。魔力によって生み出される弾丸が瞬く間に十発吐き出される。

 音を聞けばわかるだろうその弾の密度。繋がった一つの音のように聞こえるのは、誇張でもなんでもなく一瞬のウチに十発の弾丸を撃ち出しているからだ。そしてその密度のまま火属性による爆発力を持った弾丸は一瞬の内にバハムートの腕で十度弾ける。

 

 質量僅かな銃弾で巨大なバハムートの腕を弾いてみせる離れ業が、シスとカトルの背中を押した。

 

「行って、二人とも!」

 

 物静かなエッセルがらしくない大声を張り上げて叫ぶ。

 その声に応えるように無言のまま二人は二枚の大翼へと己が得物を突き立てた。

 

「行くぞ」

 

「遅れは取りませんよ」

 

 互いに届いてはいないであろうやり取り。左右にある一対の大翼それぞれに得物を突き刺した二人は、次の瞬間には空を駆ける。

 バハムートの巨体を蹴り、ニオが用意した足場を跳び、中空で受け止めてくれる白と黒の鳥の背から飛ぶ。

 大翼を幾重もの閃光が刻む。二人が通りゆく軌跡にそって数多の傷が刻まれていく。

 大翼に無造作に走る軌跡に、毛細血管のように刻まれた傷。その全てはコスモスにより再生を施せない傷痕となってバハムートに刻まれた。

 数秒、それでことは済んだ。大翼はボロボロに様変わりし、もはやバハムートに飛行能力は皆無であろう。

 バハムートを刻みに刻んだシスとカトルは、役目を終えたと言わんばかりにその場を離脱──

 

 そう思った瞬間、世界の色が変わる。

 

 バハムートを中心に爆発したかのような衝撃。

 放射状に広がったその衝撃は至近にいたシスとカトルを弾丸のように弾き飛ばしアガスティアの街を瓦礫に変えながら沈めていく。

 何が起こった? と疑問を挟む余地は無かった。

 黒銀の身体の節々から赤黒い光が漏れていた。その姿はさながら終わりを迎える恒星のようなエネルギーの塊を予感させる。

 間違いない。臨界に達したバハムートの怒りが最後の手段を講じさせているのだと彼らは理解した。

 

「サラーサ、準備はいいか!」

 

「待ってたぞ……準備万端だ!!」

 

 バハムートの様子を見て、焦燥を乗せたシエテの声がかかる。

 それに応えたサラーサの声に合わせ、同種のチカラがアガスティアの街にもう一つ顕現する。

 巨大で強大な、目の前の巨龍に匹敵するであろうチカラが……

 そこに座するは小さな魔神。比類なき膂力と、ヒト一人が備えるには埒外なチカラを内包する規格外の少女。

 青き大斧を構えて全てを粉砕するべくサラーサは獣の如く前傾姿勢で構えていた。

 

「調律するわ」

 

「応援は任せろー!」

 

 傍らに降り立つニオとフュンフにより仕上げが入る。

 膨大なチカラを制する手助けと、単純なチカラの総量を増やす、更なる強化。

 

 同時に、バハムートのチカラも臨界点を迎えていた。

 傷ついたボロボロの腕を頭上に振り上げる。これは腕による攻撃の予備動作ではない。

 バハムートを中心に広がっていた力場が場所を移していく。バハムートの直上で、巨大なチカラの塊となって。

 奇しくもそれは先にサラーサが与えていたであろう一撃、メテオスラストに酷似した破壊の球体。

 超大なエネルギーをそのまま眼下へと落とし全てを無に帰す、バハムートの最後の手段“スーパーノヴァ”である。

 バハムートはそれを渾身でもって振り下ろす。

 全てを灰燼に帰す、破壊のチカラが投げ込まれた。

 

「ヴェル、リアス、彼女にチカラを!」

 

 セルグもまた二人に指示を下す。

 即座に反応した黒と白の鳥はサラーサの元へと向かうとその翼で彼女を包み込んだ。

 分け与えられる調停者のチカラ。一時的な間借りだとしても、ヴェルとリアスにより与えられたチカラによってサラーサは今、覚醒してアナザーとなったセルグと並ぶだろう。

 

「いっくぞぉおおお!!」

 

 種族故の小柄な体にこれでもかと詰め込まれたチカラをサラーサは一挙に解放。

 破壊をもたらす光の球に向かって飛び出した。

 

「これが私の全力だ! アストロデストラクション!!」

 

 破壊の光を前に、その全てを叩きつける。

 調律され、幾多も上乗せされた、彼女自身も図れぬ未知の領域のチカラを。

 瞬間、彼女が感じ取ったのは僅かな均衡。そして次ぐ敗北感。

 足りない、これでは押し切られる。それを瞬間的に悟った。

 

「なんだよこいつ、これでも──」

 

 ダメなのか。頭を過ぎりそうになった言葉を即座に否定する。

 敗北は死。今この場だけのことではなく、彼女にとって敗北は常に死と同義である。

 弱肉強食の世界で生きてきた彼女にとってそれだけは飲み込めない。

 ましてや今ここに在るのは己だけではない。

 覚悟が定まりサラーサの背中を押した。敗北など──あってなるものかと。

 

「ごぉあぁあああああ!!」

 

 言葉とならない叫びの中、サラーサはアストロデストラクションに追撃を加える。

 追撃とはいっても二撃目ではない。一撃目で押し切るべく更に力を込めただけだ。

 だが、その膂力が。敗北を許さぬ不退転の決意が、わずかに破壊の光球を上回る。

 

 爆発──破壊の光球スーパーノヴァはサラーサによって、アガスティアに落ちる前に爆散した。

 その衝撃だけでもアガスティアを大きく揺るがすものであったが、至近でそれを受けたサラーサはシスとカトル同様、街を瓦礫へと変えながら沈んでいく。立ち上がる気配は──ない。

 

 やはり圧倒的であった。

 コスモスを得た彼ら、十天衆をもってしても、こうも簡単に落とされる。それが神に等しきチカラを持つ星晶獣のチカラなのだ。

 

 バハムートは吼える。

 未だ破壊できないアガスティアの島も、必死に戦う彼らもすぐに先の三人と同じようになるだろうと言わんばかりに。

 

 

「何を勝ち誇っておる、強き龍よ」

 

「ここまでが全部お膳立てだ……バハムート」

 

 

 バハムートの咆哮を引き裂くように、鋭い声が響き渡った。

 立ち上る青き光。双光は居並ぶ剣士二人が放つものであり、その気配はサラーサのように強大なものではなく、薄く薄く研ぎ澄まされた刃の様。

 

「嘗ての童よ、今のそなたは如何程か?」

 

「アンタの教えの通りだよ。最強の一閃……それがオレの答えだ」

 

「是非もあるまい──いざ」

 

 嘗ては師弟であった二人、刀神オクトーとセルグが並ぶ。

 コスモスを宿した刀と、神刀天ノ尾羽張。アナザーが生み出した二刀が今、世界を守る一太刀を担う。

 

「絶刀招来」

 

「神刀顕来」

 

 髪を用いてヒトの剣速を超えたオクトー。

 極限の自己強化により、見えない剣閃を放つセルグ。

 その二人が放つ最強の剣技。

 

「捨狂神武器!!」

 

「天ノ尾羽張!!」

 

 最強を体現する何者も阻めることのない至極の一閃が二閃。アガスティアの街を駆け抜ける。

 寸分の狂いもなく同時に、寸分の狂いもなく同じ場所へと、至極の一閃は放たれた。

 結果は──

 

 

「ははっ、これは何とも……見事という他ないね」

 

 

 呟きはシエテ。

 渇いた笑いを浮かべる彼の視線の先、そこには頭から綺麗に真っ二つとなったバハムートの姿。

 頭部にあったであろうコア毎綺麗に断ち切られ、徐々に星晶の塵へと還っていく。

 

 後に残るのは静寂を取り戻すアガスティアの街と、刀を納める静かな音が鳴り響くだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 おまけ

 

 

 

『“それぞれ”の死闘』

 

 

 激しい戦いが続くアガスティアの街。

 フリーシアの野望を止めるべく、エルステ帝国の幹部と戦うグラン達。

 破壊と再生を司るバハムートを抑えるべく死力を尽くす十天衆。

 アガスティアの市民を守るべく奮闘する秩序の騎空団を始めとした面々。

 誰もが必死に戦っている。

 

 

 そんな中、彼等もまた己に課せられた使命の為戦っていた。

 

 

 

「うおぉああああ!?」

「びぃええいいいえええ!?」

「どぁああっはあああ!?」

 

 

 声の感じから察するに、やべー状態なのだろう。三者三様に悲鳴を挙げている。

 奇怪である事はこの際言及するまい。

 

 とにかくそんな感じで悲鳴を挙げながら疾走する四脚戦車は、後を追いかけてくる水流カッターを躱し、飛来してくる歯車を弾き、僅かな合間を狙って攻撃──ではなく僅かな時間で必死に休息をとる奇妙な戦いを繰り広げていた。

 

 

「っぜぇ、ぜぇ……エルっち、トモちゃん……あとどのくらい動けるよ?」

 

「はぁ……はぁ──そろそろ足攣りそう」

 

「ひぃ……ふぅ……控えめに言ってガチで倒れる5秒前的な? ってかこっちの心配よりローアインこそあとどんだけ捌けんのよ?」

 

「あぁ? ばかおめぇ、俺ってばコックで料理専門だぜ────既にナイフボロボロ腕パンパンで無理めに決まってんべ」

 

「「ですよねー」」

 

 疲労困憊。それをここまで体現できる者など彼等以外に居ないだろう。

 軽口の応酬の裏で膝は笑い、腕は上げる事適わず、心臓は早鐘を通り越して機関銃のように跳ねまわっている。

 本来なら息をつくためにも喋らない方が良いはずなのだが、何故か彼等は無理を押して口を開く。

 そうしなければ疲労を認識してしまう。認識すればすぐにでも身体はいう事をきかなくなると本能的に察していた。

 

 

 

 

 アガスティアへと突入したグランサイファーの艇内で、戦闘要員ではないローアイン、エルセム、トモイの三人は待機していた。

 己の分は弁えているといった所か。決戦とはいえ下手について行けば足手纏いが確定的に明らかなこの状況では、待機組に甘んじるしかない。甘んじるもなにも、これまでずっとそうだっただろうとは口が裂けても言ってはいけない。

 

 とにもかくにも、待機組として大人しくグランサイファーに潜んでいた三人であったが突然の地響きが彼らを襲う。

 続いて轟く巨大な咆哮に好奇心が勝り、艇内から顔を出してしまったのが彼らの運のつきであった。

 

 遠くに見える巨大な龍に驚愕を浮かべた刹那……もっと近く、もっと手前にもまた、やべー奴がいる事を確認する。

 

 

「(アッ──ー!!!)」

 

 

 副音声に起こすとこうであろうが、実際には表現するにし難い驚愕に染まった音が漏れるだけであった。

 細くしなやかで長ーい体を持つ蛇に酷似した何か(星晶獣)と、ゼンマイ式の時計の中身を引っ張り出したような何か(星晶獣)が音に釣られて彼等を視界に収め、そしてその意味を認識する。

 

 

「(へっへっへ、新しい獲物みーっけ)」

 

「(待ちなウナギ野郎。あれはこちらの獲物だ)」

 

「(つれねーこと言いなさんな、仲良く分け合おうじゃねえか)」

 

 言葉は発せないが恐らくこんな事をのたまっているに違いない。

 その証拠に奴等は互いを害する事なく、三人の元へと向かって来ていた。

 

 

「ど、どどどどどうすんだっておい!?」

「お、お、おおおちつけエルッチ! ここは腹括るしかねえ状況だっつーの!」

「や……やってやろうじゃねえか!! 行くぜ二人とも、騎馬戦だぁ!!!」

 

 

 かくしてここに決戦の火蓋は切って落とされた。

 艇を傷つけさせまいと飛び出し、二つのやべーやつの注意を引くべく、四脚戦車が戦場を駆ける。

 

 

 無論、彼らにこのやべーやつを倒せる手段は──────ない。

 

 

 それはどこまで行っても消耗戦。

 どこまで耐えようとも逃亡戦。

 そして、この混沌とした戦場ではどれだけ頑張ろうとも日の目を見る事のない静かな防衛戦となるであろう。

 

 だが。それでも待機組としてここから逃げ出すわけにはいかない。

 彼らの背には、大事な仲間達と過ごす大事な家が鎮座している。

 

「掛かってこいやウナギヤロ―が!!」

「ローアイン騎馬隊長が三枚におろして刺身にしてやんぞコラぁ!!」

「そこの時計ヤロ―もネジになるまでバラして組みなおしてグラサイの一部にしてやっからな!!」

 

 震える声を抑え必死に気勢を上げると、彼等は正しく彼等だけの戦いを始めた。

 

 時に騎手であるローアインを放りだして躱し、時にその辺に転がっている兵士の盾を剥いで防ぎ、時に四脚から六脚に────要するに三人バラバラになって逃げて混乱を誘ったりもした。

 

 できる事は全てやった。使える手段は全て使った。

 その結果が冒頭の疲労困憊である。

 

 彼らの体力が無いと言う事では決してない。

 料理とは突き詰めれば、体力勝負なものである。

 キッチンは料理人の戦場であり、調理とは言い方を変えれば食材との戦闘だ。

 コックとして優秀である彼等は、その辺のチンピラ風情では適わない程度に強者であることは間違いなく、そう易々とバテる筈もないだろう。

 

 だが、そんな彼等でも戦闘開始から既に1時間強がたつと話は変わる。

 反撃に打って出るだけの戦う術を持たない彼等にとって、命をすり減らしながらの艇を守る防衛戦は酷だ。

 あの手この手でのらりくらりと躱すにも限界がある。

 身体と神経を酷使した三人が先に終わりを迎えるのは自明の理であった。

 

 

 

「さぁて、ウナギヤローの水鉄砲チャージ完了を確認。どうすれば躱せるかご意見箱設置~」

「とりま時計ヤローにも目を向けるべきじゃね? あっちもあっちで歯車ブンブン丸してるもんよ~」

「つかよ、これもう無理寄りの無理じゃね? 俺達詰んだ感ありまクリスティよ……」

「はい、ご意見箱開示~。つまりもうワンチャンも無くて無理めなパティーン」

「んっだよ早々に諦めんのかよー、ここはローアインが隠されたチカラを解放してヒーロー案件になるとこだろー」

「んなことよりどうすんだってマジ。早いとこ打つ手考えないとマジでやばばば────」

 

 

「安心しろ、後は俺達に任せると良い……」

 

 

 命の危機に際して尚チャラけた態度が崩れないのはいっそ称賛に値する。

 そんな彼等の元に届いたのはやや低く唸るようでありながら、まるで呆れたような印象も受ける、実に落ち着いた声であった。

 

「団長達の艇を守っていたのか。戦えもしない癖によくやったな」

 

 彼ら曰くチャージされた水鉄砲が放たれるも、それを赤黒く巨大なチカラを纏った大鎌で相殺。

 弾けとんだ水飛沫を一帯に降らせながら、落ち着いた声の主は振り返る。

 駆けつけたのは黒く鋭利なデザインの鎧と、禍々しい鎌を肩に担いだ組織の戦士、バザラガであった。

 

「あ、あんた、バザラガパイセンじゃねえか!?」

「うおおお、これ九死に一勝? だっけか、とにかくこれそんなパティーンだわ!」

「…………マジで死んだかと思った」

 

「ふっ、相変わらず騒がしい奴等だ」

 

「鎧チキン、無駄話は後だ。さっさと仕留めるぞ」

 

「わかっている。

 お前達、少し離れていろ……悪いが今は、あまり加減ができなくてな」

 

 隣に並んだイルザの声に応えると、バザラガは再びグロウノスのチカラを解放していく。

 それはこのアガスティアに来た時と比べ随分と様変わりをしているようだった。

 元々赤黒く大きな鎌であったが、ここに至るまでにアガスティアの各所を回り、星晶獣もどきから喰らい続けた魔晶のチカラ。それがグロウノスに蓄積され大きく変容をもたらしている。

 より大きく、より禍々しく、より鋭く。

 解放の言霊の通りに喰らったチカラを刃と成して、グロウノスがリヴァイアサンへと牙を剥いた。

 

「ぬぅううあああああ!!」

 

 解放したチカラを以て斬り付ける。奥義も技も必要ないと言わんばかりに地を砕く巨大な一閃がリヴァイアサンを真っ二つに切り下ろした。

 真っ二つに裂かれたリヴァイアサンが魔晶の塵へと還っていく姿を見ながらバザラガは次なる得物へと視線を向け口を開く。

 

「あちらはお前が適任だ。任せる」

 

「あぁ──調停の銃ニバスよ、チカラを示せ!」

 

 イルザもまた、ニバスを解放する。

 封印術が込められたニバスの銃口に収束する光。弾丸に込められた術式と魔力が、引き金と共に放たれると巨大な閃光がローアイン達の目を焼いた。

 

「バーストイレイザー!!」

 

 障壁の有無など関係なく極太の閃光がミスラのコアの中心を撃ち抜き、魔晶の塵へと還す。

 

 

「すっげぇ……さすがゼタちゃんのいる組織メンだわ」

「やっぱやばばばバハムートだわ」

「──マジパネーション」

 

 一撃。長い事戦い続けていた彼等からすればとんでもなくあっさりと脅威は取り去られた。

 

 驚愕と共に渇いた笑いが漏れ、次いで自分達の弱さに胸中で落胆する。

 待機組として戦力に成れない事は理解している。だが、目の前に漫然とそれを見せつけられてしまうと、無い物ねだりの感情が出てくるのは仕方のない事なのだろう。

 仮にそれが、思い違いなのだとしても……

 

「いいや、お前達が消耗させてくれていたおかげだな。既に魔晶のチカラは殆ど残っていなかった様だ」

 

「その様だな。魔晶カスがほとんど出てこなかった。随分と長い事チカラを使い続けていたらしい」

 

「えっと……」

「それってつまり?」

「どぅゆこと?」

 

「魔晶が尽きればあれらはその身を保てず自壊する。元々クソみたいな素材から生み出されたなんちゃって星晶獣だ。

 倒されぬ限り消えない本物とは比較するのもおこがましいクソの塊だ」

 

「つまり俺達が来なくとももうアイツラにチカラは残されていなかっただろうという事だ。

 先程も言ったがよくやったな────この艇を守ったのは、正しくお前達だ」

 

 

 二人の言葉に歓喜を覚えてしまうのは仕方ないだろう。

 待機組として名高い彼等なのだ。

 弱い自分達が役に立てた事。頑張りが無駄ではなかった事。

 それらは、自身を誇るに値する貴重な事態である。

 そしてパリピとしても名高い彼等であれば、こういった時どうすれば良いかを、良く理解していた。

 

 

「「「お褒めいただきあざーっす!! ウェーイ!!」」」

 

 

 

 ここにまた一つ、死闘の幕が下りた。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

佳境佳境詐欺と言われそうな程終盤の文章長くて引っ張ってますが、もうしばらくお付き合いいただきたいです。
あと最後のおまけは終盤の空気的にこいつら入れるの難しいなっておもってNGにした没ネタでした。
裏では一応活躍していたんだよって事で知っておいて頂ければと思います。

それでは。お楽しみいただけたら幸いです。
感想お待ちしております。

アンケートを見るとやはり空蒼の人気が高い事が良くわかる。
各キャラとのエピソードを求める声が多いですが、個人的には連載の主軸1本と短篇書きながらって考えてるので、とりあえず空蒼書きながらキャラエピソード書いていく予定です。

本編完結間近という事で今後の参考に。完結後読みたいと思うのは

  • 色んなキャラとのフェイトエピソード
  • 劇場版。どうして空は蒼いのか連載
  • イベント。四騎士シリーズ連載
  • 次なる舞台。ナルグランデへ、、、
  • その他(要望に応える感じ)

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