granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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ごめんなさい。
放置してごめんなさい。
書く気が起きなくてごめんなさい。
音沙汰無しでごめんなさい。

グランデHLの解禁と共に投稿させていただきます。


メインシナリオ 第67幕

 

 

 エルステ帝国帝都アガスティア。

 

 巨大な帝国となったエルステにおいて最も人口が多い都市でありその数は百万単位に昇る。

 高層の建物が幾つも鎮座し、島の外観は殆どがその建造物で埋め尽くされている。

 雅、といった印象を抱く事はないが発展した都市は空の世界に置いて最先端と言っても過言ではないだろう。

 

 

 そんなアガスティアは今、空の歴史に刻まれるような大きな戦禍の真只中にあった。

 

 

 

 

 敵性勢力の突然の襲来。

 中型騎空艇が一隻、帝都に突撃し帝国軍との全面衝突を始める。

 その後、更に駆けつけた秩序の騎空団による大船団の増援。それに応ずるようにアガスティアに出現する数多の星晶獣。

 更には突如空に顕現した、超巨大な龍による暴威。

 

 

 アガスティアに住む人々にとって平和であったはずの帝都は今、大きな混乱と共に巨大な戦火に包まれた。

 

 

 

「鎧チキン、次で決めろ!! 絶対に仕損じるんじゃないぞ!!」

 

 顕現した星晶獣を狩り続けるイルザ達組織の面々。

 

 

 

「近くの島に避難します。慌てずに誘導に従って騎空艇に乗り込んでください!!」

 

 逃げ惑う人々を誘導し騎空艇で避難させる秩序の騎空団。

 

 

 

「まずいわシエテ。アイツ、少しずつ私の動きに順応してきてる」

「ソーンは回避に専念してくれ! サラーサ、オクトー、俺と一緒に切り込むぞ!」

「あぁ、任せろ!」

「委細承知」

 

 星晶獣バハムートを抑えるべく死闘を繰り広げる十天衆達。

 

 

 既に戦いはアガスティアに攻め込んできた勢力と帝国との戦いから、別の戦いへとシフトし、皆自分が胸に抱く何かの為に戦っていた。

 

 

 そして彼……いや、この場合“彼等”と表現する方が正しいかもしれない。

 彼等もまた、アガスティアで己の成すべき事を成す為、戦い続けていた。

 

 

 

「アガスティアの全市民を島から非難させます。駐留軍は直ちに避難誘導と騎空艇の発進を急がせて下さい」

 

「し、しかし……アダム大将は既に」

 

「今この時に置いて、エルステの軍人が最優先すべき事は何かを良く考えて下さい。

 裏切り者である私のいう事が聞けないと言うのならそれでも良いでしょう。しかし、それを理由に大切な事を見失っては成りません。

 貴方達エルステの軍人が守らずして、誰が民を守ると言うのです」

 

 元帝国軍大将アダムの言葉に、兵士達がたじろぐ。

 既に戦況は混沌としている。兵士達からすれば、任務を全うするべく戦う相手が誰なのかすらわからないのが現状。

 フリーシアによって裏切り者の烙印が押されようと、元大将であるアダムの言葉には信ずるにたる強さと重みがあった。この混沌とした戦況に置いて、従うべき言葉を与えられていない兵士達には正論に過ぎた。

 

 目の前で逃げ惑う市民たちを前にして成すべき事……そんな事は兵士の誰もが即断できるであろう。

 

 

「迷っている時間はありません──何もできないのであれば、何もしなくて良いです。ですが、せめて我々の妨害だけはしないでもらいたい」

 

「我々……?」

 

「今この島で戦う者達全てです。

 皆、この島の……ひいてはこの空の為に戦っています。避難を誘導する者から、脅威を食い止めるものまで。

 その邪魔をすると言うのであれば、エルステの者であろうと容赦はしないと思って下さい」

 

 ゴーレムの躯体……身も心も作り物であるはずのアダムが醸し出す、本気を思わせる気配。作り物が出せるはずのない威圧感は兵士を圧倒してみせる。

 勿論この兵士がアダムの正体など知っているわけがないので、元大将を相手に気圧されるのは当然なのかもしれないが、それ以上に今のアダムには鬼気迫るものがあった。

 

「────わかりました。これより部隊は全て避難誘導に回します」

 

 故に、彼等兵士には作り物であるはずのアダムの想いが正しく伝わった。

 戦意と警戒に包まれていた部隊長が指示を出すと、次々に伝令が飛んでいく。

 口々に飛び交う言葉は戦闘の中止と避難誘導への指示。

 それは実質、フリーシアへの裏切り行為であり、エルステ帝国との戦いの終わりを意味した。

 

「私も部隊と共に作業に加わります。秩序の騎空団との連携は大将閣下にお任せしても?」

 

「承りましょう。迅速にお願いします」

 

「ハッ!」

 

 走り去っていく隊長を見送るアダム。

 命令を守る。兵士として当然の責務であるが、それ以上に大切なものを彼は正しく持っていたのだろう。

 無差別に破壊の手を広げる星晶獣やバハムートの出現。状況が味方した面もあるだろうが、おかげでアガスティア市民の避難は楽になった。

 住民の避難が進めばリアクターによるアーカーシャ起動も、必要出力に至らずに止められるかもしれない。

 決して楽観視はできないが、状況に光明が見えてきたのは間違いがなかった。

 

 

「皆さん────空の世界を、お願いします」

 

 

 光明が見えた。だと言うのに、アダムの胸騒ぎは収まらない。

 未だ止まる気配のないバハムート。そして曇天を突き刺すようにそびえ立つタワーの最上部。

 二つの懸念が言い様の無い不安を煽り、呟かれた声には多分な憂いが込められた。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 互いの間合いはゼロ。

 踏み込んだ勢いそのままに振るわれる七星剣。それを迎撃するは、ポンメルンが握るやや細身の両刃剣。

 天星器が纏う金色の輝きに対するは、魔晶が齎す黒きチカラ。

 

 結果は────

 

 

「くっ!?」

 

 拮抗した数瞬の末弾かれた、グランの敗北に終わる。

 

「きぃええええ!!」

 

 弾いた勢いそのままに追撃に移るポンメルンの一閃がグランの首元へと迫るが、膝を抜き首を傾けることで最小限の動きをもってグランは躱した。

 既に意識は戦闘への完全没入状態。周囲の景色すら意識の外へと追いやるレベルでグランにはポンメルンの一挙手一投足が見えている。

 

「はぁあ!!」

 

 ウェポンバーストの発動。魔力によって強制的に漲らせた光のチカラを七星剣へと宿し、七つの光点を集結させる。

 

「北斗大極閃!!」

 

 最速を以て振るわれる絶対的七連撃。ポンメルンに金色の刃が情け容赦なく迫った。

 

 一閃。ポンメルンはそれを半歩下がって躱す。

 二閃。続いて剣による迎撃でいなされる。

 三閃、四閃、五閃、六閃。迫る刃を立て続けに魔晶によって張られた障壁に防がれる。

 

 七閃────最後の一撃はグランの手を狙ったポンメルンの蹴撃に止められた。

 

「なっ!?」

 

「隙あり、ですネェ!」

 

 続けざまに腹部に入れられた蹴撃にグランは自ら後ろに跳ぶことで大きく間合いを開ける。

 距離を開け両者は再び相手を視線で射抜くと、僅かに表情に陰りがみえた。

 互角────そう言って差し支えないだろう。互いに負けられない戦い、だが実力……と言うよりは恐らく僅かな経験の差が一連の流れに見えていた。

 斬撃の躱し方、防ぎ方。

 総じて防御面においてポンメルンはグランより上手と言える。

 

「ううむ、流石といった所ですか…………あの黒騎士に“任せる”と言わせただけはありますネェ」

 

「それはこちらのセリフだ。あの黒騎士に“簡単だと思うな”なんて言わせただけはある。まさか全部防がれるとは思って無かったよ」

 

 互いの言葉に、二人は件の人物を思い出す。

 広いホールのようなこの場に今はグランとポンメルンの二人しかいない。

 一緒にいたはずのビィ、ルリア、オルキスは、アポロ達に守られて先へと進んでいた。

 

 

 この状況に至るまでに経緯があった。

 スツルムとドランクを打ち負かし、グラン達の前に立ちはだかったポンメルンを前にして、グランは己がすべき最善を選んだ。

 それは即ちこれまでの仲間達同様、ルリアを先に行かせるためにこの場に残る事。

 

『黒騎士。それにスツルムさんにドランクさんも……ここは僕一人でいい。全員で先に行ってくれ』

『グラン!? 何を言うんですか、皆で一緒に──』

『小僧、貴様……自分が何を言っているかわかっているのか?』

『わかっている。本当のオルキスを取り戻すためにルリアを犠牲にしようとしている貴方に……一時的にでもルリアを預けたくはない。

 でも、ここで全員が足止めされていては間に合わなくなるかもしれない。僕達は、今できる最善を以て最速でリアクターを止めなければならないんだ』

『だからってよぅ、何も一人で戦う事ねえじゃねえか。スツルムかドランクのどっちかでも』

『ここから先、何が待っているか、誰が待っているかもわからない。ここで無為に戦力は割けない。できるのなら戦力は極限まで後に残しておきたいところなんだ。

 だから行ってくれ。この先何が待ち受けていようと、絶対に負ける事は無いと思える黒騎士が……七曜の騎士である貴方がルリアの最後の護衛に相応しい』

 

 ルリアとビィの反対を押し切り、グランは一息に促す。吐き出されたグランの言葉には一人でポンメルンを倒す覚悟があった。

 ここに残せるのは最小限の戦力────そう語った言葉とは裏腹に、グランの瞳は物語る。

 ここでポンメルンを倒す腹積もりなのだ。食い止めるでも時間を稼ぐでもなく、倒すと。

 それは彼自身にとって半分意地のようなものかもしれない。

 

 一度はアマルティアで惜敗した相手、故に負けられないと言う意地。

 惜敗したガンダルヴァにリベンジを果たそうとしたジータに対しての負けられないと言う意地。

 

 自分より強く、よりルリアを守れる可能性のあるアポロに先を託す意味合いも当然ながらあるが、まだ少年の域を出ないグランらしく、負けられない意地というものがグランのこの選択に多分な影響を与えていると思われる。

 ガロンゾでセルグに諭されたように、団長としてではなくグラン個人としての意思は、体の良い言い訳を並べながら目の前の宿敵との戦いに大いに戦意を燃やしていた。

 

 そう、宿敵なのだ。

 グランにとってポンメルンは、初めての強敵といえる。

 ザンクティンゼルで旅立ちの切っ掛けとなった戦いからこれまで。

 ガロンゾ、アマルティア、ルーマシーと幾度となく相対した目の前の強敵は、既に因縁浅からぬ相手となった。

 その宿敵を前に団長である仮面を取り払ってしまえば、今のグランに残るのは強敵との戦いに決着をつける気概。それに尽きる。

 

 

『────良いだろう、ここは任せたぞグラン。

 だが気を付けろ……奴もまたガンダルヴァ同様、既に計り知れない領域にいる。決して簡単だと思うなよ』

『わかっている』

『グラン……絶対に絶対、負けないでください。私も必ず、リアクターを止めて見せますから』

『安心してルリア。僕も必ず追いつくから。スツルムさんにドランクさん……黒騎士と一緒にルリアを頼みます』

『全く、カッコつけやがって……このままじゃ私達はやられただけの足手纏いになるじゃないか』

『あ~、つまりこういう事ね。今回は僕らのメンツの為にも依頼料はタダで良いってさ。まぁ、僕としてもこのまま良い所無しじゃ恰好がつかないし。大船に乗ったつもりでいてよ』

『グラン……気を付けて』

『あぁ、ありがとう。三人共』

 

 こうして一行は先に進んだ。この場にグランとポンメルンの二人を残して。

 スツルムとドランクを相手にして下せる程に、今のポンメルンは強い。

 だが、グランであれば負けはしない────その信頼と共に。

 

 

 

 

 

「お前と会った事が随分昔のようですよ……思えばあのド田舎な島でお前達に出会ってしまった事がエルステの運の尽きだったのかもしれませんネェ」

 

 どこか、過去を懐かしむ様な……思いを馳せる様な声音でポンメルンは呟いた。

 ザンクティンゼルでの出会い、それはグラン達だけでなく帝国の、ひいてはポンメルンにとっても大きなターニングポイントであっただろう。

 カタリナがルリアを連れ出そうとしなければ。ルリアがグラン達と出会わなければ。グラン達がなんてことない、只の一般人であったなら。

 きっとこれ程までに、エルステ帝国が危機に陥る事は無かったはずだ。

 尤も、そうなればフリーシアの計画を止める者がおらず、近い内に世界の崩壊は免れなかったかもしれない。

 アーカーシャによって、星の民が襲来する事のない歴史を刻んだ空の世界へと書き換わっていただろう。

 そう考えると、ロキが唱えた世界の意志と呼べるものも、あながち荒唐無稽とは言えない。

 運命的とも言える彼等の巡りあわせは、世界の意志に導かれた必然であったのだ……

 

「僕達はあの時の出会いに感謝しているよ……ルリアと出会い、そしてお前達が来なければ、こうして旅をしてイスタルシアを目指す事も、強く成る事もなかった」

 

「フンッ、本当に可愛げのない子供ですネェ。確かに貴方達の侵略によってエルステの軍は瓦解。

 帝都がこれだけの戦火に包まれれば責任追及やその他諸々で、我輩もフリーシア宰相閣下も無事にはいかないでしょう────無論、貴方達がこのままアーカーシャを止められれば、ですがネェ」

 

 戦闘の優位に緩んだか、ポンメルンは少しばかりグランを……いやグラン達を見下す挑戦的な言葉を吐いた。

 アダムの離反、組織の面々の助力、更には十天衆の介入。

 恐らくではあるが帝国にとって不利となる事態が三点。それも全て戦局を大きく覆すようなものばかりだ。

 これらがあって、まだエルステ側に余裕があるのか。

 ポンメルンの態度にグランは訝しまずにはいられなかった。

 

「できないと思ってるのか? 追い詰めているのはこちらのはずだ。お前がここにいる以上、残る戦力はたかが知れている……いくら魔晶を使った所で黒騎士がフリーシアに負けるはずも──」

 

「リアクターの起動が必要、とはアダム大将からの情報でしたかネェ?」

 

「何?」

 

 唐突な話題の転換に眉を顰める。

 投げかけられた言葉の意味を理解すると共に、それが今の話の流れから出てくることに、グランは嫌な予感が沸々と湧いていた。

 

「残念ながらリアクターの起動などアーカーシャには必要ありません」

 

「なっ!?」

 

「あぁ、少し違いますかね、正確にはアガスティアの住民から時間をかけてリアクターにエネルギーを取り込む必要など無いと言うべきでしょうネェ」

 

「それじゃあ、まさか……」

 

 アダムが告げた残された時間。その根底が覆った。

 体感的にもまだ猶予はある。そう信じて疑わなかった残り時間は既に皆無である事を遠回しにポンメルンに告げられる。

 

「ご想像の通り、既にリアクタ―の起動は始まっているでしょう。我々が散々使い続けてきた魔晶のエネルギーを用いて……ですネェ。

 大体、アガスティアに居る人々全てから精神エネルギーを抽出してリアクターのエネルギー源にするなど非効率極まりない。抜かれれば行動不能になるリスクをこの島にいるすべての人間が負うのですから我々にとっても大きなデメリットになる。

 そんな強行策、実行に移すわけが無いでしょう。アダム大将の謀反の可能性を見越したフリーシア宰相閣下は既に別の策を用意していたわけですねぇ」

 

 勝ち誇った顔がグランの神経を逆撫でる。

 不安と焦りから隙を生ませる事も考えての情報の開示だろう。乗せられてはならないと思うものの、それを御しきる程冷静沈着にはグランはなれなかった。

 七星剣を構えて、チカラを解放する。

 

「それでも、こうしてお前が足止めに来てるって事はまだ時間を稼ぐ必要があるってことだ。だったらさっさとお前を倒して──」

 

「できますかネェ? 仮にも一度貴方を完膚なきまでに叩いて見せた我輩を相手に……短時間で倒して見せると?」

 

 戦意を燃え上がらせ攻め入ろうとするグランを見て、ポンメルンがあからさまに表情を侮蔑へと変えた。

 状況は理解している。焦ろうとする気持ちは良くわかる。

 だが、小僧の分際で己を侮るような発言。既に倒した気になっているグランの言葉はポンメルンの怒りを買った。

 

「思い上がるんじゃありませんよガキが。これまでの辛酸。失ったもの。我輩とて負けられないのは同じ事。

 帝国軍人として最後の意地というものを、お前に見せつけてやりますネェ!!」

 

 過剰な魔晶のチカラを解放し、ポンメルンから禍々しく黒い光が立ち昇る。

 反動など度外視。世界の改変を望むものにとって、先の心配など不要だ。

 求めるのは今この時この瞬間、目の前の不遜な少年を上回るチカラのみ。

 立ち昇るチカラを剣へと集約。グランの光に対する闇属性を剣に湛えて、ポンメルンが吠える

 

「さぁ、やりましょうか! 正真正銘、最後にして最強の我輩で貴様を血祭りにしてやりますネェ!!」

 

「上等だ、そっちに魔晶がある様にこっちにだって切り札はある────いくぞ、七星剣!!」

 

 対するグランも七星剣のチカラを解放していく。

 武器との対話。天ノ羽斬やアルベスの槍のように使い手を選ぶ武器という点では天星器も同じ。

 それはつまり、使い手次第でチカラの解放に更なる段階を踏める事に他ならない。

 より深く、より強く、七星剣の奥に眠るチカラを引出し己のチカラへと変えていく。

 

 

 ──振り回されない様に気を付けることだ。

 

 

 

「──―いくぞ、ポンメルン」

 

 既に意識は目の前の敵へと全て向けているグランが、胸の内に燻る声に気付く事はない。

 共に強大なチカラを剣に宿した二人は、タワー全体を震わせるような轟音と共に、再びぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 驚愕とはこれ程までに思考が回らない事態なのであろうか。

 

 己の内なる世界という非現実的な空間に意識を留めながら、己にとって最も非現実的である目の前の光景に、セルグの意識は固まっていた。

 無意識に加速していく呼吸。何かを求めるように伸ばされる手。

 脳裏にフラッシュバックする過去の記憶が目の前の光景を否定し、胸中に湧き上がる想いが目の前の現実を受け入れようとする。

 相反する心と意識が、セルグの身体から自由を奪っていた。

 

「────どう、して?」

 

「どうして、か……折角久しぶりに会えたのに、その反応はちょっと悲しいんだけどなぁ」

 

 言葉とは裏腹に、少しからかう様な気配。

 苦笑ともとれそうな柔らかな笑みが浮かび、嘗ての記憶と重なる。

 セルグの罪の意識が生み出した幻影などではなく、そこに在ったのは共に生きて幸せであった頃と同じ、優しい彼女の表情であった。

 

「もぅ……ずっとここで見て来たけど、本当に変わっちゃったね。昔は自信満々でいつでも落ち着き払ってて、驚いた顔なんてほとんど見せなかったのに。

 まぁ、それも私のせいだからとやかくは言えないけど……」

 

 そうして僅かながらにアイリスはため息を吐くと、足取り重いセルグに代わって軽やかに歩み寄っていく。

 やや頬を膨らませた子供っぽい仕草は、やはり生きていた頃と同じであり、セルグの疑念は徐々に払拭されつつあった。

 歩み寄ったアイリスの華奢な手が、無骨なセルグの手を柔らかく包むと、彼女は静かに口を開く。

 

「今ここに居るのは正真正銘の私。貴方を愛し、貴方が愛してくれた、アイリス本人だよ」

 

 伝わる声と温もりが、セルグの疑念を払拭する。

 どんな理屈かは知らない。だが今目の前で微笑む彼女は本物であり、嘘偽りの無い言葉を掛けてくれているのだと理解できた。

 

 同時に、セルグの胸中には止めどなく感情が溢れてくる。

 嘗て彼女と過ごしていた様々な記憶が再びセルグの中で巡り、それらはその終着点へと帰結する。

 

「──お前が」

 

 故に、セルグの口は自然と言葉を吐き出していた。

 抱き続けていた想い、抱え続けていた疑問、囚われ続けてきた罪の答えを。

 

「お前がもし本当にアイリスだと言うのなら教えてくれ。

 最後の時、お前はどうして笑って逝けた? なんでお前はこれから死にゆくと言うのに恨み言の一つも言わずに逝く事が出来たんだ」

 

 罪の意識を乗り越えた。イルザとの邂逅もあり、その認識はより強固となった。それはセルグの中で間違いなく言い切れる事であった。

 それでも、その原点たる彼女が目の前に現れて、聞かずにいられはしなかった。

 確かめずにはいられなかった。

 

「ずっと忘れられなかった。ずっと怯えて生きてきた。

 罪悪感が、ありもしないお前の憎しみを生みだし、俺はお前に殺される夢を見続けた」

 

「うん、知ってる」

 

「何度も死にたいと願った。この苦しみから解放されお前の元に行って裁きを受けたい。

 だがそうなる前に、オレは組織の連中に復讐を果たさなければいけない────その想いで生きてきた」

 

「うん……わかってるよ」

 

 俯き独白を続けるセルグに、アイリスは優しい声音で言葉を返していく。

 

「ごめんね、私があそこで死ななければ……私が貴方の傍に居ようとしなければ。貴方はきっとあんな風に苦しむことは無かった」

 

「そんな事は無い。オレはお前と過ごした時、確かに幸せだった。戦いの中でしか生きる意味を見いだせなかったオレに、お前は本当の生きる意味をくれた。

 オレにとって、お前はかけがえのない大切な存在だったんだ……」

 

「うん、その通りだよ。私は貴方にとってかけがえのない大切なヒトになれた。そして貴方もまた、私にとってかけがえのない大切なヒトになってくれた。

 同じなんだよセルグ。貴方と生きた時間、私は確かに幸せだった。戦えず逃げる事しかできなかった私に戦う術を教えてくれた。守る力を与えてくれた。

 そんな貴方を、私は心の底から愛していた。だから私は最後の時でも、満足して逝くことができた。貴方の傍で幸せのまま死ねたのだから」

 

 アイリスに手を握られながら、縋るように独白を続けたセルグが顔を上げる。

 語られた言葉に一縷の迷いも感じられないそれは、彼女の心情を如実に表し、セルグへ余すことなく伝える。

 死す時ですら笑顔であった彼女の想いを。

 

「こうして再び会って話せる機会に恵まれたから、私の口からちゃんと教えてあげる。

 貴方が自分を責める必要なんか無い。私は貴方からたくさんの幸せをもらった。感謝こそすれ、恨むような事……何一つありません」

 

 どこか呆けた様子で、セルグはその言葉を聞いていた。

 聞きたかった言葉。確かめたかった想い。

 だが、いざそれを耳にすると、簡単に受け止めきるのも難しかった。水と油の様に、その事実を自身に溶け込ませるには少しばかり時間が必要だった。

 

「アイリス、オレは──」

 

「だから、笑って生きて下さい。未来を共に生きる事を誓った、あの子達と共に……今度は、その手で全てを守って、幸せに生きて下さい。

 その為なら、私も全てを捧げて貴方のチカラになって見せるから」

 

「な、何を言って?」

 

 アイリスの発言に不穏な気配を感じ取って、セルグの焦燥が再び沸き起こった。

 目の前の最愛だったヒトを見ればどこか達観したような、決意を新たにしたような、そんな空気を感じさせる。

 嫌な予感が僅かによぎった。

 

「私がここに存在している理由がまだだったね。

 私は死の間際、貴方によってここに取り込まれた魂の一欠片。死んで、無に還るだけのはずだった私を失うまいと、貴方が無意識のうちに取り込んだ、私の最後の残滓」

 

「故にここに在るのは彼女であって彼女ではない。個として存在するには少なすぎる魂の残滓は彼女の形と意識を取ってはいても、既に死した事実は揺るがないだろう」

 

「母上!? 何でここに」

 

 突如飛び込んできた第三者の声。正確には黙っていたヴェリウスもここにいるので第四者だが、声の主をみてセルグはまた驚きの声を上げた。

 そこには真紅の眼を向ける彼の母親と呼べる少女。世界を監視し、維持する為に存在する調停者の姿があった。

 

「そなたの出自を忘れたか? 私の魂もまた、そなたに一部取り込まれている」

 

「そうか……そうだったな」

 

 驚きを消して、セルグは納得した。

 アイリスが魂の欠片、残滓としてここに存在するのなら、この少女の姿をした母親もまた、その魂の一部をセルグの中へと移している。

 

「さて、セルグ。この世界でそなたが成すべき事を伝えよう」

 

「成すべき事? という事はやはりオレはまだ死んではいないんだな」

 

「その通りだ。今、そなたの肉体は現実の世界で再生が成されている。

 だが、掛けられた魔法は死した肉体を蘇らせる様な再生魔法ではなく転生魔法に近い。漂う魂に寄り添う形で肉体を構築する魔法であるが為に、一つの個ではないそなたの歪な魂が肉体の再生を阻害しているんだ」

 

「オレの魂が歪?」

 

「うん。ここにいる私にしても、貴方のお母様にしても、貴方がこれまでに取り込んで来た星晶獣達の残滓にしてもそう。

 取り込んできてしまった全てが、貴方の個としての存在を朧気にして歪めてしまっている」

 

「ここに来る前に、セルグはこの世界で星晶獣達を全て倒し自身の魂へと還元した。それはこれまでのように取り込む形ではなく、完全なる画一という形に至っている。

 もうわかったはずだセルグ。そなたが生き返り、現実へと戻るために必要な事が……」

 

 母親である少女の声に、セルグの脳内で点と点が繋がっていく。

 この世界で戦った星晶獣達。目の前にいる最愛のヒトと母親。

 

「────お前達を取り込み、全てを一つにまとめなければならない」

 

 “そういう事になろうな”

 

「ヴェリウス……あぁ、そうだよな。お前も含めて……だよな」

 

 そう、ここにいる全てを統合し、個として一つにならなければ、セルグの蘇生は適わないのだ。

 

「私も、お母様の欠片も、そしてこのヴェリウスも、全て貴方と一つとなる。

 画一され、一つの魂へと至らなければ貴方が生き返る事はない」

 

「画一の為の不純物の残りはここにいる私達3人だけだ。後は先程の星晶獣同様、そなたの天ノ羽斬で私達を切り、“個”のままで残っている魂を砕けば画一は終わる」

 

 “迷うな若造、既に選択の余地はない。お主が蘇れなければ世界は消える”

 

 詰め寄るかのように、自身を破壊しろと口にする三人に、セルグは僅かに後ずさった。

 セルグがセルグで在る以上、その心には根深く存在する使命がある。

 親しき者達に手を掛ける事。セルグにとって簡単にできる事ではない。

 ここで消えようと存在し続ける母親の方はまだ良いだろう。魂の大元は存在している。消えるわけではない。

 だがアイリスとヴェリウスは別だ。既に死しているアイリスと、分身体とは言え個の存在となっているヴェリウスでは話が違う。

 

「何を簡単に……母上はまだしもお前達二人は」

 

「貴方と一つになれるのなら、私は望むところ」

 “お主と一つとなるのなら、我には何も異論はない”

 

 迷うセルグの声を、当の本人達が遮った。

 被ると思っていなかった当人たちもまた、顔を見合わせる。

 思わず、アイリスの表情の笑みが差した。わかりにくいがヴェリウスもまた心中は同じであっただろう。

 

「気が合うね、ヴェリウス」

 “よさぬか。散々に若造を苦しめてきた小娘に、我と若造の何がわかる”

「あー、何よそれ。私だってずっと内側からセルグの事を見て来たんだからね。それこそ、セルグの事だったら何から何まで知っているんだから! 逆にヴェリウスの方こそ、私達の何を知っているのよ!」

 “若造から小娘との記憶は全て見せてもらっている。何ならそなた等のとある夜の出来事を我の主観による感想も交えながら、仔細に──”

「わ──!? ちょっと何を言ってるの!! お母様の目の前で!」

「ほう……ヴェリウス、仔細な説明などではなく是非記憶の共有をできないか。我が子の営み、どのようなものだったか非常に興味深い」

「お母様!? 何を言ってるんですか! もーセルグ、ちょっと二人を止めて──」

 

 二人が始めた言い合い。その姿には恐怖、不安、ましてや後悔など感じられない。

 当然のようにセルグが悩んでいる事を受け入れている。

 重なった二人の言葉は本心なのだろう。迷う事、既にそれは二人への侮辱だとセルグは思えた。

 一つため息を吐くと、セルグは僅かに呆れた様に笑う。

 

「悩んだオレがバカだったな……悪かった二人共。さっさと済ませよう」

 

 言葉は軽く、決意は重く。大切な二人をその手で砕く意思を見せ、セルグは天ノ羽斬を抜刀した。

 揺蕩うような奇妙な心地に思えた。セルグは自身の覚醒をどことなく感じとり、蘇る事が出来るとわかった事にやはり喜びを感じていた。

 それが大切な者達を砕く果てに辿り着くのだとしても、だ。

 そんな彼の姿を見つめながら、少女は口を開く。

 

「安心しなさい。画一とは消失ではない。アイリスもヴェリウスも、消えるのではなくそなたと共に在るようになるだけだ」

 

「分かってる。それと心配せずに眺めていろ。世界は必ず守って見せる」

 

「あぁ、心配等していないさ。こんなにも頼もしい二人が見守ってくれているのだからな」

 

 未だ言い合いを続けているアイリスとヴェリウスを見やってから、彼女はセルグの前にその身を差し出した。

 無防備に、切ってくれと言わんばかりに歩み寄ってきた少女を、セルグは静かに切り捨てる。

 

 ──硝子のように砕け散った少女は、その欠片の全てをこの世界に溶け込ませて消えていった。

 

「先にして悪いヴェリウス。その……最後に二人になりたくてな。次はお前だ」

 

 いつの間にか寄って来ていたヴェリウスへと向き直り、セルグは申し訳なさそうに口を開いた。

 

 “相変わらず面倒な思考をする奴だ。答えの定まっている選択に躊躇するのは愚行よ。

 我の最後の忠告だと思って良く覚えておくのだな”

 

「いいや、最後にはしないさ。これまでもこれからも、お前はオレの友であり相棒だ」

 

 “ふんっ、なれば早く戻ってくるのだな”

 

 数度言葉を交わすと、ヴェリウスもまた、その身を差し出した。

 無防備なその躰へと振り下ろされる刃。硝子の様に砕け、また世界に溶け込んでいく。

 

「────アイリス、次だ」

 

「ふふ、ゼタ達お陰かな。最後に二人きりにしてくれるくらいの甲斐性ができたのは。

 まぁとにかく、怖くないし、哀しくもない。これは本心だからね。

 これからは本当の意味で貴方と共に生きていける。そう考えたら嬉しい位なんだから」

 

「さよならも言わない。オレがいう事は一つだけだ────またな」

 

「ふふ、そうだね。また……でも、この姿では最後なわけだし、最後に──」

 

 言葉は続かなかった。アイリスはセルグの腕に抱きしめられその胸の内にいた。

 強く、強く、そこにいる事を……ここにいた事を刻み込むように、セルグは彼女を抱きしめた。

 別れではない……だがそれでも、もうこの姿で逢う事はできない。

 それを惜しみながら、セルグは言葉を紡ぐ。

 

「好きだった……愛していた……」

 

「ふふ、ありがとう……私も、大好きだったよ」

 

 互いに、過去形で言葉を終える。

 それはどこまでも真実の囁きであった。

 愛する者同士の口付けもない、強く切ない抱擁だけして二人は離れる。

 もう、言葉は無かった。三度目の砕ける音がして、全ては世界に消えていく。

 

 

 

 ──統合は成った。

 

 セルグの内なる世界は揺れ始め、崩れようとしている。

 世界からセルグで在った者は消え、“セルグであった者”が新たに生まれようとしていた。

 

 

「────さぁ、共に迎えよう」

 

 

「オレの……セルグという存在の終末を」

 

 自身に宿ったであろう者達に語りかけるように、セルグは一人残った静かな世界で呟く。

 光を失い闇へと消えていくこの内なる世界。崩れゆく世界で、セルグは一つ、別れの言葉を告げた。

 

「────悪いな、みんな。さよならだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 十天が一人。魔導の申し子フュンフは、目の前の光景に茫然としていた。

 

 目の前に浮かぶ歪な存在。

 それは彼女が魔法による蘇生を施していた人物であり、普通であれば損傷した肉体が元に戻るだけであるはずだった。

 だが、目の前にいる彼は違った。

 

 彼女の魔法が及ぶにつれ、彼の肉体は徐々に……その気配をヒトから外れた者へと変化させていった。

 ヒトの枠を外れ、その存在は徐々にヒト非ざる大きなものへと膨れ上がっていった。

 

 フュンフは惑う。これまでに覚えの無い目の前の光景に……

 

 彼女の魔法に誤りはない。十天の一人であり魔道の申し子たる彼女が魔法に失敗する事など有りえない。

 であるならこれは、彼女の蘇生魔法が正常に機能して起きている事なのだ。

 

 ふと、何かの気配を感じて術式に集中しながらフュンフは振り返る。

 

「鳥……さん?」

 

 そこにいたのは黒と白の対なる鳥。

 彼女がいつも見上げるオクトーの倍くらいありそうな巨大な鳥の姿がそこにあった。

 いつの間に現れたのか……突然感じた気配から恐らく今この瞬間にこの場に現れたのだろう。

 振り返った彼女へと視線を向ける一対の鳥達は、厳かな雰囲気を醸し出しながらも、小さな彼女に頭を垂れた。

 

 ”魔導の童よ。我が主を頼む”

 

 ”もう少しで目覚めると思うから、それまでお願い”

 

「主、ってこのお兄ちゃん?」

 

 ”うむ……我らが主であり、我の大切な友だ”

 

 ”そう……私達の主人であり、私の大切な人”

 

「そうなんだ……わかった、任せて! もうすぐ終わるからね!」

 

 突然現れた得体のしれない鳥であるも、不思議と恐怖や敵意を感じる事は無かった。

 目の前にいる一対の鳥からは慈愛の念しか感じられなかったのだ。その視線の先は、件の彼に注がれている。

 言われるがままに、フュンフは蘇生の仕上げに入った。

 既に彼の身は、ほぼ完治に近いだろう。あとは離れかけた魂を定着させ、安定した状態へともっていくだけである。

 

 強大な存在との戦いに周囲は喧騒に包まれていた。

 そんな中、ウーノにより守られていたこの空間だけがこのアガスティアにおいて最も安全な場所であり、そこは異質な静けさの最中に在った。

 

 

 “感謝しよう。魔道の童よ”

 

 “これであの人は、また戦える”

 

「もうすぐ……もうすぐ終わるよ!」

 

 二つの声に見守られながら、魔力を高めるフュンフ。

 魔力と共に強まる光が周囲を照らし、彼の身体を徐々に包み込んでいった……。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 バハムートと死闘を繰り広げていたシエテ達は……只ならぬ気配を感じていた。

 

 そんなものは目の前に神に等しき星晶獣がいる時点で、何もおかしい事ではない。

 ヒト程度では抗えないと思わせる強大な存在感。

 今戦っている星晶獣は、十天衆である彼等でなければとうの昔に殺されていてもおかしくない強大な存在なのだ。ただならぬ気配を感じるのは当然のことである。

 

 

 だが……違う。

 

 

 感じられた気配は背後から。

 もっと言うなら、それは同じ十天の一人である、小さき少女の所から感じられる。

 増大していくチカラと膨れ上がっていく存在感は、否応なく彼らの気を引き、かの星晶獣もまた、その異常な気配を察知して遂にはその動きを止めた。

 

 

 誰もがその存在へと目を向けていた。

 少女の目の前で浮かび上がっていく一人の男を……

 

 白と黒。二つの大きな鳥が慈しむようにその身へと寄り添い、彼の者の“誕生”を見守っていた。

 

 

 ”そろそろ良いか、若造”

 

 ”早く起きないと、守れなくなっちゃうよ“

 

 

 聞き慣れた声、懐かしき声が、彼の目覚めを促していく。

 ずっと共に在った。ずっと心に在った。

 二つの声に導かれ彼の者は静かにその目を覚ました。

 

 柔らかな動作で、空中に浮かびながらゆっくりと体を起こすと、彼は蒼穹の色合いを思わせる双眸で終幕へ向かおうとする世界を見つめる。

 傍らの鳥達は、彼の目覚めを祝福するように大きく翼を広げ、高らかに鳴き声を響かせた。

 

 翼の目覚めを。

 彼の再誕を。

 

 

 

「────いこう“ヴェル”、“リアス”。共に世界を守ろう」

 

 ”良かろう。黒の翼は常にそなたと共に在らん”

 

 ”行こう。貴方にはいつも白の翼の加護がある”

 

 

 

 厳かで、それでいてどこか柔らかな声に応えると、一対の鳥はその身を光へと変え彼の者へと飛び込む。

 

 瞬間、彼の者は真に覚醒を迎えた。

 

 蒼き瞳は真紅の眼へと変わり、銀糸の髪は所々跳ねた癖のある長い髪へと伸びていく。

 極限まで鍛えられた、戦士らしい肉体は僅かばかりにその大きさを小さく細くし、数年分若返ったような印象を抱かせる。

 背には、白と黒。二対の翼を負っていた。

 お伽噺に聞く天司のような姿となった彼は、喧騒続く世界で静かに口を開く。

 

 

「我は、ジ・オーダー」

 

 

 それは、世界を守る名。

 

 

「“ジ・オーダー・アナザー”」

 

 

 それは彼に託された使命の翼。

 

 

 

 

「往くぞ、蒼天の写し鏡たる我が刃にて。今、万象の憂いを断たん!」

 

 

 

 

 混ざりし魂は起源を超え──今、万象を守る光となる。

 

 

 

 

 




言い訳になりますが、原作のゲーム方がやる気起きなくなっちゃって熱意が消えてしまい放置してしまいました。
未完で終わらせることはありません。必ず書き上げます。
これだけは絶対です。
年末年始、また書き上げます。今回はやるやる詐欺しません。
それではお楽しみいただければ幸いです



グランデ石でもゾーイでも良いから最終解放して欲しい、、、できれば石の方


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