granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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またまた投稿。筆は進めど話は進まずでちょっと焦っています

何故か昨日投稿したらアクセス数が跳ね上がって疑問が尽きない作者です。(数字を見てやる気は振り切れましたが)

それでは、お楽しみください。


メインシナリオ 第4幕

空域 ファータ・グランデ ガロンゾ島

 

 

 

「何をしている!! 相手はたった四人だぞ!! 一人ずつ包囲して殲滅しろ!!」

 

 指揮官であろう帝国兵の怒声が飛ぶ。その指示に従うように戦艦の甲板ではたった一人の男に向かい十人を超える兵士が殺到していた。

 

「ふむ、こちらは少数……包囲殲滅という判断は戦術的には間違っていないだろうな。だが、思慮が浅すぎる……」

 

 剣閃が舞う。流麗な動きで振るわれる刀は最速を以て、迫りくる帝国兵を完膚なきまでに切り捨てていく。

 

「こちらの戦力がどんなものか把握できていないのに動くのは間違いだったな」

 

 帝国兵をあっさりと切り捨てたセルグの呟きは戦闘の音にかき消され、帝国の指揮官に届くことは無かった。

 

「セルグ、大丈夫……って聞くまでもないか」

 

 セルグの背後にグランが背中合わせに立つ。眼にはスコープを付けており、いつもより二割増しで表情は硬いがその顔に憂いは欠片も見られない。背後に立つセルグに全幅の信頼を寄せているのだろう。

 

「そっちこそ大丈夫か? これだけの数だ、恐らくだがここまでの人数を相手にすることは経験したことが無いと思うが――今日のそれはなんだったか?」

 

「今日は”サイドワインダー”だ。見ててくれセルグ。多数を相手にするにはもってこいのスタイルだから!!」

 

 戦闘中は固いグランの表情が俄かに崩れ小さな笑みが浮かぶと、グランは手に持つ弓“ディアボロスボウ”を空に向けて構える。弓の先端にはみるみる魔力が集まっていき瞬く間に爆ぜて、次の瞬間には大量の魔力矢が帝国兵に降り注ぐ。

 

「おお~二人がよく使ってる技だな。いつもより二倍ぐらい凄いが……」

 

 グランの活躍に思わず感嘆の声をあげるセルグ。その声を聞いたグランも表情はそのままだが嬉しそうな声音で答えた。

 

「元々アローレインはサイドワインダーで使える技だからね。威力も使い勝手も他で使うときとは段違いだ!」

 

 そういって次々と弓を射掛けて、グランは帝国兵を倒していく。頼もしく戦うグランの姿に、セルグは安心したように一息つくと視線鋭く帝国兵士たちを睨み付けた。

 

「これは、負けていられないな――絶刀天ノ羽斬よ!我が意に応え、その力を示せ。立ちはだかる災厄の全てを払い、全てを断て!!」

 

 言霊の詠唱。解放された天ノ羽斬が輝く刀身をみせ、セルグは凶悪な笑みを見せる。

 

「悪いが少しだけ本気でいくぞ。恨むならこの場に居合わせてしまった己の不幸を恨むんだな……」

 

 一足。大きく間合いを開けていた兵士達の群れに飛び込むとセルグが縦横無尽に暴れだす。

 回避、反撃。そんなものは必要ない。相手の剣が向かって来ようが彼の剣閃は先の先を取り続ける。その恐ろしいまでの剣閃の速度は兵士達の間に突如巻き起こった竜巻のようで、次々と兵士たちは駆逐されていくのだった。

 

 

「やるわね……セルグは流石の一言だけどグランもすごいじゃない! ヴィーラ、あたし達も負けてられないわよ!!」

 

 そんな二人をみて対抗心を燃やすのはゼタとヴィーラ。陽動を任された以上、こちらも負けていられないと闘志をみなぎらせる。

 

「そうですね……このままで終わっては皆さんに顔向けができなそうです。少し本気で遊んであげましょうか。――シュヴァリエ!! 主の剣となり盾となりて、我が道に立ちはだかる者を斬り払え!!」

 

 呼びかけに応えて顕現したシュヴァリエによってヴィーラの装いが変わる。星晶獣シュヴァリエの力を身に纏うヴィーラは、圧倒的な力をその剣へと付与していった。まるで心臓の鼓動のように剣に脈打つチカラは彼女の闇と、シュヴァリエの光を纏う。準備ができたと同時に、ヴィーラは高揚感に包まれながら、声を上げた。

 

「フフフフ……アーハッハッハッハ! さぁ、誰から遊んで差し上げましょうか? みんな一緒でも……構いませんよ!!」

 

 恍惚の表情を浮かべながらヴィーラは嬉々として帝国兵を切り捨てていく。元々の彼女の気質もあるだろうが、シュヴァリエのチカラを身に纏うと戦闘中は一時的な高揚感がヴィーラを襲う。普段はそこまで大きくもないはずなのだが、今日に限っては彼女のやる気は多分に漲っているようである。

 笑いながら帝国兵を切り捨てるさまは、狂人、或いは変態一歩手前といった感じだ。そんなヴィーラを見てしまったゼタは、置いてけぼりにされたままその柔肌に鳥肌を立たせてしまう。

 

「なんか……あの子とだけは背中合わせで戦っちゃいけない気がするわね。っと私もがんばんなきゃ! アルべスの槍よ、我らが信条示し、貫くための牙と成れ!」

 

 言霊の詠唱と共にゼタは帝国兵の密集地点に突撃していく。猛る炎を叩きつけ、鋭く槍を振るい次々と帝国兵をなぎ倒す。いつも通りに戦っていつも通りの力強さを見せていたゼタだが、槍を振るうたびにゼタの表情が変わっていく。何かを確かめるような思案する顔を見せていたが、それは徐々に喜色へと変わっていった。

 

「ん……? なんだか戦いやすい? あぁ――なるほど。セルグと戦うために特訓したのは無駄じゃなかったわね!!」

 

 帝国兵の動きを読み切り、最小限の動きで倒していくゼタ。槍の強みを最大限に生かし戦うゼタは徐々に無駄を省き、その精度を上げていく。セルグと戦う為、これまで星晶獣を相手に戦ってきた、力で攻めるスタイルを変えたゼタは、今ここで特訓の成果を実感した。

 

「あは、あははは! すごいわこれ……気に食わないけどセルグに感謝しなきゃ! さぁてドンドン来なさい。今日の私は、疲れ知らずなんだからっ!!」

 

 頼もしい叫びと共にゼタは次々と帝国兵を打倒していく。筋肉ではなく関節を使い、効率よく、効果的に攻撃を加えていくゼタは徐々にその勢いを増していき、ヴィーラ同様、楽しそうに笑いながら敵を屠っていた。彼女もどうやら、変態一歩手前の仲間入りを果たしたようである。

 

 グラン、セルグ、ヴィーラ、ゼタ。もはや帝国兵全滅も可能にするような勢いで、彼らは戦艦の上を縦横無尽に暴れ回っていった。

 

 

 

帝国戦艦内部。外とは打って変わって静まり返っている戦艦内の通路にジータ達は潜入していた。

 

「なんだか、ちょっと心配になるくらい派手にやってるね……」

 

 先程から慌てて兵士たちが甲板へと向かう姿を見続けている。漏れ聞いた報告を聞く限りでも、グラン達がとんでもない勢いで戦っていることがわかる。外の騒ぎを聞いて逆の意味で心配になってきているジータだった。

 

「改めて思うが彼らの戦力は凄まじいな。星晶獣の力を使えるヴィーラやセルグだけでなく、打倒セルグを目指し特訓していたゼタも相当強い……ジータにも言えることだが天星器を一度使いこなしたグランも、戦闘に於いてはかなり力をつけてきている……私も帝国では一応優秀な軍人であったのだが、なんだか少しだけ負けた気分になってしまうな」

 

 言葉とは裏腹に呟いたカタリナの表情は明るい。頼もしい仲間が増えたことを嬉しく思っていることが良くわかる表情だった。

 セルグとの出会い……これがもたらした影響は大きい。彼自身の戦力だけではなく、未だ発展途上である若き団長の二人は天星器を使いこなしたこともあり大きな成長を遂げた。他の仲間達も同様に、セルグの強さに影響されて更なる高みを目指している。

 

「いいじゃない。そしたらあなたも強くなればいいのよ。貴方だってまだ十分若いんだから……怖気づくことないのよ」

 

 ロゼッタがそんなカタリナに物申す。自分の限界を感じるにはまだ早いのではと言外に伝えていた。

 

「それもそうだな。何よりもルリアを守るためには、私がもっと強くならねばいけないな……」

 

「大丈夫ですよ! カタリナも十分強いです!!」

 

 カタリナは、励ましてくれるルリアに視線を向けると新たな決意をする。置いてかれているなら追い付けばいい。まだまだ自分は強くなれる。その強い意志を瞳に宿していた。

 

「ほれ、感慨にふけるのは後だ。せっかく派手に暴れてくれてんだ。こっちもしっかりやらねえとな!」

 

「そうだな……こんだけやってもらって失敗しましたじゃ、合わせる顔がねえ!!」

 

 ラカムとオイゲンが気合十分といったように声を張る。

 

「ちょっとー。一応潜入してんだからね……大きい声なんて出したらバレちゃうでしょ」

 

 イオがそんな二人に苦言を呈した。相変わらず外の喧騒とは打って変わって内部は静かである。大きな声を挙げれば、巡回している兵士が聞きつけてくるかもしれない。

 

「あ、あはは……そうだね。それじゃ皆さん、気を引き締めて行きましょう」

 

 声を潜め物音を立てずに通路を進んでいく救出班だった。

 

 

 

 

 甲板で暴れまわるグラン達の対処に、帝国戦艦の指令室ではフリーシアが檄を飛ばしていた。

 

「何をしているのです!! たかが四人を相手にいつまで好き勝手に暴れさせているのですか!?」

 

 所詮は一騎空団……正面きって攻め込んでくるとは思わなかった帝国は、彼女も含めて全て対応が後手に回っていた。帝国宰相の肩書を持つフリーシアといえど、主な仕事は執政であり軍務ではない。優秀な軍略家がいればこんなことにはならないことが容易に想像できる光景だった。

 

「ポンメルン大尉! 今すぐ甲板に出てあの者たちを叩き潰してくるのです! 手の空いているものもこれに加わりなさい。それから例の少年を艦橋まで連れてきなさい。彼らの狙いはあの少年のはず、こちらの監視できるところへ置いておいた方が……」

 

「フリーシア宰相閣下! 報告です。捕らえていたはずの件の少年が脱走した模様であります! 報告によれば機密の少女を連れた騎空団によるものだと!」

 

「なっ! 奴らは陽動だというの!? っく、まさかこうもいいようにしてやられるとは……あの男を呼びなさい! ただちにルリア奪還の任を与えるのです!」

 

 二転三転する事態に、激昂するも次点の策をすぐに出せるのは彼女がそれだけ優秀だからであろう。

 彼女の要請を受け、兵士はすぐに動き出す。現状を打破できる可能性のある、フリーシアの切り札ともいえる人物の元へと……

 

 

 

 

 

「やれやれ、こんなにも好き勝手されるとは、ですねぇ……」

 

 暴れまわるグラン達がいる甲板で、突如聞こえるのは特徴的な語尾の男の声だった。

 フリーシアの指示で甲板へと出てきたポンメルンはわずか四人の襲撃者に散々な状況となっている兵士たちを見て感心したように声を上げる。

 

「あ? なんだあの髭のおっさん?」

 

 セルグがポンメルンの声に反応しそちらに視線を向けるとそれに合わせて仲間たちも視線を向けた。

 

「あの人は、帝国の大尉さん。アウギュステやルーマシー群島でも何度も僕らに襲い掛かってきた嫌な人ってところかな……ちなみに狙いはルリアのはず」

 

「ふむ、要するにボスってことでいいんだな?」

 

「まぁ、その認識で間違いはないと思うよ……」

 

「私を前にして何をのんびりおしゃべりしてるんですかねぇ!!」

 

 暢気に会話していたセルグとグランを見咎めてポンメルンは割って入る。

 

「全く、誇り高き帝国軍人がたかだか一騎空団にここまでやられては帝国の名折れだというのに、揃いも揃って皆さんは何をしているのですかねぇ……よく見ておきなさい、帝国とは絶対の証。決して侮られてはいけない最強の軍隊であるということを!!」

 

 周囲にいる帝国兵に向けて檄を飛ばすと共に、彼自身から強大な力が発せられる。掲げられるは黒い水晶。ルリアの能力を解析し、星晶獣のチカラを模した帝国の研究の産物。”魔晶”のチカラがポンメルンを包み込んだ。

 

「この魔晶の力を以て、こんな小僧どもは一捻りにしてあげますねぇ!!」

 

 巨大な鎧と魔物が融合したような。端的に言ってしまえば気持ち悪い姿へと変身したポンメルン。グラン達はその場に集まりポンメルンと対峙した。

 

「感触としては、星晶獣の劣化といった感じか? 面倒だな、一気にやるか」

 

「えぇーっと、一応それなりに苦戦はすると思うんだけど……」

 

セルグの事もなげな雰囲気にグランは少し呆れたように返すも、彼自身今のポンメルンはさしたる脅威ではないと認識していた。

 

「図体でかいって事はそれなりに耐久力はあるだろう? 面倒だから大技で一気に決めてやろうってことだ。ゼタ、ヴィーラ準備運動は十分か?」

 

「異論無し」

 

「問題ありません」

 

 言葉短く告げる二人の表情は、早くぶちかましてやりたいと言うような目をして、ポンメルンを睨み付けていた

 

「まぁ、僕も異論はないけどさ……とりあえず、思いっきりやればいいんだね!」

 

「おう、その通り!」

 

 セルグの言葉にやる気を出したグランが弓を構えると先端へと意識を集中し始める。魔力によって形成される矢、集まる魔力は暗い、暗い闇を帯びていき、それは向けられた者を絶望の淵へと叩き落とす色へと変えていく。

 

「ちょ、ちょっと待つのですねぇ!!」

 

 弓に集まる魔力に若干の恐れを抱いたポンメルンは慌てた様子でグランを止めようと動き出すが時すでに遅し。

 

「暗き闇へ、絶望へと沈め……“深淵の淀み”!」

 

 放たれた魔力は巨体となったポンメルンを押しつぶすように頭上から闇の奔流となって降り注ぐ。何とかそれを防ごうとしたポンメルンは頭上からの魔力にその場に釘づけにされてしまう。

 次に前に出るはヴィーラ。シュヴァリエの力を剣に付与し準備万端といった様子だ。

 

「次は私がいきましょう。我が道を切り開け、シュヴァリエよ! “ドミネイトネイル”!」

 

 ヴィーラより放たれた魔力で形成された闇の剣がポンメルンに突き刺さると共に、シュヴァリエがヴィーラから離れると、高速でポンメルンを切り刻んでいった。

 

「次は私だね!」

 

「ヒェ! ちょっと、ちょっと待ってくれですねぇ!!」

 

 前に出るゼタにポンメルンが待ったをかけるも、ゼタはそれに嬉しそうな笑顔で答える。

 

「やっぱり戦闘っていったら思いっきり力を開放したいもんだよね……あの戦い方は疲れなくていいけど、ストレスたまるのよ。というわけで――アルべスの槍よ、その力を示せ!!“プロミネンスダイヴ”!!」

 

 炎を纏うゼタが、アルべスの槍ごと、ポンメルンに吶喊していく。槍の先端で連続爆発を起こすゼタのプロミネンスダイヴは巨大化したポンメルンを貫きながら焼いていった。

 

「お前ら、容赦ないというか……まぁいいか。ポンメルン大尉殿、折角だからオレのも受け取っておけ!!“絶刀招来天ノ羽斬”!」

 

 刀を収めたセルグは全力を込めて天ノ羽斬を振り抜く。放たれた斬撃は極光の斬撃となって既にボロボロとなっているポンメルンを呑み込んだ。

 

「アギャアアア、ですねぇえええ!!」

 

 断末魔にまで特徴的な語尾が出てくるのは、実はまだまだ余裕があるからではないか、と小さな疑念を抱かせながらも、ポンメルンは吹っ飛ばされ戦艦の中へと消えていった。

 

「なんだかちょっと、かわいそうな気がしないでも……」

 

「グランさん!? 何を言っているのです。彼がもたらしたお姉さまへの不快指数は、私の許容範囲を振り切っていたのですよ! これくらいでは許されません!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 笑顔でそんなことを告げてくるヴィーラに心底恐怖するグランだったが表情には出さずに、静かになった甲板の上で一息吐く。兵士たちはまだいるが、あっけなく倒されたポンメルンを見て絶賛戦意喪失中だ。

 これ幸いとばかりにグラン達は状況の推移をみた。

 

「う~ん、時間的にはもう出てきてもいい頃だと思うんだけど……何かあったかな?」

 

 救出班の脱出が予定通りに進んでいないことを危惧するグラン。陽動を始めてから結構な時間が経っていた。予定では既に救出班と合流して撤退する時間のはずである。

 

「こちらはボスを倒して余裕も出てきた。何かがあって対処できない状況になっていたとしたらまずいな……迎えに行くべきだろう」

 

 セルグもグランの危惧に同意し、迎えに行くことを提案する。

 

「そうだね、何かあってからじゃ遅いし、すぐに行こう!」

 

 ゼタも同意して四人は救出班の援護に向かうのだった。

 

 

 

 

「……まさか、こうまで楽に救出できるとは思わなかったな。グラン達はどれだけ派手にやってるんだ?」

 

 ありえないほどあっさりと少年の救出に成功した救出班。一応は牢にぶち込まれていた少年であったが、鍵を持つ兵士すら甲板に駆り出されたのか、近くに鍵が置いてあると言うアホみたいな状況であり、カタリナはそのあっけなさに思わず呟く。

 

「宰相つったって所詮は執政官。戦闘に於いてはからっきしなんじゃねえのか? こんなにあっさり騙されてくれるとは思わなかったけどな」

 

 ラカムもあっけなさと言う点では同意を示す。このあっけなさはグラン達の陽動が効きすぎている、というよりは対処しきれなくて後手後手に回っているのだろうと捉えていた。

 

「皆さん、いくら上手くいっているからと言って、油断はしないでください。脱出できるまでは気を抜いては……っ!?」

 

 ジータが突如足を止める。鋭く睨むその視線の先には一人の男が立っていた。ドラフ特有の角を持ち、その体躯はドラフの中でも大きめの部類に入るだろう。

 帝国の戦艦内で、体躯に優れるドラフの男。間違いなく軍人であることは容易に想像がつく。

 

「残念だがここから先へは行かせねえよ。全く好き勝手やってくれたな雑魚共が! どうせなら表で派手にやってる奴等とやりあってみたかったがまぁ仕方ねえか――さぁ、楽しませてもらおうか!」

 

 早速臨戦態勢をとる男。だが、ジータ達の戦力は六人。たった一人で立ちはだかった相手にカタリナは怒りを覚える。

 

「この人数を相手に一人だと……なめられたものだな。ラカム、オイゲン。援護を! すぐに片付けてさっさと脱出しよう!!」

 

「任せろ!」

 

「応よ!!」

 

 二人に援護を任せカタリナが男に接近していく。その手に持つ剣を男に叩きつけるべく振りぬこうとしたが……

 

「カタリナ、だめ!!」

 

「なに!?」

 

 ジータの声と共にカタリナの剣は男に止められていた。わずか二本の指に挟まれた剣はいくら力を込めても微動だにしない。

 

「そこの嬢ちゃんの方が戦力把握はできてるようだな……このオレ、“ガンダルヴァ”中将様を相手に、全員でかかってこねえなんて、どっちがなめているのかおしえてやらぁ!!」

 

 男の激昂と共に蹴りが繰り出されカタリナは大きく後退させられた。

 

「ぐう、なんて蹴撃だ……まるで星晶獣並みの一撃だ!」

 

 カタリナがやられた瞬間、一行から余裕は消えた。男はまだ手に持つ剣を抜いていない。にも関わらず、その覇気は一行を呑み込むほど強大な気配を漂わせる。

 

「みんな、私たちの目的は脱出すること……無理に倒す必要はない」

 

「ああ、すまなかった。逸って判断を誤った。奴はとてつもなく強い……」

 

 ジータの確認にカタリナは先ほどのミスを謝ると改めて剣を構える。気を引き締めたカタリナにつられるように仲間達も警戒しながら武器を構えた。

 

「イオちゃん、タイミングを計って魔法で目くらましをお願い。前衛は私とカタリナで防御に徹するから隙を見て狙ってくれる?ラカムさん、オイゲンさん。援護をお願いします。私たちがやられないよう上手く隙を埋めて下さい。ロゼッタさん、相手の行動の妨害を……ルリア、使っちゃだめだよ。私たちが何とかするから逃げる準備だけしておいて」

 

 ジータは最後にルリアへ釘を刺す。星晶獣を使役する力はセルグに言われたようにできるだけ使わせたくなかったからだ。ジータの言葉に頷いたルリアは静かに逃げることだけを考えるようにした。

 

「作戦会議はおわりか~? それじゃあ――いくぞ!!」

 

 真剣な面持ちとなった一行をみても、絶対の自信故か、ガンダルヴァは素手のまま突撃してくる。

 

「みんな、いくよ!!」

 

 対するジータも、掛け声と共に走り出した。

 救出班の面子は前衛が少なかったため今のジータはウェポンマスターの鎧を着ている。手には闇の力を持つ剣“ラスト・シン”を携えガンダルヴァと正面からぶつかり合った。

 

「はぁ!!」

 

 滑るように懐へと入り込み一閃。その剣閃はウェポンマスターに引っ張られた彼女の気迫が乗せられた協力無比な一閃である。

 

「ハッハー!弱い弱い!!」

 

 しかしウェポンマスターとなっているジータの力ですら、ガンダルヴァはあっさりと退ける。ジータが振るった剣は、鞘に納められたままの剣に止められ、更には腕を取られて放り投げられた。

 ラカムとオイゲンが援護をする間もないまま、ジータが宙を舞う。

 

「キャア!」

 

「ジータ! くそ、ラカム援護しろ、オイゲン、ジータを頼む」

 

 そう言ってカタリナが何とか前衛を務めようと前に出るがガンダルヴァは恐れを知らないように走り出す。全力で、正面から……

 

「ま、まさか――クソっ、やらせるか!」

 

 突進してくるガンダルヴァの思惑に気づきラカムが銃弾を放つが、それはまたしても鞘であっさりと防がれた。

 

「んな、バカな!?」

 

 驚愕にラカムは目を見開く。簡単に防いでくれているが、放たれているのは紛う事なき銃弾なのだ。

 火薬が炸裂し、爆発の勢いを閉じ込められた銃身によって一定方向にのみ向けられて加速した銃弾は普通であれば、躱すことも防ぐことも困難なものであるはずなのだ。

 信じがたい現実に驚いてしまったラカムを誰も責める事は出来まい。だが、その瞬間は大きな仇となる。

 

「ハッハッハッハ、こんなもんかよオラァ!!」

 

 そのままガンダルヴァはその巨躯に物を言わせて体当たりを敢行する。巨体がもつ質量と速度はそのまま体当たりの威力を跳ね上げた。

 後ろに控えていたイオ達も含めて、一行は成すすべなく倒されてしまう。その場に立つのはガンダルヴァと、後ろに守られていた少年。そしてルリアだけだった。

 

「お前が機密の少女ってやつか……どれ、そこのガキと一緒にさっさと連れていくか」

 

「いや……こないで」

 

 ルリアは歩み寄ってくるガンダルヴァの姿に恐怖して声が震える。 ガンダルヴァの手はそんなルリアの腕をつかみ軽々と持ち上げた。

 

「いや、いやああ!! カタリナ、ジータ! 助けて!!」

 

「うるせえな、ギャーギャー喚くんじゃねえよ。殺されてぇのか?」

 

 必死に叫ぶルリアの声に応えるものはおらず、耳元で叫ばれたガンダルヴァがうんざりしたように呻く。そのまま指令室まで戻ろうとガンダルヴァが踵を返した時だった。

 

「汚い手で……ルリアに触らないでよ!!」

 

「何ぃ……ッ!?」

 

 強い声と共に立ち上がったジータが奥義を放つ。

 ラスト・シンから放たれる三本の闇の剣がガンダルヴァを捉えた。衝撃にルリアを手放したガンダルヴァは横殴りに吹き飛ばされるも、すぐさま効いていないように立ち上がる。

 

「ほう……こんな攻撃をできる奴がいたとはな。おもしれえじゃねえか。もう少し遊んでもらおうか!!」

 

 強者を見つけた喜びに顔を染めたガンダルヴァが再びジータへと向かう。

 

「上等――いくらでも戦ってあげるわ!!」

 

 対するジータも、強い意志を瞳に宿し、ガンダルヴァと対峙する。彼女の胸中に湧き上がるは怒り……ルリアの悲痛な声を聞いたジータの心に強い怒りの炎が灯されていた。

 未だ抜くことのなかった剣を抜き放ち、ガンダルヴァがジータと激突する。

 

「ランページ!!」

 

 掛け声と共に、ジータに力が漲った。一時的に筋力を強化したジータはその力に任せ剣速を上げる。

 ガンダルヴァに向けて縦横無尽の連撃を繰り出していくジータ。だが、剣速を上げたジータの連撃を難なく躱して防いでいくガンダルヴァにはまだ余裕が感じられた。

 足りないと感じたジータが更に声を張り上げる。

 

「レイジ!!」

 

 ランページから更にジータは強化を重ねる。感覚が鋭敏になり力の流れを知覚した彼女は、より効率良く剣を振るう。己が出せる最速と最強をもって繰り出されるジータの攻撃力は群を抜くだろう。

 

「いいぞ! どんどん動きが良くなるじゃねえか!! 次はどうする、まだあるんだろう……?」

 

 しかし、強化を重ねたジータの怒涛の攻撃すら、ガンダルヴァは楽しむ余裕を見せながらも退けていく。突きを払い、薙ぎを防ぎ、振り下ろしを躱す。ジータの攻撃に対し、無駄なく対応していく様は明らかな実力の差を感じさせた。

 

「くっ、ウェポンバースト!!」

 

 底の見えないガンダルヴァの実力に焦ったジータが奥の手を繰り出す。瞬間、ジータの体を魔力が覆った。魔力によって強制的に研ぎ澄まされた集中力が今一度奥義を放つ一助となる。

 

「このおお!! コンヴィクション・ネイル!!」

 

 掛け声と共に放たれたジータの奥義。強化を重ねて放たれた闇の剣は先ほどガンダルヴァを吹き飛ばした時とは比べ物にならない程強いものであったが

 

「ハァッハッハッハ!!」

 

「うぐ!?」

 

 それでも、ガンダルヴァは手に持つ剣を振るうだけでそれを防いで見せる。全力の奥義を防がれたジータは成す術なく、ガンダルヴァの拳を受け仲間達の元へと吹き飛ばされた。

 

「久しぶりに手ごたえのある相手だったぞ、小娘。ここ何年か味わった事がない衝撃だった。だが今のが全力だったようだな……お前の負けだ」

 

 これで詰みだというように敗北宣言を突きつけてくるガンダルヴァ。強化に強化を重ね、全力を出し切っても歯が立たなかったジータは息を切らせながら尚も起き上がった。

 実力の差は明白。ここからは仲間達を逃がすための時間稼ぎくらいしかできないだろう。ガンダルヴァの脳裏をそんな思考がよぎるが、顔を上げたジータが浮かべていたのは、ガンダルヴァの予想とは異なり、追い詰められた表情ではなく笑顔だった。

 

「何がおかしい?」

 

 怪訝な表情へと変わるガンダルヴァをみてジータは静かに口を開いた。

 

「残念でした――――貴方の負けよ。」

 

 唐突にジータはガンダルヴァに告げる。純然たる事実を突きつけるように。

 

「なんだと――――これは!?」

 

 ジータの言葉に驚くのもつかの間、ガンダルヴァの足元には茨が絡みついていた。

 倒れたままロゼッタが放った技、荊で相手の動きを拘束する“アイアンメイデン”である。

 

「悪い子にはお仕置きしてあげないとね……ねぇ、団・長・さん」

 

 顔を起こし、悪戯っぽく笑うロゼッタに苛立ちを募らせたガンダルヴァは力任せに拘束を解こうとする。だがそこに一人の男性の声が響いた。

 

「お膳立てしてもらったんだ――外すなよ」

 

 静かな通路に響き渡るのはセルグの声。通路の奥。救出班の背後にその姿があった。そして答えるのは

 

「――当然!」

 

 彼らの“団長”、グランだ。

 グランがスコープ越しに放った一撃。最大まで力を溜めて放たれた“キルストリーク”が正確無比な一矢となってガンダルヴァの胸を穿つ。そのあまりの威力にガンダルヴァは大きく吹き飛び、壁を壊して奥へと消えた。

 

「無事か……? どうやら満身創痍といった様子だな」

 

 駆け寄ってきたセルグが救出班の面々をみて呟く。救出班が遅いことを危惧して迎えに来たが判断は間違っていなかったと、皆の様子に安堵を浮かべた。

 

「ヴィーラ、ゼタ、子供は任せたぞ。グランはカタリナを。ジータは……なんとか動けそうだな。おっさんたちは自力で動け。殿はオレが受け持つ。さっさと脱出しよう!」

 

 現状を確認するとすぐさま指示をだして、セルグは撤退を促した。

 グラン達もすぐに動き出し、傷ついた仲間達を支えながら、戦艦を後にしていく。

 

 

 

 

 こうしてアクシデントはあったもののグラン達はなんとか少年の救出を成功させる。

 だがこの戦いは帝国宰相フリーシアに、グラン達の戦力を脅威と知らしめるきっかけとなるのであった……

 

 




如何でしたでしょうか。
オリジナル色も強まり着地点が上手くまとまるか少し不安な作者です。
戦闘については決め手となる部分はあらかじめ考えておくんですが細かい戦闘の流れはキャラの気持ちになって脳内に映像を思い描いて描写しております。(つまり細かい部分は閃きに近いのです。)
戦闘中にどんな動きをするかなんて基本反射に近い動きかと思ってこんな書き方です。
もちろん読み直しておかしくないかはチェックしていますけどね。

ガロンゾ編が長くなっております。うまくまとめたいところですが、描きたい様に描かせていただきたいと思います。当然ながらアドバイスや指摘は大歓迎で受け付けます!

それではまた。お楽しみいただけたら幸いです。

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