granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
プロローグ
空域 ファータ・グランデ ザンクティンゼル
静寂に包まれた森の奥にひっそりと鎮座している祠。そこには黒いコートに身を包む人影があった。
「ここが……お前が言っていた場所か」
人影は一人しかいないのに、まるで誰かと会話をしているような、そんな素振りで言葉を発する。聞こえる声の感じからおとなしい青年といった印象を受けるだろうか。
静かな森の中にある神秘的な祠は青年の目の前で人を寄せ付けないような神聖な雰囲気を纏いながら佇んでいる。
「じゃあ、早速始めようか」
そうつぶやくと青年は祠へと近づいていく。すると、青年の接近に呼応するように祠は突如、闇に包まれた。黒い炎のように揺らめく闇は神聖な祠を一転して恐怖を抱かせる様相に変える。
「行ってくる。ここで待っていてくれ。”ヴェリウス”」
闇に包まれた祠に何も感じていないのか、声音に焦りや恐怖は微塵も感じられない。そのまま青年は闇に染まった祠の中へと足を踏み入れていくのであった。
静かな森の中で、人知れず物語は動き始める。
空域 ファータ・グランデ ポートブリーズ群島
「ビィ、そろそろいくぞー」
「あ、まってくれよぉ。おばちゃん。りんごありがとな」
商店の並ぶ雑踏の賑やかしさに負けないように声が響いた。声を上げたのは柔らかな色合いの茶色が掛かった髪の青年。青年と呼ぶには少し幼さも見えるだろうか、年の頃は15,16歳といったところだろう。
声を上げた青年とその後ろをヒョロヒョロと飛んで追いかけるのは赤い身体に小さな羽。見た目は愛らし事この上ないが姿形は間違いなく竜種の面影を見せる幼竜。
青年の名前は『グラン』。幼竜の名前は『ビィ』。若くして騎空団を立ち上げ、父から届いた手紙に記された島。空の果て『イスタルシア』を目指し、旅の途中の二人の姿があった。
恐らくは買い出しの途中なのであろう。いくつもの買い物袋を持ち一つの露店でいつまでも店主と話し込んでいるビィをグランが呼ぶ。
「早く戻らないとまたジータとイオにどやされるんだから。さっさと帰らないと」
「そんなに焦んなくたっていいじゃねえかよ。第一、急いで帰ってもまだ艇は整備中で出発できないんだろ?」
「ルリアが腹を空かせて待っている……これだけでふたりが騒ぐには十分だ」
「うぅ、それはその……確かにあり得るけど」
歩きながら会話をする二人は、待っているだろう仲間の顔を思い浮かべ、足を早めて自分達の船へと戻るのであった。
ここは空の世界。
いくつもの島と、群島が浮かんでおり、多くの騎空挺が空を走っている。
最も広く分布しているヒューマン。
長い耳を持ち芸術に秀でるエルーン。
角を持ち屈強な肉体を持つドラフ。
体躯こそ小さいものの知識に優れるハーヴィン。
4つの種族が暮らすこの空の世界で、騎空士たちは己が誇りと想いを胸に、今日も空を駆ける。
優しい風が年中吹き抜けるような穏やかな島、このポート・ブリーズ群島の騎空艇が停泊する港にグラン達の騎空団が所有する艇、『グランサイファー』があった。騎空艇の中でも大きい部類に入るグランサイファーは現在整備の真っただ中だが、一度空を飛べばその艇速は凄まじく、彼らの旅の立派な相棒であった。
「ただいま~。ジータ帰ったぞ~……」
「ウェーイ! グランダンチョさんおかえりっす~。ルリアちゃんがぁまじで腹ペコらしいんで、食材預かるっす。急いで準備しますからチョマチでおねがいしやっす~」
艇に戻って最初にグランを迎えたのはグランの予想に反して、騎空団の料理人『ローアイン』であった。褐色の肌のエルーンで言葉遣いや態度は、いい加減な男という印象を受けるが、見た目とは裏腹に惚れた女を一途に想い騎空団に入ってきた純情青年である。さらに料理を作らせればピカイチということで、なんとも見た目と態度で損をしている男である。
「あ、ああ。よろしく頼むよ」
「うぃっす~。あとぉ、ジータダンチョーがゼタさんと特訓してたんだけど、~ホリセ状態だったんで早く行かないとお説教モードに突入の予感バリバリ……」
「マジか……わかった。急いで向かう」
そう言って向かおうとするグランにビィが言い放つ。
「いや、その必要はなさそうだぜぃ」
ビィのつぶやきと共にタッタッタと軽やかな足音。ではなく、やや力が篭り感情が乗っているような足音が聞こえてくる。
「グラン! ビィも! すぐに戻ると言っていたのに、どこで道草を食っていたんですか。ルリアが食事を楽しみに待っているのですよ。それを忘れてブラブラと……。私たちは帝国に指名手配されている身だということを忘れないでください。良いですか、どの島であろうと私たちは帝国に見つかる危険性を考慮して……」
開口一番。鎧を着込んだ少女がお説教モードでグランとビィを叱りつける。優しい色合いのクリーム色の髪とグランよりも幼さが残る顔立ちで怒りの表情を見せている彼女の名前は『ジータ』。グランの双子の妹で、共に騎空団を立ち上げ二人で団長をしている。まだ幼さが垣間見える少女ではあるがしっかり者の女の子である。
彼女が着ている厳かな鎧はジョブ『ホーリーセイバー』の鎧だ。守ることに長けたその鎧を扱うものは、その絶対的な防御力をもって、いかなる危険からも仲間を守り通す。
「わかったわかった。とりあえずお説教は後で聞くから。ゼタと特訓していたんだろう。今ローアインが食事を作ってくれているから、今のうちに着替えてきなよ」
「むぅ、その顔は全然反省をしていませんね。食事が終わったらきっちり言い聞かせてあげます。覚悟しておいてください」
そういって説教をやめてプンスカと擬音を纏いながら着替えにいってしまうジータを見送ると、クスクスといった小さな笑い声と共にグランの上の方から声が掛かる。
「ふふ、団長さんも大変だねぇ~。それにしてもあの姿で特訓に付き合ってもらったのは失敗だったかな。槍使わせるならビショップよりは良いと思って選んだんだけどねぇ」
甲板の上にいたのは輝く様な金色の髪に炎を象るような真紅の鎧。大人っぽさもありながら可愛さも残す端正な顔。『真紅の穿光』の二つ名を持つ『ゼタ』であった。愛槍アルベスの槍とともに幾多の星晶獣を屠ってきた凄腕の騎空士だ。とある島でグランたちと出会い、ともに星晶獣を倒した折に仲間に加わった。
「どうせ着替えたらお説教モード解除されて怒られないからへーきへーき」
にやけながら反省の色を全く見せていないグラン。というのもジータは着ている衣装や鎧によって性格が変わる。本人曰く自分の見た目に中身が引っ張られるとのことなのだが、ホーリーセイバーの鎧を脱いで、普段着に戻ったジータは、なんてことはないただの女の子で正論だらけのお説教で畳み掛けてくることなどないのが分かっているからである。
「何度見ても不思議な子だよね、ジータって。いくら見た目に引っ張られているとは言っても、あそこまで変わるなんて…まるで別人だもんね。その点グランときたら、戦闘中はいつも真顔。普段がこんなに快活なくせに、なんで戦闘中はあそこまで顔が固くなるのか。ホント、双子揃って極端な性格してるわよねぇ~」
心底不思議そうな顔でとゼタはグランの元へ歩み寄っていく。
「確かにお前いつも真顔だよなぁ。戦闘中は何考えてるかわかんねえぞ」
「いやぁ、なんて言うかその、戦闘中だと緊張しちゃって……っていうかゼタ、近い! 顔が近い!」
ゼタの端正な顔が目の前に現れ焦って距離を取るグラン。そんな姿にゼタが面白そうに笑っているとにまた別の方向からグランへと声がかかる。
「グランさん。ゼタさんと戯れるのも結構ですが、約束の品は購入できたのでしょうか。これだけ時間がかかったということは方々を探し回ったと推測致しますが」
声をかけてきたのはゼタよりやや黄色の強い金糸の髪を、赤いリボンで後ろに束ねた女性。城塞都市アルビオン島の元領主であり、騎士の盟約の元アルビオンに奉られる大星晶獣「シュヴァリエ」を従える。彼女の名は『ヴィーラ』。こちらもまた美しい、綺麗といった言葉を体現するような見目麗しい女性であった。
「ヴィ、ヴィーラ。あ、安心してくれ。ちゃんと頼まれた紅茶の葉は手に入れてきたよ」
どもりどもりに話しながら目的の物をヴィーラに渡すグラン。これで手に入らなかったとでも言おうものなら、どうなるかわからない位にはヴィーラを怒らせると怖い。
「ふふ、ありがとうございました。あら、グランさん。何もそんなに怯えなくても良いではありませんか? さすがの私もそのように怯えられては悲しいです」
グランの様子に仄かに儚げな表情を見せるヴィーラ。その見るものを魅了する麗しい表情に心揺れ動くグランだったが騙されないように気をしっかり持って声を返した。
「この前アウギュステの海でローアインの首が飛ばされかけたのをみたら、怯えずにはいられないと思うんだけど……」
少し前に、騎空団の仲間と夏のバカンスで海へと赴いた際にローアインがヴィーラから受けていた制裁を思い出し身震いするグラン。
「フフフ、あれはお姉さまに不埒な視線を向ける彼らが悪いのですわ。制裁を受けて当然でしょう? 大丈夫ですわグランさん。あなたがお姉様に不逞を働かない限り、私があなたに危害を加えることはありません。その点はどうぞご安心を」
「もし、不逞を働いたら……?」
そんなことはする気はないが、もししてしまったらどうなるのか……嫌な予感がしながらも恐る恐る答えを待つグラン。そんなグランにヴィーラは誰もが見惚れるような笑顔を浮かべて答えた。
「そのときは即刻艇から蹴落として奈落の底へ送って差し上げます。その点もどうぞ、ご安心を」
「アッハイ」
予想通り。いや、予想よりひどい内容にゲンナリしながら、ウキウキとした表情でその光景を思い浮かべているヴィーラを視界から外し、グランは投げやりに返事をする。
「それでは私は目的の物が手に入りましたのでお姉様と素敵な時間を過ごしてまいります。それではゼタさん、失礼しますわ」
目的の物が手に入りその先に望む光景に思いを馳せて、嬉しそうなのに何故か負のオーラを纏うヴィーラがその場を去っていった。そんなヴィーラの様子に苦笑いを浮かべながらグラン達は彼女を見送る。
「ア、アハハ……相変わらずだね、ヴィーラちゃんは。さてグラン、もうすぐ食事なんでしょ。ほら、いこう!」
「そうだぜグラン、早く行こうぜ。オイラもう腹ペコだよ」
ゼタの言葉に合わせて我慢の限界と言わんばかりな勢いのビィ。
「ビィはさっきリンゴ食べてたじゃないか」
そんなビィに呆れるグランは二人と一緒に食堂へ足を運ぶのであった。
食堂に着いたグランはゼタや着替えを終えたジータと食事の準備の手伝いをした後、仲間達を集め皆でテーブルを囲んで食事をしていた。
「はうぅ、このお料理美味しいですぅ。ただのお野菜とお肉の炒め物なのにこんなにおいしいなんて~」
正にうっとりといった様子で料理に舌鼓を打つのは、長くて蒼い髪を持つ少女。名前は『ルリア』。グラン、ジータと共に騎空団発足の時から一緒に旅をしているちょっと特殊な事情を持つ少女だ。その特殊さ故に以前はこのファータ・グランデ空域の大部分に勢力を伸ばしている『エルステ帝国』に囚われの身となっていた。
「チョチョチョイ! ただのっていうのは失礼でしょ~ルリアちゃんチョイテンサゲだわ~、ちゃんと調味料と料理法に秘訣があんのよっと」
「――確かに、この料理は絶品といっても過言ではないくらい美味しいな。ローアイン、この料理にはどんな秘訣が?」
感心しながらローアインに問いかけるのは、正に騎士といった雰囲気の凛々しい女性、『カタリナ』である。元は帝国軍人で中尉の肩書きも持っていたが、帝国のやり方に不満を持ち、囚われの身となっていたルリアのことを知り脱走を決意。ルリアを連れ帝国から逃げ出したところでグランとジータに出会い、ともに騎空団を設立し旅を続けている。
ちなみに料理好きな彼女ではあるがその腕は壊滅的。一度腕を振るえば劇物が出来上がる素晴らしい料理の腕を持っている。
「さすがにキャタリナさんにもこれは教えられねぇぜ」
カタリナの問いにローアインは冷や汗を流しながらも答える。ここで回答などしようものなら、いずれビィやグラン達が彼女のやる気と愛情だけがこもった劇物を食することになるのかもしれないのだ。
そんな事……どちらにもさせられるわけがない。
「まぁ料理はコックであるオレに任せてくれ的な? キャタリナさんの毎日の味噌汁を作るのはオ……」
次の瞬間誇らしげに己が料理の腕を語るローアインの目の前をナイフが通り過ぎ壁に刺さる。
「チッ……お姉さまに味噌汁がなんですって?」
そこには悪態と共に闇のオーラを発するヴィーラがいた。ローアインが思わずその圧力に屈して固まるが、ヴィーラはそんなローアインを尻目にすぐさま笑顔を作りカタリナに振り返る。
「お姉さま! この程度でしたら今度から私がお作りいたします。あのような害虫にお姉様が食する料理を作らせるなど考えられません。どうかこのヴィーラに作らせてください」
何事もなかったかのように、カタリナと話し始めるヴィーラにローアインが怒りの声をあげる。
「チョッまてよ! いまさりげチョーあぶねぇとこナイフ飛んできたんだけど。ってか掠ってるし。チッとか聞こえたし、ヴィーラちゃんマジであぶねぇじゃね……えか……」
尻すぼみになっていくローアインの声と対照的に闇のオーラを強めながら笑みを深めていくヴィーラ
「ふふふふ、それが、なにか、問題でも? お姉さまの平穏が保たれ、私の心を逆撫でる存在が消えるのは非常に喜ばしいことなのですが?」
今すぐにでもその首を落としてくれんと殺気を放とうとするヴィーラ。彼女との間にある圧倒的な実力の差を既に思い知っているローアインはその気配に何度目になるかわからない己の命の危機を悟る。
「よさないか二人共。せっかくのおいしい食事だというのにこんなところで言い争いはよすんだ。ヴィーラ、私のことを慕ってくれているのはうれしいが、事あるごとにローアインに突っかかるのは辞めてくれ。ヴィーラがそんなことをしている姿を……私は見たくない」
「お、お姉さま……はい、申し訳ありません。」
その場を収めるべく発したカタリナの言葉に意気消沈とばかりに座りヴィーラは食事を再開する。彼女にとってカタリナは絶対の存在。唯一無二の敬い、慕う存在であり、カタリナが悲しむとあっては聞き入れる他なかった。
「そうだグラン、明日の朝には艇の整備が終わり出発できると整備士の方から連絡があったぞ。次の行き先はどうする予定なんだ?」
ひとまず落ち着いた場の空気を明るくしようとカタリナが今後の予定をグランに問いかける。彼らをまとめる団長として、グランは少し考える素振りを見せてからカタリナの問いに答えた。
「う~ん、ちょっと気になることがあるんだ。一度ザンクティンゼルに戻ろうかと考えてる」
グランの答えは、気になる事がある。という理由で彼の故郷であるザンクティンゼル島に行きたいという話だった。だが、その答えにすぐに反応する者がいた。
「え、グランも? 私も同じことを考えてたの。何、とは言えないんだけどなんか急に思い出して帰りたいと思っちゃって」
反応を見せたのは妹のジータ。双子の兄妹が揃って何かを感じて故郷に戻りたいと考えていた。この事実が団員達に言葉では表せない”何か”を感じさせる。二人とずっと行動を共にしてきたビィも含めて彼ら三人には不明な点が多かった。
この空の世界では手にする武器とそれを扱うものの資質によって、人々は大きく六つの属性を扱うことができる。
四大属性と呼ばれる火、水、土、風。二極属性と呼ばれる光と闇。
大部分の人は武器と資質により二属性までは扱うことができる。まれに天才肌の人間には三、四属性を扱えるものもいるが極稀である。だがグランとジータは違う。二人は武器に宿る属性に柔軟に適応しすべての属性を扱うのだ。さらに、属性だけではない。
人々はその気質によって戦闘スタイルがある程度定まってくる。騎士としてルリアを守ると誓うカタリナは守る力に長けており、アルベスの槍で星晶獣を屠ることを得意とするゼタは攻撃系統に寄った技を使いこなす。しかし、二人は身に纏う鎧や衣装で戦い方を柔軟に変え、定まったスタイルを持たない。この特異な能力を持つ二人に団員たちが疑問を持っていたことは事実であった。
そして極めつけはビィである。ビィにはグランとジータに出会う前の記憶がなかった。なぜザンクティンゼルにいたのか。それまで何をしていたのか・・・疑問は尽きないがそれよりも、この世界においてヒトの言葉を解す生き物はほとんど確認されていないのだ。動物、植物、魔物。どれも多様な進化を遂げ、種類は様々いるがヒトの言葉を理解し、話すことができる生き物を団員達はこれまでビィ以外に見たことがない。例外として古くから生きながらえている古代竜等、伝説にうたわれるような生き物の中には人々との交流の末、言葉を解することに納得できる生物もいるが、どうみてもビィは幼竜でありそれには当てはまらないだろう。
結果ザンクティンゼルを故郷とする三人には多くの不思議が付きまとっていた。
「ザンクティンゼルに何かあるのか? グラン、ジータ」
部屋の外から声が飛び込んでくる。
そこにいたのは二人の男。くわえタバコで話しかけてきた20代後半といった感じの男性が『ラカム』。この騎空団の操舵士であり、この艇、グランサイファーの持ち主だ。
もう一人は見た目の感じは初老の男性とわかるが、その体は筋骨隆々。携えてる銃も相まっておよそ年齢というものを感じさせない男。名前は『オイゲン』である。
「ザンクティンゼルか……このポートブリーズからは別段遠くはないし、里帰りがてら戻ってもいいんじゃねえか。ラカム、グランサイファーならそんなべらぼうな時間もかからんだろう?」
「まぁ、そうだな。いいんじゃねえか三人とも。たまには故郷のみんなに顔でも見せてやりな」
ラカムとオイゲンから告げられた里帰りの言葉に三人がなんとなく嬉しそうな気配を見せる。
三人の旅の始まりとなるきっかけは帝国に追われるルリアとカタリナとの出会いからだ。騒動に巻き込まれ島を脱出することとなりなし崩し的に騎空団を立ち上げたのが旅の始まりだった。
旅を始めてからこれまで、慌ただしく次へ次へと旅をしてきた彼らは久々に故郷への想いを馳せる。
「ホントは早く次の目的地を探したいところなんだけど二人揃ってっていうのも気になるし良いかなみんな?」
「行き先を決めるのは団長である君達だ。急を要する目的地もないし里帰りが目的なら、我々に反対意見が出るはずもないさ」
カタリナの言葉に皆が頷く。おずおずとグランが皆に視線を向けると団員たちはあっさりと了承の意をみせた。
こうして一行はザンクティンゼル行きを決めた。翌日には一行を乗せたグランサイファーがザンクティンゼルへと向けて出発する。
言葉にできない予感を秘め、グランとジータは新たな出会いの気配を感じていた。
空域 ファータ・グランデ ザンクティンゼル
「ふぅ~着いた。やっぱりここはのどかでいいな~」
島へと最初に降り立ったグランが声を上げる。
ザンクティンゼル。山と森が大部分を占め、田舎としか形容できない小さな集落がひとつあるだけの島である。森の中には古めかしい祠が一つ有り、グランとジータにとっては騎空士としての旅の始まりの場所であった。
「へぇ~ここが団長さん達の故郷なのね。すっごい田舎だけど、自然がいっぱいっていうのも良いなぁ」
「フフ、そうだろうゼタ。私もここの空気が好きでな。騎空士でなければここの村でのんびり過ごすのも悪くないと思える。ヒトを落ち着かせるいいところだよ」
「(この自然の中でこんなに美しい存在感を放つキャタリナさんぱねえ!)」
「おうおう、聞いてはいたがほんとにド田舎だなこりゃ。山と森しかみえねえじゃねえか」
艇を降りた各々が口々に感想を述べる。そんな中で降り立ったルリアが開口一番何かを感じ取り声を上げる。
「ッ!? み、皆さん! 星晶獣の気配がします! あっちの、森の方からです」
「なっ!? 本当なのかルリア。空から見た感じでは特に騒がしい感じは見受けられなかったが……」
「それが……気配ははっきりしているんですが、なんだろう。困った感じ? 危ない気配は全然感じないの」
感じた気配に困惑を見せるルリアだったがそこにジータが声をかける。
「ルリア、ホントにあっちの方向? グラン、あっちってたしか…祠のほうだよね」
「ああ、あの不思議な祠があるとこだ。どんな気配にしろ確かめないわけにはいかない。カタリナ、ゼタ、ヴィーラ。行こう。オイゲンとラカムは艇を見てて。一応すぐに飛び立てるように準備も」
「おうよ、任せとけ。気ぃつけてな」
指示を出してすぐにグランの先導でカタリナとゼタ、ヴィーラが続いていく。ルリアも後ろから付いていくが走りながら森の奥に深い闇が蠢くのを幻視していた。まるでこの先に待つものを示唆するような深い。深い闇だった。
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