Fate/after Redoing   作:藤城陸月

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 先日、合宿から帰ってきました。藤城です。

 随分とご無沙汰してしまい申し訳ありません。


 尚、前話、前々話に晶君がキャリーバッグを持っている。という描写を加えました。全体的な影響はほとんど無いですが、予めご了承ください。

 それではどうぞ。


4  再会──────しようと思ったらもっと早く出来るんだからもっと早く帰ってやれよ

 俺たち双子には4年ほど会っていない、8歳年上の兄がいる。

 その理由は、魔術を本格的に学ぶことが出来る組織、時計塔に留学するから。

 入学するのは中々大変らしく、それと同時に大変名誉な事でもある…………らしい。

 

 あれから4年経経ち、11歳になった俺たち二人はある程度の魔術を使いこなせる様になった。

 今になって思い出すと、兄の魔術の腕前は相当のものだった……と思う。まぁ、歳が離れているので比較することは難しいのだが。

 そんな兄は、魔術師としてだけではなく人間としても優れていた。

 ──────とは言え、7歳の頃までの俺達には魔術の事はほとんど分からず、単純に兄として──────人間の面で尊敬していた。

 ひいき目に見ているかもしれないが、優しく、頼りがいがある、手先が器用、基本的に家事は万能…………。ついでに頭も顔も体型も良い。

 そんな自慢の兄だが、何処か強がりなところがあり、そのせいか留学の間はずっと音信不通だった。

 

 

 兄は交友範囲が広く、ほとんどのグループでその中心に居た。頼りがいのある事が理由だと思ったが、それは違うらしい。

 曰く、人によって付き合い方を変える社交ではなく、所属している組織ごとに人格そのものを変える『鍍金』をしているから。『鍍金』よりも仮面の方が分かりやすいかもしれないけどね、と言葉を繋げた。

 ほとんど顔を覚えていない父が暮らしていた武家屋敷ではなく遠坂家の洋館で、時計塔に留学するまでの日にちが余り無くなっていたので、夕食の後家族四人で何となく時間を過ごすようにしていた。

 ──────そんな頃。

 兄は膝の上に、不自然に眠ってしまった母の頭を乗せながら、それを告げた時の兄は、何となく寂しそうだった。

 もしかしたら、その時の表情こそが兄の本当の人格───『鍍金』という比喩に合わせるならば地金───の一部なのかもしれない。

 

 何故兄が、その時にその話をしたのかは分からない。

 母には内緒にして、俺と(ひかり)だけに話したのかも分からない。

 でも、本当の兄が寂しがりであり、普段はそのことを隠している、という事は分かった。

 正直に言うと、本当の人格に興味が無いわけではなかったが、それは積極的に追及しない事にした。

 あの時の寂しそうな顔を見たせいか、社交ではなく『鍍金』をしているのは寂しがりな自分を隠したいから、という考えが浮かんだからだ。

 

 

 無理をしていることや寂しがりなことを隠す、強がっていること自体さえも隠してしまう。そんな自慢の兄。

 

 その兄が久しぶりに帰ってくるらしい。

 

 …………正直、気まずさがない、と言えば噓になる。

 四年間という時間は懐かしさを募らせる。そして同時に錆び付かせる。

 具体的に言うと、なんといって会えばいいのか分からない、という感じに。

 心の錆の原因は分かっている。不安や困惑といった仕方のない物。

 そして、意地やプライドといったつまらない物。

 前者の解決はできない。強いて言えば、期待や興奮といった肯定的な感情で誤魔化すくらいだろう。

 対して後者の解決はできる。いや、しなくてはならない。絶対に。

 

 

 

 

 私たち双子には一人の兄がいる。

 八歳年上の、頼りになるが、何処か危なっかしい兄。

 一人で何でもできるけど、どうしようもなく寂しがりで、それなのに強がりな兄。

 

 そんな私たち二人が敬愛して止まない兄が、四年ぶりに帰ってくるらしい。

 

 普段通り、寂しさを『鍍金』しているのか、留学中は音信不通だった。

 全く、強がるのもいい加減にして欲しいものだ。

 …………まぁ、そんな所もいいのだが。

 母曰く、そんな感情を身近な女性に抱かせるところは、今は亡き父にそっくりらしい。

 ついでに言うと、一見普通なのが兄で、普通に危なっかしいのが父らしい。

 

 そして問題なのが、一見普通に見えること。

 

 兄曰く、『鍍金』。

 地金(本心)鍍金(覆い隠)し、一切晒さない。

 そんな正気の沙汰では成し遂げられない、そもそもやろうとしない事。

 

 …………ならば、兄は一体どれ程の地金(感情)鍍金(隠蔽)しているのだろうか?

 ──────私はそれを知りたかった。それがパンドラのピトスだと知っていながらも。

 

 その前段階として、『鍍金』がどれ程大変か。

 先ずはそのことを知るために、自分の精神を分析したことがある。

 魔術などを用いて強引に行うのではなく、時間を掛けてゆっくりと。その行為に最も近いのは自己暗示、だろうか。

 ──────自分自身をのぞき込む。

 

 ─────汝が深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗いている─────

 

 自分が誰だか分からなくなる。

 地面に足がつかないような錯覚。

 

 自分が覗き込んでいるはずなのに、覗き込まれているような嫌悪感、違和感、恐怖。

 

 精神崩壊していても可笑しくはなかったのだろう。

 それほどの危険と引き換えに得たのは、自分の精神構造に詳しくなったこと。

 

 ──────自分の中に、精神の深淵に潜んでいた、魔術師としての自分に気が付いた、気付いてしまったこと。

 

 魔術師としての自分に吞まれなかったこと。

 このことに関しては、運が良かったとしか言えないだろう。

 

 ──────そして、兄が抱えているものはこれよりも重いナニカだという実感出来たこと。

 

 その重さを軽くしてあげたい。

 私はその時思った。

 兄に会いたい、そう強く思った。

 

 

 四年ぶりに会うという事で、母や優暉(ゆうき)は何と言って会えばいいのか分からないらしい。そして、兄も同じだろう。

 本当にしょうがない人たちだ。あの兄の事だ、次に会えるのが何時になるのか分からないのに。

 ──────ならば、私がするべきことは一つだろう。

 つまらない意地やプライドを張る余裕を無くす。

 具体的な方法については……………………私たちは11歳、子供っぽく振る舞っても大丈夫だろう。

 久しぶりに大好きな『お兄ちゃん』が帰ってきた、そんな可愛らしい妹になればいい。

 驚いた兄の…………『お兄ちゃん』の顔が脳裏に浮かぶ。

 さて、今ぐらいは猫を被るのを止めよう。

 今の私は、甘えたがりなお兄ちゃんっ子。

 ──────あの頃のような。

 

 

 

 

 

 因みに、兄は話をした後、薬を盛ったのは僕だからと、膝の上で眠ってしまった母を俗にいうお姫様抱っこで寝室まで連れて行った。

 その後、困惑した声や何かを叩くような音がしたが何があったかは分からない。そのことで分かったのは、兄がある意味勇者だ、という事だけだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ─────緊張が酷い。

 

 遠坂邸の洋館ではなく、父の暮らしていた武家屋敷。

 現在、父の義姉の■■■姉さんが管理、保有している。そして、父と交流があった魔術関係者の集う、言わば魔境。

 そんなBUKEーYASHIKI──────もとい武家屋敷。

 

 ─────そして、その門の前で佇む俺。

 

 …………どうしよう、本当に。

 

 因みに20分経過。

 気まずさは増していくばかり。

 このまま門前待機していても、気まずさが募るばかり。

 

 気まずさは既に天元突破している。

 これ以上待っていても仕方がない。

 そんな風に自分に言い聞かせ、腹をくくり、門をくぐることにする。

 

 

 目に入ったのは、玄関に座り話し込む少年と少女。

 見覚えのある二人。──────双子。

 ─────目が合う。

 

 息を吞む。

 

 ─────深呼吸。

 

「やぁ、久しぶ──────」「久しぶり、兄さ──────」

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!」

 

 飛び込んでくる。俺と赤毛の少年の動作が全く同じように硬かったことを気にさせなくするぐらい唐突に。

 誰が?──────俺と───否、母さんと同じ黒髪、碧眼。

 いつもの癖で、思わず迎撃しようとしていた全身(本能)を思い留まらせる。

 ──────(ひかり)。四年間会っていない妹。双子の片割れ。

 キャリーバッグが倒れる音で正気を取り戻す。

 気が付いたら、5メートルの距離を一瞬で縮め、残りの距離を一気にゼロにしよう、とばかりに両手を延ばして大きくジャンプをしている曜。

 ───────時間が急減速するような感覚。

 着弾(?)予想は腹のあたり。

 避けるのは論外。ならば受け止める。

 どうやって?

 このまま受け止めれば、後ろに倒れてしまう可能性が高い。兄としての、なけなしの沽券に関わるのでそれは避けたい。絶対に。

 身体強化はアウト。下手をしたら、愛しの妹を傷つけてしまう恐れがある。上手く調整する自信はあるが、万が一という事もある。

 ならば、己の身体能力を信じるしかない。

 大丈夫。俺なら出来る。ルーンなどで身体能力を上げて物理で殴る、というRPGの名言染みたスタイルの封印指定執行者(物理)に鍛え上げられた自分の肉体を信じろ!

 静かに気合を入れ、極限まで高まった集中力の影響で遅くなった体感時間の中でも滑らかに肢体を動かす。

 

 体勢を下げ、延ばされた両手が肩に乗るように、頭が胸のあたりに来るように調整。

 両手が肩に乗り、そのまま肩をしっかりと掴んだ事を確認する。

 体勢を上げ、同時に曜の腰に手を伸ばし、引き寄せる。

 姿勢を直しながら抱きとめ、体を回転させることで勢いを殺す。

 

 ─────何とかなった。

 

 碧色の瞳と目が合う。

 大きくのけぞるような恰好となっている曜は一瞬戸惑ったような表情だったが、混じりっ気のない満円の笑みを浮かべ、抱きついてくる。

 

「──────お帰り、お兄ちゃん」

 耳元で小さく、囁くように一言。

 瞬間、心の中の何かが瓦解する。

 目元から溢れそうになる熱を誤魔化し──────

「ただいま、曜」

 ──────一言、返す。

 

 その一言が涙ぐんでいることを必死で隠す。

 

「ただいま、優暉」

 赤毛の少年に──────優暉に声を掛ける。

 

 そして、──────

「─────ただいま。母さん」

 ──────慌てて飛び足してきた母親に応える。

 

「俺は、───否、僕は帰ってきました」

 ──────出来る限りの笑顔で。

 

「お帰り、晶」

 

 母さんの一言。

 それだけで、今まで我慢してきた何かが崩れていく。

 

 まだだ。

 このまま、号泣するわけにはいかない。

 もう少しだけ。もう少しだけ耐えたい。

 玄関口で泣きたくない、というのもあるが、ここで泣いたら、これから会う皆の前でも泣いてしまいそうだからだ。

 

 ─────よし、誤魔化そう。

 

 

 

 

 

「─────ぶっちゃけると、大量のガントか十円玉、もしくは数枚のテレホンカードを食らうと思っていたので、安心しています」

「─────ねぇ晶、ブラックジャックって知ってる?」

 

 

 

 ロンドン仕込み(?)のジョークで強がってみたら、すぐに返された。

 どうやら冗談を言うことについての強さは太刀打ち出来ないようだ。

 

 

 

 ──────そう、こんな感じだったはずだ。

 

 

 

 四年という月日は、思ったよりも早めに埋まっていきそうだった。

 

 

 

 

 

 ──────取り敢えず、カモフラージュのキャリーバッグを家に入れなさい。

 ──────了解。…………って分かるの?

 ──────一般人の振りに使ってるんでしょ。手荷物検査とか盗難対策とか。

 ──────ご名答。この中に入っているのは、一般人に見られても大丈夫なやつ。

 ──────最低限の着替えとか、()()()お土産ってところかしら?ついでに、パスポートとかはコートかしら?

 ──────それも、と言うか全部正解。はい、優暉、曜、ロンドンの(よく分からない)お土産。

 ──────ありがとう兄さん。大事にするよ。

 ──────ありがとう。…………でも、これって何?

 ──────そして、()()()()()()()()()のが魔術師としてのお土産。

 ──────ありがとうございますお兄様。一層鍛錬に励みます。(×2)

 ──────…………成長したなぁ。──────あ、母さんは後で、と言うか後日で。

 

 

 ──────あっ、お帰りなさい晶君。

 ──────本当にお久しぶりです。ただいま帰りました■姉さん。■■■姉さんもお久しぶりです。

 ──────はい、お久しぶりです晶君。何となく、大人っぽくなりましたね。

 ──────ホントね~。久しぶりアキラ。──────やっぱりだけど、■■■っぽくなったわね。■■じゃなくて。

 ──────へぇ、どういう意味かしら、■■■?

 ──────べっつにぃ。ただ、■■よりも■■■に似てるって思っただけ。

 ──────それ以外に言いたいことがあるなら、はっきりと言ってくれないかしら?

 ──────ふ、二人とも止めてください。せっかく晶君が帰ってきたのに。ね、晶君

 ──────そう言えば、四年前もこんなかんじだったなぁ。

 ──────現実逃避ですか。そう、ですか。…………フフフ。

 ──────ちょっ■⁉

 ──────お、落ち着きなさい■■■。

 ──────フフフ…………クスクスクス。

 ──────大丈夫?■姉さん?

 ──────はうあっ。あ、頭を撫でられるのは、その…………

 ──────取り敢えずは、これでいいかしらね。

 ──────まぁ、そうね~。と言うか、毎回やるの?この茶番。

 ──────…………さぁ。

 

 

 ──────えーーっと。ヤッッホー、お帰り晶君。元気にしてた?

 ──────ただいま、先生。特に病気や怪我などはなかったです。

 ──────うんうん。何よりもまずは健康第一。元気があれば何でもできる。

 ──────先生、意味が被ってます。

 ──────細かいことは気にしないっ。そんなんじゃモテないぞ~。

 ──────…………フッ。

 ──────おっ、その余裕な笑み。教えなさいよ、というか根ほり穴掘り聞き出してやるから覚悟しなさ~い。

 ──────先生、酔ってません?

 ──────ん?酔ってないわよ。まだ。

 ──────まだ、ですか。

 ──────ところで、もうそろそろ晩御飯の準備が出来るかしら。

 ──────露骨な話題転換ですね…………。それよりも、僕も手伝ったほうが良いのではないでしょうか?

 ──────疲れてるんだろうし、休んでても良いと思うけどね。まぁ、今更かもしれないけど。

 ──────いえ。先生が様子を見に、この部屋に入ってきた時には、もう起きていましたから大丈夫ですよ。

 ──────そう?ならいいけど。遠坂さんと■ちゃん、■■■ちゃんから様子を見て来て欲しいって言われてきたけど、本当に大丈夫っぽくて安心したわ。

 ──────()()()、ですか……。

 ──────そうよ、本当に。■■もそうだったけど、晶君も無理しちゃいやすいから、心配なのよ。

 ──────父さんも、だったんですか?

 ──────そうよ~。今思えば、■■さんもそうだったわね。

 ──────祖父もだったんですか…………。

 ──────そうなのよね~。何となく危なっかしくて、ついでに女の子にモテるところも同じなのよね~。

 ──────そこもですか…………。おや、夕ご飯の用意が出来たようですね。

 ──────えっ、ホントに?

 ──────ええ、■姉さんの階段を上る音が聞こえます。

 ──────すごいわね……。

 ──────それほどでも。さて、今夜は飲みましょうか。

 ──────そうねぇ。…………あれ?晶君、今19歳よねぇ。

 ──────っ!しまったッ!

 ──────ふ~ん…………ねぇ、晶君。

 ──────黙秘権を行使します。

 ──────まぁいいわ、■ちゃんも、もうすぐ呼びに来るだろうし。晩御飯の時に話すことが増えたわね。

 ──────……やってしまった。

 ──────■■先生、晶君。晩御飯の準備が出来ましたよ。──────……………………

 

 

 ──────まぁ、晶君も一杯。

 ──────ちょっ。先生。僕まだ未成年なんですけど。

 ──────まあ、向こうでも飲んでたんだし、大丈夫よぉ。ね、遠坂さん。

 ──────あーーうん、晶。

 ──────な、何でしょう。

 ──────あきらめなさい。

 ──────ちょっ。母さん──────……………………

 

 

 

 

 

「──────さて、■■先生は酔いつぶれて寝ちゃったから、■が二階に連れて行ったわ。起きなさい晶。まぁ、とっくに起きてるんでしょうけど」

「まあね」

 

 上体を起こす。畳の上に手を付き、そのまま立ち上がる。

 少し足元が覚束無いが、頭痛や吐き気、倦怠感は無い。

 何時ものコートを羽織り、魔術回路を励起。

 念のために軽く『解毒』を使い、魔術回路をクールダウン。

 

「大丈夫?」

「ええ、大丈夫です──────」

 

「──────このまま英霊(サーヴァント)の召喚、という無理を実行出来るぐらいには万全です」

 

「そっか。…………じゃぁ」

「はい。──────今夜、召喚を行います」

 

 

 

 

 

 12月上旬の寒い夜。

 縁側に座って、空を見上げている壮年の男。

 四年前よりも痩せている、と言うよりも大分やつれている。特徴的(ワカメ)な髪も、一見分かりずらいが染めているようだ。

 

「──────久しぶりです、おじさん」

 

 僕はその男に声をかける。

 間桐■■。

 僕が姉さんと呼ばされている、もとい呼んで慕っている叔母、■の義理の兄。

 聖杯戦争における、礼呪、というシステムを開発した(元)御三家が一角、間桐。

 その長子にして、最後の生き残り。

 ──────そして、魔術回路を持たない『一般人』。

 

「なんだ、晶か。久しぶりだな」

 

 一度振り返ってから、興味なさげ、という感じで再び星空を眺める。

 相変わらずと言うべきか、懐かしいと言うべきなのだろうか?

 まあ、取り敢えず。

 

「──────女性陣とは違って、老けましたね」

「いまお前、言っちゃいけない事を言ったな!しかもはっきりと言ったな!」

「四年ぶりに顔を会わせる相手に、興味ない振りをしたのが悪いんです。それと、夕ご飯に来なかったことも。あと、大事だからってワザワザ二回も言わないでくださいよ」

「そんなの僕の勝手だろ」

「■姉さん心配してましたよ」

 ───隣失礼します。───別に、勝手にすれば。

 雲一つない、ついでに新月なので月も無い。そんな満天の星空が目に映る。

「体調はどんな感じですか?」

「どうしたんだ急に?お前に心配されるような事はないぞ」

「──────そんなはずは無いんです」

「晶?」

「魔術師じゃなくても分かるはずです。その体が今、どれ程危ないのか」

「─────晶」

「憶測ですが、何かの後遺症ですよね」

「晶、止めろ」

「はっきりと、言いましょうか?」

「はぁ……分かったよ。─────久しぶりだな、晶」

「はい、お久しぶりです。地味に会いたかったですよ」

「地味にかよ。ま、お前らしいか。どうだった?四年間は」

「大変でしたよ。──────主に女性関係が」

「ハッ、そうだろうな。やっぱりお前は■■に似てるよ」

「そ、そうですか……。そ、そういえば、父さんはどんな感じの人だったんですか」

「女性関係では、どうしようもないぐらいに鈍感だったな」

「…………そうですか」

「あぁ、そうだったな。ホントにアイツは──────」

 

 ──────ま、アイツはこの僕みたいに、口を唇で塞ぐ、何てこと出来なかったからなぁ。

 ──────そんなことイタリア人でもしねえよ。いや、出来ねえよ。

 

「──────まぁ、酷かったよ女性関係は」

「…………エピソードが余りにも多すぎる」

「何処のエロゲ主人公だよ、って感じだったからな」

「あぁ…………。何というか、余裕さも優雅さも足りていない、とでも言うべきなのでしょうか」

「まぁ、気にするな。女性関係を除けば、いいやつだったよ。割と」

 

 ──────何というか。素直じゃないというか。

 やっぱりだけど──────

 

「──────変わりませんね、おじさんは」

「そう言うお前は、相変わらず失礼だよ」

「そうでしょうか?」

「おいおい、心外です、みたいな顔するなよ」

 

 ──────ホントに懐かしい。

 

 煙草を咥える。

 ───吸っていいですか?───まぁ、今ぐらいはいいよ。

 紫煙を燻らせる。ゆっくりと味わい、吐き出す。

 魔術礼装としての特別な効果はなく、単に有害物質を含まない、というだけの唯の煙草。

 ──────というより、もうそれは煙草ではないのではないか、むしろ煙草に対する冒涜なんじゃないか、という煙草モドキ。

「──────吸います?」

「…………まぁ、偶にはいいか」

 コートの中から、今吸ってるのとは違う煙草を箱から一本取り出す。

 ───どうぞ。───あぁ。おい、火を。───おっと、了解です。

「どう、ですか?」

「まぁ、良いんじゃないか?」

「…………(よしっ)」

「何?自作なのこれ?」

「よくぞ聞いてくれました!この煙草は──────」

「──────煙草本来の用法である医療用。精神安定に加えて、肉体面にも作用するって感じか?」

「…………絶句」

「口で絶句って言うなよ。全く、見たら分かるっつの」

「そうですか…………、『眼鏡同盟(エターナルアイズ眼鏡)』の粋を集めて作ったのに…………、一瞬ですか。そうですか」

「お前が、分かりやすかったからな。効果も半分ぐらいは当てずっぽうだ」

「─────効能を当てたことに対する賞品代わりに、一箱どうです?」

「…………お前が薦めるなら、貰っておこうかな」

 

 ──────と言うか、なんだその組織名?

 ──────時計塔の仲間と作った、僕を含めて学生6人のサークルっぽい何かの名前です。因みにリーダーは僕、『紅眼鏡(ワインレッド)』です。そして、(勝手に任命した)特別顧問の『黒眼鏡教授』がいます。

 ──────…………そうか、楽しそうで何よりだよ。──────そうだな、いい機会だし、話してみろよ、4年の間に何があったのか。

 ──────確かにそうかも知れませんね……。分かりました、了解です。

 

 

 ──────その後、中国からネパールに国境越えをする途中、その山越えの時に──────

 ──────さっきから思ってたけどさぁ、何してんの!ホントに何してんの!

 

 

「─────さてと、もういい時間なので」

「…………嘘だろ、あれから小一時間経ったのに時計塔どころか、ヨーロッパにすら着いてねぇ」

「ホントはもっと話したいことがあったんですけど…………」

「いや、もういい」

「え~~~」

「いや、えーーー、じゃねえよ」

「さてと、それじゃぁ──────」

 

 靴を履き、縁側から庭に下りる。そのまま振り返らずに──────

「──────これから()は準備に入ります」

 

「そうか」

 男はそう応じた。

「はい」

 短く返答する。

 

 男も立ち上がる。

 しかしながら縁側を歩き、そのまま立ち去って行く。

 

「─────晶」

「はい」

 後ろからの声に応じる。

「お前は絶対に帰ってくるだろうから、一言だけ言うぞ。いいな、──────」

 

「──────何があっても、■を巻き込むな」

 

 数瞬の間。

 床の軋む音に振り返った時には、気配すらなかった。

 

 

 

 

 

「さてと」

 

 時刻は、新月が地球の真裏を通り過ぎてからほんの少し。

 星空の下。土蔵の入り口に佇む。

 

 深呼吸。

 

 意識を入れ替える。

 これから挑むは正真正銘の大舞台。その第一歩。

 万が一、億が一にも、失敗は、決して、許されない。

 

 

 

 

 

 

 

「──────気合を入れろ(Launch)

 

 ──────自らの力を以って、最強を証明せよ──────




 間桐■■

 晶の叔母の義兄。魔術の知識を持つが、魔術回路を持たない一般人。


 ブラックジャック:武器

 靴下の中に大量の硬貨を詰めたもの。


 イタリア人:人の区切り方の一つ

 無辜の怪物:B+
 ──────異性関係が大胆である、という偏見。
       具体的な効果は不明。


 酔っ払い:状態異常(?)

 有辜の怪物:EX
 ──────説明不要、意味不明、制御不能のナニカ。
       飲酒は二十歳になってから。



 気が付いたら、一万字に手が届くぐらいまで書いていました。
 取り敢えず、次回はサーヴァントを召喚します。

 次回も一万字前後な気がします。
 今のところは9月6日までに次話を投稿する予定です。

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