思ったより筆が(タイピングが?)進んだので投稿します。
内容はサブタイの通りです。
「─────えっと、ごめん母さん。じゅ、十円玉が切れそうだから、またあとで」
『ちょっ、晶⁉それ、携帯──────』
──────プツリ
電話を切る。
あっったま来たぁ──────、という叫び声が聞こえる気がする。まぁ、気のせいだろう、きっと、多分、十中八九、絶対に。…………幻聴かぁ、疲れてるのかな?
通話時間17分48秒──────。
随分と長電話だったようだ。
向こうの様子を聞く限り、俺の帰りが遅くなることが周りの人に知られるのは早そうだ。
今日は平日なので高校で英語を教えているのだろう、父さんの義父の頃から交流があり実家に入り浸っている■■先生にも、すぐに伝わるだろう。
初めに電話に出たのが■姉さんで良かった。もし、年齢不相応なほど悪戯好きな■■■姉さんだったら少し、というか大分遊ばれるだろう。
それ以前に、もし電話に出たのが
全く関係ないが、■姉さんは母さんの妹であり叔母、■■■姉さんは父さんの義姉であり伯母、と呼ぶべきなのだが、幼い頃からの習慣(?)の影響で『姉さん』と呼んでいる。
…………というかオバサンと呼ばれたくないらしい。まぁ、それは至極当然の反応だろうし、こちらとしても、二人の外見が非常に若いので違和感もほとんどないから別に直そうとは思っていない。
実を言うと、反抗期の頃に一度言ったらしいのだが、その記憶が全くないので、詳細は永遠に闇の中である。無理に思い出そうとすると寒気がするので、なかったことにするのが正しい事、と思い込むことにしている。
…………謎の寒気を感じているがなかったことにする。
本当にどうでもいいことだが、(普通の)高校には通っていないので、学校で■■先生に教えてもらったことは無かったりする。せいぜいが留学前に、念のためにという事で教えてもらったぐらいであり、その時は特に教えることが無くすぐに終わってしまった。
更にどうでもいいのだが、先生と呼ぶのは■姉さんと■■■姉さんと同じく小さい頃からの教育の賜も…………習慣の影響である。
ところで、俺はさっき実家に電話を掛けるまで携帯電話の電源を切っていた。
これは単に、『バイト』中に電話やメールが来ると煩わしいので、普段から電源OFFが習慣となっているからである。
大量の着信履歴、未確認メール。
それらのほとんどが時計塔関係。というか教授。
取り敢えず、電話を掛けることにする。
因みに俺の携帯電話は電子工学的、魔術的に改造しているので、隠蔽や料金などの面で非常に便利になっている。要するに違法改造である。
さて、最近の着信履歴から教授に電話を掛ける。
プルルルルという、ありふれた待ち受け音が聞───『─────何故あの大馬鹿者に聖杯戦争の─────』プツッ、ツー、ツー、ツー───こえない。
電源をオフに───プルルルル───仕方がないか。
深呼吸をしてから、『通話ボタン』に触れる。
「はい、こちら電話を受けました遠坂晶です。私にどのような御用でしょうか?」
『…………むしろお前が誰だ。いや、今回は私が悪いな。正直すまないとは思っている』
「いえ、こちらこそ。……というか、何の用なんですか?」
『あぁ、時計塔の連中には挨拶はしていったようだな』
「まぁ、教授にほのめかされましたから」
その時選別として、(半ば強引に)色々な物を持たされた。正直、かなりありがたかったし、嬉しかった。
……何故彼らに内緒にしたのか、と自問しそうになるぐらいに。
『─────お前にも事情が有るのは分かる。かつての私もそうだった』
俺の耳には少し、というか大分意外に響いた。
『全く……お前たちは私を過大評価しすぎている。今でこそ多少はマシになったが、昔の私は…………いや、やめておこう』
まぁ、昔の私はガキでしかなかったのだ。という一言が続き、しばしの静寂が訪れる。
教授の子供時代を想像することはできそうにない。だが、彼にも当たり前のような少年時代があったのだろう、ということは理解できた。
自賛が過ぎるかもしれないが、俺は自分のことを異端児と称すべきレベルの天才だと自覚している。
だが、彼はそうではない。正直疑わしくはあるが、魔術の才は凡人以下らしい。
ならば、どのような経験を積んだのだろうか?
ある程度までの事ならば力技で解決できる、という俺たちのような強者ではないのに、俺たちのような──────そのままだったら周りから疎まれ、日の目を見ることが出来ないような
今のガキでしかない俺に判るのは、この人には一生敵わないのだろう、ということだけだった。
もしかしたら、今日のような話は以前にもされたのかもしれない。もしそうだとしたら、その時に、今のようなことを感じただろうか?
なんとなくだが、教授が参加した聖杯戦争のことを聞いてみたいと思った。
何時もなら話してくれないだろう。だが、聖杯戦争を生き抜いてからなら話してくれるかもしれない。
「─────そういえば、先ほどの絶叫は何だったのですか?」
その敬語をやめろ、正直違和感がすごい。──────失礼な。
『……………………あの大馬鹿者に襲撃されてな』
「…………あぁ──────」
俺はその悲痛に満ちた一言で全てを理解した。
「──────このたびはご愁傷様でした」
『勝手に殺すな馬鹿者』
「ところで教授。■■■■さんを放っておいていいんですか?あの人、聖杯戦争に参加した事あるらしいですけど、令呪なくても勝手に参加したりしないですかね?」
受話器の向こうから聞こえる咳き込むような音。
まぁ、今話せるのはせいぜいこのくらいまでだろう。
なんとなく、今日は自分が誰よりも尊敬している恩師に親近感が湧く日だ、と思った。
その後、■■■■さんに聖杯戦争のことをバラしたことに加え、あることないこと吹き込んだことが居もずる式にバレ、たっぷりと怒られた。
ついでなので着信履歴を整理すると、最新のところに新しく懐かしい番号があった。
それは、4年前中学卒業とともに海外留学───(本当はまだだが)時計塔に入学───したために音信不通になってしまった、
何時の間にか、携帯から電話していた。
そいつは、電話の相手が俺だという事が分かると一気に興奮し始めた。
曰く、■■先生から今日帰ってくることは聞いていたが連絡先が分からなかったが、先ほど携帯番号を先生から教えてもらったらしい。
電話の間、4年間の隙間は存在していなかった。そのことが無性に嬉しかった。
最終的に明日会うことを約束して、通話を終わらせる。
コートから煙草を取り出す。
未成年だが、特殊なものなので問題はないだろう。
唯でさえ、日本人は年下に見られやすいらしい向こうでも、実年齢より上に見られることが多かったのだ、まだ19だろ、などと言われることはまずないだろう。
仮にバレたとしても、今すでに吸っているこの煙草は、簡易的ではあるが魔術礼装としての効果を───様々な種類があるが、今回のものは認識阻害の効果を───持っている。
ある時、教授が煙草を吸っているのを見て、その煙草の効果と便利さにに一発で気付き、5人の仲間と協力して半ば徹夜で一週間の時間や様々な物品を費やし、製法を編み出したものだ。
その5人とは煙草以外にも様々なものを作ったり、同じ『バイト』に参加したり、ギリギリ笑い話になるかどうかという危険な事も含めて色々なことをした、いわば悪友どうし。若干規模と危険性が違うが、仲の良い高校生っぽい感じの付き合いなのかもしれない。
煙草を吸うことで誤魔化したはずの目頭が、再び熱くなるのを感じた。
眼鏡をかけることで誤魔化す。その眼鏡がアイツらとお揃いで作った魔術礼装であることに気が付き…………。
…………今吸っているのが、認識阻害の煙草で良かった。
先ほどまで感じていた再会した時の気まずさに対する不安はもうなかった。
根拠はないが、何とかなるだろう、と無責任きわまるが、楽観している自分がいた。
足取りを軽くして、俺は帰路を急ぐことにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「─────
余談だが。歩いている最中暇だったから──────ではなく、何となく気になったので、ベンチに座り込み、魔術回路を励起させ、携帯電話に『解析』を掛けてみた。
──────ありふれた工程を経て作成され、ロンドンにあるありふれた携帯会社で販売される。
──────『私』を買った男は、家に帰るなりすぐに『私』の全身を解体し、様々な改造を施した。
──────改造は完璧だったらしいが『私』にはよく分からない。それよりも、この男がこのような技術を手に入れるまでに、どれ程の同胞の犠牲があったのだろうか?『私』は心底恐ろしかった。
──────『私』を改造したこの男は、私のことを大切に扱ってくれた。しかし、『私』を『任務』に同行させないで欲しい。毎回の事だが、結構酷い目に合う。この男の体は頑丈らしいのだが『私』はそうではないのだから。
「─────
『解析』によって読み取った情報を、半ば自動的に『構築』して疑似的な記憶として再現する。
なんというか、思ったより酷かった。
手の上にある傷だらけの携帯を見つめる。
…………せめてもう少し大切にしよう。
疑似的に再現したものとはいえ、携帯の半生を追体験したのだから、体感的にはかなりの時間が経過しているような気がするが、実際には5分も経っていない。
これは、『記憶を読み取る』のではなく、あくまで『情報を読み取る』ものだからであり、先ほど追体験したものは疑似的に再現したものに過ぎないからである。
これが、様々な感覚や『感情』、そして強固な『自我』を持つ高度な動植物、例えば人間の情報を読み取るのならば、それだけ情報量が増え、より多くの必要な時間と、より強固な精神的強度が必要になる。
無機物な機械の半生を上手く編集して『記憶』として読み取った情報をそれほど価値のないもの、として認識して『記録』として劣化させ処理をする。
何となくそんな気はしていたが、休憩のつもりで行ったが全く休まらなかった。
ベンチから立ち上がる、座ってからの時間は十分に満たない。
まぁ、足は休められたから良し、とすべきかもしれない。
さてと、一言呟いてからキャリーバッグの持ち手を掴み歩き出す。
名前でも付けるべきだろうか、と続けながら。
因みにこの後、商店街で何度も声をかけられたり、明日会うことにした友人と再開したりして、つい話し込んでしまい、到着が更に遅れてしまうことになる。
■■■■■■■■・フォン・アインツベルン
晶の伯母。詳細はいずれ。
■■■■
おそらく、これを読んでいる人すべてが知っている名物教師
”親友”
出番なし
時計塔時代の友人
出番有る……かな?
晶にとっては魔術師としても人間としても仲の良い悪戯仲間。
お揃いの眼鏡が由来の愉快なチーム名が有ったり無かったりする。