Fate/after Redoing   作:藤城陸月

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 そう言えば前回first orderの感想書いてない……。それ以外にも報告が溜まってるので、後書きに回します。


 大変お待たせいたしました。
 本当にお久しぶりです。藤城です。

 学期末の試験が始まり、携帯がぶっ壊れ、誕生日にインフルに罹りました。
 試験と修理が終わった後に、二泊三日の合宿が有りました。ついでに、宴会でひどい目に遭いました。

 ──────以上、言い訳でした。本当に申し訳ありません。

 今回の投稿が遅れたことは、今回から本格的に登場する主人公が急にINDOINDOし始めた事とは全く関係ありません。
 確かに、予めタグにインドを付けていますが──────プロットには、こんな予定は全くなかったのに…………INDOINDOするのはもっと先の予定だったのに…………。


 まぁ、それは置いておいて。

 前回に続いて今回も戦闘回です。一部回想がありますが、ずっと戦ってます。


 今回、独自解釈があります。
 このことについても後書きで注釈を行います。



 それでは、どうぞ──────


11   12月1日/未明②──────招かれるは、幕を切る者

 その屋敷は広大な森林の中にあった。

 

 

 

 

 

 ──────月が昇ってくる。

 

 その少年は、彼しかいない洋館の窓から、他にする事も無いので月の出を眺めていた。

 月齢は24──────下弦の月よりも少し欠けている。

 

 ──────ここ数日、ナニカがこの街に居る。

 

 彼は十八年ほど目を覚ますことは無かったが──────数日前に再び目を覚ました。

 原因は大量に魔力を持ったナニカ(恐らく、()())がこの街に現れ、活発に行動し始めたから。

 

 

 

 杉羽良市には、かつて華楼(かろう)という魔術師の一族が住んでいた。

 自明のことだが、『かつて』としたのは既に滅んでいるからである。

 

 二十四年前に杉羽良市で行われた亜種聖杯戦争によって、その一族は衰退。

 保有していた管理人(セカンドオーナー)という役割も失い、華楼(かろう)という魔導の名門は元名門となり四散した。

 かつて彼らが住んでいた屋敷には、一人の老いた魔術師のみが残った。

 

 その魔術師にとって、その豪邸は広すぎた。

 その為、屋敷の管理をしてくれるダレカを創った。

 

 ダレカを創り出した時、魔術師は気付く。

 屋敷の管理だけなら適当な使い魔でいいはずなのに、何故わざわざニンゲンを創ったのかを──────

 

 その魔術師が作ったニンゲンは無垢な少年だった。

 その少年は、何かを教えると貪欲なほどに吸収していった。

 魔術であっても例外ではなく、魔術師はその少年に物事を教え、その成長を見守ることが生きがいになっていった。

 老いて朽ちていくだけの老い先短い余生、時間を持て余しているのなら他の事をすればいいだろうに、我ながら酔狂な事だと呆れながら、老いた魔術師は少年を育て続け──────

 

 

 

 魔術師が死んだ後、少年は時間を掛けて、屋敷の有る森林の全域に大規模な結界を敷いた。

 その後、屋敷の敷地全体を『中に彼がいる状態で』封印し、結界に異常が生じそうになったときのみ、その封印が解除されるようにした。

 

 その封印が解けたのは十八年前に一度だけ。

 

 彼の住んでいる洋館は、文字通り時間が止まっていたのだ──────数日前までは。

 

 

 少年は異常の原因を探ろうと思い、十八年ぶりに屋敷から外に出る。

 異常が自分の手に負えるならば自力で解決───排除するだけの事であり、手に負えないのならば──────

 

 少年は意図的に、その先を考えることを止めた。

 

 ──────今感じているナニカの気配が、十八年前に遭遇したソレと似通っていることに気付きながら。

 

 

 

 そして少年は目撃する──────神話の戦いを。

 

 

 

 

 二十一年前、何故彼が広大な結界と強固な封印を成したのか──────それは彼以外知らない事であり、知る必要もないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「─────やれやれ、やっと行ったか」

 

 偶然現れた目撃者によって、ランサーとの戦闘を切り抜けたアーチャー。

 

 戦いの余波で森は荒れ、辺りは開けている。

 炎を操っていたランサーが目撃者を追って去って行ったことで空気が冷え、周りから冬の寒気が吹き込む。

 

 乾燥した空気に低い気温、そして強い風。

 東の空、低い位置にある月が良く映える。

 

 

 もう少し見ていたい気持ちもあるが、視線を上にズラす。

 

「さて──────」

 

 ──────騎影。光纏う駿馬と騎乗する二人。

 

 騎乗兵(ライダー)のサーヴァントとそのマスター。

 前にマスターを乗せ、美麗の騎士は凪いだ瞳でこちらを見ている。

 先ほどの狙撃で標的にしたマスターの少年の目からは強い意志を感じる。

 

 フ、と頬が歪むのを感じる。

 勝手に狙撃しておいて生き残って欲しいと思ったのは此方だが、まさか生身でライダーの召喚した馬に乗ってくるとは思わなかった。

 

「─────こちらも、目撃者を始末するか」

 

 

 

 

 

「─────ライダー…………」

「ええ、そのようですね」

 

 上空。

 淡い光を纏う騎馬に騎乗し、目を保護するゴーグルの代わりに礼装の眼鏡を掛けた遠坂晶(マスター)とライダーの英霊(サーヴァント)は地上を睥睨する。

 

 

 ──────ランサーがアーチャーとの戦闘を止め、森の奥に走り出す。

 

 地上を警戒しつつ、二人はその先に建物の屋根が見えることに気が付いた。

 そして直後、地上からの視線に反応する。

 

 

 地上。

 ランサーとアーチャーの戦闘によって荒れており、俯瞰して見ると、深い森に何か所か隙間が出来ている。

 そのうちの一つ、アーチャーとランサーが最後にせり合っていた場所。

 其処から此方を見上げるアーチャーからは、先ほどまで感じなかった強い意志を感じる。

 

 

 遠坂晶とライダーの二人はアーチャーの戦いは避けられないと確信する。

 

 

 

 ──────遠坂晶とライダーの二人は、アーチャーのマスター(メセネト)の行方を───存在すら知らない。

 

 

 

 

 

 その頃、ランサーは目撃者の少年を追っていた。

 

 森全体を特殊な結界で覆っており霊体化が出来ない。

 その上、深い森故に視界が悪く、結界がさらに悪化させる。

 それに加えて、結界を壊しても数秒経てば勝手に直ってしまう。

 

 目撃者にアーチャーとの戦いに水を差された事。

 自分がこんな汚れ仕事をしているのに、アーチャーはライダーを戦おうとしている。

 

 

 苛立ちを溜めつつ、ランサーは目撃者を追い続ける。

 

 ──────目撃者の少年は、自らの工房でもある屋敷に逃げ込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 さて、お立合い。

 

 太陽の神性を持ち、天を駆る騎馬。

 騎乗するは、騎士王の娘。そして英雄の子。

 

 迎え撃つは、弓を構える美丈夫。

 敵う者無きと神話に謳われた、美丈夫の狩人。

 

 

 光纏う名馬が天を駆け下り、弓に矢が番えられる。

 弓兵と目が合ったのは騎兵か、それとも魔術師か──────

 

 

 アーチャーは落ちて来る流星を見上げ、神速を以って矢を番う。

 静かさと正確さが要求される狙撃とは異なり、向こうから向かってくる場面で要求されるのは速射。

 元より彼の矢は必中であり、外れることはあり得ない……いや、間違っている。

 先ほどは静かに行われた、弓に力を籠め引き絞るという工程──────しかしながら、此度は弓が軋む勢いで行う。

 

 ──────ライダーの前で馬に跨る魔術師が、右手を前に突き出し、静かに目を閉じる。

 

 相手の目論見が分かったアーチャーは──────敢えて自分から、その目論見に乗る事にした。

 

 

 ライダーは弓に番えられた矢を視認し──────敢えて、愛馬を愚直に突進させる。

 先の狙撃は、バーサーカーによる結界を貫通したことにより、威力が大幅に減衰していた。

 従って、此度の射は先ほどよりも威力・制度共に高いことが明らかである。

 このまま直進させ続けることは、自分から的にしてくれと言うような物である。

 だが──────目の前で、彼自身にしかできない事を成そうとする少年を見て、任せようと思った。

 英雄の子として生まれ、英雄に成りつつある少年に、頼もしさと眩さを感じながら──────ライダーは愛馬に更なる加速を促す。

 

 

 ──────弓から、手が離される。

 ──────放たれるは、一条の光。

 

 

 遠坂晶は、矢が放たれたことを感じる。

 心象に深く沈み込むために目は閉じており、超音の矢弾ゆえに耳で捉えたわけでもない。

 ──────だが、感じた。

 そのタイミングは正確──────なおかつ何時、何処に、どれ程の威力で飛んでくるのかを大まかに把握していた。

 

 さて、これから投影する(創り出す)のは──────盾にして盾に非ず。

 思い浮かべるのは、深紅の背中。

 その男は不屈。

 彼の精神は不朽にして無毀。肉体が滅びようとも、滅び、途絶えることは無い。

 故に──────

 

「─────剣の男を知っている(I grew seeing the blade)

 

 これから投影する(創り出す)概念は守り。

 投擲に対して無敵と言う概念を保有する『宝具(絶対)』──────。

 

 その性質故に、今は亡き父親(英雄)が好んで多用した──────そして、心象を継承した息子(少年)が信じ、頼りにする『宝具(至高の一)』──────

 

 

「─────熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 

 あの人はこの盾の投影を二通りの方法で用いていた。

 一つ目は──────人知を超える相手に対して行う、膨大な魔力で強化する一点防御。

 そして二つ目、自分以外の不特定多数を守る時に使われる──────綻びの一切無い城壁。

 

 自分ではなく、誰かを守るために此の盾を投影する時、その心は凪いでいた。

 誰のことを守りたい。その事こそが、自分の望みだと言わんばかりに──────

 

 

 ──────天駆る光馬の目の前に、深紅の光盾が展開する。

 

 

 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 投擲に対して無敵という概念を保有した、七枚の花弁を模した円盾。

 一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持ち、味方に向けて放たれた大英雄の投擲を防いだ逸話を持つ──────自分だけではなく、誰かを守る事の出来る宝具。

 

 

 ──────一条の光と円壁の光が衝突する。

 

 その刹那、衝撃が撒き散らされる。

 

 ──────拮抗はほんの一瞬。

 

 ──────直後。高く、澄んだ音が響く。

 

 

 

 光盾に陰りは無く、光条は失墜する。

 

 展開した盾は、本体の弓矢および付随する衝撃を遮断する。

 光纏う駿馬は一切の痛痒を感じていない。

 

 

 速度を落とすことなく突進してくる、光盾を展開した騎馬に騎乗し、馬上槍を構えた重装騎士。

 純白の尾を引きながら迫る、深紅の流星を見ながらアーチャーは──────

 

 

 

 

 

 ──────息が切れる。

 

 『彼』は必死に逃げていた。

 森の全体に広大な結界を敷いたからこそ、自分を追ってきている男の位置が、速度が──────強さが分かる。

 

 炎を司る異国の魔性。

 読んで字の通りの人外。正に人知を超えた存在。

 つまり──────聖杯戦争に招かれた英霊(サーヴァント)

 

 恐ろしくてたまらない。

 あれほどの存在感を持った『敵』がこの街に七人いる。

 一体、何の冗談なのだろう。

 

 聖杯戦争、という儀式については育て親から聞いている。

 万能の願望器を求める魔術師同士の争乱。

 彼らは、各々が自身の戦力として英霊(サーヴァント)を召喚し、互いに殺し合う。

 令呪───聖杯戦争の参加権にして、英霊(サーヴァント)を律する事の出来る三度きりの命令権───を持つ七人の魔術師(マスター)英霊(サーヴァント)による、最後の一人になるまで終わらない最小単位の戦争。

 

 あの戦いを見てしまった、知ってしまった──────だから殺される。

 

 ──────ふざけるな。

 

 何故そんなことで殺されなくてはならない。

 この街の平穏を乱した余所者なんかに──────

 自分以外はどうでも良いなんて思っている奴らに──────

 例え目撃者が一般人でも、我が物顔で殺すような人でなしに──────

 

 ───────ならば、どうすればいいのか。

 

 逃げることは出来ない。

 例え地の果てまで逃げようとも、英霊(サーヴァント)なら本当の地の果てだって容易くたどり着くだろう。

 それに───つまらない意地だとは分かっているが───自分だけ逃げたくはない。

 

 ───────ならば、どうすればいいのか。

 

 右の手の甲に、焼けるような痛みが一瞬走る。

 

 

 

 少年は、屋敷への最短距離である北西の入り口ではなく、敢えて迂回して南東の入り口から屋敷に入り込む。

 

 ──────何をするべきなのか。そんな事、初めから分かっていた。

 

 

 

 

 

 ──────熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 トロイア軍の総大将にして槍の名手。光明神アポロンに気に入られ、輝く兜と謳われた大英雄ヘクトール。

 ギリシャ軍最強の大英雄アキレウスを狙って放たれたヘクトールの投擲──────あらゆる物を貫くと謳われた槍の投擲を、トロイア戦争における英雄アイアスは、七枚の皮を張った盾を用いて防いだと言われている。

 

 その逸話が宝具となったが故に、この光盾は防御宝具と言うよりも、投擲に対しては無敵という一種の概念宝具である。

 従って──────この盾を遠距離物理攻撃で突破するのは、宝具以外ではまず不可能だろう。

 

 ──────ならば、直接的な物理攻撃ならばどうだろうか。

 

 

 アーチャーは僅かに反った刃を持つ長剣を抜く。

 天に輝く星々を思わせるような光を帯びた白銀の刀身は、並みの宝具に匹敵する程の神秘を帯びているように思える。

 形状はサーベルに近いが、柄の長さが両手でも扱えるように調整されており、反りの有る片手半剣(バスタードソード)と言っても良いかも知れない。

 

 

 前面に光盾を展開した、天駆る光馬に乗ったライダーが迫りくる。

 同郷の英雄が用いた盾───その逸話に、アーチャー自身の死因に纏わる存在が関わっているだけに、何かの因縁すら感じる其れ───ごとアーチャーは貫こうとする。

 

 ──────刺突。

 線攻撃の斬撃とは異なり、一点に威力が集中する刺突。

 この一撃をもって光盾を突破し、ライダーの騎乗する輝馬を仕留める。

 

 

 

 この時アーチャーからは、深紅の障壁によって天駆る輝馬と騎乗している二人の様子が見えていない。

 逆に、駿馬と二人からは───特に、盾を投影した(創り出した)魔術師の少年からは───アーチャーの様子が良く見えた。

 

 ──────この差異が、これからの行動に大きく影響する。

 

 

 

 隔てる距離はおよそ三十メートル。

 

 ──────不意に、深紅の光盾が消失する。

 

 驚き、一瞬だが動作が止まるアーチャー。

 対して、あらかじめ知っていたライダー。

 

 ──────その違いは些細だが、その刹那が命取りである。

 

 天を駆る光馬が虹色に輝く泡を吐きだす。

 高速で飛翔した輝く泡はアーチャーに纏わり付く。

 失策を悟ったアーチャーは急いで飛びのくが、纏わり付いた泡がアーチャーの動作を阻害しており、その動きはぎこちない。

 

 

 天を駆る輝ける騎馬から距離を取るアーチャー。

 

 ──────先ほどの、謎の衝撃による回避は使わない。

 

 何故だ?

 いや、考えるな。

 

 

 ──────ライダー。

 ──────分かってます。 

 

 

「お願いします──────虹泡吐く太陽の輝馬(スプマドール)っ!!」

 

 ──────光が溢れる。

 

 真名開放。

 此処にライダーの宝具が開帳する。

 

 

 

 

 

 ──────宝具。

 

 より正確に呼ぶならば貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)

 主に英霊が持つ、人々の幻想を元に編まれた武装のことを指す。

 

 さて、宝具には様々な種類がある。

 例えば、剣や槍、弓といった武器から幻獣や戦車(チャリオット)などの騎乗物、果ては巨大な建造物や世界そのものまで、様々な『カタチ』を持ったもの。それ以外にも、特定の『カタチ』を持たないような、その英霊が有する『特殊能力』などが該当する場合もある。

 

 英霊には彼ら固有の逸話があり、逸話があるからこそ英霊として祭り上げられる。

 それ故に──────逸話から形成される宝具には───例え同じ英霊でも、場所や年代、解釈が異なるのならば───完全に同一の物は決して存在しない。

 

 つまり、宝具とは──────英霊が生前に築き上げた伝説について、呼び出した時間・場所・状況でどのように解釈しているのか、ということの具現にして象徴である。

 

 

 

 

 

 第九次聖杯戦争において、ライダーのクラスで召喚されたサーヴァント。

 

 ──────真名をメローラ。

 アーサー王伝説に登場する女騎士であり、騎士王───アーサー・ペンドラゴンが娘。

 優れた容姿と知恵を持ち、それ故に多くの求婚者がいた。

 そして──────彼女は宮廷を訪れた一人の王子、オルランドと恋に落ちる。

 その事に求婚者の一人が嫉妬。マーリンに対して、自身の領土の半分と引き換えにして恋人に呪いを掛け、監禁する事を依頼した。

 その呪いを解くためには三種類の秘宝が必要な事が分かり、メローラは囚われた恋人を救い出すために、解呪の秘宝を求めて世界中を巡る旅に出る。

 男装して旅をする彼女は、『青い武装の騎士』として知られるようになる。

 

 そして、メローラがライダーのクラスで召喚される所以は、彼女が父親───アーサー王から借り受けた名馬にある。

 その名馬の名をスプマドール。

 太陽神の眷属の血筋を引き、虹色の泡を吐きだす稀代の名馬。

 そして──────姫としてだけではなく、騎士としても類稀な才能を持っていた彼女は、その名馬を十全以上に乗りこなした。

 

 

 

 ──────光が溢れた。

 

 使い古された一節(フレーズ)だが、太陽がもう一つ現れた、という表現が相応しいだろう。

 

 虹泡吐く太陽の輝馬(スプマドール)

 その真名を開放することの効果は──────太陽神の血筋を強調し、その力を開放する事。

 

 疑似的な陽光を受け、アーチャーに纏わり付いた虹色の泡が乱反射。直後、一斉に弾けた。

 そして、虹泡が弾けたことで発生した衝撃がアーチャーを襲う。

 

 アーチャーは、生来の心眼と与えられた神眼によって次の攻撃を予測する。

 しかしながら、体を貫く衝撃によって行動が大幅に制限される。

 

 ──────一時的に硬直したアーチャーに、天駆る輝馬が衝突する。

 

 辛うじて、呼び出した棍棒で防御したが、アーチャーは大きく吹き飛び──────森に消えていく。

 

 

 

 ──────森の中では、馬に乗ったままでは不利。

 そう判断した遠坂晶は、馬から飛び降りる。

 直後、弓と矢を投影し──────

 

 ──────殺気に気付く。

 

 方向は、アーチャーが消えていった正面の森の方向からではない。

 別の方向、しかしながら程近く。

 そして──────視認できない。

 

 ──────不可視。

 

 その事に、アーチャーが利用した謎の衝撃と結びつく。

 ならば、この殺気にはアーチャーの宝具───または、宝具に準ずる物───なのだろうか?

 

 身構えながら、思考を巡らせる。

 

 直後、不可視の斬撃が放たれる。

 狙われた遠坂晶は、その攻撃の正体が宝具ではなく、風を利用した魔術によるものだと気づいた。

 

 

 

 

 

 広大な森の中にある、ひと昔まで栄華を誇っていた魔術師の一族が保有していた屋敷──────幾代もの歴史を積み重ねた魔術師の大工房。

 

 上空から見ると、その屋敷を囲む高い塀が八方位に対応した正八面体を形成していることが分かる。

 正八面体のそれぞれの辺の塀にある門から中に入ることが出来、屋敷と塀の間のスペースに広い中庭が八つの辺ごとにある。

 

 南東部にある中庭。

 石畳の床に、家の外壁と塀に、大量の対人用の罠が仕掛けられている。

 

 魔術師の少年は、紅蓮の槍兵と対峙する。

 

「─────やっと追い詰めたぜ。魔術師」

「さて、どうでしょうか?

 これから倒れるのは貴方かもしれませんよ」

 

 少年がそう告げると、罠が次々と発動していく。

 しかしながら──────それらは、目の前の存在に対して、ほとんど効果を成さない。

 幼さの残る少年が、恐怖を抑えてサーヴァントと対峙している理由は、太刀打ちできる、という自信があるから──────ではない。

 

 ここで、敵わなければ後がない。

 だからこそ、無いに等しい勝機を逃したくない。

 

 ──────少年は決死の覚悟を抱いて目の前の『死』と対面していた。

 

 

 

「これで、仕舞いか?」

「そうですね、対人用の物は以上ですね」

「対人用の物は、か」

「ええ、時間稼ぎに付き合ってもらって恐縮です」

 

 荒れ果てた中庭。

 対して、紅蓮の炎を全身に纏った槍兵は一歩も動いていない。

 

「─────ところで、森を焼いたのは貴方ですか?」

「ああ、そうだが。

 必要以上は焼いていねぇが……悪かったな」

「いえ、謝罪してもらう必要はありません──────」

 

 ──────何故なら、その行為が本で貴方が死ぬことになるのですから。

 ──────面白い。ならばやってみろ。

 

 互いに、目線で会話を終わらせる。

 その直後、石畳の下に仕掛けられた、屋敷全体と連動する大規模な魔法陣が光を放つ。

 

 魔術師の少年の周りの空間だけが隔離され、少年の安全を守り、詠唱の速度を───否、時間の流れそのものを書き換える。

 

 対人用の罠として使われる一工程(シングルアクション)の魔術ではなく、瞬間契約(テンカウント)レベルの儀礼用の大魔術が牙をむく。

 

 

 

 其れは、この屋敷にサーヴァントが攻めてきた時の為の最終防御。

 華楼という魔術師の一族が聖遺物を利用して作り上げ、亜種聖杯戦争を経ることで一部破壊されたものを修復した物。

 

 聖遺物を利用し、この屋敷そのものを小さな世界と定義。

 そして、かつて聖遺物が置かれていた霊脈を中心として周囲を八方位で区切る。

 これに対応して八方位に、今は失われた聖遺物に纏わる一柱の守護者に当たる魔法陣を配置する。

 

「天上に在っては太陽、中空にあっては稲妻、地にあっては祭火。

 家を、森を焼く火であり、精神(こころ)に宿る確かな熱。

 あなたは世界に遍在し、万物を流転し、浄化する」

 

 守護者の総称を護世八方天(ローカパーラ)

 ヒンドゥー教において、八方向の守護者として祭り上げられたバラモン教の神。

 世界を護る八柱の護世八方天(ローカパーラ)の内、南東の方角を守護する護世八方天(ローカパーラ)たる一柱の神。

 その名を──────

 

「─────炎神(アグニ)よ。

 此方に、炎で焼かれた森から逃げ延びた羅刹(ラクシャス)がいます。

 この者は、この先災いを成す者。庇護する必要の無き者です。

 供物として、この者をあなたに差し出します。

 願わくは、あなたの火を以ってこの地の穢れを払い賜え──────」

 

 ──────アグニ。

 仏教では炎天と漢訳される、炎の神。

 火に備わる様々な性質の神格であり、特に祭火として重視される。

 祭火は儀式において人と神の仲介を行い、死体から全ての穢れを取り除き神々の下まで運ぶ。

 また、浄化とも強く結びついており、天則(リタ)を犯す者や羅刹(ラクシャス)魔族(アスラ)を容赦なく焼き払う神でもある。

 

「─────祭火を此処に。炎天よ、森を焼き払い賜え(カーンダヴァ・サルパサトラ)

 

 ──────純色の赤で視界が塗りつぶされる。

 神性を帯びた炎で出来た千の舌が、供物として捧げられた紅蓮の炎を纏った槍兵を味わう。

 

 

 マハーバーラタにおいて、大英雄アルジュナは炎神アグニから借り受けた神弓ガーンディーヴァで火矢を放ち、カーンダヴァの森を焼き払ったとされている。

 

 ──────その逸話の再現。

 

 予め指定した範囲の一切を焼き尽くす、戦闘で使える範囲を遥かに逸脱した、Aランク相当の対軍宝具に匹敵する大魔術である。

 

 

 

 

 

 遠坂晶を狙って放たれた不可視の斬撃。

 その一撃を──────

 

「─────アキラ」

「ありがとう。助かったよライダー」

 

 ──────ライダーが深紅の光で出来た結界を展開して防ぐ。風の斬撃は結界に阻まれ消滅する。

 

 ライダーも遠坂晶と同じく、不可視の斬撃が風の魔術だと気付いていた。

 

 

 ──────石榴の指輪(リング・カーバンクル)

 ライダーが、追い求めた解呪の秘宝の一つ。

 装備しているだけでAランクの対魔力を発揮でき、あらゆる魔術の侵入を防ぐ深紅の光の結界を任意で展開することができる。

 

 

「不用心ですよ」

「申し訳ない……」

 

 会話を続けながら魔術遮断の結界を展開したまま維持し、周りに意識を巡らせる。

 先ほどまで強く感じていた殺気。しかしながら、今は全く感じない。

 

 ──────逃げられた。

 

 自ずと共通見解に至る。

 

 

 

 何故、急に殺気を放っていた相手が逃走したのか?

 何故、不可視だったのか?

 恐らくだが、先ほどの不可視に感じられる風の斬撃とアーチャーが関係していると思われる謎の衝撃の正体は全く別物ではないのか?

 

 そんな疑問を抱く──────前に、六番目の主従はアーチャーを追い始める。

 

 物思いに耽るのは走りながらでも出来る。

 ならば、一瞬でも早く追跡すべきである。

 

 この瞬間、二人の思考は全く同じであった。

 遠坂晶という魔術師がメローラという英霊を引き当てた要因は、こういった性格の相性なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「─────良い炎だった」

 

 2分30秒。

 業火の大魔術が治まった後、若干の消耗は見られるものの、槍兵は生存していた。

 

「まさか生き残ってるとは思いませんでしたよ」

「ああ……神性を帯びているとは言え、炎でオレにこれ程のダメージを負わすとはな……。

 オレも、此度の現界でこれ程の炎に出会えるとはとは思わなかった。ま、火焔山の炎ほどじゃないがな」

「───ッ!!

 なるほど、やはりあなたの真名は…………」

「別に構わん。昔を思い出させてくれた礼だ」

「そうですか。ならば、炎神(アグニ)ではなく財宝神(クベーラ)で相手をすべきでしたね」

「地中にある財宝の守護神か。確かに、地面から神性を帯びた刀剣に突き刺されたら厳しいな」

 

 言葉を交わす。

 穏やかに、それはまるで──────

 

「さて、そんでどうする?

 お前は魔術師だが、それでも殺しておかなくてはならんのだが」

 

 ──────それが最期になると示すかのように。

 

「いいえ──────」

 

 否定する。

 

「僕はここで、死ねつもりないっ」

 

 ──────強く否定する。

 右手の甲を槍兵に見せる。

 

 ──────血の色で刻み込まれた三角の文様。

 

 

 

 驚愕の表情を浮かべる槍兵を置き去りにして、少年の周りだけ時の流れが書き換えられる。

 

「祖には我が育母、華楼蓮花」

 

 少年は言葉を紡ぎ始める。

 中庭の跡地に残った魔力が秩序を以って流れ出す。

 

「ここに宣言する(告げる)

 ──────(とき)は満ちた」

 

 光が溢れ、風が吹き荒れる。

 

 既に六騎の英霊が呼び出され、聖杯は最後の英霊を速やかに呼び出そうとしている。

 故に正式な詠唱は必要ではなく、最低限の意思表示があればいい。

 

 槍兵は静観している。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。

 聖杯の寄るべに従い、我が意に応じる者よ。

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──────!!」

 

 聖杯戦争というルールに則り、英霊の座から稀人が呼び出される。

 

 

 

 

 

 僅かに時をさかのぼる。

 魔術師の少年が炎の大魔術を展開する少し前。

 

『─────無事ですかアーチャー?』

 ──────ああ、大丈夫だ。

 

 切羽詰まったような声が、アーチャーの頭の中で響く。

 

 場所は樹海と見紛うような森の中。

 ライダーに吹き飛ばされたアーチャーはマスターからの念話に答えた。

 

『それは良かったです』

 

 ホッとしたような声が響く。

 表情を顔に出すことが少ない事を知っているアーチャーにとって、その声は少しだけ新鮮だった。

 

 

 

『ところでアーチャー。貴方が今いる場所から件の屋敷は確認できますか?』

 ──────あれほどの魔力───しかも、これから大技を出そうとしてるようだ……嫌でも分かる。

       で、どうする?撤退か…………それとも偵察か。

 

 沈黙。

 アーチャーは受け身の体勢から立ち上がり、屋敷の方向を見据える。

 

『─────貴方に任せます』

 ──────そうか。

       こういう時、俺がどうしたいか知ってんだろ。

『ええ。その上で、です。

 ライダーとそのマスターへの最低限の牽制はしました。後で合流しましょう』

 ──────やれやれ。

 

 いくらメセネトが戦場を俯瞰できるとはいえ、自分の目で確認することに越したことは無い。

 その事を知っているアーチャーは屋敷に向かって移動を始める──────

 

 

 ──────ところでメセメト、一つ確認してもいいか?

 

 

 移動を始める前に、アーチャーは真剣な口調(?)で告げる。

 

『何ですかアーチャー?』

 

 普段の飄々とした態度には似つかない雰囲気に驚くメセネト。

 少なくない交流から、アーチャーが偵察に向かおうとしていることは分かっている。

 その前に、何か言い残すことでもあるのかもしれない──────そう感じていた。

 

 ──────こういう時は、帰ったら結婚しようって言えばいいのか?

『よく分かりませんが心配して損しました。

 一回死んでください、と言いたいですが実際に死なれたら困るので去勢されてください』

 ──────つれないなぁ……。ま、さっきは心配してくれてありがとうな。

『何を言ってるんですか?

 勘違いしないでください。あの時心配していたのは貴方が怪我をしてしまうことではなく、貴方の戦力低下───または、貴方が脱落してしまうことです。

 貴方が死んだら新しいサーヴァントと契約することが困難になるので生きて帰って来てください』

 

 早口で言い返され、念話が途切れる。

 

「成る程、これがツンデレという物か。

 いいものだな、ご馳走様とでも言うべきかな?」

 

 そんな風にぼやきながら、アーチャーは霊体化して移動を開始する。

 

 

 これからアーチャーが赴くのは正しく死地。

 だが、アーチャーは気の抜けたような雰囲気で歩き出す。

 これは生前からの癖のような物。もしかしたら、緊張の欠片もない様な振舞いこそが、余りある才能を持つ彼なりの強さの秘訣なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 吹き荒れる魔力の残滓が人影を写し出す。

 魔術師の少年の意思により、此処に英霊の召喚が完了した。

 

 ──────セイバー。

 風に流れる長い黒髪と鍛え上げられた肢体を持ち、特徴的な白い衣装を纏う中性的な顔をした青年。

 面と向かっている彼は、此方を安心させるような───同時に、何処か懐かしむような───穏やかな表情をしている。

 

 

 刹那で距離を詰め、紅蓮の刺突。

 ──────これに対応できない程度なら相手する必要は無い。

 

 刺突をはじき、鎗ごと押し返す斬撃の暴風。

 ──────この程度で俺を試しているつもりか?槍使い。

 

 

 魔力光が治まるまでの一瞬で行われた烈火と暴風の衝突。

 少年の認識を置き去りにして、二人の超越者は一瞬の交錯のみで言葉を交わす。

 ──────一瞬の緊張。

 槍兵は僅かに口元を歪め、彼方を一瞥すると塀を飛び越え立ち去って行く。

 

 

 

 頼もしさを感じる背中が振り返る。

 

「─────()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()。この聖杯戦争に巻き込まれたことは災難ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 古び、朽ちかけた櫛。

 セイバーの手に渡ると、彼の魔力に呼応し古の姿を取り戻していく。

 素朴ながら美しい装飾が施された───しかしながら僅かに色あせ、数本の歯が欠けてしまっている櫛。

 

 

 ──────聖遺物。

 膨大な神秘を帯びた現代に残った遺物。

 聖杯戦争においては、主に英霊との縁を結ぶための触媒に使われる。

 

 

 セイバーの手がこちらに伸びる。

 

「え……えっと、あの」

「何となくな」

 

 頭を撫でられる。

 

 

 ──────朝日に溶ける青年。掌には、渡された小さな櫛。

 ──────頭に、大きな掌が置かれる。

 ──────しばらく預けとく。

 ──────重さが消え、風が頬を撫でる。遮るモノがないため、朝日が直接目に届く。

 

 その三日後、結界を掛けなおした。

 

 

「…………あの日を思い出します」

「そんな事より、相変わらずひ弱だなお前は。

 ……というか成長してないのか?良く分からんが。

 まるで──────」

 

 ──────まるで、時間に置いて行かれたようだ。

 

「……まぁ、別に大したことではないけどな」

「相変わらず鋭いようで適当ですね」

 

 

 

 不意に風の流れが変わる。

 

「─────さて、再開を懐かしむのもいいが……それよりも前にやらなくてはならない事が有るようだな」

 

 セイバーは先ほどランサーが見つめていた方向に目を向ける。

 今いる南東の中庭から見て北東──────東側の塀の向こう側。

 

「霊体化しているようだが───どうする」

「──────お願いします」

「委細承知」

 

 セイバーが暴風を───嵐を身にまとう。

 その顔は見えないが、壮絶な笑みを浮かべているような気がした。

 

 

 

 

 

 東側の門からおよそ150メートル。

 塀の中が良く見える、高木の丈夫な枝の上。

 アーチャーは、魔術師の少年の行使した炎の大魔術とサーヴァントの召喚を目撃した。

 

 防具の一切を身に着けておらず、この国において神代の残り香が未だ色濃き時代の衣装のみを身に纏う好青年。

 

 ──────あのサーヴァントはマズい。

 

 真名など姿を見るだけで分かる。

 この国で聖杯戦争を行うのならば、剣の英霊として、初めに候補に挙がるであろう大英雄。

 

 ──────戦ってみたい。

 

 俺の第一宝具以外の一射では掠りすらしないかも知れない。

 使いたくない第二宝具さえも、あの英雄ならば突破出来るかも知れない。

 

 従って、正しい戦法は不意を付いての狙撃による暗殺。

 そんなことは分かっている。

 

 ──────だからこそ、戦ってみたいのだ。

 

 ランサーがこちらの位置を伝えたのは知っている。

 精々200メートルの距離で、あの程度の素振りを見逃すようでは最高の狩人の名が廃れる。

 

 ──────目が合う。

 

 霊体化しているため目が合うことなど無いのだが──────この時、確かに目が合った。

 

 口元が緩む。

 霊体化を解除し、神速の動きで矢を番う。

 

 

 

 視界の向こうで、セイバーが風を纏う。

 

 

 

 

 

 風を纏うセイバーが、アーチャー目掛けて跳ぶ──────いや、飛ぶ。

 

 ──────脳天を狙った一射。

 

 矢は風に弱い。

 そんな常識を無視し、暴風の結界を僅かに反れただけで突破。

 そして、右鎖骨を粉砕するはずの矢はセイバーの雷閃によって弾き飛ばされる。

 超音速の矢による衝撃波は剣士には届かない。

 

 ここ迄で、コンマ4秒足らず。

 彼我の距離は、おおよそ80メートル。

 既に弓兵は、渾身の力で愛弓を引き絞っている。

 

 ──────二射目。

 

 60メートルの距離で放たれるマッハ15の矢。

 正面から亜音速で接近している事など関係なしに、もはや光としか表現できないような一矢。

 

 ──────セイバーは更に加速し、僅かに体を逸らすことで対応する。

 

 初めの一射で、こちらの風の性能を見極め、弾道の計算をしたアーチャー。

 先の一瞬でアーチャーが弾道の計算が可能になったと確信し、アーチャーが想定していないであろう方法で回避したセイバー。

 

 二人の読みが、奇妙なまでに嚙み合ったが故に成立した二度目の攻防。

 

 ──────彼我の距離は20メートル。放たれる刺突。

 ──────不可視の衝撃により跳躍、回避するアーチャー。

 

 風圧によって、アーチャーが立っていた大木が大きく揺れる。

 セイバーは、慣性の法則を無視するような軌道で上空に飛び立つ。

 

 セイバーは身に纏う風を解除して()()。そして、彼の持つ長剣が颶風を纏う。

 剣騎士の英霊は、剣を大きく振りかぶる。

 

 ──────放たれる旋風。

 

 空中にいては対応が出来ない事を悟ったアーチャー。

 

 ──────再び不可視の衝撃が体を叩き、加速させる。

 ──────そして、着地予定地である東側の中庭に矢を放つ。

 

 アーチャーは矢によって大きく破壊された中庭に着地する。

 あらかじめ仕掛けてあった罠は大部分が使用不可能、大魔術用の魔法陣は完全に破壊されている。

 

 ──────着地した直後のアーチャーを襲う竜巻。

 ──────全くダメージを受けている様子の無いアーチャー。

 

 

 

 空を見上げるアーチャーと滞空しているセイバーの目が合う。

 

 

 アーチャーは、セイバーの服が全く靡いていない事に半ば呆れていた。

 風を利用して飛んでいるならともかく、あのセイバーは自力で飛翔することが出来るらしい。

 確かに、あのサーヴァントは自力で飛翔することを可能にするような逸話を持っている。とはいえ、流石に自重しろと言いたい。

 

 

 セイバーは、先ほどの暴風でアーチャーが僅かほどにもダメージが無い事をいぶかしむ。

 アーチャーは一切()()()()()()()()

 恐らく、無効化していた。──────ならばどうするか。

 

 一つ目は、今まで通り接近を試みる。

 そして二つ目──────より強い風をぶつける。

 

「─────面白い」

 

 そして、セイバーは更なる力業を繰り出すことにした。

 

 

 

 風の───いや、()()()()()()()()()

 雲一つない夜空に、暗い色の雨雲が集まり始める。

 

 ──────()()()()()()()()

 

 地上の法則が物理現象として安定する前。神代において神が行ったとされる超常現象──────即ち、権能。

 

 

 

 細い月と満天の星空を隠した、今にも豪雨を降らしそうな雨雲。

 アーチャーは、剣を頭上に掲げるセイバーを見上げる。

 目の前に広がるのは、光一つない曇天。

 

「なるほど、それがお前の剣か」

 

 その声からは、いつもの余裕が感じられなかった。

 

「確かに、お前ほどの英雄ならば、それほどの宝具を持っていても可笑しくは無いのだろう。

 だがな、一言だけ言わせてもらうぞセイバー──────」

 

 だが、それは──────アーチャーが己の悟ったから、などという理由などでは断じてない!

 

 

 

「──────他人(ヒト)のオンナに手ェ出すんじゃネェ!!」

 

 

 

 ──────光が雨雲を貫く。

 

 雨雲が一瞬で吹き飛び、剣使いは失墜する。

 

 

 

 ──────弓騎士(アーチャー)は、彼自身が最も大切にしていたモノの為に、腹が煮え立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 東の中庭。

 墜落したセイバーは、未だ立ち上がれずにいる。

 

 アーチャーは僅かに湾曲した剣を呼び出し、セイバーに飛び掛かる。

 セイバーの体を風が包み、迎撃しようとする。

 

 

 

 ──────セイバーとアーチャーの直線上に、一本の矢が突き刺さる。

 

 反射的に、2騎の英霊(サーヴァント)は矢が飛んできた方向を見る。

 

 

 

 ──────東の塀の上に、細い月を背負う二つの影があった。

 

 

 

「─────フッ」

 

 何時の間にか体制を立て直したセイバーが暴風の斬撃を飛ばす。

 

「ハァッ!」

 

 二人の片割れ、軽鎧に身を包んだ騎士が短槍に魔力を帯びさせて打ち払う。

 恐らく、こちらの騎士がサーヴァント。

 

 そして──────

 

「─────初めましてセイバー。そして、さっきぶりですねアーチャー」

 

 ──────もう一人。

 先ほど矢を射かけて来たであろう、紅いロングコートの青年は2騎の英霊(サーヴァント)に声を掛ける。

 

 

 

「─────ライダーとそのマスターか。何の用だ」

 

 アーチャーが口を切る。

 戦いに水を差されたことに対する苛立ちと戸惑いが僅かに見られた。

 戦闘中に手を出すことはお互い様ではあるが、やられると苛立つことは当たり前である。

 しかし、なぜ戦闘を中止させたのか。

 先ほどの射は何を目的として放たれたのか?

 その事が分からなかった。

 

「ライダーのマスター、か」

 

 ライダーのマスターと呼ばれた青年は独り言ちる。

 一瞬だけ何かを考えるような素振りを見せた。

 

 その時、ライダーは何となく嫌な予感がした。

 

 

 

「─────我が名は遠坂晶。

 冬木で行われていた聖杯戦争の元御三家の一人として、また時計塔から派遣された魔術師である。

 此度の聖杯戦争ではライダーを召喚した。

 今回の聖杯戦争の運営について重大な嫌疑があるため戦闘を一時中断させてもらった。

 正直すまないとは思っている。

 しかしながら、此処でどちらかが脱落した場合、解決すべき事案が解決が不可能になる可能性が十分あり得るため理解してもらいたい。

 出来ることならば、この件についてマスターと早急に話がしたい。

 セイバーのマスターとアーチャーのマスターよ、戦闘行為を中断し話し合いに応じてはくれないか」

 

 ライダーのマスターは、遠坂晶は宣言する。

 今後の展開について思いを巡らせる2騎のサーヴァント。

 

 ライダーは自分の想像が当たったことに頭の痛さと…………この先の展開が読めない事に対する、ほんの少しの期待があった。

 

 そして──────

 

 

 

 

 

 セイバーからの念話を受け取った少年は東の中庭に駆け付ける。

 屋敷中に結界を張っているので、既に状況は知っていた。

 

 荒れた中庭。

 この光景が、一本の矢によってもたらされたとは信じられないものがあった。

 

 そして、視線をずらす。

 塀の上に立つ、二人の影。

 

 少年にとって、その二人は印象深かった。

 

 ──────槍を構える青い騎士。

 ──────弓を構える紅い青年。

 

 左手に持った十字の刃を持つ短槍で2騎を牽制し、右手でマスターを庇う。

 半歩だけ下がり、周囲を警戒。適切な支援が出来るように戦局を俯瞰する。

 

 マスターとして与えられた、サーヴァントのステータスを見る力を行使。

 ライダーのステータスはCランクの筋力以外は全てBランク以上であり、安定して高め。

 魔術師(マスター)の力量は不明。

 だが、英霊(サーヴァント)同士の戦闘に介入できる程の戦闘力を保有していると推測できる。

 

 そして──────何よりも、互いに強い信頼関係を築いていることがはっきりと分かる。

 

 ──────この二人ならば、どのような敵が相手だとしても負けないだろう。

 そう思った。

 

 

 

「─────来たか、少年」

 

 セイバーの呼びかけで、我に返る。

 向き直り、頷く。

 深呼吸。

 改めて塀の上を向きなおす。

 

「─────初めましてライダーのマスター。

 僕の屋敷にようこそいらっしゃいました。

 先ほど話していた件について、お話を聞かせてはいただけませんか?」

 

 塀の上に立つ紅い青年は、ライダーに何かを囁き──────

 

「─────よっと」

 

 ──────跳んだ。跳んで来た。

 因みに塀の高さは5メートル、此処までの直線距離は約70メートルである。

 

 何らかの魔術を用いているのか、足音一つさせない着地。

 直後、微かに鎧の音をさせて、ライダーが着地。

 そして、何時の間にか側にいるセイバー。

 

 目の前に立つ青年を見上げる。

 ダークスーツの上に黒いベルトを巻き、左腰に柄頭に青い宝玉が嵌め込まれた西洋剣を佩いている。その上に紅いロングコートを羽織る。

 ロングコートが超高位の魔術礼装であるだけではなく、全身に幾つもの礼装を装備。それに加えて、全身に幾重もの結界を張っていることが分かる。

 

「初めまして、俺は遠坂晶。ライダーのマスターだ」

 

「よろしく」と言って、此方に手を差し出し──────途中で止める。

 それに戸惑っていると──────

 

「その前に、名前を聞いてもいいかな──────」

 

 ──────セイバーのマスター。

 

 遠坂晶と名乗ったライダーのマスターの告げた最後の一言に、心が反応する。

 ()()()()()()()()()

 覚悟は既に決まっている。

 ならば、目の前にいる格上の魔術師に気後れする必要は無い。

 

 息を吸い込む。

 見上げ、目を合わせる。

 

「僕は(のぞむ)──────僕の名前は華楼(かろう)(のぞむ)です」

 

 名乗る。

 

「今回の聖杯戦争ではセイバーを召喚しました」

 

 宣言する。

 

「ライダーのマスター、遠坂晶。

 貴方の話す内容にもよりますが──────」

 

 こちらから、手を延ばす。

 

「─────ひとまずは、聖杯戦争に参加するマスター同士として、よろしくお願いします」

 

 出来るだけ挑発的に見えるであろう笑みを浮かべて言い切る。

 のどの渇きと鼓動の音が緊張を伝えて来る。

 

 ──────落ち着け。

 すぐ近くにある碧の目が告げる。

 伸ばした手に、自分以外の体温が届く。

 こちらを落ち着かせるような笑みは──────こちらが確認した直後、好戦的な、不敵な笑みに変わる。

 

「─────こちらこそよろしく、華楼希」

 

 強く握られる手。

 

 一息。

 握られた手を──────こちらも強く握り返す。

 

 

 

 ──────何時の日になるかは分からないが、この魔術師の男と戦うことになる。

 

 理由は分からないが、そんな当たり前のことを強く感じさせた。

 

 

 

 

 

 こうして、聖杯戦争は幕を開ける。

 僕は当事者の一人として、否応なく巻き込まれていく。

 

 ──────それが、あらかじめ決められていた事とは知る由もなく。




 2030年12月1日。第九次聖杯戦争、此処に開幕──────。

 サーヴァントの戦闘をライダーのマスターが止めた件。
 これには、某過労死教授も苦笑い。


・ アーチャーの剣:超☆銀河☆剣(ネビュラ☆ソード)(嘘……多分)。
          星光を思わせるような白銀の刃を持つ。形状はサーベルに近い。
          彼が持つ棍棒と同じく、宝具に匹敵する程の神秘を持ち、非常に丈夫。

・ ひき逃げ:馬でやっても犯罪!
       法律の範囲外でやろう。

・ 祭火を此処に。炎天よ、森を焼き払い賜え(カーンダヴァ・サルパサトラ)護世八方天(ローカパーラ)の一柱、炎神(アグニ)に纏わる大魔術で高ランクの対軍宝具に匹敵する。
                      バサクレスを少なくとも三回ほど殺せる。
 ・ カーンダヴァ:正確には、カーンダヴァの森。
          アルジュナとクリシュナがアグニからの要請で焼き払った森。
          マヤという優れた建築家の魔族(アスラ)とナーガ王タクシャカが住んでいた。
          マヤがアルジュナに助けを求めたことにより、この二人だけが助かった。 
 ・ サルパサトラ:蛇を犠牲に捧げる供儀。
          アルジュナの孫を嚙み殺したナーガ族の王───蛇王タクシャカに対する報復であり、この祭火によってナーガ族のほとんどが滅んだとされている。

 ──────カーンダヴァの森でアルジュナが見逃したタクシャカが、後にアルジュナの孫を殺した。
 この魔術はこのエピソードを元に組み立てられており、『燃やされた森から逃げ出した者を改めて供物として捧げます。また、罪を持つ者が入り込んだことでこの地が汚れてしまったので供物と一緒に焼いてください』と訴えている。
 故に炎は微弱ながら神性を帯びており、森が多少なりとも燃えていないと発動しない。
 炎神(アグニ)以外にも財宝神(クベーラ)などを象徴する大魔術があり、計八種類。因みに、屋敷の結界の起点とした聖遺物は、触媒として使うとラーマーヤナに登場する大英雄を召喚できる『履物』らしい。

 ・ バサクレス:バーサーカーで召喚されたヘラクレスのこと。
         『十二の試練(ゴッド・ハンド)』という十一回蘇生する上に、Bランク以下の攻撃・宝具を無効化し、一度喰らった攻撃に対して耐性を付ける宝具を所有している。
         この宝具故に、バサクレスを打倒するためには異なる方法で十二回殺す必要がある。
         そして、遠坂凛が宝石魔術を用いて一度、英霊エミヤが六(五)回、ギルガメッシュは十二回別々の方法で殺している。
         しかしながら、一定以上の攻撃ならば複数個の命を貫通───一度に殺すことが出来、原作でも衛宮士郎がセイバーとの石破ラブラブカリバーンによって一度に七回殺害している。
         これらの事から半ばサンドバックとして扱われており、1バサクレス、又は1ゴッド・ハンドなどの単位で呼ばれることすらある。

 つまり、この大魔術は3バサクレス以上の威力があり、東の護世八方天(ローカパーラ)である雷神(インドラ)に纏わる物と並ぶ最大火力。
 他の6つも同等の完成度だが、目的が異なるため性能は異なる。
 相手の能力を見極める必要があり、今回は思いっきり失敗している。
 また、全ての方向から攻められる等の一種の飽和攻撃に比較的弱い。あくまで比較的にだが。

・ 主人公:毎回厄介ごとに巻き込まれる、都合の良い時だけ耳が遠い──────などの主人公補正を持つ者。
      聖杯戦争ではセイバーを召喚することが多い。

・ 櫛:装飾がなされた古の櫛。
    セイバーを召喚する触媒の聖遺物。
    ──────真名を隠す気/Zero




 前書きでも書きましたが、今回も戦闘回。基本的にずっと戦ってます。


 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)押し。

 アーチャーとランサーの真名もそろそろ分かってくるかな、と思います。
 雲を出したことに対して怒ったり、炎に対して『出会う』という言い方をしたり……そういう所が彼ららしいと自分でも思ったりしています。

 セイバーの真名は…………知らないふりをしていてください。お願いです。

 全く関係ないのですが、ランサーの武器を『鎗』と表記しているのですが…………自分で決めたことながら非常に面倒です。本当にどうでも良い事ですが。



 尚、アポロンのことを太陽神ではなく、光明神と表記しました。
 このことは、ヘリオスを太陽神としたいための処置ですが、アルテミスは月女神とします。


 古代のギリシャ神話において、アポロンは光明神、アルテミスは狩猟と貞節の神とされていました。

 ここで、ギリシャ神話には、ヘリオス、エーオース、セレネという三兄弟の神がいます。
 この兄弟神は順に、太陽神、曙の女神、月の女神とされています。

 時代が進むにつれて、アポロンは光明神という属性から太陽神という性質を帯び、ヘリオスはアポロンと同一視されます。
 それに対応するように、アルテミスに月の女神という属性が追加され、セレネがアルテミスと同一視されることになります。

 このことから、アポロンを光明神としたならばアルテミスを狩猟と貞節の女神とする必要がありますが、作品の都合上、アルテミスを月女神と表記します。以後、ご了承ください。


 ──────以上、注釈でした。
 出来ることならば、『太陽神よりも光明神の方が格上じゃね?』……という感じに捉えてもらえれば幸いです。

 因みにTIPE-MOONでは、セレネは月の満ち欠けの女神とされています。




 さて、前書きで書いた年末の感想について──────

 First Order。何となく、エヴァっぽい気がするなぁ。
 おぉ、コハエース。楽しそうだなガーチャー。
 ファッ!?アポクリファ!?!?……mjd(メジェド)

 まぁ、こんな感じでした。

 ところで、Apocrypha1巻の獅子GOさんの「鎧をガチャガチャ鳴らしまくって、正面突破するアサシン」ってもしかしたら…………。
 アポ時空では、キングハサンの対策が出来ているらしい。


 …………ん、エドモンとキングハサン?
 自分、無課金なんで(言い訳)。



 次回はマテリアルの予定。
 ライダー陣営編とアーチャー陣営編の二回を予定。
 今思えば、ライダー以外のステータス乗せてない事に気が付きました。


 次回更新もよろしくお願いいたします。



 Xがオルタで眼鏡っ娘……だと!?
 モーションが思いっきりダースモールと伯爵なんだが…………。

 ──────とまぁ、そんな風に驚いたのも今や昔(涙)。
 高難易度クエストはマシュ☆マリで何とかしました。マーリンを貸してくれたフレンド、アトラス院礼装と絆礼装バサクレスにも感謝を。







 ──────あ……当たりました。十連の後の単発で。



 アーチャーも言ってますが、ツンデレは良いものですよね…………。
 むしろ、現実世界そのものがツンデレなんですよ。バレンタインとか、きっと。
 そんな事より、後書き長すぎません?次から次に増えていくんですけど!?……まぁ、自業自得ですが。
 次回のマテリアルはほとんど出来上がっているので早めに投稿できるので(フラグ)、こんなに長くはならないはずです。多分、きっと、メイビー。


 改めて、次回更新もよろしくお願いします。







 二人目来ました。

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