Fate/after Redoing   作:藤城陸月

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 明けましておめでとうございます。
 今年も、どうぞよろしくお願いいたします。




 まぁ、そんなわけで……お久しぶりです。藤城です。

 今回は戦闘回です。ずっと戦ってます。



 最終章については言いたいことが多すぎるので後書きに回します。



 それでは、どうぞ──────。


10   12月1日/未明①──────白銀の流星、紅蓮の大鎗

「──────アキラっ!!」

 

 目には見えないナニカが、僅かに歪む音が聞こえた気がした。

 直後、ガラスが割れるような音が感じられ、ナニカが砕けた。

 

 ──────風を切り裂き、鏃が迫る。

 

 

 右斜め後方から迫る(殺意)に対して──────コートから取り出した深紅の宝石を手首のスナップを利用して放り投げる。

 

 

 

 

 

「──────見えましたか?アーチャー」

「ああ、確認したよメセネト」

 

 時間は僅かに前後する。

 

 高層ビルの屋上──────。

 締め切られたその場所に居るのは一組の男女。

 

「何度も言いますが、私の事はマスターと呼んでください」

 

 褐色の肌と腰まで伸ばした白銀の髪、そして紅い瞳。

 メセネト、呼ばれた異国情緒を感じさせられる長身の女性──────魔術師(マスター)

 

「繰り返し言うけど、断らせてもらうよ。メセネト」

 

 色素の薄い肌、白金の髪と凪いだ海を思わせる碧眼。

 アーチャーと呼ばれた、殴りたくなるような雰囲気の青年──────サーヴァント。

 

 吹き荒れる寒風の中、彼方を見つめる二人。

 ──────この二人こそ、アーチャーの主従である。

 

「何故あなたは毎回私の事を名前で呼ぶのですか?」

「理由なんてないよ。美しい女性の事を名前で呼ぶのは当たり前じゃないか。

 なんなら、俺のことも名前で呼んでくれてもいいんだよ」

「分かりました、下半身」

「うっわ。ひどいなー」

「言われ慣れているのですね…………」

 

 無表情のマスターと積極的に話しかけるアーチャー。

 そして今、そんな主従が見ている先に在るのは──────

 

「──────そんなことより、狙えますか?」

「うーん……。良く見えないんだよなぁ」

「そうですか、()()()()()()()()()問題なく見えるのですが…………成る程、結界ですね。ふつうに見た分には違和感がなかったのですが、解析を掛けてみたら壁が見えました」

「やっぱりかぁ……。詳しい位置は分かる?」

「視覚共有をすれば何とか伝わります。…………何故、貴方ほどの弓兵に千里眼のスキルが無いのでしょうか」

「俺の瞳は普通の千里眼よりもよく見えるんだが……。今回は相手の結界の方が上手だったのだろう」

「成るほど、使えませんね」

「相変わらず、君は辛辣だね」

 

 二人は(ほぼ一方的に)軽口を叩きながら、『行程』を進めていく。

 

「さてアーチャー、()()()()()()

「ああ、()()()()。メセネト」

 

 標的は結界の中。

 紅のロングコートを着た青年──────マスター。

 都合の良い事に、サーヴァント同士の戦闘中であり彼自身のサーヴァントの支援に集中している。

 

 

 アーチャーはマスター(メセネト)に悪いと思いながらも、これから狙撃を受ける青年に期待していた。

 

 ──────生き残って欲しい。

 

 勿論手を抜くつもりはない。

 聖杯戦争が正式に始まる前にサーヴァントを召喚したマスターを殺害する、という方針に不満は無い。

 だが、それではつまらないだろう。

 戦う前に脱落されては拍子抜け以前にもったいない。

 

 それ故に期待する。

 何らかの魔術を使ってもいいし、左腰の西洋剣で切り払ってもいい。

 

 ──────頼むから、生き残ってくれよ。

 

 アーチャーは自分が理不尽な事を思っていることを理解しながら、己が弓に矢を番える。

 

 

「ではお願いします。あと名前で呼ばないでください」

「分かったよ。メセネト」

 

 

 

 ──────杉羽良市北西部。

 とある高層ビルから、一条の流星が放たれる。

 

 放たれた光は不可視の結界を容易く打ち破る。

 

 そして──────

 

 

 

 ──────咲き誇る深紅の花弁に防がれる。

 

 ──────半透明の盾越しに、()標的と目が合う。

 

 

 

 

 

 ──────紅硬玉の宝石(種子)から深紅の円盾(花弁)展開(開花)する。

 

 ──────半透明の盾越しに、射手と目が合う。

 

 

「─────距離約8.000。盾の感じからして速度は2.000毎秒(パーセコンド)

 結界ぶち抜いてこれか…………」

 

 膨大な魔力をため込んだ宝石で、詠唱を省略して展開する。

 

 ──────高度な投影には投影する物の精密な構造把握が必要になる。

 今回の、宝具の投影なんてものはその最たるものだろう。

 反射的な投影で杜撰な設計になってないかが不安だったが、何度も投影していることが幸いし、いつも通りの強度を保っていた。

 普段から作り続けていた料理をレシピ無しで慌てて作ったけど、材料が無駄に良かったせいで何とかなってしまった、といった感じだろうか。……背に腹は代えられないとはいえ、材料を無駄遣いしている所も含めてよく似ている。仕方がないとはいえ、宝石魔術はそんなものだ。

 

 守銭奴思考を追い出し、彼方の高層ビルを見つめる。

 その男───弓を使ったサーヴァントと再び目が合う。

 此方を見るソイツが、微かに頬を緩めたような気がした。

 

 化け物だな、という一言を飲み込む。

 その代わりに、頬を歪ませる。

 ──────だからこそ越えたい、と。

 

 

 

「アキラ……ッ。大丈、夫……見たいですね」

「何とかね。

 今確認した、アーチャーのサーヴァントだ。

 ──────すまないが、この場はお開きにさせてもらおうか」

「私も構わない。

 不安を抱えてはライダーも全力で戦えないだろう。

 前哨戦としては十分。美しい戦場の華には、こんな戦いで立ち枯れて欲しくは無い」

「いろいろと言いたい事もあるが──────同感だ。

 貴公のような大英雄とは、もっと相応しい舞台で相見えたいものだ」

 

 ライダーは己のマスターと目を合わせ、頷く。

 二人の英霊(サーヴァント)の間を分かつように、光が渦を巻く。

 光の粒子が集まり──────現れるは黄金の光子を纏う白馬。

 

「─────私たちは、アーチャーを討ちに行きます。

 バーサーカー──────何れ、また」

 

 召喚した騎馬に乗り、先ほどまで戦っていた得難い強敵に別れを告げる。

 涼やかな宣告をバーサーカーは快く受け、剣を消し、戦闘の間合いから離脱する。

 それと同時にアーチャーの矢に貫通されて半壊した結界が、淡い光を放ち完全に消失する。

 

 

「─────アキラ」

「念のため聞くけど──────前、それとも後ろ?」

「前でお願いします。貴方の盾が必要だ」

「了解。──────後ろだと吹き飛ばされるのか…………」

 

 ライダーが差し伸べてくる手を取る。

 そのまま引っ張られ、抱きかかえられるように馬に騎乗する。

 

「しっかり摑まってください」

「出来たら、その台詞を言う側になりたかったなぁ」

「今回は諦めてください。──────それでは、行きますよ。

 お願いします、スプマドール」

 

 

 ──────スプマドール。

 

 ライダー───メローラが冒険の旅に連れていた相棒にして、アーサー王の保有する名馬。

 太陽神の眷属の血を引いているが故に、僅かなの神性を帯びているこの馬に乗って旅に出たという逸話こそが、メローラという英霊がライダーの英霊(サーヴァント)として呼ばれることになった所以である。

 

 

 呼び出された愛馬は主人の言葉に、一鳴きし空を蹴る。

 そしてそのまま──────空中を走り出す。

 

 圧倒的な浮遊感。

 暴風が頬を撫で叩く。

 身体強化を重ね掛けする。

 

「──────どうですかアキラ、空を飛ぶ感覚は?」

 

 こんな状況なのに暢気に訊ねてくるライダー。

 返答は決まってる──────。

 

「控えめに言って、最っ高だよっ!!」

 

 大声で返す。

 そうしないと届かないだろう。

 轟轟と吹き荒れる風とは無関係に、そんなことを思った。

 

 ライダーはそんな答えに満足したのか、己が愛馬に更に加速するように迫る。

 そんな気配に、やれやれと思いながら身体強化を更に重ね掛けする。──────新たに宝具を投影する準備をしながら。

 

 

 ──────この時、ライダーと晶の二人、そしてバーサーカーはアーチャーのマスターがアーチャーの側にいた事に気が付かなかった───いや、気付けなかった。

 

 

 

 

 

「─────受け止めたか」

 

 高層ビルの屋上で。

 アーチャーは感心したように「良い盾だ」と呟く。

 

「感心している場合ですかアーチャー」

 

 相変わらずの鉄面皮、だが微かに浮かび上がるのは呆れ──────で誤魔化した恐怖。

 それを悟り、硬くなった精神を緩めるように、軽めの口調で続ける。

 

「感心するとも、俺の全力の狙撃から生き延びたんだ。それもサーヴァントではなく魔術師(マスター)が。

 俺の弓は戦場ではなく狩りで使うもの。人間よりもアイツらは殺気とかに敏感だから、俺の射はそういうのは出来るだけ隠すように打つんだが…………」

「──────遠坂晶」

 

 ぽつりと呟いたその名前からは怯えが感じられた。

 アーチャーは「それが彼の名前かい?」ととぼけるような口調で返す。

 

「現代の英雄■■■■(■■■ ■■■)の長子。

 父親と同じく理由は不明ですが、常軌を逸する精度の投影魔術を行使する。

 その投影は宝具でさえ複製することが出来る、と聞いています」

「成る程、あの盾はそういう事か。

 でも、どれだけ良い武器を持っていようとも使いどころを間違えたら意味が無い。

 そして、彼は間違えなかった。そういう事だろう」

「成る程──────8.037メートルを1.98秒で、単純計算で音速の12倍を超える速度で迫る矢を無警戒の右後頭部から受けて対処した、というのですか…………。

 サーヴァントが先に気付き、警告したようですが、正に化け物ですね。私のように兵器として作られた訳ではないのにこの練度、此処まで鍛え上げるのにどれ程の修羅場をくぐったのでしょうか?

 まぁ、そうでないと運用試験の──────」

 

 アーチャーはメセネトの両頬を軽く押さえ、その言葉を中断させる。

「はい、ストップ」と目線を合わせて言い聞かせる。幼い子供にそうするように。

 

「何回も言うけど、自分の事を兵器とか道具って思うんじゃないよ。

 君は、メスケネト・プロビデンツ・アンク・ハロエリスって名前持っている。

 その上で、メスケネトじゃなくてメセネトって呼んで欲しいって言っていたんだから、少なくとも僕は君を人間扱いするよ」

「あの時の一言は忘れてください、とっさの事態に出てしまった失言に過ぎないので」

「そういうのを本音って言うんだけどね。

 ──────さて、やっぱりこっちに来るかライダー」

 

 弓騎士(アーチャー)は、サーヴァントとして召喚されても衰える事の無い生来の目の良さで、騎乗兵(ライダー)が其のマスターと前に乗せて空を掛けだすのを見つめる。

 そしてメセネトは──────

 

「そうのようですね、私も『目』で確認しました」

 

 ──────淡い黄金の光を宿した『目』で()()()()

 

 

「さて、どうしますかアーチャー?──────ランサーもこちらに迫っていますが」

「決まってるだろうメセネト────────────」

 

 

 

 

 

 ──────紅蓮の英霊(サーヴァント)

 遥かな上空からその姿は確認できた。

 マスターの権限で確認すると、クラスはランサー。

 ──────時折、尾を引く魔力の炎を纏う。

 その炎は小柄な体に推進力を与え、ランサーの飛ぶような高速移動を可能にしている。

 恐らくはスキルか宝具に因るもの──────そこまで思考が働くと同時に保有スキルの一つが明らかになる。

 ランクAの魔力放出(炎)──────魔力放出というスキルはライダーも持っており、武器や体に魔力を帯びさせその威力をブーストするという物。このランサーの場合は炎の魔力を帯びる。

 

 ──────成る程。

 アーチャーのいる高層ビルを目指して移動しながらも、こちらへの警戒を怠らないランサー。

 彼に対して、遠坂晶は『厄介』という感想を抱く。

 そして、ライダーに「取り敢えず様子見かな」と伝える。

 

「それもそうですね。

 アーチャーもこちらの戦闘を見ていたのでしょうから、こちらも見物するとしましょう」

 

 返って来たのは賛成の言。

 何時でも宝具を投影する準備をしながら、柔軟な対応が出来るようにほんの少しだけ気を緩める。

 ランサーがアーチャーと接触し、戦闘を開始するまでに、今手にしている情報の整理をする必要がある。

 

「──────バーサーカーについて、貴方はどのように思いますか?」

「彼の大剣の銘が分からないから確かな事は言えないけど、真名の見当はついた」

「やはり、貴方もですか」

 

 アーチャーとランサーの情報はほとんどなく、間もなく始まる戦闘で確かめればいい。

 ならば、先ほどまで戦っていた強敵についての情報を整理する、という事を選んだ二人。

 互いに、サーヴァントの真名という最も重要度の高い情報についてある程度の見当が付いており、二騎への警戒を怠らずにそのすり合わせを行う。

 

 

 

 

 

「──────直接会ったことは無いが、久しぶりだなアーチャー」

「そうなるな、ランサー」

 

 スキル魔力放出(炎)によって幾つもの高層ビルの屋上を経由し、ランサーは昇って来たばかりの月を背負ってアーチャーの目の前に降り立つ。

 件の高層ビルの屋上はそれほど広くない。

 精々15メートル四方、といったところだろう。

 数羽のカラスが見守る中、コンクリート打ちっぱなしの広間で二騎の英霊(サーヴァント)は向かい合う。

 

「ところで、得意の狙撃はしないのか?」

「お前の場合、炎で強引に焼くだろう」

「そりゃぁそうだ」

「それに、的が小さいからな」

「言ってろ」

 

 アーチャーは辺りを見渡しながら「ところで」と切り出す。

 ランサーがこのビルに到達する少し前から大量のカラスがこの高層ビルの周りに集まって来ている。

 

「このカラスはキャスターか?」

「そうみたいだな。

 まぁ、別に問題ないだろ。キャスター以外に見ている奴もいるしな」

 

 ランサーは上空を指さしながら告げる。

 

「それとも」ランサーは長大な杖に炎を纏わせ刃を作った大鎗を構えて「誰かに見られてたら戦えないのか?」と挑発する。

 

 ランサー自身の小柄な身の丈どころか電柱に届きそうな長さの業火の大鎗を付きつかられたアーチャーは──────

 

「そう挑発されては仕方ない。キャスターが美しい女性だったら恰好悪いところを見せることになるだろう」

 

 ──────弓ではなく、棍棒を構えながら応じる。

 

「いや…………弓使えよ、アーチャー」

「俺の弓は燃えたりしないが……霊体化すれば直るとはいえ、ちょっとでも歪んでほしくない」

 

 

 直後、二騎のサーヴァントが激突する──────ことは無かった。

 

 

 

 

 

 ルーンを使うことから、恐らく北欧神話に登場する英雄。

 大剣を自在に使いこなす美丈夫。

 正直にいうと、これだけの情報でかなりの精度で真名にたどり着く。

 更に──────

 

「─────あの時、バーサーカーはライダーが女性ってことを看破している」

「恐らくそうでしょうね」

 

 ライダーの宝具『男装の青騎士(ドレス・アーマメント)』。

 この宝具は、男装をして旅としたことに由来しており、ステータスの一部と宝具を隠蔽する。

 それと同時に、ライダーを男性だと錯覚させる、という効果がある。

 常時発動する隠蔽させるという効果とは異なり、錯覚させる効果は、些細な理由で解除することが可能である。

 

「北欧神話には、鎧を着ていた女性から鎧をはぎ取った逸話がある英雄がいた」

「彼はその鎧をはぎ取るまで女性だと気づかなかった」

「彼はその女性と恋に落ちる」

「その女性は戦乙女(ワルキューレ)、北欧神話の主神にしてルーンの起源(ルーツ)───大神(オーディン)の娘」

 

 一拍。

 既に分かり切ったことを確認しあう作業はこれで終わり。

 

「「─────シグルド」」

 

 二人は一人の英雄の名を告げる。

 北欧神話において、主神の力の象徴である槍を砕いた北欧神話最強の英雄。

 愛する女性の父親を失権させることで、その父親から彼女への支配を破った。

 しかしながら、主神を渡り合った青年は親族から利用された。

 その結果、最愛の人を忘れた彼は──────全てを知り、もう青年が自身の名を、愛する女性の名として呼ぶことが無い、と知りながらも───尚、彼を愛し続けた女性に殺されることで、その生涯を終えた。

 

 さて──────

 

「「──────で、どうする?」」

 

 二人の声が見事に被る。

 

 彼は竜の心臓を食べることで、戦乙女(ワルキューレ)と渡り合える無類の膂力と動物の言葉を理解するなどの神々の智慧を手に入れたされる。

 この逸話こそが、ライダーの聖槍でのみ有効な攻撃をすることが出来た理由だと推測できる。

 

 だが、納得できない事が数多くある。

 治癒魔術を使っているようには見えなかったのに、何故聖槍以外の攻撃による傷以外はすぐに直ったのか。

 どうして、バーサーカーなのに理性を保っているのか───というか、何故バーサーカーで召喚したのか。

 

「まぁ、バーサーカーの真名については目星がついたけど、間違っている可能性も有るってことなのかなぁ」

「そうですね…………。ほぼ正解だとは思いますが、これからも情報を集めるべきでしょう」

「そうなるね。

 アーチャーとランサーの戦いも始まるみたいだし、バーサーカーについての話は此処までにしようか──────って何あれ?」

 

 

 遥か上空で、アーチャーとランサーの一騎打ちを見物しようとしていた二人は──────

 

 

 

 

 

 ランサーが背後から正体不明の衝撃を受け、アーチャーに向かって吹き飛ぶランサー。

 それに対し、アーチャーは右に避け、そのまま南方に逃走していく。

 

 

 体勢を立て直したランサーはアーチャーを追いかける。

 そして、様子見をしていたライダーと晶も二騎を追う。

 

 アーチャーのマスター、メセネトの行方はアーチャーのみが知っている──────。

 

 

 

 

 

 

 

「──────オレから逃げられると思ったのか?」

「いや、単純に場所を変えるのに都合が良かったから利用しただけだ。

 あそこは人が多いからな、ランサー」

 

 杉羽良市南西、森林地帯──────。

 金髪碧眼で長身の青年と外見だけなら十歳に思える男。

 謎の遠距離攻撃から約十分──────場所を変えて、両雄は再び相見える。

 

「さて、決着をつけるとするか。

 此処は見通しが悪いから、さっきみたいな妨害は無ェだろう」

「そうだね──────キャスターは例外みたいだけどね」

 

 対峙する──────

 

 そして、今度こそ──────激突する。

 

 

 

 ランサーの鎗は長すぎる。

 獲物が長物の場合、そのリーチは大きな長所でもあるが──────同時に大きな短所でもある。

 相手からの攻撃が届かない距離から一方的に攻撃を出来るが、柄が長い武器は取り扱いずらく──────特に狭い場所では振り回しづらい。

 

 ここは森、障害物が多すぎる。

 いくらサーヴァントの膂力が埒外でも、木々を倒しながら戦っては威力が減少するだろう。

 しかも、ランサーの鎗のように長さが6メートル近くもある場合は、地面すらも障害となるだろう。

 

 だが、彼の場合は異なる。

 そもそも、使いこなせない武器を使うはずがないのだから──────

 

 

 ランサーの持つ鎗は、武骨な長杖に炎を纏わせて刃を作った物である。

 炎で刀身を形成しているが、炎故にその形は不定形であり───

 

 ──────業火の鎗が、業火の杖に変わる。

 

 ───不定形が故に、どの場所に炎を纏わせるかは自由である。

 

 

 アーチャーが、己の直感に従い飛びのく。

 直後、アーチャーのいた場所を灼熱が通過する。

 

 横薙ぎの一撃。

 それの軌道上にあった数本の木は切断───いや、焼き切られている。

 

 ランサーの杖は木に触れた瞬間、水分を多く含む生木の()()()()を一瞬で焼却───蒸発させた。

 

 

 二発目は振り下ろし。

 

 左後方に躱したアーチャーは、杖の軌道に沿って()()()()()()()のを目撃する。

 

 ──────頬が引きつるのを感じる。

 

 そして──────ランサーの炎によって、周りが燃えていないことを確認する。

 

 

 続いて、大振りな突き。

 赤熱する杖が引き戻される動作から、アーチャーはランサーの攻撃を予想していた。

 突きの場合、ある程度軌道を変更することが出来るため、選んだのは棍棒による防御。

 そして、受け止めた瞬間、失策を悟る──────

 

 ──────杖が棍棒に触れた瞬間、杖が火を噴いた。

 

 体勢が崩れかけたアーチャーは、炎の威力を利用して、自分から後ろに吹き飛ぶ。

 

 

 空中のアーチャーに対し、ランサーは火を噴く鎗で袈裟に薙ぐ。

 鎗から放出された烈火の大鞭を大振りの棍棒で防ぐアーチャー。

 

 ──────炎の軌道が不自然に変わる。

 

 アーチャーは避けられないことを悟り、ランサーは己の炎が直撃することを確信する。

 

 

 ──────不可視の衝撃によってアーチャーが吹き飛ぶ。

 

 

 謎の衝撃のが飛んできたと思われる方向を、とっさに振り向くランサー。

 しかし──────彼方には、昇って来たばかりの月が輝くのみ。

 

 ランサーは舌打ちをし、アーチャーを追う。

 

 

 

 

 

「──────どうなってんだ」

 

 怒りが限界を越えた能面のような顔で、ランサーはアーチャーに向かって憤りをぶつける。

 

 ──────確執に仕留めたと思うたび、アーチャーは原因不明の衝撃によって吹き飛んでいく。

 何度繰り返したか、数えるのも馬鹿らしくなる。

 

「しかも、こんな状態で仕舞いだと……っ」

「仕方ないだろうランサー。正直こちらにとってありがたい」

「クソっ!──────」

 

 

「──────目撃者だと……!」

 

 

「諦めるしかないだろうランサー。

 不完全燃焼なら、君にその目撃者の始末を任せよう」

「チ──────」

 

 魔力放出による炎を撒き散らしながら、ランサーは霊体化せずに目撃者を追いかける。

 

「やれやれやっと行ったか。

 さて──────」

 

 アーチャーは空の一点を見て呟く。

 

 

「──────こちらも、目撃者を始末するか」

 

 

 

 ──────アーチャーと、上空のライダーの目が合う。

 

 

 

「──────ライダー…………」

「ええ、そのようですね」

 

 遠坂晶とライダーは、アーチャーとの戦いが避けられない物だと確信する。

 

 

 

 

 

 

 

「──────アーチャーのヤロウ……ッ」

 

 目撃者を追うランサーは、アーチャーがライダーと戦おうとしているのを見て、思わず殺気立つ。

 ふざけるな。

 此方が目撃者の始末のような作業を行っているのに、彼方はサーヴァント同士の戦いという花々しい戦闘を行おうとしている。

 其処を変われと声を大にして言いたい。

 

 

 ランサーはそのまま遣る瀬無い感情を抱いたまま目撃者を追いかける。

 しかしながら、此処は森林で見通しが悪い上に、何らかの魔術による結界が存在するらしく、中々距離を詰めることが出来ない。

 

 ランサーは、魔術師とはいえ一般人を未だ殺害出来ない事に苛立ちながら追跡を続け──────

 

 

 

 

 

 ──────ランサーの望む、花々しい戦闘を行うことが出来る相手と遭遇することになる。

 




 所長院、ロマン、フォウドゥル──────終わったよ……。


・ メセネト(メスケネト・プロビデンツ・アンク・ハロエリス):異国風の女性。
                              アーチャーのマスター。
                              名前が長い感じな身分の人。

・ スプマドール:今回のライダー───メローラの宝具。
         空を飛ぶって描写は今のところ読んだ資料では見当たらないけど、ドゥ・スタリオン号が飛んでいるので、まぁいいかなと思っています。
         詳しい効果は一章終了後のマテリアルモドキで紹介します。

・ アーチャーの棍棒:木製だが、内包する神秘は宝具に匹敵する。それ故に異常なまでの頑丈さを持っている。
           業火の鎗を受け止めても、表面が若干焦げるぐらい。
           非常に大きい。



 前書きでも書きましたが、今回は戦闘回。ずっと戦ってます。


 まぁ、自分でも詰め込み過ぎなのは分かっているんですよ……。
 それを何とかするのは今後の課題にします。


 バーサーカーの真名の公開。
 それ以前にランサーとアーチャーの真名もほぼ明かな件について。



 ソロモンではなくロマンとしての召喚ならワンチャンあるだろうか……?
 マシュとダ・ウィンチちゃん連れて、ロマンとケーキ食べたい…………。
 ──────ついでに、ケーキに合う紅茶淹れてくれませんか、所長。

 また会えるって信じてる。



 今年の更新もよろしくお願いします。




 新しい一年が、よい年でありますように──────

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