Fate/after Redoing   作:藤城陸月

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 イシュタルとエレシュキガルの関係とか外見から、エクストラ凛がステイナイト凛と出会ったらどうなるのだろうかと思ったり思わなかったり。

 ジャガーマン()はエミヤに強くて、アルトリアに弱い。
 つまりはそういう事。エミヤ…………強く生きろよ。

 キャスギルが当たりました。無課金なので十分かなと思います。


 そんなわけで、本当にお久しぶりです。藤城です。

 今回、やっとサーヴァント戦です。
 ここまで、本当に長かった……ッ。

 取り敢えず、あと1、2話で一章が終わる予定です。


 それでは、どうぞ──────。


9   11月30日/0日目──────六番目の主従は舞台に上がる

「──────本当に、こんな風景がこの世界には、この時代にはあるのですね」

 

 

 鉄筋コンクリートの林──────乱立する摩天楼の中を歩く。

 

 

 杉羽良市。

 近畿地方に在る、比較的大き目な盆地の南東の一部とその周りの山々を内包している地方都市。

 その盆地の端は北西から南東方向に広がっており、北東部および南西部にはほとんど人は生活していない。

 盆地という立地なのでその気候は、季節による温度の差が少なく、四季を通して雨が少なく乾燥している。

 その盆地は北西部から南東部は比較的なだらか。逆に、北東部および南西部は不活化した元火山が有ったりと起伏に富んでいる。

 …………そして、恐らくだが大聖杯が設置されているのは南西部にある霊地の何処かだろう。

 そんな地形からか、北西部には駅や幾つもの高層ビルなどが在ったりと、比較的発展した印象を受ける。

 対照的に、比較的敷地面積の広い建物は、その大部分が南東部に在り、土地柄故か北西部から移転してきた神社仏閣などが非常に多い。

 そして、神社や寺社などの多い地区から少し離れた北東部の丘に、今次の聖杯戦争の監督役がいる杉羽良教会がある。

 

 

 

 さて、俺たちの乗った飛行機は朝日の方向に飛んで行った。

 ……ライダーが大はしゃぎだった、ということは、わざわざ書くまでも無いかも知れない。

 

 

 

 という訳で現在地は杉羽良市……を飛び越えて東京。

 電子機器とサブカルチャーの街、秋葉原。

 

 様々な目的の人が集まり、活気に満ちている。

 神秘の漏洩、という面では非常にやりにくい場所の代表例と言ってもいいだろう。

 そんな街に、魔術師としての遠坂晶が寄らなくてはならない『場所』があった。

 

 魔術協会日本支部

 

 随分とイイ場所に在るな。

 初めて其処を訪れた時、そう思った。

 

 

 

 

 ──────ドアノブを捻ると、そこはレトロだった。

 

 文豪の残した名文の適当な模倣だが、今の心情を如実に示している。

 

 

 幾重もの結界を広い範囲に、段階的に設置することで、魔術という『日常』の裏側の世界に関わりの無いような、そんな()()の一般人には立ち入る事の出来ない空間を形成している。

 その結界群を決められた方法ですり抜け、()()()()自動ドアを通る。

 外からは無人の廃ビルに見えたが、エントランスに入ると、一見普通の会社なのかと思わせるようなと賑わいがあるように見える。

 賑わいを無視し、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉のノブを握る。

 周囲の制止を無視して、ドアを開く──────。

 

 

 ここは博物館、それとも骨董品店なのか。

 そう思わせるに十分な光景だった。

 

 先ほどまでの、襲撃されても良い拠点。

 そして此処が───正確には此処からが───襲われてはならない、仮に襲撃されたら本気で迎撃するべき拠点、魔術協会日本支部。

 

「──────ようこそ遠坂晶(アキラ=E=トオサカ)

 要件は知っているし既に準備済み。連絡を済ませたら早々に立ち去り給え」

「…………酷くないですか?」

「普段から忙しいのに、日本で聖杯戦争が起こっている。その上貴様は人員を割こうとしているのだ。迎撃されないだけありがたいと思うべきでは」

「やれやれ、神秘が漏洩する可能性を少しでも減らすためだ。仕方ないだろう」

「…………仲が悪いのは分かりましたが、せめて使用言語を統一すべきではありませんか?」

 

 

 

 閑話休題。

 初対面なのに、何故か険悪な対応をしてきた目の前の女性。

 名前が分からないので、取り敢えず司書風眼鏡さん(仮)としておこう。

 

 そのまま応接室のようなスペースに案内される。

 俺とライダーの二人と件の女性が机を挟んで向き合うように座る。

 なんとなくだが、三者面談を思い起こすような位置関係だ。

 因みに、紅茶やコーヒーといった喉を潤す類の物は、机上に存在していない。

 …………もし要求したら、何となく敗北感に襲われそうな気がする上に、雑巾のしぼり汁を出される未来すら見えるので遠慮する。

 

「──────先ほど門前払いしたように、あなた方からの要求の準備は既に整えています」

「それはありがたい。あなた方の配慮には本当に頭が下がります」

「…………二人とも険悪過ぎませんか?」

「ほう……。彼女がサーヴァントか」

「あ、はい。サーヴァント、ライダーです」

「……成るほど、君たちのような存在が戦いあうのか……。

 ならば納得だ。むしろ不足とも言えるだろう」

「納得して貰えたならそれでいいだろう。

 前もって、書類にて依頼した事柄の準備は既に出来ているのならば、此処に用は無い」

「だったら、早く出て行きたまえ」

「言われなくてもそうさせてもらうよ。行こう、ライダー」

 

 

 

「結局、あの女性がアキラに冷たく接する理由は分かりませんでしたね」「そんなこと気にしてたの?違うんだよライダー。逆にあの女性は俺に気があることを、攻撃的な態度で隠している、って考えるべきなんだよ」「……呆れるを通り越して尊敬しますよアキラ」

 

 

 

 

 

「──────わぁ……。すごいですねアキラ。

 先ほどヒコーキに乗った時も思いましたが、この時代では『これ』が当たり前なのですね」

「そうだね、日本で新幹線は当たり前のことかな?

 と言っても、開通から百年も経ってないんだけどね」

「そうですか……。科学技術がここまで発達した時代ならば、私たちのような存在は必要ないのでしょうね」

「それでも、英雄は誕生する。

 英雄が必要ない世界。だがそれは、誰もが英雄に成れる、という事の裏返しでもあるだろう。

 どんな時代であっても、君たちのような英雄は誕生する。…………俺たちがそれを望む限り」

「……素敵な考えですね」

「こんな事で褒めんな、恥ずかしいだろ。

 そもそも、俺の父親も英雄の一人なんだから、こんな考えをするのは当たり前だろう」

「そうでしたねアキラ」

「なに?その微笑ましい物を見るような目は」

「いえ、貴方も父親の事が大切なのですね、と思ったまでです」

「……ッ!!ライダーッ!何言ってんのッ、ホント何言ってんの!?」

「ごめんなさい。年の離れた弟を思い出して微笑ましく思っただけで、別に他意は無いんですよ」

「いや、ありありだろう……」

 

 

 

 

 

 ──────という事で、魔術協会で貸し切った新幹線で一気に近畿まで、そこから在来線に乗り換えて杉羽良まで向かう。

 ──────なるほど、こちらへの敵意が無いので見逃していましたが、このホームにいる人のうち、魔力を帯びている者がほとんどだと思ったらそう事だったのですね。

 ──────そこまで分かっていたのか。流石としか言いようがないな。

 ──────この程度、サーヴァントならば当たり前でしょう。この程度が出来ないのならば、マスターの命をアサシンに奪われかねない。

 ──────確かにそうだ。

       ここから、杉羽良市まで大体八時間。向こうに着くのが大体十時前になる。

       杉羽良に着く前も警戒は十分以上にするけど、ついてからは今以上に警戒が必要になる。

       頼むライダー。君という存在がこの先、最も頼りになる。

       だからだな、その…………。

 ──────ええ、分かっていますアキラ。元より、わが身はサーヴァント。マスターである貴方を守り、敵を屠る剣。

       そして、マスターとサーヴァントという関係以上に、同じ未来を目指す旅人同士。

       そうでしょう、アキラ。

 ──────ああ、そうだったな。

       改めて言うけど、これからもよろしく頼むよ。ライダー。

 ─────ええ、その願いを貴方のサーヴァントとして、また共に旅をする友人として受けましょう。

       こちらこそ、よろしくお願いします。アキラ。

 

 

 

 

 

 ──────というわけで、杉羽良市に到着しました。

 ──────アキハバラという街には劣りますが、コンクリートの……ビル?が多いように思えます。

 ──────まぁ、ここら辺はある程度発達しているから。

       さて、取り合えずだが教会に行こう。

 ──────たしか、聖杯戦争の監督役がいる場所ですね。

 ──────そうだね。

       杉羽良教会。今次の聖杯戦争の監督役として、聖堂教会から派遣された神父がいる場所。

       訪問する義務はないんだけど、まぁ形式上は正々堂々と戦います、っていうパフォーマンスぐらいにはなる。

 ──────成るほど、大義名分を得たい、という訳ですか。

 ──────そういう事。

       取り敢えず、タクシーに乗ろうか。

       十一月最終日の午後十時とか、普通に寒いわ。

 

 

 

 

 

 深夜。

 杉羽良市、杉羽良教会。

 

「──────ようこそ、聖杯の輝きに目を眩ませた6人目のマスターよ」

「夜分遅くに申し訳ない。丁重な歓迎に感謝する」

 

 冷たく、張り詰めた空気が支配する深夜の礼拝堂。

 歓迎も申し訳なさもを微塵も感じさせずに、魔術師(マスター)と監督役は邂逅する。

 

 

「──────そう言えば、自己紹介をしていなかったな。既に知っているかもしれないが、名乗らせてもらいたい。

 私は遠坂晶。元御三家の一角として、同時に時計塔からの参加でもある」

「これは丁寧に。では私も名乗らせともらおう。

 美威修磨(よみい しゅうま)。第九次聖杯戦争の監督役として聖堂教会から派遣された」

 

 魔術師の青年と壮年の神父は互いに値踏みをするかのような視線をぶつけ合う。

 男装の麗人は少し悲しそうな、同時に何処か諦めたような目で二人を見ていた。

 

 

 

 ──────相手からの利益が望めないならば、魔術関係者は関係改善に勤めることはない。

 

 この一日の少年の振舞いで、ライダーは既にその歪みに気付き、その理由を察していた。

 

 

 

「─────さて、ここまで聖杯戦争の注意事項の確認をしたが、何か質問はあるかね」

「特にない。強いて言えば、全部知ってた」

 

 冷ややかな空気の中、会話は続く。

 そして今、カソックを着た神父による、極めて機械的な口調で行われた諸注意が終わった。

 

「それは失礼をしたな」

「もう言うことが無いのなら、失礼させてもらう。

 何故か分からないが、どうやら私は貴方の事が苦手なようだ」

「そうか……。まぁ、残念ではあるが仕方がない事でもある。

 多くの人と人間関係を築かないとならないこの時代、一人や二人は仕方がないのかもしれない。

 だが、嫌ってばかりではどうしょうもない事もあるだろう」

「まぁな、だが『汝の隣人を愛せよ』とはいかない場合も多い。

 そういう相手には、社交として付き合う事にしている」

「それも、正解だろう。まあ、そもそも人付き合いに正解など無いがね」

「台無しじゃねえか」

「そう言うな。君には必要なくとも、必要とする人がいればそれは価値のある事だろう」

 

 

 

「─────そういえば、さっき俺を六番目のマスターって呼んでいたが、現時点で、どのクラスのサーヴァントが喚ばれているんだ?」

「…………」

 

 重そうな印象を受ける扉を開き、協会を後にする──────直前に、思い出したかのように質問を投げ掛ける。

 返答は無い…………と言うよりは、迷っている、という雰囲気。

 

「聞いたらマズい感じの事だったか?」

「いや、そうではない。

 確かに、一組にだけ伝えることが不平等かもしれないが、君たち以外に教会(ここ)に来たマスターはいないのだ。

 ならば、この程度の情報ならば伝えてもかまわないだろう。知りたいのなら、直接聞きに来れば良いだけなのだから」

「なら、躊躇する理由は何なんだ?」

「端的に言えば、現在確認されているサーヴァントが七騎を越えているのだよ──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────マスター」

「分かってる」

 

 ライダーが俺のことを名前ではなく、マスターと呼ぶ──────

 

 目の前に現れる、漆黒を纏う大男。

 

 ──────つまりはそういう事だ。

 

 

 

 

 

 ──────霊振盤の反応は六騎であり、召喚されていないクラスはセイバー。セイバーは必ず呼ばれるので、現時点でこの聖杯戦争にはイレギュラークラスはいない。

 ──────しかしながら、セイバーを自称するサーヴァントが現れた。

 ──────これだけでは、単なるクラス詐称だろうが、ランサーとアーチャーを称するサーヴァントと同時に現れた。

 ──────その三人のサーヴァントは協力してバーサーカーと戦闘、戦闘を有利に進めながらも撤退したらしい。

 

「──────さて、せっかくの情報だが、何処まで信じたらいいのやら」

「さぁ、どうでしょうね。ただ、あの神父は胡散臭くは有りましたが人を見る目は確かなように思えます」

 

 ──────いや、其れは単純に…………あぁ、そう言うことか。

 ──────まぁ、そういう事だ。

       健闘を祈らせてもらうよ、遠坂晶。

 

「それに、貴方が思っているよりも付き合いやすい人物なのかもしれませんよ」

「……さあね。まぁ、警戒するに越したことは無いだろう」

 

 教会を後にし歩く事十数分───。

 何時の間にか森に迷い込んでおり、来た道を戻ってはみたが、森を抜けることが出来ない──────この事から、迷っているのではなく、()()()()()()()ことが分かる。

 ───保有する宝具による、Aランクの対魔力。

 ───内包する心象による、結界に対する反発。

 六番目の主従は、この現象が魔術によって成されたことだ、と既に気が付いている。

 その上で、敢えて罠に掛かったままにしてある。

 

 ──────(見事な結界ですね、どう思いますか?)

 ──────(起点が全く分からない、強引に破るのがもったいないぐらいだな。強いて考えるのならば───)

 

 ───この魔術を行ったのは、恐らくサーヴァント。

 特にキャスター、もしくは魔術や結界に関わる宝具かスキルを持ったサーヴァントの可能性が非常に高い。

 サーヴァント以外でも出来なくはないが、これ程の結界を現代の魔術師が敷くのは困難だし、非効率的だろう。強いて上げるのならば、伝承保菌者などだろう。

 

 ──────(成るほど、妥当な判断ですね)

 ──────(同じこと考えていたでしょ)

 ──────(…………)

 ──────(まぁ、いいけど。あと分かるのは…………多分ルーンを使っているってことぐらいかな)

 ──────(間違いなく、一番重要な情報ですね)

 ──────(う……。済まない、もっと早く伝えるべきだった)

 ──────(まぁ、良いですけど。参考までに、どうして気付いたのですか?)

 ──────(俺の知り合いに、神代から続くルーン使いの一族の末裔がいたから、かな)

 ──────(成るほど、そうでしたか)

 ──────(そういう事。ついでに言うと、その一族はケルト神話に連なる)

 ──────(……それで?)

 ──────(ぶっちゃけると、若干方式が違う。多分だけど、()()をやったのがサーヴァントなら北欧圏の英霊だろう)

 ──────(だからですね、アキラ)

 ──────(本当に済まない)

 ──────(それで、どうするのですか?)

 ──────(取り敢えず、このまま様子見で)

 

 念話を終わらせ、向こうの出方を窺う。

 

 

 ──────六番目の主従が、初のサーヴァント同士の戦闘を経験するまであと少し。

 

 

 

 

 

 此処は森の中、開けた木々の切れ間。

 何の因果か、模擬戦を思い出させる。

 

 

 沈黙。

 様子見。

 二人のサーヴァントは互いに目線を交わしたまま微動だにしない。

 

「──────初めまして、でいいかな?」

 

 沈黙を破る。

 サーヴァントが話さないのならば、こちらから話すしかない。

 …………サーヴァント同士なら、見つめ合う事で互いに感じるものが在るのかもしれないが、この時代に生きる一般人──────逸般人(?)には気まずいだけである。

 

 

 炭のように黒ずんだ肌をした大男。

 荒れ切った白髪を肩のあたりまで延ばしている。

 

 マスターの持つスキルで確認すると、男のクラスは狂戦士(バーサーカー)

 

 だが、こちらを見つめる深紅の双眸は澄み切っている。

 加えて、いきなり襲い掛かってくる、といった素振りは見せない。

 そして──────恐らくだが、ルーンを用いた結界を張ったのは恐らく彼なのだ。

 

 其処から推測されるに、狂化のランクが低いが故に理性をある程度残しているサーヴァント。

 その考えを確かめるために、対話を持ちかけてみたのだが──────。

 

「─────そうなるな、ライダーとそのマスターよ」

 

 重く響く声。

 誰が発したかは自明。

 

 ある程度以上の言語機能を残している。

 それは狂化のランクが限りなく低い事の証。

 

「お初にお目にかかる。貴兄の言う通り、私は騎乗兵(ライダー)

 聞くに、聖杯戦争は未だ始まってはいないらしいが──────前哨戦に不足は無いだろう」

 

 ライダーが槍を取り出す。

 ──────月光を思わせる蒼銀を刀身に纏った聖槍。

 

「そうだな、我らはサーヴァント。ならば言葉などによる自己紹介など無粋の極み。

 私は狂戦士(バーサーカー)として呼ばれた。ならば戦いに狂喜するべきだろう」

 

 バーサーカーが大剣を取り出す。

 ──────星明りまで吸い込んでしまいそうな漆黒。

 

 

 約20メートルあった間合いが──────

 

「尤も、この身が狂乱のクラスでなくとも、強者との戦いは心躍るだろう」

「ああ、その通りだ。──────行くぞ、バーサーカーッ!!」

「来い、ライダーァッ」

 

 ──────一瞬でゼロになった。

 

 

 

 両者がぶつかり合う。

 ──────音より先に衝撃が届いた。

 

 ──────疾い。

 

 一瞬の鍔迫り合い。

 ──────それだけで地面がひび割れる。

 

 ──────重い。

 

 其処からの殺陣。

 ──────剣花と聖光が幾重にも重なる。

 

 ──────巧い。

 

 

 ……………………なんだこれは。

 

 強いとか、凄いとか、そんな簡単な言葉しか浮かばない。

 

 こんな戦い…………見惚れる以外に何が出来るのだろうか。

 

 かなわないと分かりながらも、このまま走り出して剣を交えたいとさえ思う。

 

 

 

 今の戦況は互角。

 ──────否、互いに互角にしている。

 

 互いに全力で戦いながらも、余力を残し情報を集める。

 字面だけでは一見矛盾しているように見えるが、戦いで余裕を無くすことは直後の死を意味する。

 様々な意見があるだろうが、心身ともに全力で熱狂しつつ、頭の何処かに冷静に戦況を観察する自分がいる、という状態こそが相応しいように思う。

 

 

 戦況を見渡す。

 時折治癒を掛けながら、情報を整理する。

 

 大剣の解析──────妨害に会い失敗。剣特有の能力と思われる。

 剣筋が乱れることは未だなく、本当に狂戦士(バーサーカー)なのか、と疑問に思うほど。

 また、ルーンなどの魔術を使う素振りはなく、体術及び剣技のみで戦闘を行っている。

 こちらが与えるダメージについてだが、一部の傷が自然に治っていく。治らないモノはライダーの持つ槍の穂先による攻撃。

 マスターからの支援は無く、使い魔などの気配もない。視覚などの五感を共有しようにも、これ程の速さについてくることは困難だろう。

 

 さて…………。

 恐らくほぼ単独で行動しており、それが出来るほどの技能またはスキル及び宝具を保有していることが予想される。

 傷が自然に治るという事だけなら何らかの魔術行使が考えられるが、ライダーの持つ槍による傷は治りにくい事から、何らかの条件があるように思える。

 

 ここで考えるべきは、戦闘に直接関係する傷が治るという現象のメカニズム。

 治療を行うスキルや宝具は魔術関係の物を除くとどのような物があるだろうか。

 

 ライダーの持つ槍には幾つかの性質がある。

 一つは魔術及びそれに準ずるものによって強化された剛体を穂先が触れただけで破壊する、というもの。

 それ以外に、十字教(キリスト教)において最も有名な聖槍の名に肖って銘を付けられており、常時聖性を帯びている。

 

 其処から推測できるのは、バーサーカーのスキル又は宝具が十字教(キリスト教)において邪悪とされる類の物に縁があるという事。

 

 

 しかしこれだけでは情報が足りないだろう。

 ならば、こちらも新たな手札を切るべきだろう。

 

 しかし、魔術による攻撃はライダーを巻き込みかねない。

 ライダーの対魔力はAランク───ほとんどの魔術を無効化できるが、だからと言って進んで巻き込みたくはない。

 

 とは言え、直接殴り込みに行くわけにはいかない。

 

 そこまで考えた時──────

 

 

構造把握、読取(Trace)───宝具投影、完了(over)

 

 

 ──────気付けば、剣を投影して(手に取って)いた。

 

「匂いは覚えたな。お前は血に飢えた猟犬、ただそれだけでいい」

 

 ──────おぞましい魔力を放つ魔剣に手を加える。

 

「血塗れの平野を走り往け──────」

 

 ──────右足を引き、左手に弓を構え、魔剣を矢として番う。

 

「──────赤原猟犬(フルンティング)

 

 

 ()は音を彼方に置き去りにし戦場に飛び込んでいく。

 

 こちらに背を向けているライダーは超音の殺意を容易く躱す。

 元より、魔剣を投影した(手に取った)時点で、こちらの行動はライダーに伝わっている。

 

 そして、バーサーカーは体の一部のように振るい、使いこなしている大剣で容易く弾く。

 

 弾かれた深紅の魔剣(魔弾)は彼方に消えていく──────ことは無い。

 

 背後から迫る閃光をバーサーカーは神速の振り抜きで再び弾き飛ばす。

 

 赤原猟犬(フルンティング)

 殺した敵の血を吸い、その力を増すという逸話を持つ魔剣。

 それを矢として改造したこの魔弾は、例え弾かれても猟犬のように再び相手を狙い飛び迫り続ける。

 

「──────ハァッ!!」

 

 数度の接触で威力が弱った後、バーサーカーは命をつけ狙う猟犬を全力の振り下ろしで叩き壊す。

 

 

 仕切り直し。

 

 互いに強引な乱入にも気を害した様子はない。

 寧ろ、嬉しそうにさえ見える。

 

「──────マスター」

 

 こちらを見ずにライダーは声を掛ける。

 ──────アキラ、とではなくマスターと。

 

 コートから宝石剣の出来損ない(張りぼて)を取り出し左手に持つ。

 

 意図は分かる。

 ──────マスターとして判断し、振る舞え。

 だが、対魔力があるからと言って巻き込むようなことはしたくない。

 

 ならば──────

 

 ガラクタから魔力を引き出す。

 

 そして──────ライダーへの魔力供給を意図的に増大させる。

 

 単純にステータスを僅かに底上げすることに加え、魔力放出の効果を発揮しやすいようにする。

 戦闘において、マスターが出来ることの中で最も基本である魔力供給だが、サーヴァントの戦闘力にこれ程直接関係するものは無いだろう。

 

 顔は見えないが、なんとなくライダーがほほ笑んだ気がした。

 

 

 そして、再び激突する二騎のサーヴァント。

 こちらはガラクタに残る魔力量と魔力供給の配分に気を使いながら戦闘を眺める。

 

 ──────だからこそ、気付くのがわずかに遅れた。

 

「──────アキラっ!!」

 

 ライダーがマスターという役割では無く名前で警告する。

 

 直後、結界が強引に破られる。

 

 

 

 殺意が、すぐそこまで、迫って、いた。




 七章をクリアして1番嬉しかったのは、マシュの絆レベルが5になったことと、レベル上限が80になったこととです。


・ 狙撃:遠距離からの、ほぼ一方的な攻撃。十割方暗殺。
     距離が延びると、難易度及び必要なハヤさが跳ね上がる ──────狙うことも、避けることも。



 前書きでも書きましたが、今回は待ちに待ったサーヴァント同士の戦闘が書けました。


 七章が終わったと思ったらすぐに終章が始まってしまう…………。
 つまり、今更新しないと七章の感想が書けない…………?

 …………という事で、何とか時間を確保したり、大幅に削ったりして、多少強引に更新しました。


 …………レポートが終わらない?
 大丈夫、レポートは気合(白目)。



 もうすぐ短い冬休みが始まるので、次の更新は早めに出来ると思います。多分。



 終章のクリア報酬は英霊トーサカか英霊マトー、若しくはエミヤ・リリィだね。分かるとも!!

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